二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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【ボカロ】夢に惑わされて、【人柱アリス】  
日時: 2011/11/17 22:22
名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: hTgX0rwQ)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel3/index.cgi?mode=view&no=21031

 夢は一時の願いを膨らませるのでした。


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@ ご挨拶、

どうも、知ってる方は知ってるでしょう蟻です。
今回は私のスレッド、[ボカロ曲を好き勝手に解釈してみた]からのリクエストで人柱アリスがあったのでこうして作らせていただきました。
長くなりますが、できるだけ詰め込みますので、宜しくお願いします。
この解釈が気にいった方は、上記のスレッドも見ていただけると嬉しいです。
ちなみに、更新は参照を優先させるので、こちらの更新は遅めになりますがご了承ください。

では、ルールを守ってゆっくりしていってね!

@ お客様、
ウォーカーさん

@ 目次、
#00 - 願望 ( 初めの少女と全ての原因 )
>>1 >>2
#01 - 正義 ( 正しいモノは案外脆い )
>>7 >>8 >>9 >>10 >>11 >>12 >>13 >>14 >>15 >>16



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( 人柱にされたアリスは今頃何を想う? )

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Re: 【ボカロ】夢に惑わされて、【人柱アリス】   ( No.9 )
日時: 2011/08/22 17:13
名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)
参照: http://www.kakiko.cc/bbs2/index.cgi?mode

 彼女は現実逃避を試みた。現実から目を背ける事ですら、夢を見る時くらいしか無いと言うのに、現実から逃げるなんて生きているうちは有り得ない話である。
 現実逃避ができなかったものだから彼女はできるだけ嫌な事を見ない様に、できるだけ優しく、できるだけ明るく、できるだけ平等に。理想の正義を自分の中で意識し行動して、それが癖になったのはいつの事か。彼女は本物の『正義』となった。
 ——だからこそ。現実逃避を、夢を望んだ彼女だからこそ。スペードの招待状は受け入れる事のできない事だった。望んで変わって苦労して嫌なものから離れた彼女は、できれば不思議の国の招待状など、信じたくはなかった。
 
 「チッ」

招待状を捨てるメイコの姿を見て、舌打ちをする白い二足歩行のウサギ。高級そうな、それでいて身軽そうな服を着ている、そこらに居る筈のない変わったウサギ。それは紛れもなく——夢に忠実なラパンだった。
 何かの気配を感じたのか、メイコが窓の方に目を向けた。すると。

 「ウサギ……?」

ラパンの姿を見て、メイコは静かに驚愕する。服を着て二足で立っているウサギ。そのメイコとは対照に、ラパンは無言でメイコを見つめる。
 メイコはラパンの出す威圧感に押さえつけられて、その場を動かない。それだけでもないのだが。しばらくその場に沈黙が続き、ラパンが動きを見せる。服の裏側をごそごそと探って、メイコにとある物を見せた。

 「手紙?」

ラパンは、その場に手紙を落とす。そして、その姿のままで何処かへ跳ねて行った。
 メイコは急いで家から外に出て、先程ラパンの立っていた所に行ってから手紙を拾う。手紙を開けようかという考えが頭をよぎるが、ウサギを追う事を先にして走った。

Re: 【ボカロ】夢に惑わされて、【人柱アリス】   ( No.10 )
日時: 2011/09/03 14:09
名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)

 ラパンを追いかけて数分。しかしメイコの息は切れていた。はあ、と苦しそうに息をしながら、それでもラパンを追いかける。

 「なんでっ、こん、なに、速いの、よ!」

声を上げると同時に、スピードを上げるメイコ。数分走っただけでばててしまう様なメイコではないのだが、メイコにとって今までに見た事のない速さでぴょこぴょこと跳ねていくラパンだった。それでもラパンは止まる事なく進み続ける。メイコの体力など、関係なしに。

 それから十分程経った時間。その時メイコは、見た事のない森の入り口に立っていた。こんな所に森なんてあっただろうか。謎は浮かぶが、そんな事気にしてられない。ウサギが服を着ている時点でおかしいのだから。
 息を整えてから、ちゃんと森を見てみる。森は明らかに怪しい、妖しい雰囲気を出していた。出来る事ならば入りたくないのだが、ラパンは怯えも恐怖も見せずに森の中へ入っていった。ウサギの姿だから、表情など見えやしないのだが。
 嫌な予感がする。それは十分に理解しているのだが、入りたい。メイコは数秒考えてから、森に足を踏み入れた。

 森の中は、太陽の光が当たらず暗かった。風の音が通って、木を揺らす。さっきまでラパンを追いかけて汗を流していたメイコの顔には、冷や汗が滴り落ちる。
 真っ直ぐ真っ直ぐ、道なんてないから、ただひたすら真っ直ぐに進んでいると、人の姿の様な物がメイコの目には映った。
 メイコは人影に向かい、軽く走ってその人に声を掛けようとした……という考えはその人を近くで見た所で中止された。
 ウサギ耳のある、白い髪で赤い目の真面目そうな少年。高級そうな服を着て、剣を背負っている——そう、それは紛れもなく夢に忠実で真っ直ぐで強い、ラパンだった。

Re: 【ボカロ】夢に惑わされて、【人柱アリス】   ( No.11 )
日時: 2011/09/17 19:09
名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)

 メイコは立ち止まって、そのウサギ耳の少年、もといラパンの顔を見つめる。ラパンは、不機嫌そうに顔をしかめて、わざとらしくメイコに嫌味を吐く。

 「フン、挨拶もなしに、人の顔を見つめるのか?」
 「……悪かったわ。少し、異形なのかと思って」 

その態度に苛立ったのか、メイコもムキになるが、メイコの中の正義と言う名の理性が、ラパンの言葉が正論と正した為、その場で深く礼をして謝る。ラパンはそんなメイコの姿を無表情で見ていた。

 「まあ——この世界で俺が異形なのは、十分に分かっている。別に気にしなくても良い。とは言っても、ここには人など居ないから誰にも見られる心配もないが」
 「それもそうね。ところで、貴方の名前は?」

ラパンが無表情のままで述べると、メイコはくすり、と小さく笑って名前を尋ねた。
 
 「ラパン、だ。名前はそれだけだ」
 「あ、私の方は言って無かったわね。私の名前は——」
 「既に知っている。メイコ=S=ブルーム」
 「あら。……じゃあこの手紙を出したのも、貴方なんでしょう?」

メイコは、ラパンに手紙を見せて、笑う。名前が知られていた事は、知っていたのか。何故自分の名前を知っているのかには、一切疑問を持たなかった。

 「まあ、大体同じだが——何故、分かった」
 「私はね、現実逃避がしたかったのよ。夢が好きで夢を見て。それでも夢に行く事は叶わなかったわ。……この手紙を見た時だって、この手紙に書いてある事は信じたくなかった」

メイコは、その場に座り、ラパンを見つめながら語り出す。ラパンはそれを、直立姿勢で黙って聞いているだけだった。

 「けどね。貴方が窓で見つめているのを見た時から、私は夢を信じたの。また夢を見たのよ。今度は、叶えられる。異形な貴方を見てそう核心したわ」
 「夢に貪欲、か」

夢に溺れたい少女、メイコを見て、呆れた様子でラパンはほくそ笑みながら呟く。メイコは、ラパンの言葉を聞いて頷く。

 「そう、私は夢に貪欲よ。だからこそ、夢には鋭いの。多分この世界観は、不思議のアリスって事で、そして私は主人公のアリス。それであなたは、大臣の白ウサギ。そういう事でしょう?」
 「まあ、ほぼ当たってはいるな。とりあえず、手紙を開けたらどうだ」
 「さっきも見たわよ」
 「いいから開けろ」

メイコは不服そうに口を尖らせ、手紙を開ける。

Re: 【ボカロ】夢に惑わされて、【人柱アリス】   ( No.12 )
日時: 2011/09/17 19:44
名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)

 メイコは、手紙を隅々まで、何か異変があるのかと丁寧に見るが、何一つ変わった所はない。まるで先程貰った手紙をそのまま複製した様な。文字も、スペードマークのズレも、そして小さな剣のレプリカも。何一つ、変わっていなかった。読んだ後に、手紙はポケットの中にしまわれた。
 全く同じ内容を二度も読まされ、不満そうなメイコはラパンに問うた。

 「どうして同じ手紙を二度も読ませたのよ」
 「お前が手紙を捨てたからだ」
 「……捨てたからって、何でわざわざ」
 「スペードのアイテム——持ってないといけない物がある、と言っている」

無表情のままで、そうラパンは言った。メイコは頭を捻り、思考し始める。がしかし、思いつく物が無かったのか、数秒考えて断念した。

 「手紙しか、私は持ってないわ」
 「……一つだけ文章じゃないのがあっただろう」

ラパンは溜息を吐きながら言うと、メイコは感嘆を漏らして、ポケットを探り、手紙を取り出した。そこから剣のレプリカを取り、見つめる。

 「アイテムって言うけれど、これで何をするのよ」

当然の疑問に、ラパンは言葉ではなく指を鳴らして答えた。ラパンが指を鳴らすと、小さいレプリカだった剣は、本物の大きい剣になった。

 「これで邪魔する奴を倒せ、と?」
 「そういう事だ。倒していいのは、悪のみ」
 
剣の柄を両手で持ち、驚いた表情でメイコは目的を問う。
 ラパンが不吉な笑みを浮かべると、それにつられメイコも不敵な笑みを浮かべる。そして、余裕綽々といった態度で言った。

 「私は、正義を意識して正義に成ったのよ? それにしては、案外難しくないのね」

 そんなメイコを、ラパンを含む、不思議の国の住人は嗤った。 

Re: 【ボカロ】夢に惑わされて、【人柱アリス】   ( No.13 )
日時: 2011/09/24 18:11
名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)

 「じゃ、俺はそろそろ戻るとしよう」
 
ラパンはメイコに背を向け、歩き出そうとした時。

 「待って。一つだけ聞きたい事があるわ」
 「何の様だ」
 「草木は何しても大丈夫かしら?」
 「お前が日常で草木を邪魔と思ってるんならな」
 
メイコの質問に、その場を動かず、そしてメイコの顔も見ずに、淡々と返答した。メイコは、答えてくれた事に「ありがと」と、一言感謝した。ラパンは、足を空中に乗せて歩く。まるで目に見えない階段がそこにあるかの様に、ただ歩く。その先にはただ空しかないのに、ラパンは空の隙間に消えていった。
 メイコはそれを見ても、不思議そうな顔はせず、ただただ空の先を望んでいるかの様に見つめていた。
 
 「Good luck——幸運を、祈る」

ラパンの声が森に響いたのは、これで最後だった。

 「幸運を祈るだなんて、私を馬鹿にしすぎよ」

片手に剣を持ち、ただただ楽しそうに、メイコは森の道を歩いていった。


 何時間経ったろうか。いつまでも暗さの変わらない森は、夜が過ぎたのか朝が過ぎたのか、分からなかった。

 「少しお腹が空いてきたわね……でも動物は殺しちゃいけないし……ここで泥棒なんかが出てきてくれたら、お金が手に入るんでしょうけど」

歩きながら、一人で呟くメイコ。通常の人ならば、光が差し込まない暗い森を歩いていると恐怖を持つ筈なのだが、メイコは人より勇ましかった。恐怖もなく、怯えもなく、今、彼女の脳内にあるのはただ楽しさと空腹だった。
 歩く、歩く。靴と下の木や岩が蹴られ、静かな空間にたった一つの音を出す。どこに進めばいいのかも分からなかったので、メイコは通れる道を探し、そこを適当に歩いていった。
 地面を蹴る音だけしかなかった森に、水の流れる音が、メイコの耳に聞こえた。

 「水? どこから流れているのかしら」

メイコは音を頼りにして、水の場所へと進む。


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