ダーク・ファンタジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

crazy=justice【短編集・タイトル迷走中】
日時: 2020/09/28 20:47
名前: 美奈 (ID: cO3So8BN)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=11127

クリックありがとうございます。
初めまして、美奈と言います。
いつもはコメディ・ライトで活動しているのですが、今回はダーク・ファンタジーに初挑戦してみようと思います。

ここで求められている感じのものになるかは分からないのですが...
とにかく後味も気味も気色も悪い短編を書いていくつもりです。
多分恋愛絡みが多めです。イカれてるかなこの人、って思われそうな話を気ままに書いていこうと思います。ちなみに只今タイトル迷走中です。2つ浮かんで、今はそのうちの1つにしています。

お読みいただけたら嬉しいです...!
※2020年9月より、「小説家になろう」さん・「カクヨム」さんでも同時掲載始めました(名義もタイトルも違います笑...中身は同じ)

<目次>
#1 熱情 >>1
#2 New World >>2
#3 Wanna be A子さん? >>3
#4 12番は特別なんです >>4
#5 fault >>5
#6 winner >>6
#7 聖愛 >>7
#8 正しく清く... >>8
#9 何もいらないよきっと>>9
#10 離婚式>>10

Page:1 2



Re: T.E.A.R.【短編集】 ( No.6 )
日時: 2020/08/31 17:14
名前: 美奈 (ID: cO3So8BN)

#6 winner

「なぁ、もうお前ブスになったよなぁ。飽きた。別れよ」

噂通りだった。本当に半年経ったら、ブスって言い始めるんだ。

「え、そんな…。麗央れおくん、待ってよそれは」

「無理。最初は可愛いんだけど、飽きるんだよね。…ほら、俺みたいに最初から顔が整いすぎてる人間にしては、どの女もどっか物足りないっつーか」

こんな言葉を吐いても、麗央くんだから許される。どこ歩いてもスカウトされる麗央くんは、そこらへんの俳優の何倍もかっこいい。本人は「芸能界なんかで俺は利用されたくねぇ」なんて言って、全く興味がないのだけど。

「わ、私、もっと可愛くなるように努力するからっ。どうしたら麗央くんの好みに近づけるの…?」

麗央くんは私の必死の言葉を聞くと、自分の髪の毛を急にくしゃくしゃし始めた。明るい茶色の短髪が一瞬で乱れる。でも、その乱れた姿が彼の魅力を一層引き出す。

「はぁーっ、もう。努力して可愛くなるより、元々可愛い方が価値あると思うんだよね。俺モテるから、また可愛いと思った女の子を新しく探せばいいんだし。女の変化とか努力とかさぁ、見てて褒めなきゃいけないのマジだるいし疲れんだよ」

世界中の女を敵に回すような発言をして、麗央くんは私にスマホで写真を見せてきた。
画面には、女の子とのツーショットがずらり。

「ほれ。これぜーんぶ、俺の元カノ。前のスマホには6人いたし、昨日数えたらさ、お前含めて18人いたんだよね。今度はどんな子と付き合おうかなぁ」

麗央くんにとって今の私は、「別れよう」と言っても素直に聞き入れてくれない、ただウザいだけの女。興味など欠片もない女。
だからこうやって、わざと私に嫌われるようなことをしている。もう面倒だから。さっさと終わらせたいから。私が「麗央くん、元カノとの写真全部取ってあるんだね…酷い!」って言って、部屋から飛び出すのを待っている。



でもね、私は嬉しい。

頭イカれてない?って聞かれたら、イカれてます。って答えられるよ。
思考歪んでない?って聞かれたら、歪んでます。って真顔で言うと思う。



懐かしいな…高校生の時。

言葉で告白するなんて、そんな勇気は1ミリもなかった。でももう、遠くから見ているだけじゃ、どうにもできないくらいに気持ちだけが溢れていった。そんな資格ない、なんて思いながら、でもチャレンジしなきゃ後悔するよ!とも思いながら、私は当時のクラスメイトの告白を断って、手紙を書いた。震える手で、靴箱に滑り込ませた。
一度話しただけの、クラスも学年も違う人だった。

固唾を飲んで柱の陰から見つめていた。
彼は私の手紙を見つけて、その場で封を切って読んだ。
数秒後には、破られていた。

「麗央、帰ろうぜ!...あ!それラブレターじゃね?!破っちゃったの?!」

「だってさぁ〜今時キモくない?手紙とか。しかもこの子1回だけ話したけど、すげーブス。俺の好みじゃないわ。無理無理」

「うわぁバッサリ。もうほんっと麗央は厳しいよなぁ〜」

ブス。その言葉は、思春期の私に重く深く響いた。私の存在全てが、否定された気がした。
でも麗央くんにとって「ブス」は口癖で。付き合えても、半年経つとブス呼ばわりして勝手に別れを告げられる。そんな噂を聞きつけるのに、そう時間はかからなかった。

「麗央先輩は神レベルでイケメンだけど、女子の扱いはあんまりだよ。あんたは同級生に告られるくらいには普通に可愛いんだし、自信持ちなよ。それから、あんたのために忠告しとくけど、麗央先輩は諦めな。自分が傷つくだけだよ」

親友の言葉は嬉しかった。そしてきっと、正しかった。でも、どうしても、どうしても、諦めきれなかった。
私こそが、麗央くんのそばにいたい。ずっとずっと隣にいたい。そう思った。
私は麗央くんの高校時代の元カノ6人を観察して、タイプを何となく掴んだ。



麗央くんが高校を卒業してから、私はずっと麗央くんの隣にいる。半年経つとブスと言い始める癖は、ちっとも変わっていない。

ある時、私は閃いた。
ブスと言われるたびに整形して、髪色・髪型・メイク・名前も変えれば、十分別人になれるんだって。
変身した私に麗央くんは毎回新鮮な目を向けて、私を可愛いと言ってくれる。愛してくれる。半年だけで捨てられてきた多くの女に、私は勝ったんだ。


今麗央くんのスマホに写っている女は、全て私。麗央くんは高校時代と違うスマホを持っているから、このアルバムにいる「彼女」は私だけ。私以外の女と、付き合わせてなどいない。
もうかれこれ、麗央くんと6年付き合ってることになるのかな。
だから、麗央くんがこうして写真を取っておいてくれるのが、私はすごく嬉しい。私にしか分からない、私達の軌跡。


今度付き合ったら、「19人目」か。
私はまた変身する。今度はどんな女の子になろうかな。

「れ、麗央くん、元カノとの写真全部取ってあるんだね…酷い!」

お決まりのセリフを吐いて、涙も見せて、麗央くんの部屋を飛び出した。
じゃあな、ブス、と麗央くんは歪んだ笑みを向ける。


部屋を後にした私は、笑みを抑えられない。
あぁ、早く変身したい。またすぐに、愛されたい。
麗央くんの前で流した涙と、笑みがぐちゃぐちゃになる。もう嬉しいのか、悲しいのかなんて分からない。もう私はそんな次元になんかいなくて、ただ1つのものだけを、一心不乱に求めている。
整形を重ねて強くなる顔の痛みは、髪色を変えすぎて頭皮にかかる負担は、様々なメイクの結果荒れていく肌は、名前を変える度に揺らぐ私のアイデンティティは、このままで愛し続けてくれないことの心の痛みは、変化し過ぎて友人に避けられる苦しみは、変化し過ぎて段々と、でも確実に歪んでいく私自身は、麗央くんの愛で全て帳消しになるから。
私にとって、麗央くんこそが、全て。



待っててね、麗央くん。



ずっと一緒にいようね、麗央くん。

Re: crazy=justice【短編集・タイトル迷走中】 ( No.7 )
日時: 2020/09/13 23:40
名前: 美奈 (ID: cO3So8BN)

#7 聖愛

なぜ私が、夫から離婚を告げられたのか。
理由は、不倫ではありません。性格の不一致でもなければ、喧嘩でもありません。
この理由には、どんな名前を付ければ良いのでしょうか?

あえて名付けるのなら、これは”聖愛”ではないか、と思います。私は聖愛故に、別れを告げられたのです。
私はただ、愛を注いだだけなのです。溢れんばかりの愛を。ただただ、心から愛しているということを、蓮に伝えただけなのです。



私は青春時代、大学のミスコンテストでグランプリになったり、ファッション雑誌の読者モデルに選ばれたりしていました。今のようにSNSがあれば、私のフォロワーは結構な数いたのではないか、と思います。娘は父に似ると言いますが、父は町1番の美男でした。アルバムで見た父に、恋をしそうになりました。
夫は慎重に選びました。父のように、息を飲むほど美しい子どもが欲しかったから。夫は私と同じ大学のミスターコンテストで、準グランプリになった人でした。彼はグランプリ発表の場で、私にアプローチをかけてきました。今まで「変な虫」がつきがちだった私ですが、夫はその中でもマトモだと思いました。彼は私と違ってグランプリではなかったけれど、告白されて嫌な気はしなかったし、当時ミスターコンでグランプリになった人には彼女がいたので、私は夫と付き合い、就職して少しした頃に結婚しました。

夫のことは愛していたと思います。彼も美男でしたから。結婚までこぎつけて、とても嬉しかったのです。
ただ、赤ちゃんができたと分かってから、私は変わってしまったのでしょうか。
息子だと分かり、息子ならば元グランプリの私に似ると分かり、私に似るならあの父に似ると分かり、私は1人舞い上がりました。そして遺伝子の半分は、元準グランプリの夫。美男じゃないわけがなかったのです。
しかし蓮が生まれたばかりの時は、流石に美男とは思いませんでした。あどけなさすぎる顔は美しさとは程遠くて、子育てに嫌気が差した時もありました。けれど、彼はきっといつか美少年に育つ。そう信じ続けて、子育てを乗り越えました。中学生くらいになるまでは本当に長かった。蓮が大人びてくるのを、今か今かと待っていました。

そして、ついにその時がやってきました。蓮は筋肉質になり、背が180cmを超えて、顎の輪郭がシャープになり、精悍な顔立ちに変化しました。
その顔は、若き日の父にそっくりで。それはもう…生き写しかと思うほどに。
私は父に、本気で恋することができなかった。父はもう、老いていたから。初老の美しい男性ではあったけれど、アルバムに残されたような輝きはもう、なかったから。そして何より、母から父を奪ってはいけないと、思ったから。
でも、蓮は違います。蓮を育てたのは私です。私の努力で蓮はここまで健康に、そして美しく育ってきたのです。美しくて若い蓮が今、私の目の前にいる。私は蓮を手に入れるためだけに、出産してもなお若作りに励んできたのです。父を奪いそうになったあの罪悪感に、苛まれることもありません。


蓮はとっても良い子でした。彼女ができた時には、ヒヤリとしましたが。
でも、焦った私が「ママと彼女、どっちが大事?」と聞いたら、表情を変えて即座に「ママ」って答えてくれたのが本当に嬉しくて。蓮はママを選んで、彼女を捨ててくれた。そう、それで良いの。蓮の隣にいるべきはママよ。
それ以来、蓮は学校からまっすぐ帰ってきて、私と過ごしてくれました。蓮の手は大きく、背中は厚みがあって温かく、唇はとても柔らかかった。夫より何倍も胸がときめきました。随分と低くなった声で「ママ、綺麗だよ」って言ってくれる蓮が、本当に、本当に愛おしくて。
老いていく夫よりも、大人になっていく蓮の方が魅力的なのは当たり前です。そして、彼が私よりも老いることは決してない。落胆せずに済むのです。こんなに素晴らしいことがあるでしょうか?蓮は私の人生における、最大の成功です。



夫は先週突然、離婚届を私に突きつけてきました。

「俺はもう、用無しなんだろう?蓮さえいれば、良いんだろう?...でも親権は俺だからな」

そんな、離婚だなんて、と口では言いつつ、私は笑みが零れそうになりました。危ない危ない。もしかしたら多少は笑みが零れていたかもしれません。
あぁ、やっと気づいてくれたのね、と。夫なんてもう、とっくにいらなかった。蓮を孕むことができたその瞬間から、とっくに。
私は聖愛を蓮に捧げることに必死だったから、すぐにサインしました。あっけない結婚生活の終止符でした。

蓮はまだ、完全に離婚したことを知りません。明日、きちんと伝えようと思います。



明日は待ちに待った、希望に満ちた日。私は今からワクワクしています。
なぜなら、蓮の18歳の誕生日だからです。
愛する彼に、私はとっておきのプレゼントを用意しています。
「綺麗なママが、俺は世界で1番好き。俺はママを愛してる」
私の目を真っ直ぐ見てそう言ってくれる蓮は、もう寝てしまいました。…ふふっ、まだ子どもですね。可愛い。
夫と使っていた寝室は、今日から私と蓮のものになります。

寝顔さえも美しい蓮の枕元に、プレゼントを置いておきました。




ーそれは、私との婚姻届。
旧姓に戻った私と、元夫の姓を持つ蓮が結婚すれば良いのです。そうすれば、より完全な形で永遠の愛を誓える。
男の子は、18歳になれば結婚ができます。正真正銘、私のものです。私の男です。
もうママとは呼ばず、下の名前で呼んで欲しい。もっと本気で、愛して欲しい。そんな多少の乙女心も、結婚すれば許されるのではないでしょうか。



これは決して、”性愛”ではない。”聖愛”なのです。
親が子どもに全ての愛を注ぐ。それは、当然ですよね?そしてそれはまさに、聖なる愛です。純粋な、穢れのない、神聖な愛です。
これは18年間彼を育て続けた、私自身へのご褒美でもあるのです。



これのどこがおかしいのでしょうか?どうして非難されねばならないのでしょうか?
どうして私を異常者扱いするのでしょうか?全く意味が分かりません。





だって、私のお腹から生まれてきたんだもの。共に生きるのは、当たり前ではないですか。

Re: crazy=justice【短編集・タイトル迷走中】 ( No.8 )
日時: 2020/09/21 11:29
名前: 美奈 (ID: cO3So8BN)

#8 正しく清く…

「あ、樹(いつき)くんのお母さん。こんにちは。今日はよろしくお願いします」

「お願いします。息子がいつもお世話になってます」

4年生最後の保護者面談。副島樹の母親は、水色のアンサンブルを身に付けていた。
俺は教員生活2年目。まだ成り立てで、右往左往することも多い。
勤め先の私立小学校は、なんだかんだでいわゆるモンペが蔓延っていた。「多額の授業料を払ってるんだから、言う事を聞きなさい」と言わんばかりの態度を取る母親の多さには辟易するしかない。だけど下っ端というせいもあって、俺はなるべく角を立てないようにしていた。「いや、授業料稼いでるのはお前の旦那だろ」という台詞を飲み込んで。

樹はいわゆる天真爛漫なタイプではあったけれど、問題児ではなかった。樹の母親は実権を持つ”強いママ友”グループにいるが、彼女自身は決して我の強い人ではない。むしろ、個性的なママ友をやんわりとまとめるような役割を果たしていたように思う。
おしとやか。寡黙。凛としている。周りに流されない。
そんな人だった。
彼女は育ちの良さそうな仕草で椅子を引き、俺と向かい合って腰掛けた。


彼女を見る度に、姉を思い出した。


俺は姉と生き別れている。
年の離れた姉だった。
俺が小学5年生の頃に両親が離婚して、姉は母について行った。母と姉のその後を、俺は知らない。
ただ、面倒見の良い姉だった。母は俺を嫌悪していたけれど、姉は可愛がってくれた。
母からもらえなかったクッキーを、姉はこっそり譲ってくれた。始業式ギリギリになっても終わらなかった宿題を、徹夜して手伝ってくれた。かけっこで転んでビリになって泣きじゃくった時は、そっと背中を撫でてくれた。

「あんたは要領悪くて運動も鈍い。出来損ないの子や」

母はいつも、俺にそう言った。

「あんたのずる賢くなれない所が可愛いし、十分優しくていい子だよ」

姉はいつも、俺にそう言った。鈍感なのが玉にキズだけどね、と悪戯っぽく笑いながら。

コインの表裏みたいな人達だった。俺は母を憎んで、姉を慕った。当然のことだった。
姉に会いたい。その思いはどんどん強くなっていくばかりだ。


目の前の彼女は、13年前に生き別れた、姉に似ていた。


「緒方先生?」

その声に、ハッとする。面談の内容が終わってから、俺はしばし黙り込んでしまっていたようだった。

「「あの」」

副島さんからどうぞ、と順番を譲る。自分の言葉に、蓋をして。
冷静に考えれば、違うことくらい分かっていた。目の前の彼女は年齢が上すぎる。

「あ…あの、緒方先生。来週の保護者会の後、みんなでご飯会しませんか、って佐藤くんママが。4年生最後だし、せっかくなら親だけじゃなくて、緒方先生もぜひ、ってことなんですけど、ご都合は…?」

佐藤の母親は、”強いママ友”グループの筆頭で、モンペの筆頭でもあった。この母親に逆らうことは難しい。
…それに、彼女がいるなら。
俺は手帳を確認して、その場で頷いた。


セレブな私立小学校のご飯会は、格が違った。
新宿の、飲食店・ホテル・オフィスが一緒になった高層ビル。その最上階にある、大きな窓をしつらえたフレンチレストラン。バーも隣接していた。
佐藤の母親が音頭を取り、貸切の華やかな夕食会が始まった。樹の母親は、黒のワンピースを身に付けていた。
着飾って夜を迎えたママ達は強烈で。俺はシャンパンを1本開ける羽目になった。樹の母親は他のママ友とは違って、俺に飲ませようとはしない。ただ、彼女のちょっと潤んだ目は俺を見つめていた。

「樹くんのことは、大丈夫ですか?」

「ええ。今日は息子と主人、義実家へ泊まりに行ってるんです」

綺麗だった。樹を続けて担任するとは思わなかったので、これが最後だと思った。俺は否応なく回ってくる酔いと闘い、耳が熱くなるのを感じながら、黒いワンピースを着たその人を、しっかりと目に焼き付けた。


*******


予想通り、再び樹の担任になることはなかった。当時の俺には、高学年の担任は任されそうになかったからだ。
だから、夢にも思わなかった。

…また、彼女がここに来るなんて。

「お久しぶりです、緒方先生。真乃(まの)がお世話になります。もう8年目、でしたっけ?教師が板についてきたんじゃないですか」

「そんなそんな。僕はまだまだですよ、副島さん。…樹くんは、元気ですか」

今日は1年生の保護者面談。今度は副島真乃が、樹と同じこの小学校に入学してきたのだった。お陰様で、樹は元気ですよ、と答え、パステルピンクのトレンチコートを着た彼女は、品の良い仕草で腰掛けた。
再会できた喜びと驚きを抑えるために、俺は本題に切り込んだ。

「真乃ちゃんは、まだ学校に慣れてないのかもしれませんが…勉強道具の準備に、ちょこっと時間がかかるみたいで」

俺がそう言うと、彼女は困ったように目尻を下げて、笑った。

「そうなんです。…樹と違って、真乃は鈍いの」

そう言うと彼女はなぜか、徐にトレンチコートを脱いだ。すると、胸元と背中が大きく開いて、脚元にスリットの入ったワンピースが目に飛び込んだ。突然のことにうろたえる俺など気にも留めない様子で、彼女はその魅惑的な容姿を見せつける。
…そこにもう、姉の面影はなかった。

彼女が俺の耳元に近づいて、囁く。

「真乃はね、鈍いの」


そのまま、急に背後から抱き締められる。
耳が熱く感じるのは…あの日のデジャブ?

彼女はそのまま、俺の顔を撫でて言った。



「……真人(まさと)くん。あなたにほんと、よく似てる」

Re: crazy=justice【短編集・タイトル迷走中】 ( No.9 )
日時: 2020/09/24 00:11
名前: 美奈 (ID: cO3So8BN)

#9 何もいらないよきっと

「ねぇ環(たまき)、好きな人いないの〜?」

「えっ、またぁ?!...う、うーん……」

彼女は私の顔を覗き込み、途端にニヤニヤし始めた。

「あっ!なんかいつもと反応が違う!何悩んでんのよ〜私に言ってみなさいよぉ、言ったら楽になるよ〜」

「や、やめてよ夕菜、刑事みたいな真似」

「へへっ。だって環とついに恋バナできるってなったらさ、やっぱ気になるじゃん〜!何組の子?名前は?」

「何よもう、矢継ぎ早に…」

何組?って言われても、この高校にいないし。多分。
名前は?って言われても、知る由もないし。絶対。

高校生になってから、幼馴染の夕菜は恋バナばかりしようとする。
夕菜は入学してからというもの、ずっと同級生の麗央に夢中になっていた。
…あんな思いやりのない奴、やめときゃいいのに。可愛い夕菜が付き合えても、不幸になるだけ。麗央の女子への言動を見ていれば、すぐに分かるのに。私は夕菜が泣くのを見たくない。
でも、頑固な彼女は言ったって聞きやしない。もう10年以上の付き合いになれば、そんなことはすぐに分かる。良く言えば一途、悪く言えば強情。
イケメン!ほんと好き!と私に言ってる割には麗央にアタックする気配がなく、いわゆる「ファン心理」しか働いてなさそうである。
そんな彼女は自分ばかり麗央の話をして申し訳ないと思っているのか、私にもしきりに恋バナを振ってくる。けれど、入学して3ヶ月で色恋に走るほど、私はアクティブではない。恋愛なんて概念は太陽と海王星の距離くらい、私にとっては遠いものなのだから。


好きな人、ねぇ…。
性格とか価値観が割と異なりながらも何だかんだで気が合う私たちだけど、恋愛に関しては真逆。思いっきり逆。清々しいくらいに逆。
人の良い面を見てもときめいたことなんてないし、一目惚れだってない。
…と、思ってた。先週の土曜日までは。


「名前…わかんないの」

「え?」

「近所でぶつかった金髪の、30代くらいの人に、多分、一目惚れ、した…かも」

「え?!ちょ、ちょっと待って環、あんたチャラ男が好きなの?!」

「いやチャラくないってば」

「はぁーん、環ちゃんは年上男子が好みなのねぇ。ねね、今週も同じ場所に行ってみなよ。また会えるかもよ?」

「あ、会えるわけな」

「会えるってきっと!ね、会えたら声かけてみなよ。名前知らないなんてもったいないよ。チャンスは逃しちゃダメだよ」

「あのねぇ夕菜。あんたその割には全っ然告る気ないじゃん麗央くんに」

「私はいいの。新しい恋愛を見つけたのよ…。眺めてるだけで満足、それ以上は望まないってスタイルを。てか一緒に恋バナしようよいい加減!もう私待ちきれないんだけど!」

「いや待ってなくていいから!タイミングってのあるし!」

もーう、何よタイミングって!と頬を膨らませ、夕菜は私と違う教室に戻っていった。


次の土曜日、私は先週と同じ道を歩いていた。
半信半疑で私は親友の言葉に従ってみることにした。…たまには頑固な彼女の意見も聞いてみるもんだ。
金髪だから、よく目立つ。なぜ惹かれるのか分からないけど、とにかく目は彼を追い続けていた。
軽く尾行して、けど、追いつきそうになっても声なんてかけられるはずがなかった。私も夕菜みたいに眺めてるだけで満足、なのかもしれない。
そう思っていたら、クラクションの音がした。

目の前にいたはずの初恋の人は、いなかった。

私はなぜか前に進むことができなくなって、思わず踵を返してしまった。
翌日、何か手がかりがあるかもしれないと思って地方版の新聞を見た。
私がいた場所で、事故が起こっていた。彼は突然道に飛び出した、見知らぬ子どもを助けようとしたらしかった。


「環、結局会えたの?彼とは」

所持品がなく、身元不明。

「ねーえ。声、かけられた?どうだった?昨日LINEしたのに返信くれないんだもん!気になるんだけど!」

なおも黙る私を見て、夕菜は心配そうな顔になった。

「環…?どうした、何かあった?」

名前も何も分からない人。
たった1つ分かったのは、勇敢な人だということ。それだけ。
でも、それだけで良いのかもしれない。
名もなき彼が命をかけて子どもを守ったことは、私がちゃんと覚えている。
彼をちゃんと見れたのはほんの一瞬だったけど、素晴らしい人を好きになったんじゃないかと思う。

「夕菜。新しい恋愛、いいかもね」

「え?」

「恋愛にさ、名前とか、所属とか、何もいらない気がする。眺めてるだけで良いっての、ちょっと分かるかも」

夕菜以外の人間を好きだと思えたことは、今までなかった気がする。
人を人として好きになることが、なぜかずっとずっと難しかった。恋愛対象として意識することは、もっともっと難しかった。

でも自由でいいんだと思う。私は初めて、ときめきのある感情を抱いた。
名前を知らなくったって、まともに声を聞いたことがなくったって、相手の視界に自分が入ってなくったって、いいんだと思う。


きっと、相手がこの世にいなくても、いいんだと思う。


「でも、初恋にしてはちょっとハードル高かったかもな」


あなたの話を、親友にしてもいいですか。
かっこ良くて、勇気あるあなたの話を。


よく晴れた空を見上げて心の中で尋ねたら、わずかな風が髪を揺らした。

Re: crazy=justice【短編集・タイトル迷走中】 ( No.10 )
日時: 2020/09/28 20:46
名前: 美奈 (ID: cO3So8BN)

#10 離婚式

 ミナミのママにはね、口癖があるの。
 それは「パパと別れたい」と、「パパがいなくなればいいのに」の2つ。

 変だよね。
 ミナミのママとパパはどっちも大好きだからけっこんしたのに、ミナミはパパとママの大切な宝物だって言うのに、ママは別れたいって言うの。パパに消えてほしいと思ってるの。
 最初はね、ミナミもふしぎだなって思ってたの。ミナミの大好きなママが、ミナミの大好きなパパと別れるなんて、ぜったいはんたい! って思ってたの。
 でもね、この前、なんでママがそんなことを言うのかわかったの。

 パパがママにグーパンチしてた。あれはミナミが好きなアニメで出てくるパンチとは違うってすぐにわかった。だって、ミナミが見てるやつは、おともだちを守るために、悪いやつをやっつける時のグーパンチ。でもお互いに大好きな人どうしがグーパンチするなんて、おかしいよね? ママが必死にやめてって言ってるのに、パパはぜんぜんやめようとしなかったの。ほんとはね、「パパやめて」って言いたかったんだけどね、ミナミがのぞいてたドアの隙間から、一瞬だけママと目があったの。その時ママは首を横に振ってた。ミナミがドアをそっと閉めようとしたらママがうんうんってうなずいたから、多分パパにやめてって言っちゃいけなかったんだと思う。

 次の日、朝起きたらパパはいなくて、ママがミナミをギュってしてきた。
 こわかったよね、ごめんねって。
 でも、ママがあやまることじゃないよね? ミナミ、保育園の先生から習ったもん。ケンカしても、パンチはダメだよって。大事なおともだちをケガさせちゃダメなんだよって。パパにとってママは、ともだち以上のかんけいでしょ? だからすっごく大事なはず。なのに、ママをパンチしたの。めちゃくちゃひどいよね。ミナミ、パパがキライになっちゃった。

 それからママは、ミナミと2人の時に、「パパと別れたい」とか「パパがいなくなればいいのに」ってたくさん言うようになった。大好きでもキライになることがあるんだって知ったし、ミナミも大好きなママをパンチするような人とは別れた方がいいと思ったの。
 そしてとうとうママは、ミナミをくやくしょに連れていった。なんか、紙をもらいに行く、とかいって。
 ママはその紙が手に入った時、すごい安心したみたいな、ほっとしたような顔してた。

「ミナミ。これはね、魔法の紙だよ」
「まほうの紙?」
「そう。これは離婚届って言って、ここにパパとママの名前を書いてハンコ押して、さっきの区役所に持っていくと、パパとママはお別れすることができるの」
「え、それすごいね」

 ミナミはかんどうしたの。だってその紙で、ママはパンチするわるもののパパから離れることができるんだよ? すっごい、って思った。
 でもミナミはね、まだわかんなかったの。その紙に名前を書いてハンコを押すってことが、どれくらい大変なことなのか。
 ある日、ミナミが寝てるのに、リビングからガチャガチャ音がするなって思ってドアの近くに行ったら、またパパとママがもめてた。おれはサインしないぞ! ってパパのおっきな声が聞こえてきて、あ、多分“りこんとどけ”のことだってミナミはすぐわかったの。

 次の日の朝、ママの目は赤く腫れてた。あのまほうの紙に、名前を書いてくれないって。しかもあの紙を破っちゃったんだって。ほんとひどい、パパ。
ミ ナミに抱きついて泣くママが心配だったけど、その時、ミナミ思いついたの。てゆーか、ふしぎに思ったの。
 なんでけっこんしきはあるのに、りこんしきはないんだろって。
 テレビでニュースをみて、けっこんにもいろんなスタイルがあるんだって知ったの。
 “こんいんとどけ”を出さないでけっこんしきをあげる人。“こんいんとどけ”だけ出して、けっこんしきをあげない人。いろんな人と形があっていいんですよ、ってテレビの中の人が言ってた。
 それならさ、パパが“りこんとどけ”を破ったんだったら、その代わりにりこんしきをやれば、別れられるんじゃない?
 ちょっと待って。ミナミ天才かも。

 ママにミナミのめいあんを話したら、「えっ?!」って言われた。そんなに驚かなくてもいいじゃない、ママ。
 ミナミはパパとママのけっこんしきに出たことがあるから、だいたいどんな感じだったのかを覚えてる。パパとママは“できちゃったこん”でね、ミナミが生まれたあとにけっこんしきをあげたの。そこで“ケーキにゅうとう”っていうのをやったんだよね。
 りこんしきでも、“ケーキにゅうとう”をやればいいんじゃない? ってママに話したら、うーん、って言ったあと、「やってみようか。一泡吹かせたいし」って言った。ひとあわって何だろ…?わかんないけど、ママが賛成してくれたならいいや。

 ママはその日のうちにケーキの材料をスーパーで揃えてきて、おいしそうなショートケーキを作った。

「ミナミ、作ったけど、これでうまく行くかな」

 ミナミにはもう1つ、めいあんがあった。ママとスーパーに行ってる間、ずっと考えてたの。ひとあわ、の意味。それで思いついたんだ。
 パパにひとあわ吹かせるための、めいあんが。

「ママ、これ3人分に切り分けて、パパの分だけミナミに貸して」
「えっ、ケーキ入刀なら切り分けたら意味なくない?」
「いいから。ケーキでひとあわ吹かせれば、いいんでしょ?」

 ママからもらったパパの分のケーキに、キッチンにあった透明の洗剤をソースみたいにしてかけた。これなら透明でバレないし、あわを吹かせることができそうじゃない? これでわるもののパパをびっくりさせて、ママとミナミだって本気出したらこわいんだぞ! ってことを思い知らせてやらなくちゃ。

「み、ミナミそれは……」
「これ毒じゃないでしょ? びっくりさせるだけだよ」
「う、うん……」

 パパが帰ってきた。ミナミの前では「パパ帰ってきたよ! ミナミはいい子だね〜」って優しいパパの顔をする。「今日はミナミもお手伝いしたケーキがあるの、食べて!」って言ったらパパはくっしゃくしゃの笑顔で、うん! って答えた。パパが手を洗いに行った時、ママとこっそりニヤニヤしちゃった、へへっ。これからついにりこんしきが始まる。

 お皿を間違えないように注意して、パパにケーキを渡した。
 パパはケーキを口に入れた。うっわ、大きな一口!

「……お、おい、なんだこれは!!」

 みるとパパの口はあわだらけ。ひとあわ吹かせたよ! って思ったけど、大変。結構怒らせちゃったみたい。
 ミナミがいるのに、目の前で、おめぇか? あ? ってママに言い始めたから、あぶない! って思った。だから、パパが立ち上がった時に踏みそうなとこに、ミナミのおもちゃを置いてみた。パパはテーブルの下で動くミナミには気付いてないみたい。おもちゃを置いて、すぐ離れた。だってパパこわいもん。
 ミナミの思った通り、パパは立ち上がって、震えるママに掴みかかろうとした、けど…
 やった、今日2回目の成功。パパがミナミのおもちゃにつまづいた。
 でも、ここからはちょっと思ったのと違っちゃった。

「って!……ったぁ……てめっ」

 パパはミナミのおもちゃでバランスを崩して、テーブルのカドに頭をぶつけちゃった。ありゃ、パパのおでこめっちゃ赤い。血が出てる。
 ママはびっくりして動けないでいる。ミナミもびっくりしたけど、“じごうじとく”じゃない? とも思ってる。こうなったら、もう少し痛がらせとこ。ママにひどいことしたんだもん。パパも同じくらい苦しまなきゃ。多分もうちょっとほっといても、パパは死なない。
 ママが泣き出しちゃった。パパはちょっと気を失ってる。
 だいじょぶだいじょぶ、ママはわるくないよ。だって洗剤を入れたのも、おもちゃを置いたのもミナミだもん。ミナミは子どもだから、けーじさんが来てもママが責められることはない。それに、パパがママにパンチしてたことをミナミがけーじさんに話せば、きっとママはパパと別れられる。ミナミは大好きなママと一緒にいられる。
 ママのことは、ミナミが守るからへーきだよ。

 ……あ、そろそろパパまずいかもね。
 パパが死んじゃうと、多分けーじさんもこわくなる。そろそろ助けを呼ばなきゃ。

 ママも同じタイミングで同じこと考えたみたい。やっぱミナミとママは親子だね。
 でもまだ泣いてるママは、どうしよう、どうすればいいんだっけ、って言って、スマホを持ってる手が震えてる。

「ママ、貸して」

 迷わす119を押したら、すぐに電話がつながった。
 言うべきセリフはちゃんと頭に入ってる。やっぱミナミ天才かも。

「あのね、りこんしきのケーキにゅうとうの途中で、パパが転んで血流しちゃった」


Page:1 2



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。