ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- Magicians' War——4/2最新話です——
- 日時: 2012/04/02 18:52
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 8Sk6sKy2)
- 参照: よろしくお願いしま————す
初めまして、今日は、今晩は、お早うございます。
挨拶はこれにてどの時間帯にも対応できるでしょう。
では最初に、自己紹介より前のこのタイミングで先に謝罪します。
初めましての方はスルーして構いませんが、俺は衝動的にストーリー書くと書きたくなる性格ゆえ……
やたらと掛け持ちが……しかも完結経験無し……
よって、またしても衝動書きしてしまって申し訳ございません。
さて、前置きはこの辺りでプロローグと作品紹介を、と。
———プロローグ 別たれし道———
あの日全てを失った。故郷、肉親、愛した者、つまりは自分たちが大切にしていたものを全て。ただ、ただ平和に暮らしていただけの村に、ある日突然召喚獣が現れた。魔力を糧として異世界より現われし、神のように強く悪魔のように残忍な轟龍。
サモンと呼ばれる魔法を使わない限り、それは現れる筈が無い。つまりは、それは人為的に引き起こされた事件。決して事故ではない。ただしその事を彼らはまだ知らない。
これは全てを失った少女を中心として廻っていく話。舞台と時代は、戦火に包まれている。
■■■第一の依頼・ドラゴン一体の討伐に続く■■■
実は戦争[=War]とかいうタイトルから察するに戦争が絡みます。
きっと戦争パートが95パーセント以上を占めるでしょう。
できれば何が起きても暖かい目で許して下さい。
大分長いですがもう少し続きます。
基本的に依頼では戦闘シーン等は書きません。作戦では書きますけどね。
一丁前にストーリーは真面目に考えました。
ただ、自分で考えたから自分では面白いか判断できないです。
面白いとか言ってくれたらホッとしたり?
やっぱり自分の自己紹介抜きで良いかな?
では、始まり始まりー
第一の依頼・ドラゴン一体の討伐
>>1>>4>>5>>8
第一の作戦・機密文書の入手
>>9>>10>>14>>17>>18>>19>>22>>23>>24>>25>>26>>27>>28
キャラ紹介、ネタバレ嫌いなら見ない方が良いです>>20
Record
12/25 作品生成 『第一の依頼』開始(既完)
1/7 『第一の依頼』開始(現在)
- Re: Magicians' War ( No.14 )
- 日時: 2012/01/17 20:07
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 7R690UrM)
「ああああああぁぁあぁ! 面倒くせぇっ! 何で潜入するだけにこんな面倒なんだよこの国は!」
「仕方ないでしょう、この国の特徴は攻撃よりも防御。兵器よりもセキュリティを万全にします」
数人のノロジー兵士がなぜか自陣に入ることを潜入と言いだした。上から許可を下ろされて入れさせてもらえたのに、なぜ『潜入』などという言葉を使ったのか、その理由はただ一つ。この者たちは本当はこの国の兵士などではない。潜入と言うからには敵国の人間であるに決まっているのだ。つまりはジェスター側の人間ということになる。
面倒くさいと大声で叫んだ女に抑制の意味を込めて解説を入れた男は指を鳴らした。パチンという軽快な音に続いてその通路にいる数人の周りから光の粉が飛び散った。キラキラと七色に光り輝く鱗粉のようにさらさらと地に舞い降りる。その中に包まれていたのはジェスターの中枢部、学園の制服をその身に纏ったclass/seasonの十一人の構成員。
「いや、そんな事は確かに知ってっけどよ……まあいいやアタシの仕事はこれからだし」
ノロジーが防御の国だとは彼女も常識として頭の中に入れている。だが、知識として持っているのと実際に目の当たりにするのとでは話がまるで違う。今までは他人事で済んでいた事を本気に受け止めないといけないのだ。
ここまで潜入できたのは、イライラしているカンナヅキをなだめたムツキの固有魔法、“ディザイア”の力だ。ディザイアの示す言葉の意味は願望。自分が願い望んだ姿に化けることができる。その効果を、近くにいる者に及ぼすことも。
学園の教室でディザイアを発動させて自分たちに敵国兵士の姿をコピーペーストし、疑われることなくここまで入ってきたのだ。そして、ここまで来たらこちらのものだ。なぜならこの国は防御の国、異物が入ってこないようにする国なのだ。入ってきた敵にはめっぽう弱い。
この辺りがジェスターとは正反対だ。ジェスターは異物が入り込んでもすぐさま撃滅する体制を取っている。
だが実際はジェスターとノロジー、それぞれの国の長所短所のせいなのだ。魔法技術は科学技術に比べて戦略的な事には使いづらいが、戦闘に関しては魔法使いは使者を基本的に圧倒する。
「さあて、作戦開始といきますか。んじゃあ皆、私の“テレフォン”でつなぐからな。絶対ばれないようにしろよ。警報装置を押される前に制圧しろ」
「分かった。警報装置があるのは確か……」
「ナガツキ覚えてないの? 私は分かるよ。警報装置があるのは給湯室!」
「補給物資管理棟制御室の間違いであろう、ハヅキ」
ぶつぶつと詠唱呪文を唱え始めたカンナヅキに了解だと言ってフミツキの方を見てナガツキは警報装置の場所を思い出そうとした。予知魔法使い、まあ要するに予言者の力でもうすでにその場所は分かっていた。
思い出せないナガツキを嘲るように自信満々にハヅキは給湯室と断言したが、見当違いだとフミツキに窘められる。がっくりと肩を落としてどうせ残念な子ですよと、いじけ始めた。
「良いからさっさと始めんぞ、目に見えぬ絆我ら繋ぎ給う! 固有魔法“テレフォン”!」
一旦詠唱を止めて、カンナヅキはハヅキに黙れと指示する。集中を見だされた時の彼女はかなりの剣幕で、今度はふてくされることもなくハヅキは怯えっぱなしで黙り込んだ。
固有魔法“テレフォン”、それはカンナヅキが指名した者たちを繋ぐ意思伝達方法。日用の道具で例を出すとすれば電話、口にした事が全て他のみんなに伝わる。心の中で考えるだけでは伝わらないが。
テレフォンの基本原理は聴覚の共有。よって自分の聞えた中身は誰の声であろうと、バックグラウンドミュージックだとしても他の皆に送信される。今回聴覚をリンクさせたのは十一人全員だ。人数が多ければ雑多な音が混ざり過ぎるのでできるだけ三人組などで行動する。
「じゃあ、ムツキとシモツキは私と行きましょう」
キサラギがすぐ両隣りに立っていた、それだけの理由でその二人を指名する。シモツキは頷き、ムツキは分かりましたと口頭で告げた後に駆け出した。
トントンと、ミナヅキはハヅキの肩を叩いた。その意味をすぐに受け取ったハヅキは一人、チーム内のブレインとなる人員用にフミツキを連れて行った。カンナヅキは一番この中で実力に太鼓判を押せるナガツキを引きずっていった。
残されたウヅキとヤヨイとサツキは、じゃあこれで動くことにしようと落ちついた。他の集団は我先にと上に向かったのでこの三人は今いる階層の探索を始めた。
ふと、耳元から爆発音が聞こえた。続く悲鳴は聞いたことのない声、おそらく襲撃は成功しているようだ。だとするとこの爆発音はフミツキの放った魔法、“ファイボ”だろう。
この世界の魔法の名は単調的に付けられていて、まず、光と闇は基本的に自分で名前を好きに付けられるが、炎などのその他の属性は既存のもの以外は中々作れない。
魔法の名前、それは風ならば“トルネ”炎ならば“ファイ”、水ならば“アクア”氷ならば“フリー”雷ならば“エレキ”と付き、魔法の属性を決定した後に魔法の形状を決める。竜巻ならば螺旋形ということで『ラ』が続き、爆発させるならばボムの頭文字の『ボ』というような具合だ。さっきの爆発音は超強力な炎魔法だろう。よって、炎魔法においては最強を冠するフミツキの中でも威力最高級のボム系魔法という訳だ。
「皆動いてるね、僕たちもそろそろ動こうか」
魔法はどんなに簡単なものでも最初は詠唱が必要だ。だが、使い慣れてきた魔法はそれが必要でなくなる。普通の人間は魔法の得手不得手は威力で決めるがclass/seasonは違う。得手不得手は詠唱を省けるか省けないかで判断する。彼らが得意魔法を使う時、詠唱すると言うのは強化詠唱という威力の底上げのために詠唱。
詠唱を破棄出来るのは確かに強いが、威力が若干落ちる。ただしそれは魔力の少ない者だけ、魔力の多いこの集団の威力は尋常ではない。
「さあ行くよ、アクアラ!」
瞬間現れた空気中の渦潮は、目の前にある鋼鉄のドアをいとも簡単に吹き飛ばした。作戦開始という、いつも通りのおちゃらけたウヅキの声が聞こえてきた。
- Re: Magicians' War ( No.15 )
- 日時: 2012/01/20 21:49
- 名前: 風猫(元:風 ◆Z1iQc90X/A (ID: G9VjDVfn)
- 参照: http://loda.jp/kakiko/?id
FF零式知らぬゆえ悪しからず(やりたいよ……
固有魔法は、今後、一気に個別で解説欲しいなぁ(オイ
クラス別けは完全な実力順なんですね……
詠唱破棄、BLEACH宜しくですな^^ 何だか高揚感を感じます★
- Re: Magicians' War ( No.16 )
- 日時: 2012/01/21 20:04
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: jxbxTUdV)
FF零式面白いんですけどモンハンと比べるとちょっと敵が弱いです。
固有魔法は出揃い次第、春夏秋冬で三人ずつ紹介していきます。
クラス分けはやっぱり実力でないと戦争には不向きだと思いこのようなことに。軍隊で言う等級ですね。
詠唱破棄、ええ、完全にブリーチから頂きました。
理由は固有魔法なら良いけど雑多な魔法に一々考えていると時間が残念になるからです。
では、そろそろ次の話を書き始めますか……
- Re: Magicians' War ( No.17 )
- 日時: 2012/03/09 14:32
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: QuEgfe7r)
ウヅキの声に被さるようにして、鋼鉄製のドアが破壊される爆音が廊下中に鳴り響いた。もしかしたら気付かれるのではないかと思うほどにけたたましく、重厚な倒壊音。中にいる者たちは当然一様に驚いていた。突然の敵襲など想定外だと目をパチクリさせて、呆気に取られる。その隙を見逃さずにウヅキは次弾の準備をする。
ウヅキの手掌から相当の熱量のエネルギーが感じ取られる。今度放つのは炎魔法のようで、燃え盛る魔力の大炎は波打つように掌の上で踊り狂っていた。
額に汗を浮かべそうになる熱の中、ようやくノロジーの軍の者たちであろう男たちは我に帰る。だが、もうすでに時すでに遅し。自分たちの従えるモンスター達を引きつれていないノロジー軍など、魔法も武器も使えないジェスター軍同様に何もできない。素直に殺されるか捕虜になるかの二択だ。
ただし、捕虜を取るような作戦でもなく、人殺しなどあまり好まないウヅキは息の根を止めるつもりはさらさら無かった。とりあえず情報を奪い取った後は気絶でもさせておけば良いだろうと。
「ファイット!」
ファイット、その語源は“ファイ”と“ネット”つまりは炎属性の魔力を錬成して丹念に作り上げた網状のものを操作する魔法。できるだけ広範囲に広げて部屋の壁全体に貼りつける。そのままウヅキは中にいる敵国軍を縛り上げるように一気に縄を引き締めて中の奴らを一気に縛り上げた。
炎属性の繊維状の魔法はジリジリと彼らの衣服を焦がしていく。鼻に付く嫌な臭いの煙を上げて服は次第に済みに近づいていく。これが地肌に触れた時には軽く拷問だ。
「さーってと、熱いと思ったらさっさと機密文書の場所教えてよね。ああ、別にここの要塞で一番偉い人がどこにいるか、それだけで良いよ」
今にも殺されそうな現状に冷や汗を浮かべてがちがちに強張っている烏合の衆を見ながら、できるだけ緊張を解いてやるための笑みを見せてウヅキは話しかけた。
だが、その笑いは逆効果に終わる。ウヅキの意図していない方向の意味合いで彼らはその笑みを受け取った。もうお前たちは自分の掌の上だ。すぐに殺すこともできるのだぞという、余裕からの蔑むような嗤いに見えたのだ。そのおかげか、結局彼らは自分から情報を離し始めた。
「こ……この要塞で最も位が高いのは……ドラグニッシュ様だ」
「へえ……例の龍人か。で、どこにいるの?」
「こ、この要塞の最上階だ……基本的にご自分の部屋で待機なさっている」
「で、そこにはどうやって行けるの?」
「ふ、普通に上がっていけば行ける。だが……」
だが、逆説の言葉で会話を遮って、彼は少し俯いた。まあ、セキュリティを第一にするこの国だ。他所者が入れないような作りにはなっているだろう。
「残念ながら最上階は十階なのに対して八階よりも上に行くにはカードキーが必要だ」
「誰が持ってるのかなー?」
「ぶ、部隊長のカナタ様、リュウヒ様、コクビャク様の三人だ」
なるほどと頷きながら彼は踵を返した。そして彼らに聞こえないようにぼそぼそと自分に聞こえるようにだけ言葉を発した。
「皆、聞こえた?」
そう訊いてみるともちろん聞こえているさとカンナヅキが返してきた。ナガツキ達の声も聞こえてくる。どうやら、情報を一つ聞きだすことに成功した。
よしよしと一人満足げにしながらキサラギとサツキの待っている部屋の外に出る。その瞬間にもうすでに用が済んだので、炎のネットを解除した。瞬時に彼らは自由を取り戻す。
ウヅキが上の階層に向かおうとした時に、進もうとした反対側の通路から、音を聞きつけて駆けつけた数多の兵士が姿を現した。今度の連中はちゃんと全員自分のパートナーのモンスター達を引きつれていた。
完全に反対を向いてしまっていたウヅキは完全に反応が遅れた。相手を見る限り、水棲の、つまりは水属性のモンスターばかり。その畜生たちは次々に、口やら腕からやら、多数の水弾や水刃やらを発射してきた。
完璧に反応が遅れた、一撃貰っても仕方ないと覚悟したウヅキだったが、攻撃を喰らう心配は無かった。目の前にいきなり透明な障壁が現れたのだ。透き通るその障壁はどうみても、水に強い氷属性の強固なバリア。
「フリール」
フリール、氷属性の、“壁(ウォール)”を発生させる防御魔法。しかしその堅牢さといったら、今まで見てきたものの比では無かった。
そこに触れた水は衝撃を与えるよりも遥かに速いタイミングで凍てつき、勢いを無くした。水属性なのだから当然だ、氷属性には弱い。
「……凄い。ありがとね、サツキ」
現状をあっさりと悟ったキサラギはサツキに感謝を述べた。だが、無感情にも彼女はその言葉を無視してじっと前を向いている。
もうそっちを向かなくても良いのにと思いながらウヅキは先に進むぞと手招きする。だが、それでもサツキは動かない。
「ちょっとー、早く行こうよ。皆においてけぼりになるよ」
お調子者な口調は相変わらずで、ウヅキは二人を催促する。だが、サツキの目線は向こうに向いている。壁の向こうに……敵のいる方に。
「どうせもうこっちに手は出せないだろうからさっさと行くよ」
その言葉は、ずっと耳に入っていないかのようにサツキはまだ、目を離そうとしない。一体何をしてやろうと言うのか。別に手を出せない的に攻撃する必要なんてないだろう、そう考えながら、少しずつイラつき始めたウヅキは嫌な予想を立てた。
立てた瞬間に悟った、サツキが本気だということに。冷気魔力は減っていくどころか、サツキを中心としてまだまだ上昇して行く。
「ちょっと! 別に殺していかなくてもいいだろ!」
「術後展開魔法、フリーズキャノン」
完全に彼女はウヅキの言葉に対して無視を決め込んでいる。考えている事は邪魔をする敵の殲滅のみ。いや、もしかしたらそれすらも考えていないかもしれない。途端に氷の壁は強すぎる光を上げて煌めいた。
圧倒的な寒波がその階層を覆い尽くす。防御壁を隔てたこちら側ですら真冬のような寒さが伝わって来ているというのに、向こう側はどうなっているというのか、ウヅキは緊迫した表情で目を見開いた。
最初、その風景は何事もなかったかのように見えた。だが、あったのだ、何かが。向こう側は誰もが動きを止めている。生命の鼓動が見えてこない。まさかと思って目を凝らす。
向こう側の景色は、完全に凍てついていた。人も、モンスターも、それらの生命さえも——————。
- Re: Magicians' War ( No.18 )
- 日時: 2012/01/26 20:56
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: iKemwK0t)
「何……だよ、これ……何がどうやってこんな!」
「落ちついてウヅキ、これぐらいなら私にもできるから」
「落ちついていられるかよ! キサラギは技術的にはできても実際にはできないだろ!」
目の前の光景、さっきまで自分たちに向かって銃弾を撃とうとし、従えるモンスターでこちら側に攻撃してきた連中の姿は皆凍てついていた。本当に凍っているのか疑いたくなるぐらいに透明な氷の中、彼らは一様に身動き一つ取れずにそこにいた。
突然訪れた死、そのために彼らの顔に恐怖は微塵も浮かんでおらず、まだ凛々しくも好戦的な表情でいた。横に連れ沿う獣たちもまだ今にも襲いかかって来そうな気迫を残して美しい彫刻としてそこに残っていた。
その状況に対して、ウヅキは我を忘れるほどに怒り狂っていた。怒りの対象は当然のごとくこれを軽々とやってのけたサツキだ。
「なんでこんな簡単に殺しが出来る!? あいつらは別に殺さなくて良かった。フリールの時点で手は出せなくなっていたはずだ!」
「必要はあったわよ。そうじゃないと無線で私達のこと知らされちゃうもの。自分たちの身を守るためなのよ」
「でも……闇属性魔法で意識を奪っておけば良かっただろ!」
キサラギは横からこの会話を聞きながらウヅキの方が部が悪いなと思っていた。確かに必要最小限に抑えるべきだろう、殺人などという蛮行は。しかしだ、サツキの言う通り今彼らを始末していなかったら絶対に自分たちの存在は露見していた。それ以前に一瞬気を抜いたせいでサツキに助けられた彼に、元より言う資格はない。
つまりは、サツキの対応は当然としか言いようが無く、人殺しなんてしたくないという甘ったれた根性を戦場で抱えるウヅキの方が異端だと言う訳で、論争になるとウヅキは圧倒的劣勢に立つ。
「残念ね、フリールが邪魔で無理だったのよ。生憎急いで作ったからそれなりに強靭にできあがっちゃって」
「だからと言って術後展開魔法だなんて……」
術後展開魔法、それは特定の魔法の直後に発動できる度を越えて強力な魔法。“ル”系統、つまりは防御壁系の魔法の後には“キャノン”系統と呼ばれるレーザー状の一撃を放てる。その他にも多彩な種類があるが、どれもこれも威力は凄まじいものだ。
「へえ、あなたもしかして人殺し嫌いなんだ?」
「当然だろ、人の命なんていくら取っても嫌な気分にしかならない!」
「人の……ねえ……」
「何が言いたいんだ!」
何を言われようとも何を言おうとも、サツキの表情は依然変化なし、無表情で無感情、見ていて恐ろしくも思えてくる。このように淡々と、息をするのと全く同じ表情で殺人なんて犯したのかと思うと涙も枯れ果てそうなほどに流れ出そうだ。
冗談じゃない、ふざけるな、と高まって行くウヅキの怒りのボルテージとは対照的に、彼女の態度はやはり冷淡なまま。何かを含むように呟いたサツキにウヅキは食ってかかった。
「だってそうでしょう? 昨日あなたはキシリアさんからの依頼にはあまり嫌な顔をしなかった。それ以前に楽しげだったわよね?」
「悪いのか! 人の役に立てる、そう思っただけだろう!? 久々の依頼だったんだしな!」
「だからあなた、人人ヒトヒト人人ヒトヒト…………おこがましいわね」
「だ……から……何が言いたいんだ!」
「私が言いたいのは、人だから殺せない。人のためなら獣は殺せる、それが差別だってことよ」
「偽善者みたいなこと言ってんじゃない!」
やれやれと、サツキは首を振った。その顔に悲しげな表情は浮かんでおらず。やはり普段通りだ。偽善者、今彼は確かにそう言った。きっと人間も生き物も命は平等という意見が偽善者だと言いたいのだろうか。だがそれも、サツキの前では屁理屈同然だった。
「世のため人のためと謳って、中身の無い正義を振りかざすことと比べると、よっぽど賢者に近いと思うけど」
「ふざけ……!! てめえっ……!」
「あら、あなたも私と闘い合う気なの?」
「ストップ、止めなさい」
ヒートアップして行く論争はいつしか命をかけた下らない殺戮に代わりそうだと判断したキサラギはようやく口を挟んだ。その眼光には強い光がある。この状態の彼女の意思が折れることは中々無い。
「ウヅキ……そろそろ納得しなさい。あなたが間違っているのはどう考えても明らかなのよ」
「でもキサラギ!」
「“ホープ”……かけるわよ」
「………………悪かった」
それこそ歯が軋みそうなほどに歯ぎしりをする音がウヅキの口の中から聞こえてきた。それをさておき、今度はサツキの方に視線を向ける。
「そこ、内輪もめに持ち込まない。最後に言った言の葉、それがどのように意味するのか、しかと頭に刻んでおきなさい。次にそのような事を言ったなら……今度はあなたの命が凍てつくと思いなさい」
彼女の放つ中でも可能な限り鋭利な殺気をキサラギの方から感じたウヅキは身震いした。直接自分に当てられていないのに、こうまでも押しかかる重圧、それでもサツキは無表情を貫き通している。
ふと、耳元からこの場に居合わせない第四者たちの声がした。
<ウヅキ! 残念ながら今回はあちらの方が正しいぜ。前から言ってんだろ、その考え方はそろそろ直せって>
<カンナヅキの言う通りです。あなたは自覚をそろそろ持ちなさい>
<カンナヅキやムツキほど強く言うつもりはないけど……僕と似た者同士は良くないと思う>
皆してなんだよ、そう言いたくなったが黙り込んだ。キサラギの瞳の色が普段の紺碧から、強く煌めく黄金に変わっていたからだ。彼女が固有魔法に望む時、その瞳の色はそのような色に変わる。
さっきの忠告は本気だと分かったウヅキはついに折れた。とにかく次に向かおうと、ナガツキの言う声が、ようやく入ったフォローがとても遠かった。
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