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煉獄から死神少女。 もうすぐ20話突破企画とゆー事で
日時: 2009/12/31 20:50
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)
参照: http://noberu.dee.cc/novel/bbs/white/read.cgi?no=215

もうすぐ20話突破記念 >>22 オリキャラ募集も有り
※ノベルでは実は19話まで進んでいたり。

〆御挨拶
どうもこんにちは、更紗@某さんです。
作者はこのサイトに相当嫌われているのか、小説がまた消えましたと。
でも作者が住み着いているサイト(参照)での執筆が主なので、復活させました。
では宜しくお願いします。

※まだまだ未熟なので、アドバイスや感想を下さると有難いです。
※当然ながら荒らしはお断り。
※フランス語やら悪魔やらが出てくるので、分からない場合は更紗に聞いて下さい。
※浅いコメントはお控え下さい。また、コメントついでに小説を宣伝する行為もやめて下さい。
※多少グロテスクなシーンが有るかと。

目次〆
Prologue 幻想と現実の死神 >>1
非日常01 死神少女、現る。 >>2
非日常02 死神少女、名乗る。 >>3
非日常03 死神少女、契約する。 >>4
非日常04 死神少女、居候になる。 >>5
非日常05 死神少女、客と話す。 >>6
非日常06 死神少女、見送る。 >>7
非日常07 死神少女、転入する。 >>8
非日常08 死神少女、ムカつく。 >>9
非日常09 死神少女、不思議な現象に出くわす。 >>10
非日常10 死神少女、魔剣と対峙する。 >>11
非日常11 天然少女、妖刀と出会う。 >>12
非日常12 死神少女、竜を連れる。 >>13
非日常13 死神少女、再会する。 >>14
非日常14 死神少女、逃げる。 >>15
非日常15 死神少女、犬に追われる。 >>16
非日常16 死神少女、イラつき過ぎる。 >>17
非日常17 死神少女、超能力を体験する。 >>18
非日常18 死神少女、念動能力を見る。 >>21

訪問者様(ノベル・カキコ両方でカキコは小説復活後の方のみ掲載)
〆夜殿 〆満月殿 〆夜兎殿 〆(( `o*架凛様
皆様、訪問感謝です

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Re: 煉獄から死神少女。 ( No.14 )
日時: 2009/12/30 16:44
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

非日常13 死神少女、再会する。

 漫画とかラノベには、ある日突然ファンタジーなモノがやってきたりして、気が付けば主人公はヒーロー的存在になってたり、ハーレムモテモテ現象が起きたりする部類は少なくない。
 俺の場合は、ヒーローになったりハーレム現象が起きたりなんて夢みたいな事は起きないが、それなりの事件には巻き込まれたりする。
 今日もまた、そんな事件に巻き込まれたりするのかもしれない。

 俺はその日、いつもより早く起きた。カーテンの隙間からこぼれている眩しい朝日の光が、ベットで目を瞑ったままの状態の俺の目に差し込んできて、余計眩しく感じる。暖房やストーブ、お風呂などとはどこか違う——例えれば人肌のような温もりを持つ布団の中から出るのは、結構苦戦する。
 朝の試練を乗り越え、冷たい水で顔を洗い制服を着てキッチンに下りてきた。紫苑はもう学校に行ったらしい、朝練というやつか。
 そんないつものキッチン。の筈が、俺の視界に入ってきたのは、誰かも知らない謎の美女——つまりは、またしても俺を面倒臭い事に巻き込みそうなものだ。
 黒髪の赤い目と、誰かに似ている容姿をした美女は、何故か普通に食卓の中に溶け込んでいる。
 この人誰だ……そう俺がエヴァに聞こうとした時だった。エヴァの様子がいつもとは何か違う。何というか、ピリピリしているというか……イラついているようだ。
 俺が考え込んでいると、黒髪美女が俺ににこりと笑って挨拶をした。

「あら、おはようございます。泉井司様。妹様は、随分と美味しい朝食を作られるのですね」
「えっと……すいません、誰ですか?」

 今最も疑問に思っていた事を訊く。にこりと笑う美女から返ってきた答えは、俺を驚愕させた。

「これは失礼致しました。私、アリットセン公爵家長女のシェリル=アリットセンと申します」

 アリットセン……? って、エヴァのフルネームってエヴァンジェリン=アリットセンだよな!? てことは、この人はエヴァの姉なのか!?
 当のエヴァは殺気立っている。さっきからイライラしていた理由は、もしかしてこのシェリルさんって人が来てるからか? 主の様子が違えば従者の様子も違う。いつもは人間の姿で朝食を摂っているウィニだが、今日は黒猫の姿で皿に注がれているミルクを舐めていた。しかもどこか怯えている様。
 暫くの間緊迫感がキッチンに漂っていたが、ついにエヴァが口を開いた。

「シェリル……どうして此処にいるのよ。煉獄にいた筈じゃないの?」
「相変わらず姉を呼び捨てなのですね、エヴァンジェリン。ウィニフレッドも今日はどうしたのでしょうか、使い魔仲間のキャロルが来ているというのに」

 キャロル? そう思っていると、俺のかかとに何か当たった。蒼く綺麗な瞳に、赤い首輪に金色の鈴が着けている黒猫。
 黒猫が俺の足元にぶつかったのを見ると、シェリルさんは優しげに黒猫に言う。

「キャロル、ぶつかったら『ごめんなさい』でしょう? それと名乗るのも礼儀ですよ」

 主の指示に黒猫は頷き、ぼむっと煙を巻く。ウィニの時のように、黒猫が少女へと変わった。ダークブラウンの髪をポニーテールにし、ぶかぶかの黒服で身を包んでいる少女。少女はくるりと俺の方を向くと、一礼した。

「さっきは、悪かった。キャロル=エルウェス、シェリル様に仕えている。泉井司、宜しく」
「あ、ああ。宜しく……」

 どこか特徴的な言葉で挨拶をする少女。うーん……未だに動物が人間になることが信じられないんだが。ウィニといいユリアといい。あのゼルギウスとかいう奴は人間だったのにな……。
 こんなどこかほんわかした空気も、エヴァの研ぎ澄まされた殺気には一瞬で押し潰されてしまう。
 だが殺気を向けられている当人、シェリルさんはまったく動じていない。にこやかな笑顔には、どこか黒さを隠しているようにも見える。何だかこれもこれで怖い。

「落ち着いて下さい、エヴァンジェリン。そもそも、貴方が家出なんてするから悪いのですよ?」

 その言葉にエヴァは「うるさい!」と子供のように騒ぎ立てる。
 はっ……? 家出? じゃあもしかして、こいつが腹を空かせて倒れていたのは単なる家出?
 俺の心を読み取ったのか、シェリルさんは答えるように言った。

「お察しの通り、この娘はアリットセン公爵家当主になりたくないと言って、家出をしたのです」
「う、うるさい! うるさいわよシェリル! 第一当主ならお前がなればいいじゃない!」

 どうやらシェリルさんから放たれた言葉はエヴァに相当なダメージを与えたらしく、顔を真っ赤にして更に騒ぎ立てる。ああ、頼むから足音を立てるな……。
 シェリルさん、エヴァの幼稚な罵倒も涼しい顔で受け流す。さすがお姉さん。あいつもこんなんだったら……おっと。
 そしてシェリルさん、人差し指でびしっとエヴァを指してこう告げた。

「だから私は、貴方を煉獄に連れ戻しにきました!」

Re: 煉獄から死神少女。 ( No.15 )
日時: 2009/12/30 16:45
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

非日常14 死神少女、逃げる。

「はあっ!?」

 シェリルさんの言葉に一番驚きを示したのは、勿論のこと当人であるエヴァ。目を丸くしいかにも“信じられない”という顔でいる。
 俺としてはこれ以上面倒な事に巻き込まれないよう、このまま帰って欲しいんだが家出娘のエヴァがそうする筈ない。エヴァは学校の教科書が詰まった鞄を引っ手繰ると、いってきますも言わずに逃げるように、というか逃げた。俺も慌てて自分の鞄を取り、シェリルさんに軽く礼をすると、急いでエヴァの跡を追いかけた。

「それで逃げたつもりでしょうか……愚かなる我が妹よ、ふふ」

 出て行く間際、シェリルさんが怪しく笑っていたのを俺は聞いた。
 また面倒臭い事になりそうだなと、俺はそう直感した。

 ***

 出欠を取り終わり、篠塚先生は教室を出て行く。
 とりあえず何も起きていないし、さっきのは杞憂で終わってくれるようだ。ほっと一安心だが、俺の右斜め後ろの女子——エヴァは違う。なんとか殺気を押さえ込んでいるが、未だにピリピリしている。そのせいか、隣の伊吹は怯えているし。
 まあそれはそれはそれとして、一時間目の準備っと……。
 俺が机から教科書を出そうとした時だった、突如俺のすぐ横の窓が勢いよく割れる。思わず伏せると、エヴァが俺を突き飛ばした。おかげで尖った硝子の破片は俺に刺さらず、怪我をせずに済んだ。
 どうやらさっきのは杞憂では済まなかったようだ。どこから入ってきたのか、黒いビックサングラスに、黒光りしているタイトなミニスカート、黒い毛皮のコートにブーツ、そして更には金髪と、いかにもセレブという感じの格好のシェリルさん。
 
「見つけましたよ、我が愚妹」

 シェリルさんはにこりと黒い笑みを作る。宿敵の登場に、エヴァはついに殺気をあらわにした。
 いきなり金髪美女が窓から乗込んで来るという、どっかの映画のような現象にクラスメイト達がざわめく。ある者は金髪美女を近くで見ようとし、ある者は散らかった硝子の破片を片付けようとする。
 でも今はそんな事に目をやっている暇は無い。此処はどうにかして、シェリルさんを……!

「って、おいエヴァ!?」

 俺が何とかシェリルさんをいさめようとする前に、エヴァが教室から走り去っていった。俺も慌てて跡を追おうとするが、丁度一時間目開始のチャイムが鳴る。更には担当教科の先生までが入ってきてしまった。

「おい、お前ら何をやってる? チャイム鳴ったぞ」
「すいません先生! 風邪っぽいんで保健室行って来ます!」

 くそっ、こうなったらやけくそだ! バレバレの嘘を付き、俺はエヴァの跡を追った。

 ***

 他の家より一回り大きい泉井家のリビングに、二人の少女がテーブルを挟み向かい合わせで座っていた。かぼちゃパンツの黒髪の少女は、エヴァの使い魔ウィニフレッド。だぼだぼの黒服にダークブラウンの髪をポニーテールにした少女は、シェリルの使い魔キャロル。この二人は昔から仲の良い使い魔同士なのだが、今二人はある危機に直面していた。

「どうしましょうです……」
「どうするか。シェリル様、しぶといからな」

 二人が頭を悩ませている事とは、キャロルの主人シェリルの事だ。シェリルは現在家出した妹、エヴァンジェリンを煉獄に連れ戻そうと司達を追っていたところだった。シェリルは暴走すると周りが見えなくなる、だから二人はシェリルが何か仕出かさないかと心配だったのだ。
 二人は暫く考えて、やがてキャロルがぽんと手を叩いた。

「私達が学校に行き、司達を助けるというのはどうだ」
「……」

 キャロルの提案に、ウィニフレッドは少しの間考え込んだ。そして言った。

「いいんじゃないです? そうと決まれば早速行くです」

 二人はそう結論付けて、急いで家を出ていった。
 こうして、今回の騒動はますます激しくなっていく事だろう。

Re: 煉獄から死神少女。 ( No.16 )
日時: 2009/12/30 16:45
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

非日常15 死神少女、犬に追われる。

 ***

 ……どうしてだ。人間ってどうしたら、こんな事態に巻き込まれるんだ。
 俺とエヴァは現在、校舎内をぐるぐると走っている状態にある。というよりは、逃走中だ。シェリルさんいえば違くはないんだが、シェリルさんというわけでもない。
 授業中なのに廊下を走り回る俺達に、とうとうある教室から授業をしていた先生が怒声を俺達に投げかける。

「おいお前ら! 今は授業中だ! 今すぐ教室に戻らないか!」

 中年の男教師の言う事など、今の俺達にはどうでもいい。
 教師の言う事を無視して走り去る俺達に、教師はカンカンになりながらこちらを見ていただろうが。数秒後には、その小太りした身体を教室の中へと引っ込めているに違いない。
 何故なら、殺気を放っている如何にも凶暴そうな黒い数匹の犬が、俺達を一心に追いかけて来ているのだ。

「あの犬何なんだよ! シェリルさんのか!?」
「そう、あれはシェリルの召喚獣の中でも凶暴な“ヘルハウンド” 私達を捕まえる為に放ったものなのだろうけど、完全に使い方を間違ってるわね……。あの魔獣に腕だの足だの噛まれでもしてみなさいよ。確実に引き千切られるわね」

 ちょっ、シェリルさん完全に使い方間違ってるだろ! 俺達捕まえるのに最悪殺すような魔獣なんて放つか普通!
 俺がパニックに陥ってると、人の肉を引き千切るような恐ろしい魔獣に追いかけられているというのに、エヴァは余裕の表情で言った。

「大丈夫、まさかこのまま逃げ続けるなんてしないわよ。シェリルに屈するのだけは嫌しね」

 下へ降りる階段のすぐ近くの理科室に飛び込むと、エヴァは手の中で一つの小さな魔法陣を生み出す。それを魔獣共に向けると、魔法陣が光りそこから何か黒い馬が飛び出してきた。
 こいつはユニコーンか……? と思いきや額から生えている螺旋状の筋が入った長く鋭く尖った角は、一本ではなく二本だったのだ。

「この子は私の召喚獣の一匹“バイコーン” ユニコーンが純潔を司るのに対し、バイコーンは不純を司る魔獣なのよ」

 バイコーンとやらは迫ってくるヘルハウンド共に突進し、次々と自慢の角でその肉を引き裂いてゆく。強さは申し分ないんだが、あまりにも倒す光景がグロテスクなのがな……。
 それはともかくこれでやっと魔獣共を倒したかと思いきや、引き裂けば引き裂くほど、魔獣は肉片から新たに再生して増殖してしまう始末。どうやら倒すのは逆効果だったらしい。

「ちっ……シェリルの奴、増殖するなんて随分と気味の悪い魔獣を送り込んできたわね……。仕方ない、とりあえず此処はもう何匹か召喚して時間を稼いでおくか……。“バイコーン”!」

 エヴァはもう一度魔法陣を作り、バイコーンを数匹召喚する。
 バイコーン達がヘルハウンドの相手をしているうちに、俺はエヴァの手を掴み階段を駆け下りる。下の階に着くあたりには、さすがに騒ぎが大きくなりすぎたようで先生達が授業を中断し、理科室の異変を食い止めようと色々頑張っていることが音で分かった。
 バイコーン達が時間稼ぎをしている中、俺達は次なる逃げ場を探し、そこでヘルハウンドに対しての対処法を練る事にした。俺が走ろうとしたその時だった。

「いったあ……何やねん一体!」

 それはこっちが聞きたい……。いきなり走ってきた女子にぶつかり、俺はそのまま尻餅をついた。相手もそのようだ。ぶつかったのは、上履きの色からして一年生のようだ。
 俺も相手もいたたた……と尻を擦りながら起き上がると、顔を見合わせる。明るい感じの茶髪のセミロングに短いスカートと、活発そうな少女だ。

「すまんなあ。大丈夫やったか? あんた、二組の泉井司やろ? どうしたんや、こないなトコロで」
「え、えっと……」
「もしかしてあんた、うちの名前知らへん?」

 もろ関西弁で一方的に質問をしてくる目の前の女子。どう言っていいのか分からず、唖然と女子を見る俺。そこに、エヴァが俺と女子の間に割り込んできた。ハブにされたことが相当イラついたらしく、かなり殺気立っている。
 そんな殺気立っているエヴァに、目の前の女子は物珍しそうな表情でエヴァを見つめる。

「知ってるで。あんた、最近転入してきた黒神慧羽やろ? 噂通りかわええやないの。でも、こないな殺気を放っているとは聞いてなかったけどな」

 殺気を放つエヴァをもろともせずに、明るい声で話しかける女子。お喋りな女というよりかは、変わっている女だな……。
 ひとまず俺は、目の前の女子に名前を聞いてみる事とする。

「えっと、とりあえず誰だお前?」

 女子は、はっしてこっちを見る。

「ああ、すまんかったな。うちは一年三組の秋月茉莉、宜しくな。二組の泉井司君」

 弾んだ声で自己紹介をする転校生。秋月茉莉……知らねえな。ていうか只でさえ人の名前を覚えるのが苦手な俺が、他クラスの生徒の名前なんて覚えている筈がないんだが。そもそも覚える気すらないし。その点ではこの女を尊敬する。わざわざクラスから名前まで覚えているなんてな。
 さて、今思い出したが感心している暇なんてない。どうやらバイコーンを潜り抜け、三匹程のヘルハウンドがこっちへとやって来た。

「ちっ、来たわね……!」
「な、何なんやあれ!?」
「とりあえず逃げるぞ!」

 ……魔獣vs俺&エヴァの逃走劇は、大阪弁女を加え更に白熱しそうだ。

Re: 煉獄から死神少女。 ( No.17 )
日時: 2009/12/30 16:46
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

非日常16 死神少女、イラつき過ぎる。

 ***

 私立風之宮高等学院の校門の前、二人の小柄な少女が校舎を見上げながら立っていた。一人は黒髪にかぼちゃパンツの少女、もう一人はダークブラウンの髪をポニーテールにし、自分の体格よりも一回りも大きい黒服を身にまとっている少女——ウィニフレッドとキャロルだ。そんな目立つ格好をしていた二人は、通行人の中で一際目立っている存在と化していた。
 暫くして通りすがる人間達が、ジロジロと自分達を見ているのにやっと気づく。

『あ、そういえば姿消すの忘れてましたです。姿消さないと』
『迂闊だった』

 二人はゆっくりと目を瞑ると、その姿は周りの人間からはまったく見えなくなった。まるで透明人間のように。
 辺りを見渡し、周りの人間が自分達を見なくなった事で姿が見えなくなった事を確認した二人は、堂々と校門から昇降口へと入っていく。
 司はどこかと一階の廊下をウロウロしていた時、キャロルが何か起きている事に気づく。何階かは分からないが、上から犬の唸り声がするのだ。それも複数。犬の唸り声以外にも、複数の人間の叫び声なども聞こえる。

『……上から犬の唸り声がする。迷い犬でもいるのか?』
『でも司さんやエヴァ様からは、犬が迷い込んだなんて話聞いていませんですよ? 話していないだけかもしれませんですけど……』

 考えても何故犬が居るのか分からない。とりあえず司達を捜索しようとした時だった。
 唸り声がどんどんこちらへと近づいてくるのだ。それも凄いスピードで。

『な、ななななな何でしょうですか』

 ウィニはビクビクと怯えながら、キャロルの手を引いて唸り声の方へと近づいて行く。——唸り声の正体はすぐ分かった。赤い目の、獰猛な黒い数匹の犬がウィニやキャロルの前に現れた。

『あれは——シェリル様の』

 キャロルがそう言ったのと同時に、犬が二人に襲い掛かってきた。キャロルは反射的に犬に向かって蹴りを繰り出す。

『今のうちに逃げる』

 キャロルはウィニの手を引っ張り、校舎内の階段を駆け上った。

 ***

「な、何とか姿を晦ませる事は出来たみたい、だ、な……」

 死に物狂いで全力疾走したのは、人生で今日が始めてかもしれない。それにしてもあの犬共速えんだよ……自分で言うのもあれだが、俺は50m走一応速いし、体力もある方なんだが犬共と長期戦したら確実に負ける……。魔獣だから体力に限界は無いのだろうか。
 どうにか魔獣共を巻けた俺達は、現在二階の調理室で身を隠している状態にある。成り行きで事態に巻き込まれた、隣のクラスの秋月茉莉とかいう関西弁女も加えて。

「一体何なんやあれは。あんたらはどうしてあの犬共に追われとるん?」

 あの犬はヘルハウンドというクローンのような魔獣で、シェリルさんが俺達を捕まえる為に放ったんです……とは到底言えない。言ったところで、頭のおかしい電波さんと思われて終わりだ。ラノベの読み過ぎで、ついに頭がイっちゃったんですかと引かれて終わりだ。

「あれはヘルハウンドというクローンのような魔獣で、私達を捕まえる為にシェリルという糞糞糞糞糞糞糞糞糞(以下省略)女が放ったのよ。あと私は死神で本名はエヴァンジェリン=アリットセむごうっ!」

 俺は慌ててエヴァの口を両手で塞ぎ、秋月に笑って誤魔化そうとする。
 ファンタジー世界の住人、エヴァ。血迷ったのかあまりにもイラつき過ぎたのか、いきなり今の漫画に出てきそうな、犬に追われちゃってるんですサバイバル現象が何故起きたのかだけでなく自分の正体まで話してしまった。
 ああ、俺はこの電波死神のせいで近い未来、クラスにトンでも電波男と皆に引かれるのが目に見えてきた気がする……。
 だが当の秋月、こういうのってお約束なのか目を輝かせながら俺達を見る。

「へえ! 面白そうやんかそれ! 黒神慧羽ちゃうてエヴァ言うんやな! よろしゅうなエヴァ、うちの事は茉莉でええで」

 何だこの光景は。秋月も電波の一人だったのか、何か俺の周りの人間って電波多くないか? 泉井司電波化計画なのかこれは?
 「宜しくー」と挨拶を交わすエヴァと秋月。すると秋月は、先生が調理実習前に説明をしたり等する教卓に乗っかる。

「なあ司、エヴァ。あんたら、うちに死神って事言ってくれたやん? それが公表済みなのか、秘密事項なのかはうちは知らんけどな。あんたらくらい現実世界から外れたような存在なら、うちの秘密、言ってもええかもしれんな」

 いや……俺は死神じゃないんだがな。死神なのはこのちびっこい電波だけなんだがな。

「もしうちが、超能力者言うたらあんたら信じるか?」

Re: 煉獄から死神少女。 ( No.18 )
日時: 2009/12/30 16:46
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

非日常17 死神少女、超能力を体験する。

 にたりと笑いながら俺達に訊く秋月。いきなり「超能力者だって言ったら信じる?」なんて言われても、何と返答すればいいのか分からない。
 問いは冗談で言ったようではないようで、こちらの心の中を探るように俺達を見つめる。こいつ、どうやら神経の深部まで電波に侵された、本物のトンでも電波少女らしい。
 俺が答えれずにいる中、エヴァが呟くように言った。

「……ふうん、面白いじゃない」

 秋月はにたりとした笑みのまま。エヴァの言葉に続きがあるのを察したのか、教卓の上で貧乏ゆすりをしながら、エヴァから言葉が紡がれるのを待つ。

「超能力って、煉獄側(わたしたち)で言う魔術みたいなもんって聞いているけど。まあお前から言われただけじゃ証拠にはならないわね……そうだ、お前の超能力でヘルハウンドを倒してみせて。そうしたら超能力者だってこと、信じてあげる」

 最終的なエヴァの結論に、秋月は「うん、ええよー」とへらへらしながら答える。
 何だが俺だけ蚊帳の外なんだが。電波には電波にしか分からない空間を作ることができるのだろうか。と、俺は無駄に思考回路を働かせる。

「じゃあ、そのヘルハウンドとかゆー奴のとこに行こか!」

 秋月がそう言った次の瞬間、俺は一瞬身体が浮いたような錯覚に襲われた。

 ***

 風之宮学院、二階の突き当たり。ウィニフレッドとキャロルは、黒い数匹の犬——ヘルハウンドに追い詰められている状態にあった。

『どうするですか……これ』
『どうするもこうしたもない。シェリル様の使いを壊すことには気が引けるが』

 キャロルはパンと、手を合わせるように両手の掌同士を叩く。その手と手の間からは、一本の光の筋がそこに浮かんでいた。そしてその光の筋は透明な物質へと変化を遂げて行き、やがて一本の“柱”となる。
 餌を欲するように唸る犬達の前に、静かにそれを向ける。

『獣に負けるような、防壁使いではないぞ』

 獣達がキャロルに飛び掛ろうとした時だった。突如、ヘルハウンド達の上——つまり天井にキャロルの手中にある透明な柱のような“刺”が、魔獣達を狩る為の罠のうように、無数に在ったのだ。キャロルが出したと思われる“刺”は一斉にヘルハウンド達へと雨のように降り注いだ。
 防壁使いと言うからには、その刺は防壁を刺状に変形させた物なのだろう。刺は硬質で、魔獣達の肉体を一瞬で貫いた。痛みに耐えられない“獲物”はどうすることもできず、只そこでじたばたと足掻くしかなかった。

『キャロルは相変わらず凄いですね……。よーし、これ以上暴れられないように私がトドメを刺してあげますです!』

 キャロルの行動に感心の声を漏らしたウィニフレッドは、キャロルの呼び止める声も聞かずに魔法陣を出現させる。そこから自身の武器——“核斬の短剣”(リジル)を取り出し、一匹のヘルハウンドの前足を勢いよく引き裂いた。
 ヘルハウンドの能力を知っているキャロルにとって、ヘルハウンドの身体の一部が引き裂かれるということは、何よりも恐れていたことだった。だからキャロルはあえて肉体を貫くことはしても、引き裂きはしなかった。
 キャロルの最悪の予想通り、ヘルハウンドの引き裂かれた肉体と、肉体から離された前足がもぞもぞと動き始め、形を変えて行き——やがてヘルハウンドは二体となった。

『な、な何でです!?』
『チッ、だから言ったんだ。ひとまず逃げるぞ』

 キャロルはウィニフレッドの腕を掴むと、バッと高くジャンプしてヘルハウンドの頭上を越えた。タッと着地すると、一気に走り出す。

『……ウィニフレッド、お前意外と発想がグロテスクだよな。天然グロテスク』

 ウィニフレッド、自覚してないのかその意味が分からなかったとか。
 ヘルハウンド達は逃げたキャロル達へと方向転換させると、獲物を捕らえる為にその跡を追いかけた。

 ***

「おうわっ!?」

 身体が浮き上がったかと思ったら、今度は一瞬でその場に落ちた。な、何だぁ……?
 落ちた辺りを見回してみると、どうやら調理室ではないようだ。本を貸し借りするカウンター、何冊もの本が入った本棚……三階の図書室!? んな馬鹿な。二階の調理室から三階の図書室に行くには、ワープでもしない限り……ワープ?
 俺の頭に『ワープ』という文字が浮かび、ハッとして一緒に落ちてきた秋月の方を見る。俺と違って墜落はしなかったらしい。

「どうや司? これが超能力の一種“瞬間移動能力”(テレポーテーション)やで」


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