ダーク・ファンタジー小説

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片翼の紅い天使
日時: 2014/01/12 23:42
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: iaPQLZzN)

うぐ…。
い、いいよね!大丈夫だよね!


と、とりあえずまた新小説書くバカが通ります。
絶対更新が遅くなります。絶対です、必然です。

そんなこんなで始まりますが、
温かい目で、且つ広い心で受け止めてやって下さい。





◆目次
prologue >>001 登場人物 >>002

*001 >>003 *011 >>015
*002 >>004 *012 >>016
*003 >>005 *013 >>017
*004 >>006 *014 >>018
*005 >>007 *015 >>019
*006 >>008 *016 >>020
*007 >>009 *017 >>021
*008 >>010 *018 >>022
*009 >>011 *019 >>023
*010 >>014 *020 >>024



◆お知らせ

 2011:09:06 執筆開始

Re: 片翼の紅い天使 ( No.5 )
日時: 2011/09/22 23:38
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: DxRBq1FF)

第003話 幼馴染、神乃殊琉

 「さて…っと」

 早朝の事。
 高瀬龍紀は昨日会ったばかりで初対面の美少女(本人曰く天界の住人、魔族)を薄い布団の上に寝かせた。
 自分じゃ何とかできない事も分かっていた。
 背中には見るのも苦しいくらいの傷跡が生々しく刻まれて、彼女にとっての激痛を思い知らされる事になっていた。
 幾らなんでも背中に紅い翼を持った少女を病院へは連れていけない。
 そう思った高瀬はとりあえず包帯を巻き、彼女をそっと布団へと寝かせたのだ。
 寝顔が可愛い…とかなんとか思って眺めているうちに時刻は7時半を回る。
 小さく舌打ちしながらも、高瀬はよいしょと立ち上がってドアノブに手を伸ばす。
 そしてしっかりと鍵を掛けて、すたすたと足早に学校へと向かって行った。

 
  
 「よぉーっ、たぁーっちゃぁーん!!」

 遠くから親友の声を聞き、高瀬はちらっと後方を振り向いた。
 いたのは赤髪ツンツン眼鏡の天才野郎、澤上仁だった。

 「はよ、澤上」
 「…?何だよたっちゃん、おめぇ元気ねぇーな?」
 「別にそうでもねぇけど……って、単にお前が朝からテンション高めのせいだと思うんだが」
 「そうか?俺は四六時中何処にいたってこのテンションは守り続けんのよ〜」
  
 澤上とのゆっくりとした会話を進めていくうちに、あっという間に校舎の目の前にいる高瀬。
 至って普通の共学高で、周りには同じ制服を着た生徒達がぞろぞろと歩いていた。
 一度大きな欠伸をした高瀬は教室へと進み、がらりと開ける。

 そして。

 
 「おっそいんだよこのチビィィィ———————ッ!!!」

 
 罵声という名の大声と鉄拳に見事廊下の壁へと体を打ち付けた。


 「ったく……ホントにあたしの幼馴染なの?ねぇ!!!……こら起きろバカ龍紀ィ!!」

 既に夢と現実の中を彷徨っていた高瀬には少女の声は聞こえなかった。
 見えるのは頭上の黄色い星。これただ一つ。

 「…ぁ…朝か、ら……何しやがんだ殊琉————!!」

 ゆっくりと立ち上がった後に、高瀬も反撃して少女の名を呼んだ。
 神乃殊琉。
 焦げ茶色の短髪で、頭には白い眼鏡が乗っている。 
 学校でも目立つ方の美少女だった。

 「はぁ?良い?朝の登校時間は8時10分!!それまでに教室にいないとダメなの!!分かる!?」
 「……おい、俺は8時9分58秒に教室に足を踏み入れたがまさかの展開でお前に阻止されたんだが」

 こんな時だけちゃっかり時計を確認していた高瀬は間髪入れずにそう答えた。
 そんな高瀬の言葉に神乃は一瞬後退りをして。

 「う、うるさい!!大体普通の女の子にぶっ飛ばされるあんたが悪いの!!!」
 「いや、お前はどう考えたって普通じゃねぇーだろ!!」
 「……ちょっとそれどういう事?」
 「どうせ殴る瞬間に自分の“能力”でも使ったんだろーがっ!!」
 「あれ?気付いてた?」

 “能力”
 その単語を聞いた時、同時に校舎中に鐘の音が鳴り響いた。
 朝のHRの時間なのか、仕方ないという表情で神乃も高瀬を教室に入れた。


 
 「……えーでは。これからは“能力”関連の基本授業に入りますが、準備は良いですか?」
 
 担当の先生なのか、きっちりとした顔つきの若そうな女性教員が机の前に立っていた。
 皆真剣に聞いていたのに、唯1人、つまらなさそうな顔で神乃は外へ視線を向けていた。
 
 「まず始めに新学期という事で説明を願いますか?神乃さん」
 「え……あぁ、はい」

 少々不満気そうな顔で神乃は立ち上がり、一度教室を見回してから先生へと視線を戻した。
 
 「能力とは、人間の内に秘めた可能性を引き出す為の“道具”であり、それを駆使して……」

 能力。
 それは誰もが持っているものではない。
 努力を重ね、屈指ない強い志を持った者が能力を手に入れる。
  
 この世界の能力は、“漢字一字”の状態変化及びそれ以外の能力。
 
 例えば、“冷”という能力ならば、触れたもの、又それに準じる何かを成し遂げればそのものが冷たくなる。
 状態変化が一般的で、一般人の能力者もそういった能力が多数いる中、
 特例能力というものが存在する。
 それは状態変化ではなく“加入変化”。
 加えるというそのままの意味で、“痛”“感”…など、相手自身に何かを加える能力も存在する。
 然し、加入変化を持つ能力者はそうそういない為、この世界でも貴重に扱われているという。


 
  
  
 「…以上です」

 長い説明を終えた神乃は周りからの微かな歓声も気にせずに溜息を吐いた。
 流石学年主席だとか、流石加入能力者…だとか。
 そう、神乃殊琉は学年主席の天才で、最も貴重な能力、“加入能力者”の1人。
 更に神乃殊琉はこの国で最上位の“S級能力者”である。
 能力はS,A,B,C,Dの五段階でレベルが測れるようにもなっているが、この世界でS級は未だ4人程度だという。
 そんな事をぶつぶつと考えていた神乃は、自分自身で握り締めていた消しカスをぎゅっと摘んで、


 (——————————、撃)

 
 そう呟いて、小さく小さく消しカスをそれ以上の微塵に変えてしまった。
 小さな衝撃音はクラス内の騒音で掻き消され、本人もまた塵になった消しカスをパラパラと風に流す。
 そして先生が後に語る能力向上の授業さえも聞く耳を立てず、唯じっと空を見つめていた。

Re: 片翼の紅い天使 ( No.6 )
日時: 2011/10/04 23:00
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: DxRBq1FF)

第004話 天の旅人、セルフィーネ 

 「殊琉ーっ!!」

 学校も終わった丁度その頃、部活無所属の高瀬は幼馴染の名を呼んで手を大きく振った。 
 自分の名前を呼ばれた神乃殊琉は、ふいっと振り向く。

 「龍紀?」
 「お前もこっちだろ、一緒に帰ろーぜっ」
 「別に良いけど…あんた、そんな奴だっけ?」 
 「はぁ?」
 「…普通は嫌がるんだけど」

 と、ぶつぶつと何かを言っていた神乃を横目でちらっと見る高瀬。
 然し自分より身長が高い事を再確認しただけで、肩を落とすように落ち込んでいた。

 
 今時の芸能人とか次のテストの事とか、普通の高校生らしい会話を繰り広げていくうちに寮へと到着した2人。
 無能力者の寮の隣には、ちょっと豪華になった能力者の寮が並んでいる。
 高瀬は殊琉に別れを告げると、いつもの調子でてくてくと寮へ入っていく。
 相変わらず小せぇな、と思っていた神乃も1歩踏み出したところで。


 (————————————!!?)

 
 頭に、“何か”が過ぎった。

 それが恐怖心なのか唯の気のせいだったのか。
 唯1度…大きく心臓が高鳴った事に嘘はない。
 もう1度高瀬の寮の方を見つめ…そして。

 (嫌な予感が——————————した)

 勢いよく踏み込んで、走り出した。

 
 
 
 
 「あいつ……大丈夫かなぁ」

 昨日出会った赤髪の少女の事を思い出し、いざ扉へと手を掛ける高瀬。
 ぎぃ…という錆びた音を鳴らして部屋に入った————その時。


 
 
 「——————————遅かったねぇー?“無能力”のたーかせくん?」


 

 聞き慣れない声が、自分の耳を過ぎった。


 「やっだなぁー、そんな顔して見ないでよー……、別に君に危害は加えないかーらぁーっ」

 
 甘いような、それでいて恐怖感の感じる、嫌な声。
 高瀬は頬に冷たい汗を感じて、ごくりと喉元を鳴らした。
 
 「ボクはティルマっていうんだぁ〜、宜しくね?高瀬君っ」
 
 「…っな……なんだよ、い、い意味分かんねぇーよ!!!!」

 少女であろうその人物の唐突な登場に、高瀬は必死になって声を絞った。
 金髪の髪は短く、横の髪がまるで猫を思わせるように跳ねている。
 瞳は透き通った海のように深い蒼色で、呑み込まれそうなほど綺麗な輝きを誇っている。
 更に背中には純白の羽、頭上には金色の輪が浮かんでいる。
 天使のようにも見える…歳は自分よりは2つ3つ下、といったところだろうか。

 「ボクはねぇー、こいつを回収しに来ただけだから…、安心していいーよっ」
 「……こ、いつ…?」

 ボク、という一人称だが明らかに少女の顔をした天使のようなティルマは、足元へ視線を送る。
 つられて高瀬も下を見る。
 然しそこにいたのは……あの紅の少女だった。

 「お、お…ぃ……おい————————!!!」 
 「……?知り合いなのー?」 
 「離せよ!!!そいつは俺の大事な————————!!!!」

 と、高瀬が言い終わるその前に、
 金髪の少女はふっと口元を歪めて笑った。

 「“大事な”なぁーに?出会って間もない奴をまさか友達とか言わないよねぇーっ!?」
 「……っ!!?」
 「こいつはボクらが処分する。君には関係ないでしょ?」

 くすくすと、まるで嘲笑うように微笑むティルマ。
 “君には関係ない”
 たったその一言で片付けられるのが嫌で…高瀬は。


 
 「……————————関係なく、ねぇーよ」


 小さくそう、呟いた。


 「…ボクらの事、何も知らないのに関係なくない?それって可笑しいんじゃないのかなぁ?」

 「お前……“天族”とかいう奴なんじゃねぇーのか?」

 「————————!!!?」

 高瀬は怒りに満ちた表情でそう言い放つ。
 その台詞に驚愕の表情をつくり上げたティルマは、先程とは違う嫌悪に塗れた顔を作り出す。

 「…何で知ってんの?」
 「そいつから聞いた……まさかお前、そのせるなんちゃらって集団なんじゃねぇーのかよ?」
 「………」

 一度黙り込んだティルマは、はぁっと呆れた溜息を吐き出す。

 「そうだよ、正解。……ボクは【天の旅人】(セルフィーネ)の1人、ティルマ・アーチェインさ」
 「……でも…天族は人間に姿を見られちゃいけないんじゃ……!?」
 「例外だよ。ボクにはこの状況みたいな不具合の際に人間界に天族が紛れ込んでても捕まえる義務があるから」

 然し高瀬は思い出す。
 紅の少女が言っていた、金色の輪の話を。

 「でもその輪…ちゃんとついてるんじゃ……!?」
 「だぁかぁらー……細工してあるんだよ、天の旅人達のだけ、ね」
 「………」

 ふふん、と自慢げに笑ってみせたがその話題もこれまで。
 紅の少女は未だ捕まったままで、高瀬は一瞬たりともその少女から目を離してはない。

 「…こいつは存在自体が最早“罪”。罰せなければならない存在なんだよ」
 「…!?ふざけんな!!!そんなの理不尽だろうが!!!!」
 「理不尽?そんなのこっちの世界じゃ通じないんだよ。……じゃーね、高瀬君っ」
 「……!!!」
 「今起きた事、他の奴等に話されると困るから……君も殺して良い?」

 
 無邪気な少女の声からでは想像もつかない、“殺す”という単語。
 今ここで聞いた事、知った事。その全てを口外されると困ると言ったティルマは、すっと手を伸ばした。
 高瀬に向かって、真っ直ぐに。




 「天滅の章——————————」



 無能力の高瀬は、一瞬の避ける余地も与えられず。


 
 「——————————光砲!!!!」

 
 
 光り輝く砲撃が、高瀬を見事捉え————————衝突する。





 

 ————————————筈だった。






 「……——————————何!!?」


 
 家中に煙が立ち込めて、視界も歪んで前が見えない。
 そんな状況の中、高瀬はちゃんと生きていた。
 傷一つつけずに、唯腰を抜かしたまま床に崩れている。

 そう、目の前に見えたのは。

 
 
 「おーっと?この地上で何をやらかしてくれたのかしら?天の旅人さん?」


 灰色と黄色のタータンチェックの、スカートだけだった。


 「あれあれー……なんで此処に【地の旅人】(オルフィーネ)がいるのかなぁーっ!!!」

 神乃殊琉。
 毛先が黒く染まっていて、頭のてっぺんに向かっていくうちに茶色へ変わる不思議な髪色。
 その額に白淵の眼鏡を乗せて、右手を前へ突き出している。
 
 「こ、と……る…?」

 いきなりの幼馴染の登場をうまく理解できない高瀬。
 そんな男を放っておいて、ティルマと神乃は睨み合う。

 まるで因縁の中の思わせるような…そんな視線を交し合っていた。

Re: 片翼の紅い天使 ( No.7 )
日時: 2011/10/04 22:17
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: DxRBq1FF)

第005話 地の旅人、オルフィーネ

 漸く煙が晴れ、両者の一歩も譲らない真剣な顔つきが見られた。
 たった1人、状況を理解できていない高瀬を無視して、天の旅人であるティルマは微笑んだ。

 「良く分かったねぇー?ボクがここにいるってーっ」
 「別にそうじゃないけど…嫌な予感がしたから、来ただけ」
 「すっごいすっごーいっ!!君って予知能力とか持ってんのー?」
 
 まるで子供のようにはしゃぎ回るティルマ。
 その態度は先程の嫌悪感を全て失わせていた。
 神乃殊琉は一度も表情を変えぬまま、右手を突き出した。

 「これは地上で起きた問題……今すぐに葬られたくないなら、さっさと消えなさい、天の旅人」
 「あれあれぇー……ボクは天の旅人に選ばれた天族なんだから……そう簡単には葬られないけど?」
 「そう————————————じゃあ」


 神乃殊琉はすっと手をティルマの顔の位置からずらして、


 「——————————今すぐ消えなさい!!!!」


 途端に、ティルマの真横で爆発を起こす。
 これは他の何でもない————————、“撃”の能力。


 「何をするかと思え————————ん!!?」

 
 それもまた唐突で、ティルマは自分の口元を強く押さえつけた。
 目が充血していて、体が異様に震えている。

 (まさか——————酸素を!!?)

 

 「酸素に衝撃を与えて内側から爆発————————酸欠で呼吸ができない今、あんたに勝機はないッ!!!」

 右手の手首を左手で掴んで、暇を与える事もなくティルマの腹部に押さえつけた。

 
 「————————撃!!!」

 
 そして、そのまま空気の衝撃でティルマを後方へと飛ばす。
 勢いに乗せられたまま壁に激突したティルマは…埃が舞う中ゆらゆらと立ち上がった。

 「ぅ…ぐ……っ!!う、迂闊だ、った……でも!!!」

 「——————————!!?」
 
 「天滅の章——————————光砲!!!!」

 
 己のめいっぱいの力で、至近距離にいる神乃へ光砲を放った。


 「地壁の章——————————!!」

 
 然し神乃は一瞬考えた後に、

 
 「——————————陰隔!!!!」

  
 対抗して、大きな壁を作り出した。
 
 それは見事にティルマの光砲を弾き飛ばし、瞬く間に煙が吹き荒れた。
 激しい技同士の攻防戦。
 唯高瀬はその光景を部屋の隅で見る事しかできなかった。
 
 「…っ……さ、流石に両方の技を使われると……きっついねぇ〜」
 「そう…?でも…、まだ終わらせる気はないけど?」

 神乃はゆっくりと腕を上げて、その掌の先をティルマに向けた。
 
 「地滅の章——————————陰砲!!!」

 突如神乃の掌から出現した漆黒の咆哮は、見事なまでにティルマを捉えた。
 ティルマの光砲とは威力が明らかに違う事が分かる。
 
 「ぐ…ぅ…あ、ぅ……っ!!!」
  
 「さ、ぁて……もうやめた方、が…良いんじゃないの…?」
 
 「……——————————ぜ、絶対また来、て…倒してあげるんだからァァ!!!!」


 ティルマは傷だらけの体を抑えつつ、且つ負けない表情でその場から去っていった。
 紅の少女はティルマの腕から離れ、崩れるように床に倒れ込む。
 それを咄嗟に、神乃は優しく抱き抱えた。
 然し本人も疲れ切っているのか、ぺたりと床へと座り込んでしまった。

 「こ、殊琉……」
 
 神乃は自分の名前を呼ばれて、キッ!!っと高瀬を睨みつけた。

 「何であんたが…“こっち”の問題に首突っ込んでんの…?」

 冷たく低いその声はいつもの神乃ではなかった。
 だがそんな神乃を知っている高瀬は動揺する事もなく、唯口を開いた。

 「お、お前こそ……何で、あいつの事とか、知ってんの?」

 神乃と高瀬の間に数秒の沈黙が流れた後。
 始めに口を開いたのは、神乃だった。

 「……もういい。龍紀が知ってる事、話して」
 「…っ!!」
 「そしたらあたしも話す……もう知っちゃったんなら、仕方ないから」

 高瀬は1度冷や汗を額から流すと、話し始めた。
 昨日、片翼だけを持った紅の少女に出会った。
 然しその少女は天の旅人とかいう集団に追われていて、遂に天界から追放。
 逃げ場を失ったその少女は、不安定な状態のまま自分の家に辿り着き、傷だらけのまま倒れていた。
 その全ての事情を聞いた高瀬は、少女の事を受け入れる事にした。

 然し…今日。
 少女の始末を命じられた天の旅人の1人が、少女の回収にやってきた。
 そして神乃が現れて、戦って…現在に至る。

 「なるほど、ね……」
 「俺、色んな事がありすぎて今でも頭パンクしそうで…ホントは何一つ理解してないんだよな…」
 「そう…そこまで知ってるんなら、隠す必要もないね」
 
 神乃は紅の少女を横たわらせた後、よいしょと立ち上がって水道へ行く。
 水を飲みたいのか、勝手にコップの中に水を注いで、ぐいっと一気飲みをした。
 そして…ことん、というコップを置く音を鳴らしたかと思うと、急に話し始めた。
 

 「あたしはその天の旅人を敵視している…“地の旅人”、通称オルフィーネの1人」

 
 神乃は再び床へと腰を下ろして、高瀬を向き合う形をとった。

 「地の旅人は誰でもなれる訳じゃない。A級以上の能力者で、且つトップランク程度に位置していないと入れない」
  
 「じゃあお前以外にもいるのか?」

 「勿論。あたし以外に7人。それもこの地上で、地の旅人はたった8人なの」

 「ち、地上で…8人……!!?」

 「最早S級ランクである4人は入っていて、あたしはその中でも2位だから…次席って訳よ」

 「普段何してんだ?地の旅人って」
  
 「地上の管理と、天界の状況確認。地上に攻め込んでくる天族がいれば…さっきみたいに始末するのが役目」

 「殺したりは…しないよな?」
  
 「それは保障する。流石に殺し屋集団じゃないから……でも」

 神乃は、そう場の流れを変えた。

 「あたしの能力は…撃。体内に触れる事ができれば…殺す事もできちゃうから、命令が掛かればそうするかもね」

 「……じゃ、じゃあお前…あの女の子の事、知ってるのか?」

 話を変えた高瀬は、ちらっと紅の少女に目配りする。
 あぁ、と神乃は続けて。

 
 「あの子の名前は…『レルカ』。正式な名称がなくて…そう呼ばれているの」

 
 正式な名称がなく、いつ誰がつけたのかも分からない不特定な名前。
 それは物心ついた時から、そう呼ばれていたような気がしただけ。
 レルカ本人に苗字はないという事になる。

 「…質問、もう終わり?」
 「あ…お、おう」
 「他にも答えられる範囲であれば答えるから……それと今回の件は口外しないでね。職業上良くないから」

 じゃーね、と愛想もないような声で神乃は部屋から出て行った。
 無残なまでに壊れている部屋。
 誰がこれを片付けるんだよ、とか思いつつも…高瀬は修理用具を出し始めた。
  
 高瀬はふと動きを止めて、改めて考えてみた。

 “もしかしたら自分はとんでもないものに巻き込まれたのではないか?”

 と。
 今日目撃した、天と地の戦い。
 故に高瀬は…これからの戦いに少し恐怖感を覚えた。

Re: 片翼の紅い天使 ( No.8 )
日時: 2011/10/31 19:18
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: DxRBq1FF)

第006話 決心 

 以前として、変わらない。
 廊下を歩く姿も、友達と話す口調も。
 まるで何もなかったかのように、過ごしていた。

 「…何だってんだよ」

 高瀬龍紀は、そう小さく呟く。 
 昨日自宅で行われていた、次元の違う戦い。
 技の攻防戦、そして両者が互いに交し合う、熱い眼差し。
 絶対に譲れないプライドとプライドのぶつかり合い。
 それを目の当たりにした以上、高瀬も無視はできなかった。

 「何が“何だってんだよ”なんだよー、たっちゃん?」
 
 赤髪の眼鏡男子、澤上仁は高瀬を下から覗き込む姿勢をとる。
 そう、下から。

 「うぉぁあ!!?、な、なな何してんだてめぇ!!!」
 「何って…朝のスキンシッ——————————」

 ガン!!!と物凄い音が鳴り響く。
 高瀬の足は、見事澤上の腹部を捉えていた。
 
 「…お前、マジで変態だな」
 
 ぐばぁ!?っと胃から何か出そうな勢いで澤上は飛び跳ねる。
 そして床を転げ回るその姿は…何とも言えない。

 「酷いぞたっちゃぁーん!?可愛いくせしてやる事過激なん————————ってぎゃぁぁぁ!!!?」

 高瀬は手にめいっぱいの力を込めてぶんぶんと振り回す。
 そしてそのまま澤上ピンポイントで追いかけ始めた。
 それを見ていた神乃殊琉は、はぁ、と溜息を吐く。

 「…バカか、あいつら」
 「まぁまぁ…平和な方が絶対良いんだよ〜?」
 「あんたは暢気だなぁー」
 「えへへ〜」

 神乃の隣で微笑んでいるのは、彼女の唯一の親友である鬼帝水痲。
 水色の短髪で、軽いウェーブがかかっている。ついでに瞳の色は透き通る程綺麗な真っ赤。
 緩い口調が特徴的で、ついでに運動音痴。
 何故か視力だけは人並みを外れ、前方100mくらいなら余裕で見える。
 更に最新の情報を仕入れるのが早く、情報伝達を得意とする能力者だ。

 「水痲、あんた昨日“仕事”サボったでしょ?」
 「えー!?昨日あったんだ〜…てっきりないかと思ってたよー……」
 「ったくー…」

 そしてまた更に…神乃同様、“地の旅人”の1人だという。
 彼女は学年次席の成績を持ち、そしてランクもA級な為にそれなりの実力を持ち合わせている。
 然しそれを誰かに訴えても、運動音痴の彼女からは連想できないので大概スルーされやすい。

 「今夜も捜査があるから…あんたは事務待機ね?」
 「はぁーいっ」

 神乃はさっさと説明すると、また高瀬達を見つめ直した。
 凄い嫌悪に満ちた顔で追いかける高瀬、それを見て必死に逃げる澤上。
 バカみたい、とまた一言呟いて後…学校の鐘が鳴り響いた。


 
 

 
 
 
 
 「……名前、ですか?」

 夕方。
 部活無所属の高瀬は、目を覚ました少女に話しかけていた。
 いつ見ても可愛らしいその姿は、本物の天使を連想できた。

 「うん…確か、レルカ、だったよな?」
 「え…!?な、何故それ、を……?」

 慌てふためく彼女は、思わず手を滑らせて、高瀬の胸に飛び込んでしまった。
 その言動に正直胸を躍らせた高瀬も顔を火照らせる。

 「ぁ…っ、え、えと……き、きき昨日知り合い、に……っ」
 「知り合いさん…ですか?」
 
 そっと高瀬の胸から離れ、少女…いや、レルカは首を傾げた。

 「お前の名前も…追われてる連中も……そしてそれを阻止する連中の事も…知ったんだ」
 「………そう、ですか」

 元気のないその声を聞いて、高瀬も言葉を失った。
 天の旅人と、地の旅人。
 両者の戦いがどれほどのものなのか、昨日思い知らされたのだ。
 命に代えても、己の信念を曲げる事のない決意同士の戦い。
 壮絶で、それでいて絶対で。
 高瀬にはとても遠い世界に感じた。
 
 「昨日はたまたま殊琉がいたからいいけど…もし、いなかったら……」

 高瀬は、想像するのを止めた。
 能力を持たない自分。何の力もない自分。
 そんな素人が突っ込んで良い世界じゃない。
 自分は、神乃殊琉のように最強の能力者じゃない。 
 又それに匹敵する程の実力なんて持っている筈もない。
 
 「身を引くのが…ホントは当然の行為、なんだけど」

 だけど、と高瀬は言葉を紡いだ。

 「だけど……俺、もう逃れられないと思ったんだ」
 「…逃れ…られない…?」
 「お前を初めて見た時…そう思った。……俺、こいつを護りたいなって、そう思った…っ!!」
 
 例え無力でも。唯の足手纏いだとしても。

 「無能力だし、何の力もない…でもさ」
 「……」
 「お前の事を…俺は全力で護りたい」

 殺させたくない。
 それがどんな悪人でも、どんな罪人でも。
 人の命を人の手で葬る事は…間違っている。

 ましてや罪無き存在を、殺させたくなんかない。

 「頼りないかもしれないけど…力になりたいんだ。それとも…呆、れた?」
 
 レルカは、ぶんぶんと首を横に振った。
 そして、また静かに泣き始めた。

 「って、おわ!!?な、何で泣く…!!? 
 「ごめ…なさ……っ!!私…う、嬉しくて……!!!」

 溢れ出る涙を止められず、レルカは手で顔を覆って泣き崩れた。
 如何したら良いのか分からない高瀬は、勿論慌てていた。
 
 「え、えと…その……」
 「……り…ます……」
 「え?」

 レルカの小さな声を聞き取れず、高瀬は思わず聞き返す。
 レルカはぐず…っと泣きながらも、そっと顔をあげた。

 
 「————————————ありがとう…ござい、ます…っ!!!!」

 
 その涙と声からは、溢れ出る感謝の気持ちが伝わった。
 金の瞳と、紅の髪。
 この綺麗な姿を…高瀬は忘れないでおこうと、そっと心に誓った。
 唯生きたいだけの少女の切ない願いを…絶対に叶えてやる。
 そう、高瀬の柔らかな表情が物語っていた。

 「俺の名前、だけど…」
 「は、はい…」
 「高瀬龍紀、な。高瀬でも龍紀でも、どっちでもいいから」
 「あ…はい。私の事も、どうぞ気軽にレルカと呼んで下さいね」

 先程の泣き顔から、笑った顔に変わるレルカの表情。
 優しく笑ったその顔が想像以上に可愛くて、思わず高瀬は赤面する。
 そしてそんな火照った高瀬を見て、また片翼の少女は笑い出す。

 いつまでも…この笑顔を見ていたい、と。

 そう、高瀬は思った。
 いつか心から笑えるように、心から安心ができるように。
 そんな日を待ち焦がれて、高瀬は更に決意を堅くした。

Re: 片翼の紅い天使 ( No.9 )
日時: 2011/11/13 00:44
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: DxRBq1FF)

第007話 地ノ旅団 

 無機質な部屋の中。
 唯機会音だけが鳴り響くその中に、神乃殊琉はいた。
 椅子らしき場所に座り込んで、不機嫌そうな顔つきでじっと空を見つめる。
 その姿に、鬼帝水痲は近づいた。

 「どうしたの?悩み事?」
 「別に…やっぱり嫌いだなって」
 「何が?」 
 「この部屋」

 此処は、地の旅人の本拠地、【地ノ旅団】。
 鬼帝は主に此処にいて、他メンバーに指示を行っている。
 他にも8人全員が集結し、会議を行うのもこの場。
 然し全員が集まる、というのは珍しい事だ。
 大抵集まるのは4、5人程度だという。

 「あ…来たよ〜?」

 ウィーン、という扉の音で、似たような背丈の少年少女が現れた。
 歳は10、11才程度だろうか。

 「只今帰還したのじゃっ」
 「……」

 少年の方は、元気な声で入ってくる。然し何故か昔の喋り方のような…特徴的な口調をしていた。
 隣に並んでいるそっくり顔の少女は無言のまま、且つ無表情のまま入ってきた。

 「相変わらずだね〜、元気だったぁー?」
 「うむ、水痲殿に迷惑をかけまいと、元気に過ごしてたぞ」
 「偉いねーっ、やっぱり御鏡姉弟は心配いらないんだねっ」

 御鏡鈴町、御鏡風町。
 如何にも現代で使われる事のない名前の双子。
 姉の方は薄い黄緑の短髪で、向かって右横に黒いリボンがついている。
 弟も同じ髪色で、唯リボンが付いていないだけだ。
 姉がリボンを外せば完全に見分けがつかなくなるという。

 しかも名前の最初が“鈴”と“風”な為、いつしか“風鈴姉弟”と呼ばれていた。
 本人達は多少嫌がっているが、何故か毎回スルー。

 「あ、殊琉殿っ。戻っていたのじゃな?」
 「…まぁね。あんた達を見るのも久しぶりね」
 「そうじゃのう…己等はずっと席を外していたからな、まぁ流石に顔は覚えておるのじゃが」
 「…実はね、2人とも」

 鬼帝は一度神乃と視線を合わせる。
 そしてこくりと頷き合わせると、目の前に広がる大きなディスプレイに目を向けた。

 
 「あの天界で…500年ぶりに魔族が出現したの」


 神乃は2人にそう告げると、モニターに映された天界の図と、人間界の図を見つめる。
 天界の図、といっても丸く広がっているだけ。流石に中まで細密に調査する事ができない。
 その丸の中には“天”と記され、仮の天界の図として扱っている。

 「なんじゃと…っ!?あの天界で…!?」
 「…魔族」

 此処に来て初めて、姉の鈴町が口を動かした。
 鈴町はその鋭い眼光でじっとモニターを見つめる。

 「それにもう1つ…その魔族はこの人間界にいる」
 「人間界に!?」
 「処分された訳ではないというの?」

 神乃は知っている。
 あの紅い髪の毛を持った内気な少女を。
 片翼を失って、処分されかけた魔族を。

 「あの子…いや、レルカは私の友人の家にいる」
 「レルカ?それはその魔族の名という事か?」
 「まぁね。その友人の話によると、天界で今の今まで逃げ続け、親やその親の友人と逃げ回っていたらしいの。
  でもある日レルカと共に逃げていた2人…親は殺され、親の友人は突如姿を消した。
  1人になったら逃げ切れず、レルカは紅い翼の片方を撃ち抜かれ、人間界へ落とされた。
  輪も、片翼も失ったレルカは傷だらけで私の友人の家に転がり込んだ…という訳」

 慣れた口調で長々と説明すると、神乃は口を閉じる。
 そして続ける、昨日の出来事を。

 「でも、レルカはこの世界から完全に排除しなければならない存在として…天の旅人が人間界へやってきた」
 「天の…旅人が…?」
 「私は丁度その近くにいたから、天の旅人を追い返す事ができたの」
 「流石殊琉殿っ!!、それで、そのレルカ…と呼ばれる魔族は?」
 「完治してないから、多分傷だらけのまま。ま、友人がどうにかしてくれると思うけど」
 「…その友人は、能力者なの?」

 神乃は再度口を閉じた。
 まさかそこを突かれるとは…と一度溜息を零す。

 「残念だけど、無能力者」
 「なんじゃと!?」
 「もう1度敵が襲ってきたら如何するつもり?」
 「さぁ?あいつが能力に目覚めない限り…、無駄死にする可能性が高い」
 
 神乃の幼馴染である高瀬龍紀は、能力を持っていない。
 そう、唯の凡人が、この天と地の闘いに混ざってしまった…という事になる。
 本人はどうにかしようと馬鹿なりに考えているのだが。

 「それで?“大将”には話したのか?」 
 「…まだ。てかあいつ、来ないじゃん」
 「そうだよね〜…ホント、忘れた頃に来るもんねぇ〜」

 鬼帝はモニターに映っていた映像を消した。
 そして和気藹々と語っていた“大将”の話に混ざっていった。






 「これ…ですか?」
 「…ってうぁぁぁあッ!!?また負けたぁーっ!!」

 一方の所、高瀬龍紀の自宅にて。
 2人はトランプでババ抜きをしていた。
 
 「トランプ弱いんですね…高瀬君って」
 「何でだろうなぁー…賭けとかって苦手なんだよ…」
 「分かり易いんじゃないですか?表情とか」

 高瀬は頭が痛くなり、バッっとトランプを散らして寝転んだ。
 何となく天井を仰いでいると、ガチャリ、とドアの音が鳴る。

 「誰だよ…こんな時間に」

 高瀬はむくりと起き上がり、頭を掻き乱しながら玄関へ向かう。
 ふあぁ…、と一つ大きな欠伸をし、冷たいドアノブに手を掛けた。
 少し力を込めてゆっくりと開けた————————、その時。





 「——————————、え」




 
 知らない顔と、知らない姿。


 高瀬はそのまま“何か”で腹部を貫かれた。



 見えたのは、自分の血が噴出した様だけ。
 そしてゆっくりと、床に体を打ち付け、血に塗れる。
 当人の顔を見る事もなく、一瞬のうちにして。

 短い金髪、蒼い眼光。
 白い両翼、金色の輪。

 明らかなる——————————、天族の姿。

 


 「手間掛かった。直ちに回収及び、処分を行う」



 まるで小説に書かれた文のような口調。
 然しその口調は機会的で、一切の感情も感じさせない。
 この間来たあの天族とそっくりだったが、明らかに目が釣り上がっていて笑ってすらいない。

  
 「た、か……せく…——————————?」

 
 レルカは小さく声を零す。
 今の音は、砲撃、又は銃声だった。
 レルカは途端に震え出した。
 高瀬の事が気になる。然し床に座り込んだ彼女は動けなかった。

 そう、分かってしまった。
 天族が来たという事が。

 途端に、レルカの背中が痛みを走らせる。
 撃ち貫かれた筈の片翼の根元が、急な激痛を追い、レルカは体を丸くする。 
 心も、体も、自分の全身が汗を拭き出し、ガタガタと震えていた。
 あの時の恐怖が蘇る。まだ数日も経っていないあの記憶が蘇る。
 レルカは金色の瞳に涙をいっぱいに溜めて、ぎゅっと目を瞑り顔を伏せる。
 天族は構う事なくリビングに入ってくる。その冷たい表情で、レルカの事を上から見下ろしていた。
 でもそれは、生き物を見る目ではない。
 この世から処分せねばならない化け物にしか、彼の目には映っていない。

 そして少年は——————————————冷たい視線のままに、手を翳した。


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