ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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僕とキミの包帯戦争。
日時: 2009/10/26 18:10
名前: 朝崎疾風 (ID: VZEtILIi)

重たい&シリアスです。どうか、見届けてください。

■登場人物■

イザム
23歳。雑貨屋の店主。大人になりたくなかった大人。愛猫のシャーネット・シュレディンガーと暮らしている。物語の語り手。

リク
推定16歳。性別は多分女(声で判断)。美人で、腕に包帯が巻かれている。家族構成は不明。

シャーネット・シュディンガー
2歳。イザムが飼っている黒猫。メス。名付け親はイザムの大切な人らしい。


主題歌

エンディング  http://www.youtube.com/watch?v=1SAEbeaSNeU

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Re: 僕とキミの包帯戦争。 ( No.18 )
日時: 2009/10/27 08:22
名前: 朝崎疾風 (ID: VZEtILIi)

コメ&アドバイス、ありがとうございます^^
これかも頑張りますので、またご指摘等があれば、
教えてください。
>羽夜s

Re: 僕とキミの包帯戦争。 ( No.19 )
日時: 2009/10/27 09:38
名前: 朝崎疾風 (ID: VZEtILIi)

僕の店は他の店と変わっていると思う。
店内はゴシックファンタジーのようで、髑髏の蝋燭、キレイなオルゴール、黒い墨石鹸、包帯、古い置時計、ゴシックなフランス人形などが置かれている。
外見も少し近寄りがたく、いい具合にクモの巣が張っていて、闇色のカーテン、しかも黒猫シャーネット
店長も適当だし。
誰だよ、まったく。……僕か。

僕が住んでいるのは、その雑貨屋の二階。
ここは割りと普通で、男一人と猫一匹が住むには少し広い程度だ。
キレイに片付いてるし。

いつものようにコーヒーを飲みながら、カウンター席でお客を待つ。
秒針の揺れる音が心地いい。
店内は、置いてある香水のせいか、とても甘い香りがする。
シャーネットは売り物の木彫りの椅子の上で眠っている。
このまま、誰も来なかったらいいのに。

手元に置いてある雑誌を読んでいると、リンッと扉の鈴の音がした。
お客さんが来たっていう合図。
僕は「いらっしゃいませ」とも言わず、雑誌を少しめくって、チラッとそのお客さんを見た。

「…………」

驚いて、椅子から立ち上がる。
「リク、どうしたんですかッ!?」
ゴシック姿の包帯女は、扉の前で立って動こうとしない。
見ると、左腕の包帯に真っ赤な血が大量に滲んでいる。
華奢な体が、異常なほどに震えている。

僕は彼女を奥にやり、先ほど僕が座っていたカウンターの椅子に座らせ、タオルとバケツを持ってきた。
バケツの中に水を入れて、
「包帯、とってください」
「ッ、やだッ!!」
彼女は何かに怯えたように叫んだ。
滴り流れる血を、恐怖と苦痛、狂気が入り混じった目で見つめている。

「でも、手当てできませんっ」
返事はない。
僕は水に濡らしたタオルを包帯の上からそっと抑えた。
「見ませんから、包帯だけでも取ってくださいっ」
「あ……あ……」
小さく声を発しながら、彼女が包帯を取っていく。
僕はなるべく下を見ながら、タオルを抑えていた。

しばらくして、血がたっぷり染み込んだ包帯をゴミ箱にいれ、その部分を彼女がタオルで隠している事を確認し、僕は急いで乾いたタオルと救急箱、包帯を持ってきた。
「自分でやりますか?」
そう聞くと、こくんと頷き、消毒液を塗っているみたいで、安心した。
何事かと思った……。

新しい包帯に取り替えると、落ち着いたのか、震えもおさまって来た。
温かいココアを入れて差し出すと、何も言わずに受け取り、静かに飲んでいる。
シャーネットも起きてきて、心配そうに包帯女を見ているが、彼女は無表情でココアを飲んだ。

「どうしたんですか?」
答えられないと、思う。
「……別に」
やっぱり。
「家、一人で帰れますか?」
「……うん」
「そのまま、ここに泊まっていきますか?」
包帯女が、ゆっくりと顔を上げる。

「何か、不安なんで」
「いいわけ?」
「はい」
包帯女は、少しだけ微笑んで、
「ありがと」
小さく呟いた。


やっぱり、何かある。
心の奥にどす黒く、彼女を蝕んでいる何かが。
心が泣いているように、思うから。

Re: 僕とキミの包帯戦争。 ( No.20 )
日時: 2009/10/27 13:16
名前: 朝崎疾風 (ID: VZEtILIi)

今、思えば「泊まっていく?」なんて大胆な事、年頃の女の子によく言えたなーと。自分を褒めてあげたいくらいだ。
「泊まるって、家の人に連絡しなくていいんですか?」
「する。電話貸して」
いつもの包帯女に戻っていた。
座敷の座布団に座り、シャーネットを膝に置いて、子機を耳に当てる。

「あ、もしもし。リクです。今日、友達の家に泊まります」
手早くそう言って、電話をきる。
「早かったね」
「誰もいなかったから。留守番に残した」
やっぱり、複雑な家庭事情なんだろうか。いや、家庭だけじゃない。
心の奥に、根深く何かがある。潜んでる。

「イザム」
「はい」
「……さっきは、ありがとう」
どうして、そんな儚げで悲しげな笑みを僕に向けるんだろう。
壊れそうで、思わず抱きしめたくなる。
いや、だって、普通知らない人でも、腕が血だらけなら僕は誰にだって手当てする。
べつに……リクだけじゃなくても。

「いえ、別に大したことはしてないですし」
「……あのね、イザム。ボクね」
「はい」
「消えたいんだ」
「…………」

どうすれば、いいんだろう。なんて。
僕は、ずっと考えていた。
叶う事のない願いを、小さい心で必死で考えて、考えて、考えて───

「死にたい、じゃなくて。消えたいんだ」
「どうして、ですか?」
聞いてはいけない。興味本位で、この子の心に入ってはいけないのに。
心が、ざわざわと音を立て始める。
「怖い……怖いんだよ。怖い……」
「怖いのは、僕も一緒ですよ」

ゆっくりと、彼女が顔をあげる。
泣いてはいなかった。
「この世界の中で、僕は一人ぼっちだと思ってしまう。できるなら、みんなの心に残るピーターパンになりたかった」
この世界で、いつまでも愚かな子供でいたかった。
何の事実も知らずに、いつまでも、仮初の世界で満足に笑えた子供のままで。

「……大人になんか、なりたくなかった」

Re: 僕とキミの包帯戦争。 ( No.21 )
日時: 2009/10/27 18:31
名前: 朝崎疾風 (ID: VZEtILIi)

         第三章
     そして少女は闇に呑まれて


大人になりたくなんかない。
そう思ったのは、中学校の2年生の頃だ。
そのとき、僕には好きな子がいた。
いつも教室で一人孤立して、何かを考えているような目で窓の外を見ていた。

転校生で、女子から陰口を叩かれて、男子からも遠まわしにからかわれていた。
でも、何も言わず、何も答えず、人と目も合わさずに、彼女は一人で生きていた。
僕は、彼女が好きだった。
全然話した事もないし、目も合わせた事もない。
席が近くになったわけでも、係りが一緒だったわけでもない。

でも、どうしてかみんなから疎まれている彼女が、とてもキレイに見えた。
彼女は絶対に喋らなかった。
噂で、「失声性」と流されても頷けたほど、誰も彼女の声を聞いた事がなかった。
授業で当てられても、無視。先生から怒られても、無視。でも頭はいいみたいで、黒板に答えを書けと言われても、サラサラと書いていた。

「あいつさ、感じ悪いよな。美人なクセに」
「キッツイよなー。な、イザム」
「……そうか?」
友達が彼女の事を悪く言っても、僕は絶対に肯定しなかった。
「僕は、そうは思わないケド」
本心だった。
何かに心を閉ざしたようなその目が、とても魅力的で、吸い込まれるようだった。


           ♪


「…………」
「な、何?」
僕と彼女が初めて声を交わしたのは、二学期の終わり頃だった。
教室に課題を忘れて、急いで取りにいってみると、放課後なのに彼女がいて、僕をじっと見ている。
そして、気まずいまま僕が教室を出ようとすると、その子が椅子から立ち上がった。

「ど、どうしたんですか……?」
敬語でそう話しかけると、その子は何も言わずに、ただ泣きそうな目で僕を見て、
「……似てる」
そう言った。
今でも、耳に残っている、彼女の声。掠れていて、精一杯声を出したという感じ。
僕は驚いて、
「誰に……?」
「…………」

彼女は、もう口を利いてくれなかった。
僕が誰に似ているのか、わからない。今でも、それは変わらなくて。
ただ、キミが声を発して僕は飛び上がるほど嬉しかった。
嬉し、かった。

Re: 僕とキミの包帯戦争。 ( No.22 )
日時: 2009/10/29 10:15
名前: 朝崎疾風 (ID: VZEtILIi)

彼女が教卓の花瓶を思い切り自分の頭に打ちつけたのは、それからしばらくしてからだ。
どれほど痛かったかは、わからないけど。
赤い血しぶきがとび、それが合図とばかりに甲高い悲鳴があがった。


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