ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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気狂いピエロ
日時: 2011/11/04 19:47
名前: 須藤 ハヤ (ID: y90Df8N6)

—プロローグ—

 嘗て、こんな話しを聞いた事はないだろうか。
—【悪い事をしたら、気狂いピエロがやってきて、体中の血を抜かれるよ】
母親達が、悪戯をした子供に使う作り話だ。よく耳にするだろう、子供を大人しくさせる為に、怪獣やお化けを作り話にして子供に吹き込む初歩的な子供騙しを。本来なら、只の作り話で終る。
 だが……。もし——それが本当に現れたら?
 体中の血を全て抜かれ、身体をバラバラに切り刻まれて、野良犬の餌にされたら?
 いや、その身体の一部を切り取られ、誰かに移植されたら?
 食べられたら?
—どうする?

 貴方の愛する子供が……ピエロの楽しい喜劇の主人公にされたら……。

 抱き締めなさい。その愛する子供の頭を。抱いて逃げなさい、その幼い赤ん坊の身体を。
ピエロは笑う。悲しいピエロは、喜劇を舞う。残酷な暗闇の夜に、真紅の涙を流して、ピエロは美しき死体の女王と、一夜を明かす。そして、夜がくると、ピエロはまた……狩りを始める。狙うは、美しき女の、青い瞳を掲げる目玉。

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Re: 気狂いピエロ ( No.14 )
日時: 2011/11/04 20:38
名前: 須藤 ハヤ (ID: y90Df8N6)

三章:赤い花

「ベルカさん。大丈夫ですか」
 純白のカバーに包まれた枕に顔を埋めながら、動こうともしないベルカに、コールは何時もと変わらない声色で声を掛けた。ここで意識した言葉を掛けるのは、かえって掘り返すと判断したのだ。
「……」
 返事をしない。いや、言葉も出せない状況。喉が枯れ、掠れた息だけが抜けていく。
「ベルカさん」
 コールは依然としてベルカの名前を呼び、そっと背中を摩る。起こそうとしているのがよく分かる。変わらないコールの優しさが、辛い。こんなにも人に迷惑を掛けている自身に、ベルカはどうしようもない苛立ちを覚えた。
いつも気丈に振る舞ってきた自身が、今では泣く事でしか自分を支えられない程崩れている。こんな悔しさがあるだろうか。大切な同僚を失い、年下の男に守られる。ベルカのプライドは、もうぼろぼろだった。
 枕に顔を埋めていると、ゆっくり布団を剥がされた。コールの判断は何時も的確だ。
このまま寝かせておくよりは、動かした方が楽になる。その判断力に、救われた。

「ベルカさん。朝食を作りました。食べましょう」
「……コール」
「何ですか?」
「……起こさないでって言っても、私を起こす?」
「起こします」
 その言葉に決心した。この青年は、必死に元気づけようとしている。その優しさに、甘えてみようと。
ベッドから起き上がり、不意に、自身の服装を見てみる。服が変わっている。明らかに大きな男物のTシャツにズボン。コールの物だ。服を着せた本人は寝室から出て、テーブルにトーストとハムエッグを並べている。鼻を利かせると、心地いいコーヒーの香りが漂ってきた。
依然として目の周りは腫れて隈になっているが、頭は冴えてきた。やはり起きて正解だ。色々考えずに済む。冷たいフローリングを踏みしめて脱衣所に行き、鏡を見ると、思わず自身の荒み加減に呆れてしまう。酷い窶れ様だ。これが私かと思いたくなる程、惨めな姿。勢いよく顔を洗い、洗いたてのタオルで拭くと、意外なほど清々しかった。どんな事があっても朝は必ず来る。そう実感させられ、鏡の周りを見てみると、いかにも男の家らしく、歯磨き道具と洗顔料しか置いていない。
軽く頬が緩むのを感じると、つくづく、自身が弱っている事を実感せづにいられない。何気ない平和な時間が、妙に心に滲みるのだ。

Re: 気狂いピエロ ( No.15 )
日時: 2011/11/04 20:44
名前: 須藤 ハヤ (ID: y90Df8N6)

※【うーん……。どうやったら……あの人を僕の人形にできるかな。ねえ、ラドール。君はどう思う?】
「……貴方の思うままに」
 暗がりの部屋で、鎖に繋がれた一人の少女が掠れた声で言葉を紡ぐ。服も着ておらず、剥き出しになった身体は異常に白く。まだ女としての膨らみを持たない胸が微かに上下し、縫い傷だらけの手足をまるでキリストの様な体制で板に張り付けられている。
ピエロが作った狂気の結晶。
 ピエロは少女の言葉を聞いて、口元を三日月の様に吊りあげた。ピエロの狂気はこれから始まる。絶望の秒読みが開始されたのだ。新たな恐怖が、暗がりの部屋をゆっくりと出て、新たな獲者を求めて躍動する。ピエロの不気味な微笑が、静かに血に染まる。


「コール。あんた、私の服どこにやったの?」
 脱衣所から出てきたベルカは、朝食を並べ終えて朝刊を読んでいる青年に声を掛け、態とらしくTシャツの裾を摘まんでみせた。途端に、青年の顔が真っ赤になる。
「あ、すみません! 別に下心は無いんです! 本当に!」
 子供みたいだとベルカの脳裏に過る。そういえば、ジェシーも昔は、コールの様に真っ赤になっていた。懐かしい記憶が一瞬蘇り、消えていく。彼が生きていたなら、どれだけ笑えただろう。今では、虚しさしかない。
目の前で、顔を真っ赤にして必死で冷静を保とうとしている青年に目をやると、新聞の一面が目に入った。
 またしても死体、この殺戮いつまで続く。何とも適当なタイトル。写真は——ジェシー・グレイハワード。
そして隣には、御馴染の記者の顔写真。苛々が募る。眉間に皺が寄るのを感じながら、いそいそとコールの向かい側の席に座り、コーヒーを一口啜った。眉間に皺を寄せている事にコールが気づくまでに4秒。
コールは慌てて朝刊を閉じて隣のゴミ箱に押し込んだ。心配そうな目をして見据えてくる青年に、ベルカはコーヒーを啜りながら、目をゆっくりと閉じて見せた。気にするなという合図だ。
 嘗て、ベルカとジェシーが一つの大きな事件に関っていた時。目で合図する事が当たり前になり、日々の生活でよく使った。4年前の事だ。
その時の癖が、今でも残っている。無意識の内に眉間に皺が寄るのも、目を閉じるのも、全てジェシーとの日々でできた癖。引きずる事を嫌ってきた自身が、今では癖を一つでもする度に折れそうになる。
心の弱さが浮き彫りになり、耐えられない程の悔しさが込み上げてきた。口に出さなくとも、本当は辛い。素直にそう言えたら、どれだけ楽だろうか。
——私も女。
 自身を蔑み笑い飛ばしてやりたくなるのを堪えながら、平静を装い、目の前の青年に心配させまいとする。目の前で心配そうにこちらを見据えている青年が、自身の心の内を理解するまでには時間が掛るだろう。それでも、理解される事を望んでいる。
今は、この平和な時間を共有し、心の綻びを癒したい。そう思う事は、自分勝手だろうか。

「コール、気にしなくて良いから」
 ふわふわに焼かれたスクランブルエッグをトーストに乗せて齧り、足を組み変えながら何時もの声色で口にした。コールの焼いた卵は程良く塩コショウが効いており、良い味だった。
「……どうしてですかね」
「何が?」
 また一口トーストを齧り。コーヒーを啜る。
「どうして、ピエロはジェシーさんを……殺したんでしょうか。ベルカさんがジェシーさんを大切だと思ってるとは知らない筈なのに」
「……」

——確かにそうだ。
 どうして、ジェシーは殺された。ベルカの事をよく知る人間でなければ、ジェシーに想いを寄せている事を知る筈がない。
ベルカはコ—ヒーを置いて眉間に皺を寄せながら暫く思考を巡らせる。真っ先に浮かんだのは、署の中で、自身をよく知る者の犯行。考えればその線が一番怪しい。
ジェシーの婚約者を殺すのにも、署に居れば誰もが知っている。あれだけ幸せそうに話していたのだから。そして、手紙も荷物も、簡単に入れられる。
急速にベルカの思考が巡る。しかし——今は停職処分中。
捜査する事ができない。

 どうする。困り果てて、コールを見ると、全てを理解した様な顔で青年は目に闘志をひめていた。余程表情に出ていたのだろう。
コールは、ベルカの目を見据え、深く頷く。
「俺に任せてください。ベルカさんの代わりに、俺が調べます」

Re: 気狂いピエロ ( No.16 )
日時: 2011/11/04 20:47
名前: 須藤 ハヤ (ID: y90Df8N6)

※ そして三日が経ち。ベルカはコールの家に居続け、コールが持ち帰る書類に目を通している。
ここ最近の署に出入りしている人間、ジェシーと自身をよく知る人物の履歴、行動、全てをコールは仕事の合間に調べて持ち帰ってくるのだ。自分の仕事もあるだろうに
コールはよく働く。頭の回転が速いのもあるだろうが、それ以外に、コールはよく人に好かれている。元々、人当たりの良い性格である彼は、どの部署の人間とも面識があった。行動を調べるのも「捜査の練習なんです。内緒にしてください」と言えば簡単に情報が手に入る。
ベルカだったら、そうはいくまい。調べればすぐに知れ渡り、上司に文句を言われるのが関の山だ。つくづく情けない。

 夜、青年は毎日11時に帰ってくる。鞄に沢山の書類を詰め、空いている手で白ワインを一本とチーズを持って。
意外だと良く言われると、本人は苦笑交じり話していた。何を隠そう、コールはかなりの酒豪である。どんなに飲んでも殆ど酔わない。それを彼は、若干疎ましく思っているらしく、偶にストローで酒を飲む。酔いがまわり易いと聞いたのだ。
辛い時や悲しい時に、酒を飲み、忘れたくても酔う事ができず。苦い思いをしてきたらしい。そして、コールは毎日酒を飲む。一本を飲まないと落ち着かないのか眠れないのだというが、実際は、軽いアルコール中毒だ。本人は、多少の酒は健康に良いと信じているようだが。
「ベルカさん。戻りました」
 コールの声が、ダイニングに響いた。若干苦笑交じりの声色で。
「おかえり」
「あ、ただいまです。また、電気点けてないんですね」
 コールがそう言った瞬間、白を基調とした部屋が一層明るくなった。ベルカは、普段から電気スタンドの明りを頼りに書類や書物を読んでいる為、電気を点ける事が殆どないのだ。何度か変だと笑われたが、気にしない性格の為に、直す事は無い。
そして、ベルカは眼鏡を掛けている。視力が悪い理由をこの明りのせいだとよく言われるが、眼鏡である事も、視力が低い事も気にしてない。もっぱら集中したい時やしている時にしか掛けないのだから。仕事にも支障はなく、書類も近くで見れば見える。
 ベルカは眼鏡を外し、首の骨を鳴らして、両腕を高く上げて伸びをすると、コールの方に顔も見ず手を伸ばし、書類を渡すよう催促した。この三日間、全く同じ行動だ

Re: 気狂いピエロ ( No.17 )
日時: 2011/11/04 20:51
名前: 須藤 ハヤ (ID: y90Df8N6)

 差し伸べられた手に、コールは書類を載せなかった。その代わり、暫し躊躇した後、遠慮がちに少し近づいて、ベルカの手を取ると軽く握った。
「え……コール?」
 突如感じる人の温もりに、当然の反応をしてコールに視線を向けると、まだ若い苦笑が帰ってきた。表情で分かる、青年は、またも気を利かせて、何かを伝えようとしていると。すぐに、理解できた。渋々腰を上げ、ダイニングテーブルに手を引かれて座ると、コールは満足げな笑みに表情を変えて、テーブルにチーズとワインを置いて、グラスを取りに向かった。
本当にこの青年は人の心をよく読む。
「コール……何で分かったの」
「何をですか?」
 グラスを二つ持って戻ってくる相手にそう声を掛けると、大袈裟な反応で誤魔化す様な言葉が返ってきた。渋々椅子に座り、居心地の悪そうな顔をしてそれを見据える自身を、青年はどう思っているのだろう。考えようとして、止めた。馬鹿らしい。この歳になって一人の男も愛せぬ女が、男の心など読めるはずがないのだ。現に——ジェシーの心すら読めなかった。
 七年共にいて、一切気づかなかったジェシーの気持ち。ピエロの手紙で全てを知る事になって、自身の心に一番痛手になった事だ。隠れて泣いていた事もあるかもしれない、自身の我儘に嫌とも言わずに一緒にいてくれた、最高の相棒。思えば、相棒と思い始めてからかもしれない。
ジェシーを、一人の男として見れなくなったのは。恋心は確かに抱いていた。だが、心のどこかでは一緒にいる事が当たり前になっていて、踏み出せないでいる自分がいた。そしてこの結果だ。失ってから気づくとよく言うが、まさか、ここまで本当だとは。思い出して、椅子に右膝を立てて、乱暴に髪を掻き上げ溜息を吐いた。もう忘れなくては、ジェシーへの気持ちは。今は、狂ったピエロに集中しなくてはならない。敵を討たねばならないのだ。

「ベルカさん。あまり、一人で悩まないでください」
 その様子を見ていたコールが、心配そうに言いながらワイングラスに白ワインを注いでいる。ワインの仄かな甘い香りと、チーズ独特の香りが鼻孔に入ってきて、ふと、緊張が解れた様な気がした。久しぶりだ、こうして酒を飲むのは。
「私が悩んでる様に見える?」
 一口ワインを口に含み、ゆっくりと喉に流し込んでから、おどける様に言ってみる。想像した通りの反応がくると考えて。
「見えますよ、その目の下の隈。眠れてないんじゃないですか?」
 きた。
「コール。素直に聞くのは直した方がいいわよ」
「え?」
「取り調べの時に相手に呑まれるから」
 コールの表情が困惑した様に凍りつく。それを見て不敵な笑みを浮かべると、またしても苦笑が帰ってきた。二口目を口に含んで飲み干し、軽く頷いて見せると、相手も頷いた。
「ごめん、話しの腰を折って」
「いえ」
「私は大丈夫だから。心配しないで」
「心配するなと言われると、逆に心配しますよ」
「……」
 言葉に詰まった。いつもなら「じゃあ、心配して」と、ふざけて返す余裕があったのだが。今は、その余裕が無かったのだ。無言でワインを口に含み、暫く思考を巡らせて
「大丈夫。私は本当に大丈夫」
 そう繰り返すしかなかった。

 コールは、ベルカの言葉を聞いて、渋々納得した様にワインを一口飲んで、苦笑しながらも頷いた。これ以上言っても、変わらないと思ったのだろう。
一瞬、重い空気が流れた。肩が凝る。耐えきれなくなって先に口を開いたのは、ベルカだった。話題を変えなければ、息ができない。
「コール、私、明日ちょっと出てくるから」
「え、でも。一人歩きは危険ですよ。もしまたあんな事があったら。それに……外出は禁止されてますよ」
「コールが黙って入れば良い。それに、今度こそ自分の身は自分で守るから」
「でも、駄目です」
「良いから。ほっといて」
「駄目です」

「これを逃したら、もう会う機会なんてないのよ。だからほっといて!」
 思わず、声を張ってしまった。
ベルカには、隠している事が一つある。ジェシーですら知らなかった、大きな秘密が。明日、土曜日だけ会う事が許される人物が、ベルカにはいる。この世で一番守らないいけない存在が。コールはベルカの大声に驚いて、目を見据えていた。そして、必然的に浮かぶ疑問を口に出す。
「会えないって、どういう事ですか」

Re: 気狂いピエロ ( No.18 )
日時: 2011/11/06 19:44
名前: 胡蝶 (ID: 01wfR6nM)

うわーーいっぱい更新しましたねーー
ジェーシーと婚約者が殺されたのは以外でした!!
すっごく、小説を書く才能がありますねっ!
私が、ダメなだけなんですがー・・・続きをまた更新してください


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