二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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NARUTО 木の葉の里の大食い少女
日時: 2012/07/28 22:52
名前: わたあめ (ID: tdVIpBZU)

九尾襲撃以前に餓死した狐者異一族の生き残り、「狐者異マナ」が木の葉にて暴れる話。主に食卓の上で。
アンチ・ハーレム・チートはなしの方向で。

1.荒らし・中傷・パクリにきたという方はバックプリーズ
2.この小説はにじファンにて載せたことがあります
3.原作批判・過度な原作キャラマンセー及びキャラアンチはお断り 
4.残酷な描写が一部に見られます、ご注意を
5.亀☆更☆新

それでもいいというかたはどうぞ

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第一章 純粋すぎるのもまた罪。
 ∟アカデミー編 >>1-5
 ∟班分けと鈴取り編 >>6-11
 ∟巻き物奪還任務編 >>12-20>>28 
 ∟お見舞い編 >>21-27

第二章 呪印という花を君に捧ぐ。
 ∟第一試験編 >>29-33
 ∟第二試験編 >>34-48
 ∟第三試験予選編 >>
 ∟第三試験本戦編 >>

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五話 卒業試験当日、うちはの敷地に侵入し、椅子の足をもぎ取る ( No.5 )
日時: 2012/07/10 17:59
名前: わたあめ (ID: ADlKld9P)

 うちはサスケは咄嗟に目を逸らした。
 何故って目の前で、くノ一クラスのウスラトンカチがサスケが以前埋めたタイムカプセルを食べられるかどうか吟味していたからだ。

「——何してんだお前!」
「おーサスケか」

 サスケは長らく、うちはの敷地内に足を踏み入れていなかった。今日で卒業試験だ。だからというのだろうかどうだろうか、ただなんとなく訪れてみたのだった。試験を終えて亡き両親に報告をというのならわかるが、どうして訪れてきたのだろう。中忍でも使えるとは限らぬ火遁の術を会得しているサスケは自分が受かることはちゃんとわかっている。緊張の欠片もない。だから、見守っていてくださいとかそんな言葉をぬかしにきたわけでもない。
 もしかしたらそれはイタチへの執念だったのかもしれない。飛び級でアカデミーを早々に卒業してしまったあの男への。一族を滅ぼした、兄への。
 ただ、なんでこんなところにマナがいるのかはわからなかった。
 まだ兄を尊敬し愛していたころ、偶然兄がマナにせんべいを奢ってやっているのを見てやきもちをやいたことを思い出す。あんな男を敬愛していた、何も知らなかったあの愚かな自分に腹が立った。

「あのな、苺大福と散歩してたんだ」
「イチゴダイフクだと?」

 見ると彼女の足元にはクラスメートのキバのつれている犬、赤丸によく似た子犬が一匹いた。ただ糸目の赤丸とは違い、こちらの苺大福はぱっちりとした明るい青の目をしている。

「したら苺大福がここ掘れワンワンっていったから掘ってみたら、こんなもん出てきたんだよ。あ、因みに掘ったのはここじゃないぜ。なんかここら辺でも特にでっかいあの家の庭にあったんだよ」

 ここら辺でも特にでっかいあの家。
 マナの指差した方向は間違いなくサスケの家——いや、サスケのだった家。
 母と父と兄と過ごした家。
 あのおぞましき夜を過ごした家。
 地面に倒れた両親と、返り血を浴びた兄を見つめて泣き叫んだ、家だ。

「……お前、人様の庭を勝手に掘り起こしていいのか」
「いーじゃん。誰も住んでねーんだし」

 マナの言葉は真っ直ぐなだけにサスケの胸を抉った。けれどそうなのだ、この家にはもう誰もいない。この敷地には誰も住んでいない。誰もいない。いるのは子犬を連れた狐者異の小娘と、“悲劇の一族”の生き残り——
 自嘲的にそこまで笑っていたところで、かぽっとマナがその小箱を開けた。それを素早く奪い取る。

「あーっ、なにするんだよサスケェ!」

 中身は確か、五年後の兄に当てた手紙。そして五年後の自分に当てた手紙。それと、兄から五年後の自分への、てがみ。
 兄に当てた手紙には日ごろの感謝の言葉だとか、これからもよろしくお願いしますだとか、そう書いていた。自分に当てた手紙には、自分を鼓舞する言葉を書いていた。そして、まだ兄さんとは仲良くやってますか、とも書いた。兄からのは見たことがないから、わからないけど、でも。
 ——見る気もしないから。
 三通の手紙を重ねて、それをビリビリに破いた。マナがぽかんとした顔をする。
 イタチへの憎しみも自分への腹立ちも、全てを失った悲しみも、何もかも引っかいて破いてしまいたかった。でもそれは形ないものだ。だから形あるこの手紙を、サスケは破いた。あの時の、兄を敬愛する気持ちごと。

「——うあああッ」

 例え優しい兄の姿がイタチの演じた偽の姿であったとしても、それはサスケにとっては真実だったのだ。それが嘘でも、サスケが彼へ抱いた敬愛は本物だった。だからこそ余計に苦しかった。胸が張り裂かれるような気がした。こんな想いをしたのは、かなり久しぶりだった。
 風が吹いて、紙くずを連れ去っていく。サスケの想いごと。
 マナはそれを黙って見つめていたが……やがて腹をぐうと鳴らして、シリアスな雰囲気を台無しにした。


「よっ、ヒナタ。受かったんかい、おめでとー」
「あっ……マナちゃん」

 額当てを片手に手をふる小柄な少女がそこにいた。思わず彼女が鉛筆を噛み砕いたときのことを思い出して逃げ腰になるヒナタだが、マナは気にした風もなく近づいてくる。

「マ、マナちゃんも受かったんだね! おめでとう……」
「いや、そもそも受験してねーし」
「……へ?」

 努めて明るい声を出してみたものの、それは気だるげなマナの声によって遮られる。受験していないという言葉に驚いたものの、直ぐに彼女が狐者異一族であることを思い出した。
 普通の術の使用が不可能ということは当然、今回の卒業試験の課題である分身の術の使用も出来ない。
 だからといって受験せずに卒業できるというのは流石に反則だと思うのだが、しかし彼女は狐者異一族だ。父のヒアシが言うには、狐者異一族は全員が“大器晩成型”であるそうなのだ。ただ父の言い方には何か含みがあるようだったが。

「いやーそれでも流石に良心痛むしさあ、食遁披露してやった」
「しょくっ……!?」

 通りでミズキの座っていた椅子には足が一本かけていたわけだ。木屑も地面に散らばっていたし、ゴミ箱には木の棒が一本入っていた。恐らくあれが食遁の残骸だろう。

「……あのねマナちゃん」
「おーどうしたヒナタ」
「ナルトくん、また受からなかったんだって」
「そらごしゅーしょーさま」

 眉を下げていったヒナタに、軽い口調で返すマナ。マナは同じドベであるナルトが落ちてしまったのに、自分は受験せずとも受かったのに、それでもなんとも思わないのだろうか。

「でもそりゃ仕方ねーだろ。ナルトはアタシとは違うんだよ。まっ、ナルトが試験に受からず同じ班になれる機会を喪失してしまったヒナタの落胆はわからんでもねーよ?」
「えっ、えっ、えっ!?」

 からかうような声で言ってきたマナに思わず身を竦ませるヒナタ。かあっと全身の血が顔へ集まり、その所為だろうか、四肢の感覚が麻痺しだした。
 日向ヒナタはナルトのことがすきだ。マナと並ぶ問題児でありドベではあるが、けして諦めず、前向きで底抜けに明るい。そのいつだって前を見つめている青の瞳が好きだ。美しい空の色が、好きだ。

「あっあああううっ、そんなことはないんだよ? えっとその、残念だなって気持ちは、あ、あるんだけどっ……」

 上ずった声で言うもマナは相手にしてくれない。

「へー。同じ班になれねえことの落胆はないけど、残念だなって気持ちだけはいっぱいあるってか。へえ」

 ニヤニヤ笑われて赤面して俯くヒナタを見ながら、マナは溜息をついた。
 いくら恋愛に疎いとは言え、ヒナタがナルトを好きなことくらい一目瞭然だ。そしてそのナルトがサクラを好きで、サクラがサスケのことを好きなことも。
 ぐうと腹の音がなり、苺大福もとい紅丸が足元に擦り寄ってきた。
 試験がないだけに卒業した感慨とかそういうのは何もない。
 晴天を見上げて、マナは小さく溜息をついた。

第六話 アカデミーの屋上にて、担当上忍を呆れさせ、クラスメー ( No.6 )
日時: 2012/07/10 18:03
名前: わたあめ (ID: ADlKld9P)

「ナルトいつ受かったんだよ」
「えっへへーん! 俺ってば凄いだろ、ザマアミロー」

 何がざまあ見ろなのがわからないが、すげーすげーと手を叩いてやることにして、マナは苺大福——ではなく紅丸と共に適当な席に座った。今日は班分けの発表があり、担当上忍とご対面をするらしい。
 ——アタシみてーな奴を生徒に持つとかどんな哀れな担当上忍だよ
 思いつつぼうっとしていると、イルカが現れて班分けを発表し始めた。どうやら班分けは実力が均等になるように教師側で考えたらしい。
 ——つーことはつまり、アタシかナルトかが、もしくは両方が主席のサスケと同じ班か
 とは言えサスケと同じ班になるのはどちらか一人だろう。サスケが主席と言えどドベ二人を一気に補えるはずもない。案の定、ナルトはサスケと同じ班だった。

「七班、うずまきナルト、春野サクラ、うちはサスケ」

 ナルトはサクラと同じ班になれて、しかしサスケと同じ班になってしまい複雑なようだ。サクラにしてもサスケと同じ班になれて、ナルトと同じ班になってしまい複雑なようである。サスケは二人をどうでもいいと思っているような面持ちだ。
 じゃーアタシはこいつか、とマナは斜め前の席を見やる。あやめ色の髪をおかっぱに近い状態にした少年——サスケと一、二を争っていた次席、一文字はじめ。といってもヒナタのように毛先が切りそろえられているわけではなく、天然パーマでふわっとしている。前髪もぱっつんというわけではない。感情が顔に出にくいのか、はたまた隠すのが得意なのか、紫を帯びた灰色の瞳には何の感情もない。

「八班、犬塚キバ、日向ヒナタ、油女シノ」

 この班は感知タイプ系で揃えてきたか。さらっとシノに視線を向けると、シノは素早く顔を逸らす。キバに視線を向けると、赤丸と共ににやっと笑いかけてきた。苺大福、ではなく紅丸がわん、と小さく鳴く。ヒナタは残念そうな面持ちでナルトの方を見つめていた。

「九班、いとめユヅル、狐者異マナ、一文字はじめ」

 やはり一文字はじめとか。で、もう一人はいとめユヅル——白い長髪に黄色いカチューシャをつけた少年だった。いじめられっ子であり、しょっちゅう傷をつけて泣いているのを目にする。根暗でいつも目立たないように極力努力しているような子だ。

「十班、秋道チョウジ、山中いの、奈良シカマル」

 猪鹿蝶トリオ。この三人は一族絡みの付き合いであり、この三つの一族の跡取りは代々共にスリーマンセルを組んでいる。ちらりとそちらに視線をやれば、シカマルがめんどくさそうに溜息をつき、いのは嫉妬の視線をサクラに向け、チョウジはあいかわらずポテトチップスを食べていた。
 それからイルカに担当上忍を待つよう言われて早二分、ずばーっと教室のドアが開いた。

「第九班は名乗りを上げろ!」

 しーん。
 青白い顔に黒い長髪の男性だった。黒いズボンに赤っぽいシャツを着ており、通った鼻筋やら細い手足やら妙に美丈夫である。背もかなりの高さだ。彼が九班の担当上忍と知り、マナは眉根に皺を寄せた。この匂い——

「ミントの匂いだなあああ! ハッカ味の飴を持っているだろ、よこせ!」

 ばん! と机を叩いて立ち上がるマナに全員が驚いた顔をする。

「如何にも私がシソ・ハッカだがどうした! お前は九班の生徒だな!? さあ受け取れ——っ!」

 シソ・ハッカとやらはすっと飴玉をどこからか取り出し、そして全力で投げた。この飴玉なら人の脳天をぶち抜くことが出来るんじゃねえかというスピードである。紅丸が怯えて赤丸のところに避難したのに対し、マナは片足を机の上に乗せ——

「とぅおおおりゃああ!」

 もう片方の足に纏わせたチャクラでその威力を殺ぎ、ついでに包みを剥いで口の中に放り込む。

「こ、こんな素晴らしい力を持った生徒に恵まれるとは!」

 感極まった様子のハッカにクラス全員言葉もない。すっと身を翻して、美丈夫ハッカは言い放った。

「さあ、九班は私についてきたまえ!」


「先ずは自己紹介だ。私の名前はシソ・ハッカ。好きなものはミントの匂い、好きな言葉は“勤勉”で、嫌いなものは怠慢や百合の花粉。あれはどうも鼻がむずむずしてな……。趣味はハーブを育てること。特技はそうだな、潜水だろう。あまりしないが。幻術と水遁が得意なのだよ」

 自慢と自信たっぷりに告げるハッカに、三人とも言葉がない。正確に言えばマナは飴により口をふさがれており、はじめは始終無表情で、ユヅルはどう接していいのかわからず怯えているようだ。

「でははじめ君、君から初めてくれたまえ」
「……承知した」

 無感動な声で言いつつ首をこっくんとかすかに上下させる。

「姓は一文字、名ははじめ。好んでいるものは特に無い。厭っているものは特に無い。好きな言葉は特に無い。趣味も特に無い。特技はあるが、好んでいるわけではない。夢も特に無い」
「お前の好きな言葉、“特に無い”でいいんじゃないのか? いや、これじゃあ口癖か」

 飴玉を食べ終わったマナが溜息まじりに言う。

「そうか……? 承知した。では、好きな言葉は“特に無い”だ」
「冗談なんすけど……真に受けんなよ特に無いはじめくん……」

 天然なのか単純なのか。
 膝丈まである黒いズボンと、濃紺のパーカーをだぼっと羽織っている。額当ては腰に巻いている。

「では次はユヅル君だ」
「え……っあ、はいっ!」

 驚いたのか一層からだを縮こまらせて、伏目がちになってしまうユヅル。

「いとめユヅル……と言って……好きなものは……一人の時間、かなぁ……あ、あ、でも皆といるのも楽しいから、……ご、ごめんなさい」
「……別に謝る必要はないんだが」

 ちらちらと伏せた目の下でハッカを見つつ、どもりながら話すユヅルにマナもハッカも呆れ顔だ。はじめは相変らず無表情である。
 皆といるのが楽しいというのは半分嘘なのだろう。アカデミー生活の大半をいじめられてすごしてきた子だ。

「き、嫌いな者はその、威張る人とかで……好きな言葉も特技も夢もなくて……あの、あの、正直何の取り得もないような奴だし、それにどうして卒業できたかわからないくらいなんだけど、あの、あの……よ、よろしくお願いします」
「まあ、こちらこそだ。そこまでどもらんでもいいぞ。もうちょっと自信を持て!」
「はっ、はぃい!」

 黒い長袖のTシャツの上に白無地の半そでのTシャツ、膝丈より少し下あたりの黒いズボンと、簡素な恰好だ。額当ては首に緩く巻いている。どことなくドジっ子っぽい気質があるので、木の枝やらに引っ掛けて首を絞めてしまわないか心配だ。

「で、最後にマナくんだ」
「ほいほーい。マナでーす。名字は言うまでもねーかな? だってアタシの名字結構インパクトある読み方だっただろ? 好きなものは食べることだ。嫌いなことは食べれないこと。好きな言葉はもらう、いただく、恵んでもらう、いただきます、無銭飲食、拾い食い、棚からボタ餅。特技は早食い、趣味は食べること。夢は金持ちになって食いたい放題だ! ふっふふー」

 ニタつくマナにユヅルがずささささっと後ずさった。はじめが僅かに距離を置き、ハッカが溜息をつく。

「あ、こいつ苺大福ね。赤丸の兄弟だってよ」
「わん!」

 ハッカはつい先日会ったばかりのツメの言葉を思い出した。ツメはマナに、紅丸という名の犬を贈ったといっていたが——苺大福とは。
 再び溜息をついて、ハッカは口を開いた。

「さて、まあ一通り自己紹介が終わったところで、二次試験の説明でもさせていただこうか——」

第七話 演習場にて、ミントの飴玉を食べつつ、鈴を狙う。 ( No.7 )
日時: 2012/07/10 18:05
名前: わたあめ (ID: ADlKld9P)

「鈴取り合戦? ……なんだそれ。合戦つっても食べ物奪うんじゃないんならアタシやる気でねーぞ全く」
「否。そんなことをしてしまったら百二十パーセントの確率でマナ、お前が勝ってしまう」

 とある演習場にて、九班は話し合っていた。
 先ほどハッカが説明してくれた二次試験の内容は、アカデミーの卒業生を鈴取り合戦とやらで更に絞るという話だ。分身の術だけで卒業とは甘すぎると感じていたらしいはじめは納得し、ユヅルは顔を曇らせた。マナは奪うのが食べ物でなく鈴であるということに不満を抱きはじめる。

「ただ私の鈴取り合戦は他の班とは一味違うのだ。どう違うのかというとな、」

 普通は上忍が持つ二つの鈴を、下忍三人で奪い合う。だがハッカの場合は、音をならせないように綿をつめた鈴の入った三つの小箱に封印術を施して三人にわける。その中の箱で一つだけ、鈴が入っている。鈴なき者は鈴を奪い、鈴ある者は鈴を隠し、十二時までにその鈴を所有していた者を卒業させるということなのだ。
 
「では、この三つだ。いくぞ!」

 “朱”、“藍”、“翠”——そうかかれた小箱が手渡される。朱がユヅル、藍がマナ、翠がはじめだ。

「では、開始!」

 
 小箱の中身を知ることが出来るのは自分だけ。言動などから他二人に鈴があるかどうか、自分にあるかどうかを見極めねばならない。つまりこれは頭脳戦。そして隠すにあたっては隠蔽術、奪うにあたって必要なのは戦闘力だ。この三つをテストするものなのだろう。
 封印術の解き方はハッカに教わっている。ハッカ曰く三つの小箱全ての術が違うそうだから、自分のは開けられても他人には開けられない。なんとか奪えて十二時にハッカに持っていけたとして箱が空なら意味はない。
 ——では。

「解」

 箱が開いた。中から転がり出てきたのは……ミント味の飴玉? つまり外れということか。それを握り、再び封印をかけてジャージを引っ張り、無い胸に額当てでなんとか縛り付けてみた。ここなら奴らも迂闊には触れまい。

「苺大福、一文字はじめといとめユヅルの臭いを嗅ぎ出せ」
「わん!」

 すんすんと地面に鼻をつけて歩き出した紅丸の後を追いつつ、ワイヤーを張り巡らし、クナイを吊り下げ起爆札を貼り付けてトラップをつくりあげていく。

「わん」
 
 紅丸に促されて頭をあげると、十五メートルほど前にはじめがいた。紅丸を抱え上げ、木を蹴り飛ばしてその中へ突っ込む。

「よしっ、苺大福、ここら一帯にマーキングしとけ。ここがアタシのテリトリーだ」
「わんっ」

 言って、紅丸とは逆方向に走り出す。木肌を蹴ってワイヤーを木の枝に固定すると、更に細い釣り糸を片手にたった今きた道を帰っていく。マーキングをしている紅丸が目に入った。
 ワイヤーの直ぐ近く、ワイヤーを避けた敵が着地するであろう場所に釣り糸を引っ張っていき、二重トラップへと仕立て上げる。因みにこれらを習得したのはまだ教室を抜けるのが余り得意でなかったころで、これに閃光玉や煙り玉などを加えていた。いくつかの地点に括り付けてみる。よし、これで完璧。
 恐らく内二つの箱の中に、鈴のかわりにダミーとして飴が入っているはずだ。その内一つのが自分の。はじめが持っているのがなんなのかは分からない。
 飴玉を食べる。すうっとするようなミントの味が口の中で広がった。それと同時に頭もすうっと涼しくなっていくような気がする。
 はじめから五メートルばかり離れた場所に起爆札をしかけ、紅丸を抱いてそこを離れる。数秒とたたず、爆音。ちらりと振り返ると、木の枝を蹴って飛んでくるはじめが目に入った。

「っうわ」

 頬をクナイが掠める。はじめとは案外攻撃型なのだろうか。
 まあどちらにせよ、マナのテリトリー内でそんなものを迂闊に放ってしまえば——

「危ないことになるぜ、はじめ——っえ?」

 仕掛けた丸太がぶうん、と唸りをあげてこちらへ飛んできた。どうやらはじめにはちゃんと見えていたらしい。飛んできたいくつかの手裏剣がマナの傍を素通りしてワイヤーを切り飛ばしていく。閃光、煙幕、丸太、手裏剣、クナイ、爆発——一斉に起こる自らのトラップ攻撃に怯んだマナの背に衝撃が走った。はじめの蹴りが命中したのだ。紅丸を抱えて地面へ墜落するマナの首にクナイを当てて、その背を押してその体を地面に押し付ける。紅丸が怒りを顕にして唸ったが、はじめがクナイでマナの首を引き裂くのが怖いのだろう、噛み付こうとはしない。

「鈴を。持っているか?」
「……言うわけねーだろ、この女顔っ、! かはっ」

 女顔といった途端、はじめはマナの体を引き起こすなり再び地面に叩きつけた。飴玉が口から飛び出て地面に転がる。はじめのクナイがそれを叩き割った。見上げると、はじめは怒りと悲しみの混じったような顔をしている。
 ——あ、こいつこんな顔も出来んのか

「飴玉……鈴を持っているのはユヅルか」
「え? ——お前もミントの飴玉?」

 はじめは静かに頷いて、立ち上がる。懐から取り出した小箱の中から出てきたのは、やはりミント味の飴だった。

「——え?」

 前方から聞えた声に頭を上げると、ユヅルが呆然とした顔で突っ立っている。そんな彼が小箱の中から取り出したのも、ミント味の飴玉だった。

「……ハッカ先生——嘘、ついたのか」

 ユヅルは眉根に皺を寄せた。

「じゃあ——鈴は?」
「……若しかしたら、本当はハッカ先生のところにあるのかもしれないな。もしくは最初からないか。どちらにせよ——」

 そちらへ行く必要があるようだ。静かに言うはじめに、ユヅルとマナは無言で頷いた。

第八話 演習場にて、上忍をミント野郎呼ばわりし、味方の術を食 ( No.8 )
日時: 2012/07/12 09:17
名前: わたあめ (ID: mwHMOji8)

「わん」
「おっ。苺大福がミント野郎を見つけたようだぜ」
「……ミント野郎?」

 ご丁寧に、六メートルほど向こうに分身があるが、それで紅丸の鼻は誤魔化せないし、マナの鼻も誤魔化せない。曰く、「あっちのミント野郎にはミント飴の匂いがしない!」だそうだ。

「流石に上忍ににそれはないだろう。……まあいい。作戦通り、いくぞ」
「了解!」

 クナイを取り出して、既に彼の付近に張り巡らしてあったワイヤーを切る。すぱっと小気味のよい音と共に、クナイが一斉に飛んだ。不規則な軌道でやってくるクナイを自らのクナイで弾いていくハッカ。それを弾くハッカの目は閉じられている。音でその軌道を読んでいたというのか。改めて驚かされるが、本番はここからだ。二本目のワイヤーを弾くようにして切る。手裏剣の束が飛んでいった。それを弾こうとクナイを構えるハッカだが——。

「水遁・水車輪!」

 はじめの術にかかっていた手裏剣は一斉に反応を示し、水を纏い出だす。水を纏った手裏剣は急速に回転しだし、青白い光を放ちながら突進した。
 すっと目を開けたハッカは、飛び上がってそれを回避した。しかし十枚の手裏剣は彼を追って上へと飛び上がる。その手裏剣からは、ユヅルの指先から伸びるチャクラ糸があった。
 弾いても無駄だと判断したのだろうか。木の枝をもぎ取ってチャクラを纏わせ、水を纏った手裏剣の真ん中のその空洞にそれを挿し入れ、一気に十枚全てをからめとる。いまだ水をまとって回転するそれを、木の枝ごと引っ張った。糸につられたユヅルが宙に投げ出され、地を削る。その指先からチャクラ糸が離れた。

「そんなことが出来るとは予想外だったな。だが——」

 木の枝を振る。水を纏った手裏剣が術者であるはじめを襲った。慌てて術を解くも、手裏剣を避けきれず、いくつかが体を掠り、腕や脚に突き刺さった。
 
「余所見してんじゃねーよっ、ミント野郎!」

 後ろすら見ずにマナの回転蹴りを片腕で止める。元々体術が得意なわけではないマナの蹴りはかなり軽い。

「ミント野郎とはなかなかナイスな綽名だな」

 嫌味か何かのように笑顔で言い放って、マナの足を掴み上げるなり五メートルほど向こうにぶっ飛ばした。怒った紅丸の突進をものともせず、まるでうるさい虫か何かを払うかのように手を一閃させて紅丸を叩き飛ばす。苺大福、とマナが叫んだ。
 
「……くっ、ぅ」
「大丈夫か? はじめ」

 足や腕に突き刺さった手裏剣を引っこ抜いていると、マナが両手を腰に当ててこちらを見下ろしていた。

「ああ……大差ない」
「嘘つけ」

 マナに引き起こされて立ち上がったはじめは、ミント野郎! という叫びに驚いて振り返った。自分の前にいるのはマナ。後ろでミント野郎と怒鳴っているのも、マナ。

「なっ!」
「うっわー、流石上忍、すっげークリソツ……」

 ユヅルの呟きが聞えるのと同時に、腕に痺れるような感覚が走った。見るとミント野郎——もといハッカが、チャクラで傷痕の治療をしてくれているのだった。

「すまんな、痛かっただろう?」

 変化の術であるマナがにたりと笑う。ユヅルとマナ、紅丸がそれぞれ違う方向からハッカに迫っていた。

「これでよし、と」

 風塵を巻き上げながら跳び上がるハッカ。ハッカを蹴り飛ばすはずだったマナの足ははじめを蹴り飛ばし、ハッカを捉える筈だったチャクラ糸ははじめを捉えた。そしてハッカに噛み付くはずだった紅丸は、はじめの腕に噛み付いた。

「……!」
「っうっわ、すまんな!」
「あうん!?」
「えっ、ご、ごめんっ」

 噛み付かれた腕は痛いが、我慢できるレベルだ。マナの蹴りにしても軽いからまだまだどうにかできる。だが——

「今度からはブレーキをかけてくれ……」 

 それから、とユヅルに向き直った。

「クリソツ、とはどういう意味だ」

 あー、とマナが片手を振る。

「クリソツの術って言うのは変化の術の異名だ。最先端の流行語なんだからちゃんと覚えろよ」
「……しょ、承知した。クリソツの術、か」

 はじめが冷静な割には天然なところにつけこんでそんな大真面目な顔で変な知識を注入しないで欲しいものである。そしてはじめも真顔で頷かないでくれ。思いながら、ユヅルは溜息をついた。

「じゃー、最後の仕上げと行きますかっ」
「……最後の仕上げ?」
「おうよっ。行くぜはじめ、ユヅル、苺大福!」
「承知した!」
「任せて!」
「わんっ」

「じゃあ、行くぞ——食遁!」

 十二支の印のそのどれにも属さない、特殊で奇妙な印を結ぶ。はじめは水遁の印を結び、ユヅルは指先からチャクラ糸を迸らせた。

「水遁・水球(すいきゅう)!」

 はじめの両手のひらの間に生まれた水の球がゆらゆらと揺らめく。

「チャクラ弾の術!」

 マナの両目が見開かれて、蛇や猛禽類か何かのようなものへと変じる。口は大きく開いて、犬歯がずらりと覗いた。地面を蹴って跳ね上がった彼女は水の球をすっぽりと食べ、そしてそれからそれを吐き出した。
 吐き出された水の球が一直線にハッカを襲うも、そう簡単に倒されるハッカではない。地面を蹴って飛び上がったハッカは異変に気付いた。
 上空一帯がチャクラ糸で出来た網で覆われているのだ。

「なっ」

 ユヅルの指先から伸びるチャクラ糸が、上空でハッカを絡める。先ほどはマナとはじめの技に気を取られていて気付かなかったが——なるほど、上空へ避けるのは予想済みだったということか。

「水車輪の術!」

 水を纏った手裏剣が飛んで、ハッカのホルスターを切り落とした。ホルスターのファスナーも同時に切られ、中から忍具が飛び散る。
 その中でしゃりんと、鈴の音がした。 

第九話 いとめ家にて、ユヅルの妹の淹れたお茶を飲む。 ( No.9 )
日時: 2012/07/12 09:19
名前: わたあめ (ID: mwHMOji8)

「合格だ」

 ハッカが手を叩いた。ゆったりと微笑みが口元に浮んでいる。

「大方は、箱の中身を見た後に三人でカマをかけあい、誰が持っているのか見当をつけて殴りあいをしていたが……いやはや、貴様らが例え“偶然”であるとはいえ仲間を信じて私へ向かってくるとは感動だ。一つだけ言わせて貰おう」

 偶然? ——え、この人知ってたの?
 ぽかんとするマナを見据えて、ハッカが言った。

「お前たち三人は少し愚かな間違いをしたな」
「「「え?」」」
「普通、狐者異の人間が食べ物を持っていたら、それは自分のか、拾ったものか、盗んだものかだ。それが小箱から出てきたと判断するにはまだ証拠が足りなさ過ぎたと思うぞ。まあそれが結果的にはお前たちを成功へと導いたわけだがな」

 私も修行が足りないな、とはじめが溜息をつき、だよねーとユヅルが溜息をついた。なるほど確かにその可能性がないわけではない。

「では、明日から各々の家に向かうぞ。下忍になると何かと危険が付きまとう。それを覚悟してもらった上でサインしてもらわないといけない書類があるのでな」


 いとめ家——それは里の外れにある小さな家だった。
 ユヅルは俯いて、中々中に入りたがろうとはしない。

「あんだよ? あんたのとーちゃん、こえーの?」
「怖くはない、けどさあ」

 はじめはいない。一文字家にて、嫡子であるはじめが下忍になった祝いがあるそうだ。はじめは相変らず無感動な顔だったが、よくよく見ている内に、彼はあまり乗り気していないのだな、とわかった。
 一族が餓死で滅んでいるマナは許可を取りにいかなくてもいい。火影が彼女の後見人だ、問うまでもないだろう。

「誰かいますか?」
「……何」

 家に呼びかけたはずが、声が返ってきたのはその裏の畑からだった。ボンネットを被った少女が立っている。鋭い赤の瞳に、白い髪を短く切っていた。太陽の下にいるのにも関わらず、真っ白い肌をした彼女はどうやらユヅルの姉であるらしい。 
 
「失礼ですが、貴女は?」
「いとめヤバネ。悪かったね、大人じゃなくて」
「いや……そんなことは」

 不機嫌そうな顔には汗が滴り、右手には鋤を握っていた。両手には手袋、足には長靴を履いている。肌の垢を落として可愛らしい服をきたら、すごく美人になるんだろうなあと思わせる綺麗な顔だ。

「入りなよ。一応客なんだしね。狭苦しい家だけど入れば」

 つっけんどんとした口調でそういわれ、ハッカは頭を下げて中に入った。ヤバネから隠れるようにして、ユヅルも中に入る。マナはヤバネをまじまじと見つめてから、中に入った。
 家の中で横たわっていた男に、ヤバネが声をかけた。

「父ちゃん、お客さんだよ」

 むっくりと体を起こしたやせこけた男は白い髪を掻き揚げ、じろっとユヅルを見て、それからまたじろっと赤い目でハッカを見た。
 ハッカは礼儀正しく正座して頭を下げる。

「いとめヤジリさんですね。息子さんの担当上忍になりました、シソ・ハッカと申します。息子さんが下忍として任務に参加するにあたって、死の危険がつく場合もございます。息子さんが承知した任務にて息子さんに万が一のことがあっても、残念ながら私どもでは責任をおうことはできません。ですからこの書類に署名いただけらと」
「わしは字が読めんし字も書けん。ヤバネとておなじじゃ」

 ヤジリはきっぱりと言い切って、赤い目を細めてユヅルを睨んだ。

「ユヅルのような疫病神などどこで死んでいようがどうでもいいわ。——ユヅル、自分で署名しろ」

 頷いて、ユヅルは鉛筆を取り出す。その指が微かに震えていた。その手をハッカが握って、そしてハッカは前に進み出た。

「お言葉ですが、それは度が過ぎるのではないかと」

 真剣な顔つきでヤジリを見上げている。ヤジリは白い片眉を上げて、赤い目でハッカをじろりとにらみつけた。
 確かに、疫病神だとかどこで死んでいようがどうでもいいだとか、実の息子に向けるにしては酷すぎる言葉ではないのだろうか。いつも自信がもてず縮こまっていたユヅル。アカデミーを卒業して晴れて下忍となれた途端に、そんな言葉を実の父に言われて、彼はきっとひどく傷ついたはずだ。

「度が過ぎる、だと? 家の六人の子供と家内は、こいつの所為で死によったんじゃ!」

 唾を飛ばして怒鳴るヤジリに、ユヅルは縮こまった。そんなユヅルの肩を摩りながら、マナはヤジリを黙って睨みつける。

「……先生、あの、ほんと、俺自分で書くから」

 泣きそうに顔を真っ赤にしながら、ユヅルは言って、震える文字で書類の上に「いとめユヅル」と署名した。

「出てけ。もう二度と帰ってこんでもええわ!」
「……はい」

 涙を零して、ユヅルは家を飛び出た。その後をハッカが追う。ヤバネは父親を寝かせると、こっちにきな、と合図した。


「ほら。粗茶だけどさ、どうぞ」
「あ、どうも」

 ヤバネはボンネットを脱ぎ長靴を脱ぎ、手袋を取り、お茶をいれてくれた。ぼろぼろの色褪せた茶色っぽい服を着ている。どうやらそれは元は赤だったそうだ。ヤバネ曰く、この服は長女のものだったらしい。

「あたしとユヅルはな、双子なんだ。そんで、あたしが妹。皆信じないけどね。皆あたしのこと姉だと思ってんだよ。ユヅルがあんまりナヨナヨしてる所為かな」

 粗茶とヤバネは言っていたけれど、お茶はとても美味しかった。
 マナもヤバネは姉だと思っていたが、どうやらヤバネの方が妹らしい。唇をひん曲げて、ヤバネは言う。

 いとめ家はとても貧困だった。
 いとめヤジリとその妻いとめユギは従兄妹同士で、それ故周囲にその婚姻が認められることはなかった。雲隠れの生まれだった二人は手を取り合って木の葉隠れの里までやってきたという。忍びというわけではないので彼らが追われることはなかった。駆け落ちをした二人は木の葉隠れの里に足をおろした。
 近親婚ということが影響したのだろうか、いとめ家の子供は皆白い髪に白い肌、赤い目をしていて日に弱かった。
 貧困な家庭であるいとめ家には、新たに生まれた双子であるヤバネとユヅルを養う力はなかった。そして二人は、ユヅルとヤバネのどちらかを、または二人を殺そうとした。
 女であるヤバネが殺されるべきだったのだろうけれど、親はユヅルを殺そうとした。が、叶わなかった。泣きながら我が子の首を絞めたユギは、突然家の中に襲い掛かってきた野良犬に噛み殺されて死んだ。
 ヤジリはユギの死を悲しんで泣き、そしてユヅルを殺すのはやめた。ヤバネを殺すのもやめた。けれどヤジリはユヅルを忌々しく思い、ヤバネを疎ましく思うようになった。

「双子だったからね。もし母ちゃんが死んだのがユヅルの力だったなら、あたしにもその力が宿ってるかもしれないだろ。あたしにはないけど。——あんね、ユヅルは呪いの力を持ってるんだよ」
「……呪い?」

 ユヅルが、頭がよくて羨ましいと言った兄は、三日後に高熱を出して、そのまま死んでしまった。
 ユヅルが、背が高くて羨ましいと言った兄は、二日後に山に出かけて以来帰ってきていない。
 ユヅルが、長い髪が綺麗で羨ましいと言った姉は、一週間後にその髪で自分の首を絞めて死んでいた。
 ユヅルが、力持ちで羨ましいといった兄は、五日後に街に出かけて、馬に踏まれて死んだ。
 ユヅルが、誰にも好かれて綺麗で羨ましいと言った姉は、その日の内に人攫いに攫われて、どこかへ売られてしまった。
 ユヅルが、友達がたくさんいて羨ましいと言った兄は、四日後に友達の一人に殴られて死んでしまった。

「あたしも、すっげえ怖かったんだ、ユヅルがいつあたしのこと羨ましいって言うんじゃないかって。怖くて」

 だから疫病神なのか、とマナは納得した。なるほど、確かに呪いのようだ。
 ——ごめん、これから食べ物とか出来るだけわけるから、アタシのこと羨ましいだなんて言うなよ

「そんでね、八歳ん頃にね。貴方忍びの才能あるんじゃないって言われて、ユヅル、アカデミーに連れてかれたの。父ちゃん、すっげえ喜んでね」

 でもきっとその父が喜んだ理由は、ユヅルがアカデミーに行ったからじゃない。家を離れたからだ。

「だからこうして会うのは、すっげえ久しぶりだよ。でも家のことは、なんも話さない。いったら、羨ましいって言われちゃうかもしれんしね」

 妹のヤバネでさえ、恐れているのだ。六人の姉や兄たちが死ぬきっかけとなったユヅルの言葉を。「羨ましい」という呪文を。
 ちょっとだけ、悲しくなった。


「ユヅル」
「……ん」

 泣き腫らしたユヅルの肩を、ハッカが抱いていた。その髪を撫でて、ヤバネに向かって手を振ると、ヤバネも手を振りかえしてきた。その顔はちょっとだけ寂しそうだった。
 ヤバネに言われたことは——忘れておくことにしよう。心の中で呟いて、マナたちはその村を離れた。


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