ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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【ver.1】そして世界は彼らを求めるけれど。【更新】
日時: 2012/05/03 23:31
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: Wx6WXiWq)
参照: http://sasachiki.blog.fc2.com/

受験が終わってほっと一息なささめさんです、お久しぶりでーす。
とりあえず、小説書きたくて再びスレ建てしました。
ヒーロー物になると良いな良いな良いですね! てへぺろ!




■お客様でせう

 ・蟻様 ・ゆいむ様 ・アン様



■本編

<1>
 ・ver.1 仮初ヒーロー  >>1-5>>8-10
 ・ver.2 曖昧ヒーロー >>13-14>>19-20
 ・ver.3 代替ヒーロー >>21-23

<2>
 ・ver.1 自由過ぎる小説家は夢を見ない >>24-27
 ・ver.2 麗しいヒーローは周囲を見ない
 ・ver.3 引きこもりの妹は外界を見ない




■おまけ?



*2012/03/08に執筆始めました。

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ver.1  仮初ヒーロー 3 ( No.3 )
日時: 2012/03/08 15:22
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: bvgtbsWW)
参照: 描写が長過ぎることに投稿して気付くというささめクオリティ


 Tシャツにパーカー、ジーンズにスニーカー。普段と何ら変わりない服装で、外に飛び出す。空気が頬や鼻頭を切り裂き、痛みとしびれを生む。暦の上では冬は終わったというのに、景色は未だ灰色で冬真っ盛りだ。パーカーの裾をこすり合わせて摩擦熱を発生させた。人気のない路上には僕ぐらいしかおらず、靴音がよく響く。正面に建っている豪邸の長い塀を一瞥し、店の正面へと向き直る。店長の祖父の代から続くこの店は、周囲の灰色の色彩によくなじんでいた。古臭いようだけど、どこか懐かしく、そして心地よい。
 少しの間、店の外観を堪能する。しばらくして、のろのろとした動きで店長が出てきた。店長は「さみー」と両手をこすり合わせていた。見送りに来てくれたのだろうか。さっさと行ってこようと歩きだした。

「…………あ、言い忘れてた。ハルヤ、ちょっと聞け」
「ぐえっ」

 歩き出した瞬間、後ろからパーカーの帽子部分を引っ張られた。そのせいで変な声が出る。ぷは、と肺中の空気が絞り出されるような感覚に身体が震えた。おい、と突っ込みたい気持ちを抑えて、首だけを動かして背後の人物へと向く。店長は僕の苦しむ様子に眉一つ動かしていない。

「え、っと? 何ですか、店長」

 一応、引き留められた理由を問いかけてみる。まともな返事が返ってくるとは思っていなかったけど、店長が静かだったので大人の対応をしてみた。襟首を人質にとられて身動きがとれない。路上のど真ん中で二人とも立っているので、寒いし怖い。車が来たらどうするんだろうか、という疑問。まぁ来ないかここ田舎だしーとすぐに答えが出てくる。
 店長は人差し指で頬をかくと、少しだけ僕から視線を逸らした。視線の先には何もない。そして、低い声が淡々と僕に警告を示した。

「お前、打ち合わせ終わったらさっさと家に戻って来いよ。あんまうろうろすんな。……色々起こってから疲れるのは、お前なんだから」

 牽制球を投げられた気がした。牽制球、だがデッドボール。僕の眼球が店長から逃げるようにぎょろりと蠢いた。うろうろすんな、の後にか細く付け加えられた言葉には店長らしくもない人を気遣うという成分が含まれていた。疲れるというのは、きっと遠まわしに、自分についてのあれこれを自覚しろと言いたいのだろう。すぐにわかる程度には、僕にだって自覚はあるというのに。
 言葉より先に、相手に安心感を与えたくて笑みが浮かぶ。頬がひきつるそれは何度もやってきたものだ、慣れている。朝一番の笑顔は上手く出来たかな、なんて心配をしつつも、きちんと返事をした。

「………………はい、分かってます」
「よし、行け」

 ぱっ、と突然襟を放されたので、力の均衡状態が崩れた。仁王立ちしていた店長と違い不自然なポーズで固まっていた僕は、呆気なく道路に転げる。受け身の姿勢をとったけど、衝撃が両膝にきた。膝の痛みに耐えようと声を押し殺していると、頭上から店長が笑っている声がきこえた。こうなることがわかっていて、掴んでいたのか……! 子どもじみた行為に、こちらの方が年下だというのに呆れてしまう。溜息を殺すことは出来なかった。

「はぁ。…………んじゃ、行ってきますね」
「おー、頑張れー。ハルヤは頑張れば出来る子だってお兄ちゃん信じてるからなー」
「誰がアンタの弟だ」

 店長の声援(笑)を呆れで受け流しながら、僕はルーズリーフを握りしめて走りだした。スニーカーが地面を踏みしめる度に、冷たさが足裏を這いずりまわる。
 ようやく店が見えなくなったところで、走りを早歩きにシフトチェンジ。はっ、はっ、と短く吐き出される白い息を空に向けて、乱れた呼吸を整える。膝にじわじわと忍び寄る疲れを一喝して、携帯画面をちらり。まだ朝の八時前だった。
 携帯を操作しながら角を曲がる。角にはいじわるばあさんが経営していると噂の駄菓子屋があり、娘さんらしき女性が箒を動かしていた。同じパシリとしては向こうの行動を気にせずにはいられない、と大ホラを吹いてみる。こっちはパシリになりたくてなった訳じゃないんだ、とついでに言い訳も。まぁ高校もまともに出てないような奴を社会人の一人として働かせてくれるだけで良いか————ぼんやりと、そう考えている時だった。

「っ、やっべー! 遅刻、遅刻ゥ!!」
「うわおっ、」

 真横を何者かが通り過ぎて行った(超びっくり)。……何者、っつってもただの近所の高校生だけれど。とっさに前髪で顔を隠してしまう。後ろめたい感情が、その行動の根源となっていた。僕の進行方向とは逆を、制服を身にまとう男子が走り抜けていったようだ。スクールバッグを肩にかついで、歯を食いしばりながら走って行く。僕の前髪を弄んだ風を生み出したのは、彼の走りだろう。
 高校生は角でぶつかりそうになった僕を視界に入れると、忙しさ満載の表情のまま、片手を挙げた。プラス、数メートル離れた場所から大声を張り上げてくる。その間も走ることは忘れていない。

「ッ、ごめんなさいー! 俺、朝練でっ、ちょっと急いでてー!」
「………………あ、はーい」

 だんだんと小さくなっていく高校生に片手を挙げて、応える。高校生は自分の意思が伝わったことに安心したようで、へらりと相好を崩した。そして、その場を足早に去っていく。朝練ということは、きっとサッカー部かバスケ部だろう。坊主じゃなかったあたり、僕の観察眼はたいしたものだ。……とか何とか言っておいて、この胃の気持ち悪さを無視しておく。
 高校生活という青春を追いかけている男子を尻目に、僕は反対方向へと歩を進めた。





ver.1  仮初ヒーロー 4 ( No.4 )
日時: 2012/03/10 23:00
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: bvgtbsWW)










 救いを求める皆様に、要望通りのヒーローやヒロインを提供する店。お店のパンフレットからの言葉を引用すると、こんな感じ。
 ヒーローと言っても某アニメのように、人命救助したりーの犯人捕まえーの愛と涙に溢れる人情物語ここに在り! ……みたいな雰囲気の良いものでは断じてない。店内の薄暗さと相まって、この職業は余計に怪しく思える。
 やってくるお客の特徴は、たいてい二つのタイプに分かれる。一つ目はお金持ちの家の子どもがオタクやニート、引きこもりなので、両親が子どもの夢を叶えてあげようと思ってやってくる甘やかしタイプ。母親らしき女性が、泣きながら自分の子供の人生について愚痴ることは少なくはない。店長はその語りを全て営業用のスマイルで聞き流し、最後には多額の金を手にしている。違法でないことをしているのに違法のように思えるから、これだから店長って奴は。
 そして二つ目のタイプは、完全に頭がイっちゃってる方たち。どこの風俗だよと突っ込みたくなるようなシチュエーションを店側に押し付け、やってきたヒロインを襲おうとする——なんて方のことである。一応、うちのヒロインは全員店長の命により、ジム通いをしているので素直に襲われたことはないのだが。空から出現して欲しい、とか、車に轢かれそうな私をその場で助けてほしい、とかいうシチュエーションのためのジム通いが妙なところで役にたっている。

(後、雑用係を求めて来るおじいちゃんおばあちゃんがいるんだよなー。あれは本当に困る……)

 三日前に訪れた近所のおばあちゃんを思い、苦笑いを浮かべる。
 基本、訪問客といえばこの店の先代——店長の祖父の知りあいとして門を叩く人が多い。ヒーローやヒロインを求めてやってくる人たちは、真夜中に人目を憚ってやってくるから。真昼間からやってくる人たちのほとんどはご老人で、しかも依頼の内容は「自宅の庭の手入れ」だの「灯油入れてくれ」だの、この店の趣旨と大きく外れたものだ。それでも、ヒーローを求めているのには間違いないからという理由で僕ら従業員を派遣する店長は、近所付き合いが良い。よく野菜やお酒をもらっているのを見かける。

「……あーあ、なぜ僕みたいなのがヒーローにならないといけないんだろうなぁ」

 白い吐息交じりに不満を吐露する。小さい声で呟いたので、すれ違った主婦がこちらを振り向くことはなかった。少し安堵。
 たいてい、店で雇っているヒーロー役というのは外見が良い者に限られている。または、悪役として演技の上手い者。だけど悪役は、基本的に劇場などで働いてるプロの人を雇っているので、僕らの店にいるのはほとんど美目麗しいヒーロー・ヒロイン役である。男の娘、ほわほわ天然美少女、王子様系男子、ツンデレ少女——とにかく様々な系統の人を用意している(らしい)。だというのに人材が不足しているという。実際に何人が働いているのかは知らない。
 ちなみに、先ほどから話に出ている桐谷やジェームズは、あの店の従業員である。全員、見た目の美しさは千パーセント。桐谷は男でありながらも十人中十二人ぐらい振り返るんじゃねぇのってぐらい(ちなみに二人分は守護霊さんの数である)性別の壁をぶっ壊した外見だし、ジェームズは乙女が学園内で素敵な男性と恋しちゃうゾって感じのゲームに出演してそうな金髪好青年で、演技が上手く常に引っ張りだこだ。

「そんな中に僕なんかいたら、思い切り浮くっていうのに……」

 ザ平凡を常としている僕は、その美男美女で構成されたメンバーの中で非常に浮いている。店長からは一応オーケーの部類に入る顔だと告げられているけど、どこからどう見ても根暗な男子高校生(だが高校には通っていないというね!)にしか見えない。だけど、この平凡な顔立ちは漫画やアニメのキャラになって欲しいという時に時々役立つ。メイクしてもらったり服装を変えたりすれば、どんなキャラクターにも一応は変化するからだ。
 いわゆるコスプレ、というやつである。二ヶ月前にとある女性からの要望で鎧を着たハンターらしきキャラになりきったことがあるけど、あれは泣きそうになった。近所を鎧姿でうろうろさせられ、さらには「え、この世界のことを知らないの?」とか依頼人に笑顔で問われる場面を演じ、「む、この四角いものは何だ?」「あぁもう、それは携帯電話だよ!」みたいな会話を繰り広げなければならなかった。

「うお、着いた————ってか、でかいなぁ」

 脳内の説明会を一旦終了させて、思考をクリアにする。真っさらな思いと共に、目の前のマンションを見上げた。
 朝の太陽の光が、マンションの側面を静かに照らしている。明るいクリーム色と濃いブラウンで構成された直方体は、いかにも高級ですというオーラを醸し出している。実際に財に富んだ方が住んでいるのでオーラも何もないんだけど。
 今もマンションの入口(自動ドア、ボタン式の施錠、そして警備員二人)から小学生の女の子が、てとてとと小さな手足を動かして出てきた。服や髪型からは、親の愛情をひしひしと感じる。
 ——そう、ひしひし、と。

「…………っ、ぎゅ」

 とか何とか心のナレーターを務めていると、喉元が見えない何かに圧迫されて、息が出来なくなった。一瞬のことだし、これも慣れたことなのでとりたてて騒いだりはしない。
 揺らめく視界の隅に女の子を留めて、重い足を引きずりマンションの入口へと向かう。あの小学生のリズムの良い動きを、この体に分けてほしいと願った。胸を押さえて、花壇と明るい色のアスファルトで構成された地面の上を歩く。

「あの、一〇一の、」
「……? あ、はいはい。一○一号室の方の」
「えぇ、そうです」
「エレベーターの七階にありますので」

 警備員さんにはすでに話をつけているようで、部屋の番号を口にすると、すぐに通してくれた。だけど彼らの警戒心を侮ってはいけない。二人共、特に年配の方は細い目をさらに細くしてこちらを凝視していた。どうも、夢売り人です。ふふふと笑い声を発して会釈をすると、若い方の人は困ったように僕から目をそらした。社会性が足りない、と判断。僕も人のこと言えないけど。
 エレベーターのボタンを押して、しばし待つ。目指すは七階。後ろに立っている警備員二人と背中で会話しながら、数秒の余白を沈黙で埋める。その沈黙が耐えきれなかったのか、さっき目をそらされた(まだ根にもっているのかよ、という突っ込みは甘んじて受け入れよう)方の若人が、裏返った声で話しかけてきた。

「えっと、まだ朝なので、あまり、うるさ、いえ、騒がないでください、ねッ!」

 うるさいを騒ぐという表現に言いなおした彼の優しさに乾杯。「はぁ」と気の抜けた返事をしておく。
 ゴゴゴゴゴ……と某漫画のような音が鳴り響くわけでもなく、静かにエレベーターは扉を開いた。高級マンションのエレベーターは一味違うなぁ、と変なところを褒めながら狭い空間に入る。特有の匂いを口を抑えることで半減させて、目的地である七のボタンを押した。扉が閉まる際に、年配の方が鋭い眼光でこちらを射ぬいてきたのがわかった。

ver.1  仮初ヒーロー 5 ( No.5 )
日時: 2012/03/10 23:04
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: bvgtbsWW)


 ようやく一人になった頃、僕はゆっくりと息を吐く。溜めこんでいたものを、全て吐き出す。

「…………うぁ、気が重い……」

 肩に乗っかってきたのは、けして重力だけではないはずだ。ぱしぱしと肩を払い、重みを減らそうと試みる。
 高級マンションのエレベーターといえど、中で感じる気持ち悪さが変わることはなかった。「う、げ」通常のボリュームで独り言を呟こうとし、先ほどの警備員の言葉を思い出す。まさかこの程度の声で迷惑になるはずがないだろうと思ったけど、その言い分は後に法廷で重要な役割を果たすことになったのだ! とかいうオチがつくのは避けたいので、小さく呻く。うえ、気持ち悪い……。
 目眩のしそうな数秒間を体感し、七階に着いた頃には毎回恒例の簡単な船酔い状態に陥っていた僕を出迎えたのは、長い通路だった。外に面していない通路なので、空気は淀んでいる。
 エレベーターを降りて、柔らかいライトで照らされた通路に足をつけた。床はコンクリート製で、歩くたびにぱこぱこと妙な音を生み出す。

「ええと、いち、まる、いち号室……と」

 ゆっくりと、部屋の番号札を指さしながら探していく。エレベーターにマンション内の部屋の簡単な地図があったんだけど、数秒で一〇一号室をさがし出すのは無理だった。幼稚園で鍛えられた間違い探しの能力が今こそ芽生えるかと思って胸をわくどきさせていたんだけれど。
 しんとした通路に人影はない。まだ朝なので静かにして欲しい、とはこういうことか。普通のアパートなどだったら、朝は子どもが学校に行ったりサラリーマンが会社に行ったりと騒々しいはずなのに、このマンション内はえらく静かだ。お金持ちはこんな朝早くから外をうろつかねぇんだよという、マンション住人総出の遠まわしなアピールだろうか。

「ん? ……あ、ここか」

 人差し指の先には、一〇一と書かれてある表札が取り付けられていた。苗字のところは、ぐしゃぐしゃとマジックらしきもので何度も落書きされていて、読むことが難しい。
 いじめられているのかな、と親近感は芽生えない。「うわっ」という言葉しか唇からは漏れなかった。マジックの乱れた曲線の下には、かぶしきがいしゃと平仮名で雑に書かれてある。どこの新妻エイジだこの住人。
 住所、表札。共に数字の間違い無し。そして、普通に警備員に通された。以上の理由から、ここがお客が住む部屋だということが確定した。だけど、中に人がいる気配はない。単にドアが分厚いだけかもしれないけれど、と高級マンションの可能性を探る。

「うーん、どうしよう。チャイム鳴らしても、良いのかな」

 こんな朝早くに来て、良かったのだろうか。もしも追い返されたら困る。すごく低い確率で、部屋を間違えていたら余計にアウトだ。マイナス思考になってきているのを自覚しながらも、不安は消えない。自分がネガティブだとわかっているのに向上心は見当たらないのと同じだ。
 恐る恐る、インターホンを鳴らす。ぴーんぽーんという耳慣れた音の後に続く音は、無し。一度目のチャイムを鳴らしてきっかり三十秒待つけど、応答無し。「失礼します」と小声で呟いて、二度目を鳴らす。またもや変化は訪れない。部屋には誰もいないみたいだ。

「どうしようかなぁ……」

 視線を通路に投げかけてみたけど、誰もいないんじゃ意味がない。はぁ、と本日何度目かの溜息をつく。
 ——警備員さんに、話聞いてこようか……。
 考えるのをやめて、のろのろと来た道を戻り始める。だが、戻る前に何かメモでも挟んでおいた方が良いだろう。尻ポケットにはさんでおいたメモ帳と、シャーペンを取りだし、メモの内容をどんなものにしようか再び考える。店の人が来たということと、設定やシチュエーションについて話したいという要件だけ書き記し、ポストに投げ入れておいた。
 微妙に外にはみ出ているメモ帳の切れ端を確認し、もう一度二酸化炭素を吐いた。二度手間だろうけど、しょうがない。

「一旦帰って、出直すか」

 自分に言い聞かせ、歩き出す。店長にどう言い訳しよう、と悩みを膨らませて。
 そんな、時だった。

「ヘイユー、ホールドアァァァップッッ!!」
「っ、ぐ!?」

 叫び声、と、視界が左右上下に勢い良く揺れ動いた、と思ったらすぐに後頭部に鈍い衝撃。
 ちょうど息を吐いた時に衝撃を加えられたので苦しい。現状に追い付いていかない脳みそで、必死に理解しようと頑張る。
 ——え、え? ぢょっ、痛、
 舌を噛んだのか、口内にじわりと生暖かいものが広がる。舌の痛みは僕の感覚を研ぎ澄ませるには十分で、だけど言語を話すためには強烈な足引っ張り係となっていた。
 気付けば僕の体は床に転がっていて、背筋をするときのポーズになっていた。腹ばいになっていたと言えばわかって貰えるだろうか。

「うぎゅ、あ、ちょ、いた」
「シャァラップ! ホールドミー」

 声で抵抗するも虚しく、背中に圧し掛かられて両腕を一まとめにされた。ていうか何だホールドミーって。直訳だと私を抱きしめてくれ、だからなそれ。腕をとられている時点でそれは叶わないことだと知ってほしい。
 突然、僕の自由を奪った犯人は女のようだった。声が高いのと、背中にかかっている重みがまだ軽めなことから推測。背骨には何か棒状のものが突きつけられており、腰を動かす度に背筋を粟立たせる。銃かヌンチャクだ、多分。個人的にはヌンチャク希望。

「ヘイヘイヘイヘイ! ユーは何してたんだいユーこんなところでストーカーなうしちゃってたのかい!」
「ち、違います、僕はあの、」
「そんな風に言いくるめられたりはしない!」
「アンタの耳はどれだけ自由なんだ」

 ——どうして店長といい、こういう人といい、人の話を聞いてくれないんだ……。
 絶望を表情に出さないように、自分の人間関係を恨む。その間も、犯人は僕の腕をぐねぐねとこねまわして(おいやめろ骨ががっが!)、背中にごりごりと銃口を向けていた。
 痛いと素直に言えば解放してくれんのかなぁ、いや、多分無理だろうな。こんなに人の肘を嬉しそうにねじまわす人を、僕は今までに見たことがないし。




Re: 【ver.1】そして世界は彼らを求めるけれど。【更新】 ( No.6 )
日時: 2012/03/11 14:03
名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: hTgX0rwQ)

ささめさーん! やった一番乗りだぜー。
受験お疲れ様でした。合格していることを祈っております、まる。

初っ端から素敵な小説です。個人的に縛り上げた女の方が素敵です。なんかこういうはっきりしている人好きですよ。
素敵なヒーローたちがいるお店に行ってみたいです。とりあえず男の娘は私によこせ。

まだまだ序盤のようですが、先がとても楽しみです。
とりあえず私は更新を楽しみに待っております! 頑張ってください。

ではでは失礼いたしました

Re: 【ver.1】そして世界は彼らを求めるけれど。【更新】 ( No.7 )
日時: 2012/03/12 00:49
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: bvgtbsWW)

>>6
■蟻様

 一番乗りの方は特別にささめと一緒に全裸寒中水泳——あ、やらないですか、そですか。
 という訳でお久しぶりですささめです! ほんとに受かってたら嬉しいです、まる。

 音符的から受験まで、小説に対するもやもや全部ぶつけてたらすごく長い文章になってしまいまして……(´д`;) 読んでくださる方いるかしら、と若干焦ってたささめさんっす。
 縛り上げた女については、後々色んなことがわかるのでお待ちくださいませ。あれ、おかしいな……蟻さんの言葉によって、人間としてどうかと思う行動をしてる女が、とても健康的な可愛い子に思える……。これが、蟻さんマジック!!(
 そうですね。ささめもそういう店に行ってみたいです。とりあえず男の娘の話については、蟻さんがうちに嫁に来てから、それからだ。

 これから忙しくなると思いますが、自分のペースでこの小説をお届け出来たら嬉しいですw ラストまで、どうかまたお付き合いをよろしくお願いします。

 コメント有難う御座いました(`・ω・´)


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