ダーク・ファンタジー小説
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- 自由を求めて
- 日時: 2019/10/30 12:14
- 名前: サクマ (ID: aQG7fWp7)
エピソード
とある小さな村で育った俺は成長期に差し掛かった頃、些細なことで親と喧嘩をして家を出て隣町で寝泊まりをした。
親が自分のことを探し回って来てくれるのではないかと思い込んでいた。
朝になっても両親が来る気配はなくて、それどころか町では別の話題でザワザワとしていた。
嫌な予感がして、走って村へ帰った。
村はひと地域丸々炎の波に飲み込まれていた。高い山に囲まれた小さな村に消防は時間がかかる上に、深夜に煙が上がっていたのを隣町の住人が見たと言っていた。
膝から崩れ落ちた俺は悲鳴も聞こえてこない村を、消えることを知らない赤やオレンジを見続けることしか出来なかった。
ようやく到着した消防が水をかけたが半日かかった村には黒い木々や塊しか残らなかった。俺の家があった場所は黒い木々が覆い被さっているだけだった。
泣き疲れた目からは何も出てこない。
それから俺は親戚の家に引き取られた。
ーーーー
※ファンタジー要素あります。
エピソード
第一話「交渉」
>>1-3
第二話「雪山の少女」
>>4-7
第三話「ミカエル」
>>8-11
第四話「彼らは生きてる」
>>12-13
第五話「ハジマリ」
>>14-20
第六話「彼らの特質とミカエルの記憶」
>>21-25
第七話「埋められた戦士」
>>26-29
第八話「トウマ」
>>30-33
第九話「明かされる過去」
>>34
- Re: 自由を求めて ( No.1 )
- 日時: 2019/09/21 18:29
- 名前: サクマ (ID: mG18gZ2U)
親戚の家で俺は疫病神だと言われた。食事を一緒にすることは疎か、茶碗の半分しかない米と具のないスープ、寝るときは隙間風の入る屋根裏部屋だった。不満があっても文句を言わないのは両親を失ったのは自業自得で俺は罪を償うつもりでいたから。
毎日、朝になると村へ行って両手を合わせて両親に謝罪と現状を報告した。夜になって叔母さんの家に戻ると働いて金を稼いで来いと怒鳴られた。俺がこの家に来ることで資金的に厳しくなっているようで、本当に自分は疫病神だと思えた。
そんなある日、黒い布を頭から被った老人と出会う。
今日も村で両手を合わせて報告をして、草木が生えてこない黒い炭の地面を蹴るように歩いていると、俺の道を阻むようにこちらを向いて立っていた。
低く腰を曲げて頭から被るフードで顔が見えないが黒い布から見える顎や首、両手はシワだらけ。
夕日が沈んで辺りが薄暗くなってきた時間帯、声をかけようと近づくと老人は口を開いた。
「おぬし、なにか困っているようじゃな」
その言葉が俺に向けられているのか周りを見渡してみるが、俺と目の前のお爺さんしかここには居ない。
お爺さんは口角を上げてガタガタの隙間だらけの歯を見せる。奥にある金歯が光って不気味だった。
「おぬしの願いをなんでも叶えよう」
「…なんでも…?」
願い事なんて無いと思ってた俺の口からは、なんでも叶えてくれるという言葉に素直だった。
- Re: 自由を求めて ( No.2 )
- 日時: 2019/09/21 18:43
- 名前: サクマ (ID: mG18gZ2U)
「その代わり、わしの頼みもきいてほしい」
なんだか一気に胡散臭さを増した台詞に少し迷う。その頼み事を聞いてからにしよう。
「頼みっていうのは、なんですか?」
「この話、受けるか?」
「…頼み事を聞いてから判断したいです」
「他人に軽く出来る頼みではないのじゃよ、おぬしの願いを何でも叶える代わりなのじゃ」
なかなか交渉術があるようだ。うーんと迷う俺にお爺さんは語る。
「何かを得る代わりに何かは失う、それを旨に今ここで決めてくれんかの?」
俺は親戚の家を出たかった。あの家に住まわせて貰ってるありがたみはあっても生きた心地がしない。生きてる事が罪だと言われているようでいつも辛い。心に余裕が無い時に、こんな追い打ちをかけるような希望の光があるなら縋りたくなるものだ。
数秒、沈黙が流れたあと、俺は彼の話に乗ることにした。
- Re: 自由を求めて ( No.3 )
- 日時: 2019/09/21 19:02
- 名前: サクマ (ID: mG18gZ2U)
「…わかりました」
「交渉成立じゃな」
「その話の前に、そろそろ家に帰らないと怒られ…」
「なに、おぬしの本当の母親ではなかろう」
「…えっ?」
誰に怒られるとも言っていないし、叔母さんが本当の母親ではないと、まるで当然のことのように言う彼が、俺の情報を知っていることに少し恐怖を感じた。
お爺さんは小さなカバンから折り畳まれた紙を取り出して俺に差し出す。
「この紙に書かれた彼らを自由にしてほしい。これがわしの頼みじゃ」
黙って渡された紙を開く。五つ数字が書かれていて数字の隣には文字が書かれているが、一つ目しか読めない。
「…え、これ、読めないんですけど…」
「彼らはそれを読むことが出来る。おぬしがわしの願いを叶えてくれた時、またおぬしの元へわしが向かうからの」
「なんですかそれ、本当に叶えてくれるんですか?」
「おぬしの頑張り次第じゃよ。何もせずに得られるものもなかろう?」
うーんとまた黙る俺にお爺さんはもう一枚紙を手渡してきた。
「え?これは、なんですか?」
「手始めに彼から見つけると良い、さあ、ゆけ!」
「えっ!?ええ?……あ、あれ?」
それを見る前にお爺さんは俺の背後に回って背中を軽く押した。
急に背中を押されて訳が分からず振り返ると、お爺さんの姿は無かった。
- Re: 自由を求めて ( No.4 )
- 日時: 2019/09/21 19:19
- 名前: サクマ (ID: mG18gZ2U)
目が覚めると、叔母さんの家の屋根裏部屋で寝ていたようだ。
あれからどうやって帰ったのか思い出せず、夢なのかと思ったが握った拳の中に折り畳まれた紙が二枚クシャとなって入っていたのを見て、夢じゃなかったんだと思う。
急な寒気にぶるっと体が震えた。はあっと吐いた息は白くて辺りの音が聞こえないほど静かだった。
さっきまで真夏のように暑くてギラギラ光る太陽が肌を焼いていたのに、半袖短パンにサンダルを履いていた俺は、さっきお爺さんと会ったばかりの服装をしていて、隙間風の入る屋根裏部屋の寒さに凍りそうで、慌てて下の階へ降りる。
両腕を擦りながら、脱いだサンダルを片手に階段を降りると叔母さん達も急いで服を着替えていた。
「全くこんなの、有り得ないわ!」
「真夏に雪が降るなんてな」
「寒いよ、ママ!」
「……。」
「あら、あんたも起きたのね。さっさとこれに着替えたら?」
皆が棚の奥から出された分厚くて暖かそうな服を着るのに対して、叔母さんから渡された服は長袖ではあるが秋用の薄手のワイシャツタイプで少し汚れていて鼠に齧られたのか穴も空いていた。
ペラペラとしたソレをお礼を言って受け取り、上から重ね着る。
外へ出ると、既に10センチほど雪が積もっていて、曇り空からはとめどなく白い結晶が振り続けている。他の家の人もザワザワとして夏服で家に入り厚着で出てくるところを見ると、本当に急に気候が変わったと実感する。
寒さに震える手でポケットにしまっていた紙を取り出す。
手始めに向かうように言われた場所は案外近くて、大まかな地図しか書いていないのになんだか「ココだよ」と呼ばれるように俺は勘頼りに歩き始めていた。
- Re: 自由を求めて ( No.5 )
- 日時: 2019/09/21 19:34
- 名前: サクマ (ID: mG18gZ2U)
「…寒い…」
導かれるように雪山へ入って行くと、降っていた雪は吹雪に変わり、目の前は真っ白で歩くことも辛くなってくる。
無意識に寒いと呟いて、太股の高さまである雪に「冷たい」と言うのが正しいか、なんて思う。
太い木に隠れるように凭れ風を凌いで「俺、このまま死ぬのかな?」なんて思う。
真っ白な世界、動かない体、心まで凍らそうと冷たさが迫ってくる感覚。
(…あれ、なんだか…眠たくなってきたな…)
自分で思ってることなのか口に出してる言葉なのかも分からなくなってくる。鼻呼吸なんて忘れて口で呼吸するたびに喉が痛む。
瞼を閉じると視界が暗くなるから、出来るだけ開けていたい。
(真っ白な世界、綺麗だな…父さん母さんと見たかった…)
もう耳には吹雪の風が鳴らす音も聞こえない。
(こんな白い世界に囲まれて…幸せなまま、死んじゃっていいのかな…?)
なんだか可笑しくて笑ったら心臓がズキッと痛んだ。まだ自分が生きてるのか分からなくて瞼を開けようと少し力を入れる。
僅かに開いた視界から見れたのは黒く滲んだ影のようなものだった。