ダーク・ファンタジー小説

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片翼の紅い天使
日時: 2014/01/12 23:42
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: iaPQLZzN)

うぐ…。
い、いいよね!大丈夫だよね!


と、とりあえずまた新小説書くバカが通ります。
絶対更新が遅くなります。絶対です、必然です。

そんなこんなで始まりますが、
温かい目で、且つ広い心で受け止めてやって下さい。





◆目次
prologue >>001 登場人物 >>002

*001 >>003 *011 >>015
*002 >>004 *012 >>016
*003 >>005 *013 >>017
*004 >>006 *014 >>018
*005 >>007 *015 >>019
*006 >>008 *016 >>020
*007 >>009 *017 >>021
*008 >>010 *018 >>022
*009 >>011 *019 >>023
*010 >>014 *020 >>024



◆お知らせ

 2011:09:06 執筆開始

Re: 片翼の紅い天使 ( No.10 )
日時: 2012/01/08 14:53
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: aaUcB1fE)

第008話 天の旅人VS無能力者

 「——————————————だァァァァアッ!!!!!」

 
 突如、少年の声が響き渡る。


 「—————————ッ!!?」

 
 突然の声、そして拳。
 目の前に飛び込んできたそれは、見事天族の頬を殴り飛ばす。
 勢い良く吹っ飛んだ天族を睨み付けて、少年は息を整えた。

 「て…め…、レルカに何しやがる——————ッ!!!」

 少年、高瀬龍紀の怒号が天族の耳を突き抜ける。
 魔族の少女、レルカは未だびくびくと震え、床にぺたりと座り込んでいた。
 殴り飛ばされた天族の少年は、ゆらりと立ち上がる。
 そしてその蒼い眼光で鋭く高瀬を睨みつけた。

 「…無能力者、高瀬龍紀の存在を確認。優先順位の変更」

 機械的で、それでいて感情を示さない言葉を発する。
 少年は、ふっと振り返り窓へと視線を移した。
 そして素早く移動をすると、そのまま窓辺から1階へと飛び降りる。
 後を追おうと思い、高瀬もまた足を蹴り上げ加速する。

 「た、…せく——————————っ」

 レルカは怯え、最早声も出なかった。
 怖かった。死線の端に、自分がいた。
 然し人間なのに、まるで無能力なのに、
 高瀬龍紀は拳を振るってくれた。



 
 
 「…っ、はぁ…っ—————、は…!!」

 天族を追いかけて、高瀬は走っていた。
 靴の紐が解けている。そんな事に回す“気”がそもそもなかった。
 唯夢中で追いかけて、走って。息が切れるその寸前まで走り続けた。

 
 その途端、天族は急に向きを変えて滑るように高瀬の方へ顔を向けた。
 此処は街の暗い路地の奥。
 高瀬は息を整えて、天族の蒼い眼光だけを見据える。

 「警告。我、天の旅人は処分順位を変更。尚、目前にいる【高瀬龍紀】を直ちに処分する」

 相変わらずの機械的口調で、天の旅人はそう告げる。
 実際頭の悪い方の高瀬は半分くらい理解をしていない。
 然し相手の…そう、天族から感じる殺気からは何の誤解も生まれない。
 高瀬は、もう1度拳を握った。
 
 
 「無能力者、——————————高瀬龍紀の処分を開始する」

 
 そして、天族はゆらりと腕を上げて、掌を開く。

 
 
 「天滅の章————————————、光砲」



 静まったその表情と声で、少年はそう言った。
 この言葉は、以前も自分の家で聞いた事がある。
 天族が襲ってきた時に、天の旅人だけが扱える技を。

 
 「ぃ…え——————!!?」
 
 
 驚いた高瀬は咄嗟に右へと転がった。
 光瞬くその砲撃は、高瀬の顔面その前まで迫っていたから。
 咄嗟の判断でそれを避けた高瀬は、膝をついたまま天族へと再び顔を向けた。
 



 ————————————、筈が。



 「あれ…」


 天族は、消えていた。
 砲撃を放った瞬間に、そう…————————何処かへ。



 「天滅の章、光砲」



 小さくそう聞こえたその瞬間に、高瀬の頬に汗が滲んだ。
 気付いた時にはもう遅くて、その声の主は自分の後ろにいて。
 あんな攻撃を喰らったら生きては帰れない。そんなのもう覚悟していたのに。
 
 
 高瀬は絶対な光を前に、一寸も動けなかった。



 「——————————ぐあぁッ!!!」


 
 その衝撃で、高瀬はずっと後ろにあったコンクリートの壁に激突する。
 ガラガラ…、と高瀬を真上からはコンクリートが崩れてきた。
 光砲の直撃を喰らった高瀬は、僅かに手を動かす。
 一体幾ら飛ばされたのか分からず、唯前に迫る天族を見た。
 
 唯の人間と、選び抜かれた天才の天使。

 元々、持っている物が違った。
 自分は神乃殊琉のような天才ではない。
 天の旅人に退けをとるような存在でもない。
 
 無能力。
 その現実が、高瀬の心を強く苦しめた。

 
 それでも尚、高瀬は拳を握り締める。
 何の意味も成さない右手を。
 何の利益も生まない実力を。



 「ま…だ…——————!!」


 
 小さく言葉を紡ぐ。
 小さな想いを描く。

 誓った言葉、誓った約束。

 破る訳にはいかなかったから。
 此処で終わらせる訳には、いかなかったから。



 「————————終わらせねェッ!!!!」


 
 高瀬は拳を握り締めて、足で地面を蹴り上げた。
 頭が痛いのも分かっていた。唯の人間には限界がある事も、知っていた。
 それでも、それでも尚立ち上がる。
 夢見た世界を、紅い少女へ届ける為に。
 たったそれだけの——————、為に。


 (————————————ッ!!?)

  
 天族の目の前に、突如として拳が出現する。
 咄嗟の攻撃に一瞬動きが鈍くなり、そのまま激突。
 見事天族の頬を捉えたその拳は、小柄な天族の体を突き飛ばす。

 「…っ…は、っ……」

 高瀬は拳をゆっくりと下ろす。
 そして、ゆらりと立ち上がる天族へ視線を集中させた。
 見えたのはそう、蒼い瞳がぎょろりと蠢く瞬間だった。
 

 「天滅の章————————、光砲」

 
 高瀬は技が飛び出す瞬間を見計らって足を蹴り上げる。
 逃げるには、一方通行の暗い路地では意味がない。
 従って、高瀬はそれを利用して避ける事を選んだ。
 背後からの光が瞬いた瞬間、高瀬は振り返って避けようとする。

 
 ————————————然し。

 
 「——————————、え!!?」


 それは、光砲の光ではなかった。


 「技というのは、自身の意思がない限り発動はされない」

 
 高瀬の目の前には天族がいた。
 そう…先程の光は“天壁の章”によるもの。
 高瀬はそれに気付かず走り、まんまと天族に距離を縮められてしまった。
 天族は一度も表情を変える事なく。


 「天滅の章————————、光砲!!」


 そして高瀬が起き上がる間もなく、本当の光砲が唸りを上げる。
 光砲に喰われ、勢い良く高瀬は広場に出た。
 そこは古い工場で、周りに誰もいないのが救いだった。
 然し今、そんな事を考えている余裕など高瀬にはない。
 またも強く打ち付けられた体は、高瀬自身の意思の言う事を聞くだろうか。



 「ぐ……ッ、ぁ…」

 高瀬はだらん、と頭を下ろす。
 生身の人間に、これだけの耐える力があった事が最早奇跡。
 これ以上の攻撃を加えられたら、体がもたない。
 それは高瀬自身が一番良く分かっている筈だった。

 「あれを引き渡す事さえすれば、命だけは救う」

 “あれ”。
 高瀬は、許せなかった。
 まるで生き物扱いではない。そんな口調で、レルカの事を指していた。
 高瀬は再び拳を握る。
 もう自身の力が残っていない事を、知っているのに。


 「だ、れ…が……わ、たす…かよ…————ッ」

 
 高瀬の言葉に一つも揺るぎがない。
 最後まで護ってやると、誓ったばかりだから。
 幸せにしてやると、そう告げたばかりだから。

 ボロボロの高瀬を目の前にして、
 天族は微笑む事もしないまま——————、手を翳した。


 「天滅の章————————————」


 最早高瀬に、“生”という選択肢は選ばせないと。
 そう言い放つように、天族は言葉を紡ぐ。

 然し高瀬の瞳の先には…別の色が見えた。
 この状況で、この瞬間に。


 
 ————————————————紅い少女の走る姿が、見えた。

Re: 片翼の紅い天使 ( No.11 )
日時: 2012/01/06 22:18
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: aaUcB1fE)

第009話 覚醒

 「れ…——————————るッ!!?」

 息が詰まるその瞬間、その直前。
 紅い天使は荒く手を振って叫んだ。

 「魔滅の章————————、影砲ッ!!!!!」

 紅い天使、レルカの掌からは見た事のある形をした砲撃が出現する。
 それは灰色をした砲撃で、見事高瀬龍紀の目の前を突き通る。
 天族の光砲を相殺したレルカの技で爆煙が舞い、視界が奪われた。
 天族は咄嗟に避け、煙の中から脱出する。
 距離をとった天族に対し、高瀬とレルカは暫くして、煙が晴れた頃に姿を現した。
  
 「れ…か……、何で此処、に…っ?」
 「だ、大丈夫ですか…?私……どうしても高瀬君を巻き込みたくなくて……っ」
 「てかお前…さっきの…」
 「…あれは魔族が扱える技のようです。…然し私も上手に扱える訳ではないので…あまり使えないのです」

 レルカが先程用いた業は、“魔章”と呼ばれるものだ。
 天の旅人が扱うのが“天章”。地の旅人が扱うのが“地章”となる。
 その2つに対峙した魔章は、魔族のみが扱う事のできる技。
 然しレルカ本人があまり戦闘に慣れていないが為に、戦闘用としては扱えない。
 レルカは今まで、天の旅人から逃れる為に使ってきた。
 決してこの技で勝とうとは思っていなかった。

 「…魔族…出現」
 
 天族がそう呟く。
 高瀬は傷ついた体を持ち上げて、服の汚れを払った。
 レルカはその様子を見て、ゆっくりと口を開く。

 「高瀬君……もう、やめて下さい」

 レルカの細い声が、高瀬の耳に届く。
 一瞬驚いた高瀬は言葉も出ず、レルカは続けた。

 「私はもう…良いんです。…例えこのまま捕まっても犠牲者は私1人……もう、私はそれが良いんです」
 「…!!?、い、良い訳ねぇだろ!!!それってお前が殺されるって事だろ!?良い訳ねぇじゃねぇかよ!!!」
 「高瀬君や他の人を…巻き込みたくないん、です……っ」

 レルカは溢れる涙を堪える事ができず、声を漏らして泣いた。 
 唯、巻き込みたくなかった。
 自分が生まれてきてしまったせいで他の人が犠牲になるならばもう良いと。
 レルカは自身の思いを震わせてそう言った。
 
 「お願いです……天族さん」
 「……」
 「私は連れていっても良い……だから…これ以上高瀬君を傷つけないで下さい…っ!!」

 高瀬は自分の無力さを、更に痛感させられた気分だった。
 弱いから、無力だから、傷つく。
 だからレルカをも傷つけ、殺される道を選んでしまった。
 自分のせいで。

 「やめ、ろよ……、そんなの…何の解決にもならねぇだろ!!!!」
 「…私は……生まれてくる事自体が罪なんですよ…?」
 「っ!!?」
 「産んだ親に代わって罪を償う事は…子供の役目ではないですか……?」

 レルカは微笑んだ。
 苦しすぎる笑顔で。

 「了解した。…直ちに捕獲をし、天界への移動を開始する」

 天族は高瀬に殴られた赤い頬に触れた。
 この場でたった1人、高瀬だけが状況を呑み込めず、唯2人を交互に見据えていた。
 このままで良い訳ない。そんなの自分が1番分かっているくせに。

 「待てよ…っ、まだこっちの話が…!!」
 「本人の承認を得た。最早貴様の意見を聞く必要はない」
 「だって…———ッ!!!」

 レルカは小さく首を横に振る。
 高瀬よりもっと、ずっと、重いものを背負って生きてきた少女。
 その覚悟は例え本人が自分より幼くても、ずっとずっと強かった。
 高校生の高瀬より、もっと幼い少女の筈なのに。
 自分より大きく見えて、強く見えて。

 高瀬は————————————、唯悔しかった。



 
 
 神乃殊琉。

 彼女は自分と同い年で、幼馴染。
 小さい頃からずっと一緒だった。
 然し彼女は自分より強く、凛々しく、大きかった。

 それは何故か。





 「待てよ…俺は——————————————ッ!!!!」


 
 
 背が低くて、
 頭が悪くて、
 女の子にモテなくて、
 序に短気。

 友達だって多くない。
 人望だって厚くない。
 
 何の取り得のない自分。
 何の努力もしない自分。


 


 そんな自分が——————————————、












 ——————————————、嫌いだった。






 「——————————ッ!!?」


 突然の光に、天族は思わず振り向いた。
 然しその光は消え、いるのは先程の無力な少年1人。
 天族が気のせいかともう1度顔を逸らした————————、その時。



 「——————————————【形】!!!」


 
 少年の脳裏に、幾つ物単語が流れ込んできた。
 それは能力者が日々、それを駆使して戦っていたもの。
 そう、“能力”。

 「能力…——————————、まさかこの瞬間に!?」

 機械的な少年の口調が歪む。
 それどころは声を荒げて、高瀬の方へ向き直った。
 
 「あ…れ————————、俺…能力?」

 頭の中で何かが絡まりつつあった高瀬は現状を理解できない。
 然し確信する。それは能力を手にした瞬間だと。
 高瀬が先程叫んだ“形”という言葉は、何と高瀬の右の掌に書かれていた。

 「なんじゃこりゃぁ!!?」 
 
 黒い文字で書かれた“形”という文字。
 そして頭の中で絡まる知識。
 高瀬は深呼吸を繰り返し——————————、手を翳す。


 「け…————————【形】の能力!!」


 その途端、高瀬の周りに浮かんでいた“空気”が、形と成した。
 突然周りの酸素を失った高瀬は1度喉を痞え、けほけほと咳をする。

 「って……、何これぇ!!?」

 そうして見た右手に握られているそれは——————————、白い“剣”。

 「く…空気が形、に…!?」
 「…目標を急遽変更。高瀬龍紀の処分を優先とする」

 天族はレルカを離し、戦闘態勢にうつる。 
 高瀬は白い剣をじろじろと見つめ、そしてしかと握る。
 
 「何だか良く分かんねぇけど——————————、これなら戦える!!!」

 突然にも能力を手にした高瀬。 
 目の前に立ちはだかるのは冷徹無情な天族。
 高瀬はもう1度白い剣を握りなおし————————————いざ、足を蹴り上げて加速する。

Re: 片翼の紅い天使 ( No.12 )
日時: 2012/01/11 20:12
名前: 風猫(元:風  ◆Z1iQc90X/A (ID: SqbaeWwr)

此方では初めまして。雑談では、お世話になってます。貴重な意見をいつも有難うございます^^

>>6までしか読んでませんが一応感想を。
さてと、神乃のような天才がいると言う事は高瀬の学校は相当レベルが高いのでしょうね。
能力者と天使……どう絡んでいくのか気に成ります。
しかし、最近、天使物が多いような気がする風猫です(汗
元々、結構あるのだけどね。

Re: 片翼の紅い天使 ( No.13 )
日時: 2012/01/12 22:50
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: aaUcB1fE)

>>風猫さん

 こちらこそお世話になっていますw

 高いでしょうねー…然し高瀬は何故かドベの方にいます((
 気になる…ですか、有難う御座いますっ。

 あ、私もそれは感じますね。
 天使物は流行っているのではないでしょうか…?コメディでもシリアスでも。
 理由が未だ分かりませんが;;

 訪問有難う御座いましたぁーっ

Re: 片翼の紅い天使 ( No.14 )
日時: 2012/02/05 18:55
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 3eop5mZb)

第010話 最良視力、鬼帝水痲 

 「って…うわァ————!!!」

 対峙する互いの“力”と“力”。
 天族は真っ先に高瀬の懐へ飛び込み、高瀬も続いて退ける。
 天族のあの蒼い眼光は高瀬を捉え、殺戮の兵器と化した。

 「天滅の章————————、」

 天族は1度高瀬と距離を置いてから、
 再び手を翳した。

 「——————————光乱」

 然しその技は、以前までの技とは異なっていた。
 
 瞬く光が高瀬の周りで飛び交い、加速し標的を狙い打つ。
 まさに光が不規則に乱れ、高瀬を標的にしているかのよう。
 
 「う…ッ、どりゃぁァッ!!」

 然し高瀬は左腕で多少の攻撃を防ぎ、白い剣を振るった。
 空気を圧縮し、具現化した高瀬の能力。
 “形でないものを形にする”力————————。
 
 「はぁ、ッ……、やっぱ使い方分かんね…っ」
 
 初めて手にした能力。
 右の掌に書かれた“形”の文字。
 まだ実感の沸かないこの不思議な感じ。
 全てにまだ慣れていなくて、まだ使いきれていなくて。
 それでも逃げない、目は逸らさない。
 
 ずっとずっと、待ち望んでいたものだから。

 「————————ッ!!!」

 高瀬が剣を振って敵陣に乗り込む。
 天族は咄嗟に左腕でそれを抑え、両方の足に力を入れた。
 高瀬は天族が押さえ込む力の反動に押され、後方に飛び退く。
 
 途端、高瀬の口内から紅い液体が飛び散る。

 「ぐ、はァ…————ッ!!

 先程、光砲の直撃を受けた高瀬。
 前から迫る技と後ろに佇んでいたビルに挟まれ、本当はボロボロだった。 
 それが今になってリバウンドを起こし、高瀬は思わず膝をついた。
 折角ここまで粘ったのに、あの天の旅人を相手にして。


 「…目標を捉えた。直ちに処分を決行する」


 天族の白く綺麗な腕が、すっと伸びる。
 高瀬は薄く開いた瞼の奥から、その蒼い瞳を見つめていた。
 まだ能力を使いきれない高瀬は膝をつき、心臓の辺りをぎゅっと掴む。
 激しいリバウンドに声も出せない高瀬を、レルカは震えながら見つめる。

 
 「た、せ…く——————————、や、やめ、て…———ッ」


 彼女がボロボロに泣くその姿を、唯見逃す事しかできない。
 あともう少し、もう少し手を伸ばせば届くのに。
 なのに遠くて、暗くて、辛い世界の中にいた。
 高瀬はぎゅっと目を瞑る。
 悔しいという一つの感情だけが、高瀬の脳内を巡った————————。



 「……————ッ!!」



 それでも高瀬の指は、天族の服の裾を掴む。
 小さく小さく、弱い力で。
 離さないと、絶対に逃さないと。
 そう、目と指で訴える。

 然し天族は、脚を振るって高瀬の腕を払った。
 そしてその脚で高瀬の腹部を蹴りつける。
 再度口から吐き出された血。
 その血は鮮やかで、残酷で、高瀬の目の前に広がった。


 「終わりにする……——————————、天滅の章」
 

 レルカと高瀬の呼吸が、一瞬だけ停止した。


 ————————————————————、そして。




 
 突如現れた小さな銃弾が、天族の腕を貫いた。




 「————————ッ!!?」


 どくどく、と天族の腕から血が溢れ出す。
 腕を抑えた天族は、素早く周りを見渡した。
 然し何処にも人の影はなく、それどころか気配さえ感じられない。
 一体何処から天族の腕だけを狙ったのだろう。

 
 高瀬にもやっと見えたのは…、屋上に佇む2人の人物だった。


 「——————————、地の旅人…!!」


 ふんわりした綿のような髪質を靡かせて、水色の髪色をした少女はゆっくりと歩く。
 そして後ろに纏わりつくように、水色の少女より少々高めの可愛らしい人物が姿を現した。
 高瀬でも見た事のある水色の少女は、にっこりと笑顔を浮かべて高瀬のいる地面まで落ち、そして華麗に着地する。
 高瀬はボロボロの体を持ち上げて、しかとその人物を見た。


 「お…お、にみか…ど……ッ!!?」

 
 そう、クラスメートの鬼帝水痲だった。
 温厚な性格で、いつも神乃殊琉と一緒にいる少女だ。
 学校内でも有名なA級の能力者で、何といっても彼女の凄いところは能力だけではない。
 “視力”。人並み外れたその視力は、最大にして前方20kmまで見る事ができる。
 そんな彼女が今、悠々と高瀬の前に立っていた。

 「高瀬君…また巻き込まれてたんだね〜?、ごくろうーさんっ」
 「え、ぁ……何、で鬼帝が…?」
 「高瀬君は寝てていいよ〜?後で説明するからね〜」
 
 そんな彼女を追って、また美少女が屋上から降りてきた。
 片目に眼帯を装着している彼女は、高瀬の知らない人だった。

 「み、水痲さん、…少しは警戒して下さいっ」
 「大丈夫だよ蒼君〜、天族を追い返すだけだしねっ」

 (く、くん…?)

 最早頭を打ち付けているせいか高瀬の思考回路は停止し、そのまま気絶してしまった。
 鬼帝はそれを確認すると、ふっと笑って前方を向く。
 いるのは、右腕を抱えて形相悪く睨んでいる1人の天使だった。

 「レルカちゃんは襲わせないよー?だって、そういう決まりだから〜」
 「地の旅人は、我等天族の問題には関係ない。手を引いてもらう」
 「そういう訳にはいかないんだよー…、だってもう“地上の問題”なんだからっ」

 鬼帝はスカートの右ポケットから小さな弾を取り出した。
 それはビービー弾のような形状で、とても軽くて安っぽい代物だった。
 鬼帝はそれを複数握り締めると、未だ微笑みながらそれを構えた。
 親指に乗せ、弾けばすぐに飛んでいける様に設置する。
 
 「さてさて…、どうする〜?君が光砲を使うのと私が弾を飛ばすの……どちらが速いと思う?」
 「……」

 暫しの間に流れる沈黙。
 鬼帝は表情も変えずに、最後に1度だけ笑って。



 「じゃあ…——————、いかせてもらうね?」


 
 そう言って、弾を親指で押し飛ばす。


  
 「——————————————弾!!!!」


 
 拳銃の何倍もの速さで放たれたそれは、直線的に天族を捉えた。
 然し天族は1度顔を歪めただけで決して動じず、即座に技を繰り出す。


 「天逃の章————————————光幕!!!」

 
 激しい爆音が鳴り響き、鬼帝が顔を上げた頃には天族の姿がなかった。
 唯そこにあるのは天族の血だけで、影すら消えていて既に存在はなくなっていた。
 鬼帝は溜息をついて、ポケットから携帯を取り出す。


 「————————ごめん殊琉〜、逃げられちゃったぁ」


 泣くような声でそう告げた後何故か通話を切られ、鬼帝は辺りを見渡す。
 そして“蒼君”と呼ばれていた美少女らしい人物に声をかけ、高瀬とレルカの救出に取り掛かる。
 唯1人、電話の向こうにいた神乃殊琉は不機嫌な顔をしていたが、そこは後でお詫びしようと。
 鬼帝水痲はうんうんと頷いて、“蒼君”と共に働き始めた。


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