ダーク・ファンタジー小説
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- ニンゲン消去ボタン【一話完結】
- 日時: 2016/12/21 19:39
- 名前: 北風 (ID: rk41/cF2)
北風です。
シリアス・ダークで書かせていただくのは初めてとなります。
この小説はオムニバスストーリーとなっており、人間の存在を『無かったことに出来る』ボタンの話です。
未熟な所もありますが、楽しんで頂ければ幸いです。
コメントやアドバイスは大歓迎です。
- Re: ニンゲン消去ボタン ( No.8 )
- 日時: 2016/05/14 15:31
- 名前: 北風 (ID: cr2RWSVy)
私は無邪気な笑顔を浮かべたその子を見て、ほっと息を吐いた。
どうやら先程の独り言は聞かれていないらしい。
「どうしたの?私に何か用かな?」
私は身をかがめて女の子に問いかけた。
女の子は何も言わずにこにこしている。
5歳くらいだろうか。パーカーに短パンというラフな格好だが、明るい顔立ちである事も手伝って、全体的に元気で可愛い印象だ。
だが何も言わずに笑っているのが少々不気味だ。
「……何か用かな?」
私はもう一度問いかける。
「………」
やっぱり何も言わない。
私は少々腹が立ってきた。
「あのねぇ、君…!」
「はい、おねぇちゃん!」
私が声を荒らげようとすると、女の子は何かを突き出してきた。
「わっとと………なにこれ?」
それは小さなポーチだった。
「あけてみて、おねぇちゃん!」
女の子はにぱっと笑うと、私の手の中のポーチを更にぐいっと押し付けてきた。
「えー……と、これ、君のかな?だとしたらちょっと貰えないかな…」
控えめに断っておいた。
すると女の子は不満そうな顔になり、
「あっけってみてーーーあっけってみてっーー!」
と、手足をバタつかせた。
「わわわ、分かったよぉ……」
まさか虫とかじゃないよね……。
そんなことを思いながら、私は恐る恐る中を覗いてみた。
「………なに、これ?」
ポーチの中にはボタンが入っていた。
バスの降車ボタンを取り外したかのような形だ。
ボタンには大きく『消去』と書いてある。
取り出してみるとずっしりと重く、これが玩具の類では無いと分かる。
「…………?」
私はしばらくそのボタンに見入っていたが、結局何か分からなかった。
「ね、ねぇ、これ………」
顔を上げて女の子にこれが何か聞いてみようとしたが、そこにはもう彼女の姿は無かった。
「あ…………」
気づけば周りの人通りも少なくなり、夕暮れの住宅街に私はぽつんと一人立っていた。
———『消去』と書かれたボタンを手に。
- Re: ニンゲン消去ボタン ( No.9 )
- 日時: 2016/05/14 15:45
- 名前: 北風 (ID: cr2RWSVy)
※
【ニンゲン消去ボタン 取扱説明書】
・このボタンは使用者の望む人間を一人消去することが可能です。
・消去された人間は『最初から存在しなかった者』として周囲に忘れられます。
・消去するには、対象者の3m以内に立ち、対象者の名前を言いながらボタンを押してください。
・尚、このボタンはお一人様一度きりしかご使用になられません。
※
「………は?」
その日の夜、私は自室で思わず間抜けな声を出していた。
あの子から受け取ったポーチには、ボタンと一緒に取り扱い説明書も入っていた。
その説明書によると、どうやらこのボタンを使えば、人間の存在を消すことが出来るらしい。
………………いやいやいやいや。
私はその説明書を鼻で笑った。
中学生にもなってこんな馬鹿な話を信じるほど私は純粋じゃない。
どうせ、あの女の子にからかわれただけだろう。
そもそもこんなものが現代社会にあってみろ。
たちまち世界中が大混乱に陥るよ。
- Re: ニンゲン消去ボタン ( No.10 )
- 日時: 2016/09/20 23:29
- 名前: 北風 (ID: 6njVsspU)
「あーあ、アホらし、もう寝よう」
私はそう独り言を呟くと、ベッドのにごろんと横になった。
天井から吊り下げられた紐を引っ張り、部屋の電気を落とす。
そっと目を閉じ、私は眠りの世界へと誘われていった。
——さきちゃん!
なあに、まみちゃん?
——わたしたち、しんゆうだよね?
とうぜんでしょ!ずーっとずっとしんゆうだよ。
——よかった!ねえ、さきちゃん。
なあに?
——わたし、さきちゃんのこと、だいすき!
わたしも!
——さきちゃん。
なあに?
——さきちゃんは、わたしの、わたしだけのしんゆうなんだよね。
……どう、したの?まみちゃん。
——しんゆうなら、
まみ……ちゃん……おかお、こわい…よ…?
——しんゆうなら、しんゆうなら、
きゃっ!……は、はなしてぇ、まみちゃん!!
——しんゆうなら、しんゆうなら、しんゆうなら、
い…いたい……!やめ…て……。
———シンユウナラ、ズットソバニイテクレルヨネ?———
きゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!
「…!!…………はぁっ……はぁっ……はぁっ……ゆ、め…夢か…」
今日も最悪の目覚めだ。
……いや、いつもに輪をかけて、今日の夢は悪かった。
私は汗でビショビショになったパジャマを脱ぎ捨て、制服に着替える。
着替えながら、考える。
水戸川真美………。
毎晩見る夢には、必ずアイツが出てくる。
夢にまで現れて、どこまでも私に纏わりついてくる。
アイツが居る限り、私はどこに逃げても自由にはなれない。
家に居ても、学校に居ても、眠っていても、休みの日も。
いつだってアイツが着いてくる。
それなら………
それなら、私が逃げるよりアイツの方をどうにかした方が、早いのではないか。
部屋を出る直前、私は机の上に置きっ放しにしていたボタンを、するりとポケットに滑り込ませた。
- Re: ニンゲン消去ボタン ( No.11 )
- 日時: 2016/05/21 15:52
- 名前: 北風 (ID: cr2RWSVy)
本当にこのボタンを信じている訳ではない。
ただ、もしかしたら………ってだけだ。
ポケット越しにボタンをぎゅっと握り締めながら、私は通学路を歩いていた。
そろそろだ。
私と水戸川真美の家のちょうど間。
そろそろ水戸川真美が声をかけてくる頃だ。
いつもなら憂鬱な気分になる所だが、今日は少し楽しみでもあった。
「やっほ」
——来た。
いつも通りの声と共に肩を叩かれ、私はゆっくり振り向いた。
「おはよう、沙希ちゃん!」
「おはよう、真美ちゃん」
私はにっこり笑って挨拶をした。
まだだ。
まだ、早い。
私は昼休みになってもまだボタンを押せていなかった。
だってもし本物じゃなかったら恥ずかしいし。
ボタンを押しながらアイツの名前を言うのだ。
ハタから見たら異状な行動だろう。
なるべく人のいない所で、そしてアイツにも気付かれないようにやらなくちゃ。
- Re: ニンゲン消去ボタン ( No.12 )
- 日時: 2016/09/22 14:54
- 名前: 北風 (ID: cr2RWSVy)
放課後。
私と水戸川真美は二人で並んで帰っていた。
夕方の住宅街は人が少ない。
——そろそろ、かな………。
あとは水戸川真美の気を逸らすことが出来れば………。
私は何か気を惹ける物が無いか、辺りをきょろきょろと見回した。
あ。
3m程先、塀の上に黒い子猫が居る。
——ラッキー。
確か水戸川真美は動物が好きだ。
この機会を逃すわけには行かない。
「あ!見て見て、真美ちゃん!あそこ。猫が居るよ〜!」
わざとらしい手振りで、私は子猫を指差した。
「わぁっ!ホントだぁ〜!かぁわいい〜!」
——よし。
上手く釣れた。
私は子猫を可愛がる水戸川真美の背後に立つと、ポケットからボタンを取り出した。
まあ 別に信じてる訳じゃない けど
でも でも、 もしかしたら 本物
本物、 かもしれない
本物だったら人生が変わる 賭けてみるしかない
やるしか やるしかない
自由になりたい やってみなくちゃ
色々な事を一編に考えすぎて、頭が混乱する。
気分が高揚して、心臓がばくばくいってる。
呼吸が速くなる中、私はボタンを持つてにぐっと力を込め、言った。
「水戸川、真美」
ピッ