ダーク・ファンタジー小説

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ニンゲン消去ボタン【一話完結】
日時: 2016/12/21 19:39
名前: 北風 (ID: rk41/cF2)

北風です。
シリアス・ダークで書かせていただくのは初めてとなります。
この小説はオムニバスストーリーとなっており、人間の存在を『無かったことに出来る』ボタンの話です。

未熟な所もありますが、楽しんで頂ければ幸いです。

コメントやアドバイスは大歓迎です。

Re: ニンゲン消去ボタン ( No.13 )
日時: 2016/05/28 15:06
名前: 北風 (ID: cr2RWSVy)







「——マジで?」


ボタンを押した一秒後。
私は呆然と夕暮れの住宅街に立ち尽くしていた。

——— 一人で。




さっきまで目の前に居た筈の水戸川真美は、居ない。

周りを見渡してみても、居ない。



消えたのだ。


本当に、一瞬で。


消去、されたのだ。



「は…………」



信じられない。

本当の本当に、あれは本物——



「はは……」


「ははは、はは……」

「はは、あはははは、あはははははは……」
「あははははは!」「あは!!」「あはははははははははは!!!」



可笑しかった。可笑しかった。

何だかとてもとても楽しい。

堪らなく笑えて尋常じゃなく幸せで物凄くすっきりして——嬉しい。



私は一人笑い続けた。




Re: ニンゲン消去ボタン ( No.14 )
日時: 2016/05/29 09:59
名前: 北風 (ID: cr2RWSVy)

ジリリリリリリリリ………


「む………?」


けたたましい目覚ましの音で目が覚めた。

リリリリリンッ

目覚ましを止めると私はぐぐっと伸びをした。


「今日はあの夢見なかったな……」

水戸川真美の夢。
最悪な思い出の夢。

「まあ当然だよね。水戸川真美なんて………居ないんだから」

私はにやにや笑いながら言うと、朝ご飯を食べるためリビングへ向かった。







「行ってきまーーす!」

こんな元気のいい挨拶をしたのはいつぶりだろう。
確か小学校低学年の時以来だと思う。

お母さんもぽかんとしてたけど、気にしない。
だって凄く凄くいい気分なんだ。

家から出ると、気持ちのいい風が吹いてきた。

私は深呼吸をすると、笑顔で歩き出した。

水戸川真美が居ないというだけで、世界の全てがキラキラして見える。


ただの道に生えてる雑草も、古い自動販売機も、道路標識も、散歩中の犬とその飼い主も。


まるで昨日とは別の世界のようだ。

いや、実際別の世界なんだ。

約10年間、ずっと付けられていた足枷が、もう無いんだ。

そう考えながら歩いていると、前の方に友達の岩波利香ちゃんと本田桃ちゃんが歩いているのを見つけた。あだ名はりーちゃんとももぴー。
水戸川真美の邪魔が入らない時はよく好きなアイドルについて一緒に喋る二人だ。

「おはよっ!」

私は二人の背中をぽんと叩いて挨拶をした。

だが。


「……え…………」
「お、おはよう…………水野さん…」



水野さん?


「え、ちょっと待って何で苗字呼び?どーしたの二人ともー」


私はおどけてそう言ってみせるが、二人は戸惑った表情をするだけだった。

「りー…ちゃん…?ももぴー……?何……?」

二人は怪訝な顔をすると私に背を向けて、やや早足で行ってしまった。


「え……?」


何で?

Re: ニンゲン消去ボタン ( No.15 )
日時: 2016/06/19 16:30
名前: 北風 (ID: cr2RWSVy)



ガラッ


教室のドアを開くと、刺すような視線が集まってきた。


——やっぱり何か変……。


私は交友関係が狭いがその分敵も作らない為、誰かから嫌われるという事も無い。
なのに、この雰囲気………。

今まで感じたことの無い、非難するような、軽蔑するような雰囲気。


「えー?水野さんが?」
「ちょっ!ナナ!声大きいって!!」


突如、教室の後ろの方からそんな会話が聞こえてきた。
驚いて振り向くと二人の女子が気まずそうに視線を逸らした。
よく耳を澄ましてみると、教室の至る所でクラスメートが私の話をしていた。


「そ、なんかさぁー、りーちゃんとももぴーが急に話しかけられたんだって」
「えー、水野さんに?ほんと?ももぴー」
「うん、なんかあだ名でよばれてさぁ。でもウチちゃんと『おはよう、水野さん』って言った訳よ。そしたら『なんで苗字呼びー?』とか言われてさぁ」
「え、何それ?こわっ!」
「ね。誰もお前を名前呼びなんかしたことねぇよっていうね」
「それなー!」
「てか、ぼっちならぼっちらしくしてろって話だよね」
「マジそーだよね、てか水野ウザくね?」
「お前のような存在がももぴーに話しかけんなって感じ」
「あっはははははは!!それなぁーー!」


——え?

私は状況が理解できないまま固まっていた。

嘘?

私……結構皆と話したことあるよね?

水戸川真美の邪魔が入っていつもじっくりとは話せなかったけど、普通に名前呼びくらい、してたよね?

だってももぴーとは小学生の頃から友達で……。
確か、初めて話したのは小三の頃、水戸川真美に紹介されて……。






あ。








そうだ。









私は、いつも………。





私はいつも友達を作れなくて……。



それで、水戸川真美が私に友達を紹介してくれて……。





じゃあ、水戸川真美がいない世界では、私は………。


















Re: ニンゲン消去ボタン【一話完結間近】 ( No.16 )
日時: 2016/08/19 13:12
名前: 北風 (ID: zhMp2Xgu)


「み、見つけた!!ねぇ、君!!」

放課後。

夕暮れの自宅近くで、私はやっと探していた人物を見つけた。


「ちょっと!!ねえってば!!」


私の呼びかけにその人物はぴくりと反応し、ゆっくりとこっちを見た。

「あ、おとといのおねぇちゃん」

私が探していたのは、一昨日私にボタンをくれた、あのパーカーの女の子だった。

「き、君!」

私は女の子に駆け寄った。

「どしたの、おねえちゃん。そんなあわてて」

「お願い!!」

私はその場に跪き、目に涙を溜めながら叫んだ。


「お願い!私、何でもするから!!ボタン、勝手に持って帰っちゃったこと、謝るから!!!だから!!!」


叫びながら、ぼろぼろ涙が零れる。

水戸川真美の………いや、真美ちゃんの笑顔が脳裏に浮かんだ。


真美ちゃんは、いつも私の事を考えてくれていた。

人見知りで、言いたいことが言えない私に、あんなに優しくしてくれた。

それなのに、私は「ありがとう」の一言も言わないで、自分勝手に「迷惑だ」なんて…………。

成長して、背伸びし始めた私は、勘違いしていた。




真美ちゃんがいないと何も出来ないのは、今も昔も同じなのに……。




「だから、………真美ちゃんを、か、かえ、しで………」

泣きじゃくる私を、女の子はしばらく無言で見ていたが、やがて口を開いた。

「おねえちゃんは、おねえちゃんのだいじなひとをけしちゃったんだね」

そして私の頭をよしよしとなでる。

これじゃあ私が子供みたいだ。

いや、私はまだまだ子供だ。

本当に大事なものに気づけなかった……幼い子供だ。


「だいじょうぶだよ、おねえちゃん」

「………え?」

「いま、ボタンもってる?」


私はポケットの中のボタンを取り出して女の子に渡した。

どうするつもりなのだろう?


「あ、あの……本当に大丈夫なの?」

「うん!ほら、こーやって………えいっ」

「あっ!?」

女の子はなんとボタンを地面に置いて、思いっきり踏みつけた。
バキッと音が響き、ボタンは壊れてしまった。

「……………」

私があっけにとられていると、女の子はにこりと笑ってこちらを見上げた。

「これであしたにはもうぜんぶもとどおり。だいじょうぶだよ」




Re: ニンゲン消去ボタン【一話完結間近】 ( No.17 )
日時: 2016/08/19 15:24
名前: 北風 (ID: zhMp2Xgu)


ジリリリリリリリリ………


「…う……んん…?」


私はいつの間にか自室のベッドで横になっていた。

なんだか記憶が曖昧だ。

(どうやって帰ったんだっけ…?)

考えながらも、とりあえず目覚ましを止める。

「真美ちゃん……」

私は着替えながらそう呟いた。















「……行ってきます…」

昨日とは裏腹に今朝は元気の良い挨拶が出てこなかった。

真美ちゃんを消してしまった事から来る罪悪感のためだろうか。

「本当に戻ってるのかな……?」

私は昨日の出来事を思い出しながら考える。

ボタンを壊したら消した人が戻るって……ちょっと安直な気もするけど…。


もし、戻ってなかったら……。

私は思わず身震いした。




「そろそろ、のはず……」

いつもならこの辺で真美ちゃんが話しかけてくる所だ。

でも、今日は真美ちゃんが現れない。

「もうちょっと待ったら……来る…よね…」

私はそう自分に言い聞かせた。


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