ダーク・ファンタジー小説

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異世界に転生したのに死んでいた!
日時: 2017/01/13 23:41
名前: アンデット ◆IYbi.dCFgs (ID: RwTi/h2m)

”人間なんて嫌いだ。神様も嫌いだ。生きるのなんてウンザリだ”
不幸な人生を送ったアラサーの俺は、最愛だったはずの妻に裏切られ、ついには交通事故で死んでしまった。しかし、ひょんなことから異世界へ転生することになり、今度こそ幸せな人生を満喫してみせる!と意気込んでいたのだが、いざ異世界転生してみると、俺はすでに『死んでいた』——!?

【あてんしょん】

〆小説家になろうに転載中です。

〆ギャグファンタジーな小説です
 剣とか魔法とか魔物とかアンデットとか勇者とか死霊術師とか色々ごった返しています。ダーク・ファンタジーを目指そうと思ってたのに筆者がコメディを挟まないと死んでしまう呪いにかかっているせいでコメディちっくな設定になってしまいました。どうしてこうなった/(^o^)\

〆オリジナルキャラクター募集について
 ある程度話が進んでなおかつ余裕があれば



目次======================

序 章『転生』>>001->>004
第1章『脱出』>>005->>007>>009>>011>>014>>015>>016>>017>>018>>020>>024>>025>>026

Re: 異世界に転生したのに死んでいた。【10/23更新】 ( No.13 )
日時: 2016/10/29 23:38
名前: アンデット ◆IYbi.dCFgs (ID: zt5wk7o6)

蒼衣さん、初めまして! 初のコメントありがとうございます♪
アンデットと申します。
名前すらまだ出してもらえていない不運な主人公ですが、これから少しずつこの世界で色々やらかしたりしていく予定ですw
コメントがとても励みになります、更新頑張りますね!
それでは、ありがとうございました!

青年の危機 ( No.14 )
日時: 2016/12/18 00:11
名前: アンデット ◆IYbi.dCFgs (ID: 9AY5rS/n)

 道を外れて進む馬車の乗り心地はあまり良いものではない。
 ウィリアムは馬車にしがみ付きながら、顔を真っ青にしていた。

 道を外れて数分、ウィリアムはすでに気分を悪くしてしまったようで、必死になって男に馬車を止めるよう訴えていた。しかし、爆走する馬車が止まることはない。男はどこか愉快そうに笑っていた。
「ハハハ! お客さん、”歩く馬車”しか知らないクチか? 冒険者なら走る馬車にも慣れときな!」
「ぼ、暴論だッ……」
 ウィリアムは目を回しつつも反論する。
 そんな彼に、男は余裕の表情を浮かべつつ「チッチッチ」、と舌を鳴らした。
「そうでも無いぞ? 道中盗賊どもに襲われる事なんて少なくはないからな!」
 走る馬車に慣れていないのは”危険な目”に遭った事が無い証拠だ、と男は言う。
 冒険者と危険は常に隣り合わせだ。お客さんには危険な目に遭う覚悟が足りないんじゃないか? と男は挑発的な視線を送りながら言い切った。すると、ウィリアムは「その挑発に乗った」と言わんばかりに笑みを浮かべる。
「言ってくれる……! だったらこの程度、耐えてみせるさ」
「ほう、言ったな? お客さん。後悔するなよ!」
 男はそう言い終わると同時に手綱を打つ。すると、馬車はより早く、そして大きく揺れながら墓の麓へ向けて突き進む。

 ウィリアムは振り落とされまいと必死に馬車にしがみ付くが、彼が読んでいた例の本は馬車の上で跳ねる。
 馬車の上から今にも落ちそうな本を見て、ウィリアムは慌ててそれに手を伸ばした。

 エドガー著者、『死の国』。
 旧都市・ユーベラが舞台の物語、著者であるエドガーの視線で描かれた史実だ。幼い頃からこの本を読み、冒険者に憧れて育ってきたウィリアムにとって、冒険者となった今でも大切なものであったのだが——その本に気を取られていたせいだろう、ウィリアムは突然向きを変えた馬車に振り落とされることとなる。


 ウィリアムが気づいた時には、自身の体は宙に放り出されていた。間もなく地面に叩き付けられる事になったが、ウィリアムは咄嗟に受け身を取り、地面の上を転がる形で着地した。
「何……!!」
 地面に手を付き、ウィリアムは顔を上げる。
 いつの間にか麓の近くまで馬車が近づいており、目と鼻の先に墓地へ続く階段があった。そして、ウィリアムは間もなく地面に車輪の跡を見つける。大きく方向を変えたその車輪の跡を追うと、数十メートル先で止まる馬車が目に飛び込んできた。手綱を握っていた男も慌てたように頭を上げ、間もなく”突然馬車の前に飛び出してきたそれ”を睨みつけていた。ウィリアムもその視線を追う。

 そこにいたのは、人間……否、”人間だったもの”、だった。
 煤けた肌。体は干からび、骨ばった体を引きずる徘徊者。本来眼球があるはずの部分には闇、そのなかで浮かび上がる不気味な光と視線がぶつかった。
(こ、これは——)
 それが纏う数百年以上も前の古びた鎧、そして手にしている錆びた剣。
 ウィリアムはその正体を悟り、目を大きく開いた。

「”ゾンビ”、だって!? 何でこんな所に……!?」

 ウィリアムは叫ぶ。
 そしてその頬に冷や汗が浮かぶ。

 ゾンビ、アンデットに部類される”指定魔族(モンスター)”だ。
 ウィリアムにとって、指定魔族(モンスター)と遭遇するのはこれが初めてである。
 それも当然である、魔族との戦争は300年以上前に終結しており、おおよそ魔族の九割がこの地上から姿を消しているのだ。『一部』を除き、一生のうちに魔族とまみえる事の方が珍しいのだ。
「おい、お客さん!! 何やってる、早く馬車に乗れ!」
 突如現れたゾンビを見て固まっていたウィリアムに声がかかる。
 ウィリアムはその声で我に返り、腰に差していた剣に手を伸ばした。

「俺の事はいい! それよりもアフタニアに報告へ!」
「な……何言ってるんだ! 指定魔族(モンスター)だぞ!? 盗賊よりもタチの悪い連中に勝てるとでも思ってんのか!」
「アンタこそ周りが見えてないのか! ゾンビはコイツ一体だけじゃない、囲まれたら二人とも死ぬぞ!」 

 怒気を含んだウィリアムの言葉に男は言葉を失った。そして慌てて周囲を見渡すと、ウィリアムの言う通りゾンビの群れが辺りを取り囲もうとしていた。男は迷ったようにウィリアムの方を見る。

「さっさと行ってくれ! 一刻も早くアフタニアの『騎士団』に知らせないと、コイツ等が野放しになる!」
「けど、それだとお客さんが——」
「早くッ! 囲まれるぞ!」

 自分の言葉を遮るように叫ぶウィリアムに、男は目を丸くした。
 男が”危険な目に遭う覚悟が足りない”と言い放った青年はそこにはいない。ウィリアムの”目”には反論する男を黙らせる何かがあった。男は言葉を飲み込み、頷く。
「分かった。どうか死ぬなよ!」
 そう言い残すと、男はすぐさま馬車を出発させた。馬車を取り囲もうとしていたゾンビを撥ね退け、一直線へアフタニアへと向かう。それを見送ったウィリアムはふう、とため息をつき、冷や汗を浮かべながらも笑った。
「まさか、こんなことになるなんて……実に”冒険(それ)”っぽいな!」
 そう言い終わると同時に、ウィリアムは走り出す。馬車から一緒に放りだされた本を拾い上げると、山の中腹にある墓地へと続く階段を勢いのまま上り始める。
(とりあえず、墓地の”門”を閉めないと! これ以上墓地の外にゾンビが出てくると厄介だ)
 しかし、彼の行く手をゾンビが阻む。ウィリアムはそれを睨みつけると、ブツブツと詠唱を始める。そして、剣を握る右手に光があるまりはじめ、そして——

「邪魔だから退いてくれ! ”火炎玉(ファイアボール)”!!」

 彼はゾンビに向かって、まるで手を押し出すように勢いよく突き出す。すると、手に集まった光はやがて炎となり、ゾンビに襲い掛かる!
「ガアアッ!」
 命中した炎は瞬く間にゾンビの体に燃え広がり、ゾンビの動きを止めた。ウィリアムはそのままゾンビに突っ込み、ゾンビを払いのけるように剣を振るう。そして払いのけられるままにゾンビは倒れ、そのまま動かなくなった。
「簡単な攻撃魔法とは言え、やっぱり炎はゾンビに効くのか……!」
 それを見て、ウィリアムはそう独り言を呟く。
 そして、彼は顔を上げると再び墓地を目指して階段を駆け上がり始めたのだった。


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くっそ久しぶりの更新!
リアルのゴタゴタが片付いたので更新頻度は上がる…はず…!!

青年・ウィリアムの運命やいかに!

青年は進む ( No.15 )
日時: 2016/12/18 03:12
名前: アンデット ◆IYbi.dCFgs (ID: 9AY5rS/n)

 巨大な門、崩れた城塞が取り囲む墓地への入り口。ユーベルの戦争で戦死した者達が埋葬されるであろうその墓地は、山に埋まる形で造られている。普段であれば静寂が支配するであそうその場所は何やら不気味な雰囲気を漂わせていた。僅かに開いているその門からは光る粒子が漏れ出している。
「これは……一体何があったんだ?」
 その光景を目の当たりにして、思わずそう口にする一人の青年。
 山の中腹まで階段を登り切ったウィリアムは固唾を飲んでいた。

 この墓地で何かがあったのは一目瞭然だった。
 光の粒子が漂い、そしてゾンビが徘徊している。ただ事ではないのは確かであった。
 自然に死体がゾンビとして蘇ったのか、はたまた誰かの手によって蘇えったのか。ゾンビが蘇った事とこの謎の粒子には何か関係があるのだろうか。
(分からない。何者かの手によって蘇っていたとしても、なぜこんな事を? 何の得があるんだ?)
 見当もつかない、と首を捻るウィリアム。しかし、間もなく彼は首を横に振った。
「まぁ、今はそれについて考えている場合じゃない、か。ひとまずこの門を閉じないと」
 ウィリアムはそう呟くと、改めて門に向き直った。
 威圧すら感じさせる立派な門、ここを開けたのはおそらくゾンビ達だろう。本来かんぬきが置かれているはずのそこにかんぬきは無く、砕けた木の破片が足元に散らばっていた。大勢のゾンビが数に頼って力任せに押したのだろう。

 かんぬきの代わりになりそうなものが周囲に置いてある様子はなかったが、彼は自分の剣の鞘を腰から外すと、かんぬきを置く場所に近づけた。
(うん、これが代わりになりそうだ……が)
 しかし、あと数十センチというところでたった今鞘を置こうとしていたその手を止めた。
 ウィリアムは自分の周囲を取り囲む気配に気づいたのだ。

 ウィリアムはその手を引っ込め、即座に振り返って剣を構える。だが、ウィリアムは自分を囲む気配——ゾンビの数を見て苦笑を浮かべた。
「うげ、まだこんなに残ってたのか」
 彼は困った様に口端を釣り上げた。ゾンビの数は自分の予想をはるかに超えており、軽く十体を超えている。

 生憎、ウィリアムは剣も魔法も身を守る程度のものしか学んでいなかった。
 それゆえに、彼ができる事はたった一つ。『逃げる事』だ。しかし、ゾンビ達はジワジワと間合いをつめてきている。ゾンビの間を抜けて逃げるには遅かった。
 なら、逃げ道は——
(墓地の中しかない!)
 この門の先にどんな危険が待ち受けているか想像もつかない。が、この門の先に逃げ込む以外に助かる方法は無い。流石に墓地の中に入るのは、と、ウィリアムは躊躇するが、ゾンビ達がウィリアムに考える猶予を与えやしなかった。
「ゴアアアアッ!」
 今までジワジワと間合いをつめてきていたゾンビの内の一体が、突然走り出したのだ。それに続くように周囲のゾンビ達も走り始める。
(勘弁してくれよ……!)
 ウィリアムに悩んでいる時間は無かった。ウィリアムは慌てて門を開くと、そこに自分の体を滑り込ませた。次の瞬間ゾンビ達が門に体当たりし、門はそのまま閉じられた。この門は外側にしか開かないようで、ゾンビ達が門の中へ入ってくることはなかったが、今もなお門に武器を叩き付けているのか、その音が門の内側にも響いていた。

「これは……参ったなぁ」

 ウィリアムはそう呟きながら後ずさりをする。
 ゾンビ達に門を引いて開けるほどの知能は無いようで——外開きの門なので外に出る時は押せばいいだけで頭を使う必要はなかったようだが——今のところ中に入ってくる様子はない。しかし、何かの間違いで門が開いてしまったら、その時は間違いなく自分は殺されるだろう。
(あぁ、なるべく奥には進みたくはないけど……)
 行くしかない。
 
 ウィリアムは意を決した様子で唾を飲み込むと、間もなく墓地の奥へ逃げるように進んでいった。

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何か眠れなかったのでそのまま続きを更新。
小説書くのってやっぱり楽しい!

青年は思考する ( No.16 )
日時: 2016/12/21 13:18
名前: アンデット ◆IYbi.dCFgs (ID: lnXzhrC1)

 300年前に建てられたわりには、中は思った以上に小綺麗である。
 ウィリアムが墓地の中に入って一番に思った事はそれだった。
 自分の想像ではこの手の場所と言えば、臭いが籠り、壁も崩れ——辺りには砂埃が積もっているような、薄暗くて寂れたものを想像していた。が、実際にはそこまでひどいものでもない。確かに崩れた天井や壁や床に風化の跡は所々見られるが、おそらくほぼ当時の墓地のままだ。
 薄暗いのは間違いないため時々壁に設置されている松明に火を付ける必要はあるが、ちょっとした探検のようででウィリアムの心を躍らせる。

 最も、常に周りから聞こえてくるゾンビのうめき声が全てをぶち壊してはいるのだが。

(結構奥まで進んできたなぁ)
 ウィリアムが墓地に侵入し、軽く一時間は経過しただろうか。数十体のゾンビと張り合わせしたが、理性の無い動く人形を斬り伏せるのは比較的容易である。ウィリアムはたった今斬り伏せたゾンビが完全に動かなくなった事を確認すると、剣を鞘に戻した。

(しかし、困ったな。奥に進めば進むほど光の粒子が濃くなってる)

 奥に進めば進むほど、心なしかゾンビが強くなっている気がする。外ではほぼ一撃で倒せたにも拘わらず、この辺りにいるゾンビは二、三回斬りつけた程度では倒れなくなった。
 また、変化はそれだけではない。ゾンビ以外にも厄介な指定魔族(モンスター)が姿を見せ始めたのだ——”ファントム”である。

 ファントムは死んだ人や動物、魔物などの霊魂に魔力が宿りアンデット化した半実体の指定魔族(モンスター)である。彼らに剣などの物理的な攻撃は通用しないため、現状魔法でしか彼らを追い払えないのだ。
(ほんと厄介この上ないね。体力も魔力も順調に削られていってるよ)
 ウィリアムは参ったと言わんばかりにため息をつくと、再び足を進ませる。

 この手のアンデットとして蘇るケースはあるそうだが、それが自然発生することは極めて稀である。しかし、強い魔力を持った者や、強い魔力を浴びた死体や霊魂がアンデット化するケースはあるとかないとか。また、彼らにとって魔力とは命そのものであり、魔力の量によって強さも変化するのだ。

 また、ここまでやってきた中で分かった事がある。
 辺りに漂うこの光の粒子、魔法を使うと消えるらしい。
 最初は魔法でかき消されたのかと思ったが、どうやら魔法に吸収されるようだ。心なしか、奥に進むにつれ魔法による魔力の消費が少なくなった気がする。

 奥になるにつれ強くなる光の粒子、それに比例して強くなるゾンビ。そして魔法に吸収され、魔力の消費が少なくなる……つまり、この光の粒子の正体は魔力。

(一番奥には何があるんだ?)

 ウィリアムの頬に冷や汗が伝う。
 と、彼がそう考えていたちょうどその時、剣を叩き付ける様な金属音が耳に入った。
 ウィリアムは歩みを止め、生唾を呑む。彼が顔を上げると、目の前には故意的に開かれた扉。視線の先には細い通路があり、奥には鉄格子が見える。そこから煙のように漏れ出る光の粒子……そこにたむろするゾンビの群れ——が、鉄格子に剣を叩き付ける手を止め、ちょうとこちらに振り返るところだった。
 明らかに今までの部屋の雰囲気とは違っている。

(ここが一番奥っぽいね)
 この数を剣一本で相手するのは流石に辛いものだと判断したウィリアムは、剣を鞘に納めたまま詠唱を始める。その声に反応したのかゾンビ達がこちらに体を向け始めたが、全てが遅い!
「火炎球(ファイアボール)!!」
 ウィリアムは叫ぶと、勢いよく突き出した両手から炎が飛び出す! が、先ほどまで放っていたそれとはまるで威力が違った。否、火炎球が辺りの粒子を吸収し、瞬く間に巨大化したのだ。それはまるでドラゴンの息吹(ブレス)のように煌々と輝き、ゾンビの群れに着弾。目がくらむほどの閃光が起こり——


(えっ?)
 

 そして爆発した。


来訪した青年 ( No.17 )
日時: 2016/12/22 00:11
名前: アンデット ◆IYbi.dCFgs (ID: lnXzhrC1)

*  *  * 

 あ……ありのまま今起こった事を話そう。
 ちょっとした手違いで復活させたゾンビ共に部屋の外を占拠されたと思っていたらいきなり外が爆発した。何を言っているのか分からないと思うが、俺にも何が起こったのか分からなかった。

 どうも、アラサーでアンデットの俺だ。
 オーブを破裂させた後、鉄格子の向こうにゾンビ共が群がっていたわけだが、打つ手の無い俺は相変わらず棺桶の後ろに避難してガタガタ震えていたんだ。でも次第にその状況に慣れてきたもんだから、暇つぶしに読んでいなかった本を読みながらゴロゴロしてたんだけど……ね。何かよくわからないうちに部屋の外で爆発が起こってた。
 しかもその爆風で吹っ飛ばされるわ、頭をぶつけるわ、生きてる人間なら絶対死んでそうなエグい角度に首とか腕とか足が曲がってるわ……本も焦げちゃってるのあるし、もうやってられるかクソッタレ!
 俺は首や手足を元の角度に戻しながら、脳内で怒りを露わにした。

 はぁ、しかしどうせまたゾンビが何か悪さをしてるんだろうな。
 魔法が使えるこの世界、ゾンビが剣しか使えないとは限らない。中には魔法を使うゾンビがいるかもしれない、例えば俺とか。まぁ俺の場合、初級の氷魔法で雪の結晶くらいしか出ないんだけどね!
(俺の魔力で蘇ったくせに魔法使えますアピールか!? 全然悔しくねえし! バーカバーカ!)
 俺は鉄格子の外に向けて中指を立ててブーイングをする。一体どんな奴(ゾンビ)がやらかしてくれたのか一目見ようと思い、俺は棺桶の影から鉄格子の向こうを観察することにした。が、想像以上に鉄格子の向こうは悲惨な状況である。

(うわっ、ひっでぇ……死屍累々ってやつか)

 祭壇の上からなので鉄格子の向こう側も少ししか見えていないのだが、焦げたゾンビ達の死体が積み重なっていた。微動だにしないが、もしかして死んでいるのだろうか。というかあいつら死ぬんだな。
 もしも鉄格子の向こうに居たら俺も黒焦げになっていたのだろうな、そう思うとぞっとする。

 しかし、自分で言っといてなんだが、ゾンビの死体ってなんだよ。
 そもそもゾンビって死んでるというか死体だよな。何そのギャグ、ゾンビが死ぬってすげーシュール……ん? 待てよ、ゾンビが死ぬ?

(え、てことは、だ。ゾンビである俺も当然……死ぬ可能性がある!?)

 ゾンビ俺、衝撃を受ける。

 痛みも感じない、空腹もへっちゃらなこの体。なのに死ぬ、とは。
(アンデットだけど無敵じゃん!って妥協したのにこれじゃあ以前と同じどころかハードモードじゃねーか死神ィ……!!)
 まさかここにきて命の危険を考えねばならないとは。
 ゾンビが死ぬ(笑)死屍累々(笑)とか言ってる場合じゃないか。
 そう一人で考えていた、その時。



「ケホッ、爆発するなんて聞いてないよ……痛てて」



 聞きなれない——というか、この世界に来て初めて聞く”声”。
(……、え?) 
 鉄格子の向こうの通路から響いてきたその声に、まるで心臓を掴まれたような感覚に陥る。カツカツと足音を響かせながら、一つの人影が鉄格子の向こう側にやってきた。

 そこにいたのは、この世界に来て初めて見る生きた人間だった。
 淡い黄金色の短い髪、翡翠色の目をした青年——背は特別高いというほどではないが、恰幅はそこそこ。先ほどの爆風で怪我をしたのか服がややボロボロで、煙たそうに咳込んでいた。

 俺はその生きた人間の姿を見て、無い目を見開いた。
(生きた人間が……人がいる!!)
 今すぐにでも飛び出したい、そんな衝動に駆られたが、俺は慌てて棺桶の影に姿を隠した。
 そう、俺はアンデット! そこらに居たゾンビと違(たが)わぬホラーフェイスの乾いたオッサン! 鉄格子が開いていない今、不用意に近づくのは危険だ。ようやく訪れた鉄格子を開けてもらえるかもしれないこのチャンスを——棒に振るわけにはいかない!

「ん? 何このレバー? これで開くのかな」

 俺が一人で考え事をしていると、ガシャンとレバーを下げる様な音。
 かと思えば、鉄格子が開いた。
(ええぇぇぇぇーッ!?)
 ガーン! と脳内に衝撃が走る!
 そんなすんなり開いちゃっていいの!? 俺随分長い間、悪戦苦闘したのに!
 一人焦る間にも、青年は躊躇う様子もなく鉄格子があったそこを抜けて部屋に踏み入る。
「うわぁー……何か祭壇みたいなのが出てきたなぁ」
 やっぱりここが一番奥なのか、と、どこが楽し気な青年の声。祭壇への階段に足をかけ、徐々に近づいてくる足音。


(ちょっと待てぇ!! こちとら心の準備ができてないんだよ!)


 突然の来訪者に(生身であれば心拍数MAXの)俺は、押しつぶされそうなほどの緊張に襲われ目を回しかけていたのだった。


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