ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- OOPS!
- 日時: 2010/04/07 00:29
- 名前: egashi (ID: 84ALaHox)
男は目を閉じた。
感覚を研ぎ澄ませていく。ひとつずつ、丹念に。
暗闇の中でにおいがきえる。音がきえる。底のない闇に沈んでいく、この感覚が男は好きだ。
だが、今日はそうのんびりと感傷に浸っている暇はない。
ふいに頬がピリリと痛んだ。
チカ、と暗闇の中で光がはじける。
男は目を開けるよりも早く、右手を後ろへ振りぬいた。
風がやむと、男の姿はなかった。
かわりに少女がひとりたたずんで、じっと目を閉じていた。
- -コアントロー ( No.5 )
- 日時: 2010/04/07 17:51
- 名前: egashi (ID: 84ALaHox)
「なんだよ、じゃねえよ! 一人によってたかって、やめろよな」
極力大きな声で言った。
すると、まだ何かいいたげだった男子生徒を制止して、あの男子生徒が口を開いた。
「なら、お前がかわるか?」
千里がぐっと息をつまらせる。
しかし隣の席の男子生徒は千里の答えもまたず、ほかの男子生徒に「もう行くぞ」と声をかけた。まわりの生徒は悪態をついていたが、ぞろぞろと校舎のほうへ帰っていく。すぐに背は見えなくなった。
ほっと息をついた。
(俺が、守ったんだ)
すぐに横たわっている生徒に目を向ける。
体中傷だらけではあるが、自分で立ち上がろうとする動作を見て千里は胸をなでおろした。
「ねえ、大丈夫?」
声をかけると、少年はびくっとからだを震わせた。
「ご、ごめん……。ごめん、ごめん」
少年は千里の顔をみると、そういってわっと泣き出した。
なにがなんだかわからない千里をさしおき、彼はずっと泣いている。
おい、ともう一度声をかけようとした千里を無視して、少年は走り去っていってしまった。
- -コアントロー ( No.6 )
- 日時: 2010/04/08 14:27
- 名前: egashi (ID: 84ALaHox)
教室に戻ると、すでに隣の席には「ヤツ」がいた。
千里がなるべく避けるようにして寺井のほうへ行くのを、少年は黙ってみていた。
なにかいやなものを感じながら、小走りで寺井たちのほうへと行くと、千里は驚愕した。
(なんで?)
だれも千里のほうを見ない。
なんの冗談かと思っていた千里に、寺井は気まずそうに言った。
「高遠に……言われたから」
高遠、と思いながら寺井の指をたどる。
その先にはニヤニヤと下品な笑みを浮かべた隣の席の少年がいた。
高遠はおもむろに席を立ち上がると、千里のそばに歩いてくる。
今まで談笑していた周囲の生徒たちも、固唾を飲んでその光景を見つめている。
「おまえが、かわるんだろ?」
いうがはやいか、高遠は思い切り千里を蹴飛ばしていた。
- -コアントロー ( No.7 )
- 日時: 2010/04/08 18:44
- 名前: egashi (ID: 84ALaHox)
そこまでを千里が話し終えると、目の前に座った童顔の青年はそっとハンカチを差し出した。
千里はそれを受け取ると、知らずに流れていた涙をふき取った。たった三日。あのことがあってからまだ三日しかたっていないが、もう千里はこの世にあるすべての拷問を受けた気分だった。
青年はローテーブルにおかれたカップを手に取ると、その中の紅茶を少し飲んで、明るい声で言った。
「なあに、大丈夫ですよお。ぼくらはね、プロですから」
妙にのんびりとした口調に千里はいささか不安を覚えながらも、控えめにうなずいた。
「あっ、そういえばねえ、いやなはなしだけど、お金はある?」
青年は続ける。
「こんな仕事だれもやりたくないでしょ。ぼくらも同じなんです。だから、結構もらっちゃうけど」
その言葉に、千里は小さな罪悪感を抱いた。
お金はある。千里が小さいころからずっと貯めてきたお金だ。
母にも父にもなにも言わずに引き出してしまった。こんなことに使おうとしているとは、夢にも思わないだろう。
だが、千里の決意は固い。
「はい。あります。だから、お願いします」
- -コアントロー ( No.8 )
- 日時: 2010/04/08 18:59
- 名前: egashi (ID: 84ALaHox)
千里の言葉をきいて、青年は満足そうにうなずいた。
「ぼくはマスター。恥ずかしいけど、まあ、みんなそう呼ぶから」
言い終えないうちに客がきたことを知らせるベルの音が薄暗い室内に響いた。
マスターが千里をみる。微笑みかけるのとほぼ同時に、ただいま、という低い声がした。
「なな、おかえり。ちょうどね、ななに頼みたかったんだよ」
ななと呼ばれたのは黒いセーラー服を着た少女だった。茶色い照明に照らされていても映える、黒の長髪が目をひく。
その少女の存在だけがこのシックな雰囲気に浮いていて、千里は息をのんだ。
「客か?」
少女が言った。鋭い瞳で、睨むようにして千里を見る。千里は思わずすくみあがった。
「そうそう。この子さ、ちょっと度を越したいじめに巻き込まれてて、ボディーガードしてほしいんだよ」
ふうん、と言いながらななはローテーブルにちらばった書類のひとつを手に取った。その書類を見て、ななが眉をひそめる。いっそう低い声で言った。
「男子校じゃねえか。やらねえよ」
その意見はもっともだ。
- -コアントロー ( No.9 )
- 日時: 2010/04/08 19:00
- 名前: egashi (ID: 84ALaHox)
たしかにななは、背が高く、声も低い。髪と服装で千里もようやく女だとわかったくらいだ。
正直にいえば、女装した男のようにしか見えない。
とはいっても、彼女は正真正銘の女。いくら見た目がそうでも、学校側は彼女を男として認めないだろう。
「そっかあ。残念だなあ。……じゃあ、千里くん、悪いけどあきらめて」
「えっ!」
千里は思わず声をあげた。ななも目を丸くする。
「だって、今はみんな仕事でいないんだよ」
マスターの言葉が千里に深く突き刺さる。お金もあるのに、またあの環境に戻らなければならない。想像して千里はうつむいた。ちらりとななを見る。マスターも満面の笑みを浮かべながらななを見つめる。
ななはなにやら思案したようだったが、やがてあきらめたように肩を落とした。
「うぜえな、わかったよ。そのかわり、この軽い財布を重くしとけよ」
ひらひら、とななは自分の財布をふった。ひどく薄かった。
そのまま奥の部屋へと消えていくななを見ていた千里だったが、マスターの「行って」という言葉にうながされて、重い足取りで奥の部屋へ向かった。
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