ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- “幸せ”の意味(※タイトル変更)
- 日時: 2011/05/15 22:35
- 名前: さぼてん (ID: /.uLOIob)
- 参照: http://ameblo.jp/tentoumusino-to/
初めましてこんにちは^^
アメブロの方で「てんとう虫ノート」やらせてもらってます、さぼてんと申します。
どういう人間かは、ブログを見ていただければわかると思いますので省きます(笑
本当はブログの方で終わらせようと思ったんですが、急遽こちらでやらせていただくことになりました。
ブログの方で言っていた通り、この話は「ふたごの死神」の番外編ということになります。
単品でも読めないことはないと思いますが、人物に関して全く説明していませんので、わからない方・詳しく知りたい方はお手数ですがブログまでご訪問頂き、頑張ってキャラ紹介のページをご覧下さい。
※ちなみにカテゴリ・「創作」のところであさってもらうか、ブログ内検索で「ライア・ウィンドリア」と検索すれば出てくると思います。お手数おかけします;
まだまだ未熟者ですが、よろしくお願いします^^
誤字脱字? 通常運転ですが何か。(笑
- Re: 人々を変えた存在 ( No.6 )
- 日時: 2011/05/07 13:23
- 名前: さぼてん (ID: /.uLOIob)
- 参照: http://ameblo.jp/tentoumusino-to/
−第二話−
「・・・はい、これが貴方の日付決算量です」
「すっげぇ量ですねー・・・。・・・何でオレだけお2人の倍くらいあるんすか? ふびょーどーですよ」
「貴方に2席兼任だからです。当然でしょう」
「げ・・・」
仕事の山を見て心底嫌そうな声を漏らしたライアは思わず仰け反る。
“世界塔”構成員のくせに「げ」とはどういう了見だ、お前には務まらないから構成員なんて辞めろ、とシナは瞬時に言いかけたが、喉の辺りで堪えた。こちらはあくまで冷静に対処しなければ、相手の思う壺だ。
・・・おそらくこの頃、シナはライアという人間を何か誤解していたのだろう。何か、間違っている。
「では、頼みましたよ」
「シナセンパーイ」
引きつった表情を見られまいと立ち去ろうとしていたのに、ライアは授業中の質問かのごとく手を挙げた。
「書類捌きってどうやるんですかー?」
ぴき。
シナの額に青筋が走った。顔も全く笑っていない。
「・・・貴方人間でしょう? 此処に来る前はどうやって生計を立てていたんです?」
「バイト!」
バイト・・・。人間界で言う日雇いの組織所属だったか、微妙どころかだいぶ外れたことを思い出す。
確かあれは収入がそこまで高くなかった気がするが。
「引越しとか、工場現地とか、結構力仕事やってたんすよー」
意外でしょー、と言うこの男の何処がビジネス系の人間に見えるのか是非とも小一時間問いただしたいところだ。
「・・・仕方ないですね。教えてあげますから、一度で覚えてくださいよ。2度も教えるつもりはありませんので。絶対に、一度で覚えなさい」
「・・・う。が、頑張りマス・・・」
シナの高圧的な態度に押されたライアは神妙に頷いた。
その後単純作業ですらミスしまくるという馬鹿丸出しのライアを半ばスパルタでしごき倒し、そこそこに長時間続けられるようになったところで、終了。
しごかれたライアだけでなく、教師役のシナですら(精神的にも体力的にも)疲労するとは何事だろう。
ふぅと1つ溜息をつくと、ライアは顔を上げて「・・・お疲れさまです」と魂の抜けたように力なく呟いた。
シナはちらりと彼を一瞥すると、
「貴方がもう少し有能なら良かったのですがね。これだから人間は」
酷く容赦の無いセリフを吐いた。
同室で作業していたティナでさえ、それは言い過ぎではないか、と思うほどに。
「・・・全く、初めてですよ。貴方のように手が掛かる人は。これまで会ってきた同僚は申し分なかったというのに、貴方と言う人は・・・」
「使えない人ですね・・・・・・」
言ってからハッとする。あそこまで言うつもりはなかった。
使えないと思ったのも、もう少し出来が良かったらと思ったのも事実だ。だが口にするつもりは、本当に一切なかった。はず、なのに。
「・・・すみませ、」
「シナ先輩でもやっぱ怒るんですねー」
「・・・・・・は?」
失言を取り消そうと謝罪しようとして、てっきり落ち込んでいると思っていたライアがまるで何も無かったかのようにケロッとしていたのに驚く。
しかも、内容が内容だ。
「でも何か、あそこの人達とは違います。見守るみたいな・・・、親が子を見守るような、そんな感じに見えます」
「・・・・・・・・・」
衝撃を超えて、むしろ恐怖を覚えた。
今のセリフの中に、親心らしさが果たしてあったか? 答えはもちろん、否だ。むしろ突き放すような発言しかない。
「失敗も、見越してて」
あれのどこに、
「ストレスの発散として理不尽に怒りも、叱りもしない」
親心が、
「先輩がしてくれるのは、的確なアドバイスと、事実だけです。そりゃ、ちょっと言葉選びがキツかったっすけど」
あったというのだろう。
「それって、凄い善い人ってことですよ」
—意味が、わからない。
—わかりたくない、の間違いだとは、思いたくない。
「・・・間違いました。貴方は使えない人間ではなく、不思議な人間であると同時に、意味の分からない人でした」
「えー?」
結構オレわかりやすい単純馬鹿なんだけどなー、と1人首を傾げるライアは可笑しい。間違いなく、変。
思わず、シナは頭を抱えた。
「おかしい」
「そうねぇ」
「・・・おかしいです、あの人。脳内のどこか、神経損失してるんじゃないですか」
2人と一緒に業務をこなすとやたらに話しかけてきて仕事が一向にはかどらないため個室に追い出し、しんと静まった中央執務室の一角で、シナとティナは休憩していた。
「私の幻想を見ている夢想者だとしか思えません。
私は——、・・・彼が思うような、善人ではありませんよ・・・・・・」
どこか憂いを秘めた瞳で呟くシナの過去の一部を知るティナは、顔色を窺いつつ、答える。
「本当に、貴方の“幻想”だったのかしら?」
「・・・・・・・・・?」
「あの子・・・、ライアが見ていたのは、貴方の“本質”なのではない? 彼の言ったことに、誤解や美化はなかったんじゃないかしら? 彼は、事実は言えど、偽実は言っていないと思うの」
「・・・まさか」
にわかには信じられないといった様子で指を組み項垂れるシナは、本当に参っているようだ。
それも仕方の無いことなのかもしれない。シナはストレートすぎる言い方や嫌味を並べる人間であり、そうそう人には好かれない面倒な性格をしている。しかも親友は要らないと来た。
更に、・・・これは彼の過去も関係するのだが、シナは他人を寄せ付けようとしない。
よって、“他人に嫌われる”要素を山ほど持った“嫌悪対象”としてのシナルス・デリート・レクンセス今こうして構築されている。
つまり彼は、“嫌われる”為に居るような存在だということだ。
逆に言えば、“嫌われ”なければ、ならない。
なのに。
「・・・私がそんな“善人”で在っては、ならないんですよ・・・」
「・・・・・・・・・」
「私はライアが、苦手です。あの人は・・・、私の脅威になる」
シナは、恐れているのだろうか。
これまで長い間をかけて築き上げてきた、“自分”を壊されるのを。
即ち、“シナルス”という存在を、否定されるのを。
手で顔を覆い隠し、シナは立ち上がる。
「・・・明日は、お願いしますよ」
いつもの彼からは想像もつかない、かすれた弱弱しい声だった。
—第2話END
- Re: 人々を変えた存在 ( No.7 )
- 日時: 2011/05/07 13:31
- 名前: さぼてん (ID: /.uLOIob)
- 参照: http://ameblo.jp/tentoumusino-to/
第2話終了しましたー。
この話についてはそんなに解説することがn(ry
まだ序盤なのでなんとなくほのぼのしてますが、大体次回あたりから風向きが変わってきます。
次回からは、やっとこシリアスらしくなってきますよ〜(笑
ライアの印象に関しては、私としては「明るくて打ち解けやすそうだけどなんか違和感がある」みたいなのであれば計画通りです。「ただの馬鹿」だったらそれはそれでいいのですがw
ではまたっ
あ、いずれキャラ紹介したいと思います!
- Re: 人々を変えた存在 ( No.8 )
- 日時: 2011/05/08 19:55
- 名前: さぼてん (ID: /.uLOIob)
- 参照: http://ameblo.jp/tentoumusino-to/
−第三話−
「シナ先輩ティナ先輩! オレ、目標決めたんすよ!」
「「・・・・・・?」」
この時点で、既に嫌な予感がしていた2人。
次のセリフで、その予感は的中した。
「此処って、“世界”全部を管理するトコロなんでしょう?
ならオレ、人々も、神々も、動物達も、世に住まうすべての生命を幸せにしてみせます!」
・・・・・・。馬鹿だ。
2人は、おそらく同時に思った。
ライアは20代前半ほど。いくら無邪気に育ったとしても、一個人に出来る・出来ないの分別はつくはずで。
“戦争を終わらせる”ならまだしも、“全てを幸せにする”など夢物語に等しい。
「そんな目標もっても、後で辛くなるだけよ?」
「だーいじょーぶっすよ」
至極正論を述べたティナに、ライアは何の根拠があるのか自信満々に返す。
否。“出来る”と確信した目で。
何処からそんな自信が湧いてくるのだろうか。
甚だ、疑問だった。
「・・・貴方に、他人の“幸せ”が何か、わかるとでも言うんですか?」
「まぁ勿論細かくはわかりませんけど。なんとなくはわかってるつもりです」
「それが自分の自惚れではないという根拠は?」
「ありません」
きっぱりと答えられては、シナも言うことがみつからない。
幻想を打ち壊そうとするものの、ライアはしれっとして返し全く聞く耳持たず。他人の意見を聞かないという部分では少々反省部分もあるが、芯を通しているという部分では、評価できないこともない。だがシナはライアを高く評価する気などさらさらなかった。彼は、綺麗事が多すぎる。
「シナさんもティナさんも、人間の底力ってヤツを舐めすぎですよ。人間、できるって思えば、そう信じれば、実現するもんです」
・・・嘘だ。
そんなもので実現できるのなら、
「・・・誰もが幸せな世界になっているはずじゃないですか」
ぴくり、と。ライアの表情が硬くなる。
一瞬、彼の瞳の奥に、何か暗いものが見えた、気がした。だが、気のせいだろう。
ライアに限って、そんなものがあるとは思えない。
そう。ライアは、色んな意味で、純粋なのだから。
何か体験した後で、あんなユメのある発言ができる訳が無い。現実を直視した者は、二度と理想を語ることなどできはしない。
「必ず、みんな“幸せ”にしてみませますから」
何かしらの揺るぎない“覚悟”を秘めた眼差しに、2人は黙りこくる他無かった。
ライアは、生まれた地、地上に降り立っていた。地上は今、ザァザァと大粒の雨が大量に降り続いている。
“管理塔”にこの荒んだ空気は流れないが、ライアは地上が好きだった。故郷だからという理由だけではない。
彼からするととても重要な出来事が、あったのだ。5、6年ほど前に。彼が最終的に向かっている場所も、それに関係する。
「・・・、そういや・・・」
“管理塔”の神々は“生きて”いない。いや、神なのだから当然と言えば当然なのだが、『毎日充実している』風に見えないのだ。飲まず食わず。眠ることもせず。ついでに風呂に入ってリラックスすることもせず。
あんな生活、否、毎日の、一体何処が楽しいというのだろうか。それとも、そんな感情は神に必要ないということなのか。
ライアには、さっぱりよくわからない。カルチャーショックだと言えばそれまでなのだが。
“管理塔”には風呂が無いし。キッチンも、食堂も無かった。
“使用感”はあっても、“生活感”と呼ぶには程遠い。
だから、“生きている”ように見えないのか。
納得。
「じゃあ、まずそっから始めっか」
1つ目標を定めたと同時に、ぴた、と足を止める。
十数メートル先には、文字の刻まれたたくさんの石碑が規則的に並んでいた。大きさはどれもほぼ同じ。材質は、青みがかった、光沢のある石のみ。
風が吹き、目的地としている場所から大小・色の様々な花弁が木の葉に混じってライアの方に向かって吹き付けてくる。風は少し長めの金髪をなびかせた。
ライアにとってそれはまるで「こっちに来るな」と言われているようで。
目的地に着いていないこの場所でも、あたりは厳粛且つ静寂な空気を纏い、無駄な行動を控えさせる。
今回シナたちの許可も得ず地上に降りてきたのは、此処に来るためだった。強いて言うなら、あの石碑だらけの一角に行くため。
なのに、意思とは逆に自分の足は正直なもので、残り十数メートルだけにも関わらず一歩も動かない。全身鉛を提げたように、全身が固まっている。
怖かった。・・・それだけだった。
それだけのために、彼は目的地へ、・・・赴くことは叶わなかった。
彼は雨の中、びしょびしょになっていても構わず立ち尽くす。
「・・・あーぁ、オレのヘタレー・・・」
近くの公園にある芝生で仰向けになったライアは、誰にともなく呟いた。あたりに人は居ず、遊具で遊んでいる子供連れがほとんどだっため、返事は(そもそも求めていないし期待もしていないが)勿論来ない。
「こんなのだから・・・、アイツも・・・」
彼らしくも無く、自責するような言葉。
数十分前に“生命を幸せにする”とのたまった人物と同じだとは到底思えない弱腰だった。
もうちょっと此処にいるかぁ、とごろんと寝返りをうった。
・・・が。
「こんなところにいたのね」
悪魔の微笑みで仁王立ちする“運命神”がいては、どうすることもできないだろう(ただ、表情を強張らせる以外には)。
「探したわよ、ライア・ウィンドリア“調整神”兼“時空神”」
ばつの悪そうに冷や汗を滴らせる。
とりあえず下手な言い訳をすれば即刻殺されかねない、いや、殺されては困るのだが、それくらいの殺気で襲い掛かってきてもなんらおかしくはない。
そう考えているライアは、果たしてティナを何だと思っているのか。
「・・・これって悪夢ですかね?」
「残念。紛れも無く現実でしかないわ」
にっこりと威圧する鬼の笑みを向けられ、ですよねー、と暢気に返す。
あれ、笑顔ってこんな怖いもんだったっけー、と1人的外れな疑問を抱きながら、ライアの意識は暗転した。
—第3話END
- Re: 人々を変えた存在 ( No.9 )
- 日時: 2011/05/08 20:00
- 名前: さぼてん (ID: /.uLOIob)
- 参照: http://ameblo.jp/tentoumusino-to/
3話目終了ですー。
今回は、ライアが何をしたいか、はっきりわかる回でしたねー。
彼が言った「目標」は、色んな主人公やキャラクター達が望むものです。
しかし、私としてはそれを真に達成したものは、無かったように思います。
なので、私なりの答えをこの話で書いていく予定です。
彼は“偽善者”では終わりませんよ〜☆
次回は更にシリアスでございます。
ちょっとずつライアに少なからず影響を与えた出来事の事が明かされていきますねー。
- Re: 人々を変えた存在 ( No.10 )
- 日時: 2011/05/09 21:23
- 名前: さぼてん (ID: /.uLOIob)
- 参照: http://ameblo.jp/tentoumusino-to/
−第四話−
(これは夢だ)
そう、それを自分が再び体験しているだけの。
夢の中で、されどライアは今自分が夢を見ていることを自覚していた。
とはいえ、 既に起こってしまった出来事 は、どう足掻いたところで変えられようはずもなく。
「絶対! ぜぇっったい治るから! 一緒に頑張ろうぜ!」
「うん。俺だって、この病気には負けない」
「おう! 治ったら、色んなトコ行こうな!」
「うん」
あぁ、どうして彼と話す自分は、こんなにも笑顔なのか。
げほげほごほ。
ライアは業務と向き合いながら、度々咳き込んでいた。
シナは興味なさげに視線を合わせようともせずに言う。
「雨の中突っ立ってるのが悪いんでしょう。自業自得ですね。馬鹿は風邪を引かないといいますが。やはり馬鹿でも風邪は引きますか」
「・・・シナ先輩、もうちょっと優しい言葉かけてほしいんですけど」
「誰が、誰に?」
「・・・すみません」
冷え切った口調で言われて、しゅんとする。
が、瞬く後には既にいつもの調子を取り戻していて。切り替えの速さは素直に凄いと思うが、只の馬鹿か阿呆ということでもあるので褒め言葉にはならない。
「シナ先輩」
「・・・・・・何です」
この男に話しかけられるとロクなことがないことをそろそろ学習したシナは、正味無視したいところだったが、そうもいかず渋々返した。
今度は逃げられないよう椅子に拘束魔導で固定されたライアは、2席兼任ということもあり、真面目に業務処理しながら隣席のシナに話しかける。
「“管理塔”に風呂とかキッチンとか作りません?」
嫌そうな顔で聞いていたシナは、露骨に訝しそうな表情を浮かべた。
呆れたように溜息をつき、視線を外して軽く髪を掻きあげる。
「・・・何を言うかと思えば。それらが“世界塔”に必要だと思いますか?
私には、貴方がどうしたいのかさっぱりわかりませんよ」
溜息混じりに言うシナに、ライアは真顔で。
「先輩達に幸せになってほしいだけですよ」
その一言のトーンは僅か、低く。
しかし次の瞬間にはけろっとしていた。
「言ったじゃないっすかぁー。忘れたんですかせんぱーい」
「・・・・・・・・・」
—本当に、この切り替えの速さは、何処からくるのか。
あははははと笑う彼に、シナはぽそりと呟く。
「貴方は誰かの死を間近に見たことがありますか?」
ただただ、軽蔑とも哀れみとも疎みともとれない眼差しを、突き刺すように向け。
先程までの騒ぎ様が嘘のように、表情を消すライア。
彼が何と答えようと、“どう思っているか”は決まったようなものだったが、シナはライアの返答を待つ。それが彼にとって最も辛いものだとわかっていても。
彼は弱弱しくにへり、とぎことない笑みを浮かべた。
「・・・まさか。オレは凡人っすよ? そんな非日常な体験、するわけがないでしょう」
視線を逸らし笑う本人も、きっとこんな嘘が通用するとは思っていない。
けれど、 そう答えるしかなかった のだろう。
「そうですか」
シナは平淡な声音で言い、
「貴方がそう主張するのなら、そういうことにします」
作業に戻った。
それ以上に追求しないのは、彼なりの優しさか。それともライアの性格を多少なりとも知った彼のあえて、か。
どちらにしろ助かったライアは、安堵の息をつく。仕事の鬼であるシナはすぐに集中出来る人間離れした(そもそも人間ではないが)特技のようなものを習得しており、どうせ見えない。
そのとき。
自分も手を付けようとして、ぐらりと一瞬、身体が傾く。渾身の力で転倒するのだけは阻止したものの、何故か身体が動かない。視界が色を失って、脈も、運動していないのに酷く荒い。呼吸するたびに、胸が締め付けられるような痛みが走る。息をしなければ窒息で、すれば激痛。
苦しい。
(ぁ・・・・・・)
これはまさか、と1つの可能性を見つける。病は気からというが、逆に少し安心した。
正体のわからない苦しみは辛いが、わかってしまえばこっちのものだ。
大丈夫。焦る必要は無い。
状況を把握したためか、思考は冷え、落ち着いて深呼吸する。まだ痛みは走るが、我慢出来ないことはない。
大体落ち着いてきたところで、先ほどの話の続きを吹っ掛ける。
「ってシナ先輩、オレの話はまだ終わってないんですよ」
「・・・あぁ、建て増しの話ですか。必要ありません」
仕事のホログラフィックから目を離さずぴしゃりと撥ね返すシナは、折れる気などさらさら無いらしい。
しかしライアも引き下がらない。
「まずご飯食べましょう! 食べるの楽しいですよ!」
「私達神族は食物に含まれる栄養素を必要としません」
「ご飯が不味いっていうんですか! 料理人に謝れ! コックさんに全力で謝れ!」
「そんなこと一言も言ってません。そもそも私達に味覚は存在しません! わかったら話しかけないで下さい」
「無けりゃ造ればいーでしょーが!」
「理由が足りません!」
黙ったら負けとばかりに張り合う2人は、バチバチと火花が散っているよう。
ちなみに、シナは普段自分がこんなムキになって反論するなどほぼ無いことを綺麗さっぱり忘れていた。
「物は試しって言うじゃないっすか!」
「意義がありませんから!」
「騙されたと思って!」
「騙されているとわかっていながら騙される馬鹿が何処に居るんです!?」
「はい!オレですが何か!?」
「貴方と一緒にするな!」
最早子どもの口喧嘩レベルである。
いつまで経っても終わらない口論がいつ終わるのか。
「あら、楽しそうですね、お2人共。
お仕事、捗っていますか?」
終わった。
—第4話END