ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 煉獄から死神少女。 もうすぐ20話突破企画とゆー事で
- 日時: 2009/12/31 20:50
- 名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)
- 参照: http://noberu.dee.cc/novel/bbs/white/read.cgi?no=215
もうすぐ20話突破記念 >>22 オリキャラ募集も有り
※ノベルでは実は19話まで進んでいたり。
〆御挨拶
どうもこんにちは、更紗@某さんです。
作者はこのサイトに相当嫌われているのか、小説がまた消えましたと。
でも作者が住み着いているサイト(参照)での執筆が主なので、復活させました。
では宜しくお願いします。
※まだまだ未熟なので、アドバイスや感想を下さると有難いです。
※当然ながら荒らしはお断り。
※フランス語やら悪魔やらが出てくるので、分からない場合は更紗に聞いて下さい。
※浅いコメントはお控え下さい。また、コメントついでに小説を宣伝する行為もやめて下さい。
※多少グロテスクなシーンが有るかと。
目次〆
Prologue 幻想と現実の死神 >>1
非日常01 死神少女、現る。 >>2
非日常02 死神少女、名乗る。 >>3
非日常03 死神少女、契約する。 >>4
非日常04 死神少女、居候になる。 >>5
非日常05 死神少女、客と話す。 >>6
非日常06 死神少女、見送る。 >>7
非日常07 死神少女、転入する。 >>8
非日常08 死神少女、ムカつく。 >>9
非日常09 死神少女、不思議な現象に出くわす。 >>10
非日常10 死神少女、魔剣と対峙する。 >>11
非日常11 天然少女、妖刀と出会う。 >>12
非日常12 死神少女、竜を連れる。 >>13
非日常13 死神少女、再会する。 >>14
非日常14 死神少女、逃げる。 >>15
非日常15 死神少女、犬に追われる。 >>16
非日常16 死神少女、イラつき過ぎる。 >>17
非日常17 死神少女、超能力を体験する。 >>18
非日常18 死神少女、念動能力を見る。 >>21
訪問者様(ノベル・カキコ両方でカキコは小説復活後の方のみ掲載)
〆夜殿 〆満月殿 〆夜兎殿 〆(( `o*架凛様
皆様、訪問感謝です
- Re: 煉獄から死神少女。 ( No.9 )
- 日時: 2009/12/30 16:41
- 名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)
非日常08 死神少女、ムカつく。
***
「今日の練習はこれで終わり! 皆お疲れ様ー」
風之宮学院四階にある音楽室。そこには学院の一年生が五人、それぞれギターなどの楽器を弾いていた。五人の中には長い黒髪の少女、伊吹澪もいる。
伊吹澪は風之宮学院の中でも、今年設立されたばかりの軽音楽部に所属している。小学校は音楽クラブ、中学校は吹奏楽部と音楽関連の部活に所属していた澪だが、高校は音楽クラブや吹奏楽部とはまた違った音楽をやってみたいということで、軽音楽部に入ったのだ。
顧問であろう黒髪のショートヘアの女性が部活終了を告げると、部活メンバーは一斉に自分の担当する楽器を仕舞い始める。そんな中で、茶髪っぽい長髪をポニーテールにした活発的な少女が、澪に寄って来る。
「お疲れ様澪ー! やっぱ風之宮学院軽音楽部のキーボードは、澪でなくっちゃねー! もうすぐ文化祭だし、頑張ろうね」
「有難う千秋ちゃん。千秋ちゃんもギター頑張ってね」
話しかけてきたのは同学年で軽音楽部部長、桜井千秋。軽音楽部の中心とも言え、活発で明るく親しみやすい少女だ。澪は知っている人のいない軽音楽部に入り不安だったが、千秋がドジな澪に積極的に話しかけてきてくれ、おかげで軽音楽部の他のメンバーとも仲良くなり、楽しく軽音楽部を続けていられる。
千秋や他のメンバーは澪に「また明日」と言うと帰り、顧問の先生が帰る時鍵を閉めてくれないか、と音楽室の鍵を渡され、音楽室で澪は一人になった。
キーボードを準備室に仕舞い、教室の隅に置いてある鞄をとって帰ろうとする。が、その時いつもとは何か違うことに気づいた。
「これって……日本刀?」
何故誰も気づかなかったのかは分からないが、澪の鞄の上に鞘に仕舞われている日本刀が置かれてあったのだ。それも日本刀の中では大太刀に分類される、長大な刀だ。
突然の日本刀の出現に澪はどうしていいのか分からず、あたふたと慌て、辺りをぐるぐると走り回る。そしてドジっ娘らしく、音楽室の床に滑って転ぶ。いたたた……と額を抑えながら立ち上がる澪。
「どどどど、どうしよう! 何でこんな所に日本刀が!? 先生に言った方がいいのかな!? でもこんなの持ちながら校舎内歩き回ってたら、日本刀を持ち歩く怪しい人に見られるかも……。どうしようどうしよう!」
***
エヴァの校舎内見学に付き合い、気が付けばもう夕方。あーあ、ほんと勘弁してくれよ……。何でこいつが学校まで来てるんだよ。
そんな俺の気持ちも知らず、物珍しそうに校舎を見渡していたエヴァにこんなことをいったら、あの巨大な鎌で叩き切られるのがオチだろうか。口は禍の門と言うし、胸の奥底に仕舞って置くとしよう。
俺とエヴァは只今下校途中。校舎内見学の時のように物珍しそうに街中を見渡すエヴァを、俺は溜め息をつきながら見る。こいつに付き合ってると疲れる……。
俺がぐったりとしていると、エヴァが異変を察知したかのように辺りをきょろきょろと見る。今度は何なんだ……。
そうぐったりしている暇も無かった。だって俺達の目の前には、あの……。
「アストラル……! それも結構数が多い。司、竜魂珠が宿っているお前ならあいつらに触ることが出来る。いくわよ司!」
「はっ!? 何だよ竜魂珠が宿っているって!」
俺の言葉なんて聞きもせず、どこからか巨大な鎌を取り出し、次々と化け物共を切り倒していく。よく分からないが、俺もあいつらに触れるらしい。竜魂珠うんたらかんたらは後で問い詰めてやるとして、今はこいつらを倒すことが先か。
コンクリートの地面を蹴り、勢いをつけてアストラルに殴りかかる。すると拳は見事に相手の顔面にヒット。アストラルは吹っ飛ばされ、そして消えていった。
だが勝利を確信したのも束の間。俺が再び構えようと隙の出来たところに、他のアストラルが飛び掛る。や、やべえ……!
「司!」
エヴァが方向転換して俺を喰らおうとするアストラルを切り倒そうとするが、間に合わない。くそっ……こんなところで……!
俺がそうぎゅっと目を瞑ったところで、俺を喰らう筈だったアストラルが、エヴァ以外の何者かに切り倒される。エヴァ以外に一体誰が……!?
後ろを振り向くと、そこには黒服の男とシルクハットにベスト、ボーダーの靴下に茶色のブーツを着用した、エヴァと同じく巨大な鎌を持つ長い茶髪の少女だった。
「……フローレンス=クルック、助けてなんて言ってないんだけど」
「別にー……。ボクはアストラルを見かけたから狩っただけ……。君を助けようとしたワケじゃないよ。君は強いからそんな必要ない……。まあ一つ言わせて貰えば、アストラルに集中し過ぎて契約者さんの方ががら空きになってるかなー……」
ふわああ、とフローレンスとかいう少女は欠伸をかますと、面倒臭そうに片手で鎌を振り回す。エヴァもアストラルを倒していき、何とかアストラルを全て倒すことができた。
ん? そういや今こんだけ暴れたのに、誰もこっちを見てないな。ウィニは家だから、一体誰が?
「そこの契約者さん。もしかして“何故誰もこっちを見ていないのか?”とか思ってるー……? それはねえ、ボクの使い魔のおかげだよお……」
うおっ! こいつはサイコメトラーか! 何勝手に俺の心読んでるんだ!
まあ突っ込んだところで仕方無い。これ以上突っ込んでおくのは止めて置こう。で、使い魔っつーのはこの黒服の男か……? 黒髪に金色の目。何か猫みたいな感じの色の組み合わせだな。
「ゼルギウス=ベーレントだ。お前、エヴァンジェリンの契約者か……」
そう言って黒服の男は俺を見つめる。何でこう会う奴は俺のことをエヴァの契約者か何たら間たら言うんだよ。俺ってそんなショボく見えるのか? 死神とかと違って普通の人間だから、仕方ないだろうけど……。
俺と黒服の男が何故か見つめ合っているのをよそに、エヴァとフローレンスっつー少女が何やら話している。それにしてもエヴァの顔、何だか怖いんですけど。
「フローレンス=クルック……何で此処にいるの? 相変わらずどこかムカつくのは変わってないし……」
「うーん、ちょっとあるとこから盗んできた神器が、勝手にどっか行っちゃってさあ……。ここら辺にあるみたいだから、ゼルと一緒に探してたんだけど……。でかい日本刀、見かけたら教えてねえ」
「他探すよゼル」と少女が言うと、黒服の男は少女の方に向き直り、何処かへと消えていってしまった。今神器とか聞こえたが、魔術の次は神器か。どんだけファンタジーに侵食されてるんだこの世界は。三次元ニ次元化でも進んでいるのか、怖いもんだ。
おっと、俺はこんなことを考えている場合ではない。とっとと竜魂珠とかいうのについて、エヴァに問い詰めてやらないと。
「おい、さっきの竜魂珠が俺に宿っているうんたらかんたらって何だ。お前俺に何をしたんだよ!」
するとエヴァは面倒臭そうにはあ、と溜め息をつきながら説明を始める。
「竜魂珠っていうのは幻獣——つまりその代表であるドラゴンの力が宿った宝玉のことよ。その力を上手く使えば、魔術師や死神が何百人、何千人と取り囲んだところで瞬殺できる。代々煉獄では幻獣を最も上手く使える者——竜の巫女に竜魂珠を護る為に継承されていく。その竜魂珠は、死神が契約すると共に死神と人間に繋がりが出来るから、ごちゃごちゃと色々な力が宿っている死神より、何の力も宿っていない人間へと移り宿る。お前が今アストラルに攻撃できるのもそのおかげよ」
……何だそりゃ。理屈が全然分からないというか、ファンタジー用語多すぎて着いていけません。何で俺の身体にそんな面倒臭いもんが宿るんだ、俺の身体に障害が起きたらどうするんだコノヤロー。
エヴァは話し終えると、また一つ溜め息をついて呟いた。
「まあ竜魂珠がこっちにあるのはいいとして……。まさか神器がこの近辺にあるとはね。面倒臭いことになりそう」
- Re: 煉獄から死神少女。 ( No.10 )
- 日時: 2009/12/30 16:42
- 名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)
非日常09 死神少女、不思議な現象に出くわす。
***
軽音楽部の練習が終わってから一時間程が経過した。軽音楽部所属の伊吹澪は下校時間が一時間前後遅れながらも、いつものように帰っていた——ただし、鞄の中に日本刀を隠しながらだが。隠したといっても、日本刀の中でも長大な大太刀という種類の為、鞄から鞘から上の部分から柄の先までがはみ出ている。彼女は自分が目立っていないか、と周りの目を気にしながらも街中を歩いている。
彼女が今日の帰りが遅い理由はその日本刀にあった。帰ろうとしたら鞄の上に何故か日本刀が置いてあり、処置に迷っていたら一時間が経過。『先生に持っていっても怪しまれるかもしれない、とりあえず家に持って帰ってみよう』と澪は思考錯誤の末結論付けた。教師に届けに行くより、自分の家に一旦持ち帰る方が余程怪しまれるだろうが、混乱していた澪はそんなこと欠片も思わなかった。
家に日本刀を持ち帰ったところで親に問い詰められるかもしれないが、澪にその心配はなかった。何故なら澪の親は小さい頃他界、親戚の夫婦に育てられ、今は自分の貯金や親戚夫婦の仕送り、アルバイトなどもしてアパートで一人暮らしをしている。
日本刀を持ち帰ることに澪は何の問題も無いわけだが、そのようなことよりいきなり日本刀が現れた方が驚きだ。澪は鞄からはみ出ている日本刀をまじまじと見つめる。
「でもどうしよう、この日本刀……。警察に届けた方がいいかなあ……」
澪がそう思い悩んでいた時だった。突如夕暮れの橙色の空が深夜のように急に暗くなり、街中を歩いていた人間が一人残らずいなくなってしまったのだ。この異常事態に、澪は慌てて周りを見渡す。
「な、何!? 皆どこに行っちゃったの!?」
あたふたとなっている澪の後ろに、静かに影が忍び寄っていた——。
***
俺が自分の部屋でラノベを読んでいた頃、突然夕暮れの空がまるで深夜のように真っ暗になった。何だ何だ? 何の異常事態ですかこれは。まさかまたあいつの仕業か、あの電波娘の仕業かコノヤロー。
ドタドタと忙しく階段を駆け下りて、リビングのドアを開いた。するとエヴァ、ウィニにシャロンとユリアと新たな電波を加えた電波四人娘がテーブルを囲んで何やら深刻そうな顔で話していた。地球を魔術うんたらかんたらで黒い世界(=煉獄)にでもしようって計画か? そうなのか? あいつらのことだからきっとそうだ。
「おいてめーら! 急に空が暗くなったけど、これもてめーらの仕業か!?」
『何言ってんの、あんた馬鹿? こっちだってこの現象に今気づいたばっかよ! だから即急に対策を練ってるんじゃない! 役立たずは蟻の巣にでも引っ込んでなさいよ!』
そう俺を睨みながら吠えるユリア。蟻の巣って何だ蟻の巣って! 俺は蟻扱いかツンツン娘! この糞悪魔め、言いたい放題言いやがって……!
今にも噛み付きそうなユリアをウィニが取り押さえる。まあいきなり犯人扱いをした俺も俺だな、このツンツン娘に対してはいつか別の機会に制裁を加えてやるとしよう。
事情を聞きに来た俺に対して、エヴァが答えた。
「この現象を引き起こしたのはは私達じゃないわよ。これだけの大魔術ということは、故意でやっていることは確かね。それにさっき司と学校から帰ってきたところも含めて、いくつかの場所からアストラルの気配がする……。というわけで何が起きたのか、私と司で調べに行くよ。シャロン、ユリア、ウィニは残って紫苑とこの家を護ることと、何か気づいたことがあれば報せて」
ラジャ、と三人は声を揃えて言う。は? 何で俺まで一緒に行かなきゃいけないんだよ、お前だけ行けばいいだろ。と思ったが、大鎌て叩き切られたらやはり敵わないので、一緒について行くことにする。
俺とエヴァは紫苑、ウィニ、シャロン、ユリアを家に残し、辺りを捜索することにした。それにしても暗いな……この街だけ世界から切り取られて闇に包まれたみたいだ。エヴァはそんな暗い街の中、迷わず一つの方向へと歩き始めた。こっちの方向は……エヴァと俺が帰ってくる道か。
エヴァの進む方向に、俺も着いて行こうとした時だった。突然エヴァの目の前に、一人の少女が現れる。長い黒髪をツインテールにし、黒いメイド服——までは只のコスプレ少女なのだが、手には柄の部分が黄金の剣と明らかにおかしい組み合わせだ。エヴァが大鎌を取り出し構えると、少女は無表情で喋り始めた。
「こんばんは——いや、暗くてもまだ夕方なので“こんにちは”が正しい挨拶でしょうか。貴方がエヴァンジェリン=アリットセン、ですね?」
「そうだけど、それが何よ」
あの女の子、やっぱり只のコスプレ少女じゃない。エヴァ、つまり死神の存在を知っているということは、こいつも煉獄や悪魔うんたらかんたらってのと関わりのある人間。もしかしたら、この子が今回の事件を引き起こしたのか?
考え込んでいると、エヴァが俺に指示した。
「司、お前は先に行って。今日帰ってきた道を辿っていけば、原因がいるはずよ。私も後から必ず行くから」
「で、でも!」
「早く行って!」
エヴァの口調が強くなる。俺は言われるがままに、いつもの帰宅する時に使う道を走っていった。
***
「いいの? 司を先に行かせて」
「構いません、あの人間だけでは所詮何もできないでしょうから。それに私の役目は、貴方を足止めすること。私は私の使命を遂行するまでです」
少女はそう言って剣を構える。エヴァもそれに対抗するように大鎌を構えた。そんな中で、エヴァは少女に問う。
「お前、名前は?」
「名前? ……アテナ、と申します」
「嘘、偽名ね。本当の名前は何よ」
「嘘ではありません。正確に言えば……“4”(フィア)のアテナ、でしょうか」
エヴァが「“4”のアテナ」という奇妙な名について聞き返す時には、少女アテナの剣がエヴァを断ち切らんと襲い掛かってきていたのだった。
- Re: 煉獄から死神少女。 ( No.11 )
- 日時: 2009/12/30 16:42
- 名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)
非日常10 死神少女、魔剣と対峙する。
アテナの強襲にエヴァは反射的に大鎌を振るう。大鎌は剣に当たりアテナは一旦後ろに下がった。
さっきまでいきなりアテナが現れたことに焦っていたせいか、アテナの剣が普通の剣と何か違うことにエヴァは気づく。アテナの剣は禍々しい邪気を纏っているというか、どこか闇のように黒い。じいっとその剣を見つめていると、アテナがエヴァの疑問を察したかのように答える。
「この剣は貴方がお察しの通り、普通の剣ではありません。私の所有する神器で、“呪詛の剣”(ティルヴィング)と言います。絶対的な攻撃力を持つ神器ですが、その代わり持ち主を破滅に追い込む呪われし諸刃の剣——それがティルヴィング。支配するのに苦労しましたよ、随分と」
エヴァも聞いたことはある、神器“呪詛の剣”。その剣はアテナの説明通り、鉄だろうが容易く斬れる攻撃力を持つが、呪詛の剣と言う名からもうすうす予想は付くが、意志を持つ剣で次第に持ち主を破滅へと導く呪いの魔剣。だが当の所有者であるアテナは、苦労したと言いながらもその表情からはまったく苦労したようには見えない。
「そんな恐ろしい魔剣を抑え込んだ? 剣よりお前の方が恐ろしいわね……」
「褒め言葉として受け取っておきましょう」
アテネは変わらず無表情でそう言い、再び剣を構える。それに対抗する為、エヴァも大鎌でアテネに襲い掛かった。
***
澪の背後から出てきたのは、澪と丁度同じくらいの歳の一人の少年。ニット帽のような黒い帽子、黒いマフラー、黒いコートにガンベルト、更に闇のように黒い髪に充血したような赤い目と、エヴァと同じ吸血鬼のような色の組み合わせだった。澪は少年だからと警戒してないのか、にこやかに笑いかける。
少年は何をするかと思えばガンベルトから一つの装飾銃を取り出し、澪へと銃口を向ける。いつも天然でほわほわとしたオーラを放つ澪も、さすがにこれには驚き思わず口から悲鳴を漏らす。
「お前が神器“村正”の所有者か? その刀、こっちに渡してくんねえかな。通りすがりの女子高生を脅すなんて趣味でもないしメンドくせえけど……これでも一応“堕天の一団”(グリゴリ)十二柱の一柱だし……仕方ないからお前を脅して村正を奪うことにした」
村正、グリゴリなど澪にとっては意味の分からない単語ばっかり出てきたが、自分の命が危険だと本能がさっきから身体へと訴えかけている。が、逃げようにも身体が動かない。
謝っておとなしく刀を渡すべき、自分の命を救いたければそうするのが一番だろう。しかし此処で目の前の少年にこの刀を渡してはいけないと、よく分からないが命の危険と共に本能がそう言っている。自分の命が危険で助かりたいのに、その助かる方法を実行しようとしない——何とも矛盾していると澪は思った。
どうするか考える時間が欲しいところだが、少年はそれを待ってくれなかった。ゆっくりと、少年が引き金を引こうと指をかける。澪は逃げたくとも、足が凍ったように動かない。
「その刀——渡せば助かるぜ、お前」
「……この刀、どうする気なの?」
「いいから早く渡せ」
少年がそう言い放った時、銃が何者かの一撃によって弾かれた。少年はかすかに驚いたように弾かれた銃に目を向け、反対方向の銃を弾いた衝撃の方を向く。
澪も驚いて振り向くと、そこに居たのは大鎌を持った栗色髪の少女、つまりシャロンだった。
「心配になって来てみたら、怪しい気配がするものびだから……。家で待機したままじゃなくて良かった」
「……誰だ、お前。邪魔するならお前を撃ち殺して村正を奪うまでだが?」
少年は弾かれた銃を拾い、澪に向けていた銃口を今度はシャロンに向ける。少女の姿をしているとはいえ戦う術を持っているシャロンは、銃口を向けられたところでビクともしない。
それを見た少年は引き金を一気に引き、弾丸を飛ばす。弾丸は太陽のような光を纏っている、灼熱の銃弾。その弾丸をシャロンは軽く避ける。
「その銃は普通じゃないよね。それも神器の一種かな?」
「ご名答。俺の所有する神器“太陽弾”(タスラム) それだけじゃない。この銃が他の神器と違うのは」
口の端を少し上げてにやりと不敵に笑うと、少年はガンベルトからもう一つ銃を取り出し、銃弾を乱射する。弾丸の嵐にシャロンは翡翠色に輝く円——魔法陣を出現させ、ドーム型の盾で弾丸を防ぐ。だが、その
盾にも段々ヒビが入り始めてきた。
「驚いたか? 俺の神器タスラムは二つで一つ……つまり二丁拳銃ってやつだ」
- Re: 煉獄から死神少女。 ( No.12 )
- 日時: 2009/12/30 16:42
- 名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)
非日常11 天然少女、妖刀と出会う。
澪は今起きている状況が、何なのかまったく理解できていなかった。分かることといえば、今自分が“村正”という刀を持っているせいで、目の前の少女が危ない目に合っていることだ。この刀を少年に渡せば栗色髪の少女は助かる……だがさっきまでうっすらとしか感じていなかったが、今の光景を見てはっきりと分かった。あの少年に自分の持っている刀を渡してはいけないと。
シャロンの盾はもうすぐで崩れてしまいそうだった。いつ弾丸を込めているのか、少年が銃弾を切らすことはない。このままでは、あの少女に弾丸が当たってて……。澪の脳裏に最悪な結末が浮かぶ。
そんな中、澪は考え付いた。今少年はあの少女に集中攻撃をして、こっちにまったく目をやっていない。少年に気づかれぬよう背後から忍び寄って、この刀で軽く傷を付ければ……。それは不意打ちという、卑怯なことであることを澪は知っている。
だが今はそのような事を言っている場合ではない。このままだと、自分達がやられてしまうのだから。澪は恐る恐る、鞘から刀を抜いた。
するとどういうことか、刀は急にガタガタと揺れ始めた。まるで早く人を斬りたいと、疼いている様に。澪は気配もなく自然と歩き始め、その手に握られている村正は少年を断ち切らんと振り上げられていた。
「ちっ」
少年は気配も無い澪——いや、村正に気づいたのか、舌打ちをして刃が当たる寸前で避ける。澪は刀が少年に当たっていないことを見ると、我に帰り自分が何をしようとしたのかに気づく。そう、自分は少女を殺そうとしている少年とはいえ“人”を斬ろうとしていたことに。慌てて刀を鞘に戻す。
「ごっ、ごめんね! 大丈夫だった?」
さっき少年を斬ろうとしていたのとは一変、突然謝り始める澪に少年と少女は呆然と澪を見つめるばかりだった。
***
夕方でまだそれなりに明るかった為、電灯が点いていなかった。それもあり、街中には明かりが一つとして無く闇に鎖されている。
それにしても、一体異変の原因はどこにあんだよ……? そういやこの道を突っ切れって言われただけで、原因がどこにあんのかなんてまったく聞いてねえじゃねえか……くそっ。何故だか知らないが、街中に人間が誰一人としていない。とりあえずこのまま走り続ければ何か分かるか……。
只走り続けるだけの俺の目にある光景が入ってきた。呆然としている少年少女二人は、二丁の拳銃を持つ俺と同じくらいの歳の少年に家で待機している筈のシャロン。んであそこにいる制服姿の女は……伊吹!? 何で伊吹が日本刀なんて持ってあんなところにいるんだ!?
「伊吹! 何でお前が此処にいるんだよ!?」
「えっ? 泉井君!? 泉井君こそどうして此処に……ってあわわわわ!」
伊吹澪、今回も見事にドジっ娘体質発動。何故だかタイルが敷き詰めてある平らな地面の上で、滑って転んで尻餅をつきました。
「あいたたた……」と尻を擦りながら立ち上がる伊吹。この平らな場所で転べば、確かに痛いなそりゃ……。
俺が呆れながら伊吹を見ていると、黒服の少年が俺に尋ねた。
「司君に何かする気? 何かする気なら君をぶった切るよ」
「お前、この女子高生の知り合いか?」
シャロンのことなどスルーし、俺の元へと寄って来る。
何だこいつ、いきなり知らない奴にそんな事聞くか? ツンツンした感じの態度が何か気に食わないから答えたくないんだが、両手には二丁の装飾銃が握られている。脅されたら敵わないので、大人しく答えておく。
「そうだが、それがどうかしたのかよ?」
「どうもこうもねえんだよ、こっちは。とりあえず俺はその女子高生の握っている刀を“返して貰わなきゃ”いけない」
「返して貰わなきゃ……? それ、お前のなのか?」
俺は少年の「返して貰わなければいけない」という言葉が引っかかった。少年が伊吹を脅しているようにしか見えないんだが、違うのか?
状況が理解できない俺に、少年が溜め息を付きながら俺の疑問に答える。
「そうだ。その妖刀、もとい神器“村正”は俺達堕天の一団が所有していた物だが、つい最近誰かが村正を盗み出したんだよ」
誰かが盗み出した……? それってまさか、自分のこと『ボク』とか言うフローレンスっていう奴か!? あの野郎……エヴァの関係者だからまともな奴だとは思っていなかったが、面倒なことに巻き込みやがって……!
俺が一人でふつふつと怒りを沸かせていると、俺の背後から誰かの気配がした。
振り向いてみると、見覚えのある顔の少女がこちらへと歩み寄っていた。長い黒髪のツインテールにメイド服、右手に握られている剣、さっきの丁寧語のコスプレ少女だ。一体何しに来たんだよ……おおかた、伊吹の持っている刀を寄越せとでも言いに来たのだろうが。
この状況、結構ヤバくないか? そう危機感を感じていた俺だが、少女の口から発せられたのは意外な言葉だった。
「帰りますよ、オズ。村正に関してはまた次の機会とします。予想外の戦力があったものですから」
「はあっ? どういうことだよアテナ」
「どうもこうもありません、言うとおりにして下さい。叛く場合は切り刻みます」
「……はいはい、分かりましたよ」
オズという少年は、アテナという少女に引きずられる様に帰って行き、やがて見えなくなった。
- Re: 煉獄から死神少女。 ( No.13 )
- 日時: 2009/12/30 16:43
- 名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)
非日常12 死神少女、竜を連れる。
一体何だったんだ? あいつら。
オズたちが消えていった方向を眺めていると、暗かった空が元の夕暮れ空に戻っていった。サラリーマンのおじさんや下校中の女子高生のグループなど、突如消えてしまった通行人達も何事も無かったかのように街中を歩いている。オズとアテナがいなくなって起きた現象が元に戻ったっていうことは、あいつらがこの現象を引き起こしたのか?
顎に手をあて考えていると、見覚えのある少女が空から舞い降りようとしていた。あの黒髪に赤い目はエヴァだ、俺は手を振る。……あれ、何かおかしい。エヴァは何かに乗って空を移動しているようだが、それは魔女の箒だとかファンシーな物ではなく、四つの足のような物体や、翼みたいに空を羽ばたく巨大な二つの何かが取り付けてある物体。その謎の物体はエヴァを乗せて、段々とこちらへと降りてくる。この物体って、死神、悪魔、アストラル、魔術、神器、妖刀とファンタジー要素連続で来て、次はドラゴンか!?
ずっしりと重々しい音を立てて着地したのは、鋭い金色の眼光に鋭利な爪を持つ四本の足、巨大な翼を持ち、真紅色の鱗を纏っている異質な生き物——つまりはドラゴンだ。エヴァはドラゴンの背中から飛び降りて、俺の方に駆け寄ってくる。……待て待て。この変な現象が終わった今、ドラゴンなんて出現させたらマズイだろ。俺の平凡だけど平和な高校ライフを、マスコミvs俺の一大逃走劇に変える気か! それだけは絶対勘弁だ!
「エヴァ! こんな街中でドラゴン出したら目立つからしまえ! 通行人もこっち見てるだろ……あれ?」
慌てて周りを見渡すものの、アストラルと戦っていた時のように通行人は俺達に気づいていないようだ。また魔術うんたらかんたらとかいうことなんだろうが、とりあえず俺はホッとした。
「私達全員の身体に結界を張っておいたわ。とりあえず見えることはないから安心して。で……何よ、司」
「『何よ』じゃなくて! 何だそのドラゴンは!」
俺が吠えるように叫ぶと、エヴァは「ああ、これ?」とさすがファンタジー世界の住人。事態の重要さにまったく気づいていないようだ。ドラゴンはエヴァに懐いているらしく、エヴァが近くに寄ると頭を低くする。ドラゴンに表情があるのかよく分からないが、エヴァに撫でられることをどこか嬉しそうにしていた。
「この子は私の使い魔の深紅竜(ウェールズ) 見た目は凶暴だけどおとなしい竜だから、安心しなさいよ」
おとなしいとかそういう問題か? 此処がどこか分かるか、You are in Japanだぞ? まあ俺が食われなかったとこだけは一安心ってとこだ。一件落着。
「えっ、ええええ慧羽ちゃん?」
訂正、一件落着じゃない。伊吹にこの状況を完全に見られた……面倒臭いことになったなあ。きょとんとしている伊吹に、この状況、そして今まで何があったのかを説明することにした。
約十分後。俺は通行人から誰一人として見られていない、実質透明人間状態で伊吹に今回の現象はおそらくあの少年と少女の仕業であること、そして死神のことや俺とエヴァが出逢ったことなどを簡潔に説明した。
普通の人間なら軽く笑い飛ばし、馬鹿にするだろうがさすがは妖刀の持ち主。「へえ、そうなんだ。改めて宜しくね、エヴァちゃん」とあっさり事は進んだ。伊吹……お前のドジ体質は半端じゃないけど、人間性も半端じゃないな。自分でも良い意味なのか悪い意味なのかは分からないが。あれ、このパターン、どっかでもあったような……。
事件はこれだけでは終わらない。「丁度良いし、村正が暴走しないか監視も含めて、シャロンは澪と契約したらどう?」というエヴァの提案で、あっさりと伊吹とシャロンは契約し、シャロン&ユリアは伊吹家へと住むことになった。……何故この現実世界で、ファンタジーな物事が簡単に進んでいくんだ。
俺が呆然としていると、エヴァが俺の腕を引っ張った。
「私達もそろそろ帰らなきゃ。紫苑が心配してるわ」
***
空までは届かずとも、高くそびえるマンションの屋上。シルクハットを被った少女と、黒ずくめの長身の男という奇妙な組み合わせの二人組みが、死神少女達のやり取りを眺めていた。
「……いいのか」
「何がぁ……」
黒服の男——ゼルギウスは、主である少女、フローレンス=クルックに訊いた。
「妖刀、あの女に渡していいのか? あれはお前が堕天の一団(グリゴリ)から盗み出してきたものだろう?」
その言葉に、フローレンスはやる気なさげな顔から、口の端を少し上げてにたりと笑みを作った。
「別にいいんだよぉ……あの娘に渡してみるのも、面白くなりそうじゃん……」
少女は答えると、笑みを崩しまた一つ、欠伸をかますのだった。
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