ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 煉獄−業火の女王−
- 日時: 2010/04/03 22:08
- 名前: 紺 (ID: zCJayB0i)
紅蓮の炎が燃え盛る地の底の宮殿。
罪人の嘆きと悲愴の混沌とする玉座。
そこには残酷な笑みを湛えた王が君臨していた。
イメージソング>>13
スカーレット>>4
第一話−戯れ−>>1 第十一話−心情−>>14
第二話−出会−>>2 第十二話−信念−>>15
第三話−異質−>>3 第十三話−休息−>>16
第四話−名前−>>5 第十四話−残虐−>>17
第五話−女王−>>7 第十五話−二人−>>18
第六話−通信−>>8 第十六話>>
第七話−学校−>>9
第八話−姉妹−>>10
第九話−家族−>>11
第十話−口唇−>>12
- Re: 煉獄−業火の女王− ( No.14 )
- 日時: 2010/03/24 09:50
- 名前: 紺 (ID: zCJayB0i)
第十一話−心情−
深い、深い深い闇の底。
燦々とした光すらも届かない漆黒の檻の中。
耳が痛くなるほどの静けさの中に、<それ>は存在する。
「・・・・暇ねぇ・・・・・・・・」
氷のように冷たい床ともいえぬ平面の上で、寝そべっている<それ>は呟く。
何も無いその空間に<何か>を生み出すのは、<それ>と<それの宿主>だ。
「こうも何もないと死にそうなほど退屈なのね、知らなかったわ・・・・・」
はあ。と大きな溜め息を吐く。憂鬱ながらも客観的なその態度は劇に見飽きた子供のようだ。
「!・・・・あらあら・・・・・・またこんなに降ってきた」
<それ>が上を見上げると、滴のようなモノが降ってきた。
真珠のように輝き、それは落下する。
滴が平面にぶつかり、破裂すると、中から言葉の羅列のようなものが溢れ出てきた。
≪どうして、何で、怖いよ、寂しいよ、誰か、誰か助けて≫
全てが溢れ出ると羅列は消える。だが、絶え間なく降り注ぐ滴からは同等のモノが溢れ出る。
≪悔しい、憎い、歯痒い、もどかしい、嫌い、嫌い嫌い、大嫌い≫
≪壊したい、何もかもをめちゃくちゃにして、破壊し尽くしてしまいたい≫
≪欲しい、手に入れたい、私のモノにしてしまいたい≫
それぞれの滴が吐き出す羅列は<ある人物>の感情の塊。<ある人物>そのもの。
全ての滴が降り終わったかと思えば、最後に大きな滴が落ちてきて、破裂した。
≪・・・・・死にたい・・・・・≫
どの滴とも違う羅列が溢れてきた。
≪どうして私は<私>なんだろう。どうして他の人になれなかったんだろう。
どうしてこんなにも惨めなんだろう。どうしてこんなにも哀しいんだろう。
・・・・どうして、生まれてきたんだろう。どうして一個人として生を受けたんだろう。
・・・・・・こんなにも苦しい自分なら、死んでしまいたい。
殺して。誰か私を殺して。殺して、殺して・・・・・私を解放して・・・・・。
・・・・・・死にたい・・・・・・・・・・・・・≫
そうして吐き出し終えると、何事もなかったように羅列は消えていった。
「・・・・・・・・・死にたい、か・・・・・・・」
一部始終を見ていた<それ>は体を起こした。
消えていった羅列を慈しむように、<それ>はそっと目蓋を閉じる。
「死にたければ、死ねばいい。消えたいのなら、消えればいい。
なのに貴方はそれをしようとはしない。・・・・それはどうしてか、わかる?」
誰もいない空間で<それ>は誰かに質問をする。
「貴方が、<生きたい>と願っているからよ。・・・・矛盾してるとは思わない?」
クスクスと笑みを零して<それ>は言葉を続ける。
「人間の心情なんて複雑なものよねぇ?迷路のように入り組んでいて、気持ち悪い・・・・」
立ち上がり、手を開いて上を見上げる。
「さあ、早く私を捕まえてごらんなさい?捕まえたいんでしょう?」
馬鹿にするように笑い叫ぶ。
「私はあんたのすぐ近くにいるわよ?!スカーレット!!
あんたの願いという障壁に阻まれてみえていないでしょうけどねぇ!!
あはははははははははははははははは!!あはははははははははははははははははははははは!!!!」
黒き闇で笑い声が木霊する。
・・・・その木霊は、果てして誰の中で反響しているのか。
- Re: 煉獄−業火の女王− ( No.15 )
- 日時: 2010/03/24 18:26
- 名前: 紺 (ID: zCJayB0i)
第十二話−信念−
気づいた時にはあそこに居た。
紅蓮の炎に包まれた真っ赤な宮殿。
そこの玉座に、私は座っていた。
人とは違う力を持って、人とは違う生を生きている。
それが、<私>だった。
端下の者は私を<女王>として畏怖し、配下は<陛下>として崇拝した。
それがいつしか当たり前になって、私は人の上に立つ者として生きてきた。
その中で、私は<あの人>に会った。
<あの人>は他の者とは全く違っていて、私に対等に接してくれた。
それがいつまでも続くと思っていた。・・・・なのに。
<あの人>はどこかに行ってしまった。私を裏切って。
・・・・それがどうしても許せなかった。
憎くて、憎くて憎くてたまらなかった。だから・・・・・。
「だから、我はこの世界に参ったのじゃ。<あやつ>を殺すために・・・・」
茜の眠る隣で暁はポツリと呟く。
「昔は無邪気だったものよ。あれ程までに好意を募らせるとは、我ともあろう者がのう・・・・・。
しかし結局は居なくなってしまった。手の内から零れおちる砂のように・・・・・・・・・。
そして時を重ねることで我は捻くれていき、今ではこの有り様よ。不甲斐ないのう・・・・・」
暁は茜の頬をそっと撫でる。
「不貞腐れて可愛げのなくなった我を見ても尚、<可愛い>などと言ってくれるのはそなただけじゃ。
有難う、姉上・・・・」
暁は少し崩れたような笑顔をして、布団に潜った。
『そう。我は殺さなければならぬのじゃ。<あやつ>を。絶対に。
・・・・・それなのに、胸を締め付けるこの圧迫感は何なのじゃ・・・・・・・・』
痛む胸を押さえながら、答え無き問いに思考を巡らし、深き眠りへと落ちて行ったのだった。
- Re: 煉獄−業火の女王− ( No.16 )
- 日時: 2010/03/24 18:59
- 名前: 紺 (ID: zCJayB0i)
第十三話−休息−
「はーいやってきました待ちに待った休日でぇ〜っす!!」
茜が珍しく朝早く起きたかと思うと、いきなりハイテンションで叫びだした。
「・・・・とうとう頭の回路が狂いおったか、茜。今日は月曜日じゃぞ?平日の真っ最中じゃ」
休日では無かろう。と茜を本気で心配そうに見つめる暁。
「今日は昨日の補習もあったし、学校行事が休日にあったから代休なの!」
だから今から遊びに行くよ!!と暁の用意を素早く済ませ、家を飛び出したのだった。
「来たよー!!!休日の憩いの場所!!」
「・・・・こんなに虫けら共がうようよ居るような場所でどのように肩の力を抜けと申すのじゃ」
暁はげんなりしているが、茜は目をキラキラ輝かせている。
今居る場所はテーマパーク。今一番人気の場所である。
「さあ!!アトラクション全制覇するよ〜!!!」
本当に珍しく張り切っているので、暁は水を差すのをやめた。
「もうすぐだよ〜。暁怖くない?大丈夫」
「む、むむ、無論じゃ!!王たる我に恐れるものなど無い!!」
「へぇ〜すごいねぇ」
「こ、このようなちんけな乗り物が怖いなど、人間もたかが知れるのう!!!」
「・・・・声裏返ってるよ?」
「何を申す?!我の美声が裏返るなど、有り得・・・・ぎゃああああああああああああああ!!」
「わあ〜〜〜〜♪」
絶叫と共に、茜と暁の乗っているジェットコースターは勢いよく落下した。
茜は心から楽しんでいたようだが、暁は本気で怖かったようだ。
「あははは♪すごく面白かったね〜」
「怖くなんかないぞ・・・・・たかが頂点から落下するだけの乗り物なんぞ・・・・・。
ほほほほほほほほほほ・・・・・・・・」
顔を青褪めて、訳のわからないことをポツポツと肩を震わせながら言っている暁。
「・・・・・・よっぽど怖かったんだね」
「!!・・・・ほほ!!さっきから言っておろう?我は王じゃ!!恐れるものなど無い!!!」
「じゃあさっきのもう一回乗ろ「謹んで遠慮させてもらう」」
一瞬顔を見合わせ、それから満開の笑みを零した。
二人はアトラクション全制覇を目標に、パーク内を駆けまわる。
何だかんだ言いながらも、暁も楽しんでいたようだった。
「ほほほ!ほんに愉快じゃったのう。このような娯楽が下界にあるとは驚きじゃ」
「でしょう?私も初めて行ったけど結構楽しかったよ」
ふふ。と笑う茜に暁は目を見開く。
「・・・・初めてなのか?」 「?うん。だって一緒に行く人居なかったもん」
にこにこし続ける茜に暁はそれ以上の言葉を紡ぐのをやめた。
「あ!!そうだ!!はい、暁。手、出して?」
「?何をするのじゃ?」 「いいから!早く!!」
急かすので、暁は渋々手を伸ばす。すると・・・。
「!!」 「どう?可愛いでしょ?」
手首に通されたのはブレスレットだった。
「その真ん中についてる赤いハートにね、一目ぼれしちゃったの!!」
「・・・・・心臓、のう・・・」
手首からぶら下がるハートを見つめながら、暁は思うのだった。
『この心臓が、<あやつ>の物じゃったら簡単に握り潰してやるのに・・・・残念じゃ』
ハートを、手が赤くなるまで暁は握っていた。
- Re: 煉獄−業火の女王− ( No.17 )
- 日時: 2010/04/01 21:58
- 名前: 紺 (ID: zCJayB0i)
第十四話−残虐−
「・・・・・今日も学校とな?」
明らかに機嫌が悪くなった暁が抱き枕を抱いて睨んでくる。
「平日だからしょうがないじゃない。我慢して留守番しててよ。ね?」
毎日学校に行く茜に暁は拗ねているらしい。
綺麗な顔を歪めて、もの凄い眼光で睨みあげてくる。
「ふん。ならば好きにすればよい!!我はそなたのことなどもう知らぬ!!!!
早う学校とやらにでも行けばよいではないか!!」
ふいっと窓の方に顔を向ける暁。
「っ・・・・じゃあ、行ってくるね・・・・」
茜はしょんぼりとした風に部屋を出て行ってしまった。
一人になった部屋で、暁はそっと呟く。
「・・・・・・ほんに、そなたは優しいのう・・・茜」
抱き枕に顔を埋めて、息を吐いた。
「・・・・陛下。今日はご機嫌斜めですね。茜様と喧嘩でもなされたのですか?」
「口を慎めイリア。主君の心情に土足で入ってくるその愚直さ、嘆かわしいぞ」
この前の路地裏で、イリアと暁は話をしていた。
イリアはこちらの世界で働いているらしく、OLのような格好で暁の前に立っている。
暁は胸元が少し開いた紫色のワンピースを着ていて、髪を高い位置でポニーテールにしている。
「申し訳ありません、陛下。話は変わりますが<あの者>の所在については未だ不明・・・・。
一切の情報は抹消されています」
落ち着いた口調で淡々と話すイリア。暁はまじまじと手首のブレスレットを見ていた。
「・・・・・抹消、か・・・・・・・・。実行したのも<あやつ>じゃろうて」
「そのようですわね。陛下の書斎の鍵は、陛下と<あの者>しか持っていませんもの」
暁はギュッと拳を握る。
「<あやつ>を信じ、託したのは我じゃ。我の甘さが生み出した事件・・・・・。
我が何とかせねばならぬのう」
すっくと立ち上がる暁を、心配そうにイリアは見つめていた。
「・・・・陛下、私に出来ることが他にもありましたら仰ってください。
持てる力の限りを尽くすことを、陛下の御名にお誓い致しますわ」
暁の手の甲に額を寄せると、そのままイリアはどこかへ行ってしまった。
「・・・誓い・・・・・・・・・・・」
イリアの消えて行った方を、暁は見つめていた。
するとそこにいかにも柄の悪そうな複数人の男達がやってきた。
「あれぇ?お譲ちゃんどうしたのかなぁ?」
人をおちょくったかのような喋り方で話しかけ、暁の周りを囲む。
「迷子にでもなっちゃったのかなぁ?なんてな!!!あははは!!」
男達は笑いだす。その声を聞いて、暁は肩をふるふると震わせる。
「・・・・・・・・・・・」
「?泣いちゃったのかなぁ?」
一人の男が暁の顔をのぞく。と。その瞬間。
「黙れ!!!!!!この蛆虫共がぁあああああああああ!!!!!!!!!!!」
のぞきこんできた男の顔を手で貫いた。
グチュリ、と音をたてて、暁が手を抜き去ると男の亡骸は無残にも地に伏した。
「うわあああああああああ!!!何なんだコイツ!!!!!!!!」
残りの男達の前に暁は仁王立ちになり、叫ぶ。
「誰に向かって口を聞いておるのじゃ、この虫けらがっ!!!
我を煉獄の王と知っての狼藉か?・・・肝の据わっておる下衆共じゃのう・・・・・!!
良かろう。その行いに応じた<褒美>をやろうぞ。・・・・受け取るが良いわ!!!!!」
手から大きな鎌を出現させ、暁は構える。
「・・・・・これは、裁きじゃ。我が裁きを受けられることを・・・・光栄に思え!!!!!!」
一振りしただけで、その場の男達はただの肉塊と化したのだった。
大量の返り血を浴び、顔から沢山の生温い液を滴らせながら暁は言う。
「、そう言って、誓うと言って!!!皆我から遠ざかってしまうではないか!!!!!!
我一人を置いて・・・・・・・・我の手の届かぬ所へ逃げてしまうではないか・・・・・・」
異臭の立ち込めるその空間で、王は一人、嘆かれたのだった。
- Re: 煉獄−業火の女王− ( No.18 )
- 日時: 2010/04/03 22:07
- 名前: 紺 (ID: zCJayB0i)
第十五話−二人−
「・・・・あれ?」
茜は真っ暗な場所で目を覚ました。
どこまでも、どこまでも真っ暗な場所。
「私・・・・さっきまで何してたんだっけ・・・・」
首を傾げながら茜は前と思える先を歩く。
しかし何処まで行っても闇が続くだけである。
「・・・・・・・・・」
無言で、ただひたすら歩いていると声がした。
<・・・・こっち・・・・・こっちよ>
声の聞こえる先へ歩くと、一瞬にして視界が明るくなる。
今度の場所は、玩具部屋のようだ。
くまのぬいぐるみ。木馬。積み木。投げ輪・・・・。
子供が喜びそうな玩具がたくさん置いてある、可愛い部屋だ。
「ここ・・・・」
茜は何かデジャヴを感じた。
昔、この部屋に来たことがある気がする。
なんとなくだがそんな感じがするのだ。
「こんにちは、茜。久しぶりね」
後ろから声がしたので振り返ると、何とも幼い子供が立っていた。
5、6歳くらいの少女だ。
「・・・ごめんなさい。私とお譲ちゃんは一回会ったことがあるのかな?」
久しぶり。ということは、随分昔に顔を合わせたことがあるということ。
しかし少女の年齢からしてそう昔とも考えられない。
「?いっつも会ってるじゃない」
「・・・・いつも・・・・・?」
そうよ。と言って近くの木馬にまたがる少女。
「いつも会って、沢山お喋りしてるじゃない。昨日もお喋りしたよ?忘れちゃったの?」
木馬を大きく揺らして問いかける少女。
茜は身に覚えがないので、肯定も否定もできない。
「・・・・あ、そっか。茜は覚えてないのね」
少女は思いついたかのように声を上げた。
「覚えてない・・・・じゃないよね。覚えられないんだもんね。ごめんね?」
少女は木馬をゆするのをやめて茜の手を握る。
「茜はきっと今日のことも忘れるだろうけど、明日もまた会えるよ。
その時はまたいっぱいいっぱいお話ししようね?約束だよ、茜」
そこまでで、意識が遠退いていった。
「・・・・ね。あか・・・・。茜!!!」
目を覚ますと、暁が心配そうな顔をして顔を覗き込んでいた。
「・・・・暁・・・・?」
「何じゃ。大丈夫そうじゃのう」
「・・・・?どうしたの?」
「魘されておったぞ。あまりにも苦しそうにしておるから心配して居ったのだ。
何か悪い夢でも見たのか?ん?」
安心させるためか、暁は茜の頭を優しく撫でる。
「・・・・夢、見てたのかな。忘れちゃった」
「見ていた夢を忘れたのか?相も変わらず、頭の弱い奴じゃのう・・・・・」
くすくす笑いながら暁は茜の頭を撫でるのをやめる。
茜も、その仕草がおかしくて笑う。
「・・・・また何か悪い夢を見れば申すが良いぞ。添い寝の一つでもしてやるからの」
「ふふ。ありがとう」
茜は、やはり覚えていなかった。
先程の夢のことを。先程会った少女のことを。
・・・・・・・少女がどんな顔をしていたかも。
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