コメディ・ライト小説(新)
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- 転生と言う「拉致」
- 日時: 2023/01/19 19:43
- 名前: 赤坂 (ID: dYnSNeny)
――――「異世界」を知っているか。
‥‥現代の日本では年間五千人の若い男女が、何らかの事故事件、又は他殺に限らず自殺する等して「異世界」とやらに「転生――否「拉致」されている。
勿論、皆が知る転生は「拉致」なんかではなくある一種の「運命」だと感じるだろう。
が、年間五千人もの一般市民を、しかも未来ある若者をそう易々を殺され、その身体又は意識を異世界に連れて行かれると大迷惑だ。‥‥しかも少子化の日本で。
最早、少子化の原因はこれなんじゃないかとも言えそうだ。
この「転生」と称した「拉致」はその現象に至るまでに大きな特徴がある。
「転生する過程に絶命する」
これは完全に意図的に起こっていると言えるだろう。何故ならば、この現象は実に計画性を有しているからだ。
もし、「不慮の事故」や「たまたま事件に遭遇」ならば悔やむしかないが、そこの第三者の君!見ているだろ‥‥向こうで説明受けてる所!
その内容も実に、実に恣意的だ。いや、これは向こうの事情かも知れないが、まずは内容の例を見て行こう。
例「実は‥‥君の力がいるんだ!この世界を助けてほしい!‥‥だから君をここに連れて来たッッ!」
はいこれ。完全に「元から君を殺す気満々でした。」と自白しているだろ?尚、「連れて来た」は「殺す・拉致する」と捉えてもらっても構わない。過程が過程だからだ。
よって、計画性は認められ、ついでに理由も自分勝手だったと言うわけだ……
―――――俺もその被害者の一人だ。 クソが。
――――――――――――――――――――――――
登場人物
(序章)>>1
・津々良 啓二(35)
警視庁刑事部に所属している男性。そして本作の主人公。
いつも何処か抜けているが、いざという時は頼りになる。
・早稲場 國江(25)
津々良の後輩。津々良の事を慕っている女性。
いつも冷静で、津々良の支えとなっている。
・皆 芳香(17)
序章における捜索対象。女子高生。
少し雰囲気が暗く、不思議な女子。津々良に大きく関わる事になる。
(一章)>>2-8
・マルーン・ハンス(21)
一章1で登場する馬車を操縦する御者。第一異世界民。
ロズポンド王国近衛師団の騎兵隊の馬を操り馬車を走らす。
とても明るく元気な若者だ。
・ミナリア殿下(17)
一章2で登場するロズポンド王国の殿下。苗字はコンタイン。
性格は気弱いがとても親切な女性だ。
作中で主人公とハンスに大きく関わる。
・セントルファー国王陛下(64)
一章3で登場するロズポンド王国の第57代国王陛下。
とても温和な性格でジョークを飛ばす。
・セナ・アンジェリカ(22)
セントルファー国王陛下の宮殿で働く召使い。
謙虚な人柄で、可愛らしい。
・グロリア・ルントー(24)
同じく宮殿で働く召使い。
津々良に対し冷たいが、作中では面倒を見る事になる。
・フローレス・フォンタイン(72)
宮殿で働く召使いの中では最年長。
常に冷静で、役職はメイド長。眼鏡を掛けている。
・エリカ・フォンタイン(13)
フォンタインの孫。宮殿で最年少の召使いとして働く。
作中には書かれないかも知れないが、両親を戦災で亡くしている。
(二章)>>9-15
・コリウヌ・ファラヌイス(??)
異世界の五大賢者の一人。訳あってか堕賢者なるものに変わった。
作中では強力な腐敗魔法を見せつける。
・ウィスタネル・レオナード(76)
ロズポンド王国の首相。もうすっかりお爺さんだが頭はキレる方。
作中ではソビエティアに対し、髪の無い頭を抱える事になる。蒼白顔。
・フォステン・コンティ(72)
ロズポンド王国の外務大臣。高身長に眼鏡を掛けた男。
首相の元に働く補佐役も務める。実はフローレスと幼馴染。
・司書さん(??)
セントルファー邸地下図書館の管理人。
少し痩せこけた顔で不思議チックなお爺さんだ。魔法が使える。
(三章)
・石島 伊祖(18)
「大扶桑人民同盟」と言う革命組織に属する。
序盤に登場し、津々良達を襲い、革命の方針を語る。
・竹本 高徳(21)
人民同盟に属する石島の仲間。
大柄な男で張り切った声で話す。ソビエティアから流れた狙撃銃を愛銃としている。
・九十九 稔枝(16)
人民同盟に属する石島の仲間。
石島とともに行動するメンバーの中で最も身長が低く最年少。丸眼鏡におとなしい少女だ。
・棚田 宗(21)
人民同盟に属する石島の仲間。
頬骨の突き出ている無口な男。普段から作業帽を被って脱がない。
・大村 玄(65)
人民同盟の議長。いわゆるリーダー。
多くの「同志」に慕われ、津々良たちを優しく相手する。
- Re: 転生と言う「拉致」 ( No.18 )
- 日時: 2023/01/06 19:12
- 名前: 赤坂 (ID: dYnSNeny)
三章3 同志と津々良
「――コンタイン王女殿下ッ‼‥」
騒ぎを聞きつけた陸軍の憲兵がそう叫んだ。
迎賓処からやってきた憲兵の集団は集る野次馬を怒鳴って散らす。
「専属護衛官殿、お怪我は⁉」
「お、俺はいい!ミナリアは、ミナリアが‥」
憲兵の一人が彼女の体を調べる。胸、心臓部を綺麗に撃ち抜かれている。
なおも血は留まらず流れ、憲兵のカーキ色のコートを赤く染めた。
「担架で運びます。護衛官殿も診療室へ!」
俺もミナリアも担架で迎賓処一階にある診療室へ運ばれた。
俺の足の出血よりも激しい。彼女の心臓から流れる血は、迎賓処に血痕を続けていった。
――――ミナリアちゃんはたぶん‥
ああ、もう助からない、俺の不手際のせいで‥
‥やり直せるか?
――――うん、今からならあの丘までやり直せるよ。
頼む。俺はあの時、セントルファーを助けたようにミナリアを助ける。
諦めねぇ。
芳香は「わかった。」と俺に答えた。
俺の視界は次第に溶けていくような感覚を覚え、景色はゆっくりを移っていく。
―――――目の前に回転式拳銃を突きつけた青年がいる。
「何をしているの⁉」
ミナリアが叫ぶ。
ああ、ここか。俺はこの場面に戻ったんだな。
俺は奴の目を睨み、気丈に振舞った。
「おう、それはオモチャじゃねぇんだ。」
「それがどうしたのです。」
「へッ‥俺は、俺はお前らのようなやつを知ってるぞ?」
こいつはあの手帳の男、石島だな。
改めて見るとまだ若い、ガキじゃないか。
「ほう、それは感心ですね。あなたも社会主義者で?」
「俺もガキの頃はプロレタリアート文学は読んだもんだ。」
ここであの時みたいに真っ向から反感するのは得策じゃない。
もちろん読んだことはないが、あえて譲歩して見るか。
「なぁ、ここで殺す選択肢を取るのは損だと思わねぇか?」
命乞いでもしているのか、と嘲笑と侮蔑の意を込めた眼差しで青年は静止している。
俺はその眼の奥を見つめ、慎重に親身に語り掛ける。
微笑みながら、言った。
「革命ってのはよ、多数派を握ってはじめて成せるもんだ?そうだろ。‥だからよ、」
ソビエティアがどうやってソビエティアとなったのかは知らないが、少なくとも「革命」の二文字をこの国が輸入しているのであれば内戦しているはずだ。
この若き男は革命のやり方を常日頃から研究しているはずだ。
「世界革命を起こしたいんなら。次の女王となるこいつを生かして国民に教化するのが得策だろう?」
「‥‥ふむ。まぁそれも分からなくも、ないですね。」
世界革命は国家から、国家の革命を起こすなら人民から、と頭でわかっているらしい。
このおっさんは話がわかるのだろう、と少々安堵した様子でリボルバーをおろした。
「あなたも同志だ。殿下にもこのシュルカノフ書記長の素晴らしい思想にご理解頂けるよう、努めたい。」
後ろに立っている同志の男女も緊張した表情を綻ばせた。
――――なんで逃げようとしないの?
こうやって丘にいる時点でつけられているのは確実だ。
このまま逃げてもまた狙撃かなにかされる。こいつらはきっと何処で逃げようと敵対する以上は殺されちまう。
石島は「さぁ、行きましょう」と同志と俺たちを率いていく。
どこに行くんだと、不安な気持ちは消えない。
「おい、何処に連れて行くんだ。」
「私はあなたのことが気に入りました。そこの王女殿下と共に、我が同盟の本拠へご案内しますよ。」
階段を降り続けると、車道には汚れたバンが停車している。
丸いライトに大きなラジエーターが見えている。
「ささ、乗ってください。」
運転する石島の他に、後部座席にはその同志たちも座った。
車内では、それぞれが俺たちの方に向き、握手を求めてきた。
まず最初に七三分けの大柄な男が顔を出す。
「どうも、俺は竹本高徳だ。おじさん、宜しくなァ‼」
やけに張り切った声で「おじさん、宜しくなァ‼」とはなんだ、と思いながらも体格に見合った大きな手を握り返した。
奴の肩には使い込まれたのだろうか、黒く汚れた狙撃銃が担がれている。
「こいつかい?こいつはソ連合から流れたDK-1889‥ドレッド・コーゲンっていう名銃さ。俺はこいつと共に戦う。」
誇らしげに担いでいる愛銃を見せてきた。
年季の入った銃だ。この若者よりもずっと老けている。
「(なるほど‥。こいつがあの時俺を撃ってきたのか‥)。年季の入った、良い銃じゃねぇか。」
こいつに撃たれたんだよなと思うと複雑だ。
次に細い金縁の丸眼鏡の少女が声をかけてきた。
後頭部に団子を作った髪型に薄くかかった前髪の少女だ。
「‥私は九十九稔枝。宜しく‥お願いします‥。」
か細い声でそう言い、軽く会釈した。
目を合わせて覗き込むと、大きく丸い瞳は薄く緑が混ざった色をしている。
「(こいつはハーフなのか?‥)おう、宜しく。お嬢さん。」
気さくに返すと、口元を僅かに綻ばせ俯いた。
何がおかしいんだよ、不思議な奴だ。
最後に焦げ茶色の作業帽を深くかぶった青年を顔を合わす。
瘦せ細っているのか頬骨が突き出ている。
「‥‥」
何一つ話さず、ずっと見つめるばかりである。
なんだこいつ‥?
困惑している俺を見て、竹本がにやりとしながら話しかける。
「こいつは棚田宗ってやつだ。頭はキレるが無口なやつさ。」
そう言い、仲良さげに肩を叩く。
棚田は驚いたように体を震わせ、すぐに落ち着いた。
「そ、そうか。変わったやつだな。」
俺とミナリアは少し気味悪く思って、互いに目を合わせた。
ここの雰囲気はなんだか和んだような空気とはなっているが、それでも戦争の相手になりえる奴らだ。
見える顔は皆若い。俺が最年長だろう、出来ればやはり殺したくはない。
程なくして人民同盟の本拠であろう薄汚れた雑居ビルのような建物に到着した‥。
俺は必ずミナリアを無事に帰さねばならない。専属護衛官の務めを果たそう。
- Re: 転生と言う「拉致」 ( No.19 )
- 日時: 2023/01/19 19:50
- 名前: 赤坂 (ID: dYnSNeny)
三章4 バカ‼
――――ようこそ、大扶桑人民同盟へ。歓迎するよ。」
玄関を抜けると、奥には同じ同志の人間が集まっている。
小さな電球の下には埃だらけの床と机が置かれており、玄関と正反対の場所に長椅子が一つ置かれている。
最初に俺たちを歓迎する言葉を述べたのは、長椅子に座っており、胸元まで届く白髭を伸ばした老人だった。
「議長、こちらはロズポンド王国のミナリア・コンタイン王女殿下。そして付き人の‥」
「津々良君、だね。存じ上げているよ。」
石島による紹介を先回りするように、その「議長」は答えた。
議長は、長椅子の横にある杖を持ち、慎重に立ち上がるとこちらを向いてにこやかに言った。
「私はこの同盟の議長、大村玄だ。」
「ああ、俺は‥、いやもう知っているんだな。宜しく。」
ミナリアは依然緊張した面持ちで、俺に軽く掴まって動かない。
張り付いた空気に、俺たちを冷たい視線を向ける同志たちの中にいては仕方ない。
「さて、君たちはまぁ‥言ってしまえば我々の――――」
「‥敵だ。」
溜めて放った一言に俺は一瞬、ほんの一瞬恐怖を感じた。
反動でホルスターに手をかける。‥いや本当に撃つ訳じゃない、多勢に無勢だ。
「そうだな。」
「だが、今この時とこの場所では君たちも同志なのだ。何より、我が同盟で誰よりも精鋭、この石島が認めた男だ。」
「ならば、俺たち。いやミナリアだけでも、その命は保障してくれるな?」
「ああ‥勿論だとも。」
言葉を聞いた同志たちは今まで向けていた冷たい視線を、少々驚く様子を見せながら議長へと向けた。
その内の二人が議長に問い詰める。
「議長、この二人は今、同志シュルカノフ書記長が敵対しているあの王国の殿下ですよ!なぜ許すのです?」
「数多くの同志たちが彼の地で戦っているというのに‥!」
議長は興奮する二人をなだめるように肩を優しく叩いた。
そして先ほどの質問に対して問いかけた。
「石島には考えがあるのだろう。これまでの戦いに彼が失敗したことがあったかね‥?」
そう言われ、二人は黙り込んだ。
きっとこの「石島」という男は、かなり有能な男として同盟を支えてきたのだろう。
俺にはこの不気味な若い男にカリスマ性を感じないが、「戦う」ことにおいては心血を注いだことには違いない。
二人の姿を見た議長は軽く咳き込み。
「お二方には来てもらって申し訳ないが、そろそろ仕事の時間でね。もうすぐ昼だろう、迎賓処に戻った方が事を穏便に済ませるのでは?」
「だな、特にミナリアは大事な用事があるんだ。ここいらでお暇しよう。」
俺とミナリアはゆっくりと後ろを振り向き、ドアに向かって歩き出した。
そして九十九が開けようとしたとき、
「‥三日後だ!津々良君よ、三日後に今度は『一人』でここに来なさい。また話そうじゃないか!」
議長からの突然の提案に驚き、俺は体を震わせ
「わかった、議長さん。三日後に会いに行く。」
驚きに任せて承諾してしまった。
一体なんなんだ、俺に何を‥?
俺たちは先ほどの車に乗り込み、石島と議長は重要な「会議」があるからと、車には棚田と九十九が同乗した。
エンジンを鳴らし、道を戻っていく。
「つ、津々良さん。誤っても私たち同盟の本拠の場所は言わないでくださいね‥?」
運転する棚田の横に座る九十九が言った。
そして続けるように
「も、もし言ったら‥。言ったら私たちは‥逃がしませんからね?‥」
と脅されてしまった。
ミナリアは不安そうに眉をひそめて俺の方に向いた。
「言わないさ。君たちもまだ若い、兵士に子供を殺させるようなマネはさせねぇよ。」
と、俺は答えた。
自分の祖国、厳密にいうとそれに似た国を裏切るような発言だが、致し方ない。
――――さっきのおじーさんの『三日後に来なさい‥』ってなんの事だろうね。
俺も気になる。だが只事じゃないだろうし、さっきみたいにミナリアを襲ったやつらだ。
何かを仕掛けてくるかもしれないが、あの議長は‥どうも完全な敵って感じはしねぇ。
車は新城ヶ丘の駅前に停まり、何とか無事に帰ってこれたのだと安堵した。
「それじゃあ、さよなら。津々良さん‥。」
九十九と棚田は小さくお辞儀し、俺は片手をあげて返した。
まもなく駅に着いた電車に乗り込むと、俺とミナリアは安堵の溜息を漏らした。
「生きて帰れる‥怖かったね、ケイジ‥」
ループを重ねた上で「生きて」、という言葉に思わず反応し、薄っすらと苦笑いしながら俺は答えた。
「良かった、本当に良かったな。さっさと帰ってゆっくり休もう。――俺は俺でまだ仕事があるようだ。」
「本当に行くの?‥絶対危ないし、私は大、反、対‼」
ミナリアは不満げに小さく声を荒らげて言い、俺を小突いた。
それもそうだよな、あんな恐ろしい体験をしたんだ。俺も、そりゃあ進んで行きたくはねぇよ。
「だが、何故俺を指名してまで。そこがすっげぇ気になるんだ。」
「でもケイジは私の『専属執事』でしょ!だから、だからさ、私から離れることは‥ダメよ。」
ミナリアは「今度こそはちゃんと言うことを聞いてよ」と言わんばかりの目を向けている。
考えてみればそうだ、王国では堕賢者と争い、ミナリアやグロリアにこっ酷く叱られたことを忘れたわけじゃない。
本当に俺は、彼女に迷惑をかけ、心労を与えているのだなと。
少し赤らんだ眼を向け、じっと俺を見つめて言った。
「もし‥。もし行くならケイジを王国に帰します。そして、私も一緒に戻るわ。」
「それはいかんッ!君にはやるべき仕事が、王国の存亡が懸かった大仕事があるんだろ!?」
俺は眉間にしわを寄せ、互いに睨みあって言い放った。
ミナリアは怯まず、重ねて言う。
「とにかくダメなものはダメ‼もう離れないで、もう勝手に私の見えないところに行かないで‼」
ああでもない、こうでもない――ダメだ、イヤだ――。
俺たちは迎賓処の駅に着くまで、ずっと口喧嘩を止めなかった。
ミナリアは強く俺の手を引き、駅を出る。
13時を過ぎ、向こうには門番の帝国憲兵がこちらを見て、敬礼した。
そんなことは構わず、依然としてミナリアは俺に怒りをぶつける。
「なんで分かってくれないの!ケイジはいつもそうやってさ‥!」
「話の分からない子だなァ!仕事は俺だけに限らず、他にも頼めるじゃねぇか!そもそもな‥」
憲兵の男は、まるで駄々をこねる子供ようなミナリアと、その子供を𠮟りつける父親のような津々良が門を通り過ぎる姿を見て、ただ困惑するばかりである。
共に番に立っている同僚とも目配せし、やれやれと肩をすくめる。
「ケイジのバカッ‼」と言う叫び声の直後に響いた風船の割れるような音――。
「あぁ、ビンタされちまったようだな」
「高貴に見えて、可愛げのある『お嬢様』なもんだぁ」
と、憲兵らは冗談を言い合った。
- Re: 転生と言う「拉致」 ( No.20 )
- 日時: 2023/02/27 21:39
- 名前: 赤坂 (ID: dYnSNeny)
三章5 調査
――――ケイジのバカッ‼」
‥‥頬が熱い。
俺は目の前の女に平手打ちされたのか。
迎賓処の玄関から中央階段に続く赤いカーペットの真ん中で、目を泣き腫らしたミナリアに打たれた。
俺はその事実に対する怒りよりも、驚きが先行して何も言えなかった。
勢い余ってフラつき、俺は腰から倒れてしまった。
すると、俺たちの帰りを出迎えに待っていたエリカとフローレスが駆け寄ってくる。
「何をなさるのです、ミナリア殿下ッ‼」
フローレスは、尻餅をついた俺の肩を持って、そう言った。
ミナリアも負けぬと睨み返して、言い返した。
「フローレスメイド長は黙っててください!何があったかなんて知らないでしょう⁉」
しかめた顔を残したまま、速足で自室に戻ろうと階段を上る。
フローレスはまたも言い返した。
「次代の女王になろうお方がそのようではいけません!国王陛下に言いつけますよッ‼」
「そんなの知らないわ、勝手にして‼」
五段上からミナリアが捨てるように叫び、階段を駆け上がっていった。
俺は床に腰を降ろしたまま、階段を上りきるミナリアを見届けた。
ふと口元にかかる液体に気づいた。触れてみると血がついている。
「あ、鼻血か。」
「あら!ツツラ様、こちらをお使いください。」
フローレスは背後からハンカチを差し出し、鼻に当ててくれた。
近くにいるエリカは不安そうな表情をしながら、しゃがんで顔についた血を拭ってくれている。
「ミナリア殿下に怒られちゃいましたね‥。」
拭きつつ、苦笑しながらエリカは言った。
「でも俺が悪いのかもなぁ~。‥あまりミナリアを悪く言わないでやってくれ。」
「叩かれてもそんなに優しくできるんですね。さすが、ツツラさんは紳士さんです。」
純粋な気持ちで褒めてくれているのだろう。
融通のきかない俺にも非があるが故に、やっぱり罪悪感が湧くなぁ。
フローレスが尋ねる。
「ツツラ様、昼食後の午後3時には国王陛下、ウィスタネル閣下と扶桑国首相との会談がございます。ミナリア殿下もご臨席されますが、同行されますか?」
「あぁ~。でもさ、今の俺が行ってもきっと嫌がるだろな。」
俺の返答を聞いて、フローレスは少し悲しそうな顔をしながら返した。
「もし厳しいとのことでございましたら、代わりの者を同行させましょう。ツツラ様は一先ず休まれた方が宜しいかと思います。」
「それが良い。少し休ませて貰うぜ。」
と伝えて、勢いよく立ち上がろうとした時だった。
―――アァァァァァァッ‼」
い、痛いッ‼
腰が、腰に激痛がッッッ‼
俺の腰は先ほどの転倒で痛めてしまったのだ。雷が落ちたように激痛の電撃が走った。
一気に脱力し、また座り込んでしまった。
「エリカ‼た、担架を。今すぐに‼」
‥迎賓処の二階にある自室まで、憲兵の男二人が俺を乗せた担架を運んでくれた。
腰には在りし日に助けられた湿布薬が塗られ、独特な臭いが部屋に広がっている。
俺は痛い痛いと独り言ちながら寝床に腰掛ける。
「あぁ。俺も歳なんだな。元警察官‥?いやまだ現役のはずなのにな。」
「結構しっかり入っちゃったんだね~。」
頭上から聞こえた声に反応して見上げると、そこにはまた姿を現した芳香が立っている。
姿はロズポンドで堕賢者と戦ったあと、頬を打ったあの時の服装のままだ。
「おい、お前その服ずっと着替えてねぇのかよ。ッ汚いぞ!」
「う、うるさいな‼臭いとか汚いとか透明なうちはないの‼」
芳香は小さく怒鳴って、横に座った。
「あの時も言ったけどさ、私も君にはあまり無理して欲しくないんだよ?でもさ‥。」
「私が君を打った時に言っていたよね。座右の銘があるって。」
「ッ!」
まだ覚えていたようだ。もう随分前の話だったが。
芳香は俺の考えていることを見透かしているようで、ニヤリとしている。
「君の好きなようにやればいいと思うよ。これも何か必要なやらなきゃいけないこと、かもしれないし。」
そうは言いつつも、本心は納得がいかないのだろう。
目線は下を向いている。
「そう言えば、お前は俺に死なれたとして何か困ることはあるのか?」
よく考えれば俺をこの世界に連れてきた張本人だ。
何か目的があるのかも今まで明かされていない。
その思いから俺は尋ねた。
「やっぱり気になるよね‥。でも、今はまだ明かしたくないんだ。」
肝心なところは言わずとも、やはり何か目的はあることが分かった。
「いつか教えてくれるのか」
「う~ん。私が覚えていたら教えてあげる!」
芳香は下げていた目線を再度こちらに向け、白い歯を見せて笑った。
どうやら俺はからかわれているようだ。
「どうせ問い詰めても教えてくれなさそうだな。‥さて、これからどうしようか。」
「今、こうやって喧嘩しているのもチャンスかもしれないよ。今は一人で自由が利くし。」
「三日後、か。」
―――――――――――――――――
福仲迎賓処 第三五番室
丁度、津々良とミナリアが迎賓処に戻り、二人が口喧嘩をしていた頃。
三階の左奥にある五番目の部屋、ウィスタネル首相をはじめ内閣の閣僚たちは、部屋の真ん中に置いてある大きな円形テーブルを囲むように座している。
扶桑国との政府会談を控えたそれぞれの閣僚は、険しい顔立ちを崩さなかった。
この沈黙を破ったのはフォステン外務大臣だった。
「首相、この度の会談で向こうから引き出すべき条件はやはり、此度の戦争への『参加』です。」
「全く以てその通りです、首相。二正面作戦に引き込められれば、ソビエティア軍は王国との戦線に兵力を集中させることができなくなりますからね。」
続けてジョグ軍部大臣も答えた。
ほかの閣僚も「そうだ。」と小さく唸って、頷いている。
ウィスタネルは短くなった葉巻を灰皿に押し付け、また新たな一本をふかして言った。
「ああ、勿論だ。それを目的にここに来ておる。‥王国の存亡、陛下と王室の命がかかっておるのだ‥。」
「二時間後には通訳とともに扶桑国首相官邸に移動し、フジノモリ総理大臣との政府会談を開始します。ここでは正式な国交成立と参戦の確約を得ることに集中しましょう。ほかに確認すべき事項は?」
フォステンは同席している閣僚を見渡して言う。
軍部大臣はぼそりと呟いた。
「無尽蔵に溢れ出る兵量がどれだけ裂けると言うのだ‥。」
「えい、希望を捨ててはならんぞ。我々は決して降伏せんのだ、いざとなればこの身を投じてでも戦うしかあるまいっ‥今この瞬間も、わが国の忠勇なる兵士は戦っておるのだ。」
ウィスタネルはまた葉巻をふかした。
同じくして煙草の煙を吐いたフォステンが続けた。
「残り三日、三日でここを発ちます。それまでに同意を得られるよう、尽力します。」
―――――――――――――――――
午後2時、迎賓処の一階にある一般職員用の広い食堂で、津々良たちは遅めの昼食をとっていた。
政府会談の出席する閣僚らは会食場で食事をとる中、一時的に専属執事兼護衛官の職を離れたために食事もまた別となった。
「腰はもう大丈夫なの?」
俺の目の前で茶碗を持つ芳香が聞いてくる。
「少しマシにはなったな。まだ痺れる感じは残っているけどな」
「そっか。‥三日後って言ってもそれまでは結構暇だね。」
三日間の暇、というか猶予に等しい。
ただ出国する時期を知らないが、それまではミナリアの身の安全を守り切らねばならない。
「ここで腐っていても仕方ない。今、出来ることは調べることだ。」
俺は空いた皿を食堂の流しに置き、椅子に掛けたジャケットを肩にかけた。
「ちょ、ちょっと待ってよ。まだ食べてないんだってば~!」
‥俺は芳香を連れ、館にある地図を眺めた。
「調べるって何を調べるの?この時代にはパソコンなんてものないんだよ?」
「新聞を買い漁って‥そうだな、近くの図書館があるなら歴史資料も調べて、あの『同盟』とやらがどんな奴らなのか少しでも知るんだ。」
「お金が大丈夫?」
「ああ、入港時に換金した。ざっと5万円だよ。」
「うお~、金持ちだねぇ~」と芳香は少し上機嫌に俺を肘で小突いた。
なに喜んでるんだ、お前のおもちゃを買いに行くわけじゃねぇんだから。
俺たちは地図で、この迎賓処の近くにある‥歩いて数分の距離に図書館と新聞屋をそれぞれ一軒見つけ、そこに向かうことにした。
- Re: 転生と言う「拉致」 ( No.21 )
- 日時: 2023/08/04 18:36
- 名前: 赤坂 (ID: eVCTiC43)
三章6 闘争の歴史
迎賓処を左に進んで数分、薄汚れた看板を掲げた新聞屋に到着した。木製の壁と、近くには配達用の自転車が停めてある。
俺が田舎に住んでいたガキの頃、毎日見かけた古い駄菓子屋を思い出させる見た目だ。
店先に置かれていた新聞を片っ端から取り、店内の会計に歩く。
店主であろう老婆が驚いてこちらを見る。
「あんた…そんなに沢山の新聞どうするんだい。」
「全部買うんだ。金は払うんだからいいだろ?」
「そうだな、ええわい。ほれ、5円ね。」
そして、俺は鞄から財布を取り出し、支払いを済ませた。
「はい毎度ぉ~」
五社の新聞をすべて鞄に入れ、次は図書館に向かうことにした。
横を歩く芳香が右腕を引っ張った。
「ねぇ、まだお金余ってる?」
「ん?あぁ。まぁ余裕あるな。」
「じゃあさ、甘いもの食べに行きたいな。後でさぁ?」
何かと思えばそんなことか。と俺は内心呆れた。
その心情を読み取ったのか、芳香は不満げな顔を浮かべる。
先ほどの新聞屋とは逆にある、公営の図書館に辿り着いた。
ロズポンドの地下図書館を思わせる、レンガ作りの洋風な建物だ。
――――頑強に作られた玄関を通ると、二階に分けられた館内を眺めることができた。
各階は背の高い本棚が奥に向かって連なっており、本棚の間には通路が設けられている。
「すまない。社会に関する資料がまとめられている本棚へ案内してくれないか」
「はい、ご案内します。」
玄関左の受付にいる司書は静かに答え、俺たちを二階の本棚へ案内した。
「こちらです」と手のひらで示した棚には「帝國史・地政学」と記されている。
俺は感謝を述べるとともに会釈を交わし、薄暗い通路を見渡した。
「さて‥。この国の動乱をまとめた資料はどこかな、と。こりゃあ多いなぁ」
「なんかホコリ臭いねここ。」
呑気なこと言ってないで探すのを手伝えよ、と思って棚の本をなぞりながら歩き始めた。
また心を読み取った芳香は、さっきのように不満げにしながら後をついてくる。
本棚の中には「帝國史」、「極東文化圏地政学之研究」など堅苦しい文字が並んでいる。
――――その中にとある本が目についた。
「‥これは『帝國事件総覧』か。発行元は平卿府警視庁、ってことは警察の資料か。」
俺はその本を一冊抜き、通路の先にある平たいテーブルへ持っていった。
焦げ茶色の表紙に銀色の題名が記された本を開くと、文章はすべて文語体だ。右読みにカタカナだ、頭が痛くなる。
「そりゃあこの時代の日本っつうか同じ国だもんな。」
目次を調べると、途中に「特定政治活動ニ関シテ」と題された章が見つかった。
そのページを開いてみると、どうやらあの同盟との対立の歴史について記してあるようだ。
内容を読み解いていくと、今から20年前…まだソビエティアという国が出来る前、その土地には「スラヴィア帝国」があったらしく、帝国の酷い貧困やそれに伴った政情不安定が当時の政府を襲い、人民が団結して革命を起こした。その「余波」が扶桑皇國にも来たらしい。
「つまりはロシア革命ってことか‥。この世界に第一次世界大戦はあったのだろうか。」
俺たちを襲ったあの同盟は、昔はとある政党だったらしいが解散された。そして不満を抱えた同じ思想の国民が革命を成功させたソビエティアから武器を密輸した、ということだ。
「政治闘争最初の地は、山北大地、湾内町…。北海道の石狩だな。」
記された地図を指さし、確認する。近くには樺太と思しき島があった。
山北大地へ開拓に出向いた労働者が、スラヴィアから湾内町に流れ着いた武器密輸船と合流。大扶桑人民同盟と協力して、現地の屯田兵駐屯地を急襲した。
だが決起した労働者の集団はすぐさま警官隊と陸軍屯田兵に鎮圧された。その時活躍した警官の名前と肖像が記載されていた。
「名前は‥大村玄!?」
肩章付きの濃紺の襟詰を着て、制帽を被った厳めしい顔の男は、まさにあの長老の面影を残していた。
「あのおじーさん警察官だったんだ。君と一緒だね」
横で眺めている芳香が、ニヤリとしながら言った。
「ああ、だが珍しい。状況がこの時代の日本と仮定すれば、官職に在りつけることは貴重なことだ。なのになぜ‥」
記述によると、この男はこの活躍を受け特進。その後に外務省へと出向したことが経歴として記されている。
出向後については一切の記述がみられなかった。
「ここまでか。最後には外務省に出向し、退職。まるでキャリアみたいだな‥。」
現代の日本にも省庁間の出向はある。ドラマでもよく言及されることがあるだろう。しかし、そのように出向があるというのは出世コースの人間のようなものだ。
そういった人間は大抵首都で過ごすものだ。恐らくこの男のような経歴は異例中の異例だろうか。それとも「扶桑」ではまた別なのだろうか。
「そこからテロ組織の統領に君臨というなぁ。なんだ?思想に感化されたのか?」
「このまんまだったらかっこいい警察官だったのにね。なんか勿体ないや。」
「何かあるんじゃないかって、疑ってしまいそうだ。」
その「三日後」の日に尋ねることにしよう‥。皮肉にも俺と同じ本職だとは思わなかった。
俺はその後、その先のページをペラペラとめくり、目につくものがあるか調べてみたが、やはりあの爺さんの記述は見つからなかった。
「さぁ、もう出るとするか。十分に調べられた、戻って情報の整理だ。」
- Re: 転生と言う「拉致」 ( No.22 )
- 日時: 2023/08/05 19:21
- 名前: りゅ (ID: miRX51tZ)
小説素敵ですね(⋈◍>◡<◍)。✧♡
更新頑張って下さい(⋈◍>◡<◍)。✧♡