ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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煉獄から死神少女。 もうすぐ20話突破企画とゆー事で
日時: 2009/12/31 20:50
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)
参照: http://noberu.dee.cc/novel/bbs/white/read.cgi?no=215

もうすぐ20話突破記念 >>22 オリキャラ募集も有り
※ノベルでは実は19話まで進んでいたり。

〆御挨拶
どうもこんにちは、更紗@某さんです。
作者はこのサイトに相当嫌われているのか、小説がまた消えましたと。
でも作者が住み着いているサイト(参照)での執筆が主なので、復活させました。
では宜しくお願いします。

※まだまだ未熟なので、アドバイスや感想を下さると有難いです。
※当然ながら荒らしはお断り。
※フランス語やら悪魔やらが出てくるので、分からない場合は更紗に聞いて下さい。
※浅いコメントはお控え下さい。また、コメントついでに小説を宣伝する行為もやめて下さい。
※多少グロテスクなシーンが有るかと。

目次〆
Prologue 幻想と現実の死神 >>1
非日常01 死神少女、現る。 >>2
非日常02 死神少女、名乗る。 >>3
非日常03 死神少女、契約する。 >>4
非日常04 死神少女、居候になる。 >>5
非日常05 死神少女、客と話す。 >>6
非日常06 死神少女、見送る。 >>7
非日常07 死神少女、転入する。 >>8
非日常08 死神少女、ムカつく。 >>9
非日常09 死神少女、不思議な現象に出くわす。 >>10
非日常10 死神少女、魔剣と対峙する。 >>11
非日常11 天然少女、妖刀と出会う。 >>12
非日常12 死神少女、竜を連れる。 >>13
非日常13 死神少女、再会する。 >>14
非日常14 死神少女、逃げる。 >>15
非日常15 死神少女、犬に追われる。 >>16
非日常16 死神少女、イラつき過ぎる。 >>17
非日常17 死神少女、超能力を体験する。 >>18
非日常18 死神少女、念動能力を見る。 >>21

訪問者様(ノベル・カキコ両方でカキコは小説復活後の方のみ掲載)
〆夜殿 〆満月殿 〆夜兎殿 〆(( `o*架凛様
皆様、訪問感謝です

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Re: 煉獄から死神少女。 ( No.4 )
日時: 2009/12/30 16:39
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

非日常03 死神少女、契約する。

 周りを見ると下品に涎を垂らし、今すぐにでも襲い掛かってきそうな半獣半人のような奴らが、俺達の周りを取り囲んでいた。半獣半人どころか、目玉が片方無い奴、顔がたくさんついている奴など、本当に化け物のようだ。
 死神、悪魔、その次は化け物か……。俺は知らないうちに異世界にでも旅立ったのか? どこのファンタジー漫画だおい。

「おい自称死神……。こいつらがアストラルとかいう奴か?」
「自称じゃないわ、死神よ。そう、そいつらがアストラル。何かこの世に未練があったりとか——そういう奴らが死神に魂を狩られることを拒んで、この世に居続けた結果がこれ。死者の魂がいつまでもこの世にいると、やがては負の力が増幅しこんな醜い姿へとなるの。気をつけて、そいつらは人の魂を喰らうわ。魂を喰われたら……アストラルの代わりにお前があの世逝きね」

 こんな奴らの代わりにあの世逝きだと? 冗談じゃない……。そんなふざけたことがあってたまるかよ!
 俺がアストラルとかいう奴に殴りかかろうとすると、それを自称死神が鎌で止めた。

「おいっ、どけよ! 俺はこいつらを……」
「何言ってるの? お前がアストラルに殴ろうとしたところで、拳は空振りして終わりよ。考えてもみなさい。アストラルは本来なら、この世にはもう“いない”存在なのよ? 私達死神みたいに、アストラルを狩る力を持ってない奴にこいつらは倒せない!」

 おいおい馬路かよ……俺は指を銜えて此処で見てることしかできないのか? こんな小さい女の子にしか頼れないのか……?
 俺が悔しそうに顔を歪めていると、自称死神は俺の目を見て言った。

「安心しなさい、私一人でもこいつらは倒せる。お前はそこで待ってるだけでいい」

 自称死神は身の丈よりある大鎌を持ち上げて、その鋭利や刃を振るう。鎌は次々と化け物共に直撃し、粒子となって消えて行く。
 こいつ……本当に死神なのか? ここまでくると、さすがに認められなかった死神を認めるようになってしまう。
 だが化け物共は思ったより数が多く、切っても切っても現れる。こいつらクローンかよ……!
 一人対大勢という圧倒的不利な状況で、敵を倒していった自称死神だかついに隙をつかれ、壁に吹っ飛ばされた。

「お、おい! 大丈夫かお前……」
「平気……お前はそこで待ってればいいの」

 変なところを打ったらしく、よろよろと立ち上がる自称死神。傷を負いながらも、なお次々と出てくる化け物を斬って行く。
 こいつ……全然笑わないし、自分のこと死神とかいう電波だけど、すげえ優しい奴なのかもしれない。化け物共を倒すだけなら、俺なんて庇わないでとっとと倒せばいい。
 俺は耐え切れず、ついに訊いてしまった。

「なあ、俺に何かできることはねえのかよ!? 俺も何か力に……」
「……一つだけあるけど、お前を巻き込むわけにはいかない。お前はお腹が減って倒れた私に、ご飯を食べさせてくれた。これはそのお礼」

 自称死神の言葉を聞いて、こいつは俺の思っていたようなむかつく奴ではないんだと思った。只、少し不器用なだけだったのかもしれない。
 だから俺は、俺を助けてくれているこいつの力になりたい!

「俺に出来ることなら何でもする! その方法が何か教えてくれ!」

 すると自称死神は鎌を止め、静かにその方法を告げた。

「……契約、私と“契約”すること。もし今のお前に私を助けてくれる勇気があるなら、契約して欲しい」

 「え?」と俺が聞き返す前に、俺の足元に光る円が出現した。変な文字や模様が描かれている。これって……ファンタジーとかに出てくる『魔法陣』ってやつか?
 何が何だか分からない俺に、自称死神は叫んだ。

「私と契約すると……『エヴァンジェリン=アリットセンと契約することを誓う』とその円の中で言うのよ!」

 よく分からないけど……とりあえずそう言えばいいんだな!

「俺は……泉井司は、エヴァンジェリン=アリットセンと契約する!」

 俺が円の中心で出る限りの声で叫ぶと、只光を放っていただけの円が黄金の眩い光を放ちながら、俺を取り囲む。
 するとどうだろう、自称死神までが黄金に光りはじめる。何がどうなってるんだ? 契約に成功したのか?
 何か不思議なオーラを纏いながら鎌を構える自称死神に、化け物が突如怯える。

{お前は幻獣使い——“竜の巫女”か……!}

 化け物がそういい終える頃には、自称死神によって化け物は全て一掃されていたのだった。

Re: 煉獄から死神少女。 ( No.5 )
日時: 2009/12/30 16:40
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

非日常04 死神少女、居候になる。

「あー終わった終わった」

 自称死神は疲れたように溜め息をつき、床に座り込む。まああんだけ化け物がわんさか出てくれば、それも仕方無いか……。
 ていうか今何が起きたんだ? 落ち着いて考えてみると、俺「契約する」とかその場の状況で言っちゃったけど。自分で言っておきながら言うのもあれだが、契約って俺はどっかのファンタジー漫画の中にいるのか?
 まあそれはひとまず置いておくとして、今回はこの自称死神のおかげで助かった。礼言っとくか。

「えーっと、有難うな。自称死神」
「自称じゃない、死神。それと——私の名はエヴァンジェリン」

 エヴァンジェリンはぷくうっと頬を膨らませてそう言った。こいつ……美少女だけに、こういう仕草は中々可愛い。いつもそういう態度をとればいいのにな。
 そういえば、こんな普通の街中の家で化け物と死神が戦っていたというのに、俺の家は一つも傷がついていないし、街中を歩く人は誰もこちらを見ていない。

「なあ……。何で家壊れてないんだ? それに周りの通行人、何事もなかったかのように誰一人としてこっちを見ていないぞ?」
「アストラルは死んだ人間の魂だから、生きている人間には誰一人として見えない。私と関わりを持ったお前は見えるけどね。通行人が誰一人としてこちらを見ないのは、ウィニの力」

 よく分かんねえけど、そういう事なのか。高校生一人と中学生だけしか住んでいない家に、鎌を持った少女が化け物と戦っている事が見えていたら、それこそ一大事だもんな……。
 何とか危機は乗り越えて一件落着になった筈なのに、死神エヴァは此処を動こうとしない。それどころか、テーブルに置いてあるお茶を啜っている。

「おい……アストラルとかいう化け物は消えたぞ? お前は帰らないのか?」

 するとエヴァはきょとんとして俺を見る。何か嫌な予感が……。

「何言ってるの? 私はお前を契約者としたのだから、今日から此処に住むのよ」

 えーと、はい? 美少女がいきなり知らない家に押しかけてきてそのまま住むという、ラノベみたいな展開が今まさに現実に?
 俺は反対しようとしたが、口を開こうとしたところでそれを止めた。何故ならエヴァが、大鎌を構えていざ叩き切らんという体勢で俺を睨んでいたからだ。

「……まあいいけど。俺の家広いし、二人だけじゃ部屋も余っていたところ……ん?」
 
 俺の家って結構広いからエヴァの部屋くらいある筈……。どうせ二人しか住んでいないし……。
 ……俺今二人っていったな。そうだ、この家に住んでいるのは俺だけじゃない……。

「そうだ、紫苑になんて説明すればいいのか……」

 ***

「ただいまー、すぐご飯作るから待っててー」
「お前が司の妹の泉井紫苑?」

 紫苑が七時頃に、部活を終えて帰ってきた。のはいいが、いきなりエヴァが玄関に仁王立ちで迎える。
 ちょ、待ってストップストップ! いきなり知らない美少女が居たら、俺に変な疑いかけられるから!
 という俺は、リビングのドアから玄関の状況を覗いている状態にある。無論、エヴァが変なことをしたらすぐ飛び出せるようにだ。

「えっと、どちら様……?」
「私はエヴァンジェリン、煉獄から来た死神。今日から此処に住むことになったから、宜しく」

 おいいいいい!! いきなり死神って名乗るか普通! 死神には常識ってものがないんですか? 日本の常識が通じないんですか!?
 紫苑がどういう反応をするかとハラハラしながら見てたが、なんと予想外の展開に。

「死神でエヴァちゃんって言うんだ。私は紫苑、中学一年生。宜しくねエヴァちゃん」

 おいいいいい!! 妹の紫苑! お前は泉井家の泉井紫苑じゃなかったのか!? 何でそんな簡単に死神を認められるんだ? こいつも電波だったのか!?
 俺はぐったりとしながら玄関に出て行き、二人を連れて再びリビングに戻った。母さん、父さん。貴方達の知らないうちに、泉井家に一人の少女が転がり込んでしまいました……。

Re: 煉獄から死神少女。 ( No.6 )
日時: 2009/12/30 16:40
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

非日常05 死神少女、客と話す。

 ***

「エヴァンジェリン=アリットセン、只の死神。宜しく」
『エヴァ様に仕える悪魔の、ウィニフレッド=シンクレアです。宜しくお願いしますです』
「私は泉井紫苑。宜しくねー、エヴァちゃんにウィニちゃん」

 七時半過ぎ。紫苑、エヴァ、ウィニ、つまりは電波三人娘が和やかなムードで自己紹介をしている。俺、泉井司はそんな電波の話についていけず、一人で黙々とご飯を口に入れる。
 何でだ。泉井家のまともな人間だった筈の紫苑が、何故に死神や悪魔が食卓に溶け込んでいてもにこやかでいられるんだ。

「お兄ちゃんも何か言いなよ」
「司も何か言えば?」
『司さんも何か言ったらどうですです?』

 電波三人娘が突如ぐるりとこちらを向く。何だ、その目は。俺に何か話せというのか。お前ら電波の間に俺を入れて、俺まで電波にしようとかそういう計画なのか?
 ああ、考えれば考える程頭がぐるぐるしてくる。とりあえず此処は何か言っときゃいいんだよな。

「えーっと、じゃあ……煉獄って何だ?」

 俺がそう訊くと、電波共は驚いたような顔をしてこっちを見る。何だよ、普通一般人が『煉獄』なんて言葉知ってるか! ていうか紫苑! お前は知ってんのかよ!
 頭の中で突っ込みまくっていると、驚いた顔から今度は冷めた表情で俺を見る電波。……そんなに俺をいじくって楽しいか。

「煉獄っていうのは、生と死の狭間のこと。私達死神は煉獄からこの世に来てるわけ」

 “そんなことも知らないのか”という俺を嘲笑うかの表情なエヴァ。くっ……こいつら、黙っていればいけしゃあしゃあと……!
 俺が打ち切れそうになって、箸をピクピクさせていた時だった。
 突然窓が割れて、硝子の破片が弾け飛んだ。な、何だぁ!?
 
「あ痛たた……」

 これはいったい何の夢だろうか……。長い栗色髪を後ろで三つ網にした少女が、いきなり空から窓に突っ込んできたんだが。
 状況の理解できない紫苑とは違い、エヴァとウィニは驚いた表情で少女を見ている。そしていきなり上手く使えていなかった箸を放り出すと、少女の下に駆け寄る。

「シャロン!? どうしてシャロンが此処に……」

 シャロンと呼ばれた少女は、くりくりした目を潤ませながらエヴァの胸に飛び込む。すいません、この展開に着いていけないのは俺だけでしょうか。
 俺はふと、シャロンとかいう少女が入ってきた窓に目をやる。見るも無残に粉々になった窓硝子が俺の視界に入る。
 
「おい! お前いきなり何なんだ? 人の家の窓割って……これどうすんだ?」
「は、はう! ごめんなさい!」

 俺のことがそんなに怖かったのか、ヒッと怯えた表情で何度も謝る少女。なんかこれじゃあ、俺が悪いことしたみたいで罪悪感が……。
 そんな俺にエヴァ、ウィニ、紫苑が冷たい視線を送る。や、やめろ……確かに俺も言い過ぎたかもしれないが、元はと言えばこのシャロンとかいう女が……。
 俺が弁解しようとする前に、何故泉井家に突っ込んできたのかとエヴァが事情を聞き始める。

「で、いったいどうしたの? シャロンがこの世に来るなんて、何かあったんじゃないの?」
「そ、そうなの! 私はそれを伝えようと、使い魔のユリアにエヴァの居るこの家に連れてきてもらったんだけど……」

 使い魔? 俺が疑問に思ってると、栗色髪の少女の周りを羽ばたく蝙蝠がいた。そして次の瞬間、どっかの黒猫のように煙を纏いながら、ツンツンした桃髪の少女へと変身した。
 
『ほーんと、シャロンはあたしがいないと駄目なんだから!』
「ご、ごめんね。ユリア……」

 そう主人である筈の少女を見下ろしながら威張っている、ツンツンした小柄な少女。立場がまったくもって逆だと思うんだが……。
 ずれた話を戻そうと、エヴァがもう一度栗色髪の少女に問いかける。

「話を戻すけど、何があったのよ?」
「は、はうっ。ごめんなさい! それが……この世で魂を回収し終わって煉獄に戻ろうとした時、アストラルに襲われて……。一体だけで、何か変だなって思ったら、普通の人間の形をとるアストラルだったの……。そ、それで『“竜魂珠”はどこだ』って言われて……ううっ」
「……竜魂珠、ね。やっぱこれを狙う奴が出たか……」

 あっという間に人間には理解できないような、死神とかファンタジーな奴らしか分からない話に。すいません、俺にも分かるように話して下さいよ。何故か紫苑も「うんうん」とか言っちゃってるし、分かんないの俺だけじゃん。
 蚊帳の外にされていた俺だが、いきなりエヴァが俺の方を見て話しかけてきた。

「単独で竜魂珠を奪いにくるとは考えにくいし、何かの組織かもしれない……。で、司。お前は私の契約者(コントラクター)なのだから、勿論協力して貰うわよ」
「この人がエヴァの契約者なの? 私はシャロン=スウィーニー。宜しくね、司君」
『ついでだから名乗ってあげる。あたしはユリア=ハイゼンベルク。あんたがエヴァンジェリンの契約者? 随分と地味な人間ね』

 ……ユリアとかいう奴の上から目線な態度が、もの凄くむかつくんだが。
 ていうかやっぱ首突っ込もうとしなかった方が良かったかも……。何か思いっきり変なことに巻き込まれようとしてるんだけど、俺。
 話が段々とワケの分からないところにいこうとしていたが、紫苑がそれを食い止めた。

「まあまあ皆。話は後で。シャロンちゃんもユリアちゃんも、一緒に晩御飯食べよっ?」

 「はい」と素直に頷くシャロンと「仕方ないわねっ」と相変わらずツンツンした態度のユリア。とにかく今は、いきなり来た訪問者も含めて晩飯を食うことにした。

Re: 煉獄から死神少女。 ( No.7 )
日時: 2009/12/30 16:40
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

非日常06 死神少女、見送る。

 ***

 エヴァ、ウィニの死神&悪魔+シャロン、ユリアという新たな居候が来ながらも、何だかんだで休日を乗り越えた俺。毎週楽しみにしていた休日を「乗り越えた」なんて言い方をする日が来るとは……。
 そしてやってきた月曜日、つまりは学校という名のかったるい五日間の始まりでもある日。紫苑は既に中学校に行っており、玄関まで出た俺は、怪しい4人組みに見送られ学校に行くことになった。

「行ってらっしゃーい」
『司さん、行ってらっしゃいです』
「頑張ってきて下さいね、司君」
『とっとと行きなさいよ、司』

 エヴァ、ウィニ、シャロン、ユリアの順でお見送りの挨拶をする。どうも最後のツンツン娘の挨拶だけがムカつくな……。
 少しムッときながらも、何事もなく家を出た俺。これから毎日、こうなると思うと何だか少し気が重くなるな……。

 ***

 俺の通う高校は、私立の風之宮高等学院。この私立校に入った理由は進路に迷ってた時に中学からの親友、望月光輝に風之宮学院に入らないかと誘われたから、何となく入ったといういい加減な理由だ。特別頭の良くない俺は、偏差値がまちまちの学院に入ることに、特に反対する理由もなかった。
 そして入ってから数ヶ月。俺は特に変わらず学院生活を送っている。

「おーっす、司! 今日は遅刻しなかったんだな!」
「うっせえよ光輝、この前はたまたまだ、たまたま!」

 学校に着いた俺は、風之宮学院の朝休みに光輝のからかい半分で話しかけられる。いつもなら軽くスルーできる俺だが、あの電波死神共のこと、教室の女子のグループなどのざわめきが耳に入り、何だがイラつく。
 俺がカリカリしているのに気づいたのか、気づけば光輝は自分の席に着いていた。ったく、あいつは自分が不利な状況に立つと、いち早く逃げてるんだよな……。
 苛立ちを募らせていく中、朝休み終了を告げるチャイムが鳴る。教室の隅で騒いでいた女子や、廊下でふざけていた男子が次々と自分の席へ座る。全員が席に座るまではそんなに長くなく、あっという間にクラス全員が着席し、うるさかった教室が静かになる。俺の席は左の列、つまりは窓側の列の後ろから二番目だから、その光景がよく分かった。
 沈黙が走る中、それを破るように教室の前の方のドアが開き、セミロングの茶色っぽい髪を後ろで束ねた、1年2組の担任篠塚綾が入ってくる。

「皆おはよう。出欠とるから、名前呼ばれたら返事するように。じゃあまず逢坂!」

 一人ずつ名前を呼ばれていく。クラスの奴の名前を覚える気がない俺は、未だにクラスの3分の1くらい出席で名前を呼ばれていく奴の顔と、苗字が一致しない。
 俺の苗字は「泉井」だからすぐ呼ばれる。返事をし終わりぼーっとしていると、後ろで椅子が倒れる音がした。誰だよ、出席如きで慌てる奴は。ていうか出席って別に立たなくていい筈じゃ……。

「は、はい!」
「伊吹、お前は相変わらずドジだな……」

 伊吹……? 伊吹って確か、この前の席替えて俺の後ろになった……伊吹澪、だったか?
 呆れ顔で篠塚先生が伊吹を見つめる。長い黒髪を揺らしながら、返事をする伊吹。はわはわと慌てているその姿は、まさにドジっ娘の象徴と言える気がする。
 伊吹が席に座ると、それからまた次々と名前を呼ばれて出欠が終わる。

「一時間目は数学だ。頑張れよ」

 そう言って篠塚先生は教室を出て行った。僅かな準備時間の中、教室のあちこちで女子男子が群れて話し始める。
 さてさて、俺は数学の準備……ってえ!? やべえ、筆箱の中にシャーペン入れ忘れた……。休日ノートを整理している時、机に置きっぱなしにしたんだ……。どうしよう。
 俺があたふたと慌てていると、後ろからとんとんと何かで背中を突かれた。一体誰だと振り返ると……伊吹? 伊吹がシャーペンの押す部分で、軽く俺の背中を突いたらしい。

「あっ、あの! 泉井君! 良かったら、私のシャーペン使って。二つ持ってるから」
「おお、サンキュー伊吹! 助かった!」

 そう礼を言うと、伊吹がにこにことシャーペンを渡そうと筆箱を探る。と、座った状態でどうやったらそうなるかが不思議なんだが、突然滑って転んで筆箱の中身を落とした。床にバラバラと消しゴムや色ペンが散らばる。

「お前、本当にドジだな……」
「ごっ、ごめんね泉井君!」

 一緒に拾いながら伊吹が謝る。ほんとドジっ娘の鏡だ、コイツ。
 その時伊吹の顔は赤面状態。そんなにドジが恥ずかしいか……と俺は呆れながらそう思った。

Re: 煉獄から死神少女。 ( No.8 )
日時: 2009/12/30 16:41
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

非日常07 死神少女、転入する。

 ***

 紫苑も帰ってきて七時半。リビングの机を六人の人間が囲みながら食事を摂る。人間といっても俺と紫苑以外は死神と悪魔しかいない為、六人と言っていいのか。こんな面子で晩飯を食っているのは、おそらく日本中探しても俺の家くらいだ。
 使い慣れない箸で米を口に入れながら、エヴァが俺に聞いた。

「ねー司。学校って何?」
「……別にお前が知る必要はないだろ」

 そうご飯を口に含めながら言う。するとエヴァはぷくーっと河豚のように頬を膨らましながら、ご飯を口の中にかき入れる。そして箸を勢いよく机に叩き付け、ごちそうさまも言わずズシズシとリビングを出て行った。……俺何か悪いこと言ったか? 別に俺は知る必要はないって言っただけで、特に何も……。
 そんな俺を見て、ユリアが冷たい視線を送りながら言った。

「あーあ、エヴァ拗ねちゃった。司ってデリカシーってもんが無いんじゃない?」

 んだとこの桃髪ツンツン娘。お前の生意気なその態度よりはマシだ。……と俺は言いそうになったが、ユリアの言っていることも間違っているわけではないので黙っておいた。
 そんな中、シャロンやウィニなど次々と飯を食い終わり、部屋へと戻っていく。何なんだ、シャロンやウィニは何もしていないのに、何か孤独感というか疎外感というものがあるんだが。
 とりあえず飯を食う俺の目に、紫苑がエヴァの方へと行くのが映った。どうしたんだあいつ。

「ねえ、エヴァちゃん。……」
「……い。ど……ば……」

 俺はリビングに居た為、廊下のあいつらの会話はよく聞こえなかった。何か企んでいたりして……まさか。

 ***

 朝休み終了のチャイムが鳴り、いつものように篠塚先生が前方のドアから入ってくる。何だか今日は篠塚先生が一段とはりきっているように見えるのは、気のせいか……?
 篠塚先生は教卓に手をバンと叩き付け、クラス全員に言った。

「突然だが、今日は転入生を紹介する。さあ、入れ」

 綺麗な声なのに男言葉な篠塚先生の口調。慣れている筈なのに、何かの前触れな気がして背筋がぶるりと震えた。
 前方のドアから転入生が入ってくる。どうやら女子のようだ……おいおい嘘だろ。俺はこの時目を疑った。できれば幻覚であってほしいとも思った。腰まである長い黒髪に、ルビーのような赤い目の美少女。紫苑、まさか昨日お前……。

「転校生の黒神慧羽だ。皆、仲良くやれよ」

 黒神慧羽なんて誰が付けた名前かは知らないが、あの顔、あの高校生とは思えない小柄な体格は、間違いなくエヴァだ。紫苑の奴、昨日エヴァに何か仕込んだのか……帰ったら問い詰めてやる。
 「あいつ本当に高校生か?」「でもかわいー」「ほんとだ、なんつー美少女……」教室のあちこちで、転入生の少女に対しての感想が漏れる。その殆どは、少女に対しての称賛の言葉。
 教室がざわめく中、篠塚先生が教室を見渡し、そして窓側の方を指差す。

「ええーと、黒神の席は……。ああ、伊吹の隣が空いているな。お前の席はあそこだ」

 エヴァが騒ぎ立てないかとビクビクしたが、予想外に何も言わずに静かに伊吹の隣、つまり俺の右斜め後ろに座った。
 こいつ、静かにしていれば美少女な部分が目立つし、学校に来れば結構モテるだろう。でもこいつは大人しくするような奴とは思えない、まだ安心はできない。
 とにかく何とかして学校では静かにさせないと、俺がそう右斜め後ろを振り向くと、伊吹が自己紹介をしようとエヴァに話しかけていた。

「私は伊吹澪。宜しくね、黒神さん」
「黒神さんじゃなくて、慧羽でいい。宜しく、澪」

 案外普通に仲良くしているな……。何でこんな所では常識があるんだ、何で俺の前では常識の無い態度をとるんだ。まあ此処で常識ある態度をとってくれるのは助かるが、何か腹立つな……。
 出欠を取り終わり、篠塚先生は授業の為教室を出て行く。そういや一時間目は図書室か……。図書室に行く前に、まずはあいつを問い詰めてやるとする。伊吹と話していたエヴァの肩を掴み、こっちに引きずり込んだ。不思議そうにこっちを見る伊吹に図書室に行くよう、手でしっしと合図をする。

「なによ司。私に何か用?」
「エヴァ……てめえ『何か用?』じゃねーだろ! 何でお前此処に来てるんだ! いつから黒神慧羽とかいう奇妙な名前になったんだ!」
「『エヴァ』じゃなくて『エバ』! “黒神慧羽”っていうのは、慧羽はエヴァから、黒神は死神は黒い神だから黒神って紫苑が名付けたの! 此処に来たのは紫苑が私に学校のことを教えてくれたから、魔術を使って人間に扮したのよ!」 

 エヴァもエバも変わんねーだろ! てかこの名前付けたの紫苑か! あいつどんどんおかしくなっていくな……。しかも「魔術」とかまたファンタジーなもんが出てきたな。勘弁してくれ、これ以上俺を二次元に連れ込むな!
 教室の隅でごだごだ言い合っている俺達を、不思議そうに伊吹が見つめていることに気づく。こいつ、まだ教室にいたのか……!

「泉井君、慧羽ちゃんと知り合い?」
「え……っ。ま、まあな! ちょっとな!」

 適当に笑ってはぐらかす。伊吹は首を傾げていたが、にっこりと笑って俺達に呼びかける。

「泉井君、慧羽ちゃん、よかったら……一緒に図書室行こう?」

 女子と行くというのはいささか照れ臭いが、特に反対する理由もない。俺達は自分達以外誰もいない教室を出て、図書室に向かった。


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