ダーク・ファンタジー小説

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ヴァンパイアハンターに愛しさを。
日時: 2021/01/16 14:10
名前: 紫月 ◆GKjqe9uLRc (ID: w1UoqX1L)

 こんな世界で生きていかなければならない俺達は、どうすればいい?
 そうだ、安心なんて言葉は無く怯え、涙を呑む日々を過ごさなければいけない。

  美しさにも、愛しさにも心奪われてはいけないと、赤が告げる。


ナイフを握った時から、そんなことはとっくに決めていたのに。

_______

◇挨拶
 初めまして紫月と申します。初投稿になりますので色々至らぬ点があると思います。温かい目で見て頂ければ嬉しいです。


◇注意
・流血表現、暴力表現、死ネタがあります。
・度々書き直したり加筆します。
・更新は週1ペースにしたいのですが、忘れてしまったらごめんなさい。許して下さい。
・コメント(感想、アドバイス等)頂けると喜んで壁に頭をぶつけます、お気軽にどうぞ。元気があれば、作品も読みに行かせて頂きます。



◇目次

最新話>>5
一気に>>1-

・序章 
【雪夜を駆ける】>>1

・第一章 【誓い】
一話:「イザック・ミシェル」>>2-4
二話:「レティシア・フォンテーヌ」>>3-5



〚 軽い説明 〛


【ヴァンパイアハンター】人類のヴァンパイアだけを抹殺する人間の事。国家公務員、言わば自衛隊員として職業化したもの。
年齢は制限されておらず試験を突破したら誰にでも就ける。金の為、復讐の為、やることがなかったからと理由は様々。出生を明かす、または本名を言う事は何故かタブーとされている。


吸血鬼ヴァンパイア】突如現れた人類の敵。人間の血肉を喰らう化物。
 吸血鬼の中にも階級があるらしく低階級の吸血鬼は理性が無く本能のまま人間を求めるのだがナイフで刺されたらあっと言う間に砂になる弱き吸血鬼達を指す。

 中階級は上階級吸血鬼の眷属などである場合が多い。理性を保つことが出来ずが血への喉への渇きは感じるよう。
 上階級は王や貴族と言った者でナイフで刺されても倒れるだけであって直ぐに再生出来る。人間を家畜と呼ぶ者も中には居て愛玩動物にでも子供を連れ去ることが多い階級吸血鬼。

【コロア】ヴァンパイアハンターだけに支払われ優遇度を上げる切手の単位。貯め続け国家に突き出せば身分が上がる代物。


【ミツバチ】吸血鬼に金や待遇と引き換えに血を与える者。そういう紹介場がある。限度を知らない吸血鬼に当たった場合、死ぬ場合や植物状態になる場合がある。帰らない者も居る。

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Re: ヴァンパイアハンターに愛しさを。 ( No.1 )
日時: 2021/01/10 14:33
名前: 紫月 ◆GKjqe9uLRc (ID: w1UoqX1L)

序章【雪夜を駆け抜ける】

 ほぉーほぉーと母喰鳥ふくろうが鳴いて不気味な霧が掛かるそんな墨のような闇の中を彷徨う影が一つ。

 「血ガ足リナイ……モット、モット……ッッ」

終わることのない喉の渇きに吸血鬼は苦しそうに喚き欲望を溢した。
 腐敗した継ぎ接ぎの手をよろよろと動かし、獲物を探すもそれらしい声も匂いもせず。
ただ吸血鬼は垂れてきた唾を呑んだ。
 

 ふと、若い女の甘い香りが吸血鬼の鼻孔をくすぐった。吸血鬼は獲物が近くに居ると高ぶった感情を隠しきれず一心不乱に手を動かし足を動かし、涎を垂らす。

 掴んだ細い手首に興奮しながら吸血鬼は醜く鋭い牙のある口を開いた。
 「血ッッ!! コレダ、オマエノ血!!」
奇声を上げながら首に噛みつこうとするも腹部から焼けるような痛みが走る。
 痛イ痛イと醜く五月蠅く泣き叫ぶ吸血鬼が見た最期の光景は女ではなく男が笑って銀製のナイフを懐にしまう所だった。

 吸血鬼は朝日が昇るまで考え続けた。何故自分は男を女だと勘違いして襲おうとしたのだろうか、どんなに空腹でも男と女は間違えないのにと。


 醜い吸血鬼は雪と一緒に地面に降り積もった。



 
 その影が自分を殺そうとしていることには気づいていて、親を信じベッド下にずっと隠れていた少女は後悔する。
 あの時、ドアを開けなければ。あの時、親を姉を、止めていればと。

 「出ておいで~此処に居るって分かってるんだよ!! お母さんもお父さんもお姉ちゃんもきみのこと、待ってるよ~」
愉快愉快とまるでかくれんぼをしているように飄々とそう告げる未知の生態、そう吸血鬼に少女は込み上がってきた恐怖、焦燥、涙、固唾、何もかもを呑み込んだ。
ぎゅっと瞼を閉じ、口元に両手を押し当てる。

 暫く声がしなくなり居なくなったのかと安心しきり、瞼を開いた瞬間、少女は言葉を失い「あぁ……ッ!!」と声を上げてしまう。
両親、それからたった一人のかけがえのない姉の死体が此方を見つめるように転がっていたのだ。

    「みぃつけた」

くす、そう小さく微笑する声が聞こえた。
少女はがたがたと小刻みに震えあがる。手から滲み出る汗が、止まらない嗚咽、殺されるという恐怖が少女を襲い狂う。
 

 家族は自分を護る為に此奴に殺された。死にたくない、殺される。


 生きたい、と願い祈って視界の端に見えた銀製のナイフを見つければ手を伸ばし取ったその時、自分を隠すように護っていてくれた影がベッドが取り払われる、風が自分の前髪にぶわっと触れるのが感じた。

 初めて家族を殺した者の顔を見た少女は唾を呑み、「おや僕を待たせていたのはこんなにカワイ子ちゃんだったのか!! ならゆーるそ!」そう言いころころと楽し気に喉を鳴らす得体の知れない人間のようでそうじゃない者。

 夜に煌めく銀髪に目が冴え渡る真っ赤な瞳。白い肌、口元に見える先の尖がった牙。所々と服にある赤い跡。

 「怯えちゃって、可愛いね……その表情、凄く美味しそうだよ……! 今、べてあげるから。直ぐに家族のところに逝けるよ」
音を立てて舌舐めずりをし噛み締めるように呟いた一言とにたぁっと猫のような微笑に少女は粟立った。
 「いやぁあッッ!! 死にたくない死にたくない死にたくない!!!」
嫌だと叫ぶ少女を楽しむように見ていた吸血鬼は向けられた銀製のナイフに目を見開かせた。
そしてまた神経を逆なでする微笑を浮かべ「ふふ、可愛い。僕、立ち向かう子ってだぁいすき」と怖がりもせず軽やかに近付いてくる吸血鬼に少女は後退った。


 己を強い力で抱き締めてきた吸血鬼は向けられたナイフに自ら刺され、積み木のように崩れ落ちた。






 また遊ぶように。ほら楽し気に。弄ぶように、恐怖を煽るんだ。



 「嗚呼、ほら……はやく、逃げな……大人に、なって……僕を、ころしてみなよ……」
あははと力なく笑った吸血鬼に呆気を取られた少女は眉を顰め、金魚のように口を開閉させた。
 「迎えに行くよ、きみのこと、見てるから………十八歳になったら……きみを、……喰らいに行く、から」
宣告された殺しに少女は居ても立っても居られず愛した家族と育んだ思いである大好きな家を飛び出した。




 外は、雪が花弁のようにちらちらと舞っていた。雪が降り積もった地面を少女はただ必死に走って走って、頬を掠める風の冷たさにも感じなくなるぐらいに。

Re: ヴァンパイアハンターに愛しさを。 ( No.2 )
日時: 2021/01/12 07:56
名前: 紫月 ◆GKjqe9uLRc (ID: 12.NqjU8)

◇第一章 【誓い】
一話:「イザック・ミシェル」

 晴れることがないと言っているかのような分厚い雲が太陽を隠し、薄い霧が行く道をも隠す。まるで出口の見えない迷路の中に居るような気分になってくるのは普通なことらしい。
湿度の高い空気に気がやられそうになる者も居ることが有名なこの世界には人間の血肉を喰らう吸血鬼が地下都市を作り夜には人を攫い襲うのだった。
生きる人間らは恐怖に怯え大切な者を失う者も多くそういう者らの頼みの綱としてバンパイアハンター、と言う者が国家公務員、言わば自衛隊員として職業化したのだった。


 店の路地裏。黒いローブを羽織って顔を隠した男は奥の奥にある扉を軽くノックをした。
「合言葉は?」
ヴァンパイアハンターが職場として集うこの場の受付人と思われる者が男に向かってドアの隙間からそう言った。

 合言葉は「銀鉱石」。由来は吸血鬼を滅することが出来る銀製ナイフから。人類だけが知ることが出来ず国家から配布された合言葉だ。だがこうやって確認するのは人間に扮した血を欲した吸血鬼が過去何回かやってきたからだと聞いている。

 男は唇を静かに開き「鉄鉱石」と言えば、扉は開き、受付人の顔が見えるようになる。

 薄紫色の蛍光灯で照らされた職場内はバーのような雰囲気の曲が流れていた。天井床共に目の錯覚が起こるモノクロの幾何学模様だ。多くのバンパイアハンターが酒を呑んだり相談をしあいながら依頼を選んだりしている。
 柄の悪い金目的で就いたような男や華奢な青少年、可愛らしい少女、そして色気漂う女性、老人……様々な人間が居る。

 何時も通り吐きたくなるようなむぼったい甘い匂いに男は顔を顰め蒸し暑いとばかりローブを脱いで腕に掛ける。



 「今日は遅かったじゃねぇか、“ブランクネス”」

ブランクネス改めイザックは薄笑いを浮かべてしまう。呼ばれてから何年も経つのにも関わらずまだ慣れない呼び方に虫唾が走るときがたまにあり今がそうだ。
 「今回も百通以上は送られてきたぞ、誰のを受けるんだ? 天才ヴァンパイアハンターさんよ」
受付人はどっさりと依頼用紙の入った籠を見せてくる。

 イザックはヴァンパイアハンターの中でも名の知れた者なのだ。
 ヴァンパイアハンターには通り名があって、それは任務中の行動や依頼への態度によるのものだ。“ブランクネス”と言う名は無表情から来ていてイザックは吸血鬼を殺す時でも表情を崩さないと言われているのだが普通に笑ったり困った表情を浮かべたりしている。
殆どは根も葉もない噂話によるものだ。

 「……お薦めは?」
すると受付人はイザックに顔を近付けて声を潜める。
「四十五万コロア貰える大目玉な依頼が入っている、貴族の家のお嬢さんを攫っただとよ」
四十五万コロア!!? と目を見開かせたイザックに受付人はニヒルな笑みを浮かべていた。
 



 「……それ、ほんとうか……だ、だって……四十五万だなんて……」
一家庭に配布されたのは百万コロア。その約半分を一人のヴァンパイアハンターに賞品として渡すことが出来るなんて普通じゃないとイザックは薄っすらと額から頬へと汗を伝わせた。
 イザックは迷うことなく口を開き言葉を発した。

 「受ける、絶対に受ける」
受付人は微笑を浮かべどっさりと依頼用紙の入った籠から用意してあったかのようにすっと取り出し、イザックの掌に乗せる。

 「今回は、手強そうだぞ。気を付けろ」

サングラスの間から不意に見えた澄んだ海のような深い紺青の瞳に吸い込まれそうになりイザックは息を呑んだ。
 「嗚呼」
健闘を祈る、と受付人は何時ものからかうような笑みに戻り手をひらひらと振っていた。イザックはその笑みに応えるように一礼した。腰を斜め四十五度にぴた、と綺麗に折ったものだった。


 すぅっと息を吸ってから依頼用紙を見つめ、ぐしゃぐしゃと音を立ててポケットにしまい込み、受付机にあった煙草を手に職場の扉を開ける。把手につけられた小さな鐘が静かに立てる音に見送られ、夜の帳が降りる中歩き出す。

Re: ヴァンパイアハンターに愛しさを。 ( No.3 )
日時: 2021/01/11 16:59
名前: 紫月 ◆GKjqe9uLRc (ID: w1UoqX1L)



 ―――――「娘を、どうか……か」
依頼用紙に付けられた顔写真を手に闇に包まれた街をイザックはかつかつとブーツを静かに鳴らしながら歩く。


 先程、依頼主である男爵夫婦に会ってきたが美しい親子愛を魅せられたような気がすると何だが嘘くさく感じていた。

 「……まさか、な」
いくら伯爵から成り下がったとしても娘を売るような、そんな行為出来るはずがないだろう。頭に過ぎった何度も見てきた、血生臭い光景にイザックは顔を最低な考えを掻き消すように激しく振る。



 「あらあらぁ“ブランクネス”じゃない! 大目玉の依頼受けたって風の噂で聞いたわよぉ~?」
歩いていたイザックに親し気に絡むグラマーな体型の色気漂う麗しい女性……ヴァンパイアハンターの頼み処を営む情報屋だ。

 彼女ならば男爵家のこの娘を知っているかもしれない。何しろ顔が何処まで通じているかの分からない情報収集の上手い者だし、居なくなったと男爵夫婦が騒いでいたのだから“かも”ではなく必ず知っているだろう。
 「男爵家の……娘が上階級吸血鬼に攫われたそうだ。お前は、知っているか」
妖艶な微笑を浮かべていたそう訊かれた瞬間、やたらと睫毛の長い瞳を獲物を逃がさない虎のように細めた。微かに甘い香りが風と共に鼻孔を擽る。

 「ふふ、そうね……十五万コロアで教えてあげてもいいわよ。四十五万コロア受け取るんだからそのくらい良いでしょ? 調べは奥のほうまでついてるんだから」
悪戯っ子のようにそう告げる情報屋に軽く圧倒されながらもイザックは頷き「分かった」とばかり短く返事した。
 
 情報屋は両腕を絡め尾いてきてと手招きをしながら家具が殆ど置かれていない業務用の机と椅子だけであるが多くのファイルが所々に積み上げられた少々汚部屋と称せる程の自店へと表情も変えず招き入れれば重々し気な面持ちで紅の差されぷっくりと柔らかそうな唇を開いた。




 ――――――「この時間帯ってほら、《ミツバチ》が動き回るじゃない?」

イザックは眼を剥いてしまう。まさかついさっき過ぎった良からぬ考えが当たってしまうのかと。
 《ミツバチ》とは吸血鬼に金や待遇と引き換えに血を与える者でありそれは親に強制されてなる場合がある。

 「金に駆られたのか……」
 「裏を取って見ればあの男爵家の主人は借金が多くあったそうね。なんでも伯爵家だった頃に博打をしてたみたいで、そのせいで没落しちゃったとか」
頭が痛くなる事実にイザックは溜息を吐いた。その様子に情報屋はゆったりと笑い「あら? 何時もの悪い考えが当たっちゃった感じ?」と言う。
曖昧に頷いて続きを促せば小鳥のようにぺらぺらと喋る情報屋を見つめた。


  実の娘にそんなことをさせる親が居るのか。




 狂ってると拳を作って強く握り締めていれば情報屋は息を吐いて、口を開く。
「………娘は拾ってきた子。噂によれば夜を彷徨っていた少女を偶然見つけて養子にしたらしいわ、まあ確かに自分の愛娘を吸血鬼にほいほい餌ですよーってやれるのって結構なことよねぇ」
 人間とは、醜く他人を蹴落としてまで。まだ幼い少女に屈辱的なことを強制するなんて、とイザックは同胞として恥ずかしいとばかりに目をあからさまに逸らせば情報屋は子供をあやすような表情で肩を擦り。

 「人間って言う者は、そう言う者よ。強欲で、無智で最低な奴らばかり、貪欲で謙虚で正義を持っている者は半数も満たないの。貴方は、後者になって」

 ゆったりと微笑めば「その子を、助けてあげてね」と言って何故か脳裏にこびれついて離れないあの女に見え離された手を掴まえようとしてしまい、短く声を上げてしまう。



 情報屋は薄笑いを浮かべて「さあ、帰った帰った。今日の営業はこれまで、さあさあ!」と強い口調で言っていても出入り口である扉へ押す力は優しく全てを包み込むような手にやはり似ているとイザックは想った。
 「ありがとな、教えてくれて。出来るだけ、してみる」
と告げれば颯爽と風のように、星明りが照らす夜へと消えていった。
 

Re: ヴァンパイアハンターに愛しさを。 ( No.4 )
日時: 2021/01/12 18:04
名前: 紫月 ◆GKjqe9uLRc (ID: w1UoqX1L)



 《ミツバチ》の紹介場と言えば此処しかない。多額の賃金を支払ってくれることで有名な此処しか。地下に続く階段を路地裏を進んでみれば見つける。看板からして怪しく露出狂の多いバーのようにイザック自身では思うが吸血鬼御用達、《ミツバチ》の集まる紹介場だと聞いていた。

 こんこん、何度叩いても出入り口である扉は開かない。イザックは苛立ったようにローブを被ったまま頭を掻き回せば「チッッ」と誰にとは言わないが開けもしない奴に自分は腹が立った、不機嫌であると伝えるかのように何度も、短く舌打ちをすれば諦めたように帰る。

 ……と見せかけて、イザックは思い切り木の扉に華麗で力強い蹴りをお見舞いし、無理矢理に貫いてするり、と入り込む。


 「あー入れないから蹴破っちゃったけど良いかな?」

 ばりばり、と凄まじい音を立てて扉を完全に木の葛にしてしまったイザックに恐怖を覚えたように崩れ落ちる紹介人、そして従業員を見渡してにっこり慣れない作り笑いを浮かべて見る。
 「大丈夫か? えーっと……今日、此処に来たのは此方でお世話になってた……あ、写真は、そうそうこれこれ」
わざとらしく探してみてポケットから顔写真の付いてぐしゃぐしゃに変貌した依頼用紙を取り出せば、近くに崩れ込んであわやあわやと震えている受付人に「この娘、見覚えないか? あるよな、だって長らく此処に通ってたんだからよ」と顔に押し付けて見せて。

 「ひッ、し、ししし知りません………ッ《ミツバチ》の子の情報は渡せない決まりに……ひぃいい!!!」
だんまりを決め込むつもりの紹介人の胸倉を掴み片手で起こしたイザックは眼を見開き喰われる寸前の雛鳥のようだと殺気に満ち溢れる金色の、満月のような瞳をたのし気に向ける。

 「馬鹿だな、裏は取れてんだよ」
 一人の少女がこそこそと出入りする写真を見せれば紹介人の肌は忽ち粟立ち、命の危機を感じたのか金魚のように開閉させれば「そ、そそその子を紹介した吸血鬼“様”なら………今夜、来る予定です……ッッ」と自分と言う恐怖に怯える受付人を離せばイザックは黙る。

 「そ、じゃあ、夜にまた来るから」
ぱっと黒手袋をした左手をひらひらと振って、ぶっ壊した扉の残骸ざんがいまたぐ。ぽかん、と紹介人は目を奪われたようになっていれば「あ、お前さ」と思い出したように振り返りイザックは月のような眼を細める。


 「敵の事、敬称で呼ぶなよ。見苦しい……ま、お前のプライドが傷付くだけだから知らねぇけどさ」
吸血鬼を“様”付で呼ぶ紹介人を見苦しいと言えば、関係がないと言い切るイザックに紹介人は瞬きを繰り返した。

 「あ、あのッ」




 何か言わなくては、と俯かせた顔を上げたときにはイザックは深霧の向こう側へと消えていた。
 何時の間にか星の煌めく夜空から太陽の隠れた薄い蒼と変わっていた空をどうしたものか、紹介人
は眩し気に見上げていた。

 数々の人間の反発の言葉。忘れもしない罵倒。全て聞き流してきた、けれども耳に残る《ミツバチ》を強制的にさせられている少女達のき声とかげが差してしまった表情。
 「………見苦しい、か」
どんなに汚い、人を傷付く、言葉でもなく上辺だけの優しい言葉ではない。他人事、関係がない。知らない、その言葉は初めて言われた言葉だった。

 その扉を壊されたとき、無情を貫き通していた紹介人の垣根を取り払われてしまったのだ。
不思議なヴァンパイアハンターだと素直に思う。
 《ミツバチ》の紹介場を見つけたら普通だったらついでに壊滅するのがヴァンパイアハンターだと思っていたのだがと紹介人は軽く頭を掻いて今夜を何故か首を長くして待っていた。

Re: ヴァンパイアハンターに愛しさを。 ( No.5 )
日時: 2021/01/16 14:36
名前: 紫月 ◆GKjqe9uLRc (ID: w1UoqX1L)

◇第一章 【誓い】
二話:「レティシア・フォンテーヌ」


   ああ、神さま、何故、あなたさまは笑っているのですか?





 叶えられるのなら願いたい。
助けて、と。
どうかあの家でも良いから此処から出して欲しいと。
救いの蜘蛛の糸を垂らして欲しいと、それがどんな糸であれ構わずわたしは掴むからと。



 『特別に美味なおまえには崇高なる家畜の証を与えようか』





 「いやぁあああああああぁあああッッッ!!!!!」
恐怖の夢から思わず叫んで飛び起きたレティシアは瞬きを繰り返し、「……ぁ、夢、じゃ……」と呟く。
ずくん、ずくんとやけに生々しく己の身体を鳴り響く鼓動と共鳴するかのように痛みの生じる箇所をレティシアは小汚い服の上から押さえ掴んで切れた息を整えようとする。


 「……どうしたのレティ、火傷が痛むの? 見せてごらん」
大きな声を上げてしまったからか同じ牢で過ごすリーベルが起き上がり眉を顰めながらレティシアの背中を服を捲って見つめた。

 「腫れは引いてきているみたい、水膨れが……潰れちゃったのかな……すぐにでも冷やして手当てしたほうが良いけど……」
それは無理だよね、ごめんね、と儚げに微笑するリーベルにレティシアは心を絞られるような痛みを覚え、肩をゆっくり落とした。《ミツバチ》を親に強要されている二人は自然と仲良くなり、一緒に吸血鬼の許に出向いたり同じ依頼を受けて居たりしていた。

 光を集めたような琥珀色の、髪にアクアマリンのような宝石の誰もを魅了するそんな綺麗で何もかもを映す瞳。華奢で小柄な体躯。唇はしっとりぷっくりしていて西洋人形のようだ。
 女の子のように可憐で美しい彼は吸血鬼達にレティシアの姉、いわば女だと勘違いされ同じ牢に入れられているのだ。それも女のように血が甘いからと吸血鬼が笑っていたのを憶えている。


 「許可もなく大声出してんじゃねェよ!! 家畜は黙って血を差し出せばいいんだよ、ああん!!?」
酒瓶を片手に見張り番である中階級吸血鬼が牢を強く足蹴りする。ただでさえ大きいだけの脆い鉄かどうかもわからない牢なのに衝撃を与えられたら一溜りもない。
息を呑んでいれば中階級吸血鬼は「こんなガキ共を世話してるっつうのに出世かいきゅうも上がんねェ……やってらんねェな」そう小言を言いながらまた定位置に戻っていく後姿を二人は見つめた。


 「ねぇ、憶えてる? 僕にきみが前に言ったこと」
リーベルに訊かれたレティシアは小首を傾げ背を擦りながら考えるも、結局諦めかぶりを振った。するとリーベルは小さく笑って「そっか、きみが憶えてるようなことじゃないよね」と言い真っ赤に荒れた手を絡めれば口を開いた。

 「二人でこのまま逃げちゃわないか、って言い出したんだよ。僕は、それをどうして逃げるんだって言ったんだよ。人間に優しい吸血鬼が存在しないって事実をきみに言われて僕は悔しくて悔しくてこの大人数が必要になる依頼を受けた。何だか危険だって引き留めにわざわざ見張りの厳しい家を抜け出して来てくれたきみの手を振り払って、僕は行こうとした」

 嗚呼、それがこの場に至ったきっかけになる。レティシアは自分をそうやって何時までも責め続けるリーベルを一瞥し、目線を下に落とした。
リーベルが事の発端となり引き留めに行ってしまった自分をレティシアは恨んでいる。しかし、この状況でリーベル自身をも自分を責め続けるのは間違っていると、自分も強引に手を取りこの場から離れていればと悪いことだって沢山あった。

 「あの時、きみの手を振り払わずに二人で逃げていれば良かったんだ、きみの言う事は正しいよ。人間に優しい吸血鬼なんか居ない………だから、きっと」

 


 “神さまなんて居ないんだろうね”




 「さあ、ガキ共、飯の時間だ!! しっかり『彼ら』に上等な血を与えさせてもらう為にたんと食えよ!! 皿何てものは何もねェそれはおまえ達が家畜だからだ!!」
中流階級吸血鬼達のけたたましい己自身を卑下する言葉で目が覚めたレティシアは眼を軽く擦りゆっくりと起き上がる。

 隣の牢の《ミツバチ》達の飯の供給が終われば吸血鬼はニヒルな笑みを浮かべてその真っ赤な血のような赤黒い双眸にレティシアを映した。

 「特に、お気に入りの多い嬢ちゃんには死なれちゃ困るからな、たんと食えよ!!」

 無理矢理手を突っ込んで口を開かせてどろっとした生温い吐きたくなるような液体を入れれば満足したように隣にその様子を見て、あわやあわやと怯えレティシアの背中を擦っていたリーベルを掴めば同じように接し不味い液体を流し込む。

 同じ牢で仲良くなったコレアと言う赤毛雀斑の少女に吸血鬼は供給をしようとし服を乱暴に掴んだ次の瞬間、コレアは何時ものように「痛い!」や「やめて!!」と可愛らしい小鳥のように喋らなかった。リーベルは眼を見開き、それが何なのか分かったようで咄嗟にレティシアの眼を自分の手で隠し、見えなくさせる。
 レティシアは何が起こったのか分からずけれども、何故か涙を流していた。






 冷たく小刻みに震えているヘンリーの手が退けられた時には、コレアは居なくなっていた。
 「……ぁ、コッ、コレ、コレア……! わ、わ……わたしも同じように……いッい、嫌……」
彼女の座っていたひんやりと体温のない冷たい地面を触れ泣き喚くレティシアをリーベルは涙ながらに見つめ、宥めようとする。
震え上がったレティシアの赤と黄緑、青紫と痣や荒れから変色したガサガサの手を取り握れば、
「だ、大丈夫だよ。レティは、僕が必ず護り抜いて帰したあげる。此処を出られたら、二人で、暮らそう?」
リーベルは言った。自分も怖いはずなのにも、全部事を見たはずなのにもそう護り続けることを言ってくれたリーベルにレティシアは目を伏せた。

 彼はレティシアを身を挺してでも本当に今までずっと護っていた。レティシアよりも暴力を率先して受けて、血を吸われ、麻のようなぼろぼろ毛布までもレティシアに掛けていた。



 レティシアには、リーベルと言う光が居た。
それだけで彼女は、救われ前を向いて此処を出て一緒に暮らすと言う希望を胸に信じ続けた。




 光がなくなることを知らなかった彼女は。




 それは、脈絡もなく何の意味も理由もない死と言う恐怖。
レティシアはそれが紙一重だと気付くことになってしまう。


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