ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- ヒストリエ ラスト ナイト2
- 日時: 2009/11/02 18:16
- 名前: nothing (ID: 0W9rRz2p)
どうかしましたか?」
「いえ、私の自給は500タムなんですが。どうもお客様が余り来ないときは本当に長い時間に感じられまして。なんというか暇なんですね。この暇な時間がなんと私の自給の四倍で売れるなんて。バイトしてるのもアホらしくなって…」
彼女は世の中はなんと無常なのか。と小さく不平を漏らし。それではと言って立ち上がって手続きをする場所へとエルトを案内し始めた。エルトが入った刻売りの店は、小さな店だった。現在の刻売りは、法律などがあってどうやら正式な資格がないと自由に売り買いすることが出来ないのだが、こと最近においてはどうやら違法な店が出回り始めたせいか。規制は強まるばかりである。
「ところで最近のニュース見ましたか。色々なところで動物の刻目当ての殺人が起きてるの」
「あああ、最近この街の界隈で起きているとかいう事件ですか」
最近起きている事件とは、動物を殺して、その生命が尽きるまでの時間を商品として売りとばすことを目的としたもので、其れは人生や、動物の進化の過程をそのまま奪ってしまう可能性があるものである。
エルトが今購入した時間はほぼ無限といってもいい生命の源である宇宙の闇の中から、少しばかりの時間を商品として売りさばいているもので、これと言って他者にたいする犯罪行為などにならない。いわゆる合法的に売買されている時間であり、この売りさばかれている最小の単位が一刻ということになる。この闇の刻については購入した人でないと使用法や、どういった効果があるかは分からなかった。
でも動物の時間を買うことはそれとは違っていた。例えばどこかの熱帯雨林にいるようなジャガーやサルの刻を買うとする。この刻は食べ物に例えると生物と同じで、その生物の生命を奪い取ってから時間を抽出するもので。だから少し自分の目や、耳、鼻といった感覚器官をその生物の発達過程や進化段階の経験地を購入者に対して追加することが出来るのである。そうすることで人間が猫並みの瞬発力を持ったり、犬のような聴力を持ったりすることが出来た。中には最近可愛いからと、猫耳なんかをつけたりしている人がいるが、エルトはあまりその手の人体改造はしたくなかった。それに法律では動物同士の時間の混合は許可されているが、人間にたいする刻を伴う能力値は外見だけに限られていた。
「最近じゃ、とくに猫なんかが人気みたいだし。中には犬の尻尾とかつけたりする人がいるみたいですね。DNA配列を変えた人工的な生命精製は違法ですし。時間を少しばかり買えば、アクセサリー感覚で自分の好きな部分をつけたり出来るんだから。私もやってみようかなあ。とか思っちゃったりしますね。ほら、ペルシャ猫の耳とか可愛いい。とか思いませんか」
店員はエルトに対してどうかなあ。という風に笑ってみてから、両手で耳を作ってひょこひょこと動かした。
「似合うかもしれませんね。それにその服装ともあうと思いますよ」
彼女は少し悩むしぐさをしてから、でもこの安い自給ではね。といった。
「自給のわりに結構バイトの内容としては責任が重いものなんですが、それでも楽だからやってるんですけどもね…。うんん。少し猫の刻については考えてみよう…」
エルトと店員は話しながら、ランタンの小さな灯りに照らされた店内の廊下を歩いて、やがて「管理は厳重に! 空けたら閉めること」 と書かれた扉へと突き当たった。
- Re: ヒストリエ ラスト ナイト2 ( No.15 )
- 日時: 2009/11/17 19:08
- 名前: nothing (ID: 0W9rRz2p)
13
パン。パン。タン。
どこかで乾いた音がした。それは明らかに銃声だった。
離れた場所の銃声も、こう静かだと透明感をもった音に聞こえる。
エルトは冷静にその音に対して反応した。確かな自身の判断力に裏付けられた行動を起こした。それは動かないという行動だった。
ここにはトキが眠っている。狩人は第一に自分の身を省みなくてはならない。それは自己が傷付いてしまっては他者の身を守ることが出来ないからだ。それは規則や法則というよりも、経験というよりも常識だった。
「うふふふ」
トキは今ここで眠っている。それは素敵な寝顔だ。その寝顔も今では危険な様相に曝されている。
「今銃声がしたわよね」
マスターがトキの部屋に来た。彼女はその時脇に銃をつり。そして許可を持つもののみが使用可能なライフルを持っていた。基も他人なるべく迷惑をかけないようにとスコープがついたものだが。
「多分、そんなに遠くではないと思います。それに先ほど店にいた男が窓から見えるところにたっていました」
「それじゃさっきの男が? 」
「それははっきりとはいえませんが…」
「そうだとしても今日は早く店を閉めたほうがいいわね」
「屋内は基本的に鍵を閉めてしまえば安全ですから」
「それじゃここお願いね。まったくいい顔して」
マスターはそういうと、店の弊店準備をするといって、部屋を降りていった。部屋の中は先ほどとは違って静かだ。
エルトは銃をホルダーから抜くと、弾倉の中身を確認し始めた。
くるくると回るその小さな穴の中に、小さな弾丸が詰め込まれていることを確認すると、エルトはそれを片手を返すようにして弾倉をもとの状態にした。それから彼はラフを翳してから、いざというときのために、その時計の一を指す針を見た。
之だけで、大丈夫だろうか?
彼は相手の銃弾がいつの間にか自分と、トキの胸元へと打ち込まれている様を見た。其れは多分、何かを思う間も無くその標的を貫通して、壁へと届くほどの侠気をもっている。胸元に大きな穴が空き。少しばかりの体の痙攣とともに意識も無く消えていく人。それは多分今の状況がそうしたものではないかと思われたからだった
「もういいわよ。今日はここに止まる? 」
マスターが部屋へとやってくると、彼女はすぐにドアの鍵を閉めた。それから部屋の中にあるソファーへと座ると、銃を置いてた。
「今日はここに止まります。でも…」
「大丈夫、今日は私もここにいるから、それともお邪魔かしら」
マスターはそういって笑った。それは少し何か含み笑いのような少し大人の笑みだった。
「いえ、お願いします」
「こちらこそ、お願いね」
マスターはとてもうれしそうにそうだ。それからの時間はとても静かな時間が過ぎた。マスターはソファーで明日の晩御飯の思案をしながら本を読んでいた。エルトは窓の外をちらちらと見ながら、トキをホンの少し見て、それからなんと無く銃を眺めた。
「トキとは一刻堂であったの? 」
マスターは本から少し目を離してからそういった。
そうですけども。と、エルトは答えた。
「そう、それはいいことだわ。だってあなたはこの子に会えたのだから。それはとてもいいことだわ」
うふふ。
「それはそうでしょうが、どうしてそんなに笑うんですか」
だって。と彼女は、トキを少し見た。
「トキは本当に無防備なんだもの、だからここに一人で来たときも、私はすごく心配したのよ。だってお酒たくさんのむから」
「ここって、店ですか?」
「そう、店にね。それでなんだか寝込んじゃってね。ここで寝られたら困るから。空き部屋だったここに運んだの」
それで、と、エルトは言い。マスターはそれでね。と続けた。
「彼女が目を覚ましたときは多分こんな夜だったと思うけども、まだほろ酔いだったかな。ここは、何処? なんて聞いてくるの」
マスターは思い出しても笑えるわ。といった。
「お酒をのんでここは何処って? そういうの冗談だとばかり思ってたけども。案外あるのね。それからなんだか分からないうちにここに住み着くようになったの。私も別に奥の部屋に住んでるし。だから別にいいかな。みたいな感じでね。今じゃこの店の常連で、それにファミリーみたいな感じかな」
エルトはトキを見た。それから銃の紋章に納得してコーヒをすする。・
「少し寝ますね」
「ええ、いいわよ」
エルトはトキを見てから、マスターが座っている向かいのソファーへと少し横になった。マスターは其れを見てから、又本へと目を落とした。多分、エルトは少し安心したのだ。マスターのライフルは何故かトキの猫の槍に見えた。案外銃そのものが持ち主の運命へと誘うのかも知れない。彼はそう思いながら少しばかりの眠りへと落ちて言った。彼のホルダーに納められた銃のグリップには、剣と弓、それに知識と地を現す枝がかたどられている。
エルトが目をさました時、マスターはソファーに寄りかかるようにしてウトウトと眠っていた。まだ夜は明けていないようだ、少しぼやけたような眠り眼で時刻を確認すると、今は朝の三時を回ったところだった。店を出てここに付いたときはまだ、10時ごろだったが、それから警戒態勢でいた時間が長かった。すこしばかり眠るのが長かったようだ。
「おきたの? 」
マスターはエルトが目を覚ましたのに気がついたのか、彼と同じように眠そうな目をしている。
- Re: ヒストリエ ラスト ナイト2 ( No.16 )
- 日時: 2009/11/17 19:26
- 名前: nothing (ID: 0W9rRz2p)
- 参照: http://blogs.yahoo.co.jp/fool_side_60/folder/460325.html?m=lc&p=2
14
「もう、大丈夫かしら。特に変わったことはおこらなかったけども」
「まだ、少し様子を見たほうがいいと思います。でも屋内は安全ですから」
そう。と、マスターは言って、何か疲れが取れるものを作るわとキッチンへと向った。
「コーヒーでいいかしら」
エルトは彼女が炊事場へと向うと、窓から男がいた場所を見た。誰もあたりにいないことを確認し、少し遠くの町並みを眺めてみる。二階の窓からは住宅街らしく、至るお所に町を形作る家が見える。その少し上を掠めるようにして少し蒼い夜が広がる。
「コーヒーできたよ」
「すみませんね」
マスターはエルトにコーヒーを渡すと、ソファーに座ってコーヒーを片手にため息をついた。
「この辺りは住居区だっていうのに、物騒になったものだわ。この前もなんだかいざこざが起きて、決闘騒ぎがおきたの。近隣の人が朝起きて森のほうへ行ってみたら、男が一人倒れてたって」
「狩人どうしの腕試しが理由でしたね」
「そう、でも本当は相手を殺すことが目的だったみたい。相手は通常弾で、殺した側はブリットを使用してたらしの。その男はもう逮捕されたみたいだけども。愛人がたまたまその死んだ男が犯人を追い詰める途中に巻き込まれて死んだ。それが動機だったらしいわ」
彼女がそう言ったとき、眠っていたトキが気だるそうに目を覚ました。
「…何してるんですか」
マスターは笑ってこう言った。
「悪いことって、意外とつづいてくものだな。って話してたの」
「…う? 」
「あまり笑えない話よ。でもあなたを見てるとなんだか笑えてくる」
「私の余りに酒を飲みすぎたという…のことですか」
「そういうことにしておきましょう」
そうですね。
トキは何? 何? と聞いていたが。マスターは結局そのことについては余り話さなかった。
夜が明けて外に出てみると、これと言って異常はなかった。彼はもう安全だと確認すると、トキの部屋に行って、そろそろ一度事務所へ行くことにした。
「マスター、私は事務所に行くのでそろそろお暇しますよ」
「わかったわ。トキはまた頭が痛いとかいって寝こんじゃったから。私もまだお店開くまでは時間があるしね。なんならモーニングセット食べてく? 」
それはいいですね。とエルトは言いかけたが、今は昨夜のことが気になっていて、情報がほしかった。だからエルトは情報入手を優先した。
そう、それじゃ気をつけてね。なんなら今日もこの子、一刻堂にいるから。よってみてね。と、いった。
「それじゃ」
ここは自然すぎる。彼はそう思った。どこにも違和感が感じられないほどの均衡が保たれている。何故か夜おきた発砲音も、黒尽くめの男のことも、朝の霧がかかった町の風景にはどうでもいいことのように思えてしまう。
人が少しずつ動き始めた。それはまずは新聞屋で、次に夜勤帰りの公営刻市場の人間と思われる人間。それに道端の野良猫が家の窓枠の下で、あくびをしながら上の空。
それぞれが今日を生きている。それでも誰かがその時間を奪い。また其れを守る立場であり続ける。なんともここは矛盾のない世界だ。彼は歩きながらそう思いつつも、塔のほうへと歩いていく。すれ違う人もまだ少ないが。高かくそびえる塔だけはよく見えていた。
「おはよう。エルト」
「おはよう。ダクト」
「なんだ、お前朝帰りか? 全くすみにおけねえやつだな」
そういうのではないよ。エルトは少し嫌そうな顔をした。
「かくすなよ。別に悪いことじゃないさ。俺だって出来ればそういうことを望んでるんだ。とやかく俺がなにか人の情事に口をはさみゃしないさ。もともそのお相手にもよるけどな」
「そういうのではないよ」
ダクトは分かってるよと言って朝から盛大に笑った。お加減で寝ぼけ眼の猫ににらまれてしまった。
猫も之で少しはぐうたらが直るさ。彼はそう言った。
ダクトはエルトと同じ狩人だった。彼は塔一帯。つまりルストバルフ一体を担当している狩人だった。つまりエルトとは同業者であり、おなじチームの人間だった。それに彼はどことなく包容力があった。
「朝からそういう話はよしたほうがいいかな。エルト」
「今はそういう気分だよ。もっとも湖からの霧は水が澄んでいるから。気分がいいよ。だから昨日の酒ももういい加減に冷めた。ちょうどいい」
そいつはいいな。彼は少し振るめかしたツナギの上に古るめかしたジャケット着ていた。その上には9ミリ弾をしようする大型拳銃と、それに回転式15発のライフルを持っていた。
「昨日の発砲音かい? 」
エルトはそう聞いた。
「ああ、昨日ここいらで発砲があってね。しかもどうやら家の壁に銃跡がついてたのさ。例の連続事件の容疑者じゃないかって噂でね。だからわざわざ之を持ってきた」
エルトはダクトがそう話して、お前の仕業じゃないのか。と笑った。
「何を言ってるんだ。俺が酔っ払って打ったのは湖にだけさ」
「それは、そうだけど。あまり装弾数が多い奴は持ち歩くなよ。それじゃまるで」
「まるで、悪役だろ。分かってるよ。俺はいつでもヒールさ。だが根は優しい湖の街の番人さ」
「それはそうだ」
二人は笑った。
銃はいつだって正直だった。引き金を引けば弾は飛び、そして目標へと行き着く。それは外れてしまっても同じこと。いつでもそいつが狙ったところへと飛んでいく。だから弾丸は正直なやつだ。そんなことをエルトはダクトと話したことがある。
「ヒールはいつでも優しい。だから街では誰かを守らないと体裁がままならないのさ」
「其れは誰でも同じだけど。ダクトほど悪役を気どってるやつもいないさ」
「之が俺のアイデンティティーってやつだよ」
ダクトは笑った。それから肩にかけた銃を揺らして。空を見てつぶやいた。
之が出来れば誰でも何処かで生きていける。其れは人生に善悪が混沌としてるから。
「それはなにかな? 」
別に。
ダクトは、格好をつけてるだけだよ。と、言った。
エルトはそれからここ最近の事件について報告を聞いた。其れは、女性の死体や動物を狙って打たれた生物郡。まるで過去に繰り返された無意味な狩猟だ。何もない。目的など何もないかのような金とその生物の時間を目的に繰り返された歴史の奪い合い。其れがエルトにはとてつもなく悲しいことに思えた。
「ちなみに事件は夜中におきていて、それでいてブリットが使用されている。その使用方法がまた特殊でな、なんでも家屋の壁を貫いたらしい」
それは。と、エルト。
「つまり百年ほどの刻をとめた刻では葉が立たないほどの刻を使用した強力な弾がしようされてるのさ。戦場で使用するようなやつだよ。まったくよ」
「つまりは相当無茶な奴かい? 」
「正規のルートじゃないのは間違いない」
エルトは少し顔つきを変えて、銃とラフを確認した。それは昨夜の出来事が少し現実めいて思えた瞬間だった。
「しかし、あれだよ。間違いなく最近の奴は重装備なやつが多くなってるよ」
「其れは僕も思うよ」
「それでも、大して使用法は変わらないのが世の常。いやなご時勢さ」
ダクトは少し顔を歪めてそう言った。それでも自分はヒールで街を守る人間であることを自覚している一人であると感じているように。彼はそういう顔つきをしている。
「また何かあったら情報をくれ。其れでないと不安なんだ」
「ナイトはやっぱり姫を守るのでせいいっぱいだな」
「そういうのじゃないよ」
隠すなよ。と、ダクトは言った。其れは別に戯れにそういったのではなかった。それほどここ最近の犯人が凶悪化、あるいは装備が強力なことを意味していた。
それじゃ。
彼らはそう言いあって、お互いにそれぞれの任務へと向った。
エルトは取り合えずシャワーを浴びたかった。昨日は風呂へ入っていない。それでも体の汗と、服についたごわつきは感じずにはいられなかった。もっとも彼は汗をかくほどの動きはしていないが、それでも精神的な疲労を感じていた。
彼の歩く回りの景色は、もう一日が始まっていることを告げていた。
彼は事務所へと続く道を歩いた。
- Re: ヒストリエ ラスト ナイト2 ( No.17 )
- 日時: 2009/11/18 19:17
- 名前: nothing (ID: 0W9rRz2p)
15
それはレンガで、武器を扱う店が立ち並ぶストリートだった。最もディスプレイはない。防犯のことを考えてなのか。それとも人に武器を見せたくないのか。それは武器商人のかってだが、ほとんどがオーダーでつくられるものであるから其れは納得いくことだとエルトは思った。
「今日はいい天気だな、エルト」
「おはようございます。今日もいい天気ですね。ベスト」
「そうかな、やたら変な事件のせいで弾が売れてるんだけど。しかも実弾だ。ブリットだよ。世の中物騒なものだよ」
「僕も少しばかりの実弾は持ってますよ。最近の犯人ほどではありませんが」
それはお前も狙ってるのかい? と武器商人は言った。
「そういうのじゃないですよ」
でも出来高性だろ。狩人は。と、ベストは言った。
「最低賃金は保証されてますが、それはそうですね」
「まあ、余り気をはらんことだな。なんなら情報をやろうか」
「いえ、いいです。これから事務所へ行きますし」
彼は少し脇の銃を見た。銃の紋章はベストがつくったものだった。それは職人自らが注文主を見て感じたことをそのまま描くものだった。だからエルトはベストをよく知っていた。ベストは店の看板を外に出す途中だった。彼はレンガ造りの店舗で、このストリートでは最古だった。
看板なんて要らないさ。銃と向き合う魂と、感があればね。
彼は初めて会った時にそう言っていたけども、実際に彼は看板に何かこだわっていたわけではなかった。たまに出ていないときもあるほどだ。
「それじゃ、またメンテナンスにきなよ」
「ええ」
エルトは返事をすると、事務所へと向った。それに少しのパンを買って。
事務所へ付くと、彼は忙しくなり始めた空気を見渡した。電話が鳴っている。それにやたらタイプの音がする。そして部屋の片隅に置かれた定時連絡表をみた。
「やあ、エルト。昨日は諦めたのかい」
「朝から憎まれ口をいうなよ。ダクトみたいじゃないか」
「そういうなよ。君にチャンスをもたらす私は天使かも知れない」
情報管理担当のワットはそういった。彼は自称天使だといったけども。
「ワットさん、悪魔の間違いじゃないですか? 」
軽口をいうなよ、ミスト。と、ワットは言った。
「ミスト。さっそくだけども昨日の件を聞きたいんだ。ダクトに少し聞いたんだけども」
「最新のならそこに揚がってきてますよ」
そう。ありがとう。と言って彼は情報蘭をみた。
×・×・× 午後三時十六分 ノースエッジ住居区にて
午後一時十六分。二発の発砲音がする。被害は軽微。銃弾が壁を貫通しており、およそ銃弾に対してバースト時における時間をとめた刻を使用。また、弾丸の高速化を促している。入手ルートは湖岸東の武器承認レバート銃火器店より。また、其れを入手する上での経由上の間に行われた闇取引である。
二日前のイーストアイスでの殺人事件と同様の弾丸がしようされており、その時点で強奪されたものと思われる。目的は殺人か、家屋に対する侵入及び殺人と思われる。
エルトは次に二日前の事件についての報告書を見た。
「二日前の事件でその弾丸は強奪されました。レバート銃火器店からそのタイプの弾丸と刻を所持していた人間が殺害され、商品の輸送時にやられたみたいで。ちなみに今日使用されたのは、バースト系ですが、これについては内部で爆発するタイプではなく、弾着時に爆発するタイプだそうです」
ミストはぺらぺらとそうしゃべった。
「ようするに、強盗だな。最近の連続半とは少し違うらしい。」
ワットはもっとも外見は。と、言った。
「屋内への侵入を目的にしているとも見られますよ。殺人を犯してますから。どちらでも同じですが」
「五人か? なんとも言えないな、最初は自前のブリット。その次が奪取した刻と弾丸。しかもラフが被害者から奪われている」
ミストは朝の食事を取る。いかがですか? と彼は言ったが、エルトは其れを受け付けなかった。
「換算しただけで多分ラフの刻量は90刻です。武器への使用を前提としたもので、そのうちバースト系の刻が10刻も入っています」
ミストは神妙な面持ちでパンを食べている。朝聞いた情報だけでも犯人の装備は通常の弾丸だけでは対応が難しいとエルトは思った。しかし、バースト系の弾丸についてはかなり前に使用したことがあるが、ちょっとした小型爆弾ほどの威力があるのでエルトは扱いにくいので使うことはめったに無かった。
「そういえばダクトもバースト系の弾丸を使用してたな。以前家屋に犯人が逃げ込んだときに」
ワットはそういって笑った。まるであいつのほうが強盗みたいだって、あとで犯人が行ってたらしい。
「結局、今のところ犯人がかなり危険な弾丸を所持してるのは精度の高い情報だから。各自で装備は整えてくれよ」
ミストがそう付け加えると、エルトは了解と言って武器庫へと向った。
武器庫には無数のライフルと、特殊な弾丸が保存されていた。基本的には弾は自費で使用した分だけ払えばよかった。最も狩人の場合は一般市民よりもいくらか格安だ。
彼はその無数の武器と弾丸の中から、バースト系の弾を三発と、ブリットに通常弾を手にとって、武器庫の管理をしているタラクのところへといった。
「之だけで」
そういうと、タラクは弾数を確認してから帳簿に数字を記した。
「あまり派手にやらんでくれよ。実は今日もダクトがお前さんとおなじようにバースト系の弾丸を何発かとっていったんだ」
「あいつには朝あったよ。まあ、犯人じゃないだけましだろ」
それはそうだが。
タラクは、迷惑そうな顔をした。自分が帳簿につけたものが盛大に家屋破壊などに使われることは余りいい気分ではないらしい。
「兎に角たのむよ」
「わかってるよ」
彼はそう返事をしたが、実際のところは相手次第だから、自分に言われてもなんともいえない。と、言った。
彼は基本的には余り多くの弾を撃ちつくすようなことは嫌いだったぁ。
一発ですめばそれで申し分はない、それですまないことが世の中にはたくさんある。だから考える余地もなく。次の瞬間には引き金を引いていた。
それがいまのところの現実だった。
「今日は少し休んでからまた来るよ」
「そうかい。それじゃもう家から巡回には直接出てくれ。あと今日の件のことも少し調査しといてよ」
ミストがそういった。
「分かった」
エルトは、事務所のドアを開けた、まだ朝の香りが漂っよっているが、道には既に走り始めた自動車がいる。
彼は銃と同じマークをつけた看板から少し離れると、取り合えずシャワーを浴びようと思った。それに、夕方には一刻堂に行くことにした。
あの妙な男がどうにも気がかりだった。それに目的はどうやら刻らしい。それは分かるが、昨日は何故壁にその銃痕を残したのだろうか。彼は深夜の男がどうにも気になっていた。
あとで、ダクトにも言っておこう。彼はそう思って取り合えず自分の住処へと戻った。
彼は夜の訪れとともに狩りへと出かけた。
彼は少ダクトに電話で連絡してた。妙な人間が昨日うろついているから。と。気がかりなことがあるから。
「それなら聞いたよ。でも案外服装はもう変えてるかもしれないな」
「なんだ、それじゃ大体の見当は付いてるのか」
「いやまだ分からないよ。でも刻を扱うところと、銃火器店は押さえてる。周りの人間にも伝えといた。多分新聞か、ニュースが流れてるよ」
「分かった」
と彼は言って、一応一刻堂という湖岸近くのファウシス地区のトキのところに行くといった。
- Re: ヒストリエ ラスト ナイト2 ( No.18 )
- 日時: 2009/11/19 17:49
- 名前: nothing (ID: 0W9rRz2p)
16
「あまり熱をあげるなよ」
「そういうのではないよ」
電話の向こうで少し皮肉めいた笑い声を聞いた。
まだ人が歩きまわっていた、昼間仕事をしていた人間もこの時間になるとどこからとも無く灯りが付いた外灯に誘われて家路を後にする。
バーなんかも空き始めるから、彼らは身内と飲み屋へ入ったりする。
彼は昨日と同じように、塔と街を見ながら、湖へと向う道を歩いた。そこには通りすがりに過ぎ去っていく人が昨日とは違って多く見られた。ここはのどかな街だ。それでも殺人は起きるし。盗みや強盗も起きる。黒覆をきた男がその一人であることは間違いなかった。それはエルトの感と洞察力だった。
人の動きに注意して行動する。これは職業柄、普段からそうしていたことだった。
皆が銃をつり。それが当たり前なのだから。決して危険な状況が起こらない限り其れを抜くことはなかった。
湖の近くまできた。エルトは少し湖面を見てみる。穏やかな波があった。それにいくらかの船も出ている。湖面には街の景色は映らないが、反射した光が揺れていた。
店にはいると、其れを告げる鈴の音が鳴った。トキは気づいたのか、彼女は、う? という感じでこちらを見た。
「エルトさんじゃないですか? 今日も来てくれたんですか」
「少し気になることがあるので、それに昨日約束しましたし」
トキは例のごとくまたあのお星様のような笑顔をエルトのほうへと向けた。それはどこかの高貴なお姫様よりも彼には優しく頬をなでるように気持ちを高ぶらせて、それで赤らめ顔にしてしまう。
「私は会いかわらず少ないお客のせいで退屈ですよ。だからとてもうれしいです」
「それは、こちらとしても嬉しいですが、うらやましいです」
「それって、嫌味ですか」
そうかな? て、エルトは笑みを漏らした。
「お茶入れますね。この前と同じ紅茶です」
「それはいい。紅茶は上手い」
「それは、エルトさん、甘いですよ。紅茶はもっと根本的に考えなきゃ、だって葉っぱはどれも葉っぱでも、形は違って味も違う。だから名前も違う。名前の違いには意図するところが何かしらあるんですよお。だから私たちはいつでも愛して病まないのです」
なんだか、どこかの本の受け売りみたいですよ。エルトはそう言った。
「ランタンはあいかわらず明るいですね」
「それは、きっといつものことですよ」
「いつも之が普通のことなのに、誰も気がつかないのは何故? 」
「どうしたんですか? いつにもましてなんだか…」
トキは何故か不安そうな表情を見せて、エルトは其れを見つめた。小さな台所に行ってお茶を汲んでいても、声だけは聞こえて。彼を何故か身に起こる警戒心を際立たせた。
「今日も夜に着たけども、私はそれがうれしい。だって約束どおりきてくれたから」
「それは別に普通のことだし」
それでもうれしい。だってこんな時間が私を包んでいてくれるから。彼女はそういった。だから、彼は其れを沈黙して聞いた。
「昨日はごめんなさい、あんなに迷惑かけて」
「別に気にしてませんよ」
「それはいけません。だって、私は一応ここの接客だし、それ抜きにしても私はエルトさんに謝るべきなんですよ」
そうかもしれない。でも今はそれどころじゃない。彼はそれを言葉に出来ないでいて、なのに彼女をみた。それは別に自然なことで、それは別段普通のことだ。それが分かるのは多分エルトぐらいだ。
「今日は、いつにもまして、壜の中の星が多いんですよ」
「それって悲しいことですか? 」
「かなしくはない。でも不思議と元気がでるんですよ」
「何故? 」
「それは…」
わからない。と、彼女は言った。だけども見てるだけで不思議と引き込まれるような感覚になるんですよ。
彼女の意図することなど、何処にもない。
「人が死ぬと星になるっていう話知ってますか? 」
ええ。と、エルトは言った。彼はそういって。コーヒーを飲んだ。
「人が死んでから星になるんだそうですよ。他にも星が流れると、人が死んだことを意味するとか。色々な伝説みたいなものがあります。でも私はその星を壜のなかを眺めて、考えてるんですよ」
「それはトキさんが、その星をみて悲しいという意味ですか 」
彼女はそういわれて、コーヒーカップを顔の辺りの持ち上げて、それでその蒸発する香りをたのしんだ。それで少しため息をついた。
「そういうのではないんですけども、なんだかその壜の受付約みたいなことをしてる自分が、心底小さく見えて、それでもここにはたくさんのものがあるんだ。そう思うとそれが私に元気をくれるような気がして」
エルトは余りそれを聞いてもわからなかった。別に彼女の気持がわからなかったわけではなかった。あの場所へ行く時の感覚。聞いただけでもそれは気分の悪い話だった。対照壜のある部屋はなぜか人を落ち着かせる。
「小さきは、悲しいこと。されどもそれは悲しみを超えた喜びへの宴。酌み交わすは無限の星の涙。刻一滴。それが悲しみの川にながれ、喜びの海へと続く。さあ、皆。喜びを分かち合おう」
「それは? 」
「本の受け売りですよ。関係ないものですけども、この本をさっきまで読んでたんです」
「ここでは読むことが時間を忘れる手段なんですね」
暇だけはもてあましてますから。そう言って彼女は笑った。そのれでコーヒーの香りもこちらに漂った。あまい香りだった。
その後のことだった。
急に何かがはじけ飛んだ音がした。
ドアが消し飛んだ。入り口のほう。
余りの驚異に体を屈めて、床に倒れこんだ。
「入り口」
入り口を見た。ドアがない。そう思うと男が少し離れたところにたって、こちらを見ていた。
あの男だ。
エルトがそう思ったときには男はこちらへと銃を構えていた。
パン。パン。ドン。
三発立て続けに銃声がした。すぐに上にを弾丸が掠めていく。後ろの壁には砕ける乾いた音が立つ。
腕をみると弾が服を掠めて、破れている。
トキを見た。彼女はすぐ近くに倒れている。意識はある。心底恐ろしそうにこちらを見ている。それは男によりも、エルトへと向けられていた。
「トキさん。ここは」
「………」
声に出ない彼女を立たせて、それから地下へ逃げるように走り出す。
後ろを振り向くと、男が時計に手をかけて、それから又発砲する。
意識することなく、ラフが反応したのか。一瞬弾が遅く見えた。いや、其れよりも盾が僕らを守った。
弾が床に落ちて、その弾がブリットだと気づいた時、彼は彼女に支持を出していた。
地下への道を。早く。
彼女は方針状態に近い。それでもエルトにはたかれて、それでどうにか指示どおりのことを行なおうとしている。
男はこちらを見て、弾丸をこめている。エルトはすぐに反撃した。片面撃ちだった。連続して男に銃弾を浴びせる。狙いは正確だ。
男はそれでも倒れはしなかった。なんだよ? そう言いたげにこちらに来る。
消えないでくれよ。頼むから。
「あきました! 」
ドアが開いて地下への道が開けている。暗闇の底へとエルトは向う。そして彼は銃弾を総て男に打ち込みながらそこへと後退した。そうしてドアが閉まると。少しばかりの沈黙が二人を包んだ。
沈黙がそこを包んだ。あるのはブレスレットの蒼い、小さな光。
「大丈夫ですか? 」
エルトが彼女を見ると、彼女は胸を押さえて、苦しそうに動機を抑えておいた。激しい呼吸。
エルトは急いで彼女の肩を掴んで、少しばかり力を入れた。そうすると彼女は少ししんどそうに、急に前のめりに急いで呼吸をした。
「取り合えず今は安心できます」
彼女は呼吸をして、苦しそうだったが。少し時間がたってから、落ち着いてきた。
- Re: ヒストリエ ラスト ナイト2 ( No.19 )
- 日時: 2009/12/10 21:29
- 名前: nothing (ID: 0W9rRz2p)
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「…危ないところでした。もう少しで、こちらにスピードを出してくるとこところでした」
「……、なんですか。あれ。これはなんですか? 」
「…」
「こんなの、初めてで、だから私わからないです」
エルトはそれを見て、彼女がそういっていることが本当に想像できなくらいのことで、だれもでも初めてなら恐怖すると思った。だから鼓動が少しばかり高まる。
「ドアが、飛んで、それから何か銃弾が飛んできて、何も聞こえませんでしたよ。なのに、それが」
「落ち着いて、ここでは余り話してる場合ではないですけども、多分あれはここ最近の事件の根源です。だから今危険です。だからきいたことに答えてください」
トキはええ、と、頷いた。
「ここの建物の刻使用数は? 」
「200年です」
彼女はそういった。
「そうだとすると、ここは危険です。あの弾は異常です。早くドアから離れましょう。回りの住人ももう気づいてますよ。だから早く」
トキは、ゆっくりと地下への道を歩き出した。そのあとにすぐにドアの向こうで爆発した音がした。いや、多分衝突音といったほうがいいだろうか。
彼女は少しビクついたが、シンガリのエルトが早く、と、言いながら弾丸をこめているのを見てまた階段を折り始めた。
階段を降りていると、後ろで聞こえないはずの爆発音が聞こえた。それはかなりの精度で、連射しているようで、壁を破壊する音。其れはドアを貫き、彼女を殺すと予想される悪意をまとった焔。
彼は急いで弾倉に弾を詰め込んだ、それはブリットだった。それに6発のうち、二発は特殊弾だった。
「ここは、落ち着きます」
トキは、そう言ってからこちらを振り返り、それから、銃をホルダーから抜いた。口径は小さいし、威力も無いけども、彼女なりの身を守るための覚悟を決めた瞬間だった。
「それなりに私も銃を扱えるぐらいは出来ます」
「其れならば、大丈夫ですよ。こちらにもそれなりの装備はしてますから。でも出来れば身の安全だけは守ってください」
分かりました。彼女はそう言った。
之が私を守ってくれるだろう。そして私はその矛先の命を消すための武器にしてしまうのだ。
「一応わたしときます」
彼は、ブリットを私に渡した。彼に手渡された銃弾のなんと重たいことだろう。それは彼女にとってはかけがえのないものを奪う悲しみだった。
「もしも…」
「もしも? 」
彼女は、そのあと何も言わないで頭の中で問いかけていた。
もしも之が私にとって何かしらの意味で快感になってしまったらそうしようかと。
それは古来からの人が感じていた本能みたいなものだった。でも、もしも私がそうなってしまったらどうしようかと、彼女はそう感じていた。其れがけして人間が身に着けてはならないもので、そして忘れることが出来ないものだとわかっていても、それは人間がどうにかして忘れようとしてきたものであることを 彼女は決して自分の身の上におきたことをきっかけにしてしまわないように、と。
「心の中で文字が躍る、それは感情ということばの根源。それは震えるような鼓動に誘われて、人は何かを伝えるために言葉を発した」
「それは何ですか? 」
「何となく、こんな争いにならなきゃいけないまで言い合いをしてたんだろうな。とか感じちゃって、でも実はそれは逆なんだな。と、思うんですよ」
「それは、どういう意味ですか? 」
エルトは銃に弾を詰め込んで。それからシリンダーのまだ冷たさに少し冷静さを取り戻してからそう言った。
彼女はそして彼の落ち着きと、同じように冷たい鉄の塊のシリンダーを触って、こういった。俯き加減にだ。
「結局争いをしたくないとか思ってるから、人は言葉を手に入れた。そうなんと無く思っちゃって…」
エルトは其れを黙って聞いていたが、背後で大きな爆発音がしたのを聞いて、また次の扉へと急ぐように、トキをみていった。
「その話は後にしましょう」
二人はそういって、銃を握り締めて、そして地下への灰色の宇宙へと続く間へ入った。
ブレスレットが光って、それでトキの表情が強張っているのを抑えるように笑みを浮かべているのが分かった。
背後にはもう男が自分達以外とも打ち合いをしている乾いた音がしている。
「音は段々遠ざかるけど」
音が遠ざかるのは、ただの銃声がどこか遠くへと消えるだけなのか、それでも地下のこの部屋へは響音がこだまして、二人に危険が迫るのが分かる。
構えた先には唯の扉で、其れはいつにもまして静か。
トキは静かだと言った。彼女はここはいつでも静かだけども、胸のうちでは焦燥がこげついて、今に涙をこぼしそうだった。
「こんなときは、兎に角銃を相手に向けてしまうことだけが総てです」
「それは、安心できますか? 」
「それは安心というよりも、身の危険を守るための呪いのようなものです」
それは、相手にたして?
彼女はそういった。
いえ、それは…。
「よく分かりません。特に考えたことはないですから、でも、どちらともいえますね」
私は…。
それは、沈黙が破裂音と一緒になって、ただの衝撃になった瞬間だった。
扉が木の葉のように消し飛んだ。
二人はある程度はなれた位置から、扉のサイドへと位置していたから、特にその影響は無かったけども、それでも少しの粉埃ぐらいは身に降りかかってきて、彼女は目を少しつぶってしまった。もう少しぐらい掃除しておけばよかった。そうトキは思った。
何故か落ち着いていた。それなのに周りはいつにもまして火の粉に溢れていて、だから心の中のことがなおさら周りの風景に感じられた。
火の粉が綺麗だ。
木片が一瞬まったのが余りにも綺麗で、トキはそれに一瞬目を奪われた。
どこかで…。
そう思う付くまもなく、銃弾が飛んできて、トキとエルトを掠めるように過ぎ去っていく。それはかなりの意味で現実感の無い光景だった。部屋の中には赤い光があるのに、まるでその光と同じくらいの火の粉がまっている。しかもブリツトは自分たちを目指して飛んできて、盛大に破裂音を起こす。壜にはあたらなったけども、壁が少し崩れた。ここだけは絶対に崩壊などしないのに。
「少し離れて」
トキはそういわれたが、銃を構えて、階段の先へと向けた。
発砲音が立て続けに鳴り響き、何処が何処を狙っているのかがある程度分かる、エルトは上からもあの黒ずくめの男を撃ちつけているのが分かった。そしてこちらへと銃弾が放たれたとおもった瞬間だった。
銃弾が自分達を掠めて、後の壁に当たったのが分かった瞬間だった。
ふと、背後に気配を感じた。
後ろを見た。
男がそこに立っていて、銃が見えた。
トキはよく分からないけども後ろを見た。
「……」
言葉が出ないが、こちらに照準がむいている。
それはたしかで、逃げようも無いから、だから諦めるしかなかった。
人差し指に力が入る。それは相手がゆっくりと指を引き絞る動作だ。
彼女に覆いかぶさるように、盾になった。それでどうにかなると思った。どうにか反応さえしてくれればと。
しかし、もう遅い。
瞬間的に、男の体がぐらついた。だから銃も上を浮いて、
そのまま、斜め上を貫く。それは空気を貫いて。蛍光が見えた。一瞬のできごと。
男は次には、また体がぐらついて、今度は体が浮いて、服が小刻みに震えた。風が吹いたわけでもないのに。
それはどこかの銃弾が、かれを貫いたものだった。
それは彼が倒れた瞬間だった。
それは彼が貼り付けられた瞬間だった。
それは彼の限り有る命が消える瞬間のように思えた。
何も言うことはなかった。
ただ、人が倒れただけ。それだけだ。
多分三発目は、外れて、次の弾は反応とともに、彼のそばで止まって落ちた。
転がった弾丸は、限りなく無常観を漂わせて、かれの側で音を立てることもなく落ちた。
黒ずくめの男はうめき声など上げなかった。それはただ鎮静化を意味する最後の出来事だ。
エルトは彼女に覆いかぶさるようにしていたが、ことの終わりを見届けて、彼は静けさに胸を打たれた。それは誰かが血を流した瞬間だった。
男は咳をして地をはいずることもなく。血を流した。
「もう、終わりました」
エルトがそういうと、トキはゆっくりと後ろを振り返った。そこにはただ、傷ついたものがいた。
そこには銃弾に倒れた彼というものがいた。
「何故、こんなことに? どうしてこの人は… 」
「其れは、本人しか知りませんよ」
意識あるものは、常に意味有る行動しかしない。でも、それは間違いなのだろうか?
「光降る夜には、どうしようもなく、狩りがしたくなる…」
男は掠れた声でそう言った。
それは何故。彼女は心の中で質問した。声には顕わせなかった。
「きっと星が寂しがってるからさ」
「それは、まだ間に合う」
「どちらでも同じことさ」
死ぬのが怖くない? 彼女はそう、やっと言葉に出来た。それはただ何もいえないでいることよりも、勇気がいることだったのかもしれない。
「怪我はないか? 」
ライフルを持ったダクトが、破られたドアがあった暗い階段からランタンを持って現れて、二人を見てそういった。
「ああ…」
エルトはただ阿吽の呼吸で、彼はそれからまた倒れた男に目を落とした。
「だからいったろ、ヒールは必要だって…」
「今度からライフルを持つようにするよ」
「それが、いい、こんなことがあるのが分かってるのなら、なおさらだ。それに之を見ちゃ必要だろ」
彼はそういって少し笑った。彼はそれがいつものことで、当たり前のことのように言った。
「まだ、生きてるよ、送還して今日のところはおしまいさ、狙いが外れたよ」
其れは運がいい。とエルトはいった。ダクトも運がいいかもな。と返事をした。
運がいいのは彼女も同じだろう。それは今相手がたまたま銃弾を受けて倒れているから、そういえることだ。
トキは何も言わなかった。彼女は特に何もせず、それから動くことも出来なかった。
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