ダーク・ファンタジー小説

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祈りの花束【短・中編集】
日時: 2021/02/23 18:05
名前: 厳島やよい (ID: l/xDenkt)
参照: https://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=20203

 春と秋特有の夕方ごろの空気感が、どうにも憂鬱で苦手です。

店先もくじ >>26

Chika【完結】 ( No.24 )
日時: 2021/08/17 00:12
名前: 厳島やよい (ID: uT5MQLCg)


■あとがき、解説など

・自分の好きな雰囲気
・登場人物たちを見守る、見届けるようなストーリー
・すべてを語り尽くさないこと
 ……以上が、今回重視したことです。世間一般的な面白さは普段より二段も三段も落ちたと思います。

 めずらしく恋愛要素の強い作品に仕上がりました。前作『すばる』の前日譚ではありますが、そちらを未読の方でも楽しめる内容にできたんじゃないでしょうか。
 すでに前作をお読みになっていて、なおかつ記憶力のある方や勘のいい方は気づいたかもしれません。本作は「たまによくいる」女の子の、お姉ちゃんの話です。昴琉の兄・千嘉の、ただ一度でも幸せだった瞬間を作ってあげたい、書いてみたい、という思いも昇華して。
 それでもいちばんの目的は、将来的に書きたい話の練習のため。二番目がストレス発散。上記の理由はせいぜい三番目くらいでしょうか。
 じつはもともと、非公開の予定でプロットすら立てておらず、自分の気が済むまでただ書くつもりだった作品なのです。

*

 次回投稿予定のお話は『あなたが天使になる日』(ダーク・ファンタジー板)の続編兼番外編。『Nerine』以上のファンタジー要素が入ります。
 こちらも『あなたが天使になる日』を未読の方でも楽しめる内容にしていきたいと考えて執筆しております。もちろんすでに読んでくださっている方も、その分きちんと楽しめるように。
 だいぶ時間がかかりそうなので投稿時期は未定とします。

 『Chika』を読んでいただき、ありがとうございました。
 世の中には夏の美しさを伝える表現者が多いけれど、冬のほうが好きなので、冬の美しさを伝えられる物書きでありたいです。

 厳島



晴柀はれまき 千花ちか  あだ名:春巻はるまき(文字上)、春巻き(台詞内)
主人公。本編中、登場時おもに二十四~二十六歳。
身長は低め(具体的な数字はご想像にお任せします)。左きき。

雨宮あめみや 千嘉ちか
千花の恋人だった人。身長は高め(ご想像にお任せします)。

真幌まほろ 深幸みゆき
千花たちの同級生。背は千花よりさらに小さい。

晴柀はれまき 風花ふうか
千花の五つ歳下の妹。
前作、今作ともに本編中で一切名前を出さなかった意図はとくにありません。






インスパイア元やパロディネタ、登場した実在する作品

4.『愛の部品』
→『はじまりはいつも雨』ASKA(歌詞より)

5.『Chika,good night』
→『Alice Good Night』Night Keepers 守夜人

7.『日照雨そばえが上がる』
→『陽の照りながら雨の降る』Cocco(タイトル・歌詞より)

1.『彼の死』にて主人公がテレビで観ていた映画
→『潔く柔く』(2013)

7.『日照雨が上がる』にてすれ違った親子が歌っていた曲
→『雪のペンキ屋さん』則武昭彦・安藤孝子
 
 

『夢の花売り』 ( No.25 )
日時: 2021/01/28 02:45
名前: 厳島やよい (ID: l/xDenkt)



 おや、お客さんかい。久しぶりだなあ。いんやねぇ、この街にはあんまりたくさんお店があるものだから、こんな地味でぼろっちいところはもう見向きもされないんだ。最初から存在しないみたいに、だれの視界にも入らない。
 ああ、ここはねえ、こう見えて花屋なんだ。でもただの花屋じゃないよ。一輪一輪が、風や川のながれに漂う、ひとの記憶の小さなかけらを養分にして育つんだ。花が満開を迎えたとき、鉢植えや花瓶を枕元に置いて眠ると、だれかの人生の一片を、物語を、夢に見ることができる。人の価値観も経験もいろいろだからな、悪夢じゃねえって保証はできない。そこは頼むぞ。

 物語が、この星に住むやつらからきれいさっぱり忘れられちまったとき、花は枯れる。だからこの花たちは、死んだ人の生まれ変わりだとか、魂が宿るなんて勝手に噂された時代があるんだよ。
 ほら、よく言われているだろう? 人間は二度死ぬって。一度目は、肉体的な死。二度目は、忘却による死。すべての人から存在を忘れ去られたとき、そいつは死んじまう。その言葉を体現したような花だってな。
 でもな、お客さん。俺ぁそうは思わねえんだ。…………あぁ? 天国なんざ信じちゃいねーよ。この世が既に地獄だからな、はっはっは。冗談だよ、半分。
 人は、人の想いは、三度目、文化や伝統が失われたときにほんとうに死ぬんだと思ってんだ。この広い広い世界の、長い長い歴史の中で、数えきれねえほどの人々が築き上げ、愛し、守ってきたものだろう。魂が宿るとしたらそっちなんじゃねえかなあ。そう信じてぇんだ。なんだかんだで俺は、この世界が大好きだからよ。
 まあそんなわけで、創業二五〇年を迎えたこの商売の伝統を守るためにもどうだい、一輪からでも。おすすめ? お客さんのすぐそばにある、そう、その鉢のピンクの花なんてどうだ。綺麗に咲くぞ──そいつにすんのかい、毎度あり!

 もう店はたたんで、どこか別の国で新しく花屋を開こうかと思っていたが、もう少しだけここで暮らしつづけてもいいかもなあ。
 ああそうそう、花たちが見せる夢には、ときどきこの世界のもんじゃねえのが混じってるからな。
 俺たちよりちょっと不便な世界に住む、俺たちよりちょっと不器用なやつらの物語だよ。


     🌼おしまい🌼
 
 

『店先』 ( No.26 )
日時: 2025/05/08 21:10
名前: 厳島やよい (ID: AFVnreeh)

🌱 谷底の落下星【SS】 >>28

それは御伽話? 実世界?

 

🌼 Nerine 【完結】 一気読み用>>1-5 (あとがき>>6

 ちいさな世界の、ちいさな秘密のはなし。

     □

捷利(カツトシ)……主人公。大学生の男の子
夏生(ナツミ)……カツトシの同級生で幼馴染
謎の女の子……???



🌼 Chika【完結】 一気読み用>>8-22 (あとがき>>24

 とある死にたがりな三人の、舞台裏での話。

     □

URL参照、複雑・ファジー板『すばる(完結)』番外編
イメージソング:『憂、燦々』クリープハイプ

 ※暴力表現や若干の同性愛描写などがあります。
 『Nerine』とは大分雰囲気も異なるのでご注意ください。

■目次
1.『彼の死』>>8-9
2.『彼女の祈り』>>10-11
3.『-1』>>12-13
4.『愛の部品』>>14-16
5.『Chika,good night』>>17-19
6.『±』>>20-21
7.『日照雨そばえが上がる』>>22



🌱 夢の花売り【小噺こばなし】 >>25

 2020年冬小説大会 ダーク・ファンタジー部門にて『祈りの花束』が次点を戴きました。ありがとうございます。
 記念といってはなんですが、この作品自体にすこし関係のある、そして気持ちばかりの皮肉や洒落も織り込んだ、短い物語を書いてみました。お楽しみいただければ幸いです。



🌱 伽藍堂がらんどう花手水はなちょうず【散文集】 >>27

 再編集した過去のお気に入り六作+書き下ろし一作。
 『ひとり』『かなしくて、やりきれない日は』はわたしの好きな写真家さんとコラボ(?)させていただいた作品です。どちらも写真からイメージを膨らませて書きました。
 そもそも短文が得意じゃないし、普段の書き物があんな調子だしで、散文系でも、切ない儚いようなものしか書けないのがちいさな悩みです。色々な意味でけっこうヒィヒィ言いながら書いています。楽しいのだけれど。



🌼 祈りの花束(旧題:いたみ、いのり、ねがうこと)

 あなたの幸せを、わたしはずっと、祈りつづける。

   □

執筆中、投稿時期未定
 
 

『伽藍堂の花手水』 ( No.27 )
日時: 2021/02/23 18:12
名前: 厳島やよい (ID: l/xDenkt)



   『夜』

 流れ星が、

 うつくしく、
 うつくしく、
 うつくしく、
 うつくしく、
 うつくしく、
 うつくしく、
 うつくしく、

 消えていく。


2018.6.27



***



   『ひとり』

「くだらない、じつにくだらない!」

 朝焼けに染まる窓の向こう、空の薄ら青いてっぺんすれすれを飛んでいきながら、大きなカラスがさけびました。
 その声は、笑っているようにも、涙をこらえているようにも聞こえました。

「だがしかし、それがとてもいとおしい!」

 ぐわああああ!
 空も木々も、鉄塔も、田んぼの水面さえ、びくともしませんでしたが、その叫び声は、ちいさな女の子の心をたしかに震わせました。
 きょうもわたしたちは、わたしたち一人ひとりがかけがえのない大切な存在なのだと、勘違いをしながら生きていくのです。

「がんばらねえでがんばれよ、じょうちゃん!」


2019.6.4



***



   『The dawn』

 夜が明ける。
 闇はしずかに遠くへ散って、そのまっくろい瞳を、そうっと閉じる。

 だれかが目覚めるたび、ひとつ、ふたつ。
 だれかの声で、みっつ、よっつ。

 光にゆられて眠りにつく。


2019.3.30



***



   『I am ■』

「きみはわからなくていいんだよ。わかっちゃいけないんだ、こんな気持ち」

 今のわたしにとっては、ずーっと、ずーっと昔のこと。
 いろんな人の気持ちを知りたいと、神様にお願いしたことがある。なぜかは覚えていないけど、あのとき、とても悲しくて、むなしかったことだけはよく思い出せる。

 長い長い時間をかけて、その願いは少しずつ、叶おうとしている。
 お母さん。
 お父さん。
 おともだち。
 せんせい。
 あのとき大好きだったひと。
 あのとき大嫌いだったひと。
 わたしによく似たあのひと。
 わたしにちっとも似ていないあのひと。
 彼らの気持ちが、この、大きくなった手のひらにとるように。少しずつ、わかるようになってきた。
 よかったねと、ちっちゃなわたしは笑って言う。でも、大きくなったわたしは、頷いてあげられなかった。
 ちびちゃん、どうしてだと思う?
 なんて、ごめんね。そんなこときいたって、わからないよね。

 きみはわからなくていいんだよ。
 わかっちゃいけないんだ、こんな気持ち。 

   『I am U』


2019.1.28(タイトル:2021.2.20)



***



   『夜凪の街』

 潮のかおりが沈む街。
 あなたの指先の煙、細くまっすぐ立ち昇る。

 水平線の瞬きは、空から落ちたおほしさま。
 だからこの街の夜空は、いつだって暗いの。

 割れた白い月だけ、きょうもふたりを見下ろしている。

 もう眠りなさい。遅いから。


2018.6.29



***



   『かなしくて、やりきれない日は』

 たくさんたくさん泣きなさい。我慢なんてしないで、思う存分泣きなさい。ずっとあなたを抱き締めているから。その手を離しはしないから。
 一度この世に生まれてしまった悲しみは、きっと死ぬことがないし、消え去ってくれることもないけれど。涙が溶かして薄めてくれるのよ。
 だから、たくさん泣きなさい。
 そしてその分。
 遠い未来でもいいから、たくさんたくさん、笑いなさい。


2018.8.11(タイトル:2021.2.20)



***



   『もしも生まれ変わったら』


 もしも 生まれ変わったら
 ぼくは 花になりたい

 春をよろこぶ さくらになりたい
 秋をいろどる ばらになりたい

 ほどよく あったかいのが 好きだから


 もしも 生まれ変わったら
 ぼくは 空になりたい

 大きな雲を浮かべる 青空になりたい
 いっぱいの星を包む 夜空になりたい

 そしたら 何度だって きみと見つめ合えるから


 もしも 生まれ変わったら
 ぼくはやっぱり 猫になる

 やわらかい毛並みの まっしろな猫になる
 でも まっくろなのも すてがたいなあ

 そしたら 大好きなきみの膝の上で また眠るから


   『もしも生まれ変わったら:人に恋をした猫のはなし』


2021.2.21



***



※年月日:書いた日

花手水はなちょうず
寺社の手水舎や手水鉢に、色とりどりの花を浮かべる飾りつけのこと
 
 

『谷底の落下星』 ( No.28 )
日時: 2025/05/08 21:02
名前: 厳島やよい (ID: AFVnreeh)



 だれもが私を醜いと言いました。親も、きょうだいも、祖父母も、となりのあの子も前の子も、後ろの子も、知らない人たちも。
 もうわかっているから、放っておいてほしいと何度もお願いしました。それでも私は、放っておいてはもらえませんでした。
 石ころのように蹴られ、投げられ、落とされ。いっそぼろぼろになってしまいたかったのに、そうもいきません。石ころだからです。
 花だったあの子は、それはそれは大切に愛でられて、ぼろぼろに枯れゆく様すら美しいと評されました。消えてなくなってしまっても、咲き誇るあの頃を何度だって絶賛されました。花だからです。
 石は花になれません。
 逆立ちしたってなれません。
 もう私は嫌気が差して、花の根を支える砂粒にいつかなれればいいやと、高い高い崖の上から飛んでみることにしました。
 ですがあと一歩というところで、つかまえられてしまいました。
 そのひとは私を美しいとほめたたえ、だからここから飛ばないでほしいというのです。
 そんなの知らない、頼むから私を放っておいてほしい、とお願いしました。けれどもそのひとは、ぎゅうと掴んで私を放しません。
 飛ばないで、飛ばないでと、祈るように、縋るように、何度もささやきかけながら、ついにはぽろぽろと涙を落としてしまいました。
 石は蝶にもなれませんでした。

 私はそのひとに愛でられるまま、蝶になることも砂粒になることもあきらめて、遠い空を見つめて生き続けていました。
 そのひとは私を蹴ることも、投げることも、落とすこともしなかったからです。それどころか私をしつこく磨いてはうっとりと眺め、包みこんできます。
 だれもが醜いと言う私を、美しいと言って。
 何分も、何時間も、何日も、そばで見つめて笑いかけるのです。
 何週間も、何年も、頬を寄せて抱きしめるのです。
 いつしか、まわりからの醜いという言葉は聞こえなくなっていました。
 私は本当に美しいのかもしれないと思いはじめていました。
 石は宝石になっていたのです。

 私はこのひとに愛でられるまま、蝶になることも砂粒になることも忘れて、広い空を見つめて問いかけました。

「私と一緒に、この空の星になってくれませんか」

 きっと頷いてくれると信じていたから、私は怖くありませんでした。
 でも。
 このひとは、頷いてはくれませんでした。

「きみを愛することはできるけど、星になることは、できない」

 このひとの目に映る私は、これまでの私よりずっときれいで、輝いて、いるように見えたのは、気のせいだったのかもしれません。

「いっしょに星になりたかった花が、遠い昔に枯れてしまったんだ」

 それはあの日の、花だったあの子のことでした。

「きみを空に連れていくことならできるよ」

 その足でぎゅうとわたしを掴んで、わたしを包んでいた翼で羽ばたいて、小さくなっていく町を、川を、山を、越えて、越えて、越えて越えて。
 天辺にたどり着くと、そっと私を離しました。
 宝石は星になっていたのです。

 ごめんね。
 愛しているよ。
 ただそれだけを言い残して、あのひとは吸い込まれるように夜へ帰ってしまいました。
 鳥は星にならなかったのです。

 私はしばらく静かな空をたゆたって、あのひとの消えた夜を見つめて生き続けていました。
 夜の下からしょっちゅう声が聞こえてきます。その声は私を褒めそやすもので、ひとり、またひとりと増えていくのです。
 ですが、あのひとの声はどこからも聞こえません。
 声はどんどん大きくなって、広がって、もはや何を言っているのかすらもよく聞きとれなくなってしまいました。
 あのひとの声はどこからも聞こえないままです。
 隣の星はみんな遠くて、なのに、周りはみんな、お互い近くで寄り集まっているように見えました。
 星は孤独になったのです。

 その日から、長い長い雨が降りました。
 町も川も山も見えません。
 だれの声も聞こえません。
 私は泣きわめいて、泣きつかれて、ふと雨がやんだとき、夜の下にたくさんの灯りがあるのに気がつきました。
 灯りたちは隣の星よりずっと近いです。
 さみしくてたまらなかった私は、迷わずそこへ飛び込んでいきました。
 孤独な星は流れ星になったのです。

 どこからか悲鳴が聞こえました。
 飛び込む私すら美しいという人も中にはいました。
 灯りたちのすぐ傍までやってきたとき、私はやっと気づいたのです。
 それが水面に映る私と、周りにいた星たちだったことに。


 落ちた流れ星は、目が覚めると石ころになっていました。

「おかえりなさい」

 なぜか隣にはあのひとがいて、やさしい笑顔と涙をうかべながら、そっと私を包んで言うのです。

「ごめんね。愛しているよ」

 石ころと鳥は、それから決して、離れることはありませんでした。



***

執筆:2025/05/06 〜 05/07


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