ダーク・ファンタジー小説

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異世界に転生したのに死んでいた!
日時: 2017/01/13 23:41
名前: アンデット ◆IYbi.dCFgs (ID: RwTi/h2m)

”人間なんて嫌いだ。神様も嫌いだ。生きるのなんてウンザリだ”
不幸な人生を送ったアラサーの俺は、最愛だったはずの妻に裏切られ、ついには交通事故で死んでしまった。しかし、ひょんなことから異世界へ転生することになり、今度こそ幸せな人生を満喫してみせる!と意気込んでいたのだが、いざ異世界転生してみると、俺はすでに『死んでいた』——!?

【あてんしょん】

〆小説家になろうに転載中です。

〆ギャグファンタジーな小説です
 剣とか魔法とか魔物とかアンデットとか勇者とか死霊術師とか色々ごった返しています。ダーク・ファンタジーを目指そうと思ってたのに筆者がコメディを挟まないと死んでしまう呪いにかかっているせいでコメディちっくな設定になってしまいました。どうしてこうなった/(^o^)\

〆オリジナルキャラクター募集について
 ある程度話が進んでなおかつ余裕があれば



目次======================

序 章『転生』>>001->>004
第1章『脱出』>>005->>007>>009>>011>>014>>015>>016>>017>>018>>020>>024>>025>>026

死神の好意 ( No.3 )
日時: 2016/10/23 23:55
名前: アンデット ◆IYbi.dCFgs (ID: zt5wk7o6)

 転生?

 小説の中でしか聞いたことが無いような言葉を聞いて、再び首を捻る。
 そんな俺に、死神はあくまで丁寧に説明を加えた。
「はい。新しい世界で、新しい生き物として生まれ変わるのです。もちろんある程度は融通しましょう、じゃないと”貴方”が報われない。貴方が望む人物として生を与えることを約束します」
(できるのか? 死神なのに?)
「死神ですが、”神”でもあります。死を司ると言われておりますし、私もそう名乗ってはおりますが、その本質は”魂を導く”事。本来ならば一度冥府に送り届け、魂に刻まれた記憶を浄化する必要がありますが、それでは『不幸な思いをした貴方』が報われないのです。記憶を浄化した貴方は、すでに貴方ではない誰か、なのですから」
(……)
 その言葉を聞いて、しばし考えを整理する。

 通常であれば、俺はその冥府へと送られて、今までの人生の記憶を消されて新しい他人として生を受ける、という事だろう。つまり、今度こそ俺は死ぬ。生まれ変わればどんな環境で生まれてくるかは分からない。また不幸な人生を歩む事になるかもしれない。
 しかし、死神の言葉を呑めば、俺は俺の記憶を持ったまま新しい生を受ける。俺の望む人生をスタートすることができる、という事か。
「貴方の望んでいるものは解っていますよ。貴方が望めば、貴方のまま、貴方が望んだ通りの新しい体へと魂を移します」
 その考えに付け足すように、死神は言う。
 つまり、俺の望んだ人生を……幸せを手に入れることができるのか?
(そんな虫のいい話があるのか?)
 しかし、そう思う反面、ようやく不幸な人生が報われるのか、とも考える。

 なら——だったら願う事は一つだ!
 人生イージーモードで、今度こそ幸せな人生を満喫したい!! 

(分かった、俺をこのまま転生させてくれ)
「はい、分かりました」
 死神は嬉しそうに頷く。
 しかし、ここまで来て俺の中に一つの疑問が生まれた。

(あのさ。なんでここまでしてくれるんだ?)

 俺の人生を見て、不幸に思ったから?
 不幸レベルじゃあかなり高い方だとは思うが、俺よりも不幸な人間もいるだろう。そんな人間を見つけてはこうして話をして、転生させているのか?それはそれでダメな気がするんだが……。

 すると、死神はどこか黒い笑みを浮かべた。
「あぁ、気にしないでください。上司に使えない奴だとか仕事ができないだとか言われて、ソイツに当てつけをしようだとか、全くそんなことはないですから」
「あぁそう……」
 遠くを見てフフフ、と笑っている声が些か不気味である。
 というか俺は上司への当てつけに使われているだけなのか。何かすごい複雑な気分。
 そんな俺の反応を見てか、死神は失言だったと咳ばらいをする。
「ま、まぁいうなれば私の気まぐれです。全く、こんなチャンス滅多にないんだから、ありがたく思ってくださいよ!」
(お……おう! ありがとう!)
「よろしい。それでは、新しい体に魂を送ります。上に見つかるといろいろ面倒なので、さっさと終わらせちゃいましょ」

 上、か。 さっきも上司とか言ってたけど、やっぱり神様にも序列とかあるんだな。
 やはりというか、苦労してそうな死神だ。同情するぞ……態々迷惑をかけてすまないな。
 俺が改まって礼を述べると、死神は満足そうにウンウンと頷いた。
 そして背負っていた鎌を手に取ると、天に掲げてグルグルと回しだす。すると、途端に自分の体に感覚が蘇ってきた。見えない力でその場から引き離され、気持ちが悪くなるほどの浮遊感を覚える。
「じゃあ行きますよー」
(ちょっ、ちょっと待ってくれ酔う酔う酔う!!)
「大丈夫です。じきに終わりますから。では、今度こそ良い人生を〜」
 そう死神が呟いた瞬間、死神があっという間に遠ざかった。
 抗いようのない力に引っ張られ、俺はどこまでも深く、深くに落ちてゆく。
 時々、巨大でビー玉のように綺麗な球体が俺の横を通過する。これが死神の言う世界、というやつなのか。こんなにも多くの世界があるのか。奴がなぜここを『宇宙』と例えたのか分かる気がする。

 そんなことを考えていると、俺は一つの世界に激突した。痛みこそ感じないが、ただならぬ衝撃に心臓が飛び出そうになる。俺はそのまま世界に吸い込まれ、そしてまた落ちる。

 何かにぶつかって、落ちて、それを幾度となく繰り返し、どれくらいが経っただろうか。
 気がつけば辺りは静寂に包まれていた。

>>004

どう見ても死んでいた ( No.4 )
日時: 2016/08/18 11:50
名前: アンデット ◆IYbi.dCFgs (ID: dK6sJ/q3)

(うーん。何だ? 成功したのか?)
 真っ暗な空間。比喩ではなく、本当に何も聞こえない。そんな場所で意識を覚醒させた俺は、あまりの静けさにどうも嫌な予感を覚えた。

 あの死神は俺の望んだ形で転生させてくれる、と言っていたが——そういえば確認らしき確認は取っていなかったと今更その事に気がつく。俺は人生イージーモードで過ごせるような超高スペックの人間で生まれたかったのだが、少なくとも自分が赤ん坊ではないことは体の感覚を通して察することができた。

 俺は今、胸の前で手をクロスし、寝かされているらしい。しかし、目を開いているはずなのに、なぜこうも真っ暗なんだ。とりあえず、状況を確認しないと。そう思い俺はおもむろに体を起こした。

 ゴンッ

 しかし、起き上がろうとしたその時、頭を固い何かにぶつけた。
(……、えっ?)
 途端に血の気が引いた。
 な、何これどうなってるんだ?
 俺は目の前の何かに触れてみる。
(か、固い)
 まるで石。石の壁だ。俺はそのまま正面、横、へと手を移動させ、同じように足もその石の壁沿いに動かしてみる。そして、ひと通り確認して一つの結論。俺、石の箱の中にいる。あれだ。まるで棺桶だ。石の棺桶はゲームの中で見た事がある。
 なるほど、だから真っ暗なのね。いやはや納得……じゃねぇよ!

(バカヤロー!! 棺桶だと!? 何でだ、どうしてそうなった!!)

 色々言いたいことはある。
 色々ツッコミどころはある。
 しかし、まず一刻も早く俺はこの箱から抜けださなければならない。
 このままだと酸欠で死んでしまう!
 とりあえず俺は目の前の壁を精一杯力押した。
 埋められた棺桶ならどうしようもない。そうじゃないことを願って力を込める。
(うぐぐ、重い……!)
 だめだ、腕だけじゃ力が足りない。膝を立てるようにして、足でも石の壁を押す。すると、少しだけその石が持ち上がり、すき間から僅かに光が漏れてきた。
(よし! いける!)
 俺はその石の壁——否、石の蓋を横へとずらす様に力を加え、数十秒の格闘の後ようやく蓋を開けることに成功した。蓋を石の箱の横に落とし、俺は何とか石の箱から這い出、俺は事なきを得た。

(し、死ぬかと思った!!)
 転生早々死にかけるなんて思いもしなかった。あの死神一体何を考えてるんだ。約束が違うじゃないか。
 俺はゼェゼェと息を切らしながら死神への文句を……いや、待てよ。そう言えば全く疲れてない。体に触感はある。しかし、あれだけ重いものを動かしたのにも関わらず、一切疲れていない。それどころか、息を切らしてすらいない。
 あれ、息? 
 いや待て、なんかおかしい。してない。俺、息してなくないか? 俺は慌てて大きく息を吸った。しかし、埃っぽい空気を吸って逆にむせた。ゲホゲホと情けなくせき込み、肩を落とす。
(何やってんだ……)
 脳裏にチーンとお仏壇で鳴らすアレの音が再生される。あぁもう、涙が出ちゃう。俺は顔を覆おうと両手を顔に近づける。

 と、ふとその時に気がついた。


 あれ、なんか……手が、おかしい。
 俺が見つめる先にあるのは、紛れもない自分の手。なのに、その手は恐ろしく『乾いて』いた。その手に瑞々しさはない。そのほとんどに肉がなく、骨の形がはっきりと浮き出ている。その乾いた木のような手には、カビか苔か分からないものがうっすらとこびりついている。
 俺は震えながら、その手で自分の頬に触れた。固くて、弾力がない。痩せこける、というレベルではないほど肉がない。それから喉、胸、腕と体のあちこちを触り回し、理解する。
(あ、え……)
 そう、頭は理解してしまった。俺の今の姿を。そして、この状況を。
 しかし、認めてたまるか。納得してたまるか。
 だって、そんなのは転生と呼べないだろう。少なくとも間違っていると確信を持って言える!

(ぎ、ぎゃああああああああ!! アンデットだああああああ————!!)

 あぁ、そうさ! 間違いない!! 俺は今”ゾンビ”になっている!!
 呼吸が不必要な体! 疲れない体!! 確かにそれだけ聞けば便利な体だ。ある意味無敵なような気がしてきた。しかし転生したら『乾いたオッサン』だなんて誰が得するって言うんだ!
 畜生、理解した途端体中がむず痒い!
 死神の野郎、何が転”生”だ? これはむしろ死んでるぞ。

 「ア"ア"ァ"ァ"ァ"」と、不気味な声を上げながら、俺は自分が入っていた棺桶に頭を打ち付ける。傍から見ればさぞ狂気じみているだろう。しかし、あえてそうすることで俺は精神を保っていた。ガンガンガンと鈍い音をさせ、数分。自分の体でストレスを発散したところで、冷静を取り戻した俺はピタッと動きを止めた。

 あ、やばい。気づいてしまった。
 もしかして、あくまで死神は俺の願いを叶えてくれただけで、原因は俺にあるのではないかと。

 そう、思いだしてみてくれ。
 俺は死んだ時、走馬燈を見てどう考えた?

”人間なんて嫌いだ。神様も嫌いだ。生きるのなんてウンザリだ”

 そして考えてみてほしい、この体。
 (アンデットという見方をすれば)人間ではないし、生きてもいない。
(…………)
 あぁ、なるほど。そうか。俺のせいなのか。
 生きるのなんてウンザリ、だからすでに死んでる体になったわけね。確かにアンデットとしては生きてるし、ある意味転生と呼べるかもしれない。
(でも、こんなのって、あんまりだろ……)
 もはや(物理的に)乾ききって涙など出なかったが、俺は静かに心で泣いた。



 不幸なアラサー男子、俺。
 今日、こうしてアンデットとして生まれ変わったのでした。




序章——end.

======================

ようやく序章終了です。
アンデットとして生まれ変わった主人公、生まれ変わったはずが死んでいた!
果たしてこれからどうなるのか!?

壮大な出落ち感のする小説ですが、よろしくお願いします\( 'ω')/ww

転生から二日後 ( No.5 )
日時: 2016/08/12 01:15
名前: アンデット ◆IYbi.dCFgs (ID: QJ6Z1NnV)

第1章【脱出】

 崩れかかった古びた石造りの遺跡。300年前に建てられたその場所には、多くの死者が眠っている——この世界の『墓地』である。そんな遺跡の最深部、ひときわ大きな扉の向こうは、その墓地の中でも最も開けた空間になっていた。その部屋の入り口にある鉄のゲートを抜けたさらに奥、階段を上がった先にある祭壇に、他のものとはまるで扱いが違う一つの石造りの棺桶があった。その棺桶に腰かけ頭を抱えているのが、何を隠そうこの俺である。

 ごきげんよう、交通事故で異世界に転生したアラサー男子だ。
 俺は今、転生したのに死体スタートなどという、まるで意味が分からない状況に置かれている。
 おまけにここがどんな世界なのかも知らない。
 だが、少なくともアンデットが存在するような今までの常識が通用しない世界であるという事は解る。何を隠そう、俺自身がその”アンデット”だからだ。ふざけやがって。


 さて、転生から2日経過したにも拘わらず、俺は未だにリスポーン地点(かんおけのへや)に留まっている。
 それはなぜかって? 答えは単純だ、出られないのだ。

 この部屋は相当広い作りになっているが、出入り口は一か所しか存在しない。
 そして、その出入り口は何の嫌がらせか鉄のゲートで塞がれていた。
 中からは逃げ出せないような作りになっており、鉄のゲートの向こう側——5メートル進んだ先にあからさまなレバーがあった。それがおそらくこの鉄のゲートを開くものなのだろうが、間から手を伸ばしでも届くはずもない。
(見える距離にレバーがあるのに届かない、か)
 うーむ、何とも歯がゆい状況だろうか。
 腕の一つや二つ伸びればあのレバーを引く事ができるだろうが、いくら引っ張ったり念じてみても、流石に腕を伸ばす事は叶わない。

 ここまで来たら、自分でどうこうするのは諦めるしかなかった。
 ならば道具だ。
 そう思い、俺はゲームの慣習に倣って色々と物色……もとい、この部屋の探索をした。
 いつの間にか脱出ゲームが始まっているような気もしたが、それは気にしない方向でいこう。


 まず目についたのは、棺桶の周りに置かれた書物。軽く20冊程度、と言ったところか。積まれているものもあれば、一冊ずつ無造作に置いてあるものまで様々。ただ、ここにある本の表紙はすべて黒く、不気味な模様が描かれていた。表紙をめくってみると、見たことも無い文字がビッシリと書き連ねられていた。
 その文字量の多さに俺はとりあえず本をそっと閉じた。
 まずいな、そう言えばこの世界の読み書きもわからないし言葉も知らない。
 しかし、死ぬ事もないし、現状の目標はこの部屋を出る事……時間制限も無いし、時間だけいくらでもある。後で読んでみることにしよう。そんなわけで本は後回し。

 後は、紙や木炭(文字を書くためだと思われる)、エンバーミング——いわゆるミイラを作るため——の道具と思われるハサミやナイフ、巨大な針と、糸。あとは、ミイラの体に巻く麻布とか、短剣とか、溶けたロウソクとか。残念ながら使えそうなものはほとんど無かった。

 あ、そう言えば鏡もあった。
 ここで初めて自分の顔を確認したが、まぁすごかった。
(うわぁ……)
 流石はアンデット、鏡を覗き込んでみると、映画に出てくるゾンビのようなホラーフェイスがそこにあった。眼球は無く、その奥で青白い光が不気味に光っていた。鼻や唇と呼べるものも無く、歯がむき出しの状態だ。無駄に歯並びはいい。この顔を見て若干心が折れかけたことは言うまでもない。

「ア"ー」
 ちなみに、声は出るが言葉にならない。たぶん喉も何かしらダメなのだろう。
 うーん、これは不便だ、バッタリ人に会っても弁明もできずに終わりそうな気がする。
 服装はと言えば、黒の煤けたローブ姿で、首にはえらく豪華な首飾りがかけられていた。透き通った深い青色の宝石が埋め込まれている。売れば相当な金額になりそうではある。外に出るのが楽しみだが、果たしてこの見た目でどうやって売却したものか……。

 まぁいい、気を取り直して次! と、言いたいところだったが。


(何も無さすぎだろこの部屋……)


 半日かけてみっちりこの部屋を探索しつくしたが、先ほど述べたようなものしか出てこなかった。
 隠し扉のようなものもなければ、ゲームでありがちな宝箱ですとか、そんなものも一切無い。

 打つ手なし。
 俺は膝と両手を地面につけて猛烈に落ち込んだ。
 自力でここから脱出することはおそらく不可能だ、その現実を突き付けられ俺はショックを受けた。
 こうなれば、外部から扉が開かれることに期待するしかない。
 そんな訳で俺はふて寝をしたのであった。

 しかし、そこまで今の状況を絶望視したわけではない。
 半日探索して分かったのだが、この空間はある程度人が出入りしているようだった。
 本が積まれてあった周辺や階段、出入り口からその先の通路にかけて、うっすらと埃の足跡が残されていたのだ。おまけに、積まれていた本の量。1、2冊じゃない、という事は何度もこの部屋から外に出入りしたと推察できる。
 しかし……本の近くに円状にロウソクが並べられていたが、誰かが何らかの実験でもしていたのだろうか? 本の表紙を見るに、碌な事じゃなさそうだ。まぁ、どんな奴でもいいさ。あの鉄のゲートを開いてくれるのなら。
 その人物がまたここを訪れることを願って、俺はその時まで眠ることにしたのだった——


 が、一つ問題がある。


 俺が眠らずに、今こうして頭を抱えているのには理由がある。
 もちろん、眠れないから起きている、という事はお察しいただけるだろう。
 ではなぜ眠れないのか?
(滅茶苦茶うるせぇ……)
 それは、この部屋にいる『本来見えてはいけないもの』が騒いでいるせいである。
 俺の元居た世界でいうところの”幽霊”、というやつだ。
 アンデットになったせいか、それともこの世界の住民は目視できるのか、とにかく火の玉というか魂というか、ボンヤリとした光の球が30は居ようかという数漂い、ザワザワ呟いたり叫んだりしているわけだ。うるさくてかなわん。

「ガアアアアァッ(うるせ)ーー!!」

 俺が怒鳴ると蜘蛛の子を散らすように逃げていくが、数十分後には元に戻る。かれこれ怒鳴り散らして13回目だ、いい加減怒鳴るのも疲れてきた。

 ここから出ることもできず、眠ることもできない。もはや俺にどうしろというのだろうか。
 俺は大きなため息をついたのだった。

Re: 異世界に転生したのに死んでいた。 ( No.6 )
日時: 2016/08/15 17:28
名前: アンデット ◆IYbi.dCFgs (ID: dK6sJ/q3)

(しかし、どうしたものか)
 部屋に漂っていた幽霊が居なくなり、一時的な静寂が再びこの空間に訪れる。
 だが、数十分後にはまたあの幽霊たちが戻ってきて騒ぐ事だろう、ならば眠ることは諦めよう。
 じゃあ何をするかだが、本当に何も思いつかない。お腹も空かないし、この部屋の探索は飽きるほどやった。考えれば考えるほど寝ること以外にやる事が無いな。

 じゃああの幽霊(?)達と戯れるか?
 俺は幽霊と戯れる自分の姿を思い浮かべる。
 乾いたゾンビが何やら叫びながら何も無い空間を走り回っている姿、か。
(……狂気でしかないな)
 俺がその場面に出くわしたら間違いなくちびる。うん、やめておこう。

 と、そんな事を考えていた時に何の気なしに顔を上げると、例の積まれてあった黒い本が目に入った。
(あぁ、そう言えば読むのは後回しにしてたんだっけ)
 俺はその一冊を手に取り、再び本をめくった。とりあえず挿絵がないか確認してしまうのは俺だけではないはずだ……おや? 挿絵があるな。しかし、なんだこれは。人間の体が描いてあって、脳、心臓、内蔵が摘出されている絵だ。添え書きにはくり抜いて捧げものにするだとか不気味なことが書かれてある。
(あれ?)
 とこでふと気づく。

(文字が読める?)

 そう、全く知らない文字の羅列が何故だが読めるのだ。
 どういう事だ? 見たことも無い言葉なのに。
(うーん……この体はあくまでこっちの世界の人間のものだからか?)
 アンデットとして生まれ変わってはいるが、元々はこっちの世界の人間の体に乗り移っているような状態だ。もしかすると生前の記憶が体に残っていて、そのおかげである程度言葉が分かるのかもしれない。

 昔、何かの番組で「人の記憶は体にも宿る」と言っていた事を思い出す。ドナーに心臓を提供してもらった人が、行ったことも無い場所を知っていたり、食の好みがドナーと同じになった、とか。この体にもある程度この世界についての記憶があるのかもしれない。ならば、この本を通してこの世界の言葉を学ぶのも悪くないのかもしれない。

 しかし、この体の人物はどんな人間だったのだろうか。
 こんな大きな部屋で、祭壇の上に祭られている人物となると……もしかして、相当すごい人物だったのかもしれない。ほら、例えばピラミッド。何かと謎の多い遺跡と言われているが、王(ファラオ)の墓として有名だ。その王とまではいかないが、石造りの棺桶も模様が彫ってあったり、少なくとも他のそれとは扱いが違っていると分かる。
 生前は王族か、はたまた貴族か、そのあたりだろうか。
 いやぁ、夢が広がるね。まぁそれも全部生前の話だけどね。生前に転生しなかったのが悔やまれる。まぁ、本来生まれるはずだった人の魂を押し退けてまで転生はしたくないし、その点ではこれで良かったのかもしれない——いや、それでもアンデットはないわ。

 まぁ、外にさえ出られれば、この体の人物について調べるのもいいのかもしれない。
 外に出てやりたいことの一つができたな、楽しみだ。

 体について考えるのもそこそこに、言葉の一部が理解できるならと、俺はひとまずこの本を読みながら、この世界の言葉について学ぶことにした。もしかしたら、言葉だけじゃなくて、この世界について知ることができるかもしれない。

 しかし、こうしてゆっくりと本を読むのは久々だ。20冊もあるならかなり時間はつぶれるだろうな。
 俺は本を石の棺桶から手の届く距離に移動させた。
 明りは問題ない。ここの天井——かなり高いが、上の方が崩れかかっており、僅かに光が漏れている。この薄暗さだと普通の人間ならば文字の判別は難しいだろうが、この体では問題なく見える。逆に僅かな光ですら眩しいくらいだ。日の光が苦手なアンデットならでわの特性だろう、いやはや便利な体だ。外見と死んでいる事を除けば。

 さて、では早速本を読んで勉強をする事にしよう。アンデットでも覚えておいて損はないはず……だよな?
 そんなわけで、俺は適当な書物を手に取って、1ページ目から隅々まで読み始めたのであった。

Re: 異世界に転生したのに死んでいた。 ( No.7 )
日時: 2016/08/18 11:04
名前: アンデット ◆IYbi.dCFgs (ID: dK6sJ/q3)

 以前、こんな小説を読んだことがある。事故に巻き込まれて死んだ主人公が異世界に転生し、異世界人や魔物をバッサバッサとなぎ倒していく話だ。そんな主人公達は決まって反則的な力を宿したり、そうじゃなくとも活路を見出して成りあがっていくものだ。
 それに引きかえ、俺ときたらひどいものだ。


「グ、オ、オ、オォォ……」
 俺はバレーボールを両手に持つようなポーズを取り、足を開いていた。姿勢を落とし、そのまま手を右腰まで引く。すると、両手の中に微かに水色の光が集まり始めた。手のひらに僅かばかりの冷気を感じ、俺はどこか確信に満ちたような、それでいて真剣な顔つきで正面を見据える。

 転生から52日目、俺は未だにスポーン地点にいた。

 そんな俺の視線の先にあるのは、20段に重ねられた本の柱。
 俺は一呼吸置き、叫ぶ。
「ガアッ!!」
 それと同時に、俺は手を体の前に思い切りつき出した!
 すると、水色の光は強さを増してゆく。

 さながら某戦闘民族主人公の必殺技のようだ。
 そのまま俺の手から放たれた光は本の柱へと直撃し、20冊の本は弾かれるように宙を舞う! と、いうような事は無く。俺の両手の中で眩く光ったかと思えば——「ポン」と、まるでコルクのキャップを引き抜いたような間抜けな音を上げ、ひとつの雪が手のひらからユラユラと落ちていっただけだった
「ガアアッ!?」
 嘘だろッ!? 思わずそう言いながら俺は前につき出した両手を震えさせる。
(こ、今度こそ絶対うまくいくと思ったのに……)
 俺は間もなくガックシと肩を落としたのだった。


 この50日で、あの本の内7冊を読破した。そして分かった事がある。
 まず一つ、この世界の文字はある程度英語の綴りに置き換えることができる。幸いな事に文法もどこか似通っている部分があるため、比較的この世界の言語を学ぶことには苦戦しなくて済みそうな印象だ。文字での会話は厳しいが、今の段階でもおそらく気持ちや意志を伝える事くらいはできるだろう。嗚呼、無駄に英語が得意でよかった。

 そして、もう一つ。
 俺にとっては文字うんぬんよりも、こちらの方が重要だった。


 どうやら、この世界には「魔法」たるものが存在するらしい。


 読んだ7冊のうち、2冊ほど魔法に関する基礎知識のようなものが書き記された、いわゆる手引書のようなもの(他は何かの研究資料)だった。一冊には基礎的な魔法の分類についてとその概要、炎や氷や雷などの魔法属性、魔法の発動と詠唱についてなど。もう一冊が、ある分野の魔法、おそらく召喚魔法についてだろうか? に、ついての考察。こちらは少々魔法の知識がなければ難しい内容だという印象を受けた。

 そんなわけで、魔法属性について書かれてあった手引書①(召喚魔法の方は手引書②としよう)の内容から魔法を扱うコツを学び、こうして実践に移している訳なんだが、結果は見ての通りだ。
(これが魔法の基礎中の基礎? 攻撃魔法の初級レベル? 嘘だろ)
 なんでも、魔力を氷に変換して放出する魔法だそうだが……悲惨な状況だ。
 何と言うか、かき氷機で氷の山を作った方がまだ有意義な気がしてきた。
(くそぉ、せっかく魔法が使える夢の世界に来たって言うのに)
 はぁ、とため息をついて俺は床に体を投げ出した。
 この体の人物が生前からこの手の魔法を使っていなかったのか、手順書①に書いている事のほとんどを実践の段階で失敗していた。知識は身につく、というか忘れていた事を思いだすような感覚で覚えられるからいいものの、どうしたものか。


(魔術師としての基礎? の、”魔力のコントロール”は簡単にできるのになぁ)
 左腕を頭の後ろに回して枕代わりにしつつ、右指の人差し指をクルクルと回しながらため息。すると、指の先で青白い光が集まりだし、瞬く間に光のオーブとなって現れた。

 魔法を扱うには、まず大前提として魔力をコントロールする必要がある。
 それを魔法として扱うには魔導書を読み、その魔法の術式(魔力をどう使って変換するか等の数式だとかそのあたりの事)を理解する必要がある。その術式を集約したのがいわゆる呪文というやつだ。術式を理解した上で呪文を唱える(思い浮かべる)と、魔導書で覚えた魔法が再現できる。

 分かりやすく言うと……うーん、そうだな。
 例えば電話、とか。ほら、電話の中身とか構造とかどんな原理で通話できるとか知らなくても、電話の使い方さえ知っていれば誰でも電話は使える。この電話を魔法であるとすれば、呪文はいわゆる電話番号だ。「この番号でどこに繋がるか」さえ知っていれば、話したい相手と通話ができる。ここでいうところの”話したい相手”が、自分の使いたい魔法だ。

 うん、部下達から説明が分かりにくいと定評があった理由を今実感した気がする。悲しいな。

 まぁそれは置いておいて。ここからが本番なのだ。
 魔法は魔導書を読んで、術式を理解すれば呪文を唱える事で魔法が出る、と言ったが、いかに精密に魔法を再現できるかは『自身の魔力のコントロールの腕』と『経験』によって決まるらしい。他にも細々あるらしいが、おそらくこれくらいの認識で問題ないだろう。
 で、どうやら俺は前者については良くできる方らしいのだ。
 魔術師の卵はまず「自身の魔力を一点に集める事」から始めるらしいが、これは「何となく」で、出来てしまった。おそらくこの体の人間は魔法をかじっていたようで、このての基礎は赤子の手をひねるが如く、だ。ただ、あいにく攻撃魔法は扱っていなかったようだが。

(まぁー、ここまで来たら何でもいいから魔法を使ってみたいよな)
 俺はオーブを見つめつつ、思考する。
 この世界には魔法が存在し、なおかつ自分は魔法の基礎である魔力のコントロールは問題なく行える。
 こうなると、意地にも近いが——どうしても魔法を使いたいという気持ちを抑える事はできなかった。
 指をクルクル回しながら、考える。
 攻撃魔法の使用経験が無いことが判明した今、攻撃魔法は諦めるしかない。
 となれば、この体の人物が生前使っていた魔法。経験があれば、今すぐにでも扱えるかもしれない。
(ちらっと本を読んだだけだけど、魔法の分野って色々あったよな。確か、攻撃、回復、召喚、幻惑、付加、それから……)
 うーん、結構あったなぁ。とりあえず各分野の初級魔法に目を通してみるか。
 上手く魔法が発動した分野がおそらく自分の得意分野だ。

 そんなことを考えつつ、クルクル、クルクル……

(……、あれぇ!?)
 とこでふと気づく。
 指先にあったはずのオーブ、それがいつの間にやら直径3,4メートルはあろうかという大きさに膨らんでいたのだ。
(うわぁ、デカくしすぎたな。どうしようこれ)
 暢気にそんなことを考えながら、俺は困った様に苦笑を浮かべる。


 この後、俺はすぐに自分がやらかした事に気づかされるのだった。


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修正完了です


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