コメディ・ライト小説(新)

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月華のリンウ
日時: 2020/12/29 17:39
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: w1UoqX1L)


2020.4.21
クイックアクセスありがとうございます!
毎度のことでお馴染みの方も初めましての方もこんにちは。
雪林檎と申します。
完結まで頑張りたいと思いますので応援、よろしくお願いします。

*小説情報*

執筆開始 2020.4.21


小説のテーマ
一応、壮大な東洋風ファンタジーラブを書いていきたいと思っています。
雪林檎初の長編小説です。


*追加された事
 
再スタート!! 
00と01が書き直されました! -2020.8.10

02,03,04が書き直されました!-2020.8.15

05が書き足されました!-2020.8.23

登場人物一覧が書き足されました!-2020.8.28

*お願い

荒らしコメなどは一切受け付けません。

見つけた場合、管理人掲示板にて報告します。

投稿不定期


登場人物紹介&国名 >>1

*本編

一気読み >>0-

第一章

00「追われる身」>>2 01「運命」>>3 02「皇子様」>>4 03「囚われの下女」>>5 04「追憶」>>6

05「一輪の花」>>7 06「道中」>>8 07「微笑」>>9 08「蓮の母君」>>10 09「芽吹き」>>11

10「旅立ちの約束は」>>12 11「2人は」>>13 12「予感」>>14 13「叶えたい願い」>>15

14「提案」>>16 15「心配」>>17  16「本心」>>18 17「看病」>>19 18「それは」>>20

Re: 月華のリンウ ( No.17 )
日時: 2020/12/06 14:58
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: w1UoqX1L)

15.心配

 「……鈴舞、鈴舞…って寝てるのか……」

書を手掛かりに鈴舞が作った薬剤を取りに来たものの、鈴舞は机へと顔を伏せていた。
 
 ______すぅ、すぅっと小さな寝息が聞こえる。  

 あの、やると決めたら止まらない猪のような鈴舞が大人しく、幸せそうに子供みたいに寝ている事に対して暘谷は、思わずくすりと笑ってしまう。

彼女を見ていると背中を押されて新しい事をしてみようと思える。幸せな気持ちにもなる。

 「余程、疲れてるんだな……すまない」

暘谷は自分の羽織っていた服を脱ぐと鈴舞に優しくふわっと掛ける。
 そうした時、鈴舞の指が一本一本で、動き上体を机から起こす。


 「………よ、暘谷が……見える……ぅ……? ……ん??」

寝ぼけているみたいで手を宙に動かすが、違和感を覚えたらしく目を細める。

 「これ、……幻想じゃなくて、ほ、本物……??」

暘谷の服をペタペタ触る鈴舞の手を掴むと暘谷は苦笑交じりに頷く。


 「生憎のところ、本物だ」

言葉を発すると、鈴舞はみるみる目を見開き、「ヒッ」と小さな悲鳴を上げる。

 「ご、……ごめん。……ペタペタ触っちゃって……」

いや、いいよと微笑みと薬品の瓶を見せる。

「これ、貰ってくな。あと、余計なお世話かもしれんが鈴舞、結構疲労がたまっているみたいだし無理をせず、ちゃんと眠れよ」

そう伝え終わった暘谷は鈴舞に背を向け、手を振り、去っていく。

 


 「疲労……かあ」
確かに頭痛がする。視界もボーっとしているし、輪郭もない。

 鈴舞は座りながら体を上に伸ばす。

「眠れ」と言われたがそうは言ってられない。

 持ってきた書を読み終えなければいけないし、負傷や風邪を引いた兵の看病をしないといけない。

 此処での役目はちゃんとしたい、鈴舞はそう思っている。

暘谷の言っている事は理にかなっているが休む事は出来ない。

 「……さて、今日も頑張りますか……!」

すくっと椅子から立つと頬をパチンっと叩いて思いきりの笑顔を作った。



 ―――――――「お嬢さん、ちゃんと寝てます?」

唐突に言われ、鈴舞は動揺してしまう。

 訊いた月狼はジッと鈴舞を見つめ、息を吐く。彼の鋭い狼のような金色の眼が心配げに瞬く。

 「え? な、何で……そう思うの?」

取りあえず理由を聞いた鈴舞は不器用に微笑むと月狼は手を掴む。

 「いつもより顔色が悪いから……ていうかオレの質問にも答えて貰えます?」

普段と違ってグイグイ来る月狼に驚く鈴舞は「え~?」と誤魔化す。

 「ちゃんと寝てるよ~?」

あはは、と作り笑いを浮かべ、沢山の資料と薬剤の入った箱を運ぼうと地面から持ち上げる。

 そして、歩こうと一歩踏み出すが、ふらっと身体が後方へ傾く。

 視界が180度回って、鈴舞は眼を瞑るが、頭に強い衝撃は無くて驚く半面不思議に思う。

 眼を恐る恐る開けて見るとぼんやりとしていた視界がやがて輪郭を少しずつ取り戻していく。

 乱れた前髪が誰かの指先によって整えられる。壊れ物を扱うように物凄く優しく繊細な手つきで。

 「……ぁ」

金色の瞳と目が合う。そして急いで彼から離れる。

 倒れそうになったところを支えてもらったのだ_____月狼に。

 「……あーなんつーか……その、……と、とと、取りあえず」

頭を軽く抑えながら気まずそうに声を出す月狼は鈴舞をちらりと見てから視線を逸らす。

 


 _____________「ね、熱。ありますよね?」

月狼はそう鈴舞に告げると、「ちょっと動くなよ」と言い額に手を置く。

 「やっぱり、微熱だけど辛そうだ。今すぐにでも寝た方が良い」

鈴舞自身でも誰も気が付かなかったことに月狼は気付いていたと言うのか。苦笑してしまう。

 確かに、これは熱かもしれない。頭痛に締め付けられる喉。


 「……無理を、するなよ。本当に自己管理の出来ない馬鹿なお嬢さんだ」

2回も同じことを言われてしまったと鈴舞は乾いた笑みを浮かべた。
 
 (……本当、馬鹿だと言われても仕方がない……)

 「ご、ごめん……なさ、い……」

月狼は軽く咳き込み始める鈴舞の腕を掴むと自分の背中へと身体ごと背負い込む。

 「黙ってて下さいね、喋ると耳に響きますから」

鈴舞はそう告げられぼーっとする意識の中、頷き続けた。

Re: 月華のリンウ ( No.18 )
日時: 2020/12/06 14:59
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: w1UoqX1L)

16.本心

 「ねぇ、………月狼は、……どうして、気が付いたの……?」

さっきも同じような事を聞いた気がするがまあいっか、と鈴舞は薄く微笑む。

 「お嬢さんの事を見ていたから………ですかねぇ……忙しなく仕事してたんで心配してたら、悪い予想があったってしまっていて………冷静に見えますがこれでも驚いてんですよ?」

月狼の声色はいつもと同じだ。落ち着きのある何処か人を笑顔にしてしまう声。

 (………温かい。月狼の背中ってこんなに大きいんだ……へぇ………意外だなぁ)

遠慮していた鈴舞も緊張などが解け、身体を委ねる。

 一歩一歩、歩みを進める月狼の背中は揺り籠のようでとても安心出来たのだろう。

真面に寝ず、今まで睡魔と闘い手強いくらいの鈴舞でもとろんっと目を伏せてしまうのだ。



 ―――――「……お嬢さん、………お嬢さん……って寝てるし」

顔を横に動かした月狼は背中で静かにすーっすーっと息を吸って吐いてを繰り返し寝ている鈴舞を見てふっと今までにないくらい柔らかく微笑んだ。

 そして、一人、呟く。

 「オレは……お嬢さんには笑顔でいて欲しいんです………お嬢さんが、鈴舞が、笑顔でいてくれるならこのまま仕事は、しなくていい生活を……って何言ってんだオレ」

自分の本心を思わず告げてしまった月狼はパッと口を片手で塞ぐ。

 「……あー、最近、やべぇな………主に申し訳ねぇわ」

そう呟き、空を見上げた。月狼の心と同じく灰色に、モノクロの空だった。

 雲が、ぷかぷかと浮かんでいる。

 「………鈴舞には幸せになって欲しいんだ……」

月狼は背中で赤ん坊のように笑顔で眠る鈴舞の髪の毛が首に触れるのを感じながら歩き出す。



 飛燕城は、まだ雲に覆われていた。

1人1人の心模様のように、何かに悩み、苦しむ姿を現しているかのようだ。



 ――――――――「……主」

鈴舞を寝かしてから雑炊を取りに帰ってきた月狼は驚いた。

 自分の主人_________暘谷に知らせてもいないのに、鈴舞の仕事部屋に居たのだ。

多分、すれ違った兵士の話を聞いたのだろう。きっと業務をほったらかして飛んできたのだろう。

問題は其処そこではなかった、暘谷が鈴舞の髪を指先で梳き手を握っている場面だった。

 “気まずい、こんな場合どうすればいい?”、その一言が月狼の頭を埋め尽くす。

 「………お、おう……月狼か」

 気が付いた暘谷は額から頬にかけて冷や汗を伝わせ、心なしか眉が吊り上がり口が尖がっている気がする。

 余裕のない表情をしていた。

 「えっと……雑炊、持ってきたので起きたら鈴舞に食べさせてあげてくださいね、主」

いつもの調子で言えただろうか、と月狼は思う。

 変な汗を掻いてしまう。

そんな状態でも、目線が行くのは今だに握られている鈴舞と暘谷の手。

 (女々しい………かよ)

自分自身を恥ずかしく思った月狼はパッと暘谷に背を向ける。

 _________居たたまれなかった。前と似た感情だった。

心の底に渦巻く感情。悲しみ、怒り……一言では表せない複雑な感情。モヤモヤしていて気持ちが悪いこの感じ。

 何度もあの手を握りたいと思っても、自分は握ってはいけないのだと暘谷の一途な恋心や鈴舞の優しさに思い知らされる。

 「………では」

にこっと不器用な、笑みを浮かべた月狼は鈴舞の仕事場を出た月狼はその場でしゃがみ込んでしまう。

 

Re: 月華のリンウ ( No.19 )
日時: 2020/12/06 14:59
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: w1UoqX1L)

17.看病

 ―――――――――――――仰向けのまま、身体が海の中へ放り込まれる。

 恐る恐る瞼を開ければ、すでに海面からかなり離れていて遠くの日光が青に揺られているのが見えた。 

 不思議と息苦しくはなくて、そのまま水中の音に耳を傾け心地よさを堪能していると、光を遮るように海面近くに黒の大きな生物が一頭、現れた。

 その大きさに少し怖くなって思わず息を潜める。

 こんなに広いのに頭上の生き物は、優雅に泳いで私の視界からは消えてはくれない。今更になって、恐怖が全身を支配する。



 私はこのまま、其処へと墜ちていくしかないの?____________




 ―――――――「……、……夢?」

その夢の内容は起きると同時にあっさり消えてしまっていた。全身に汗を掻いている時点で良い夢ではないことは明白だった。

 鈴舞は、はぁっと息を吐いてから、お凸に張り付いた髪の毛を手櫛で整えた。

ベッドから下りようとすると………。

 「!!!?」

 身体が動かなかった。しかも左半身だけ。

半身だけ金縛りにあっているのか、と初めて下を見たところ、鈴舞は驚いた。

何度も目をこすって、見てしまう。
 
 なんと、暘谷に手を握られていて、膝枕の状態だったのだ。

「……………よう、こく………なんで……」

きっと知らせを受け仕事を放り出して来たのだろうと短い間の付き合いの鈴舞でも大体察しのつく事だった。

 「………ばか……か……って、言ってる私も、か。自分の状態に気が付かなかったもんな……」

 寝てしまう前に月狼にお凸に触れられ、負ぶって貰った事。

 走馬灯のように瞼の裏に蘇ってくる出来事に薄ら笑みを浮かべる。

自分の情けない所、月狼の勘の良さと未だに残っている生ぬるい体温。あの鋭い綺麗な目と息継ぎの仕方。

 生々しい、まだ、月狼が近くに居るようだった。

ギュッとあの時、触れた掌を握り締め、見つめる。


 思いきりブンブンっと頭を振り煩悩を捨てようとすると視界に入った、微量の光に当たりきらきらと輝く一束の銀色の髪にその手で触れる。

 暘谷の眉間に皺が寄っていた。

心配して熱が下がるまで看病してくれたのだろう。

布やら氷が入っていただろう袋、などが散らかっているから、すぐに判る事だった。

 「ふ、……酷い顔……」

眉間を人差し指で突いてみれば眉毛は動き、寄っていた皺は伸びる。すぅっと優しく息を吸って吐いてを繰り返す。

 子供のようにギュッと鈴舞の左手を握り締めてうずくまり、可愛らしく目を伏せる暘谷に鈴舞は顔を綻ばせる。

(跡が付いちゃってるじゃない………そんなに、心配したの……? こんな黒髪の忌々しい私の事を………一国の皇子様が下女だった女を看病って………どうかしてるでしょ……)

 そんな事を思いながらジッと見つめ、観察をしていれば暘谷の指が少しずつ動く。楽器を弾いているかのようだった。

 (あ、起きた……)

 もぞもぞ、と動き出す暘谷を鈴舞は赤子を愛おしく思う母のような眼差しで見つめる。

「う~」と呻き、欠伸を一回すると半開きになった眼を擦る。



 ―――――――「………お、え? ………りん、う……鈴舞、起きたのか!!?」




 一瞬、訳の分からなそうな顔してからみるみると可愛らしい子供のような笑みを浮かべた暘谷は余りの嬉しさから鈴舞へと抱き付く。

抱き付いてきた暘谷に驚き、頭が回らない鈴舞は硬直してしまう。温かい、体温が伝わってくる。

その度に激しく胸が脈打つのだ。

 「え、あ………ふぇ……い、……な、……ようこく……」

 ―――――ゴトッと大きな音が鳴り響き、振り返れば硬直した月狼が後方で二人を凝視していた。

 「せめて………扉をしっかり閉めてそういうことをして下さいよ。見る方のこっちになってくれ」

 (月狼ッッ!!!?? う、うぅうううそ!!!?)

げっそりとした表情した月狼に驚き、慌てて鈴舞は暘谷を凄まじい力で突き飛ばす。

 「おぶッッッ!!!」

鈴舞の拳が腹に直撃した暘谷は腹を抑えて呻き声を上げる。

 そんな痛いと言う苦し辛そうな様子を見ても心配できる程の余裕もなかった鈴舞は布団を包まってしまう。

 「………ったく………主って奴は………」

呆れたように溜息を吐きながら鈴舞に近づく月狼は、暘谷をチラッと見る。

 鈴舞はその表情を見るや否や頬をどんどん真っ赤な完熟林檎のように赤く赤く染めていく。

恥ずかしいとこんなところを見られるなんて、という考えが鈴舞の脳内を埋め尽くし、冷静な判断が出来なくなっていた、

 「――ッッ!」

深呼吸をして、落ち着かせる鈴舞を余所に暘谷は何かを察知したようで急に月狼を睨み付けていた。


 火照った鈴舞の顔を優しい眼差しで見つめてくる月狼は、「失礼しまーす」と告げて、ひんやりと少し冷たい手を当ててくる。

 その体温のおかげで熱くなっていた鈴舞の顔も冷めていく。

 ………外が余程寒かったのだろう、細かく見て見れば月狼の耳はポッと赤く染まっていた。

 そんな事を見ている鈴舞のお凸に手を当てて熱が下がったのか確認する月狼はゆっくり頷いてから持ってきた雑炊を机に置く。


 「………熱は、………下がったな………良かったな、鈴舞……!」


くしゃくしゃっと皺を寄らせ、白い歯を見せて太陽のように微笑んだ月狼に頭を撫でられ鈴舞は硬直してしまう。

 「―――っ」

鈴舞は言葉を失う。
金色の瞳が瞬く度に顔が熱くなってくる。



           月狼に魅入っていたのは事実だった。





 やっと出てきた言葉は________「………ねぇ、……私の事、子供扱いしてる?」だった。


折角、整えた髪をぐしゃぐしゃにされ、苛立ちを含んだ言葉を放った鈴舞は笑顔で月狼を見る。

 滲み出る怒りに気付いた月狼は苦虫を嚙み潰したような顔で「げ」と声を漏らし、そそくさと部屋の外へ逃げ込んでしまう。

 「………もう……ッ」

はあっと溜息を吐く鈴舞の表情をさっきから一言も喋らない暘谷は鋭い眼差しで見つめていた。

 「……」

 下唇を、ガチっと強く、強く噛む。

 ――――――「……、…え、と……………じゃあ、俺も行くな」
 
暘谷はいつも通りの表情、優しい笑顔………だけど力のない微笑みを浮かべ羽織を翻す。

 バサッと音がして一人完全に自分の世界に入り込んでいた鈴舞は、ハッと気が付き、慌てて「う、うんっ」と返事をする。

 「……っ」

 寂し気に一瞬見えた背中に何も伝えることも出来なかった鈴舞は目線を逸らした。

あの日から、暘谷と自分の間には一本、線が引かれ、近づくことが出来ないことを鈴舞は知っていた、けれど、口にすれば何かが壊れてしまうのは事実だった。

 だからこそ、気付かない振り、そして、今までと同じように笑顔で接していた。

これからも、笑ってやり過ごそうと思い始めている自分に気が付かないまま、窓を開け空を見つめた。

















 ______________誰一人と、気が付いていなかっただろう。

 この時点で糸は、もう、絡まり、拗れ始めていることを。


Re: 月華のリンウ ( No.20 )
日時: 2020/10/28 17:00
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: w1UoqX1L)

18.気持ち

 「………はああぁああ………どうすれば、いいか………」

盛大なる溜息を吐いた暘谷は長い廊下を歩き、空を見上げる。

「すれ違い……、だよな………」

暘谷が気になるのは鈴舞があの日からよそよそしいかったことだった。

 あの時は殆ど意識が無い状態だった為、自分が何をしたか、実を言うとあまり覚えていない。虫食い状態なのだ。

 「……なんか……アイツに不味いこと言っちゃったか……?」

頭を抱えても思い出せない。

 鈴舞と居て気付いた事と言えば鈴舞を見る月狼の眼が変わった事。そして、月狼に明らかに鈴舞は見惚れていた。

 「………従者に嫉妬してどうすんだか………ったく醜いかよ」

鈴舞に出会ってから知らない感情、表情が生まれたと同時に自分の醜さ、執着心と意地汚い独占心に気が付いた。

 (………どんどん自分が嫌になる……)

やっと、鈴舞に会えたと思ったら今度は月狼。
 
 一難去ってまた一難、二度あることは三度あるって言うしな。

そう解釈すると自分に言い聞かせるように暘谷は頷いた。

「………残った山のような書類、片づけるかぁ……」

背伸びをして深呼吸をする。

こうやって、暘谷は無意識のうちに自分の気持ちを誤魔化し続けていた。

 解っていても、口にしないように、心がけていた。

「……きっと……時が、解決してくれるよな…………?」

さっき触れて時間が経っているのにもまだ、鈴舞の温もりの残った手を握り締め口元に当てた。

Re: 月華のリンウ ( No.21 )
日時: 2020/12/29 17:38
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: w1UoqX1L)


19.それは

 ―――――「ゆ、……月狼っ!!」

暘谷に力強く引き留められ、吃驚した顔で振り向いた月狼は木の上に行こうとしてたところでピタッと止まる。
 
 その雰囲気から察したのか、月狼はスッと目を細め、「何ですかい?」と声を鋭くさせる。

暘谷は乾き切ろうとしていた口の中に込みあがってきた固唾を飲み込んで、その鋭い視線から逃れようと顔を俯かせる。

 言わなければいけない。訊かなければいけない。その思いだけが暘谷の頭の中をぐるぐると何周もする。

「あ、……お……お前……お……おれに……」

 ――――――“隠していることはないか?”

たどたどしく続いたその不安気な暘谷の言葉を聞いた月狼は息を呑み、合わせていた眼を逸らした。


 「……そんなわけないじゃないですかぁ!! オレは主に嘘なんかつけませんよぉ!!」

短い沈黙は月狼、そして暘谷にとっても針の筵だったろう。どちらも苦い顔をして、不器用に笑顔を作る。

 月狼はそう大声で笑いながら言うと「どうしてですかい?」と暘谷を窺うように、出来るだけピリピリする空気を出さないようにと気を配りながらいつも通りフレンドリーに聞く。

 「いや、……ふと思っただけだ。従者なら、抑えられない感情には……想いには主人よりもそっちのほうが大切になるんじゃないかって……勿論、それは悪いことじゃないし、何を言われても咎めない」

 俯かせていた顔を暘谷は上げて弱々しくかぶりを振ると「お前の幸せを願ってる」と羽織を翻して暗闇の中へと去っていった。 


 木の枝で止まった月狼は頭を軽く掻いて、額に手をやる。唇をきゅっと噛み締めると、手を強く強く、強く握った。直後、刺すような鋭い痛みが走るも顔を歪めず月狼は白い息を吐く。

開いてみれば掌に爪の丸い跡がつくられていた。

 (こんなの痛くも痒くもない。主は、相当悩んでいる。鈴舞だけじゃなくて、オレの事でも………)

 「………判ってるくせに、お人好しにも程がある……主、今、恋敵を応援したんですからね」

 主人の優しさ、鈴舞の努力、そして可愛らしいところ。

 ――――――『ねぇ、子供扱いしてる?』

あの時、触れた手。まだ鈴舞の体温と肌の感触が生々しく残っている。

 気持ち悪い。こんなことを想う自分が、酷く、軽蔑する。


 月狼は酷い自己嫌悪を覚えながらも、その手を、もう片方の手で覆う。そして胸へと添えた。







 ――――――――オレは、やっぱり……鈴舞が、好きだ。

 認めざる負えないこの感情に、初めての気持ちが、痛い程、苦しいと月狼は歯と歯を擦り合わせてギリッッ!! と鳴らす。

 月狼の想いが鈴舞に届かないことが目に見えているはずなのに。

自分でも解っているはずだと、何度も何度も言い聞かせる。

 自分みたいな盗人をしていた人間を、鈴舞のような、透き通る水みたいな人間が、好きになるはずがないと、太腿を作った拳で強く叩きながら。

 「…………なのに、どう……し、て……ッッ!!」

こんなにも、鈴舞が愛おしく思えるのか_____月狼は悔し気に、眉間の皺を深くさせ、顔を歪ませる。 
 
 *

 「あれ? 月狼、こんなところでどうしたの?」

 暖かそうな毛布を肩にかけた鈴舞がにこっと微笑みかけていた。

あれから寝てしまっていたのだと、月狼はパッと空を見上げ初めて気が付く。

 目の前にいるのは紛れもなく想い人、鈴舞だった。

「えっと、……お嬢さんこそ、どうして?」

そう病み上がりの鈴舞の顔色を窺うかのように月狼は小首を傾げて、その真っ赤な宝石、燃える太陽のような瞳を見つめ返した。

「寝付けなくて、つい………あ、暘谷に言わないでね? 抜け出してきたんだから、怒られちゃう」

悪戯っ子の顔をして人差し指を唇に当てると、鈴舞は視線を下に向ける。

 何故か、気まずい。

その気持ちが、二人の胸に広がる。

 「あ、えと、ゆ……月狼は……なんだか顔色悪く見えるっていうか……大丈夫?」

心配だな、と言葉を漏らす鈴舞を月狼は一瞥してしまう。

 心配して貰っていると、嬉しくて高鳴る胸を抑えながらも、すぐさま暘谷の顔が浮かぶ。人間として底辺並みの自分を救い手を差し伸べてくれた大切な、主人の顔が。


 ――――――『お前、人が困る盗みをするんじゃなくて感謝されること、やれよ。おれが、させてやるから!』

物凄く、御節介焼きで頑固で、我儘で意地っ張りで図星を構わず突いてくる素直な主。

 ――――――『おれの護衛はこいつだけだ。こいつ以外だなんて、あり得ないからな!!』

 嗚呼、裏切らないと誓ったのにも、権力争いが絶えない騙し合いの戦場で先頭をきって、戦っている不安定な彼を救いたいと、護りたいと思ったのに。

 月狼は眉を八の字に下げる鈴舞に向けて曖昧な笑みを浮かべ「あ、大丈夫だ……心配、ありがとな、お嬢さん」と言って見せる。

心の中で決まっていることが、出来ないのは自分の忠誠心に引き留められるから。

暘谷には幸せになってほしいから。

 想うことは同じ。

 だからこそ、お互いが遠慮しあっている。することではないと、わかっているのにも。

 「……もう、寝た方が良いですよ。お嬢さんは病み上がりだし、身体を大事にした方が良いって思います、それでは失礼します」

返事を聞かず、鈴舞に背を向け、木の上に上って月狼は自分の部屋へと向かう。



 「月狼……本当に、どうしたんだろう……やっぱり昼間のが悪かったのかな……」

残された鈴舞は訝し気に月狼の上っていった木を見つめた。

もう、いないことは知っているのに、自室に戻ろうとしても、鈴舞は何度も振り返ってしまう。

 「最近、変だよね……皆、私も、暘谷も月狼まで」



 自分が原因かもしれないなんて、鈴舞は心の隅で思っていた。

あの二人がぎくしゃくしたのも、自分のせいなのでは? と。

 だけど言い出せないのも事実だった。何より二人が、離れて行ってしまうのではと思ったのだ。

前のように楽しく話をするのも出来なくなるのではと言い出そうと思っても言えない。



 飛燕城、それは、踏み出すための一歩だろう。

それぞれの想いが交差する複雑なこの関係に_________

 夜空の月はまるで悩みを抱える全ての人間かのように独りで輝いていた。

寂しそうに、悲しそうに。


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