ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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【ver.1】そして世界は彼らを求めるけれど。【更新】
日時: 2012/05/03 23:31
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: Wx6WXiWq)
参照: http://sasachiki.blog.fc2.com/

受験が終わってほっと一息なささめさんです、お久しぶりでーす。
とりあえず、小説書きたくて再びスレ建てしました。
ヒーロー物になると良いな良いな良いですね! てへぺろ!




■お客様でせう

 ・蟻様 ・ゆいむ様 ・アン様



■本編

<1>
 ・ver.1 仮初ヒーロー  >>1-5>>8-10
 ・ver.2 曖昧ヒーロー >>13-14>>19-20
 ・ver.3 代替ヒーロー >>21-23

<2>
 ・ver.1 自由過ぎる小説家は夢を見ない >>24-27
 ・ver.2 麗しいヒーローは周囲を見ない
 ・ver.3 引きこもりの妹は外界を見ない




■おまけ?



*2012/03/08に執筆始めました。

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Re: 【ver.2】そして世界は彼らを求めるけれど。【更新】 ( No.18 )
日時: 2012/03/21 22:00
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: bvgtbsWW)

>>16
■蟻様

 ふっほほい二度目だいうっほほい! いやゴリラじゃないです。動物園でもないです。
 
 イエスりりたんでございます! 蟻得でよかった……ささめ得だけかと思ってましたよ……(遠い目)
 ver1の依頼人は一応別の方ということになってるつもりですw つもりって何だろうって感じなんですけどね。てか言動から察するにアイツしかいねえよ!なんですけどね。『一応』現段階では別人ということに——しといてください(語尾強め)
 
 コメントしてくれただけでも満足なのに、キャラについて触れてくださるなんてあれですか、ささめを嬉し苦しませる気ですか? まぁそれで死ねるなら本望ですがね(キリッ
 亀更新ですが、兎並みの勢いで頑張ります。超頑張る。

 コメント有難う御座いました(`・ω・´)


>>17
■アン様

 こちらこそ初めまして、ささめと申します!
 するするっとですか…表現がくどいので、途中で飽きられちゃうかと毎回心配なささめですwお褒め有難う御座います!
 シーンについてですが、全くその通りなんですよ。『でも』だの『だけど』だの言えませんいや本当。ついつい書いてると、文章の全体が把握しにくくなって、だらだらと長くなっちゃうんですよね; 精進します!
 アン様のようなアドバイスは私のようなチキンにとってはすごく嬉しいですよ! 鑑定とかもうほんと怖いんであんまり出せないので……書き込んでくださって本当にありがとうございます!

 コメント有難う御座いました(`・ω・´)


ver.2  曖昧ヒーロー 3 ( No.19 )
日時: 2012/03/21 22:03
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: bvgtbsWW)








 教室から廊下に出ると、真っ先に冷たい空気が無防備な膝元を攻撃してきた。寒い、と足を擦り合わせると、多少はその寒さも和らぐ。
 ほっとして隣を見やると、幼馴染は膝を擦り合わせる私を見て笑っていた。声を発さずに、静かに。その姿に苛立ちを覚えたので、とりあえず膝に蹴りを食らわしてあげる。

「何じゃいっ、こらぁー! 笑ってんじゃねーよちくしょー!」
「痛い痛い、蹴らないでよー。痛いじゃんかぁ」

 場違いにも、痛いと良いながらも笑っている目の前の幼馴染をかっこ良いと感じてしまった。だけど、執拗に彼の長い足にローキックを入れ続ける。かっこ良いのはかっこ良いけど、そのかっこ良さは先ほどのには関係ない。かっこ良いと感じてしまう己を、恥ずかしく思っての蹴りでもあるけれど。
 適度に整えられたさらさらの黒髪、整った目鼻立ち。優しげな瞳は少し垂れていて、おっとりとした印象を受ける。少し着崩した制服のせいか、真面目君って感じじゃない。ヤンキーって感じでもないから、丁度良い雰囲気を保っている。学校中の女子を虜にする笑顔が父親譲りであることは、幼馴染の私しか知らない。
 冷静に目の前のこいつを観察しつつも、右足でのローキックは忘れない。向こうは私に蹴られている間、のんびりと抗議の声をあげていた。

「カズトー、痛いってばー」
「…………だからさぁ、その名前で呼ばないでくんない?」

 ぴきり、とその“名前”に額の青筋が反応する。頬がぎゅうっと締め付けられたように乾いた笑みしか浮かべなくなり、前歯は唇を血のにじむほど噛み締めてしまう。
 そんな私の変化にようやく気付いたらしく、幼馴染はきょとんとした顔で首を傾げた。無邪気というか、他人に無頓着な態度に私の怒りはさらに煽られる。殴ってしまおうかと思ったけど、ここは学校内の廊下。目立つ行動なんてしたら、処罰の神の二つ名を持つ体育教師がやってくるだろう。
 ——それに。ただでさえ、こいつの顔は目立つんだから。
 舌打ちをし、幼馴染のイケメンさに恨みを放つ。イケメンは私の言葉の意味が理解できなかったようで、ぱちぱちとまばたきを繰り返していた。

「でもさぁ、」

 ふわふわとした軽い調子で、こいつはいつも話す。もっとしゃきしゃき話せって、お父さんから言われているはずなのに。
 今回もその例外ではなく、へにゃへにゃな笑い方をしながら、私に話しかける。芯の通っていない、私が一番嫌いなタイプの声色で。

「名前がどうであれ、カズトはカズトでしょ?」
「っ、————だあぁぁぁ、かぁあああ、らぁあああああああ」

 ——こいつは、本当にわかんないのか。
 息を大きく吸い込み、吐き出す。このわずらわしさを消化するためには、相手にきっちりと理由を告げるしか道は無さそうだ。
 にっこりと、凶悪な笑みを浮かべて。はっきりと、怒気を含めて————私は面前の男の襟首を掴んで、言ってやった。

「だから、私の本名を飾りっ気なしで呼ぶなっつってんでしょーが。…………トウカちゃーん?」

 ぴきり。さっきの私のように、眼前の男の表情が凍る。端整な顔立ちの上に柔らかな笑みを載せた状態のまま、動きが止まった。
 そして数秒後。細めていた目を開きながら、およそクラスの誰にも見せたことのない不機嫌そうな表情で、口をのったりと動かせる。

「…………やっぱ、カズトは趣味悪いよねぇ」
「その言葉、私が言いたいっちゅーにぃ」
「そうかなぁ? 同じぐらいでしょ」

 俺と同じぐらい性根が腐ってるよ、と苦笑しながらも幼馴染は————荻原桃香(はぎわらとうか)は刺すような視線を放ってきた。こっちに喧嘩を売ろうとしていることは理解しているので、にこやかな笑顔でさらりと交わす。性格が悪いのはお互い様だ。
 桃香は私の怒りがヒートアップしないのが不本意なのか、そっぽを向いて舌打ちした。テメェコルァ。こいつの素をツイッターとかブログに書き込んでやりたくなる。人のコンプレックスを平気でつついてくるところとか。
 
(私のコンプレックスは、アンタのコンプレックスでもある……っちゅーのにねー)

 群青和人(ぐんじょうかずと)。縦読みしても横読みしても、カタカナで呼んでも。どう呼んでも男の名前にしか見えないそれは、まぎれもなく私の本名である。よく、小さい頃から名前が男っぽいので同級生にからかわれたり、先生に間違われたりされた。だから、私は自分の名前が大嫌いだし、周囲の人もそれをわかってるから、たいてい苗字やあだ名呼びをしてくれる。
 唯一、それをしないのが桃香。まぁ、私も名前で呼ぶからフィフティ・フィフティな気もするけど。
 桃香も小さい頃から、私と同じように女っぽいとからかわれていた。クラスの並びが苗字順だったのもあり、よく私と桃香は隣の席になった。余計に男女逆転コンビとか変な名前をつけられ、からかわれた。

「……小さい頃は、桃香ちゃんって呼ばれるたびに泣いてた奴がえらそうな口きくんだねー」
「ははは、それ何歳の話? 和人のいじめっこー男女ぁー」
「うるせぇ桃香ちゃんは黙っててくんない?」

 飛び散る火花は、当人達の間でしか見えない。私たちの横を通り過ぎていく女子二人組が、桃香の横顔を眺めながらひそひそ話をしていった。頬に朱が残っていることから、あの子たちは桃香のことが好きみたい。お盛んなことで。
 私の方はといえば、小さい頃から一緒にいたことにより、恋愛感情やイケメン顔に対する発情(これでもやわらかい表現にしたんだよと抗議)も何もないまま、高校三年生を迎えた。
 ——そりゃ、ちっちゃい頃は私も桃香のこと好きだったんだろうけど。
 でも、次第に初恋は薄れていった。桃香は大きくなるごとに顔立ちが大人び、綺麗になっていき、桃香のことを好きだという女子の噂は毎日のように右から左に聞き流されていく。少し派手な女子は、持ち前の明るさで桃香に猛烈アタックをして、告白までこぎつけている。

(……それなのに、誰とも付き合わないのは何ででしょーかねー?)

 桃香の方を見やると、首を傾げられた。男の首傾げなんて誰得だよオイ。
 さらさらの黒髪は女の私ですら羨ましいし、指先で触ってみたくなる。白く傷一つない肌は、夏にきらきらと光り輝いていた。女子のグループというのに溶け込めない私にとっては眩しいぐらい、友人も多い。
 彼女がいても良い理由は多すぎるのに、結果として彼女はいない。変なの。




ver.2  曖昧ヒーロー 4 ( No.20 )
日時: 2012/03/24 14:28
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: bvgtbsWW)



「あのさぁ、桃香」
「何?」
「桃香って————もしかして、男が好」
「ごめん耳が爆発して聞こえなかった。それで何て?」
「……いや、何でもないわー」

 ——爆発、したんすか……!
 聞き返したい衝動を堪えて、スカートに隠れた膝をじっと見つめる。視線を下に向けていると気が楽なのは、地味系女子の特権だ。
 ひらひらと揺れるひだを眺めていると、階段のところでこっちを見て眉をひそめている女子たちの苛立ちからも逃れられるし。あからさまに桃香を狙っている、女子特有の恋する視線だ。一人ぼっちで有名な群青さんには、ちときつい視線。
 さっさと用事を聞いてクラスに戻ろう。そう決意して、顔をあげた。

「で、用事って何よ。どうせまた、リートさんのバイトの手伝いでしょ?」
「理人さんね。和人はすぐ、理人さんのひの字を伸ばしちゃうよねー。保育所からの癖だよね、それ」
「うるさい。リートさんのバイトなら、行く」

 萌木理人さん。桃香の叔父にあたる人で、ヒーローやヒロインを売るという妙なお店を開いているお兄さんである。駅前に立ってたら一気に女子十人ぐらいにナンパされそうな風貌を持つ人で、近所に住む私たちに昔からよくしてくれていた。最近は店の仕事が忙しいらしくて、私たちはよくバイトと称してただ働きを命じられている。
 桃香は外見が良いので主にヒーロー役、私は小道具や衣装を整理する役で、てきぱきと仕事をこなしている。手伝うと、たまにお駄賃をくれるのでやっている。今日私を呼び出したのも、それが理由らしい。

「で、どこに何時?」
「放課後に教室で待っててよ。俺が迎えに行くから、いっしょに行こー」
「むぁ、まじで?」
「うん。まじー」

 柔和に微笑み、頷く桃香。あまりにも桃香の機嫌がよさそうなので、私は「いや一人で行くよあはは」と返すことが出来なくなる。
 正直な話、桃香にはあまり私のクラスに近づいて欲しくない。特に今。サッチーのグループに入っている私にとって、“サッチーたちの恋を応援する立場”の私にとって————彼女らの片想いの相手であるこいつと仲睦まじくいるのは、避けたい。

「っと、桃香。私、今日は実は遅くなるからやっぱ、」
「さっき行くって即答したのに、何で遅くなるの?」
「……。っと、それはぁー」
「訳わかんない嘘はつかなくて良いから。それじゃ、また後でねー」

 爽やかな空気を振りまくと同時に、桃香は私の前から去っていった。イケメンなので、片手を挙げている姿もイケイケである。桃香の無邪気(笑)な微笑で、こっちをちら見していた女子の頬が朱に塗り替えられた。中には目をハートにしている子もいて、桃香の人気ぶりがよくわかる。
 ぽつんと一人ぼっちになった私は、彼女らを横目に溜め息をつく。

「はぁ……嘘はつかなくて良いからー、……ねぇ」

 ——お前が、嘘をつかせてんだっつーの。
 トゲのある言葉を口内で噛み砕くと、奥歯の方で苦い味がした。
 桃香は、小さい頃と同じような接し方で私に接する。私がいくら遠ざけても、「荻原君」と呼んでみても、「その呼び方変だよ」と真っ直ぐに言い返してきた。真っ直ぐ過ぎて、何も言えなかった中学二年生のあの夏である。

(……小さい頃と同じ距離感でいるのは、疲れるなぁ……)

 綺麗になって、社交的で、学力が高くなっていく——変わっていく桃香と。普通に、女子のグループに入れずに、点数も停滞している——変われない私が。
 昔のように付き合っていくのは、少し無理があるんじゃないかと。思い始めたのはさて、いつからか。かなり昔から、自分と桃香を比べて劣等感を感じていたような気がする。

「あー、私も、さっさと教室に戻ろう」

 だんだんとブルーな気分になってきていた。気付けば外の空気のせいで体はすっかり冷えてしまっていて、頬の冷たさがネガティブ思考を助長する。うーさぶさぶ、と肩を抱いてそそくさと教室の中に入っていく。
 壁時計に目をやると、昼休憩はあと一分ほどで終わろうとしていた。桃香のせいで、余計な時間を食ってしまったぜ。桃香を後で罵倒してやろう、内心そう決意して。
 決意、した瞬間。

「ねえねえわとさっきの荻原君からの呼び出しって何だったのねぇ何だったのなんだったの!?」
「群青さん群青さんやっぱり群青さんって幼馴染なんだねいいなぁ羨ましいなぁっ」
「わとちゃん荻原君は私のこと何か言ってたかなぁ消しゴム拾ってあげたこととか」

 物凄い剣幕でサッチーと西和さん、緒山さんに飛びかかられた。飛びかかられた、というのは突然のことでそう思っただけであり、実際にはただ肩を掴まれて揺さぶられただけだった。
 「あれれー? 三人が凄い顔だよー?」とか某頭脳は大人、体は子供なあの子っぽく首を傾げてみようかと思ったけど、そういう訳にはいかない。三人の瞳には異様な光が灯っており、ギャグなんて受け入れてくれそうにはなかった。おどおどと、しかし少し興奮気味に後ろで倉木さんが飛び跳ねている。詳細を話せ、と無言の圧力で告げてこれるのはもはや能力だろうよ倉木さんや。

「…………あー、はっ、はっ、はっ、はっは」

 乾いた笑みがもれた。目を輝かせている三人は今か今かと、次の言葉を待っている。
 いや、そんなに待たれても私に言えることは何もないんだけれどね! 一言そう言えたら楽だと知りつつも、チキン野郎な私は曖昧な笑い方をするしか出来ない。まるで、さっきの桃香の笑い方みたいに。

(いや、桃香の笑い方よりも——私の方が、)

 ——ずっとずっと、下手糞だ。
 リートさんのバイトについてどう説明したら良いものかと考えながら、私は苦笑した。








ver.3 代替ヒーロー  ( No.21 )
日時: 2012/03/28 17:43
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: bvgtbsWW)








 俺がじいちゃんからこの店を受け継いだのは、今からおよそ二十年前。
 幼い俺は、じいちゃんが経営しているこの店が大好きで、絶対に無くしたくなかった。じいちゃんはまだ五歳の俺に経営権を託すことはしなかったが、代わりに俺の両親に託してくれた。まだその時は、両親はこの店で働いていた。今は自分達の好きなように世界中を転々としてるんだから、本当にめまぐるしい両親だ。五年前

「…………っだー」

 小学六年生の頃、じいちゃんは亡くなった。病気ではなく、単純に寿命が理由。俺とじいちゃんはとても仲が良かったから俺はすごく凹んだけれど、この店に勤めていたヒーロー役の人達が励ましてくれて、何とか立ち直ることができた。
 その時いたヒーロー役の人達は、現在ではほとんどが辞めてしまっている。今とは違い、昔のヒーロー達はもっとまともな仕事を請け負っていた。公民館で開かれる子ども会の出し物とか、町内のゴミ拾いとか。
 ——今みてぇな、こんな馬鹿みたいな仕事じゃなく、もっとちゃんとした仕事をしてたはずだよなぁ。
 こんな馬鹿みたいな仕事をして、俺たちは食っていけるんだから、あまりぐちぐちと言えないことはわかっているんだが。

「……っだだー」

 結局、俺がこの店の店長としてちゃんと働き始めたのは二年前から。これを客に話すと、「まぁ、外見と違って意外と若手なんですねぇ」と驚かれる。だれが老け顔だコラ。渋いと言え、渋いと。
 二年前までは、俺はちゃんと自分で仕事を見つけて働きに出ていた。新社会人!とペコちゃん風にキメても良いぐらい、ちゃんと社会の仲間入りを出来ていたはずだ。断言できる。本に関わる仕事がしたかったので、出版社に勤めていたのだ。
 しかし。

「っだだだー」

 二年前、うちの妹が引きこもりになったから。
 高校を無事に入学し(妹は俺に似て頭が良かった)、さぁやってきました楽しい高校ライフと意気込んだ妹は、五月の終わりには見事に引きこもり状態になっていた。両親は五年前から家を離れるようになったから、妹が引きこもりになった時には丁度、家には俺しかいなかった。
 それが理由か、俺は親父に泣きながら頼まれてしまった。
 ——今の仕事をやめてこの店を継いでくれ。そして、理子(りこ)を守ってやってくれないか、頼む……理人。
 耳に未だ残る、親父の声。

「っだだだだァァァァァァ!!」

 叫んで、テーブルの上の書類を破、っ、た!
 書類といっても、中身は先月ヒーロー役の奴らにかけた衣装代や、うちの家の水道代について明細されてるだけなので、破ることにためらいはなかった。むしろ、だからこそ怒りをこめて破り、空中にばらまいてやった。先月の出費よ、消えてなくなれ。そう願いをこめて。
 俺の叫びに気付き、店の出入り口でホウキを持って掃除をしていた桐谷が頭上を舞う切れ端に眉を潜める。

「……ちょっと店長、急に叫びながらゴミを空に飛ばさないでくれないか。俺が掃除してるのが見てわからないのかい?」
「うがぁぁぁぁぁ!! 金が足りん、金がァ!! ギブミーマネー!」
「話聞けよおっさん」

 見た目はメイド服を着た美少女なのに、口から零れるのは罵詈雑言——それがうちの男の娘担当、桐谷である。長い栗色の髪の毛も声変わりなんて縁のなさそうな高い声、整形でもしてんのかと疑いたくなるような顔。この店のエースといっても過言ではない。
 だが男だ。某ネタを使いたくなるぐらい、こいつは完璧な男の娘である。こいつが持つ性別の壁は、ベルリンの壁よりも壊れやすい。

「まだ俺はピチピチ二十代だ桐谷テメェ。そんな口が悪いのなら、仕事回さねーぞコルァ」
「ふん、俺はモデル業なりヒモなりで十分やっていけるからねぇ。仕事がなくてもたいして困らないんだよ、わかるかい?」

 だからその脅しは効かない。桐谷はそう言いたげに口角を吊り上げて見せた。
 全くその通りなので、顔を思い切りしかめてやる。俺の表情を見て、桐谷は愉快そうにけたけたと笑った。本当に性格が素敵な奴だ。俺もどちらかといえば性格が悪い方だが、見ていると、自分もまだマシなんだと気付かされる。

「残念だけどね店長。この店のヒーローたちは見た目のレベルが高いんだから、好きなように仕事は手に入れられるんだよ? 世の中、見た目が良い奴は優遇されるからね。女なら風俗店へ行けば良いし、男ならヒモになってしまえば、安定した生活を送れるのさ。イコール、店長のその脅しはこの店全体に効かないってことさ。だろう、天原?」
「もぅ、桐谷くんはそうやって悪いことばっかり。店長ぉ、私はこの店からは絶対離れないので安心してくださいねー?」
「…………それは、助かるな」

 シャワーを浴び終えた天原が、いつのまにか俺の背後に立っていた。驚いたが、天原の笑顔を前にすると気が抜けてしまった。さっきまで桐谷に感じていたイライラがどこかへ消えてしまった。さらにふにゃりと微笑まれる。どこからどう見ても未成年なのに、実年齢は俺と同じだという真実が信じられん。
 天原は桐谷と同じ美少女だが、中身は真逆。桐谷は中身と外見のギャップが酷いが、天原は見た目通りに優しく温和な女性だ。亜麻色のセミロングは、今は水にぬれてしっとりとしている。タオルで拭いていないのか、頬からも足からも滴がぽとぽとと垂れていた。拭けよ。
 そして、なぜか下着にワイシャツ一枚だった。いわゆる彼シャツというやつである。

「……天原、とりあえず下はいてから出てこい。後ちゃんと体をタオルで拭きなさい。まだ寒いんだから、風邪ひくぞ」
「あれぇー? でも私、パンツははいてますよー?」
「パンツの上から何かを着なさい」
「はぁいー。わかりましたぁー」

 これもまた気のぬけるような返事をし、ぱたぱたと洗面所へと戻る天原(※彼シャツ姿)。こいつのこういう真のぬけたところは、俺たちにとってはもう慣れっこだ。あいつが彼シャツでも下着オンリーでも赤面することはない。初めはそりゃぁこっちも照れたり反応してたりしてたが。
 この家は一階が店、二階が俺の自宅となっている。しかも家自体が大きく、部屋数も多いので、俺と妹の二人きりでは全ての部屋を使いきれない。だから、こうやってヒーロー達にシャワーや台所を使わせている。よく朝には、仕事が終わったヒーロー達が居座っており、天原もその類である。
 ——ハルヤみたいな居候がいるから、こいつらも気を揉む必要がないんだろうなぁ。
 朝早くに出かけていった居候の少年を脳裏に描いた。あいつ、ちゃんと仕事してんだろうな。

「天原の天然はモノホンだよねぇ、いやはら。俺たちみたいな性悪コンビには少し眩しすぎるんじゃない?」
「誰と誰が性悪コンビだ、誰と誰が。俺ほど性格の良い奴はいないぞ。近所では褒められすぎて、あのババァ共うぜぇと思っているぐらいだぜ?」
「……いや、そういうところが…………まぁ良いや、うん」





ver.3 代替ヒーロー 2 ( No.22 )
日時: 2012/03/28 23:53
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: bvgtbsWW)







 桐谷が呆れたようにこっちを見てくる。その視線を華麗にスルーし、手元の書類を再度見つめた。
 いやぁ、金が足りない。この仕事は、一度にでかい報酬を得ることが出来るが、その分セットやら衣装代やらで消費してしまう。先月はファンタジー系の依頼が多すぎて、無駄に金を使ってしまった。引きこもりの妹を養い、さらにヒーロー達の給料についても考えるのは、若造である俺にはちときつい。

「店長ぉー、パンツとズボンって、どっちをはけば良いんですかぁー? パンツを脱いで、ズボンをはけばいいのかしらぁー」
「パンツもズボンもはきなさい、この馬鹿ちんが!!」

 ひょこっと洗面所から顔を出した天原に怒鳴る。俺の怒鳴り声にはもう慣れっこのようで、びびる素振りが一切ない。
 洗面所から顔だけをのぞかせた天原に、衣服の重要性について説明していると、桐谷がまたけたけたと笑った。不愉快なう。そして彼シャツなう。別に俺が彼シャツしているわけではない。てかそれは誰が得をするんだ。俺が彼シャツすることによって何が救われるというのか。

「あっははは! 店長はまるでこの店の母親みたいだねぇ! さしずめ、俺は思春期真っ只中の妹ってところかい?」
「あぁー、いいですねぇ、家族ごっこぉ。私は店長の娘がいいなぁー」
「テメェ桐谷、喋ってねーでそこちゃんと掃除しろ! そんで天原、上半身裸で出てこようとすんな! うちはガラス張りだ、外から見えるだろーが!!」

 ——あぁ、騒がしい。
 俺のツッコミも空しく、天原は裸にワイシャツ一枚(あれ? さっきより悪化してるってどゆこと?)で、桐谷のところに行ってしまった。女の裸に興味なんてない桐谷は、シャツから見え隠れする天原の豊満な体を眺めることなく、腹を抱えて笑っている。俺の叫びがツボにはまったようだ。
 ——ホンットにこいつらは……!
 もう一度怒鳴ってやろうかと息を吸い込む。俺が声を張り上げようとも、どうせ桐谷は「ついにキレたかい」と皮肉気に呟くだけだろうし、天原はあの幸せな脳みそにより「店長、生理ですかぁ?」と無邪気に笑うぐらいだろう。つまり、俺が怒ってもこいつらは気に求めないってことだ。

(だが、一瞬ならこの場を落ち着かせられるはずだ……!)

 カッ、と開眼し、いつもよりだいぶ低いトーンの声を作る。俺は、この一瞬にかける。
 そして俺は、騒がしい二人に向かって怒鳴り————

「お、おじゃましま」
「————うッッッる、っしゃいませェ!!」
「ひィッ!? す、すみません!」

 そうになったのを、無理矢理、抑えて来客へと営業スマイルを浮かべた。え、抑えきれてなかった? そんな馬鹿な。
 怒りの成分に満ち溢れた挨拶は、客人を出迎えるのには適切ではなかったようだ。扉の影にお客様が隠れてしまわれた。いやあの、超ごめーん。怒りを消化できてないままに、素っ気無く謝った。俺の心の中で。

「店長、俺たちにイラついていたのはわかるけど、その般若みたいな形相でお客様を出迎えないでくれないか。ただでさえ少ない客が、余計に遠のいていくよ」
「イライラしてるんですかぁ? ……あ、店長ってもしかしてぇ、今日は生理ですかぁー? だから機嫌悪いんですねわかりますぅー」
「…………テメェら…………」

 拳を一つずつ、奴等の頭にお見舞いしてやった。ごめん、天原は見た目通りに良い奴的なことをほざいてたけど、あれ撤回。中身はただのアホだわこいつ。
 涙目で頭を抱えている桐谷を横目に、俺は今日最初の客の方へと歩いていった。今度は柔和な、人の良さそうな営業スマイルを浮かべて。

「お客様、大変失礼致しました。どうぞ、奥の方にお入りください。これから御用件をお聞きして、シチュエーションや指名されるヒーローなどについて詳しくお聞かせ願え——ま、す、……か…………?」

 初めは流暢にお決まりの挨拶をしていた俺だったが、だんだんと言葉はしどろもどろになっていった。
 店長何してんの、と痛みから復帰した桐谷が、俺の隣にやってくる。そして客人を見ると、俺と同じように……と言ったら少し違うが。桐谷の美しい顔に、微かに嫌悪感が漂った。眉間に少しだけ皺が寄っている。

「あれぇ、店長も桐谷くんもどうしたんですかあ。ちゃんとお客様には丁寧なお出迎え、ですよぅ?」

 俺(プラス桐谷)が玄関口で固まっているのを不審に重い、天原がのろのろとこっちに来た。一応、下着をつけているのでひとまずは安心だ。しかし防御力はレベル3程度で、艶かしい太ももが露出されている状態である。
 とことことこ。可愛らしく歩いてきた天原は、少し腰をかがめ、扉のところでうずくまる客人を見た。

「あれー?」

 天原の丸い瞳は、驚きで少し見開かれた。シャンプーの甘い香りが俺のところにまで届いてくる。
 やがて、沈黙を破るようにして、桜色の唇が疑問を伴い言葉を紡いだ。

「高校生さんが、なぜここにぃ?」
「…………っ、あ……」

 そう、高校生。扉のところにいたのは、近所の高校の制服を身にまとった少年だった。全体的に幼いイメージを受け、がっちりとした体ではなく、体を形作る線が細い。大きな瞳も、さらに幼くみせていた。美人の彼シャツ姿を直視してしまい、頬がトマトのようになっている。
 高校生は赤い顔のまま、首の後ろを掻きながら立ち上がった。天原を見るのが照れくさいのか、顔を背けている。しかし背けた先には、さらに美少女の桐谷。消去法として、俺と向き合う形となった。すまなかったな美しくなくて。

「えっと……お願いがあって、今日は来たんです」

 弱弱しい口調で、高校生は話し始めた。不安そうに、短い黒髪をわしゃわしゃと掻き乱している。
 うちはこう見えても真っ当な商売をしているため、まだ親の援助が必要な未成年はお断りしているんだが。前に色気づいた高校生が、天原を金で一日デートに誘おうとしていたからだ。大方、風俗店かなんかだと勘違いしたんだろう(その時は俺が追っ払ったが)。






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