ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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【ver.1】そして世界は彼らを求めるけれど。【更新】
日時: 2012/05/03 23:31
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: Wx6WXiWq)
参照: http://sasachiki.blog.fc2.com/

受験が終わってほっと一息なささめさんです、お久しぶりでーす。
とりあえず、小説書きたくて再びスレ建てしました。
ヒーロー物になると良いな良いな良いですね! てへぺろ!




■お客様でせう

 ・蟻様 ・ゆいむ様 ・アン様



■本編

<1>
 ・ver.1 仮初ヒーロー  >>1-5>>8-10
 ・ver.2 曖昧ヒーロー >>13-14>>19-20
 ・ver.3 代替ヒーロー >>21-23

<2>
 ・ver.1 自由過ぎる小説家は夢を見ない >>24-27
 ・ver.2 麗しいヒーローは周囲を見ない
 ・ver.3 引きこもりの妹は外界を見ない




■おまけ?



*2012/03/08に執筆始めました。

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ver.1  仮初ヒーロー 6 ( No.8 )
日時: 2012/03/13 16:27
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: bvgtbsWW)


 ——まぁ、そろそろ良い……よな。
 些か、自分が襲われている現状に飽きてきた頃だった。これでも僕だって、従業員と同じようにジムへ通っているのだ。本来、こういう風に襲われた後に素直ぶってされるがままというのはない。じゃぁ何でおとなしくしてるのか、と聞かれれば「マゾなの?」違ぇ! 人のナレーションに勝手に入ってくるなこの野郎! 睨もうと眼球を動かしたけれど、背にまたがられているので当然姿は確認できない。

(…………はぁ。抵抗、するか……)

 ——まぁ、僕がおとなしくしてたのは、相手がお客様だったからで。
 顎の力を使って、顔を浮かせる。それだけで上に乗っていた相手はバランスを崩した。重みが背中から太ももの方へと移ったのをきっかけに、腰が千切れるかと錯覚するぐらいに大きく振りむく。「ぎゃ!」色気のない悲鳴をあげて倒れる、そいつ。
 尻餅をついた相手の下敷きになっている両足をすぐに上げると、相手はころんと呆気なく転げた。いつでも走れるようになった両足を支えに立ち上がり、摩擦で熱を含んだ顎を一撫で。赤くなってるな、これは。こきこきと両肩を回して、筋肉をほぐした。

「っく、くくくくく! 面白い、面白いぞガンダァム!!」
「………………いや、ガンダムでも何でもないんですけどね?」

 倒れたまま、高らかに笑いだす女。
 相手は俊敏な動きで、四つん這いから立ち上がる。背は僕と同じぐらいで、髪の毛は長い。「実は前世はチェシャ猫だったんだ」と言い出しそうなにやにや笑いを浮かべて、乱れた髪の毛をかきあげた。寝巻きらしきパーカーには、ほこりと土が付いている。

「あの、貴方が今回の依頼人ですよね?」
「如何にも! イカにもタコにも私ですよ!」

 薄い胸を張り、叫ぶ汚れ女。ぎゃは、と高らかに笑うその姿には、ご近所さんを気遣う精神を感じられない。変人という言葉を背負って生きているような眼前の女性に、頭痛がしてきた。
 ——とりあえず、自己紹介、だな……。
 こんなののための仕事か、とヒーローにあるまじき発言を胸に留めておいて、あらかじめスタンバイ済みだった名刺を取り出した。こちらも尻ポケットに入れておいたので、先ほどの出来事によりぺしゃんこになっている。読めるから良いか、と割り切って、女性に差し出した。女性は一瞬、きょとんという顔をしたが、またすぐに満面の笑みに変わった。名刺を受取ると、食い入るように文字の羅列を眺めている。
 名刺に書かれてある、何度も読んだことのある文面を、事務的な口調で告げた。

「はじめまして。ヒーロー派遣会社、夢売から参りました、東ハルヤです。今回の依頼における設定について、今日はお話しに参りました」
「ほっほぉ。あずま、はるや君ねぇー? やっぱり女の子にはハル君とか呼ばれたでしょ、と想像してみる」
「…………」

 店長直伝の営業スマイルで言葉を濁した。あながち間違いではないところに、この女性の恐ろしさを感じ取った。小中学生の時には周囲からハル君と呼ばれていたのだ。ただそれが、女子限定ではなかっただけで。無言の僕に対し、女性は「当たりじゃね? これ当たりじゃね?」と嬉しそうに名刺を握りしめていた。握りしめ過ぎて紙屑に変化していることになぜ気付かない。
 女性は満足気に名刺を胸の谷間に入れようとして、谷間がない自分の境遇を嘆き、普通にパーカーのポケットに入れた。お前は峰藤子か、と突っ込みたくなったけれど堪える。スマイル継続中のまま、口を閉ざしていると、女性の方が「よし、じゃぁ私も自己紹介だべさ」と一人で納得して手のひらを合わせた。沈黙が苦手な人なんだろう。みゅふふ、と変な笑い方をして気をつけの姿勢をとった。
 子供のように笑いながら、女性が僕に言ったのは簡単な自己紹介だった。

「はじめましてーましてましてー! ……えっとー、小説家でェーッす!」


 お客の前だというのに、僕は頭を抱えてしまった。







ver.1  仮初ヒーロー 7 ( No.9 )
日時: 2012/03/13 16:28
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: bvgtbsWW)






「だーかーらー、私は小説家なんだってーぇ。ねーねー、ちょーい、話聞いてんべ? 聞いてるだっちゃ? ちゃっちゃっちゃ? よし、聞いてるみたいだね。改めまして小説家でーす。年齢は二十と見せかけて残念フェイクだと言いつつ実年齢でーす。好きなものは小説とぐーすかぴーすること、嫌いなものは締切りとわかめでーす。今期一番びっくりしたことは、このマンションには監視カメラが付いてて、警備員にいたずらしたらすぐにわかることになってたことでーす。あ、後ねー、自分の体で一番好きな箇所は指です。なぜなら小説を生み出せる魔法の指だきゃらさ! つまり、私は魔法使いだったのだ、という数式が完成!」
「…………あの、本題に入っても、よろしいでしょうか?」

 頭痛に悩む僕の腕をとって部屋に連れ込まれたかと思えば、彼女のトークが僕を襲った(いや性的な意味ではなく)。詳細は、上記の通りだ。いや、上記って僕は誰に説明しているのかよくわかってないけど。相手の反応を窺うこともなく、目の前の自称小説家は僕の腕をぎりぎりと掴んだまま部屋の奥へと歩んでいった。あまりの力の強さに、僕はついていけずに、半ば引きずられる形となってリビングに入室した。
 さすが高級マンション、部屋の内装も広さもその辺の安物アパートとは格が違う。これで良いのか? とバカボンの父ですら首をひねりそうなほど、広々としている。リビングの中には、テレビとソファーがぽつんと置いてあった。カーペットも何も床に敷いていないので、フローリングには傷がついていそうだ。しかも、テレビもソファーも部屋の中央にどどーんと置いてあるので雑多な印象を受ける。タンスがないので、細々したものは全て床の上に散らばっている。パンツとかあった。視界に入れないように、手元にあった耳かきで遠くへ飛ばす。
 ソファーと同じように、部屋の中央に僕は座らされた。まるで物を取り扱うかのよう乱暴さだったわけだが。座らされた、よりも床に投げられたの方がしっくりきた。摩擦によって痛む膝に触れながら、目の前に立つ女を睨む。出来るだけ不機嫌そうに、相手に悪印象を与える表情で。

「本題とか難しいことやだー。もっとおしゃべりしよーぜ若者よ!」
「今日はあくまで依頼についてのお話をしにきたんですが?」
「ふふん、私が独り身かどうか……ということについてのお話だろう? わかっているさ、でもちょっと待って。私はそんなに展開を早くしていけない古き良き時代の女なのよ! もうちょっと段階を重ねてだね、こう二人の愛を高め合って」

 以下略。まただらだらと自称小説家さんは自分の世界に入り込んでしまった。眼前で展開されていく言葉のふろしきを右から左へ受け流す。途中で年の差だの愛の必要性だの僕の社会的立場に関わる単語が飛び出してきたけど、あえての無視。反応したら負けなんだ、きっと。
 気付かれないように視線を彼女からずらし、部屋の中を改めて観察する。冷蔵庫やエアコンなどの基本的な設備は整っているが、生活感溢れる場というような雰囲気ではない。部屋に色がついていない、とでも言うべきか。ソファーの後ろに隠れていた小さなかごは紙で溢れかえっていた。何か小さな文字が羅列している。このひとが本当に小説家なら、あれば原稿というやつだろう。
 唯一、地べたに平然と置かれているパソコンが異彩を放っていた。見た目はただのパソコンだけど、広い部屋の中でテーブルの上にすら置かれてない(テーブルがそもそもないけど)のにパソコンだけはちゃんとあるというのが不思議だった。パソコンの画面は開きっぱなしで、コードは壁までだらしなく伸ばされている。つまづきはしないのかな、と思案した。

「そして君に素敵な事実を告白! このマンションにはアタチ一人で暮らしてまーす。てへぺろ。……襲っちゃだめダゾ!」
「…………いや、襲いませんから」

 ようやく話にひと段落ついたのか、女はほぉと浮かんでもいない汗を拭う振りをした。てへぺろ、と言う時に舌を出すのを忘れていない。ついでに、襲っちゃだめダゾのところは語尾に音符がついていそうなぐらい若づく——子どもじみた言葉だった。疲れがどっと増した気がする。


ver.1  仮初ヒーロー 8 ( No.10 )
日時: 2012/03/13 16:30
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: bvgtbsWW)

 きちんと彼女の言葉を否定しておいて、こちらも一息つく。
 何で初対面の人にこんな風に言われなくちゃならないんだろうか、とうんざりしながら外を見る。今頃太陽は僕らに光の粉をまぶし始めていた。きらきらと揺れる光の粒に、目を細める。

「んー、まぁ、そうだね。君は襲うような雰囲気じゃないしねー。安心して良いのかも?」
「当たり前ですよ! 雇った人間が依頼人を襲う素振りを見せるってどうなんですか……そこまで荒れ狂ってはないですよ」
「いや、そうじゃなくて。童貞風情が女の子を突然襲うわきゃねーだろって話さ!」
「はははっ、そうですよね。童貞風情が女の子を——————って、え?」

 彼女が何気なく発した言葉に、僕の体は硬直した。
 体中の筋肉が収縮する。舌が、感電したかのようにびりびりと痺れて喋りにくい。眼球は目の前の女を対象としてうまく定められておらず、視界がじょじょに歪む。
 ——どう、てい?
 先ほどの彼女の言葉をもう一度心の中で繰り返す。
 いや、ちょっと待て。何で僕が童貞かどうかを目の前のこいつが知っているんだ。しかも初対面なのに。どこでバレた。決して僕が童貞だということを認めたわけではないんですけどねははは、ちょおま、何で知ってるんだ——様々な疑問がぎゅるぎゅると渦巻き、僕のこめかみに汗をふき出させた。自分の性歴(うまいこと言ったとか思ってない)を知られたという羞恥心よりも、なぜ、という焦りが先に出る。
 からからに乾いた唇は、動かすと音を経てた。ぱりぱり、ぱりぱり。表面が割れて血が流れていく。舌を唇から流れてきた血で湿らせて、話が出来る状態へと復旧作業を開始した。精一杯のスマイルを相手に見せつけて、余裕綽々という風に。

「……や、やだなぁ。僕は童貞なんかじゃないですよ? はっはっは」

 唇と同様に乾いた笑みを空気中へと放り投げた。はっはっは、はっはっは。あまりにもわざとらしい笑い方に彼女は怪訝そうに僕の顔を見たけれど、すぐに「ありー?」と首をかしげて考える人のポーズになってしまった。
 合点がいかない、とでも言いたげな様子。自分が知っていることと現実を照らし合わせているようだった。その隙に、僕は冷汗を手首で拭う。
 おかしいなぁ、疑問に満ち溢れた声色で女が唇を尖らせる。思いのほかその唇が薄桃色で柔らかそうだったので、不覚にもどきりとしはしない。パンツを冷蔵庫の横にある林檎にかぶせている女の唇なんて色っぽくない。

「むー……君が童貞じゃなかったら、おかしいんだけどなぁ……」
「ははは、僕はちゃんと童貞ジャ(ないとははっきり言え)ナイデスヨー」
「いやぁ、だからね、おかしいのよー。君が童貞じゃなかったらー。おかしいのよー」
「……へぇ、もし僕が童貞じゃなかったら、どうおかしいんですか?」
「んー、だってね?」

 僕は至って冷静な態度を装い、にこやかに返答する。動揺ひとつ見せない僕に不信感を買ったのか、女性の眉間にしわがむにゅむにゅと寄った。子どもみてぇ、と口にしたら超怒りそうな感想を抱く。そんな僕の感想なんて露知らず、彼女は薄らと戸惑いを見せていたのだが。
 むふぅ、と頬を膨らませる目の前の女の言葉を待つ。少し唸りながらも、彼女は困ったように口を開いた。

「私、童貞の人に来てもらうように店長さんに言ったのになーぁ……」
「テメェが犯人か!!」

 朝の店長からの問いの意味が、ようやくわかった。
















Re: 【ver.1】そして世界は彼らを求めるけれど。【更新】 ( No.11 )
日時: 2012/03/14 13:51
名前: ゆいむ ◆xFvCQGVyfI (ID: wIAOO7NO)

 きゃっほい! さめちゃんの名前を認識した瞬間にネズミさん操作してクリックしてたよゆいむです、二番乗り!
 ヒーローか、ヒーロー、……ヒーローね。なるほど俺得なテーマじゃねえの。
 美少女さんに依頼して張っ倒されるのは私です。可愛い女の子ふつくしい女の子は正義!

 最後の「テメェが犯人か!!」に全力で腹筋崩壊。やだ何これ面白い。
 またこそこそと来たり読んだりすると思われ。ではでは、さめちゃんの新作を祝しながら帰るとしましょう。じゃあね!←

Re: 【ver.1】そして世界は彼らを求めるけれど。【更新】 ( No.12 )
日時: 2012/03/17 22:32
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: bvgtbsWW)

>>11
■ゆいむ様

 ぎゃぼー! ゆっちゃん、ゆっちゃんじゃまいかゆっちゃんなうゆっちゃんなう!
 ネズミさんありがとうゆっちゃんの思い通りに動いてくれて……! 二番乗りありがとう、そしてありがとう!!
 ヒーローときいてぴんとくるのはタイバニなささめです。タイバニみたいにきらきらした物語じゃないから連想って不思議よね。とりあえずヒーローで連想するのはパーマン。
 おいおい……そんな役ゆっちゃんだけにはやらせないぜ!! ささめもするよ、がんがんするよ!! した挙句に警察に連行されるよ、だけど悔いはないッ!!(幼女の群れに飛び込みつつ)

 犯人って意外と身近にいるものですね。いやぁはっはっはっは(棒読み)、ほんとに訳わかんない登場人物でごめんね!!←
 こそこそしないで、さらに後ろからゆっちゃんの背中を見守るわよ!(脅迫)
 のろのろ更新ですが、頑張っていこうと思います! 是非お付き合いくださいまし。

 コメント有難う御座いました(`・ω・´)


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