二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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テイルズ オブ ジ アビス —誰が為の唄—
日時: 2010/12/30 15:16
名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)

初めまして。
お久しぶりです。
学園アリスを書いていた時計屋と申します。
今回はテイルズシリーズ唯一プレー経験のあるテイルズ・オブ・ジ・アビスを書きたいと思います。
なお、自分はご都合主義なので赤毛二人とも生存しております。それと、設定が未来となっておりまして子供が主役です。
色々、矛盾点があると思われますがスルーして頂ければ幸いです。
では、オリキャラ達を紹介します。

人物紹介

ローラン(女)
『唄われる音』
年齢 15ぐらい
性格 天然 
容姿 白のロング 栗色の瞳
その他 
ローレライに創り出された存在。一時期ユリア達に預けられていたが、ダアト裏切り時にユリアの手によってローレライの元へと返される。その為、ユリアを裏切ったオリジナルをとても憎んでおり、侮辱する事もしばしば。存在が似ているレプリカ達には寛容で優しく、酷い扱われ方をしているレプリカを見ると後先考えず喧嘩を売ってしまう。現在の社会情勢には疎く、スコールに教わりながら日々勉強している。口調が少し可笑しいユリア大好きっ子。
台詞集
「それに何の問題が有りけるの。」「お前は、嫌いだ。」「失せろと言うのが分からぬか?」「願いは叶わぬのが私という存在なのだから。」

スコール・フォン・ファブレ(男)
『闇を照らす光』
年齢 16
性格 温厚
容姿 朱色の短髪 翡翠の瞳
その他
ルークとティアの息子。ファブレ家の長男であり、リルカの兄。家を継ぐ気はあるが、一人旅をしてみたいという夢も持っている。ルークとティアから訓練は受け、実戦経験も豊富なため戦闘は強いが本人はあまり好きではない。勉強は好きだが、事実を確かめたいと外に遊びに行く事も。ユリアの譜歌も歌える第七音譜師。
台詞集
「世界は外に広がってるんだ。」「お前が犠牲になる世界が本当に正しいのかよ!!」「信頼しなくても良いから信じろ。」「お前が好きだよ。」

ギルフォード・レア・キムラスカ・ランバルディア(男)
『守り通す者』
年齢 17
性格 冷静沈着
容姿 紅の長髪 蒼の瞳
その他
アッシュとナタリアの息子。キムラスカ王国の王位正当後継者でリルカの婚約者。頭が良く物事を判断する能力に長けている。戦闘訓練を受けているため、スコールと同等の腕前を持つ。幼馴染みのスコールとリルカに振り回され頭を抱えながらも、自由な彼を尊敬もしている。表情は豊かだが、演技力抜群。リルカと結婚し国を支える事が目標。常識人な第七音譜師。
台詞集
「お前らは考えて行動しろよ。」「この国を誇りに思ってくれる人が一人でも多くいて欲しいんだ。」「俺は守りたいんだ。大切な奴らを。」「ほんと馬鹿だよな。救われるけどさ。」

リルカ・アウラ・ファブレ(女)
『清らかなる旋律』
年齢 14
性格 世話好き
容姿 栗色のロング 翡翠の瞳
その他
ルークとティアの娘。ギルフォードの婚約者でスコールの妹。何かに付けてサボろうとする兄を叱るのが日課。自立心は高く王家に連なる者としての自覚もあるため、日々民に尽くしている。ヒーラーとしての腕が高く、医療施設に泊まり込みで働くのが好き。将来はギルフォードと結婚し、国のために役立つのが夢。スコールと一緒にギルフォードを込まらせる事もある。
台詞集
「お兄様!!サボりはいけません!!」「いつか私と結婚してくださいね?」「こんなに傷ついて、平気なわけ無いでしょ!!」「精一杯お役に立ちます。」


もう少し出て来ますが、一応主要キャラです。
   

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Re: テイルズ オブ ジ アビス —誰が為の唄— ( No.18 )
日時: 2011/06/11 13:00
名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)

第十七幕〜いつかの思い出〜





やはりと云うべきか。話し終わった後の応接間は云いようのない空気に包まれた。誰しもが告げられた新事実をどう受け止めるべきか迷いを露わに、一言も口を開かない。
秒針の音がいやに大きく聞こえるその沈黙を破ったのは、思案をめぐらしていたジェイドだった。

「・・・・俄には信じられませんね。そんな事が現実に起こるというのは。」

しかし、その言葉とは裏腹に確信を持った目をスコールへと向ける彼は、皆の反応を待っているようにも見える。特に、ローレライと強い繋がりを持つ王族二人の。

「俺は・・・何も聞かされていない。そもそも、奴との連絡手段は既に潰えている。何かあっても俺は感知出来ない。」

苦々しげに現状を伝えるアッシュは、いつもの皺が三割り増しになりつつある。残念そうに、けれど予想済みなのかそこまで落胆した様子が見受けられないジェイドは そうですか とアッシュに返し、注意をルークへと変える。
スコールが話をしている最中も終わってからも、一言すら口にせず何かを思い出した面持ちでアッシュとの遣り取りを眺めている。

「ルーク。貴方は何か知りませんか?」
「う〜ん・・・言ってもいいのか?」
「・・・ルーク?知っているの?」

心当たりがあるにも関わらずそれを告げるに躊躇を見せるルークを、訝しげな表情でティアが見据えると頭を掻き 分かった と小さく漏らす。

「っても、俺が知ってる事なんて少しだぜ?ジェイドの疑問に答えられるかどうかも分かんねぇけど?」
「構いませんよ。情報は多いに越した事はありませんから。」
「ん、ならいいかもな。」

何がいいのかは告げない。そんなことはジェイドなら分かっているはずだから。

「・・・俺がこの世界に還ってくるまで、アッシュとタイムラグが生じたのは覚えてるよな。」

確認とも質問とも取れる言い方に、英雄達は頷く。その時の絶望も希望も痛みも嬉しさもティアは忘れて居はない。

セレニアの花畑に還ってきたのはアッシュだった。
その姿を確認した時いの一番にナタリアは涙を溢れさせアッシュへと駆け寄り、存在を確かめるように抱きしめた。それに続くように仲間達がアッシュを囲む中、ティアだけは張り裂けそうになる心を保つのが精一杯でアッシュに掛けられる賞賛や安堵の言葉を何処か遠いモノとして流れていく。
勿論ティアとて嬉しくない訳ではない。反発や反感はあったものの、何度も助けて貰う事もあった。情報を流して貰いもしたし、最期にはその命を賭して『彼』に道を開いてくれもした。

嬉しくない訳がない。

たった一時でも『仲間』だったんだから。
それにこの事を『彼』は願っていたのだから。
あの旅の間、『彼』はずっとアッシュを気に掛け心配し戻ってくる事を願っていた。誰よりも、もしかしたらナタリアよりもアッシュの事を考えていたのは『彼』なんじゃなかっただろうか。そんな風にティアが思える程、『彼』は何かにつけてアッシュを持ち出していたのだから。
それは、オリジナルとレプリカと云う特殊な間柄だったからかもしれない。でも、それ以上に『彼』の優しさが源になっていたのだとティアは信じている。同じレプリカでも考え方はそれぞれだ。その存在を喰らってでも居場所にしようと思う者も居る。その中で『彼』は苦しみ、悩み、迷い、怯えながらもアッシュの帰還を願っていた。
例え、それが自分の居場所を明け渡す事になったとしても。誰よりも願っていた。

嬉しくない訳がない。

『彼』が望んでいた光景は目の前にあるのだから。
けれど・・・・・・

「・・・・ルーク・・・・」

溢れる涙が止められない。
何度も泣いたのに、未だ飽き足らないのか。止めどなく流れて来る『想い』は嬉しさとはほど遠い。
アッシュが還ってきたと云う事は『彼』が、ルークが還る希望の消滅を意味している。

「・・・・るー・・・・く・・・・・」

紡がれる名は震えていた。

分かっていた。ルークが還ってくる希望の儚さは。

旅の後、ジェイドから聞かされた大爆発(ビック・バン)現象は、オリジナルが死した後その音素がレプリカへと流れ込みレプリカの肉体を支配するというもの。ましてや、ルークの肉体は乖離を起こしている。

知っていた。どれ程の奇跡を待ち望んでいたのかなんて。

いつも通りに己の理論を丁寧に話すジェイドはその裏で重すぎる苦しみに耐えていた。聞き入る仲間達も始終遣りきれない想いを抱えている。

気付いていた。約束の弱さを。

でも・・・それでも、万に一つも可能性に賭けて。居るかも分からない神様に祈って。泣き出しそうな弱い自分を何度も奮い立たせて。やっと迎えたこの日に、還ってきたのは待ち望んだ『彼』じゃなかった。

「・・・・・・る・・・・・く・・・・・・・」

流れる涙は止まれと命令する程溢れる。最早何故泣いているのかティアには分からなくなっていた。
哀しいから?苦しいから?辛いから?憎いから?
考えつく限りの感情にどれも違う気がしてティアは首を振った。そんなんじゃない。そんな簡単な事じゃない。

どうしてルークは消えなければならなかった?
どうしてルークが悲しまなければならなかった?
どうしてルークをレプリカとして産む世界だった?

いくつも浮かんでは消える疑問は今更どうしようもない事ばかり。

なんでもっと優しくできなかった?
なんであの時気付いてあげられなかった?
なんでちゃんと気持ちを伝えなかった?

後悔はすれど答えは見つからない。
唯在るのは『ルークが消えてしまった事実』だけ。

「ルーク・・・ルーク・・・」

淋しくなれば呼んだ。哀しくなるほど呟いた。怖くなる度叫んだ。
口に出せば切なくなるのに。口に出さなければ忘れてしまいそうで。

体を抱え座り込んだティアに影が差す。ぐちゃぐちゃになっている顔を気にする余裕もなく呆然と見上げるティアを少し拗ねているようなアッシュが見下ろしていた。訳が分からず無意識に首を捻るティアを見て、更に眉を寄せると視線を崩れた『栄光の大地』へ向ける。同じようにティアも顔を向けた。
月明かりに照らされた瓦礫の山は『彼』と共に戦った場所であり約束をし別れた場所であり、そして気持ちを伝えた場所。届いたかどうかは分からないが、それでも信じていた。

「・・・・・一週間だ。」

再びアッシュへと目を戻すと何時になく真剣なアッシュが何の期限なのか一週間と繰り返す。

「一週間後に此処へ来い。」
「・・・・な・・・んで・・・・」
「理由は後で分かる。いいな。必ず此処に来るんだ。」

脅しにも近い低い声で言われ反射的にティアは頷いた。

「・・・あいつはあんたが迎えるべきだろ・・・」

未だ訳が分からないティアにアッシュは独り言を溢した。



つづく



まさかか続くとは・・・。

Re: テイルズ オブ ジ アビス —誰が為の唄— ( No.19 )
日時: 2011/06/12 15:28
名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)

第十八幕〜決意を秘めた〜



渓谷を離れ一行は、アルビオールに向かう。後ろ髪を引かれつつティアも何時までも此処には居られないと腰を上げた。
アッシュの姿にアルビオールで待機していたノエルは、目を見開いたがルークでないと分かると哀しそうに顔を伏せつつも笑顔で操縦席へと戻って行った。それぞれの席に座り、ノエルの合図で浮遊機関は発進する。すっかり慣れ親しんだ浮遊感を味わいながらナタリアは、云えずにいた言葉を躊躇いがちにでも口にした。

「これからどうしますの?」

全員の視線がアッシュへと注がれる。全員が聞きたくて、けれど聞くのを躊躇っていた。

「ファブレ家に帰る。」

向けられる視線に答えるよう真っ直ぐ目を向け、力強く云うアッシュの姿は二年前のそれと打って変わり何か吹っ切れた感じが伝わる。

「・・・それに、彼奴の事も伝えなければいけないしな・・・」

ぽつりと呟かれた言葉の意味を正確に知る事になるのは、それから一週間後の事。



ティアは一人月が照らす花畑に佇んでいた。
あの後、アッシュを待ち受けていたのは過剰なまでに熱烈すぎるファブレ家の歓迎だった。玄関を使用人や白光騎士団が埋め尽くしファブレ夫妻の待つ応接室に着くまで通常の五倍以上の時間を要し、応接間に着いても夫妻の温かすぎる歓迎にアッシュは戸惑ってしまった。
ヴァンに誘拐されてから家へと帰る事を諦めていたアッシュにとって、両親の迎え入れは嬉しい以上にどう受け取ればいいのか分からない愛情に困惑してしまう。
戸惑いつつも照れながら接するその姿は微笑ましいものだった。

「・・・貴方にも見せたかったわ・・・・」

優しく、淋しさを含んだそれを受け取るべき人は居ない。

「本当に・・・面白かったのよ・・・。ナタリアも泣き出してしまって・・・・あんなアッシュ、私見た事なかったもの。」

思い出したのかティアはくすくすと笑いを漏らす。けれど、未だその瞳に漂う感情は悲しみの色を隠せない。

「・・・・きっと・・・・貴方も見た事ないわね・・・・あんな彼・・・」

風に撫でられる髪は顔を覆うように広がる。まるで、今にも流れそうな涙を隠すかのように。

「・・・・笑ってしまったのよ・・・・・旅の後・・・笑えなくなってしまったのに・・・・」

笑った方が良いと云ってくれたのは『彼』だった。涙を我慢する必要はないけど と照れながらそれでも笑顔で云ってくれた。お礼は恥ずかしくて云えず仕舞いに終わってしまったけど。

「・・・貴方が居なければ・・・・私は・・・笑う事すらも出来なくなってしまったのよ・・・・」

恨み言のように呟けば ごめん と現れてくれそうで。

突然今まで以上に強く風が吹いた。純白の花びらが舞い、長い自身の髪が踊る。耐えきれず閉じかけた瞳に朱が映り込んだ。ドクン と心臓が鳴る。目を見開き恐る恐る顔を上げた。

「・・・るー・・・く・・・?」

その先にいたのは待ち焦がれた『彼』。
見間違える事のない朱の髪はすっかり伸び、同じぐらいだった背も追い越されてしまっていた。それでも、面影は変わらなすぎて。
近づいていた『彼』が、ティアの声で足を止める。
一瞬世界が止まった気がした。音も何も聞こえなくなり、唯在るのは『彼』とティアだけ。

「・・・ルーク・・・?」

セレニアが風で揺れ、それと同調するかのように二人の髪も揺れる。確かめようと伸ばすティアの手は微かに震えていた。

「・・・るー・・・」
「・・・ティア・・・」

三度目で漸く返ってきた声。少し低くなっている気はするがそれでも『彼』に間違いない。力が抜け落ちそうになった手を握り返す温かさがそこに居ると証明してくれた。

「ルーク!!!!」

堪えきれず抱きつくティアをルークはしっかりと支える。溢れる涙は嬉しさそのもので。心を支配していた悲しさは見る姿もなく消え去っていた。

「ルーク・・・ルーク・・・ルーク・・・」
「ティア・・・」

何度も繰り返し呼ぶティアにルークは抱きしめる力を強くする。苦しく顔を顰めるが、それすらも幸せに変わって。
抱き合う二人を月が優しく照らしていた。


「・・・・・ア・・・ティ・・・・ア・・・ティア。」

思い出に耽っていたティアが我に返ると、心配そうに眉を下げるルークと目が合った。その顔に今まで思い出していた光景が重なり、くす と笑いを溢せば途端に不機嫌になってしまう。拗ねたルークにまた笑いが込み上げてしまうのだから仕様がない。

「ごめんなさいルーク。」

素直に謝れば優しすぎる彼は途端に許してしまう。

「まぁいいや。話し続けるけど大丈夫かティア?」
「えぇお願い。」

人目も気にせず惚気る二人を呆れたように全員がため息を吐く。

「アッシュが居なくなった後、少しローレライと話したんだ。」
「話を?」
「あぁ。信じられなくなった分身を癒してくれとか云っていたな。」
「それが、ローラン・・・・。父上は知っていたんですか、ローランがローレライに創り出された存在だと。」
「いや。知らなかった。ローレライは詳しく教えてくれなかったからな。」

悔しそうに唇を噛むスコールにルークはただ優しく語る。

「・・・兎も角。事情は何であれローランはこの世界に現れました。これからの事を考えねばならないですね。」
「これからの事ですかぁ〜????」
「はい。まず解決すべき問題は、ローランの居場所と扱い。」

淡々と話を進めていくジェイドは何処か冷たさを帯びていた。研究対象のようにローランを表現するジェイドにスコールは微かな怒りを覚える。しかし、言い返せない自分に悔しさを持つ。
そんなスコールを見たルークは、仕方がないと息を吐いた。

「ローランはファブレ家で預かる。」
「父上?」
「・・・宜しいのですか?ルーク。」
「構わないだろ?部屋は沢山あるし、此処なら安全。俺やティアもいるし、何よりローランはスコールに懐いてるようだしな。」

目を向ければ当然と云わんばかりに頷き返したティアにジェイドも諦め、分かりました と頷く。

「ありがとうございます。父上!!」
「スコール。」

ルークの決定に喜ぶスコールを真面目な顔でルークは見返す。

「これからはどんな状況になるか分からない。それでもローランと居るのか?」

スコールの頭に手を置き確認するように云うと、真剣なスコールが力強く頷いた。

「はい。どんな事があっても俺があいつを護ると決めました。共にいたいと思いました。」

答えるスコールに迷いなどない。良くも悪くも遣ると決めたらそれを貫くだろう。
安心したルークは笑みを零すと、事後処理の為に城へと戻っていく。それに大人達は続いた。

「決めたんだな。」
「あぁ。」

残されたギルフォードはスコールへと問うが、答えは変わることはなかった。






つづく

Re: テイルズ オブ ジ アビス —誰が為の唄— ( No.20 )
日時: 2011/06/17 17:16
名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)

第十九幕〜宴の事後〜




「・・・・ール・・・・コール・・・・スコール!!!」

何処か遠くで名前を呼ばれた気がして、過去に飛ばしていた意識を現代へと戻す。過去と云っても二〜三週間前の舞踏会の事。話し合いの結果ファブレで引き取られる事になったローランは、数分前と変わらず中庭でリルカと楽しそうに話している。
羨ましいと正直に思った。俺だってローランと話したいのに。

「はぁ〜・・・・」

無意識の内にため息が出る。目の前の書類は減るどころか一体何処から涌いてくるのかと思うほどの速さで増加している。これでは一体いつになればローランと出掛けられるのか目処も立たない。
もう一度ため息を吐こうとした時、頭に激痛が走る。

「・・・っ痛〜・・・何だよ!!!」

恐らく殴ったであろう本人を睨むようにして見上げると、眉に皺を寄せた明らかに不機嫌そうなギルが丸められた書類の束を手に仁王立ちしていた。これはもしかしなくても怒っている。

「何だよ・・・だと・・」

低いドスの利いた声は、彼が激怒している事を示す。と云っても心配から来る為そこまで怖くない。

「てめぇ・・・自分の立場分かってんのか!!!!ローランの事が心配なのも分かるけどな、遣る事溜まってんだよ!!!さっさと処理しろ!!!」

鼓膜が破れんじゃないかと思うほどの大声を狭い部屋で叫ばれれば、頭が暫く揺れるもの仕方がない。少しは考えろよと言い返せればいいがこの場合悪いのは全面的に俺である訳で、言い訳でもするならば何倍になって返ってくるか想像に難くない。つまりは素直に謝っておくのが無難だろう。

「悪い。」
「たく・・・しっかりしろ。足下すくわれるぞ。」
「分かってるさ。」

積まれたままの書類に手を伸ばせば、それ以上ギルは怒鳴りはしなかった。口では色々言われるが実際はそこまで心配していないのか、それとも信用しているのか。恐らくは後者であろうギルの信頼に少し嬉しくなる。
紙が摩れる音とペンの走る音だけが聞こえる。と不意にギルのペンの音が止まる。不思議に思い書類に落としていた目を上げると、一枚の書類を不愉快そうに眺めるギルが目に入った。

「どうしたんだよ。」

俺に回ってくる程度の書類にギルが悩むなんて珍しい。
普段はこの束の何十倍もの重要書類を王子として捌いているはず。ここに積まれた書類の精々が街での小競り合いや相談程度のもの。頭を悩ますほど難しいものではなく、現に処理済みの書類は俺の倍近い。

「何かあったのか?」
「これ。」

無造作に渡された紙は、一見他のものと変わりはないように思えたが内容を読んでギルの態度に納得した。
提出者はレプリカ反対派の貴族からの抗議書。書かれている内容は先の舞踏会での問題点とローランの批判、それらを交えてレプリカに制限を付けろと言うものだった。

「・・・よく来るのか?」
「偶にだよ。まぁあの事件の後から増えた事は確実だけど。」

下らなすぎて見るのも嫌になりそうな書類。簡単に捨てられれば楽だけど、曲がりなりにも抗議書であり正規の手続きを経て提出された事には変わらず、しかも差出人があの貴族となると邪険に扱えばこちらの立場を危うくしてしまう可能性も捨てきれない。それこそ足下をすくわれかねないのだ。まったく面倒が増える。ま、これは俺宛であるし今までのも上手く処理してきたから問題はないだろう。
気にする事ないと作業に戻ろうとするけど、ギルの視線がいやに痛く手を止める。

「何?」
「何で言わなかった。」
「へ?」
「この書類だ!!今までも有ったんだろ!!何出来た時直ぐ言わなかったんだよ!!!」
「いや・・・処理出来たから言う程の事でもなかったし・・・。それにこれは俺宛だったからな。お前等の心配増やす事もないだろ?」

勢いの余り手にする他の書類を握りつぶし事も厭わず、さっきよりも怒っているギルは問題となっている一枚の紙を睨みつける。

「だからって!!全部一人で遣る事はなだろ!!!相談ぐらい・・・・」
「相談したら、お前が一人でやっちまうだろ?他の仕事放りだしても。」

ぐっとギルは言葉を詰まらせる。反論出来るはずがないだろう。俺が一人で遣る事はお前だって一人で遣っちまうんだから。

「お前は王子だ。俺に出来ない事も沢山出来る。俺以上の重圧を背負ってる。この国の次期国王で俺の主。そんで主たるお前を支えるのが俺の役目。その俺が支えるべき主の手を煩わせる事出来る訳ねぇじゃん。」
「だからって!!」
「それにさ。要らぬ心配はして欲しくないんだよ。親友としては。」

にかっと笑い返せば、照れ隠しなのか勝手にしろとそれっきり突っ込んでは来ない。その姿が面白くからかいたかったが仕返しが怖いので止めた。ククク と笑いを堪えながら内容を読んでサインを書いていく。一頻り笑い終わった後にもう一度皺くちゃになった書類に目を落とす。
書かれている舞踏会の状況や発言などに目立った相違点はない。内容も若干批判的だが大きく寄ってはおらず客観的な視点から書かれているし、しっかりした論理で組み立てられ説得力もある。何も知らなければ、頷いてしまうほどよくできていると思う。が、これを容認はできない。立場からみてもファブレの人間である自分はレプリカ批判を善しと出来ないし、するつもりなど毛頭ない。それと絶対に赦せない理由がもう一つ。

「ローランを批判するって、いい度胸じゃねぇ?」

自分でも驚くほどその一点に対し、激怒している。あぁこれは、もう認めた方が良いのかもな。ま、今は兎も角。

「出向いてやろううじゃん。」

この根源を潰す方が先決だな。


先程とは明らかに違う類の笑いを溢す幼馴染みにギルバートはため息を吐くだけで止めておいた。




つづく

Re: テイルズ オブ ジ アビス —誰が為の唄— ( No.21 )
日時: 2011/06/22 17:19
名前: 雪姫 (ID: OmdF/R4B)


初めまして、、雪姫です!

テイルズシリーズ面白いですよね、私も大好きです♪
時計屋さんは、3DSで出るアビスは買いますか?
私は、PS2でやったので買うかどうか悩んでいます・・・。

更新楽しみにしてます♪

Re: テイルズ オブ ジ アビス —誰が為の唄— ( No.22 )
日時: 2011/06/25 13:02
名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)

初めまして雪姫さん。コメント嬉しいです!!本当にありがとうございます!!
私もPS2をやったのでどうしようかと思っています。

頑張りますのでこれからもお願いします。



第二十幕〜巡る記憶〜



護れないと知ったのは 生み出された後
思い出される儚げな笑顔を湛えた彼女は
裏切られても尚 愛されながらも茨の道を進んだ

決まったはずの未来 知ったはずの理
望みは弱く 散る定めであっても
それでも彼女は願い続ける 世界の幸せを




目を覚ますとここ数ヶ月ですっかり慣れた天井が薄らと映った。半身を起こし寝ぼけた頭で繰り返し見た夢を思い出す。
久しぶりの夢に出て来たあの人は、あの頃のままで。懐かしさよりも何故か悲しく思えた。
不変の未来である記憶を告げたマスター。それを受け入れて、それでも変わる切っ掛けを探し求めたユリアの願いは二千年の時を経て果たされた。嬉しいはずだ。ユリアの願った世界に人が生きているのだから。けれどならどうして、変化が起きるなら何でユリアが生きている時じゃなかったのだろう。

「・・・・・・下らない・・・」

思わず零れた言葉は自分への戒めとした。
下らない。幾ら後悔しても過去には戻れないのだから。


ふわり と開け放たれていた窓から暖かな風が部屋を満し、柔らかい花の匂いを運んだ。ベットから降りはためくカーテンをまとめ、窓辺に手を突くと中庭のセレニアが朝日に反射し輝いている。その光景は何処か懐かしく、想った途端何かに追い立てられるように羽織だけを持ち部屋を飛び出した。巡回している騎士団に見つからないよう、気配を殺し中庭へと急ぐ。気持ちが逸り どくどく と波打つ鼓動は、急げ と命を下すかのようで焦りを押さえ込みやっと見えた扉を少々手荒に押し開ける。
目の前に広がる光景は、先程と少し変わっていて。角度の違いなのか白く光っていた花が夕焼け色に染められている。幻想的な景色は美しく、けれど何故かダブって見える。
懐かしくて淋しくて悔しくて哀しくて。様々な感情が鬩ぎ合うが、当てはまる言葉は見つからない。
引き寄せられるように近づき花びらに触れようとした時、突然襲った頭痛に膝を突いた。




『大丈夫。私自身が世界に融けても、それで終わりじゃない。』

   『苦しみしか生まれない争いは大っ嫌いだ。』

 『悲しませたっかたわけじゃい。ただ笑って欲しいだけです。』

       『変わらないのかね。これだから為政者ってのは』


『我は見た 未来を。しかしお前は変えられると望むのか?』



マスター・・・・・!!!
狭間に浮かぶ記憶は、どれも懐かしい人々。片時も忘れる事はない。
けれど、映る顔も言葉にも心当たりなどなかった。
それでも、繰り返される映像は思い出せと急き立てる。

「あ・・・・・・ああああ・・・・ああああああああ!!!!!!!」

上げる悲鳴にも似た叫びは、静かなる朝に響いた。何処からそれを聞いたのか、ばたんと大きな音が鳴った。

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!!

声に出せない拒否の言葉を思うたび、記憶は鮮明に溢れる。体が震え、片足立ちの姿勢さえ保てなくなりつつある。


『ローラン・・・・お前は思い出さねばならない・・・・自身が生まれた真の意味を・・・・』

「マ・・・スタぁ・・・・・・・・・・」

記憶が途切れた瞬間に響いたのは紛れもない自身の生みの親。朧気な漂う姿に視えるのはそれが音素だからなのか。無意識に伸ばした手を、姿のない存在が触れた錯覚に落ちる。

「ローラン!!!!!!!!!!!!!!!」

体が揺れ、何処か他人事のように 倒れるんだ と感じていた私の耳に届いた音は間違えようのない唯一ユリアよりも大切だと想えた人の声だった。

「ス・・・コー・・・・・・・・ル・・・」

崩れ落ちる間際、呼んだ名と浮かべた笑みはちゃんと貴方に届いただろうか・・・・・・・





つづく



短いですが一旦此処で切ります。


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