ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- ヒトノカオ、コエ、ココロ。
- 日時: 2010/02/25 19:33
- 名前: 転がるえんぴつ (ID: hKAKjiZ3)
何の変哲もない、ただの都会の方にある町。
そこで起きた、一つの殺人事件。
母と息子が口論になり、カッとなった息子が母親をナイフで刺し殺したのだという。
これはどこで起こってもおかしくない、ただの殺人事件。
——の、はずだったが。
『被告人——本田雷歌——は、何か新種の病気にかかっているらしい。しかも、「大人の」顔と声が「認識できない」らしい』
+ヒトノカオ、コエ、ココロ。+
それが分かってからは、警察・検察・裁判所は大騒ぎになった。
『どうやって判決を下せばいいんだ?』
『というか、どういう病気なんだ?』
誰もが疑問を持ち始め、パニックになりかけた時。
『「レインカスミ研究所兼診療所」に依頼するのはどうですか?』
誰かがそんな発言をした瞬間、周りの空気は凍りついた。
『確かに、いい案だが……』
『「あの」機関に頼るのはいかがなものかと……』
周りが再びざわついていく。すると。
「ウチはいつでも受け付けてますよー」
緊迫した空気に似合わない声が響いた。
続く
応援よろしくお願いします。
- Re: ヒトノカオ、コエ、ココロ。 ( No.1 )
- 日時: 2010/03/21 13:36
- 名前: 転がるえんぴつ (ID: hKAKjiZ3)
周囲の者全員が、声のした方を見る。顔を見た者は、驚きを隠せなかった。
誰かがやっとの思いで声を絞り出す。
『……光村、雪路……?』
「ご名答です、凡人共」
光村雪路と呼ばれた青年はにっこりと微笑んだ。
『馬鹿な、なぜ「レインカスミ研究所兼診療所室長」がここに……』
「本田雷歌はどこにいますか?」
光村がフレームレスの眼鏡を押し上げながら聞く。
『だが、あの子は今手がつけられない状況で……』
「そんなの、僕には関係ない。勝手に連れて行きますよ」
周りのざわめきを無視し、光村は立ち上がる。そして、ドアノブに手をかけたところで何かを思い出したように振り向いた。
「僕は自分の実力を認めなかったあなた達『大人』をまだ恨んでいますよ」
空気が凍りついたのを確認し、光村は部屋を出た。
「殺したいほどに、ね」
そう、呟いて。
「ふーん。君が本田雷歌? 雷歌くんって呼んでいい?」
光村は檻に入れられている本田を真正面から見つめた。だが、本田は大人の顔と声が正確に認識できないので、ただ唸るだけである。
「檻に入れるなんて、もはや人間扱いじゃないよね、君。いやー、僕よりマシだけど可哀相だねー」
なぜか笑顔を崩さず、嬉しそうな調子の声で話し続ける。
「ねぇ、雷歌くんって、もしかしてアルビノ? 僕、見るの初めてなんだ。いやー、綺麗だね」
檻の隙間に手を入れて、そっと本田の頬に触れる。すると、今にも噛み殺しそうな程の殺気を出していた本田が、急におとなしくなった。
「僕の言葉、分かるかい?」
本田は頷いた。
「じゃあ、僕の言うことをよく聞いて。これから君を僕の職場に連れて行く。行く途中に何人もの大人に会う。でも、決して殺さないで、僕の手をずっと握っていて。そうすれば、向こうは何もしてこないから。分かった?」
「……分かった」
唸ってばかりだった本田が初めて声を出した。
「じゃあ、行くよ」
光村は本田の手を握り、『レインカスミ研究所兼診療所』を目指した。
続く
- Re: ヒトノカオ、コエ、ココロ。 ( No.2 )
- 日時: 2010/03/25 16:56
- 名前: 転がるえんぴつ (ID: hKAKjiZ3)
研究所に、着いた。
中は薄暗く、そしてじめじめしていて、人がいるとは思えない程に気味が悪かった。
その証拠に、大人を見るたび殺気立っていた本田ですら、中に入った途端におとなしくなり、光村の白衣の袖にしがみついていた。
だが、反対に光村は、平然と廊下を歩き続けている。ここの室長なのだから、当然といえば当然なのだが。
しばらく歩き続けていると、光村がとあるドアの前で立ち止まった。
「ほら、着いた。ここだよ」
光村は本田に笑いかけるが、本田は何のことだか分からない。
「……何が?」
そう聞き返しても、光村に気分を害したようなところは見当たらず、むしろクイズの答えをとびっきりの自信を持って発表する子供のような笑みがあった。
「しばらく君が過ごす所、が」
光村に続いて部屋に入った本田は、自分の目を疑った。
「何で、皆がここに……?」
部屋の半分を楽々占領している檻。その中にいたのは、本田のクラスメイトだった。
クラスメイトが本田を見つけた途端、全員が手を伸ばして助けを求めた。口々に叫んだ言葉はぐちゃぐちゃに混じり合い、もはやただの騒音でしかなかった。
「……やっぱり拉致り方がマズかったのかなぁ……」
光村が溜息と共に言葉を発する。と、同時に、一歩前に踏み出し、目の前が檻、という所まで近付いた。
その途端、助けを求める声が目の前にいる室長を罵倒する声へと変わった。
「参ったなぁ……」
本田は、光村の声の調子が今までと違うことに気付いた。
今までの、お気楽で笑顔を伴うような声じゃない。
まるで、今から『不良品の処分をする』人間のような——
「君達がそんなに『死にたかった』なんて、知らなかったよ。でも、その気持ちに気付けた今でも遅くないから、『殺してあげる』ね」
罵声が、一瞬で静まった。全員が、気付いてしまったのだ。
今の言葉は冗談ではなく、
本気だったということに——
光村は、壁にある黒いスイッチを押した。すると、クラスメイト全員の手足が、黒いベルトのようなもので床や壁に固定された。
「じゃあ、雷歌くんもこの中に入ってね」
やんわりと、だが突き放すように、本田を檻の中に入れた。
「いつ君達を殺すかは教えないよ。それまでゆっくり休んでねー」
そう言って、光村は部屋から出ていった。
続く
- Re: ヒトノカオ、コエ、ココロ。 ( No.3 )
- 日時: 2010/04/02 15:17
- 名前: 転がるえんぴつ (ID: hKAKjiZ3)
それから三日経った。
皆は光村に対する強い恐怖があるため、唸ることも叫ぶこともしなかった。いや、出来なかった。
光村はあれから姿を見せず、食事などの世話は全て部下と思われる人間達がしていた。
そして、ついに光村が姿を見せた。
「やぁ皆。元気?」
三日前の殺気を全く感じさせない笑顔を見せた。
「雷歌くんの病名、やっと決まったよ。『ノーボフェイス』っていうんだ、僕が考えたんだよー」
褒めて褒めて、と言わんばかりに発表する。
「『顔』と『声』が『無い(ノー)』から、『ノーボフェイス』っていうんだよー。思い付いた僕、すごくない!?」
後ろにいた二人の部下が、そうですね、すごいです、などと口々に光村を褒め合う。
それに気をよくした光村は、更に説明を続ける。
「でしょでしょ? でねー、それは高校生にしか感染しなくて、感染者のそばに三日いたら高校生にのみ伝染るんだよー!」
言い終わった途端、急に醒めた笑顔になった。
「だから、君達はもう感染している。これからもっと感染者が増えるかもしれないから、僕達はワクチンを作る必要がある。それで、今日はいくつか試作品を持ってきた。『実験台』に、なってくれるね?」
光村が青いスイッチを押すと、檻の中にいた一人の女子生徒の拘束具が取れた。
「最初の実験台は、君に決めた!」
ビシッと女子生徒を指差し、檻を開けて連れ出す。
「最初だから、公開実験にするよ」
光村が後ろにあった大きな実験机に女子生徒を乗せると、机からベルトが伸び、女子生徒の手足や腰を固定した。
「さ、注射しよっか」
ワクチン入りの注射器を一つ取り出し、女子生徒ににっこりと微笑みかける。
「あ、そうだ。言い忘れてたけど、このウイルスって完璧に倒せるワクチンじゃないと全く効果が現れないらしいよ。むしろ、中途半端なものだと感染者が死んじゃうらしいよー」
とんでもないことを笑顔でサラリと言った。
「はい、じゃあ注射するよー」
そして、命がかかっているとは思えない程軽いノリで注射した。
すると。
「あ、あ、あああぁぁぁあああぁぁあああぁあああああぁぁああぁあああ!!」
ガボッ、ベシャ、ベシャッ! ブッ、ブシャアァッ!!
度を超した断末魔の叫びの直後、ありえない量を吐血し、その後は口から血が噴き出し続けた。
「あれー? これ、中途半端だったみたいだねー」
白衣を含む衣服どころか顔や髪でさえ血を浴びたとは思えない程光村は呑気な声を出す。
「ま、いっか。今日は試したいワクチンあと五本あるしね。次のちょーだい」
同じく血だらけになった部下が次のワクチンを差し出す。
「あ、そーだ。一人ずつ注射すんの面倒臭いから、五本一気にやろう。あと二人呼んできて」
「そう言うと思って、すでに呼んでいます」
部下の一人がドアを開けると、もう二人部下が入ってきた。
「じゃー四人とも、ワクチン持った?」
「持ちました。というか、こんなに部屋血だらけになるなんて予想外ですよ。掃除大変じゃないですか。死体だって、どうやって始末すれば……」
「まーまー、細かいことは気にしない! さっさと注射しよーよ!」
五人は檻の中に入り、生徒を一人ずつ選ぶ。
「せーの!」
光村の掛け声とほぼ同時に、五人は注射をした。
その直後、五人分の断末魔の叫びが聞こえ、五人分の血が檻中にぶちまけられた。
「えー、全部失敗? これはこれで面白いからいいけど、研究者としてはつまんないなー」
六人の死者を出した張本人とは思えない程、子供っぽく拗ねた。
「じゃ、今度からはワクチンが出来次第実験するから、楽しみに待っててねー!」
光村含む五人は、不吉な言葉を残して部屋を出ていった。
そして再び、血生臭い部屋は背筋が凍る程の静寂に包まれた。
続く
この掲示板は過去ログ化されています。