ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 【ver.1】そして世界は彼らを求めるけれど。【更新】
- 日時: 2012/05/03 23:31
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: Wx6WXiWq)
- 参照: http://sasachiki.blog.fc2.com/
受験が終わってほっと一息なささめさんです、お久しぶりでーす。
とりあえず、小説書きたくて再びスレ建てしました。
ヒーロー物になると良いな良いな良いですね! てへぺろ!
■お客様でせう
・蟻様 ・ゆいむ様 ・アン様
■本編
<1>
・ver.1 仮初ヒーロー >>1-5>>8-10
・ver.2 曖昧ヒーロー >>13-14>>19-20
・ver.3 代替ヒーロー >>21-23
<2>
・ver.1 自由過ぎる小説家は夢を見ない >>24-27
・ver.2 麗しいヒーローは周囲を見ない
・ver.3 引きこもりの妹は外界を見ない
■おまけ?
*2012/03/08に執筆始めました。
- ver.1 仮初ヒーロー ( No.1 )
- 日時: 2012/03/08 15:19
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: bvgtbsWW)
「ハルヤ、お前って童貞だったっけ」
「………………………………………………、は?」
たっぷりと間をとったはずなのに、ちゃんとした返事を返すことが出来なかった。脳みそが思考を放棄してしまったかと思うぐらい、何の考えも感情も湧いてこない。きっと僕は今、すごく間の抜けた顔をしているだろう。店長のはっきりとした言葉は脳内に届かずに、眼球の中腹辺りでぐじゅぐじゅと停滞している。いや、だって、ねぇ。さっき耳にした問いは、僕の聞き間違いだろう。そう願いたい。
なんてね、てへぺろ、と店長が舌を出すのを待つ。だが、店長は普段のクールな表情を崩さない。二人の間の沈黙をやぶったのは向こうだった。
「質問を質問で返すなっつーの。女子高生か、お前は。それとも何だ、聞こえなかったか?」
「あ、いや、ちゃんと聞こえてました。……す、すいません」
いつもぺこぺこしてて癖になっているのか、店長の不機嫌な物言いに内容も確かめることなく頭が垂れる。しばらくお辞儀の姿勢で固まっていると、「顔上げろ」と上からお達しが。素直に顔を上げて、頭をわしわしとかいている店長の表情を窺う。
店長こと高木理人(たかぎりひと)さんが持っているのは、どこにでもありそうなファイルだった。目を細めて眺めて(けして和やかな雰囲気ではない方の目の細め方である)、ファイルに向かって乱暴にペンを走らせる。アイロンの効いたシャツに黒いベスト、ネクタイ、スラックス。傍からみればバーテンダーのような衣服に身を包んでいる。店を経営する者ならば、笑顔で愛想を振りまかなくてはならないはずなのに、その表情はどこか苛立っている。
原因は、大体わかる。店長がああいう顔をする時は、妙な客が来た時——それも金持ちで自分勝手な客が依頼してきた時。あのファイルにはさんであるプリントには、おおよそ客からの要望を書いてあるんだろう。それか、もしも客のこと以外のことなら。原因の二つ目に、思い当たる。
(……また、妹さんのことで何かあったのかな)
——他人のことなので、僕は関わらない方が良いな。そう一人で結論付けて、手元のモップを動かし始めた。
個人経営している割には(これは偏見かもしれないが)広い店内は、開店前のため閑散としている。僕の通っていた中学校の体育館半分ぐらいの広さ、といえばその広さはわかってもらえるだろう。店内にはアンティークな雰囲気のテーブルを、西洋風なソファーで挟み、敷居をするという簡単な個室(めいた何か)が出来ている。あの中で普段、仕事を請ける役である店長とお客さんは話し合いをしている。その個室は四つあり、店の出入り口からは、中にいる客の姿を見ることは難しい。それは敷居をしているせいでもあるが、部屋に所狭しと並べられている骨董品のせいだったりもする。
店長の父親は海外を転々としている骨董の売買を生業としており、母親の方は北は北極、南は南極とそれもう世界中じゃねぇかと突っ込まれるほどの旅マニア。そして、ボランティアや援助を仕事としているらしい。二人は店長が高校生の時から世界中を転々としているようで、この店(性格には店長の自宅だが)には店長と店長の妹さんの二人が住んでいる。妹さんの方は引きこもりで、現在、高校二年生。僕はこの家に居候させてもらっているけれど、たまにしか会わない。昼と夜の生活が逆転しているのでは、と推測。
(その、店長のお父さんの方が問題なんだよなぁ……)
もともと骨董が好きで仕事を始めた店長のお父さん。店長が言うには、よく店長宛に自分の気に入った骨董品を送ってくるそうだ。せっかく広い店なんだから俺の愛する骨董品たちをキープしておけ、ということらしい。
それにより、広いはずの店内はよくわからない骨董品で溢れ、緑色のランプやら鹿の剥製やらと妙な雰囲気になってしまい、さらにスペースをしっかりとっている。入り口をガラス張りにしているせいで、この店の中は外から筒抜けなんだろう。ただでさえ、怪しいことをしてる店だというのに、何てこった。狭い店内の床に向かってモップを突き立てた。いつもより余分に力をこめるせいで、モップが悲鳴をあげている。
- ver.1 仮初ヒーロー 2 ( No.2 )
- 日時: 2012/03/08 15:20
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: bvgtbsWW)
「……あの、それでさっきの質問の意図は何なんですか。童貞がどうのこうのって」
「あー。でもお前って女との経験なさそうだよな。かっこ大爆笑」
「本人目の前にして、何を言ってるんですか店長……」
「だから、お前が童貞だっつーことだよ」
短く切った髪の毛をかきあげて、一息つく店長。背が高くてイケメン、歳も若いのに、それでも女性の影が見えないのは何故なんだろう。性格という重要な一点を無視して採点しているからかそうか。現在進行形でその性格の悪さを実感している僕である。
何か言ってやろうと思ったけど、一応雇われている身なのでぐっと堪えておく。店長はそんな僕の我慢を知ることなく、ファイルに目を移しては僕の方を向きファイルに向き直りペンを走らせるという行為に勤しんでいた。要は、僕を見ながら何かを書いていたってことだ。文章の簡略化に成功した。
「………あー、お前なら察しついてると思うが、仕事についてだよ。今回は相手が若いから、年齢が近い方が良いかと思ってな。客が出してきた要望は二つぐらいしかなかったから、誰に担当してもらったら良いか考えてただけだ。気にすんな」
「仕事ですか……なら、良いんですけど」
真面目な言葉に胸を撫で下ろす。よかった、店長が突然よくわからないことを口にするから、色んな心配と殺意を抱いてしまったではないか。僕が本当に童貞か否かというのはあえて触れないでおく。思春期中の男子にそれを聞くのは些か思慮にかけるのではないでしょうか、と通ってもいない高校の先生に挙手して意見してみた。黙れ童貞、という言葉が返ってきた。何だとこの野郎。
店長の気持ちの切り替えが早かったので、こっちも同様に切り替える。仕事モードに切り替わった僕は、店長の先ほど言ったことに対する疑問を投げかけた。
「それで、向こうが出してきた条件って何ですか? 若い人なら……天原さんとか、桐谷、ジェームズぐらいですよね。どうして基本、雑用係である僕がわざわざ出なくちゃ駄目なんですか? もっと“ヒーロー”っぽい子に頼んだらどうなんですか」
「いや、相手が女なんだよ。……さすがに、天原みたいな美少女を出しちゃぁ向こうの機嫌損ねるだろうしな。桐谷は別件の担当してるし、ジェームズも手一杯らしい。かと言って田上さんは年が上過ぎるしなぁ…………人手が足りないんだよ。そもそもうちの採用条件がえらくハイレベルだしな……しかも俺にはお前ら従業員の面倒と、あの愚妹の面倒も見なきゃなんねぇしよぉ……チィッ!!」
「ここで愚痴言わないでくださいよ店長。ていうか、鬼の形相で舌うちと貧乏ゆすりしないでくれますか、地味に胃にくるんですが……」
「とりあえず、お前はこのメモの奴の担当だから、よろしく」
ファイルから紙を抜く時に鳴ったびりっという音と、店長の怒りのこもったチッという舌打ちが重なった。
眼前にずいと突き出されたのは、半分破れたルーズリーフだった。さっきまであんなに何かを書いていた素振りをみせていたのに、紙面にはたった数行しか書かれていない。何を書いていたんだよと突っ込もうとしてファイルをのぞくと、ちゃんと僕らへの給料だとかスケジュールだとかを荒々しく書きなぐっていた。疑ったのが申し訳なくなる。ちゃんとやってんだなぁ、と感心した。
ルーズリーフに書かれてあったのは、住所だった。地名や番地から、結構ここから近いことがわかる。
「はい、一応承りましたけど……。あの、このお客の詳細とかって、」
「あァん? 俺のスリーサイズだと?」
「この住所のとおりに行けば良いんですね、わかりました。僕は準備をしてくるので、店長は近所の腕の良い脳外科医に連絡とってください。今ならまだ間に合うはずですよ」
「ブラックジャックを全巻読みこんだ俺に死角はなかった!」
「アンタは死角だらけで周囲見えてないんですよ……」
店長と無謀なやり取りをしつつ、玄関に置いていた鞄の中身を確認する。一応、仕事用のメモ帳と携帯電話、財布を持っておく。着替えとかは後で良いや、とそれだけ手にして立ちあがる。振り向くと、店長は両腕を上げて背伸びをしていた。ただでさえ背が高いのに、こうして見ると余計に脚が長く見える。これだからイケメンは、と内心歯ぎしりしたけど、それを面に出さぬように努めた。
「それじゃ、行ってきます。今日は打ち合わせだけで良いんですよね?」
店長の返事も待たずに玄関の扉を開け放つ。一気に冬の冷気が店内に吹き込み、体の芯が縮みあがった。眉をしかめて店長の方を向くと、店長は苦々しい顔つきでこちらを睨んでいた。早く閉めろ馬鹿、とでも言いたいのだろう。
この掲示板は過去ログ化されています。