ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 小人ノ物語【物語の謎が、一部明かされました!】
- 日時: 2012/01/27 21:55
- 名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: amGdOjWy)
こんばちはございます、萌恵です。
こんばちはございますとは、『お早う御座います』『今日は』『今晩は』を……(以下略)
荒らしや中傷発言、宣伝などを繰り出しに来た方はUターン決定です。
それ以外の方は、そのまま小説を閲覧しましょう。
それでは皆様、愉快な小人達の世界へ行ってらっしゃーい!
目次は>>1です。
その他、筆者の作品
死神は君臨する >>3
甘くて紅い物語の先は >>38
2011/11/26 20:23 スレッド設立記念日
- Re: 小人ノ物語【第一章更新!!】 ( No.23 )
- 日時: 2012/01/06 17:43
- 名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: amGdOjWy)
第一章 「小人になる薬」の配達屋さん【第八部】
大きな力が下から上がってきた様に、突然、部屋がガクガクッと激しく揺れる。中腰で扉に耳を張り付けていた二人は、無様にもころんと床に転げ落ちる。桃色や黄色や黄緑色の色とりどりのマカロンが、白い大きな皿ごと宙に舞う。本棚に納められていた分厚い書物が、何冊か二人の上に降りかかってくる。
——全て、ほんの一瞬の出来事だった。
「きゃぁぁぁぁッ!」
床にうつ伏せに倒れ込んだ星が、恐怖からか細くて甲高い悲鳴をあげる。夕菜は、小刻みに震える星を守る様に、星の体の上に覆い被さる。揺れはもう、止んでいた。廊下からバタバタと騒がしい二人分の足音がして、そのすぐ後に部屋の扉が勢いよく開く。
「星ッ……夕菜ちゃんッ!」
「え、西川も居るんですか?」
扉の向こうから顔を覗かせたのは、心配そうな顔をした星の母親と、不思議そうに首を傾げている相田良哉だった。
「ママッ、ママァァァァァ!」
ひんやりと冷たい石像の様に固まっていた星が、ずるずると床を這って、急いで母親の脚にしがみ付く。その目尻には、透明で綺麗な涙が浮かんでいる。星の母親が、安堵の溜息と同時に顔を歪ませる。娘を抱き締めようと、細い手を伸ばしたその時——
「なッ……あ、あれは、何なのッ?」
星の母親の指差す方向に、この場に居た全員が揃って顔を向ける。その顔に、見る見るうちに驚愕が走り抜けていく。
テーブルやらマカロンやら書物がごちゃごちゃと散乱した空間。『部屋』と呼ぶには乏しいくらいのその『空間』の中心辺りで、小さな何かが蠢いていた。
大きさはせいぜい一〇センチメートルから一二センチメートルくらいだろうか。よく見ると、人の形をしていて、どうやら一人ではなく、二人いるらしい。片方は燃える様な赤毛をポニーテール風に結いあげ、スカート丈が短い、情熱的な紅い服を身にまとっている。もう片方は、軽くウエーブがかった涼しげな水色の髪を腰まで垂らし、長袖の、足が見えないふわふわしたドレスを着ている。
唖然としている一同の前で、二人の小さな謎の生物は、顔を見合わせ焦った様に顔を歪ませた。
- Re: 小人ノ物語【第一章更新!!】 ( No.24 )
- 日時: 2011/12/30 21:45
- 名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: amGdOjWy)
第一章 「小人になる薬」の配達屋さん【第九部】
人間をそのまま小さくした様な生き物と、どこにでも居る様な普通の人間が向き合う。一瞬、両者の異様な視線の間で、青白い火花が散る。それに気付いた夕菜が目を見開き、息を呑む。目の前の光景を受け入れまいと抵抗する様に。星はすっかり怯えきってしまって、がくがく震えながら母親にしがみ付いていた。
——大変……! 人間に見られてしまったわ!
尋常では無いほど焦ったジュリアが、ぼぅっとしたまま動けないでいる妹にテレパシーを送る。姉からのテレパシーをしっかり受け取ったソフィアは、少し考えてから、姉にテレパシーを送り返す。二人の背中に、何やら氷のように冷たいものが通り抜けていく。
——良い提案がありますの。姉様、よぉくお聞きになって?
——何? 早く言ってよ。
——びっくりしないでくださいね。……あの人間たちに、『種族変換薬』を飲ませるのです。
——何それ! いくらなんでも、無謀すぎよ!
——でも、他に打つ手は……無いのです。
すっかりパニック状態に陥ってしまった二人は、いつもの様に冷静にものを考えられずにいた。だから、こんなに無謀な事を思いついてしまったのかもしれない。己の行動が、己の考えが、三人の少年少女を長い長い旅に繰り出すとは知らず。
二人は、長い間禁じられていた禁断の薬を、目の前に立っている人間の開いた口に向かって飛ばしてしまった。
「何あれ……あぁぁッ!……何か飲んじゃったよ!?」
「私も……。私は、何を飲んじゃったんだろ?」
普通の人間と不思議な生き物が居るだけの空間に、気まずい沈黙が降りる。やがて、三人の未成年者達は、自らの身体の異変に気付き始める。
「あれ、段々家具が大きくなっていくような……」
散乱した書物や落ち着いた色合いの家具、それに繊細な細工がされた皿が、見る見るうちに巨大化していく。しかし、巨大化したのはそれだけでは無かった。——部屋全体が大きくなっていた! そして、星の母親までもが……。
「ママァ! どうして……大きくなってるのッ?」
物凄い勢いで巨大化していく母親の脚にしがみ付いていられず、立ち上がった星が叫ぶ。今や星達は、部屋の隅に飾られていた可愛らしいドールハウスの人形と変わらない大きさだった。
星の母が、戸惑った様に口を開く。
「えっと……星達が、小さくなってるみたいよ?」
「……え」
普通の人間一人と、異世界からやってきた小人二人。それから、元は人間だった三人が入り混じる部屋で。
——驚きと恐怖がごちゃ混ぜになった悲鳴が、雨の赤根町に響いた。
- Re: 小人ノ物語【第一章更新!!】 ( No.25 )
- 日時: 2011/12/30 21:47
- 名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: amGdOjWy)
というわけで、今日は更新できません(どういう訳何だか
年が明けましたら、更新すると思います。
- Re: 小人ノ物語【第一章更新!!】 ( No.26 )
- 日時: 2012/01/01 10:26
- 名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: amGdOjWy)
第二章 幼い頃の夢は叶ったけど【第一部】
——夜。
大量の墨を垂れ流した様な漆黒の夜空を、地球の衛星、すなわち月が、輝きながら支配する頃。
小さなビーズさながらに瞬く星が、泡粒の混じった波を寄せては返す海や、獰猛な獣の気配が常に漂う山や、人間どもが徐々に徐々に深い眠りに落ちていく様を、静かに見守る以外は。
どこの何者にも犯す事が出来ない、深い“夜の世界”というものが、極東の小さな島国にするりと溶け込んでいた。
「——私がちっちゃかった頃の夢が叶ったわ」
豪奢なドールハウスの中でうとうとしていた星が、ふいに、呻き声に似た声をあげる。なに、と、隣でこれまたうとうとしていた夕菜が、星の顔を見つめる。何やら考え事に耽っていた良哉も、つっと顔をあげた。
三人が暗い眠りの世界に入ろうとしていたのは、今では遊び道具では無く、立派な寝床と化してしまったドールハウスの中。
星が八歳の誕生日の時に貰ったというドールハウスは、大きな三階建て。一階は、広々とした玄関と設備の整ったキッチン、大きなテーブルが置かれたダイニングルームに、家族で寛げる様な柔らかいソファやテレビがあるリビングルーム。それに、それぞれの階を繋ぐ吹き抜けの螺旋階段。二階には、男女兼用のトイレとバスルーム、それから人形(赤ちゃん)と人形(両親)用の部屋が一つと、人形(弟)と人形(妹)の部屋が一つ、それから広いバルコニー。最上階には、二階と同じバルコニーと人形(お兄ちゃん)と人形(お姉ちゃん)用の部屋が一つずつあり、後は、洗濯機が置かれた部屋や、物置がある。
星たち三人は、一階のリビングルームで、座り心地の良いソファに腰掛けていた。左から夕菜、星、少し間隔をあけて良哉の順番で。
実はこの家、人間が暮らしても何不自由の無い様に作られている。普通に電気製品が使えるし、水道もガスも、ちゃんと通っているのだ。キッチンにあるフライパンや包丁、まな板も、玩具ではなく本物だ。何故こんな凝ったつくりになっているのか、それは、星から見て母方の祖父の、美月小太郎氏の趣味が少々行き過ぎたからである。
現在七〇歳という高齢の小太郎氏は、三〇年前、当時一〇歳の美月瑠奈——星の母親の事だ——に死ぬほど懇願され、一〇年もの時間をかけて、一つのドールハウスを作り上げた。星たちが居るのは、まさにこのドールハウスだった。しかし、一〇年という長い時間のせいか、一〇歳から二〇歳になった瑠奈にドールハウスを拒否され、小太郎氏は、趣味も兼ねて更なるドールハウスの改善を進めていった。そして、星が八歳になった時、“お爺ちゃんからの誕生日プレゼント”として、ドールハウスは小太郎氏から星の手へ渡ったのである。
- Re: 小人ノ物語【第二章連載中です!】 ( No.27 )
- 日時: 2012/01/06 17:46
- 名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: amGdOjWy)
第二章 幼い頃の夢は叶ったけど【第二部】
この、豪奢で凝った造りのドールハウスの中には、星たち三人以外に後二つの生き物の気配がひっそりと息づいていた。一つ目はいかにも情熱的に燃え盛り、二つ目はひんやりと氷のように冷たく渦巻いて。まるで小さく寂しげな亡霊の如く、このドールハウスにやって来た不思議な客人たちを、じっとりした目つきで観察していた。
一言言ったきり、黙って膝を抱えて太股とお腹の間に頭を埋めていた星が、再び口を開く。艶やかな自慢の黒髪がさらり……と星の動きに合わせて揺れる。
「私ね、八歳の時に、このドールハウスを貰ったの。……って、それは知ってるよね。お爺ちゃんから貰った時、とっても嬉しかった。その当時の私の夢はね、今よりもぎゅぎゅぎゅっと小さくなって、可愛いドールハウスの中に入って、そこで暮らす事だったの。呆れるほど遊んで、むしゃむしゃご飯食べて、夜になったらベッドで寝て。だって、凄くわくわくしない? 普段はドール——人形で遊ぶものなのに、その中で自分が住めちゃうんだよ? で、何年か経った今、その夢が叶ったわけ。今更!? って感じだよ。嬉しいけど、でも、何だか複雑。この小さくなってしまった体を元に戻す方法なんか、ほとんど誰も知らないもん。……ねぇ、いつまでもそこで息を殺してないで出てきなよ、前代未聞の未確認生物さん。乱暴とかはしないからさぁ。お願い。それでも、いつまでもそこに居るつもりだったら、無理やり引き摺り出しちゃうよ?」
今までのんびりと語っていた星が、急に、部屋の隅の暗がりをねめつける。リビングルームに、気まずい沈黙が鉛のようにのしかかる。——あの二つの“気配”の応答は無い。それでも、星はめげずに睨み続ける。
しばらくすると、微かな衣擦れの音とともに、あの“気配”の正体がその姿を表した。その間、五分。斬り付けてくるようだった星の眼差しも、いつもの穏やかなものに変わっていた。
「やっと……姿を見せてくれたわね」
星が、嬉しくてたまらないと言いたげに囁くと、気配の正体——ジュリアとソフィアは、張り詰めた糸を緩めるように、顔を歪ませた。冷たい銅像の様に無表情で俯いていた夕菜と良哉も、つられたように口元に微笑をたたえる。
そうしてやっと、二人の妖精の少女と人間の子供達は、しっかりと正面から、互いの顔を見れるようになったのだった。
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