ダーク・ファンタジー小説

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転移後即日死した後輩君を魔女先輩は甦らせたい!?
日時: 2023/03/23 17:26
名前: 天麩羅 (ID: F69kHN5O)

1話目〜6話目、プロローグ〜序幕>>1-6部分改稿しました
内容事態に大きな変更は無いので、読者様が再度お読み頂く必要性は特にありません
作者は引き続き、改稿作業に務める予定です
新しい話は当分先になると思います

内容は概ねタイトル通りです
一応はタイトル回収出来たと思いますが、どうでしょうか……?

飽きっぽい作者はファジーの方でもう一作品掲載させて頂いております
なので、どちらかの更新、若しくは両方の更新が無い時は書き溜めに忙しくしているか、何か別の理由で筆が進まなくなっているとお考え下さい

あと、名前変えました(天麩羅→htk)
途中、打ち間違いでhtkのつもりがhtsになっていますが気にしないで下さい

12、13話についての補足ですが、途中出てくるモノクルの数値は適当です
後で変更する可能性が大いにありますので、気にせず読み飛ばしちゃって下さい

タイトル回収出来たので、ひとまずは一区切りとなります
作者はそろそろ他の小説を書きたくなってきたので、暫く更新は止まるかもしれません
また魔女先輩とその友人達を書きたい欲が湧いてきたら、いずれ書きます
何となく打ち切りっぽい終わり方ですが、今後この作品がどうなるかは作者にも分かりません

※ベリー様に当作の略称を付けて頂きました
『魔女甦』←まじょよみ、と読みます



以下、主要キャラ〜〜

・真島リン
魔女先輩。異世界の記憶を前世に持つ自称大魔女だが、その記憶は朧気。
決して厨二病では無い。

・天ヶ嶺開人
後輩君でリンの想い人。互いに想いを寄せる相手、リン先輩の目の前で……?
たぶん厨二病では無い。

・鳥居ひよ子
リンの親友にしてオヤジ女子。リン達を異世界へ見送り、研究者を目指す。
厨二病を超えたナニカ……?

・迦具土テツヲ
眼帯ヤンキーでひよ子とは幼馴染み。あらゆるオタク道を邁進する猛者。
厨二病と呼んではいけない。

・前垣沙梨亜
後輩女子。現代に続く祓魔衆の家筋出身だが、テツヲに想いを寄せている?
厨二病を恥とも思わないつもり。



以下、目次〜〜

1話目〜6話目、プロローグ〜序幕>>1-6
7話目〜15話目、1章〜第1幕>>7-15
16話目、>>16
17話目、>>17
18話目、>>18
19話目、>>19
20話目、>>20
21話目、>>21
22話目、>>22
23話目、>>23
24話目、>>24
25話目、>>25

Re: 転移後即日死した後輩君を魔女先輩は甦らせたい!? ( No.21 )
日時: 2023/03/07 15:01
名前: htk (ID: /m68L9nQ)

1章〜〜第2幕、6話ーー副題(未定)



 ずらりと並んだ顔が、こちらを覗き込んでくる。
 光術式の光によって照らされたその表情は、一見すると陶器のようだった。
 それらを見上げ、眼帯ヤンキーが言う。
「ようやくお出迎えかァ、、?
、、蜘蛛人間、っつうよりかァ人面蜘蛛みてェだなァ?」
「私が会ったのとは別なのだわ……?」
「アアン?そうなのかァ?」
 テツヲが指摘した人面蜘蛛ーーというのは適切で、あの蜘蛛人間とは別だ。
 天井や横壁の穴から湧き出したーー幼体ともいうべきそれらは、その後部節から糸を垂らして一匹、また一匹と降りてくる。
 その様子を見て、沙梨亜ちゃんが言う。
「、、ふぅ
、、タチの悪いホラー映画みてーです、ねっ、、!?」
 一駆けした彼女は手近な一匹に詰め寄ると、その顔面に短刀を一振りした。
 ザシューーと空気を切りそうな音が立て続けに聞こえ、続いて多数の節足が散る。
 身動きの取れなくなった一匹が力無く項垂れたのを皮切りに、他方ではテツヲがーーこれは驚くべき事だが、視界の端から瞬時に移動した。
「よォ?人面蜘蛛、、
、、ヒラト、っつうヤツ見掛けなかったかァ?」
 呑気に話し掛けているが、対して陶器のような表情が大口を開け、鋭利な牙を覗かせる。
 その口内から、毒々しい何かが飛ぶーー。
ーーそれを眼帯ヤンキーは首の動きで躱し、気付けば爪先を蹴り上げた格好だ。
 そこに居た筈の幼体は宙高く浮き、天井へと勢いよく突き刺さった。
 眼帯ヤンキーは足を下ろしながら、群がる人面を睥睨する。
「人が話し掛けてんのにいきなりツバ吐かれるとはなァ?
、、気に入らねェ」
 言ったテツヲに近付いてきた人面蜘蛛達が、まるで慄くようにーー一斉に牙を剥いた。
 こちらから眼帯ヤンキーの表情は見えなかったが、これが所謂ーーガン付け、というものなのだろうかーー?
ーー表情を嬉々と凶猛さに塗り替えたに違いないテツヲが、一斉に放たれたツバもとい、毒々しい液体を潜り抜ける。
 射程の内側へ入られた数匹が、瞬く間にその後列を越えて吹き飛んだ。
 間合いを詰める跳び蹴りからの、殴る、蹴る、また殴るーー。
ーーそうした動きを結果として頭で理解は出来るのだが、それは既に事が起こった後なのだ。
 凄まじい身体能力で敵を圧倒するテツヲから視線を外して、他方ーー。
ーー沙梨亜ちゃんといえば、積み上がっていく人面蜘蛛の死骸の合間を上手く立ち回っていた。
 姿勢を低く、あの毒々しい液体を躱し、既に事切れた骸を盾に接近ーー気付けば、また一つ一つと確実にトドメが刺されていく。
「、、ふぅ
、、次です」
 短刀の一つが抜き払われ、左右から忍び寄ってきた一匹の顔が足蹴にされる。
 そのまま沙梨亜ちゃんは人面を踏んで宙返りし、向かい合わせの一匹へと跳び掛かった。
 脳天から突き刺された人面蜘蛛は、最期の瞬間ーー何も理解出来なかっただろう。
 続いて、先程顔を足蹴にされたもう一匹も怯んでいる内に、その横を掠めた短刀によって片側の節足が全て斬り落とされる。
 身動きの取れなくなった敵の合間を、駆け抜ける沙梨亜ちゃんーー。
ーーこちらもまた、テツヲとは別の意味で縦横無尽だった。
 そして、二人を眺める私は、といえばーー。
「手持ち無沙汰ね……。
後輩君は……何処かしら?」
 怪しいといえば、あの繭だろうかーー?
 円形巣の内側沿いに並ぶそれらの中にもし彼が居るのだとしたらーー。
ーー全てを開いて覗き見るのには時間が掛かるし、そもそも今は人面蜘蛛の迎撃でそこまで辿り着けそうに無い。
 テツヲと沙梨亜ちゃんのお陰で相手取るのには然程苦労しないが、それを突破するとなれば話は別だった。
 筒状巣に通じる穴からまだ後続は続いているのだから、敵の渦中にわざわざ身を晒すわけにもいかない。
 そう考えていると、回し蹴りで人面蜘蛛の数匹を飛ばしたテツヲが言う。
「おゥ!?真島ァ、、!
アレじゃねェのか!
、、あの繭みてェなヤツ」
「ええ、私もそう睨んでいるのだわ……?」
 そうは言ったが、不安だ。
 繭の中身がどうなっているのかは分からないのだし、もし後輩君の身に何かあったらーー。
ーーそうした想いを察してくれたのか、後輩女子が言う。
「、、わたしが見てきます、リン先輩
、、此処はどーにか凌いで下さい」
 そう言った沙梨亜ちゃんは人面蜘蛛の体躯を足蹴に、向こうへ跳躍する。
 あんなに深く斬り込んで、大丈夫なのだろうかーー?
ーーやや不安に思ったが、此処は沙梨亜ちゃんに望みをかけるしか無い。
「分かったのだわ……!沙梨亜ちゃん」
 言い、後輩女子が受け持っていた方面へと当たる。
 既にそれなりの数の人面蜘蛛が横たわっているが、まだ数が減ったような気はしない。
 私は杖を構え、術式を起動する。
「土術式……!
……かの敵を地中より出ずる槍にて穿ち抜け!」
 敵一匹々々の元で丸く連なる、異世界文字ーー。
ーーそれらの円陣はひと度発光したかと思うと、先端を尖らせた土槍が勢いよく噴出した。
 声無き呻きが、円形の巣内で木霊する。
 多数の節足を縮めるように人面蜘蛛達は動かなくなったが、まだそれで終わりでは無い。
「風術式……!
……我が道を阻みし敵をその威風より圧倒せよ!」
 叫びと共に、空気が軋んだ。
 敵の真上で展開された円陣が、まるで頭上から抑えつけるように人面蜘蛛達を圧迫する。
 ミシリミシリとーーこちらまで聴こえてきそうな音を立てて、その体躯が遂には緑色の液体をぶちまけた。
 都合二回の術式によって目に見える前方の敵は片付いたが、その後も後続が途絶える様子は無いーー。
ーー勿論、私もこんな程度で終わらせる気はさらさら無いのだが、いつまでも幼体を相手にしているわけにもいかなかった。
 背後へ目を向けると、テツヲは片手に掴んだ人面を将棋倒しのようにして突っ込んでいるし、あちらは問題無いだろう。
 あの眼帯ヤンキーを敵に回したのは、憎き蜘蛛人間にとって思慮の外に違いない。
 私は視界の上から糸を垂らしてくる後続を見付け、術式を行使する。
「風術式……!
……かの敵を切り裂け!」
 向けた杖先からの見えない刃によって、敵が真っ二つになった。
 私はその後も術式の風刃によって迫る敵を蹴散らしながら、沙梨亜ちゃんの後を追う。
 この場はあの眼帯ヤンキーに任せても、たぶん大丈夫だろう。
 目的はあくまでもーー後輩君の救出なのだ。
「待ってて、ヒラト君……」
 自分では意図せず、彼の名を口にしていた。



 時々、後にしてきた向こうからテツヲの掛け声が聞こえてくる。
「だりャァアッ!?」
 その度に大きな物音が響き、円形巣が揺れた。
 未だ人面蜘蛛との戦闘が続く最中ーー私は沙梨亜ちゃんの姿を探す。
 巣の内側に並んだ繭の手前まで来て、その後ろに回り込んだ。
 手前に蔓延っていた人面蜘蛛の骸や繭で気付かなかったが、円形巣の円周沿いは急斜になっていてーーその先にも同じような繭が並んでいる。
 そこで、沙梨亜ちゃんの声が聞こえてきた。
「、、ちっ
、、趣味わりーですよ、、」
「沙梨亜ちゃん……?」
 そちらへ向かうと、後輩女子は綺麗な顔立ちを歪めている。
 短刀で切り裂かれた繭の中身を見て、何かを見付けたのだろうかーー?
 私に気付いた沙梨亜ちゃんは、こちらを見て言う。
「、、先輩は
、、見ねー方が良いです」
 その言を聞いて、嫌な想像をしてしまった。
 だが、沙梨亜ちゃんはそれを払拭するように言う。
「、、天ヶ嶺君では無いです
、、でも、、」
 言われ、ホッとしつつも表面が引き裂かれた繭へと回り込む。
 一度は止めた沙梨亜ちゃんも、強いては止めない。
 私はそれを見てーー怖気を感じた。
 綿のようなもので覆われたその中央には、まるで胎児が眠るようなーー顔がある。
 形成途上の皮膚が透けるような見た目は、これ以上ーー直視する気にはなれなかった。
 もしかして、後輩君もーー。
ーー嫌でもその考えが浮かんでしまうが、その思考は中途で中段される。
 耳に忍び寄ってきたのは、あのーー聞き取りにくい声だ。
「セレモニアーナ、ノ差シ金カ
……ヨク来タ!
我ニ誘キ出サレタトモ知ラズニ……!」
 現れたのは、蜘蛛の頭部に代わって人型を生やす、あの蜘蛛人間だった。



次話、>>22

Re: 転移後即日死した後輩君を魔女先輩は甦らせたい!? ( No.22 )
日時: 2023/03/07 15:12
名前: htk (ID: /m68L9nQ)

1章〜〜第2幕、7話ーー副題(未定)



 私達を誘き出されたーー。
ーーと聞き取りにくい声は指摘したが、それは根拠に乏しいハッタリの類に違いない。
 後輩君を探しに此処まで来るのかどうかも相手には分からないしーーそれに、そもそも私達が此処に辿り着けるのかどうかを、最初に遭遇した時点では知りようが無い筈なのだ。
 それを指摘しようと、口を開く。
「ハッタリも良いところなのだわ……!
彼は何処に居るの……!?」
「……ハッタリ?
フフフフ……セレモニアーナ、共ハ、トンダ未熟者ヲ寄越シタラシイナ?」
 セレモニアーナーーと誰かを呼んでいるらしいのだが、前世の記憶を探っても思い出せない。
 何となく引っ掛かりはするが、今はそんな場合では無いだろう。
「彼の居所を吐きなさい、今すぐ……!さもないと……」
 言い切る前に、中途で遮られる。
「ソレガ分カラナイトアッテハ、ロクナ教育モ受ケラレナカッタラシイ……!
……プラーナ、ノ保有量ガ奴ラニ迫ルモノト警戒シタガ、トンダ腰抜ケダッタヨウダ!」
 そう言った蜘蛛人間は、こちらを嘲るように陶器のような表情を震わせた。
 沙梨亜ちゃんがその遣り取りを聞いて、ぼそりと零す。
「、、セレモニアーナ?
、、何の話です?」
「……トボケテモ無駄ダ!
貴様ラハ我ガアラクモ族再建の糧ト成リ、贄トシテ……」
 話の途中で、またーー今度は蜘蛛人間の聞き取りにくい声が遮られた。
 先程のお返しだ。
 見開かれた複眼のような目端を、揺らいだ空気が掠め過ぎる。
「……次、言わないのならその首を刎ね飛ばしてやるのだわ!?
さあ、答えて……!?
彼が何処に居るのか……!」
 不快さに引き歪められていた蜘蛛人間の表情が、真顔になる。
「……腐ッテモ、プラーナ、ヲ保有スルダケハアルヨウダ!
良イダロウ……貴様ラ纏メテ、我ガ眷属ノ端ニ加エテヤルトシヨウ……!」
 そう言った蜘蛛人間が、多数の節足を撓ませてーー跳躍する。
 こちらの要求に応じる気は無いらしい。
 頭上へ高く浮いたその後部節から、ぬらりとした液体が拡がった。
「沙梨亜ちゃん……!」
 後輩女子へと手を伸ばし、逆の手の杖先で地面をなぞる。
 地べたに触れた箇所を起点に、隆起する土塊ーー。
ーー盛り上がった土のこちら側に握り返された手を引き込んだ私は、頭上を見上げた。
 先程の液体が幾重にも線を形成し、私達二人を囲い込むーー。
ーーだが、その寸前で周囲を囲ったのは、土で出来たかまくらだ。
 外からの圧迫で土がポロポロと零れ落ちるが、土術式の防御を崩すまでには至らない。
 初撃を凌いだこちらに向け、頭上から声が聞こえてくる。
「小癪ナッ……!?
……シカシ通力ヲ多少ハ扱エテモ、コレハ躱セマイ!?」
 土のかまくらの真上で、そこへ飛び乗ってきたような振動が伝わった。
「、、先輩!」
 沙梨亜ちゃんが、私の頭を抑えて横倒しになる。
 かまくら内で今も光る光球が、天井を突き抜けてくる多数の節足を照らし出した。
 地べたすれすれの、私の鼻先のーー寸前だ。
 あわやこちらに届きそうな節足を避け、手にした長杖を振り上げる。
 異世界文字を頭の中で浮かべての、術式の起動ーー。
ーーこれで、相手にこちらからの反撃が悟られずに済む。
 杖の先端を取り巻いた円陣から、見えない刃が飛んだ。
 かまくらの屋根を割った風刃は、上に乗しかかっていた蜘蛛人間ごとーー真っ二つに引き裂いたに違いない。
 私達は溢れ落ちる土を避け、身体を起こす。
「、、先輩
、、あれを、、?!」
「どうして分かったの……!?」
 敵の姿が見当たらずに上を見上げると、そこには巣内で今し方ーー宙に布かれたばかりの、網目の蜘蛛の巣の上に蜘蛛人間が居た。
 先程は口唱しない方法で試したから、私の放った風刃を察知出来た筈が無いのだーー。
ーーこちらの動揺を嘲るように、陶器のような口元が開かれる。
「フフフフ……!通力ヲ多少ハ扱エルダケノ半端者ニ分カラヌノモ無理ハ無イ!
セレモニアーナ、共ハ貴様ニ何モ教エナカッタヨウダナ!?」
 相変わらず、私を何かと勘違いしているらしいのだが、あの瞬間ーー察知出来なかった筈の風刃を避けた事実は、無視出来ない。
 網目の足場から降り立った蜘蛛人間が、最後通告のように言う。
「半端ナ貴様ニ教エテヤロウ……!
プラーナ、ヲ体内デ巡ラセルノダケガ、通力ノ扱イ方デハ無イトイウ事ヲ……!」
 言ったその顔の複眼のような目がーー光った。
 何か、来るーー!?
ーーそう思って身構えたが、特に何も起こらない。
 ハッタリなのだろうかーー?
ーーでも既に、何かしらの方法でこちらの術式を感知したらしいのを、私は知っている。
 陶器のような表情は私達の動揺を愉しむように、口を開く。
「我ニハ視エテイル……!
……貴様ト先程ノ少年ヲ繋グ線ガナ?」
 どういう事だろうーー?
ーーそう思って、私はすぐに一つの事実に思い至った。
 あの円柱断崖を降りる際に、私を介して通力循環した後輩君との間にはーー敵の言うように、繋がりが出来ていた筈なのだ。
 蜘蛛人間は私達を見向きもせず、物音も立たない節足で、こちらに背を向ける。
 わざと隙を見せ誘っているのだとも考えたが、多数の節足は一つの繭の側でーー止まった。
「コレダ……!」
 その上体の陶器のような腕がひと振りされると、特に何をしたようにも見えなかったのにーー示された繭が、パクリと開いた。
 中で眠るように横たわる、軽装姿ーー。
「後輩君……!?」、、天ヶ嶺君!」
 私と沙梨亜ちゃんの声が重なった。
 見たところーー特に外傷のようなものは見られない。
 近付いてみないと分からないが、やや遠目でも五体満足に見えた。
 こめかみから流れていた血も止まっているように見えたし、正直なところーー少しだけホッとしている。
 だがーー。
「ワザワザツガイノ印マデ刻ンデ、マサカソレヲ見捨テル者ハ居ナイダロウ……?
……貴様ラ魔女ノ中ニハナッ!?」
 聞き取りにくいが、何と言ったのだろうーー?
ーーツガイ?
 その言葉で心の内に踏み入れられた気がして、怒りが湧きそうになったがーーそれより先に、蜘蛛人間の表情が引き歪む。
「……欲深ク身勝手ナ魔女ノ前デ、コノ少年ノ肌ヲ刻ンデヤルノモ一興ト思ッテナ?」
 その上体の指先が、くねりと動かされた。
 言った蜘蛛人間の頭上に、後輩君のーーその目を覚まさない身体が浮き上がる。
 奇術でも見ているかのような光景だが、沙梨亜ちゃんはさして驚かずに言う。
「、、糸、ですね
ありきたりといえばありきたりです」
 相手は蜘蛛人間なのだから、見えない極細の糸を操るぐらいはするのだろう。
 そう言われると確かに、後輩君の軽装姿は何かに引っ張られたようにその衣服を撓ませていた。
 掌を上にし、嫌な笑みを浮かべる蜘蛛人間ーー。
「コノ程度ノ通力保持者ナラ特ニ用ヲ成サナイノデナ……?
モシ、貴様ガソノ身ヲ自ラ進ンデ差シ出ストイウナラ、考エテヤラナクモ……」
 言い掛けたが、その口の動きが止まった。
 私達の頭上を飛び越え、ひと足跳びで盛大に跳躍出来るのはーー。
ーーこの場には、一人しか居なかった。



次話、>>23

Re: 転移後即日死した後輩君を魔女先輩は甦らせたい!? ( No.23 )
日時: 2023/03/07 15:17
名前: htk (ID: /m68L9nQ)

1章〜〜第2幕、8話ーー副題(未定)



 高く、およそ常人では有り得ない跳躍力で迫る眼帯ヤンキーーー。
ーーテツヲが跳び掛かったのは蜘蛛人間相手に、では無い。
 宙に浮く後輩君ーー。
ーーヒラト君目掛けて、武闘服の格好をした悪鬼が勢いよく空を切った。
 その真下から、呆気に取られた声が上がる。
「ナッ……?!」
 複眼の視界を跨いだ眼帯ヤンキーは、蜘蛛人間に見向きもしない。
 テツヲは後輩君を縫い留めているであろう見えない糸ごと、まだ目覚めない身体を宙で引っ掴む。
 勢いよく突っ込んだ先はーー円形巣の横壁だ。
 そのまま衝突するかにも思えたがーー違う。
 テツヲは器用に身体を反転させると、その横壁に足裏を着け、再び折り返す。
 蜘蛛人間は咄嗟に指を手繰るような動きをしたが、まるでーー見えない糸に引っ張られたらしく横転する。
「クゥッ……?!」
 それを眼下に着地したテツヲは、何でも無さそうに口を開いた。
「アアン?ソイツがアラクネもどきかァ、、?」
 後輩君を無理矢理奪還した際に、糸で引っ掛けたのだろう。
 その腕には引き裂かれたような傷が出来ていたがそれに構わず、彼を横たえる。
「、、テツ先輩
血、出てますよ?」
「アア?なんか引っ掛けたんだよなァ、、?
、、何だったんだァ?」
 仮にも人一人分を持ち上げた糸を引っ掛けておいて、それを考えるとよく無事でーーと思った方が良いのかもしれない。
 だがーー今、私が気になるのは後輩君の容体だ。
「後輩君……!無事よね?!
……起きてる!?
ねぇ!?後輩君……?!」
 彼の顔を覗き込み、身体を揺する。
「、、駄目です、リン先輩
、、重病人は揺すっては駄目です!」
「あ……!そ、そうよね……!?
ど、どうしよう……?」
 そういえば、沙梨亜ちゃんの言うような事は聞いた事があった。
 これだけ周りで動きがあっても起きないのだから、昏睡しているのかもしれないーー。
ーー私はどうにか彼を目覚めさせる方法が無いかと思案していると、また聞き取りにくい声が騒ぎ立てる。
「馬鹿ナッ……?!巨獣ヲモ易々ト屠ル我ガ糸ヲ引キ千切ッテオキナガラ、無事デ済ンデイルダト……?!」
「アアン?なんか言ってんのかァ?
、、っつうかァ、キンキン煩ェ!」
 言ったテツヲが、視界から消えた。
 常人を超えた速さで、瞬時に蜘蛛人間の前に現れたテツヲだがーーいくら何でもこれはおかしい。
「今ァ、すこぶる調子が良くてなァ?
、、ヒョコのヤツが裏でコソコソやってたヤツ、ようやく掴めそうなんだよなァ?」
 言う眼帯ヤンキーの周囲はよく見ると、空気が揺らめいているようにも見える。
 間違いなかったーー。
ーー通力循環によって爆上がりしたテツヲの身体能力は、既に私の知るそれを大きく超えているのだ。
 突然目の前に現れた相手を見て、蜘蛛人間が遅れて驚愕する。
「……ナッ、イツノ間ニ……?!
……我ノ通力視デモ捉エラレヌ速サトハ、貴様……タダノ魔女ノ従者デハ無イナ?」
「アアン!?
、、っつうか何言ってんのか全然分ッかんねェし、殴って良いんだよなァ!?」
 言うや否や、空気の揺らめきを纏ったテツヲの拳がーー横殴りにされた。
 それを私の目で追うのは、ほぼーー不可能に近いだろう。
 後から遅れて、結果を知る以外に無い。
 蜘蛛人間の上体はその脇に渾身の拳を叩きつけられ、横壁まで吹き飛んだ。
 衝突したその陶器じみた皮膚が割れ、青緑の血が吐かれる。
「クハァッ……?!キ、貴様……信ジラレヌ?!
通力保有量ガ見ル見ル上昇スルダト……?!
ソンナ馬鹿ゲタ話……」
「アア、アア!煩ェ、煩ェ!
、、テメェ、ちょうどイイから殴り台に使ってやるよァ!
サシだ、、!」
 もはや相手の吐く戯言を余所に、テツヲは勝負を仕掛けた。
 サシーーそれは不良漫画でもお馴染みの、一対一の喧嘩を指す言葉だ。
 武闘服の上着を脱ぎ捨てながら、眼帯ヤンキーは言う。
「オメェらはヒラトのヤツ連れて此処を出ろァ!?いいなァ?」
「え……?でも、それだと……」
 テツヲの言いたい事は分かる。
 未だに身動ぎしない後輩君を此処に置いたまま、蜘蛛人間と戦うのは不安が残るのだろう。
 何より、今のところーー彼が呼吸している様子が見られないのだ。
 顔色もあまり良いようには見えないし、出来るなら早くーー可能な限りの処置を施した方が良いに決まっている。
 脱出を薦めたテツヲの上着を拾い上げ、沙梨亜ちゃんは後輩君を後ろに担ぐ。
「、、動かしたくはねーですが、此処では、、
行きますよ?リン先輩」
 私は頷き、沙梨亜ちゃんが提げていた分の荷袋を手に取った。
 だがーー。
「ソウ易々ト逃ストハ思ワ……」
「だァから!煩ェ、、!?」
 また掌を手繰って何かしようとした蜘蛛人間が、宙に跳んだテツヲの膝蹴りを喰らう。
 私達はその様子を余所に、戦いの振動が伝わってくる円形巣を出た。



 円形巣を出る途中ーーあの人面蜘蛛の骸が累々と横たわっていたが、その後続は見掛けなかった。
 幼体は全て、テツヲによって倒されたのだろうかーー?
ーー若干の不安を感じつつも、今は後輩君が最優先だ。
 洞窟内に入ってきた時の通路のあたりで、沙梨亜ちゃんが立ち止まった。
「沙梨亜ちゃん……?」
「、、先輩
、、もう、、」
 後輩女子が言い淀む。
 その声は震えていて、何かーー。
ーーその続きを聞くのが、怖かった。
「、、本当は
、、気付いてたんです、、」
 何をーー?
ーーと聞く間も無く、沙梨亜ちゃんは後輩君の身体を横たえる。
 光球に照らされた彼の顔色はーー蒼白だ。
 一目で危険な状態だと分かるぐらいに、まるでーー。
ーーその先が、頭に浮かばなかった。
 今にも啜り泣きそうな声音で、沙梨亜ちゃんが続ける。
「、、天ヶ嶺君の首に
、、線が付いています
まるで、首を締められたみたいに、、」
 そう指摘された私は、その箇所をーー注視する他無かった。
 細くーー糸みたいな細さの跡が、後輩君の首を取り巻いているーー。
ーーそれ以上は、何も考えられない。
 気付けば、沙梨亜ちゃんが小さく啜り泣いていた。
 後輩君の同じクラスの友人がーー。
 その意味を理解するまでに、どれ程の時間が経ったのだろうかーー?
ーー私の奥底で堆積した揺らぎが、ほとんど波風を立てなかった。
 目の前にある事実だけが、それが当たり前でさも当然のように理解出来てしまう。
 そうーー。
ーー後輩君は、もう既にーー私の前から永久に居なくなってしまったのだ。



次話、>>24

Re: 転移後即日死した後輩君を魔女先輩は甦らせたい!? ( No.24 )
日時: 2023/03/07 15:22
名前: htk (ID: /m68L9nQ)

1章〜〜第2幕、9話ーー副題(未定)



「、、何を
、、してるんです、、?」
 気付けば蹲っていた沙梨亜ちゃんが、顔を上げた。
 私は特に答えを返さず、物言わなくなった後輩君に杖を向ける。
 異世界原語を思い浮かべながらの、術式の起動ーー。
ーーそれらは横たわる彼の周囲で展開されるも、効力を喪ったように掻き消えてしまう。
「違う……。
外気への干渉力が足りないというの……?それともプラーナに働きかける私の力不足……?
……いいえ、まだ試していない事がある筈なのだわ……?何か……」
 幾度かの術陣が起動を直前に不発に終わったのを見て、私は考える。
 先程から試みているのはーー後輩君の蘇生だ。
 馬鹿げた話をーーと、人が聞いたら思うのかもしれないが、この世界は元居た世界とは法則が違う。
 異世界なのだーー。
ーーだから何か、死した人間を呼び戻す手段があっても不思議では無いとーーそう思いたかった。
 沙梨亜ちゃんは先程から何も言わず、こちらを黙って見詰めている。
 何か言いたい事があるのかもしれないし、それともーー今は好きにさせてくれるのが、時折皮肉っぽい後輩女子なりの優しさなのかもしれない。
 私はそれに構わず、何ら反応を示さない彼の傍らでーー手段を考える。
 あの蜘蛛人間が、何か言っていた筈だ。
 私と後輩君との間にーー。
「そう……。
通力循環ね……」
 外気を介して、後輩君の体内へーー。
ーー彼の手を握った私は、自身の内にあるプラーナを物言わぬ身体へ注ぎ、彼の中にまだ残存するプラーナに触れたのをーー感じた。
 それはーーどう判断するべきなのか、事例が無いせいで見当も付かない。
 でも、彼の身体はまだーー微弱ながらも生命活動を終えていない、端的な証拠だとはいえないだろうかーー?
 そうした希望的観測が、私自身の都合に基づいたある意味ーー脳内お花畑な、少女じみた考えなのは分かっているつもりだ。
 それでも、彼の中にまだ残るプラーナがあるという事実にーー望みをかけたい。
 私のプラーナを介した後輩君の顔色が、心無しかーー良くなったような気がした。
 目の錯覚かもしれないーー。
ーー私は首を振り、ありとあらゆる手段を思索する。
「何か……。
何か、ある筈なのよ……!?
……死して体内に残る彼のプラーナが他の死と同等に比定されるかは未確認だけど、それでも何か……」
 自然と漏れた述懐を、そこで止めた。
 こういう時ーー。
ーーいつもならフザけた相槌を打ちながらも、的確な助言をくれた顔が思い浮かぶ。
 茶色に金のアクセントを塗した髪色の、私達を見送ってくれた親友ーー。
「日記……」
 私は急いで荷袋を弄り、それを見付けた。
〈ヒョコちゃんとのラブリーアツアツ通信記〉と書かれた表紙を、一枚二枚と捲る。
 此処に来る直前ーーひよ子に宛てた返信の次のページに、長々とした文字の羅列が書き足されていた。
 術式変換品ーー〈ヒョコティティル製品〉の目録が、相変わらずフザけた口頭の後に続いている。
 そのいつもの前口上を読み飛ばしーー探した。
 何か、今の私にとって最も必要とする、その何かをーー。
「あった……!」
 その箇所には、こう綴られている。

『次に、これはね〜?
もしもの時の為を思い深謀遠慮を発揮するヒョコちゃんに感謝する時が来るかもしれませんな!うっへっへ〜?
後輩女子ちゃんの袋にテキトーに詰めといたんだけど、その中身は古今東西、かの不老不死を目指した皇帝も真っ青な秘薬霊薬がより取り見取り〜!
ま〜、効果を実証する時間は無かったから必ずしも役立つとは限らないんだけどね〜?
どうかな〜?
それじゃ以下の下、その内訳を列挙しておくよ!
刮目して見るが良い!なんてね〜?』

 そのページを開いた私は、沙梨亜ちゃんに向き直る。
「これ……これよ、これ……!
ここ見て……!」
「、、先輩、、?」
 示した箇所に目を向けた後輩女子が見た内容は、こうだ。

『さすがに不老不死の霊薬とまではいかないと思うんだけどね〜?
あの見るからに毒々、ってゆーかポイズンちっくなやつ〜?
実はあれ、魂を呼び戻す秘薬みたいなんだ!
けどどうかな〜?
それで本当に人が甦るとかさすがのヒョコちゃんでも分からないけど、もしもの時用だね〜
ま〜、それを使う機会が来ない事を祈るよ?
友人達を陰ながら見護りたい気分の私としてはね〜?
あ〜、そうそう!
用法上の注意だけど、死んだ人に無理矢理飲ませようとしても無駄だから、使い方を補足するとだね〜?
いわゆる、ちゅーチューして死人の口に注ぎ込むわけですな!いや〜?
その際、相手の鼻をつまむと人体の反射で飲み込もうとするらしいんだけど、これはあくまでも死者が死んで間も無く、まだ身体が生きてるのが条件かもしれなくてだね〜?
これはもしかすると、もしかするかも分かりませんな!?』

 沙梨亜ちゃんはその記述を読むと、自身の荷袋を漁った。
 出てきたのは、あのーー見るからに毒々しい液体だ。
「、、ほ、本当に、、
、、これで天ヶ嶺君が、、?」
「……貸して」
 私は半ば、それをひったくるように受け取ると、フラスコの液体を口に含んだ。
 それをそのままーー後輩君の鼻をつまんで、彼の口に注ぎ込む。
 平素ならーーとてもそんな行動は取れなかっただろう。
 それがどんな感触で、どんな味がして、どんな気持ちになるのかもーー浮かんではこなかった。
 唇に自身のそれを触れさせた私の目は、後輩君の様子を注視している。
 ゴクリーーとは誰が鳴らした音なのか、最初は分からなかった。
 私自身かもしれないし、処置を見護る沙梨亜ちゃんだったのかもしれないし、でもーー。
ーー僅かに反応があったような気がしたのは、後輩君の喉元だ。
 幻聴だったのだろうかーー?
 毒々しい蘇生薬を嚥下したのかどうかーー。
ーーパッと見た限りでは、よく分からない。
 目の錯覚だったとも思えず、思案する私の傍らからーー。
「、、顔色
、、さっきと違う気がします、、?」
「沙梨亜ちゃんにも……そう見える?」
 二人して、同じような幻覚を見ているのだとはーー今は判断が付きそうに無い。
 沙梨亜ちゃんにとっても日頃から仲良くしているクラスメイトの死は衝撃だった筈で、先程啜り泣いた目元が赤いのもーー普段冷静な彼女の動揺を示すものなのだろう。
 対して私は意外な程にーー心の奥底の揺らぎが無くなっていた。
 あまりの衝撃に、少しだけ情緒がおかしくなっているのかもしれないーー。
ーーでも、この瞬間に限っては取り乱したりせずに済んで、それで良かったように思える。
 心無しかーー顔色が良くなった気のする後輩君の傍らで、無言の時間が流れた。
 時々ーー洞窟の奥から響いていた物音も、今は聴こえてこない。
 向こうでも何かしらの決着が、付いたのかもしれないーー。
ーー今も自分が後輩君の手を握っていた事に気付き、それには触れず私は言う。
「テツヲの奴……遅いわね
大丈夫かしら……?」
「、、テツ先輩は負けません
、、必ず勝ちます」
 そう断言する後輩女子の眼帯ヤンキーに対する信頼は、一切の揺らぎが無いように見えた。
 私もそれをーーあまり疑ってはいない。
 想像しにくい、といった方が正確だったが、今はーー後輩君の容体が良くなる事を願うのみだ。
 私はそれから暫くの間ーー彼の手を離さなかった。



次話、>>25

Re: 転移後即日死した後輩君を魔女先輩は甦らせたい!? ( No.25 )
日時: 2023/03/07 15:28
名前: htk (ID: /m68L9nQ)

1章〜〜第2幕、終話ーー副題(未定)



「心臓は動いてるみてェだなァ、、?」
 後輩君の胸に耳を当て、眼帯ヤンキーが言った。
 洞窟の奥から物音が聴こえなくなって、少し経った後だ。
 戻って来たテツヲは沙梨亜ちゃんから上着を受け取ったかと思うと、開口一番に横たわる彼の身を案じた。
 ただーー見た目だけならそれを言った本人の方が、余程重症にも見える。
 ボロボロだ。
 あちこち引き裂かれ、武闘服のズボンは膝や脛のあたりが裂けてしまっている。
 今は上着を纏って見えない上半身にも裂傷が其処彼処に刻まれていたように見えたのだが、事ここに至ってーー平気そうだった。
 だが、殺しても死ななそうなテツヲの事は、今はどうでもいいのだ。
 私は眼帯ヤンキーが言った言葉を訊き返す。
「今、何て……?」
「アアン?」
「し、心臓がどうって……?」
「アア、耳にこのプラーナっつうの?
それを集中させっとよく聴こえやがるんだよなァ、、
、、いやァ、その光の球みてェの無くなってから流石のオレも見えねェし、躱せねェしでケッコウ貰っちまったんだがなァ?
なんか身体ン調子良くなってから色々出来るコトに気付いてよォ?
あのアラクネもどきには逃げられちまったがなァ、、?」
 つまりーーテツヲが勝ったらしいのは分かったが、肝心の彼の心臓はーー。
ーーそれを聞いた私は、後輩君の胸に耳を当てる。
 その後ろで、沙梨亜ちゃんがテツヲとの会話を引き継いだ。
「、、逃げられた
、、ですか?」
「おゥ?まァな、、
、、デケェ繭みてェのが出来たかと思ったら、ソン中に閉じ篭もっちまいやがってなァ?
何しても開かねェし、壊せねェしでイイ加減放っぽといてきたトコだァ!」
「、、っち!?
、、早く此処を出ますよ!?」
 二人が騒ぐせいで、よく聴こえない。
 プラーナを耳に集中ーー?
ーーテツヲが言った技法は私も試した事は無かったが、今それに取り組んでいるところだった。
 こちらのそんな様子を窺ったらしい沙梨亜ちゃんが言う。
「、、それで、テツ先輩!?
、、天ヶ嶺君の心臓は動いてやがるんですね!?ちゃんと!」
「アア!間違いねェ!
、、心音の間隔はオメェらと比べるとエラく長ェが、間違い無く動いてると思うぜ?」
 それを聞いた私は、後輩君の胸から耳を離した。
 つまりーー私の拙い蘇生措置はどれが功を奏したのかは分からないが、ひとまずは成功したのだ。
 この眼帯ヤンキーの発言を信用するなら、と但し書きは付くのだがーー。
ーーともかく、それを聞いた沙梨亜ちゃんは脱出を促す。
「、、急ぎますよ!?
、、繭に篭った敵がどーなるかなんて、十中八九強化フラグに決まってます!」
「おゥ!オメェもそう思うかァ!?
いやァ、次はあの固ェ繭に大穴開けてやらねェとなァ、、!」
「、、分かってるなら、、!
、、早く天ヶ嶺君を担いで下さい!?テツ先輩!
リン先輩も、それで文句ねーですよね!?」
 物凄い剣幕だ。
 確かに、あの蜘蛛人間がテツヲに借りた漫画の強敵みたいにパワーアップしたらーー。
ーーそう思うと、はっきり言って今の私では勝てる自信が無い。
 有無を言わさない雰囲気の沙梨亜ちゃんに私は頷き、後輩君がテツヲに担がれるのを見護る。
 昏睡状態から目覚める様子は無いが、その顔色は明らかにーー蒼白とは違うように見えた。
 土気色でも無く、死後硬直が始まっているようにも見えない。
 その様子にホッとするも、まだーー油断は出来ないとも感じている。
 だが今はーーこの不愉快で悍ましい洞窟を出る時なのだろう。
 私達は担がれた後輩君を伴い、蜘蛛人間の巣窟から脱出した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『ーー/
 私達は旅を続ける。
 目を覚まさない彼を伴って、この元居た世界とは異なる地を巡って、果てどのない旅を。
 時折、思うのだ。
 彼が目覚める時、その時がもしくるのなら、私はどんな顔を向ければ良いのだろう、と。
 長き旅路の空の果てにて、時折ーーそれを考えるのだ。

          by 終期末の魔女リン
/ーー』



 次話、>>26


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