ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- OOPS!
- 日時: 2010/04/07 00:29
- 名前: egashi (ID: 84ALaHox)
男は目を閉じた。
感覚を研ぎ澄ませていく。ひとつずつ、丹念に。
暗闇の中でにおいがきえる。音がきえる。底のない闇に沈んでいく、この感覚が男は好きだ。
だが、今日はそうのんびりと感傷に浸っている暇はない。
ふいに頬がピリリと痛んだ。
チカ、と暗闇の中で光がはじける。
男は目を開けるよりも早く、右手を後ろへ振りぬいた。
風がやむと、男の姿はなかった。
かわりに少女がひとりたたずんで、じっと目を閉じていた。
- -くらい ( No.15 )
- 日時: 2010/04/08 21:09
- 名前: egashi (ID: 84ALaHox)
千里ははっと息をのんだ。
そこにいるのは昨日の少女ではなかった。
(ななじゃない、けいなんだ)
漠然と千里はそう感じた。
担任の横には、きれいな黒髪をばっさりショートカットにしたけいがいる。
少し長めの前髪と横髪に隠れてはいるが、やはりその顔立ちは端正だった。
ブレザーをしっかりと着こなして、柔和な笑みを浮かべる姿は昨日の攻撃的な姿とはまるで重ならない。
はかなげで、美少年という言葉がよく似合っていた。
(でも、美少女には見えない)
ふふ、と心の中で笑う。けいがいるというだけで、とても心強かった。
- -くらい ( No.16 )
- 日時: 2010/04/08 21:18
- 名前: egashi (ID: 84ALaHox)
ふと千里は教室を見回した。
やはり、と思う。千里と同じように周りの生徒もあまりの美少年ぶりに驚いているようだ。喧騒はいっそう増していた。
その中で、担任にうながされてけいが口を開いた。
「花山けいです。よろしくお願いします」
にこり、とけいが微笑む。
少しだけ、千里は悔しかった。千里よりずっと背が高くて、かっこいい女。千里は背も低く、女顔で、声もけいより高い。かといって、特に美少年でもない。普通の少年。
(ま、だからこそ、頼れるんだよな)
自分より弱そうな少女がボディーガードでは、と考えて千里は自分を納得させた。
「花山は帰国子女だから、いろいろ教えてやれよ」
(大嘘だ)
千里が考えている間に、けいは席についた。あまり近くはない。
そのあとも、ずっと千里はけいの後姿を眺めていた。
- -くらい ( No.17 )
- 日時: 2010/04/09 20:52
- 名前: egashi (ID: 84ALaHox)
休み時間になると、あっという間にけいの周りには人だかりができていた。
いつもならば暴行を加えられているところなので、千里はけいに感謝した。だが、礼を言おうと思っても、話をしようと思っても、けいにはまったく近づけない。時々目が合ったが、けいは気づいていないふりをして、ふいと目をそらしてしまう。
結局、けいと話ができたのは昼休みになってからだった。
けいについていくと中庭に出た。千里にとってはいやな場所だ。
ほとんどの生徒は教室か食堂で昼食を食べるので、中庭にはだれもいなかった。けいは中庭に設置されたベンチに座って、疲れたといわんばかりに息をはいた。木漏れ日がけいに降り注いでいる。千里はその神秘的な雰囲気に気をとられながら、おそるおそるけいの隣に座った。けいは何もいわなかった。
「大丈夫?」
思わず千里が声をかけると、けいはうんざりしたように言った。
「うるさかった。まあ、お前が何もされなかったからいいんじゃねえの」
(忘れてなかったんだ)
千里は心の中で少しだけ喜んで、抱えていた弁当箱をひろげた。
- -くらい ( No.18 )
- 日時: 2010/04/09 21:01
- 名前: egashi (ID: 84ALaHox)
そういえば。千里はけいが何も食べ物を持っていないことに気づいた。
いる? と聞くと、けいは少し悩んでから「いらない」とそっけなく答えた。
そのかわり、ごそごそと制服のいたるところにあるポケットをまさぐって、
「お前に」
と千里にいくつかの「モノ」を差し出した。
すかさずけいが説明する。
「この携帯電話みたいなのは、あたしを呼ぶ機械」
「えっ? あたし?」
「こまけえな。俺、なんていうのはあいつらの前だけ。だりいんだよ」
その乱暴な口調に千里は少しむっとした。けいもむっとした様子だったが、説明を続ける。
「ごちゃごちゃついてるけど、実質使えるのはひとつの機能だけ。この赤いボタンを押すと、あたしが持ってるもう一つのコレに連絡がくる」
けいがもうひとつ同じような機械を取り出して、空中に放り投げた。パシリ、とけいが得意げにキャッチする。
「いつも一緒ってわけにもいかねえしな。なんかあったら、これで呼べ」
あとは、とけいがベンチに並べられたいくつものスプレー缶を手に取る。
- -くらい ( No.19 )
- 日時: 2010/04/09 21:09
- 名前: egashi (ID: 84ALaHox)
「あたしは足が速いけど、すぐに駆けつけられるわけじゃない」
「でも、これ、催涙スプレーって……」
千里がたずねると、けいは至極当然といったように、
「だから、ある程度自分の身は自分で守れってことだよ。唐辛子スプレー、冷却スプレー、ほかにも」
そこまで言ったところで、千里が「催涙スプレーだけでいいから」とけいの話を打ち切った。けいは不満げだったが、しぶしぶ催涙スプレー以外を自分のポケットにしまった。
千里が弁当を食べ終えるのを見届けると、けいは立ち上がった。
「五時限だけど、あたしは呼ばれてる。せいぜい注意しろよ」
ええっと千里が不安を隠さずにけいを見上げた。けいは仕方ない、といった風に千里の両肩をぐっとつかんで、
「ブザー、忘れんな」
といった。その力強い言葉に、千里は無意識にうなずく。
けいもひとつうなずくと、職員室がある本館のほうへとさっさと歩いていった。
千里はいやな予感がしたが、けいに渡されたブザーと催涙スプレーをポケットにしまって、ゆっくりと、教室へかえっていった。
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