ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- ヒストリエ ラスト ナイト2
- 日時: 2009/11/02 18:16
- 名前: nothing (ID: 0W9rRz2p)
どうかしましたか?」
「いえ、私の自給は500タムなんですが。どうもお客様が余り来ないときは本当に長い時間に感じられまして。なんというか暇なんですね。この暇な時間がなんと私の自給の四倍で売れるなんて。バイトしてるのもアホらしくなって…」
彼女は世の中はなんと無常なのか。と小さく不平を漏らし。それではと言って立ち上がって手続きをする場所へとエルトを案内し始めた。エルトが入った刻売りの店は、小さな店だった。現在の刻売りは、法律などがあってどうやら正式な資格がないと自由に売り買いすることが出来ないのだが、こと最近においてはどうやら違法な店が出回り始めたせいか。規制は強まるばかりである。
「ところで最近のニュース見ましたか。色々なところで動物の刻目当ての殺人が起きてるの」
「あああ、最近この街の界隈で起きているとかいう事件ですか」
最近起きている事件とは、動物を殺して、その生命が尽きるまでの時間を商品として売りとばすことを目的としたもので、其れは人生や、動物の進化の過程をそのまま奪ってしまう可能性があるものである。
エルトが今購入した時間はほぼ無限といってもいい生命の源である宇宙の闇の中から、少しばかりの時間を商品として売りさばいているもので、これと言って他者にたいする犯罪行為などにならない。いわゆる合法的に売買されている時間であり、この売りさばかれている最小の単位が一刻ということになる。この闇の刻については購入した人でないと使用法や、どういった効果があるかは分からなかった。
でも動物の時間を買うことはそれとは違っていた。例えばどこかの熱帯雨林にいるようなジャガーやサルの刻を買うとする。この刻は食べ物に例えると生物と同じで、その生物の生命を奪い取ってから時間を抽出するもので。だから少し自分の目や、耳、鼻といった感覚器官をその生物の発達過程や進化段階の経験地を購入者に対して追加することが出来るのである。そうすることで人間が猫並みの瞬発力を持ったり、犬のような聴力を持ったりすることが出来た。中には最近可愛いからと、猫耳なんかをつけたりしている人がいるが、エルトはあまりその手の人体改造はしたくなかった。それに法律では動物同士の時間の混合は許可されているが、人間にたいする刻を伴う能力値は外見だけに限られていた。
「最近じゃ、とくに猫なんかが人気みたいだし。中には犬の尻尾とかつけたりする人がいるみたいですね。DNA配列を変えた人工的な生命精製は違法ですし。時間を少しばかり買えば、アクセサリー感覚で自分の好きな部分をつけたり出来るんだから。私もやってみようかなあ。とか思っちゃったりしますね。ほら、ペルシャ猫の耳とか可愛いい。とか思いませんか」
店員はエルトに対してどうかなあ。という風に笑ってみてから、両手で耳を作ってひょこひょこと動かした。
「似合うかもしれませんね。それにその服装ともあうと思いますよ」
彼女は少し悩むしぐさをしてから、でもこの安い自給ではね。といった。
「自給のわりに結構バイトの内容としては責任が重いものなんですが、それでも楽だからやってるんですけどもね…。うんん。少し猫の刻については考えてみよう…」
エルトと店員は話しながら、ランタンの小さな灯りに照らされた店内の廊下を歩いて、やがて「管理は厳重に! 空けたら閉めること」 と書かれた扉へと突き当たった。
- Re: ヒストリエ ラスト ナイト ( No.10 )
- 日時: 2009/11/06 18:28
- 名前: nothing (ID: 0W9rRz2p)
8
「それでは、そろそろ手続きに入りますよ。まずは、お客さんのラフを見せてください」
エルトは、自分の刻を携帯して使用できるラフと呼ばれる時計をポケットから出した。彼のそれは、いたってシンプルな腕時計だった。そして時を動かす機械仕掛けの中身が見えるようになっている。それに時計のタイムテーブルは通常時間を指すものと、止まったままの小さなものの二つがついていた。
「なるほど、之がお客さんのラフですね。よし」
トキはそう言うと、エルトのラフを手にとり。ちょっと借りますよ。と、言ってから、そのラフを蒼い光で照らされた壜の横にある大きな置時計の小窓を開けて、その中に静かに収めた。そういえば、最初に入ってきたときにはこの置時計に気づいていなかった。そして彼女を見た。
「どうしました、この置時計が気になりますか? 大抵のお客さんはこの置時計よりも、壜のほうへ目がいっちゃうんですよ」
「いえ、すこし違うのですが」
エルトは、少し照れくさそうに頭をかいた。
エルトのそんなしぐさを気にもせず、彼女はその時計の羅針盤の上にある小さなくぼみにブレスレットのエンブレムを取り外して、そこに嵌めた。それからエルトのラフと同じつくりである羅針盤の中にある、通常時間とは違う、小さなタイムテーブルの針を一刻にセットした。
「それでは始めます。少し、離れて見ててください。とってもキレイですから」
ラ ヒストリ エデンズ コスモ
光が包んだ。いや、正確には今までとは違う闇が包んだ。それは、一瞬にして体が宇宙へとダイブしたような感覚だった。
エルトはその時浮遊感を感じた。あまりの浮遊感に、目眩がした。部屋の中は先ほどの蒼い闇とは違う。灰色の宇宙。彼はそう思った。赤いガス雲の中には星がきらめき、一方では青い闇が広がっている。ここは何処なんだろう。
トキはその宇宙の中にエルトと少し離れた位置に立って、羅針盤を見つめている。小さな時計の秒針は遅くもないけども、早くも無い時間をかけてぐるりと回った。
そして、その秒針がとまると、部屋の中の闇は壜の中に吸い込まれるように消え、辺りは静かになった。
「これで、完了です。それよりもどうです。すごいもんでしょ」
「ええ、いつ見ても不思議な感覚です」
「そうでしょ。このバイトも暇な時間が多いんですが、これがあるからまだやってられるというか」
トキは、エルトのラフを、置時計から取り外してから、はい。と言ってエルトに手渡した。そして彼女はエルトさんよく私よりも知ってるじゃないですか。といった。
「ええ、まあ。このラフの刻時計が零時を指したときに使用が不可能になります」
「なるほど、そしてこの刻というのは、自分がしようするさいには、この横の調整装置を動かしてから、使用するだけの刻をしようするんですね。って、私の立場がないですよ」
トキは、そう、言って苦笑した。それからラフの持ち主が発作的に時間が必要だと思ったときには自動的にしようされるということもあるそうですよ。と、言った。
「発作的というのは?」
トキは少し悩んでいたが、それは本人が何か不安を感じたり、死の危険に曝されたときなんかに勝手に刻が時間を与えてくれるそうなんです。と、言った。
エルトは、ラフを腕に装着してから刻時計を見てみた。確かに小さな羅針盤は一。と描いた数字を秒針が刺して止まっている。そのくせに現在時刻をさす張りは淡々と動き続けている。その秒針は一々、少しづつ間を空けて、少しづつ時を刻んでいく。光はきっと太陽から届けられているのだろが、その光を遮るのはこの世界の変化。だから、どうあがいてみても、この時間の進む先だけはかえることは出来ない。それなのに刻みたいなものを扱う技術が出来てしまったばかりに、時間の量や、相対的なスピード。それに人の動きまで支配してしまう。ただの時計に見える小さな腕につけたものが、生命の危機を救うほどの力を持っている。そう、ただの針が動くだけの、小さなこの時計がだ。
- Re: ヒストリエ ラスト ナイト ( No.11 )
- 日時: 2009/11/08 18:31
- 名前: nothing (ID: 0W9rRz2p)
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エルトは少し、この技術について感慨に浸ってしまった。なぜならばこの機械であって、万物に平等に分け与えられるものが、人の手で自由に操れるということの意味の重さを知ってしまったから。その意味を知ったとき。たとえ基には戻れずに、時間を少し光の使者に反して、その光の量や、速度を変えてしまうことが、自分に少し責任をもたせてしまった。と、そう思ったのだ。そう思っている彼の目はただその時計の羅針盤を見つめていた。
「それじゃ、戻りましょうか」
目を彼女に向けると、また偉大な使者とは別の、星のような笑顔がそこにあって、エルトは少しホッとした。
トキの後を付いて事務所のほうへと戻る。その間また、ランタンの光が二人をつつんだのだけども、それはまた、少し行きの光から感じられるものとは別のものだった。
もう、出口に出ますから、それに私ももうお店のほうを占めて退社しますから。
「夜一人で家に帰るんですか?」
「ええ、この事務所へはいつも私がこの店を閉めて帰るんですよ。ここ店長が殆ど不在なんですよ。なんでもザウスなので、どこかで裁判でもやってると思うんですけど」
「それじゃ、ここはバイトで回ってるんですか?」
「お恥ずかしながら」
二人して階段を上がっていく。ランタンを先頭にして暗がりの中を歩いていく。それはどこか少しレトロな雰囲気をかもし出している。ここそのものが懐かしさを人に感じさせる場所なのかもしれない。
二人は事務所に戻ると、それからトキはちょっと待ってください。といって、事務所の奥へと引っ込むと、少ししてからカップに入った紅茶を持ってきた。
「ちょっとしたところで買った私物なんですが、良かったらどうぞ」
「いただきます」
その紅茶は口をつけた瞬間に、ふわりといい香りを広げた。しかし、同時に少し刺激的な強い香りがあった。
「この紅茶はキャロットというお店のなんですけども、どうですか?」
「何か一瞬にして現実に引き戻された気がしますね」
彼女はそれを聞くと、それは良かったですねといった。之はそういう意味があるのだろうか。エルトはそう思いながら、残りの紅茶をゆっくり飲んだ。
「そろそろ店閉めますね」
「それじゃ失礼します。でも用心には越したことはないですから、なんなら少しぐらいならば送りますが」
「………」
彼女は少し、キョトンとしていたが。少し落ち着いてから。なるほど。それはそうですね。と、一人合点してそれじゃ少し外で待っていてください。と言った。
エルトはトキの閉店の準備を始めるのを見送ると。ゆっくりと出口へと歩き出した。それからドアを開けて、外へとでた。
イタ。
外に出るときに、エルトは中途半端に壁のカドで頭を打ち付けた。しかし、そのまま何食わぬ顔でもうすっかり夜の中に漂う月の姿を見挙げた。その横にはちいさな星が漂っている。
なにか、之では送り狼のようではないか。変な風に思われていないだろうか。エルトは彼女の表情を思い浮かべてから、頭をポリポリとかいた。
浮かんだ星はトキの表情のようで、そのすぐ横の月を見て変貌する狼なのだろうか。
少しエルトは自分の下心が見透かされたのではないのだろうか。それに彼女はそれに気づいてあんな表情をしたのではないだろうか。彼はいずれにしてもまずいことをしたと思った。
- Re: ヒストリエ ラスト ナイト2 ( No.12 )
- 日時: 2009/11/12 14:34
- 名前: nothing (ID: 0W9rRz2p)
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「待たせしましたね。もう店の片付けは終わりましたから」
彼女は、店のドアの鍵を閉めている。ドアの鍵はネックレスにつけていつも肌身離さず持ち歩いているらしい。
「それで、どこまで帰りましょうか。正直方角も場所も知らないので」
「そうですね、それでは、ノースマウスの広場までお願いします」
「ああ、同じ方角ですね」
「そうなんですか、どのあたりなんですか?」
「ノースエッジの辺りですね」
「へええ、それじゃ湖の岸からは大体2キロですね。同じくらいですね」
エルトとトキは帰り道を歩き始めた。暗くて分からなかったが、彼女はヒールの無い布性の靴を履いていた。それに脇には拳銃ホルダーをつけて、白い細工の入った銃が入っていた。
「エルトさんはいつもそんな感じなんですか? 失礼ですけど最初見たときから思ってたんですけども、狩人の方ですか? 」
「まあ、見習いですけども」
「やっぱりなあ、実はラフを見たときに枝弓刻印が入ってたんで、そうだと思ってたんですよ」
トキは何となく、私もそういうの好きなんですけどね。格好いいし。でも私なんかは少しトロイし、だからどちらかというと刻の管理人ぐらいがいいんですけどね。そう言って笑った。
街はどうやら十時を回ったぐらいで、静かな湖岸の町なみは、今ではすっかり光に包まれている。
「やっぱ銃の扱いとかは上手いんですか? 私なんかは下手なんで、一応法律だから持ってるんですけども。ほら、これ小さくていいでしょ。グリップのところに唐草紋の細工と、剣を加えた猫のマスコットがついてるんですよ」
確かに、彼女の銃はそういったマークが付いていた。それにその銃は女性が扱いやすいタイプのもので、口径が余り大きなものではなかった。
「いいですね。やっぱり成人になったと同時に買ったんですか?」
「そですね。可愛いいでしょ」
「そうは思うのですが、僕は有る程度の威力がないと駄目なので、」
「やっぱし、あれですか? 弾の種類とかもブリットとか使ってるんですか」
「…まあ、仕事ですから」
エルトは先ほどの思考からまだ少し覚めやらぬ様子だったので、頭がもやもやとしてしまった。
道の両側はどれも高さが整えられた四角い建物ばかりだ。それにどこも明かりがともっている。石畳の道に、舗装された道路。幾度も繰り返される交差点。自分達がもう広場へと近づいている。湖の方角をふりかえると、北の柱が天高く聳え立っていた。それは山や、何かではなく、人工的に作り出された街の中にある塔だった。それは北と南、それに西と東を指すように。それぞれの方角にトキを刻む羅針盤が付いていたものだった。ただ単に四角、それが見上げたところで全く見えないほどの天空までそれが聳え立っていた。
「つきましたよ」
トキが、少し休んでから帰りますよ。と、言って。広場の隅にあるベンチへと腰かけた。それからトキは塔を眺めた。それは羨望の眼差しに見えた。
「店長はあそこで裁定を行なっているんですよ。あの中には私まだ入ったことなくて知らないんですけども。正統な資格を持つもののみがあそこへ行くことが許されるんです。知ってますよね」
「まあ、そうなんですが、それにしても…」
「高いですよね…」
二人は少しの間、町と塔を眺めていた。それはゆったりとした時間の中で生きているもののあるべき姿のようだった。街は何処も夜の光に溢れている。それでも何故かどこかの寂れた風景に見える。遠めに見ても現実的とはいえない姿だ。
「裁定の場はまだ遠き空のかなた。われわれは義務を遂行するのみなのですよ」
トキは少しため息まじりにそう言った。それに私はこの責任を負うような正確ではないのだけども。とも言った。
「まあ、ここでは当たり前のことですから」
「それは、殆どそれが仕事みたいだから言えるんですよ、うう、なんか妬ましい」
「妬ましいといわれましても」
トキは指でワッカを作って、目を大きく見開くようなしぐさをした。呪ってやるというしぐさなのだが。どうにも呪われている気分にはおもえない。
「市民の義務としての法をのべよ」
「義務とは、総ての市民に秩序をもたらすべく、そのもの自らが危険に曝される場合、あるいは危険に曝されているものを見た場合、ただちに加害者に大して拘束をすべく行動をすべきことを定めるものである。このため、規定に定める銃器の所持を成人と認めるものに許可するものである。ですか」
ですか…。と言ってトキは笑った。私は面倒だなとか思ってるんですけどね。それに運動苦手ですし。だから壜から見える銀河を見るだけで充分なんですけども」
銃の所持は必ず見えるようするのが決まりだ。それがこの世界での取り決めだ。ここではその辺にいる市民自身が犯罪者を取り締まらなくてはならないのだ。
「義務といっても実践で使用したことはごくわずか、それに一応所持してるだけで飾り感覚の人もいる。だから大して使えなくても気にならないと思うけど」
「それは扱える人がいうことですよ。」
「たまたま実践に出会っただけでそういうことをするはめになっただけなんですけどね」
「そうなんですか? 私はてっきり志願するのかと思ったんですけども」
「危険が多いですからね。人手不足ではありますけども」
「そっか。それじゃ市民として私もお手伝いしますよ。狙われないように安全な場所からあなたを見守ります」
「うれしいです」
エルトはそういわれて本心から幸福感を感じた。はじめてだが好意を抱いたのだった。
- Re: ヒストリエ ラスト ナイト2 ( No.13 )
- 日時: 2009/11/14 11:10
- 名前: nothing (ID: 0W9rRz2p)
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トキは、私は銃が苦手でも、撃てるのは打てるぞ。狙って打てますし。でもあたらないのだ。といった。
それは気持の問題ですよ、エルトは言った。実際にそれは精神面の問題なのだ。
「ちなみにブリットは使用せずに通常弾を使用してます」
「私もですよ。ブリットなんて使えませんよ」
トキは腰のベルトに付いた予備の断層を見せた。そこには通常弾と呼ばれている強力な火薬を使用するショック弾が入れられていた。
「小さいからいつも弾倉は三つ持ってるんですよ」
「僕は予備も持ってます。それに弾もホルダーに入れてますし」
「口径が大きいですね。なん口径ですか?」
「バレルと弾倉を交換することで色々な弾丸が使えるんですが、今は358弾使用にしてます」
それじゃ使うときに照準がかなりぶれるじゃないですか。やっぱし腕がいいんだ。
トキは遠くの夜を眺めた。それから少しばかりしてそろそろ帰りますか? と、ベンチから立ち上がる。それからフッと何か思い立ったのか、行きなりお酒が飲みたい。と言い出した。
「少し居酒屋さんによっていきましょう。すぐ近くに美味しいお店があるんですよ」
「酒ですか? 」
駄目でしょうか?
「いえいいですよ。それにこの後は予定も無いですし」
「それは良かった」
エルトは彼女と一緒に酒屋へと歩き始めた。
酒屋はこじんまりとした住居区の中にあった。店の前には大きな字で「テラロッサ」と書いてあった。
「ここです。たまに知り合いと来たりするんですけども、私夕飯はここなんです。居酒屋なんですが、美味しいんです。ちなみにここは夕焼け御飯っていうセットメニューが日替わりで、其れはもうメニューに載ってないものまで出てきてですね、毎日わくわくしてるんですよ。本当は自分でつくりいたいのですけど」
エルトはいいですね。といった。
「ちなみにお酒のほうはビールに、果実酒が充実してます」
「お酒好きなんですか?」
「大好きです」
店の中に入ると、ドアに付いた機械仕掛けの鈴がチリリンと鳴った。中は一刻堂と同じようにランタンが付いていて。とても良い雰囲気の店だった。
いらっしゃい。
「夕焼け御飯で」
「はいはい。今日は友達つれてきたの?」
「いえ、なんとなく行き釣でつれてきてしまいました」
「そうなの。それじゃセット二つでいいの? 」
エルトはそれでお願いします。と、オーダーをした。それから二人はなんとなく奥のテーブルに座った。中は余り広くは無く、カウンター席に二人がけのテーブル席。それに丸テーブルが何個かあった。ちょうどいいくらいの少人数の客が来れるような店だ。
テーブルへと来る途中で奥に一人男が座ってタバコを吹かしているのが見えた。ハットにジャケット。それは黒い花を思わせるような、何処と無く毒々しさと人を死へと誘う匂いをさせていた。
「エルトさん、まずは食前酒といきたいのですが、ここでは色々な果実を使ったお酒が売りなんですよ。私はいつも梅酒のソーダ割りなんですけども、ここのはマスターの特性なんですよ」
「それでは、 例えばそうですね。醗酵させたような、今日は何か疲れを忘れられるようなのがいいですね」
「それでは、蜂蜜を使った、レモン酒はどうですか、一緒に入れて醗酵させたようなお酒らしいですよ」
「それでお願いします」
「なんならコブラ酒なんてのもありますけども」
冗談めかしたトキは体が熱くなるんですよ。と、笑った。
それでは、蜂蜜レモンでいいです。彼は何処と無く体の力を抜いて、椅子にもたれるように天井を見上げた。そこにはやはりランタンがあった。
「このランタンも、刻を使って灯の時間をとめてるそうですよ」
「確か特許なんですよ、この時間の使用法は」
「まあ、灯は生活には必要だし、夜に何も見えないんじゃ話にならないですしね。だから公営ですよ」
マスター。レモン蜂蜜に、梅海。彼女はそう言って、テーブルにくたっと顔を鎮めるようにした。
「ふう。お客さんがすくないとつかれるよう」
彼女は少し目を瞑ってそうつぶやいた。エルトは其れを見てにやけている。
「実際、それは疲れるんですね」
「時間を有効に使おうと、本なんかを読んでるんですが、どうにも疲労がますんですよ」
「勉強疲れですね」
手で違う違う。と否定するトキは、体を重たそうにうなだれている。
「ほぼ毎日をあそこで過ごす私の身を案じてくれるような人はいないかしら? 」
それでは私が、たまに行きますよ。
エルトがそういうと、跳ね起きるようにトキは喜んだ。
本当に! これでお茶仲間が出来た! といいながら。
「一応お酒屋さんだから、ここ、しけた話はやめな」
「マスター。そんなどこかの荒くれものみたいなこといわないで」
「あら、これでも少しは銃の腕に覚えはあるわよ」
「マスターは暇だからいつも射撃ばかりしてるんだ! 」
「まあまあ、とりあえずお酒」
マスターはお酒を置いた。なみなみと注がれた氷製のポットには、多分に三杯分ははいている。取っ手はガラス製。だから、見た目は全部氷。それでも何故か取っ手は冷たくない。
グラスにそれぞれ好きなお酒を注いで、それから二人はお互いにグラスを手にとった。
その前に銃をホルダーごと店のテーブルへと二人はお互いのほうへ銃口を向けて、相手の手元に置いた。
「それでは」
「乾杯!」
- Re: ヒストリエ ラスト ナイト2 ( No.14 )
- 日時: 2009/11/14 21:32
- 名前: nothing (ID: 0W9rRz2p)
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二人はお酒をたんまりと飲んだ。調子に乗ってコブラ酒まで飲んだ。それでもアルコールは控えめ。だからたくさんの種類を飲める。トキはそれがこの店のいいところ。
「正直、夕焼け御飯は上手かったです。和風で美味かったですよ」
「和風パスタはいいのだ! 」
「……」
少し酔ってるな。エルトはそう思った。それに彼女をほっとけないではないか。之ではますます怪しまれる。マスターもいるし。それに…。
「酔ってるけども大丈夫? 」
「大丈夫です。だって、私の家はこの上じゃないですか? 」
「え、ここの上なんですか」
エルトは彼女のその言葉を聴いて少し驚いた。そしてまた少し期待が外れてしまった。と、思った。其れでも今はただでさえ危険な事件が多発している。だから期待とは裏腹に、少しホッとしたのもあった。
「それじゃ、僕が部屋まで見届けてから僕は帰りますよ」
あら、それじゃお願い。店を出たところに二階への階段がすぐあるから。
マスターは、少し口を隠してからにやけた目で言った。
「少し残念そうね」
「何か僕が? 」
「いえ、まあ、若いものね。そういうのあるかな。とか思ったんだけども。でもそういうのするような感じじゃないものね。あなた。なんていうか初心なところがあるもの」
そういうのは慣れてないので。エルトはトキの肩を支えるようにして椅子から立ちあがった。その前に銃の入ったホルダーをつけるのを忘れずに。
「それじゃ。まあ、少し期待しちゃうけども」
「マスター、あまり茶化さないでよ」
「だって、面白いんだもの」
顔に感情が表れるのを読み取られるのが嫌だった。エルトは彼女たちの会話を聞き流しつつ、そそくさとトキの拳銃を持って、店の外の部屋へと続く階段に向った。
「エルト君。お痛は駄目だよ」
「………」
うふふふ。と、マスターは笑った。なんともいえない明るい笑顔だ。
エルトは店から出た。それからマスターに言われたとおり二階への階段を上がり始めた。
「ううう、私は大丈夫さ。だから心配するなあ。射撃も出来るぞ」
「さっき苦手だって言ったじゃないですか? 」
「あれ、そうだけ」
エルトは彼女に気を使いつつも、店の黒尽くめの男を思い出していた。あの毒毒しい男のことだ。奴は何かが可笑しいと感じた。それに実は少し視線を感じていた。こちらを見ているのでは無いかという視線だ。それは別に殺意というものを感じるわけではなかった。しかし、それはこちらへの敵意であることに変わりはない。別に第六感とかそういのではないが、何か妙な違和感を、エルトは感じていた。
「部屋に着きましたよ」
トキはそういわれると、なんだかウトウトしながらも、首にかけた鍵で部屋を開けた。
エルトは少しばかり彼女の部屋へと入ることをはばかったのだが、それでも彼女がへべれけなので彼女を連れて部屋へとはいてしまった。
ドッ。フワフワ。
「ふうう」
彼女は吐息を吐いてからベッドの上に大の字になった。
「それじゃ、おやすみなさい」
ふわりと何かの酩酊間を感じた。それは足がもつれて、彼女のすぐ近くへと彼を引き寄せた。目と鼻の先。
エルトは仰向けのトキの上へと倒れこんだ。それは少し運がいいような、運河悪いような。彼女はそれで少し、驚いた様子だった。目がまん丸だ。と、考えていたら。彼女はベッドの上に投げ出していた銃を抜いて、こちらへと向けてきた。
銃口の螺旋が見えた。片目へと照準が定められたその銃は、彼女に似合っていると思った。
一瞬目が合って、時が止まった。トキとの距離が近すぎる。それに少しばかりの服のしたにある暖かさを感じた。
うっちゃうぞ。
彼女はそういういうと、ヘタリと目を瞑って眠ってしまった。まったく無用心にもほどがあるというものだ。それに銃が暴発でもしたらどうするというのだ。
少し鼓動がなる。それは誰にでもある人間らいしいしぐさだとエルトは思った。
笑顔はお星様。寝顔はその星の下に座る少女のような面影。
少し触ろうとしたほっぺがかすかにもごもごと動いた。だからその手を止めて。エルトは立ち上がると今日はもう戻ろうと思い。彼女の銃をホルダーへと納めた。その銃に彫られた猫と槍の紋章は、彼女のネックレスの紋様とおそろいのものであった。
窓の外の夜は少しずつだが、確実に闇の濃さが増している
それは外に立っているランタンの灯りが強くなるほどに感じられることだった。
「………」
男が窓の外に立っていることに気づいた。それは先ほど店の外で見かけた黒尽くめの男だった。ハットをかぶりこちらを隠すことも無く様子を伺っている。光の加減からこちらのほうは見えているはずなのだが。
エルトは自分のすんでいる部屋へと帰ろうとしたとき、その男を見て足の動きを止めた。それは何か危険なものよりも、不気味な香りを漂わせていると思った。
トキは寝ている。その寝顔は平穏そのもだ。しばらくの間。彼女の寝顔を見て考えた。
そして、この部屋の明かりも又、うっすらと波を漂わせている。
「……」
エルトはもう一度窓の外を見てみる。すると男はもうそこへはいなかった。
彼女の寝顔を見ていた時間に男は消えていた。それはまるで風に吹かれた木枯らしのように何も残すことなく消えていた。
「まさか…」
エルトは警戒することをやめなかった。
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