ダーク・ファンタジー小説

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カラミティ伯爵の事件簿【完結】
日時: 2017/09/12 02:04
名前: ももた (ID: jFPmKbnp)

「レティ、見たまえよ!この見事な天使像!!」

女性はそう言って、側に控える少女・レティに呼びかける。彼女の言う通り、それはパーツが上手く組み合わさって、羽を広げる天使の形をしている。しかし……

「伯爵様、生ゴミで遊ばないでください……」

それを構成しているのは、バナナの皮、卵の殻、その他諸々だ。小蝿が飛んでるし、臭いもきつい。レティは掃除婦を呼びつけ、この造形物を撤収させた。

さて、ぶつくさ文句を言いながら、汚れた手を洗っているこの女の名は、ジェンキンス伯爵・ジェーン。ロンドンきっての碩学で、数々の難事件を解決した、変わり者の貴族である。

怪しい香りのする彼女の周りには、いつも凶悪事件が取り巻いている。そこから付けられたあだ名は、疫病神(カラミティ)・ジェーン。

今日もジェンキンス邸の電話が鳴る。事件が彼女を呼んでいる。

さあ、謎を解き明かそう!

そこに隠れた真実が、いかに残酷であろうとも……



***


〈事件ファイル〉

その1:カーライル伯爵令嬢殴殺事件
>>1-2 >>5-8 >>11

その2:ヘレフォード子爵毒殺事件
>>12 >>15-21

その3:ロンドン連続婦女殺害事件
>>22-25



〈あいさつ〉

また突発的なの始めます。出だし見て「ダークじゃねぇ!」と思った方もいると思いますが、複ファにのせるにはな……と思ったので、こっちにしました。

今回は、19〜20世紀のイギリスが舞台の推理小説。正直「そんなんアリか!?」という感じの事件ばかりです。作者が初心者だからしょうがない。

読者さんも、読みながら一緒に推理してくださると嬉しいです。

注意!!
この内容はフィクションであり、実在の人物や団体とは関係ありません。
暴力、性描写も多少含みます。苦手な方はブラウザバック。
コメントは大歓迎ですが、詳しく考察を披露されるのは、お控えください。当たっていた場合、ネタバレになってしまいます(「○○が怪しい」といった程度なら、大丈夫です)。……実際、簡単に解けそうでガクブル。
推理小説なので、目次に沿って読むことをお勧めします。

〈お客様〉

四季様



***



〈主要登場人物〉

ジェーン・ジェンキンス(ジェンキンス伯)
カラミティの異名で知られる女伯爵。見た目は20歳前後だが、実年齢はそれを大きく上回る。未だ独身。変わり者だが、その能力を買われ、数々の難事件を解決してきた。

レティ(レティーシャ・ジェンキンス)
ジェンキンス家の養女。15歳。生まれて間もなく教会に孤児として預けられたが、ジェーンに引き取られ、以降彼女に育てられる。 ジェーンにいつも振り回されている。

リチャード・ブリファ
46歳の警部。柔軟な性格をしていて、ジェーンの能力には信頼を置いている。度々、ジェーンに捜査の協力を要請している。

Re: カラミティ伯爵の事件簿 ( No.13 )
日時: 2017/09/01 19:03
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: 0rBrxZqP)

カーライル伯爵令嬢殴殺事件終幕ですか!お疲れ様でした。面白かったです!

そして新たな事件がスタートですね。ウキウキします。

また読ませていただきます!

Re: カラミティ伯爵の事件簿 ( No.14 )
日時: 2017/09/01 19:36
名前: ももた (ID: jFPmKbnp)

四季さん

はわわ!また感想が!ありがとうございます!!

はい。なんか締まりのない終わり方でしたけど、第1の事件は終了です。次の事件はバース奇行です。紀行ではない。相変わらず誤字脱字はこっそり直すスタンス(殴

楽しんでいただけると幸いです。

Re: カラミティ伯爵の事件簿 ( No.15 )
日時: 2017/09/04 11:01
名前: ももた (ID: jFPmKbnp)

「おやおやこれは……日をまたいだのに、現場はそのままなのですな!いやはや感心!」

ジェーンは部屋に入ってくるなり、明るい声で言った。そこは、事件現場となった、テヴァルー家別荘の、食堂だった。ジェーンが捜査しやすいようにとの配慮があってか、到着までに時間が経ったのにもかかわらず、現場は食事を並べたままだった。

場違いなジェーンの態度に、テヴァルー家の者どもは、一様に訝しげな顔をしている。

「挨拶が遅れましたな。私、ジェンキンス伯爵ジェーンと申します」

ジェーンは皆の注目の中、深々とお辞儀をしてみせた。レティは隣で、ひんしゅくを買いはしまいかとヒヤヒヤしている。

「遠路はるばるご苦労でした、ジェンキンス伯爵。調査には極力、我々も協力させていただく所存。どうか、弟の事件をよろしくお願いします」

それに答えたのは、被害者アルバートの兄、エセックス伯爵ヘンリー・テヴァルー。恰幅の良さそうな男は、弟が死んだというのに、にこやかな笑みを浮かべている。

「ありがとうございます、エセックス伯。それでは現場の調査を開始いたします。皆様は私から尋問に向かうまで、この館で待機していただきます」

ジェーンの言葉に、一同は納得したようだ。ジェーンはそこで、「おっといけない」とさらに言葉を続ける。

「厨房には、誰も出入りなさっていませんかな?今後も一応のため、厨房には立ち入らないでいただきたいのですが……」

それに答えるように前に出たのは、白い服の男だ。身なりからして、コックのようである。

「失礼ですが、あなたは?」

レティが問いかける。

「はい、料理長のウィル・カーターと申します。事件当日から、テヴァルー家の皆様には外食をしていただいており、誰も立ち入ってはおりません」

ウィルという男は、姿勢を正して答える。ジェーンは満足そうに笑った。

「よろしい。この事件、このジェーン・ジェンキンスが必ずや解決いたしましょう」



***



食堂から人が減り出すと、ジェーンは早速、アルバートの倒れていた場所に近づく。そこには、すでに遺体はない。

「ヘレフォード子爵のご遺体は?」

レティは、その場にいたリチャードに問いかけた。

「はい。子爵の変わり果てたお姿をいつまでも晒すわけには行かぬと、エセックス伯閣下の要請で移動させました。何か不都合でも?」

「構いませんぞ。あとで検死をさせていただきましょう」

ジェーンはそう言って、食卓に近づいた。毒を盛られていたという彼の皿を、注意深く観察する。

各々の明日の前に、前菜と思われるスープ皿が置かれている。アルバートの皿は、すでに空だった。ジェーンは、皿に顔を近づけた。

「アーモンドの香りがしますな」

ふと、隣から男の声がした。そちらを向くと、ジェーンと(実年齢的に)同年代の男が立っている。健康そうで、眼鏡はかけていない。

「あなたは?」

「失礼、ミセス。初めまして、私はこの家の主治医を勤めます、シドニー・スペンサーと申します」

ジェーンは、男の返答に眉をひそめた。

「私は独身ですが?」

「おや、失礼。娘様がいらっしゃいますもので、つい……」

ジェーンは「ミセス」という言葉を気にしていたようだ。シドニーという男は、頭を下げる。レティはその横で、何か思いついたような顔をしている。

「シアン化合物!きっと、その毒で殺されたのですね」

レティは、シアン化合物系の毒は、アーモンドの香りがすると聞いていた。ジェーンは「ふむ」と呟く。

「……誰か、銀のスプーンはありますかな?」

ジェーンが周りに問いかけた。まだ部屋を出ていなかった料理長のウィルが、ビクリと身体を震わせる。

「それでしたら、そこの食器棚に……」

ウィルはそう言って、ひときわ大きな食器棚に近づいた。ジェーンもそばに寄ってみてみると、高級そうな食器ばかりが並んでいることに気がつく。

「料理はここまで運ばれ、そして皿に盛り付けられたのですな?」

「そうです」

ウィルは「あった」と呟いて、ジェーンに銀色のスプーンを差し出した。ジェーンは礼を述べてから受け取り、スプーンを持って食卓に近づいた。

アルバートの皿は空だったので、ジェーンは隣の皿にスプーンを突っ込んだ。

「何してるんですか?」

「シアン化合物は銀に反応するのだが……」

ジェーンはスープをすくってみるが、色に変化はない。ジェーンは鼻の下に持って行き、匂いを嗅いでから……

「はむっ」

とスープを頬張った。隣で見ていたレティ、リチャード、ウィル、シドニーは、唖然としている。

「な、な、な、何やってるんですか!?毒が入ってたら、どうするんです!?」

「んぐっ。落ち着きたまえ、レティ。殺害されたのは子爵だけだ。犯人は、彼を狙って殺害している。だから、他の皿に毒が盛られている可能性は低い。何より、害がないことは今確かめたじゃないか?」

「だからって、自分で検証しないでください!毒は無くても、日が経ってるんですよ!?」

またもレティにゲンコツを落とされ、ジェーンは頭をさすっている。もはや、母の威厳など、どこにもない。

(これは、アーモンド臭というよりは……)

ジェーンが難しい顔をしていると、リチャードにも心配され、水を持ってこられる。ジェーンは心配ないと言って、それを受け取らなかった。隣でシドニーがジェーンの様子を観察しているが、中毒症状は出ていないと打診する。

「……失礼。そう言えばドクター、あなたは子爵のご遺体は見られましたかな?」

「はい、一応は。身体に赤い死斑が出ていました」

医学的な会話についていけず、周りの素人どもは取り残された。シアン化合物で亡くなった人には、赤みがかった死斑が出るのだとジェーンは説明する。

「そう言えば確かに、子爵の身体は赤くなっていました」

そう証言したのはウィルだ。2人の証言が一致したことから、ジェーンはそれが嘘でないことを悟る。

「よろしい。現場検証は済みました。みなさんの証言を取りたいのですが……まずは容疑者のスコット氏から」

ジェーンが言うと、リチャードが隣で説明する。

「はい、スコット氏は今、地下室に閉じ込めているそうです。ただ、容疑は否認していますが……」

ジェーンはステッキで肩をポンと叩く。

「それはいけない。早く彼女を出して差し上げねば」

会ってもいないのに、まるでアリスが犯人でないかのようにジェーンは言う。周りの者は不思議に思いながら、彼女たちを見送った。



〜レティのメモ〜

シドニー・スペンサー(49)
テヴァルー家の主治医。アルバートの検死を行なっている。

ウィル・カーター(41)
テヴァルー家料理長。料理を作った人物。

・食事中、前菜のスープを飲んでいると、アルバートは突然倒れた。
・料理は、食堂で盛り付けられた。
・他の人の皿に、薬物反応はない。
・皿からはアーモンドっぽい匂い。
・アルバートの遺体は、皮膚が赤くなっていた。

今回の事件は、やや捻くれています。ジェーンはチート技を使って、犯人を特定出来るのです。みなさんはレティの視点から、謎を解いてみてください。

Re: カラミティ伯爵の事件簿 ( No.16 )
日時: 2017/09/04 20:57
名前: ももた (ID: jFPmKbnp)

ジェーンとレティとリチャードは、地下への階段を降りていく。アリスが閉じ込められているという部屋に着くと、リチャードはコンコンとノックをした。少し間を置いて、「どうぞ」という返事が聞こえてくる。

「失礼しますぞ」

ジェーンはそう言って、部屋に足を踏み入れた。どことなくカビ臭く、普段は使われていないようだ。そんな部屋の真ん中に、絵に描いたような美女が座らされている。

「アリス・スコット氏ですかな?」

「そうですが、あなたは?」

「ジェーン・ジェンキンスと申します。この事件の調査を依頼されたものです」

アリスは、探偵が来ることは聞かされていたらしい。しかし、ジェーンの姿を見て、目に見えてガッカリしたような様子を見せている。

「ジェンキンス伯爵閣下がいらっしゃると聞いていて……てっきり、男性だと思っていました」

「何か不都合でも?」

「いえ、そういうことでは……」

ジェーンを馬鹿にされた気がして、レティの口調はいつになく強かった。ジェーンはその横で、アリスの様子を注意深く観察する。

着ているのは、テヴァルー家のメイド服だ。胸元は、必要以上にはだけさせている。部屋の光源はランプだけで、彼女の魅惑的な身体を照らしていた。

(なるほど。探偵が男だったら、色仕掛けで無実を勝ち取る魂胆だったのか……)

ジェーンはすぐに、アリスの考えていたことを看破した。レティは隣で、面白くない顔をしながら、手帳を広げている。

「現場の検証は済みました。まずは貴女のお話を聞こうと思って……」

「私、子爵閣下を殺してなんかいません!」

レティが言い終わる隙も無く、アリスは強い口調で言った。アリスは、キッとジェーンを睨みつけている。

(やれやれ。女とわかった途端、敵意剥き出しかね……)

ジェーンは場を落ち着けるように、やんわりとした口調で尋ねる。

「それを証明すべく、我々も努力しているのです。貴女の身のためにも……まずは、ヘレフォード子爵との関係から話してくれますかな?」

アリスは、それ以上噛みつくような様子は見せなくなった。ジェーンの問いかけに応じ、低い声で話し始める。

「関係なんてありません。子爵閣下は旦那様の弟です。それだけです。ただ……」

「ただ?」

メモを取りながら、レティが先を促す。

「子爵閣下は、人の秘密に首を突っ込みたがる節があります。誰かに恨まれていても、不思議じゃありません」

アリスの言葉には、悪意がこもっているように感じた。動機がある人は自分以外にいて、その罪を自分に被せたがっていると言っているのだ。

「では次に、ヘレフォード子爵の人となりを教えていただけますかな?」

ジェーンが問いかけると、アリスは鼻を鳴らした。

「知りません。それほど親密ではありませんでしたから、先ほど申し上げた通りです。強いていえば、子爵閣下は体が弱く、本家のあるロンドンでは暮らさず、ずっとこの別荘に住んでいらしたことくらいでしょうか」

レティは新しい情報を手帳に記した。

「なるほど。では、エセックス伯爵がヘレフォード子爵を訪れた際、事件が起こった……と」

バースは確かに、滋養都市だ。アルバートが療養のためここに暮らしていたというのは、充分に納得できる事実であった。

「そういえば先ほど、子爵は人の秘密を嗅ぎまわっていると仰っていましたが……貴女はその秘密に心当たりは?」

ジェーンの目が怪しく光った。アリスは目を伏せながら

「いいえ全く。私には、知られて困るようなことはありません」

と答えた。ジェーンは満足そうに頷き、退室するそぶりを見せた。それを見て、アリスが声を上げた。

「ちょっと……伯爵閣下、私はいつになればここから出していただけるんですか?」

本音が出そうになったのか、アリスの口調は変化が大きかった。ジェーンは首だけ振り向くと

「それは、捜査の進展次第ですな」

とウィンクをして出て行った。バタンと扉を閉めると、何かが壁に叩きつけられているような音がする。アリスが物にあたっているらしい。

「出て行った途端、とんでもない人ですね……やはり、彼女が犯人なのでしょうか?」

レティは呆れたように呟いた。隣でジェーンは、ステッキで肩を叩きながら何かを考えている様子である。

「彼女が犯人としたら……動機はなんだね?」

ジェーンに問われ、レティは頭を捻らせた。

「エセックス伯爵と不倫しているのが知られた……とか」

ジェーンは同意したように頷く。

「その昼ドラ的展開には賛成だ。この事件のタイトルも『カラミティ伯爵の湯けむり殺人事件』とかにしたほうが良いと思っているよ」

「そういう文句は、作者に言ってください。あと、大体そういうタイトルの作品は、旅館で事件が起こるんです。私たちの場合、事件が起きてから温泉に来てます」

2人は異次元的な会話を始めているが、要はアリスがヘンリーと不倫していることには賛成らしい。ジェーンは付け加えるように話し出す。

「エセックス伯が私に捜査を依頼したのは、愛する女中のためだろう。ただ、それでは動機にならないと思ってね……レティ、エセックス伯のスキャンダルが公になって、一番に困るのは誰だと思うかね?」

レティは「うーん」と唸りながら考える。

「エセックス伯爵夫妻でしょうか……」

「その通りだ、レティ。スコット氏はあの性格だ。いざという時、エセックス伯と手を切ることは、厭わないだろう。だからこそ、動機には不十分なのだよ」

ジェーンは拍手をしながら、レティを褒めた。レティは満更でもない様子だ。

「では何故、伯爵様は、アリスさんをあそこから出して上げないんですか?」

ジェーンは、ステッキで肩をポンと叩く。

「まだ、彼女がシロと決まった訳ではない。他に動機が見つかるかもしれないからね。それに……」

ジェーンは傍にいたリチャードにウィンクする。

「周りの男衆を手玉に取られたら、さすがの私もたまらないからね」

「勘弁してくださいよ、閣下!カミさんにそんな話聞かれたら、家に上げてくれなくなってしまいます」

「はははっ」



〜レティのメモ〜

〈アリスの証言〉
・アルバートは、人の秘密に首を突っ込みたがる人柄。
・動機が考えられる人物は、いくらでも。
・アルバートは体が弱く、別荘に住んでいた。
・兄夫婦が訪ねてきた矢先、事件が起こった。

・アリスはヘンリーと不倫をしている?
・スキャンダルがバレても、アリスに火の粉はかからない。

Re: カラミティ伯爵の事件簿 ( No.17 )
日時: 2017/09/06 07:25
名前: ももた (ID: jFPmKbnp)

「次は誰の話を聞きに行くのですか?」

地下からの階段を上りながら、レティがジェーンに問いかけた。

「カーター氏だ。料理長なら、事件の概要を詳しく知っているであろう」

レティは「なるほど」と呟く。ウィルはレティも疑いをかけている人物の1人だ。彼なら、幾らでも毒を盛るチャンスがあるからだ。

「了解しました、確認をとって参ります」

リチャードは敬礼をすると、足早に階段を上って行った。

「警部はやはり若いな……」

「え!?伯爵様って警部より年上なんですか!?」

「そうだとも。と言っても、3つ4つ違うだけだが」

ジェーンはステッキをつきながら、「えいこらしょ」と掛け声を上げながら、一段一段上っている。さすがに、この歳で長く続く階段は堪えるらしい。

「はあ、一仕事終えたら温泉に浸かろう……」

「お酒は控えてくださいね」

「ぬぅ……」

レティに労られながら、ジェーンは階段を上りきった。



***



ウィルは応接室で待たされていた。ジェーンが入ってくる前からリチャードと立ち話をしていたようで、こちらに気がつくと2人にソファに座るよう勧めた。

「お時間をとらせて済みませんな、カーター氏」

「構いません。私に分かることでしたら、協力させていただきます」

3人は席に着いた。隣ではリチャードが控えている。レティは手帳を広げた。

「さて、それでは給仕に至るまでの、厨房の出入りについてから伺ってもいいですかな?」

ウィルは姿勢を正してから答える。

「はい。料理中に厨房に入って来たのは、奥様と旦那様と女中のアリスの3人でした」

すると、レティが隣から口を挟んだ。

「それぞれ、どのような要件で、どの順番で入って来ましたか?」

ウィルは視線を上げた。思い出そうとしているらしい。

「最初に奥様がいらっしゃいました。子爵閣下はお体の弱い方ですから、スペンサー先生から栄養のつくレシピを預かってきたと」

「そのレシピはありますかな?」

「は、はい。こちらです」

ジェーンの問いかけに応じ、ウィルはあっさりと紙束を渡した。特に目立った食材はない。煮込み時間を多くしたり、消化が良くなるように材料を細かく切るようにと書かれているだけだ。

「問題なさそうですね」

「…………」

ジェーンは食い入るようにレシピを見つめていた。満足すると、ウィルに返した。

「ありがとうございます。その後は誰が来られましたかな?」

「はい、それからしばらくして、旦那様がいらっしゃいました。ワインを選んでいらしたようです」

レティは頷きながらメモをとった。

「エセックス伯が飲まれたボトルは分かりますか?」

「はい、厨房に行けばお教えできます」

ウィルの申し出に、レティは少し顔をしかめた。彼が犯人だとしたら、何か隠蔽をされてしまうかもしないからだ。

「それでは厨房に場所を移しましょうか?」

ジェーンはさらりと言ってのける。レティは隣で、驚いた顔をした。慌ててジェーンに耳打ちをする。

「そうなこと言って、大丈夫ですか!?もし彼が犯人だったら……」

「落ち着きたまえ。後で説明するから」

小声で話すレティに対し、ジェーンはウィルにも聞こえてしまうような声で答えた。ウィルは首を傾げている。

「娘が失礼しました。移動中にもお話を伺ってよろしいですかな?」

「はい。構いませんよ」

そう言って3人は立ち上がった。そのまま部屋を出ると、周りの警官たちも、ゾロゾロと3人についてくる。ジェーンはウィルの隣に立ちながら問いかけた。

「子爵はお酒は飲まれましたかな?」

「いえ。お身体が弱いこともあって、お飲みにはなりませんでした」

「なるほど……他に飲まれない方は?」

「お子様たち以外は召し上がっておられました。お子様たちには、果汁ジュースを代わりに……」

ジェーンはステッキで肩を叩きながら、何やら考えている。沈黙が気まずくなったのか、今度はレティが問いかける。

「カーター氏は……アリスさんとエセックス伯の関係はご存知で?」

途端、ウィルは慌ててレティの口を抑えようとした。動揺した様子で、周りをキョロキョロと見回す。

「この館内では、そのようなことを仰ってはいけません!奥様のお怒りに触れてしまいます!」

それは肯定しているようなものではないか……と2人は思った。ウィルがこんなにも怯えているあたり、エセックス伯爵夫人 サンドラ・テヴァルーは、よほどその事実が気に入らないようである。

「この話はよしましょう。さあ、厨房に着きましたよ」

ウィルは冷や汗をかきながら、厨房のドアを開けた。ジェーンは裏で、レティの背中をステッキで小突いた。レティは自分の失言を反省している。

「旦那様がお選びになっていたのは、このワインです」

中に入ると、ウィルはワインボトルを一本引っ張り出してきた。ジェーンはそれを大切そうに受け取る。年代物の赤ワインだ。

「ついでですが、果汁ジュースの瓶も見せていただけますかな?」

「はい」

ジェーンは、ワインボトルを少し振った。底の方の沈殿物を見ているようだ。次にコルクを抜き、中を覗く。かさが減っていて、沢山の人に振る舞われたことがわかる。最後に、鼻を近づけて匂いを嗅いだ。

「こちらが果汁ジュースの瓶です」

ワインボトルを調べていると、横から別の瓶を差し出される。ジェーンはその瓶も同様に調べている。レティはそんなことをしているジェーンの横で、ウィルに尋ねた。

「最後に厨房に出入りしたのは、アリスさんでしたっけ?」

「そうです。給仕用のワゴンに鍋を乗せ、食堂に運んでいきました。食器に取り分けたのは彼女です」

レティはメモを取りながら頷く。レティ達が話しているうちも、ジェーンは厨房内を歩き回っていた。

「事件が発覚した時、あなたは?」

「何も知らず、ここで調理を続けていました。最初は私が疑われたのですが、奥様が『食事を盛り付けた人物の方が怪しい』と庇ってくださったのです」

ウィルはその時のことを思い出し、ため息をついていた。確かに、厨房から一歩も出ていないウィルでは、誰が毒入りスープを飲むかは操作できないはずである。レティは、ジェーンの言っていたことがわかった気がした。

話を終えたころ、ジェーンが戻ってきた。ジェーンはレティの手帳を覗き込み、笑みを浮かべている。

「レティもこの仕事が板についてきたな……ありがとうございます、カーター氏。これ以上私から確認することはございませんぞ」

ジェーンはウィルに一礼した。ウィルも恐縮そうにお辞儀を返すと、一同は厨房を後にした。



〜レティのメモ〜

サンドラ・テヴァルー(51)
エセックス伯爵夫人。ヘンリーの妻。アリスとヘンリーの関係を気づいているが、気にくわない様子。


〈ウィルの証言〉
・厨房に出入りしたのは、ウィル以外に3人。
・シドニーが、体の弱いアルバートのためにレシピを書いた。
・サンドラは、シドニーからレシピを預かり、厨房に持ってきた。
・ヘンリーはワインを選びにきた。
・アリスは食事を運び、食堂で盛り付けた。
・ウィルはずっと厨房にいた。
・当初疑われたのはウィル。サンドラに庇われた。
・不倫の話をすると、サンドラはめっちゃ怖い。
・食事の席で、アルバート以外は他の誰かと同じものを飲んでいる。

一貫性の無い事実は排除するのが推理のコツ!


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