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Magicians' War——4/2最新話です——
日時: 2012/04/02 18:52
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 8Sk6sKy2)
参照: よろしくお願いしま————す

初めまして、今日は、今晩は、お早うございます。
挨拶はこれにてどの時間帯にも対応できるでしょう。
では最初に、自己紹介より前のこのタイミングで先に謝罪します。
初めましての方はスルーして構いませんが、俺は衝動的にストーリー書くと書きたくなる性格ゆえ……
やたらと掛け持ちが……しかも完結経験無し……
よって、またしても衝動書きしてしまって申し訳ございません。

さて、前置きはこの辺りでプロローグと作品紹介を、と。

         ———プロローグ 別たれし道———


 あの日全てを失った。故郷、肉親、愛した者、つまりは自分たちが大切にしていたものを全て。ただ、ただ平和に暮らしていただけの村に、ある日突然召喚獣が現れた。魔力を糧として異世界より現われし、神のように強く悪魔のように残忍な轟龍。
 サモンと呼ばれる魔法を使わない限り、それは現れる筈が無い。つまりは、それは人為的に引き起こされた事件。決して事故ではない。ただしその事を彼らはまだ知らない。
 これは全てを失った少女を中心として廻っていく話。舞台と時代は、戦火に包まれている。

         ■■■第一の依頼・ドラゴン一体の討伐に続く■■■


実は戦争[=War]とかいうタイトルから察するに戦争が絡みます。
きっと戦争パートが95パーセント以上を占めるでしょう。
できれば何が起きても暖かい目で許して下さい。

大分長いですがもう少し続きます。

基本的に依頼では戦闘シーン等は書きません。作戦では書きますけどね。
一丁前にストーリーは真面目に考えました。
ただ、自分で考えたから自分では面白いか判断できないです。
面白いとか言ってくれたらホッとしたり?
やっぱり自分の自己紹介抜きで良いかな?

では、始まり始まりー

第一の依頼・ドラゴン一体の討伐
>>1>>4>>5>>8
第一の作戦・機密文書の入手
>>9>>10>>14>>17>>18>>19>>22>>23>>24>>25>>26>>27>>28

キャラ紹介、ネタバレ嫌いなら見ない方が良いです>>20

Record

12/25 作品生成 『第一の依頼』開始(既完)
1/7 『第一の依頼』開始(現在)

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Re: Magicians' War ( No.19 )
日時: 2012/02/11 12:33
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: rtUefBQN)

「ナガツキー、気分はどうだい?」
「ん? ああ、最悪。囲まれるなんてね」

 目の前には待ち構えていたかのような数百人の兵隊、とは言っても主に率いられていない個性豊かなモンスター達。ゴブリンに始まり小型の飛龍までいる。これはかなりてこずるぞと直感した。
 野生部隊、主を持たない、つまりは使者を必要としないほどに訓練を受けた魔力を持った獣たち。その強さは特に野に生息する普通の連中と変わらない。ここまで大量に出てくると対処も面倒だ。

「確か、モンスターの攻撃にも属性ってあったよな?」
「ああ、魔法と全く同じものがある。こいつらの特有スキルの発動エネルギーは魔力だからな」
「それ聞いて一安心。だったら俺はそこまで心配しなくて良いかな」
「光闇使いは便利だね。全くセコイセコイ」
「フン、闇が使えるのはカンナヅキもだろう?」
「当然! なあ、とりあえず敵の安否は問わずに暴れるぜ」

 構わないと呟き、ナガツキは頷く。これでも彼には戦場とは無慈悲なものだと納得している。いつ大切な仲間が、もしくは自分が殺されようとそれは仕方の無い事なのだ。向かい側の者たちも、誰か大切な人を既に失っているのだから。
 目の前の獣に、理性が、感情が、親子関係というものがあるのかは知らないし、訊く術もない。だがやはりここは戦場、刃向かう輩は全て叩きつぶす。それが彼なりの流儀、どうせなら全力で、手を抜くことは侮辱の証。だから絶対に敵には敬意を示す。

「ファイアボールにドラゴンに、スカイ—Dにヴァンピアミニマム、お前たちが壁となるなら、全力で打ち砕こう」

 ファイアボール、火の玉に顔のついたようなモンスターを目に収め、手を高々と天に掲げる。ドラゴンをチラと視界の端に収めながらその右腕を振り下ろす。スカイ—D、空飛ぶ龍を睨みつけつつその腕に魔力を込める。右腕がうずくような、捻じれるような感覚のした後に闇属性が溢れだし、黒い魔力は奔流するように彼の右腕を取り捲いた。
 ヴァンピアミニマム、小型のモンスターの中では上位の実力の持ち主。自然界にいる中では一、二を争うほどに闇属性は得意だ。それなのにそいつは身震いした。圧倒的な実力差に。

「おい、この程度に名前はないぞ。ただ魔力を爪状にして纏っただけだ。これで怯えるのならお前たちは……」

 途端にナガツキの脚が輝きだした。光魔法は肉体に働きかけると桁外れの速力を生み出すことができる。ナガツキの姿は消え、地面から数センチの辺りに光の道筋が出来る。それは言うまでも無くナガツキの走りぬけたライン。
 その一筋の閃光は敵陣の中を颯爽と走りぬける。次の瞬間、その近くにいたモンスターの横っつらや胴体から三筋や四筋の切り傷が生まれ噴水のように黒い液体が飛びだした。苦しそうで、痛そうで、元々声でもないのだが、彼らが人間だったとしたならばおおよそ声にはならないような悲鳴が上がった。

「あー、くっそ。やっぱ速いなナガツキの奴」

 切り裂かれっぱなしでは終わらないと、激昂したドラゴンはその口を開いた。どす黒い火炎が口の中で渦巻いている。炎と闇の混合属性のブレスだ。だが、そんなものナガツキの前ではあまり関係ない。
 龍の口から大量の、超強力な燃え盛る火炎が吐き出された。禍々しさは災厄の象徴。炎だけでなく闇もまざっている、相当の威力のものなのだが関係ない。両方同時に打ち消すことが可能な属性だってあるのだから。
 背後からの一撃でも、見ていなくとも魔力を感じればいくらでも対処できるのだと説き伏せてやるように、ドラゴンに向かって彼は呟いた。そんな事おかまいなしに炎は突き進む。瞬間、彼は地面を蹴った。
 ナガツキの体が空気中に浮き上がる。そして、地面を力強く蹴った左足は反作用の力を受けて天に向かって振り上げられる。そのつま先が通った所に、光の膜は構成された。光の膜に触れると同時に闇属性の炎はいとも容易く消え去ってしまう。水に火を突っ込むように一瞬で、邪悪な炎はすぐに消滅した。
 飛び上がった場所と寸分違わぬ場所にナガツキは華麗に着地する。それを見届けた敵どもは、見とれるように、呆れるように、立ちすくんでいた。
 溜めは上々、そう言わんばかりにカンナヅキは不敵に笑った。これで準備は整った。そうして彼女は両腕に魔力を集中、具現化させていく。放つ魔法は得意の水、両手の間で錬成させた水を、階層の上空向かって大量に吐き出した。

「上空に、地面と平行にアクアル(水属性防御壁魔法)を設置完了……改良版術後展開魔法、ダウナーフラッド!(降り注ぐ洪水)」

 アクアルからの述語展開魔法、アクアキャノンをカンナヅキが独自に改良したもの、それがダウナーフラッド、上空から落ちる水量は滝というには凄まじすぎる。まるで押し流れる洪水が、天空より攻めてくるようでその名を付けた。
 カンナヅキの大技で、雑魚の方はあらかた片が付いた。しかし未だに強力な連中は残っている。だが、水流が邪魔をしている間に今度はナガツキに魔力のチャージ時間が供給された。

「サンキューカンナヅキ、こればっかりは詠唱が必要なんだ」

 光と闇の合成魔法、それは数千年の長い歴史を振り返っても数百人程度しか見つからないほどに使い手が限られる魔法。基本的に光と闇に関しては尋常ではない実力を発揮するが、その他の属性では箸にも棒にもかからない。ナガツキも例にそぐわず、そのに属性以外の風や雷はさっぱり使えない。それこそ十二組当たりの連中に負けるほどに。
 ただし、使用者の限られる二属性の合成魔法の破壊力は凄まじいもので三日三晩詠唱を重ねた者は山を一つ消し飛ばしたと言い伝えられているほどだ。ただし、ナガツキはそんなことまでは鍛錬が不足しているのでできないが。

「この階層、半分ぐらいガラクタまみれになるけど、大丈夫だよな?」
「ああ? それの破壊時って静かだからばれないんじゃねえの? 基本触れたらジ・エンドだろ?」



__________________________________________________




今回はこの辺りで次回に続きます。

Re: Magicians' War ( No.20 )
日時: 2012/02/12 19:19
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: rtUefBQN)

ムツキ   十六歳 男

容姿:全く着くずすことなくきちんと制服を着用している。
   黒髪で、瞳は茶色っぽい黒。髪の毛は長いが束ねていない。
   一月生まれだがclass/seasonで最も身長が高い。
   魔力向上のアクセサリーとして銀の装飾の付いたブレスレットや指輪を着用。
性格:自他共に厳しく、怒るべき時にはかなりの剣幕で叱りとばすが、基本的に温厚。
   礼儀正しい性格で会話は年下相手でもですます調。
得意/苦手属性:氷光風/炎闇
固有魔法:ディザイア
備考:一人称は私ですがれっきとした男です。

キサラギ   十六歳 女

容姿:銀色の髪の毛。肩より五センチ上ぐらいまで伸ばしている。
   瞳は本来青色なのだが、固有魔法発動時は金色になる。
   服装はリボンを付けていない以外は制服の規定を守る。
   リボンを使わないのは首元が苦しいから。
   その代わり首元には魔物の攻撃の威力を削る紫色の水晶を付けている。
性格:大人しい、そのため無口と思われがちだが話し掛ければ会話で応対してきれる。
   すでに打ち解けた人とは気さくに話ができる。
   クラスの中で最も、戦場において冷静に務めることができる。
   仲間内で喧嘩が起きると一気に不機嫌なゲージは高まり、スイッチが入る。
   スイッチが入るといつものような静かな雰囲気でなく刺すような殺気を飛ばす。
得意/苦手属性:闇水氷/雷炎
固有魔法:ホープ
備考:特に無し

ヤヨイ   十六歳 女

容姿:class/seasonで最も髪の毛は長い。茶髪。ウェーブがかかっている。
   制服とか一切気にしない。お嬢様育ちで、中世のヨーロッパ貴族のようなドレス。
性格:超が付く天然っぷりを発揮すること多々あり。
   ぶっ飛んだ発言で皆を閉口させるのは日常茶飯事。
  ただし稀に誰もが気付いていなかった真実や名案が口から出てくる。
得意/苦手属性:水光/雷闇
固有魔法:ネイチャー
備考:大きな地主の一人娘。才能を買われて学園へ。

ウヅキ   十七歳 男

容姿:茶色がかった黒髪、瞳は黒色。
  かなり制服は着くずしている。
  ちゃらんぽらんでいつも外面はへらへらと笑っている。
  衝撃防護のためシャツの代わりに特殊な魔力で編み込まれた布を体に巻いている。
性格:ムードメーカーで、ふざけた奴だと思われがちだが、それは演技。
  緊迫した戦場を希望を持って乗り切るためにその役に徹している。
  戦いの最中でも敵を殺せない、戦火に立つにはあまりにも甘い性格。
得意/苦手属性:炎水/光氷
固有魔法:インヴィジブル×インビンシブル
備考:四月、ウヅキ一人が誕生日を迎えている。

サツキ   十六歳 女

容姿:死んだ魚みたいに目に生気が宿っていない。
   そのため一組に所属していた時は機械のようだと言われていた。
   顔は歴史上の誰と比べても負けない絶世の美女だと生まれ落ちた時に占い師に言われた。
   魔法道具は一切使っていない。
性格:無い。強いて言えばこの世の全てに絶望している。
得意/苦手属性:炎雷水風氷光闇/無し
固有魔法:???
備考:いきなりシワスが連れてきたため固有魔法の有無が分からない。

ミナヅキ   十六歳 女

容姿:前髪が長く、目にかかっている。両方の目が共に他者から見える場面は少ない。
   衣服の中でも規定されていない部分、靴下やピアスなどは青色のものを好む。
   身長は低く、歳が二つほど低く見られる。
   魔力増強の三日月の形のピアスを耳に付けている。
性格:キサラギとは違い、完全なる無口。喋らない訳では無いが会話が嫌い。
   しかし他の人とも仲良くしたいと思っていて、変わりたいという願望を持っている。
得意/苦手属性:氷光闇/炎水風雷
固有魔法:シェル
備考:書物から得た知識はピカ一。ただし勉強は不得手。

フミツキ   十六歳 男

容姿:制服の上から着物を着ている。
   懐手していることもよくある。
性格:ムツキとよく似ているが怒ることは中々無い。
  その代わり、些細な事にまで気を配り、注意する。
  ナガツキと最も仲が良い。
得意/苦手属性:炎/無し
固有魔法:ミラージュ
備考:話し方、使う言葉が古典的。

ハヅキ   十六歳 女

容姿:軽く天パっぽい茶髪。伸ばしすぎると物凄く髪が丸まるのでショートカットにしている。
  魔法操作は得意だが魔力自体は少ないので付け得る限り装飾を付けている。
  指輪はヤヨイから貰い、ピアスはミナヅキから貰い、ブレスレットはムツキから貰った
性格:女子のムードメーカー……なのだがたまに鬱陶しがられる。
  多少可愛い子ぶってる面があるのも否めないがほとんど素。
  基本テンションが高く声のボリュームも大きいが、
  落ち込んでしまうと地面に『の』の字を書き始める。この時は周りからウザがられる。
得意/苦手属性:雷炎/水光
固有魔法:ワープ
備考:キレたら誰彼構わず攻撃する。

ナガツキ   十六歳 男

容姿:翡翠色の瞳、金色掛かった漆黒の髪。
  普段は真っ黒だが光を受けると金色っぽく光る。
  胸元には白と黒の二匹の龍が絡み合って寄り添う姿のブローチが付いている。
  光属性や闇属性を纏った時はその箇所が白、又は黒に光る。
性格:いつ自分が、仲間が死ぬか分からない現実、やり残しは無いようにしたい。
  仲間を労り、優しく務め、言いたいことは言っておく。
  しようしようと思って結局できなかったのは過去に好意を寄せた者への告白。
得意/苦手属性:光闇/炎水氷雷風
固有魔法:
備考:壊滅させられたジェスターの村、“メイ”の生き残り。
  光と闇を合成できる数少ない人間。その証明は胸元のブローチ。

カンナヅキ   十六歳 女

容姿:銀髪。かなり長めの髪で面倒だから後ろで束ねている。
   切れ長の目で、初めて相対した人はおそらく威嚇される。
   制服はもはや原型を留めていない(喧嘩のせい)。
   深紅の目と青色の目のオッドアイはこの世界でかなり珍しいのだが、本人は事情を語ろうとしない。
性格:男勝りで好戦的。何かあったら喧嘩で解決。幼い頃は生傷が絶えなかった。
   しかし自分のために闘うことはあまりなく、喧嘩するのは仲間や友人がけなされた時。
   通称class/seasonで最も男前な女。実際男なんかよりも女子からの支持は強い。
得意/苦手属性:闇炎水/雷氷風
固有魔法:テレフォン
備考:絶対に仲間第一、その理由とは……

シモツキ   十六歳 男

容姿:基本的にくせ毛なのでぼさぼさの頭。制服は第一ボタン開ける以外きっちりしている。
   ミナヅキよりかは高いがそれでも身長は低い。小動物みたいと、よく可愛がられ(からかわれ?)る。
性格:ヘタレ。それに尽きる。
得意/苦手属性:不明
固有魔法:ドール
備考:某漫画の主人公のヘタレがモチーフとかいう話。眉間撃ち抜かれたら強くなる、そんな性質シモツキは持ってません。


シワスは割愛!六十前後のじいさん、以上!

Re: Magicians' War——キャラ紹介アップ—— ( No.21 )
日時: 2012/02/16 20:59
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: rtUefBQN)

「じゃあ、お前たち……威嚇は終わりだ。今退かないならばそれは死に繋がる。良いか?」

 手元に集まっているのはあまりの力に空間が歪むほどの大きな魔力。光と闇の合成魔法、なぜそれが極端に難しいのかと言うと、ちゃんと理由がある。その二つの属性は他と絶対に違う点が一つある。その二属性は両者を打ち消し合うのだ。炎と水のように一方的な力関係でなく大局的な二者、よって調和させるのは不可能に近い。
 ならばなぜ、ナガツキのようにそれを混ぜられる者が存在するかというと、それは説明がまだつかない。才能、それ以外に不可能を可能に出来る理由は存在しない。本来魔法なんて科学から外れている、理屈で証明できることなんてない。
 唯一認められている説は、生まれつき他属性の可能性を捨てて光と闇に見染められた者が、調和可能だということだ。しかしそれも万人に理解させるほどの説得力は無く、結局のところ説明など八方ふさがりだ。
 ナガツキの気迫に押されるようにして多数の魔獣は散り散りになって逃げる。だが、数体の高位獣は残る。ナガツキは半分憐れむように両目をスッと細めた。

「そうか、お前の望みは安住よりも修羅の道か。ならば消えろ……」

 戦場だ、恨み事は無しだ。最後にそれだけ呟いて右手のひらを向ける。白と黒の矛盾した調律、もう後には引けない。生を選択できるタイミングを逃したのだ。残るは…………死。
 何かが弾けるようにして景色に波紋が浮かぶ。空気が震え始め、空間自体も強大なエネルギーに捻じ曲げられる。直視しているはずなのに、見えるのは数十度曲がった光景。
 明るいとも、暗いとも言えない、色彩の無い風景がナガツキよりも前方を覆い尽くす。ぞっとするような悪寒の走りぬけた後に網膜に映し出されたのは、『存在を否定された』要塞のなれの果て。

「何度見ても……えぐい力だな、これ」

 カンナヅキは心底感嘆してそう呟く。絶望して死んでしまった獣たちも、この国の英知の結晶を抉り取った後を見ると本当に恐ろしい。
 ナガツキ自信はこれは敵に回しても大して恐ろしくないと、良く言う。溜めに時間がかかるだけではなく、発射の直前にバランスを崩されるとたちまち打ち消し合いは始まり、完全に無力化される。動きは単調で強力過ぎて操作は不可能。これほど自分で扱いづらい魔法は無いと言う訳だ。
 それでもこれだけ威力があれば充分だろうとカンナヅキはぼやく。違う魔法だったら一体どれだけの魔力をつぎ込んでどれほどの力を撃てばこうなるのか、計算も厄介だ。

「さあ、早く部隊長とやらを探そうぜ」
「そうだな、そうするか……」
「私をお探しか……ネズミ共」
「誰だ!? まさかそっちからお出ましか?」

 いきなり現れたのは一人の女性。深紅のドレスを身に纏い、紫色の口紅を塗っている。犬歯にしては長すぎる牙は、彼女がヴァンパイアにまつわる種族だと物語っていた。引き連れる超獣は、黒と白の二体の雄のヴァンピアミニマム。さしずめ、使者とヴァンパイアのハーフだろう。
 魔力そのものは大したことない。そう高をくくったのが悪かった。途端に三体の姿は微細な超大量のコウモリになって散った。
 紛れもなくそれは、開戦の合図————。

「ああ? 誰だよこいつ、本当に面倒だな」
「多分部隊長の一人だろ。面倒なののおでましだ。けど、早めに出てきてくれてありがたいか」
「確かにな……リュウヒって感じでも無いしカナタも違うな。コクビャクかな?」

 正解だとでも言いたいように、ギャアギャアとコウモリたちは泣き叫び始めた。ただの音波ではないようで、波紋が直に目に見える。何属性なのかは良く分からないが、防いだ方がよさそうだ。
 とりあえずほとんどの属性に対応できるように二人とも闇属性の防御膜を展開する。一つ二つの波動程度ならすぐに消せたが、波の数は見ただけでも数十は存在する。回避も今さら出来る訳無く、防ぐ術も無くかった二人には直撃しか道の無い筈だった。
 場に、コウモリ達の合唱の中、不協和音として舌打ちが鳴る。鳴らしたのはカンナヅキで、本当に嫌そうな顔をしている。

「肉を切らせて骨を断つだ、ナガツキ! 耐えきれ!」
「なっ……短気起してんじゃねえ!」
「知らねえよ! ファイボ!」

 “ファイ”アの“ボ”ム、文字通り爆発が部屋の中を彩る。白と黒の騒がしい獣を、自らの体ごと炎で吹っ飛ばす。そういう荒技は自分たちの存在を露見する上にダメージを喰らうので好ましくない。
 だが、今回ばかりは成功だったようで、小さい体では耐久力が低いのか、元の姿に戻った。頬には煤の後が残っている。彼女はそれを拭い、手の甲を確認。顔から拭きとられた黒いそれを見て、形相を変える。妖艶な女性から、悪鬼へと。

「この私を穢した……殺す」

 それは短気過ぎるだろうと、ナガツキがため息を吐くと同時に彼女の背中から大きな翼が姿を見せた。これで間違いない、目の前にいるのはヴァンパイアレディ。
 ヴァンパイアレディとヴァンピアの差異、それは成長のための血の有無だ。所詮は小型の、下等な魔獣であるヴァンピアには血肉は要らないが、ヒト型の高等魔獣には人の血が必要な時がある。
 そして目の前の奴は、その高等な中でも成長が完璧に終わった姿。手こずるなんてものではないかもしれない。こんなのが配下に置かれてるなんて、龍人の事を考えると冷や汗ものだ。

「私の名前はコクビャク、部隊長。覚えなくても良いわよ、あんたらココで、死ぬ」
「ハハっ、威勢は充分だね、その鼻っ柱叩き折ろうじゃないの」
「俺の名前は言うまでも無いな……冥土に持って行ってもらいたくない」


次回へと続きます。

Re: Magicians' War——キャラ紹介アップ—— ( No.22 )
日時: 2012/02/18 16:56
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: NfhnPAqv)


「ハーン、調子乗ってんの? 冥土に行くのはどう考えても私よりあんたらでしょう」
「ハッ、言ってくれんな。二対一だっての」
「後ろのこの子達が見えないの? 二対三よ」
「そんなもの敵戦力として数えてやるほど弱くは無い」

 大舌戦が繰り広げられている、ただそれだけに見えるその空間も実は違っている。お互いの挙動を見ている、というのも一つあるが、もう一つ彼らは各々、取っている行動がある。次の一撃のための魔力を準備。手を抜いては苦戦を強いられることは分かり切っている。
 そんな中一番最初に動き出したのはコクビャクだった。正確には後ろに控えているヴァンピアミニマムの白い方の個体だった。またしても細かく分かれると、怪音波を発し始めた。

「それの対処は分かってるっての。ファイボ!」

 炎属性の大爆発を、今度は真正面に撃ちだす。先ほどは囲まれていたから全方位に拡散させないといけなかったが、今度は違う。まだ分散したばかりの集合地点に向かって撃ちだす。
 しかしそれもすでに対策法は打たれていた。だからこそ、一体だけをコウモリに化けさせ、一体を控えさせていた。もう一体のヴァンピアミニマムはその口から真っ黒な気体を吐きだした。黒煙はたちまちにして周囲を取り囲む。それに触れた炎属性は属性負けして無力化される。白のコウモリは部屋いっぱいに広がった。

「残念だったわね、もう打つ手は無いわよ。あまり強くないけど光属性の固有技は私も持ってる。光と闇、揃えばどの属性も打ち消せることぐらい、魔法の得意なあなた方には分かってるでしょう?」

 そう来たか、忌々しげな舌打ちと共に呟くカンナヅキの表情には不味そうな色が浮かぶ。もうすでにほとんどの魔法は封じられたに近い。固有魔法ならば効果的だが、自分のものは戦闘向きではないうえに、ナガツキの場合相手が弱っていないと使えない。
 八方塞、どうしようかと考えるカンナヅキを差し置いて、ナガツキは冷静だった。それどころか余裕の表情すら浮かべていた。恐れることなど無い、確信に満ちた自信を持って。

「打ち消せない属性? あるぜ。光にも闇にも溶け込み、こちらからは打ち消すことが可能なやつがな」

 高らかに笑うコクビャクの表情が凍りつく。聞いたことない事を聞かされた時の驚きの顔。あり得ない事が起こりえると断言されたら見せる絶望の顔。そして、得体の知れないことに対する好奇心。
 この真っ黒な煙幕が二人の周囲を取り囲み、白いヴァンピアミニマムが四方を取り囲む。それぐらいの時間があればナガツキは自分の奥義を使える。時間にしておおよそ十秒、膠着時間を考慮に入れると三十秒以上、それだけあればナガツキは自分の覚えている魔法の大半は使える。先ほどその威力を見せ付けた混合魔法であってもだ。

「行くぜ、言の葉の力、最大限まで紡いだこいつを嘗めんな。イービルジャスティス(悪に染まった正義)」

 詠唱が魔法を強化するとは、どういう事か。それは言葉を紡ぐことで言葉に込められた意志の力を魔法に上乗せするということ。それの持つ名前を唱えるのと唱えないのとでもかなり変わる。
 ナガツキが与えた光と闇の合成魔法の名前はイービルジャスティス。闇に染まった光、浄化された暗黒、矛盾するそれらが調律した時、より弱き者の存在を否定する。
 大気を震撼させるような衝撃が再び階層中を支配する。どす黒い煙は力を失い消え、真っ白なコウモリは全て消え去った。ヴァンパイアレディにも襲いかかろうとしたが、残った黒い方の一体が身を賭して防護する。白も黒も、両者ともに主を置いて散っていった。
 散っていった配下の二体を見てもヴァンパイアレディは顔色一つ変えなかった。その事からすぐに察する。この女にとって従える魔獣は道具かそれ以下に過ぎないのだと。
 歯ぎしりの音がナガツキの方から聞こえてきたのをカンナヅキは気取る。ナガツキは戦場の生死の駆け引きぐらいは割り切っているが、味方に対して最低の行動を取る者には容赦ない。

「…………噂の、合成魔法かしら?」
「そうだよ、そして謝れ……それが仲間に向ける態度か?」
「あなたそんな事気にするの? バッカじゃないの。あんな下等モンスターそこいらにありふれて……」
「うるっせえ! とにかく少しは悪びれろ! てめえの采配ミスで死んだんだろうが!」
「殺したのはあなたでしょう?」
「そうだけど、お前が正しい判断を下せば死ぬのは俺達だったかもしれないだろ」
「ハア……? 面倒な性格してるわね。それならヘタレて戦争に来ない方がこっちにしてはありがたいわ」

 全く更生の色が窺えない。ついにナガツキは沈黙を破って地を蹴った。光属性による超加速、レールのように奔る残光がナガツキの軌跡をなぞる。その猛スピードに反応できないコクビャクは自分の右腕に傷をつけた。
 何をするのかとカンナヅキが動揺するのと同時に右腕から血が吹き出る。その血はまるで超能力で操られるがごとく、コクビャクを取り囲んだ。闇属性の爪を纏ったナガツキがそれを斬りつけるも、傷一つ付かなかった。

「チッ、防御壁か。どうするよナガツ……ってオイ!」
「シャイニングブラスト」

 ナガツキは怒りで我を忘れながらも冷静に対応する。使者は固有魔法を使う事はできない。そして、血を使う当たりこれはヴァンパイア系統の技だ。固有魔法以外に無属性魔力を発散できない以上この血の盾にも属性がある。闇属性で打ち消せないならば闇属性だ。ならば光が有効、空気中に星型の魔方陣を描いたナガツキはそこから、光線を発射する。
 まるでレーザーそのもののような高圧縮、高威力の一筋の閃光が血霞の膜を貫通する。だが、そこにコクビャクの姿は無かった。床には小動物がギリギリ入りこめる程度の穴が開いていた。

「しまった……分散して違う階層に! これじゃアタシらの侵入が伝わるじゃねえか!」
「だったら、こうするしかないだろ……」

 その開けられた穴に向かってナガツキは駆け寄る。右手の平を押しあてて、魔力を闇に属性変換して撃つ。

「刹那!」

 意識を一時的に奪う効果のある闇属性魔法刹那、同系統の高位魔法に虚空などがある。一個下の階層はもうすでに自分らが占領している。だから味方がいないと踏んでのこの策だ。失敗したら不味いがこうするしか手立てはない。

「くそっ……こうなったら……フミツキ! 聞こえるか?」
<聞こえている。事情は大体把握した。我は向かえば良いか?>
「頼んだ、俺たちは先に上に行く」

 こうなったら上からの戦力を削ぐことに全力を尽くそうと駆け出す。これに対してナガツキ一人の責任ではないと感じているカンナヅキは静かに、黙って上を目指した。

Re: Magicians' War——2/18最新話です—— ( No.23 )
日時: 2012/02/25 13:53
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: gWvD8deM)


「しかしナガツキの刹那を喰らったはずだが……コクビャクという者は耐えられるのであろうか……」
「フミツキ、どうしたんですか?」
「いや、ナガツキは刹那の時点で我の虚空よりも遥かに威力を上回る。多少のヴァンパイアレディでは耐えきることなど叶わぬ筈なのだが……」
「なるほどね。でもさ、もう一階層下に行ってたら、どうするの?」
「シモツキ……当たりのようです」

 少しずつ減速し、ムツキはその足を止める。そして二人を制するようにして二人もそこで止まらせる。何かしらが羽ばたく音が、彼の耳に届いたのだ。目の前の突き当たりの分かれ道、それの左側から。
 しかも羽ばたきが聞こえるどころか、下級モンスターとは思えない強力な魔力も肌を伝わってくる。この程度の腕前があれば部隊長を名乗ることぐらいはできるだろう。無意識状態で感知可能な魔力は決して少なくない。
 所々に火傷の痕の残る、コウモリのような羽を生やした妖艶な女性が通路から現れた。彼女を視界に収めた三人は息を呑み、戦慄を覚える。対する彼女は疲労が少々溜まっているようで、反応が少し遅れていた。
 これは好機ではないかと考えたフミツキは胸元に手を入れ、胸ポケットから一枚のお札を取り出す。

「どうやらご登場の如し。それならば戦場、慈悲も情けも無用。ファイスト」

 炎の獣<ビースト>故にファイスト、何か媒介となるものの周りに炎魔力をコーティングし、燃え盛る獣を召喚する。ただしそれは別に意志のある本物の獣ではなく、術者が操縦する必要がある。ラジコンのようなものだ。
 ただし、炎にまつわることでフミツキに任せるというのであればほとんど心配はいらない。炎だけに関してはフミツキは、ジェスターの中でも最高クラスと言っても過言ではない。灼熱の炎すら燃やしつくすようなその威力から、ついた戦場の異名は地獄の業火。
 そんな彼にとってはもはや火を操作することなど手足を動かすことと等しい。過酷な戦闘を強いられながらでもファイストの一匹やに引きあっさりと操縦が可能。
 今さらながら三人の姿を捉えたコクビャクらしき吸血鬼はと言うと、急に血相を変えて狂いだす。それこそ鬼のような形相で発狂し始めたその姿に一同は軽く慄く。
 それとは引き換え、感情を持たない業火の身体を持った獣は地を蹴って突き進む。臆している暇は無いと自分を叱咤させたフミツキはファイストに支持を出す。

「咆哮……!」

 突如、その猛獣の口が開き、波動状の炎波が飛んでいく。幾層も放たれた放射状の熱線は回避不可能。確実に捉えた、そう思った。
 しかしそれはコクビャクを捉えることはできなかった。確かに回避不能の一撃だ。防御も並の者なら不可能だろう。ただし仮にも敵国の部隊長、その程度防ぎきる術はある。いつ出来たか分からないが彼女の腕についた切り傷から血が迸る。次の瞬間闇魔力を込められた血液は強固な盾となり、コクビャクの身を守った。
 球体状の防御膜に、眉間にしわを寄せる。血液を操る種族だということが意識から抜けていた。そのためあっさり防がれてしまった。

「あんた達……さっきのの仲間ね。今非常に機嫌が悪いの……死んでくれないかしら?」
「それは無理な相談だな。我はナガツキにこの役目を一任されたのだ。親友の頼みぐらいは聞き届けるのが世の理ではないか?」
「話し方鬱陶しいわよ、あなた。変な子ね」
「それが些少問題になった覚えは無いのだがな」
「ふふ、その余裕が問題になったことはあるかしら?」
「別に過去には無かったが、貴殿にはあるのか? 今の貴殿は余裕からの油断がある」

 その瞬間にクスクスと女性は笑い始める。最初の方は逆に口論でやり込められた自分に対する戒めの嘲笑だった。ただし、途中からの嗤いは、明らかにフミツキに向いていた。

「忠告ありがとうね! そして私には無いわよ。あなたは死ぬ前の今、ここで起きるのよ」

 ここで、目の前の畜生の表情は、ついに笑いとも嗤いともかけ離れた、歪んだ表情になった。締まりなく上がりきった唇の端は今にも耳に迫りそうで、美しく整っていた顔は憎悪で歪む。

「…………固有魔法……」
「させないわよ! ホーミング・グラビトン(追尾重力波)」

 フミツキが次の一手を繰り出そうとするよりも前にコクビャクは自身の技を発動させる。重力操作魔法、それは本来ヴァンパイアレディには到底たどり着くことのできない筈。個体としての強さなど関係無い、それなのになぜこのような極大なスキルを発動可能なのか。驚愕の色を露わにしたフミツキやムツキに対してコクビャクは得意げに叫ぶ。

「私はね、ただのヴァンパイアじゃ、ない! グランピアって知ってるかしら? あなた方お得意の魔法、サモンでのみ呼び出せる向こう側の魔獣。そのグランピアは強力な重力魔法の使い手……私にはね、その種族の血が半分流れてるのよ!」

 フミツキが上空から一直線に下りてくる波動を回避するために一歩飛び退くと追尾するようにして波動も移動する。絶対に逃がさないとでも言いたいのか、どのように逃げても追ってくる。
 技の名前を思い出す。ホーミングと付いていたのだ、追われて当然だ。苦痛と悔しさから表情を崩した彼を冷淡に見つめるコクビャクの目にはもう一歳の躊躇いも慢心も、苛立ちも無かった。唯一感じているのは自分に課せられた使命感。
 これで勝利だと、出力を最大限に高めた瞬間に完全に三人は押しつぶされた。残酷な映像を残すことなく下の階層まで一気に突き抜ける。嫌な映像を見ずに済んだと彼女は安堵しただろう、もしも彼女が、フミツキが死ぬであろう一歩前の瞬間に、得意げな顔をしていなかったら。

「いや、考えすぎ……なのか?」

 それは別に彼女の考えすぎなどでは、決してなかった。すぐに聞こえてきたフミツキの声が。感じられた、彼の魔力が。

「ファイルを立方体状に設置……」

 突然、コクビャクの周りを小部屋で取り囲むように六枚の炎の壁が現れる。完全に包囲された彼女はもうすでに身動きが取れない。

「ヤバい……この流れは……」
「術後展開魔法、フレイムキャノン」

 六包囲から火炎の大砲が炸裂する。薄れゆく意識の中、コクビャクはもう一度自分に嘲笑した。やっぱり、油断などするものではないと。
 その後の景色を目に収めることなく三人はその場を後にする。魔力反応は消えた。おそらくもう死んでしまっただろう。鍵ごとやってしまったのは短慮だったと思ったがまだ部隊長は二人いる。
 種明かしをするとしたら、これはフミツキの固有魔法、ミラージュ(蜃気楼の幻影)の効果だ。ミラージュの効果、それは辺りに有色の霧を張り巡らせて幻を見せること。そしてそれは、蜃気楼の如くあっさりと消えて行く。

「すまないな。我はウヅキほど温くないのでな」


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