二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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NARUTО 木の葉の里の大食い少女
日時: 2012/07/28 22:52
名前: わたあめ (ID: tdVIpBZU)

九尾襲撃以前に餓死した狐者異一族の生き残り、「狐者異マナ」が木の葉にて暴れる話。主に食卓の上で。
アンチ・ハーレム・チートはなしの方向で。

1.荒らし・中傷・パクリにきたという方はバックプリーズ
2.この小説はにじファンにて載せたことがあります
3.原作批判・過度な原作キャラマンセー及びキャラアンチはお断り 
4.残酷な描写が一部に見られます、ご注意を
5.亀☆更☆新

それでもいいというかたはどうぞ

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第一章 純粋すぎるのもまた罪。
 ∟アカデミー編 >>1-5
 ∟班分けと鈴取り編 >>6-11
 ∟巻き物奪還任務編 >>12-20>>28 
 ∟お見舞い編 >>21-27

第二章 呪印という花を君に捧ぐ。
 ∟第一試験編 >>29-33
 ∟第二試験編 >>34-48
 ∟第三試験予選編 >>
 ∟第三試験本戦編 >>

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Re: NARUTО 木の葉の里の大食い少女 ( No.30 )
日時: 2012/07/14 11:37
名前: わたあめ (ID: RMd4mwvD)

 検査という名目のもと、呼ばれたユヅルが帰ってきたその翌日に、中忍試験は開催された。

「いいか、これは俺達の優しさだぜ?」
「ここが三○一であってる……よね」
 
 長い間過ごしてきたアカデミーだ、わからないわけがない。ドアの前には大きな人垣が出来、ドアの前で二人の自分たちより年上らしき少年が通せんぼをしているのだった。

「え? 何? 何が起こってんの?」

 因みに身長が低いマナには人垣に遮られて何も見えないという状況だ。はじめが状況を説明してやると、うわくそうっぜえと溜息をつき、ついで紅丸を頭の上から下ろすと、

「いいか紅丸、テメエあいつらの手にでも足にでもどこにでも喰らいついて来い」
「わん!」

 紅丸は再度マナの頭の上に飛び乗り、ユヅル、はじめとそれぞれの頭の上にジャンプ、そして集う下忍達の頭から頭へと飛び移りつつ、二人の少年へと近づいていった。

「どっちにしろ受からない者を篩にかけて何がわる、っぐ!? な、なんなんだこの犬は!?」

 言いかけた言葉は紅丸に思いっきり噛みつかれたことで発し終えなかった。痛みに顔を顰めながら噛まれた手をぶんぶんさせるそいつに、もう一人の少年が紅丸の顎を開けて友達の手を救おうとする。

「どっちにしろ受からない者を篩にかけて何が悪い、か。——正論だな」
「え?」

 紅丸相手に悪戦苦闘していた二人の前に進み出てきたのは、アカデミーを首席で卒業した少年、うちはサスケだった。嘲るような笑みを浮かべている。

「だが、俺は通してもらおう。そしてこの幻術で出来た結界を、とっとと解いてもらおうか。——俺は三階に用があるんでな」

 周りの反応は三種。
 一つ目は何言ってんだあいつ、とサスケの言葉を理解できない反応だ。大多数がこれである。
 二つ目は、こいつも気付いたのかと、気付いていながら気付いていないふりをしていた一部の下忍のサスケを吟味するような言葉や視線。また、立ち塞がる内一人は顔色を変えてサスケをじっとりと見ている(もう一人は未だ犬と悪戦苦闘中だ)。
 そして、

「え? 幻術? マジ?」
「……そう言えば私達、ハッカ先生以外に幻術タイプがいないな」
「そのハッカ先生の幻術だって見たことないしねえ。あの人基本スピードと体力で忍者やってるから」

 三つ目が九班のような反応だった。対して驚いていないというわけではないし、事態が呑みこめていないというわけでもないが、なんだかんだでマイペースな三人だった。

「サクラ、どうだ。お前なら一番に気付いているはずだ。——お前の分析力と幻術のノウハウは、俺達の班で一番伸びているからな……」
「サスケ君……」

 サクラを振り返って不敵な表情を見せるサスケに、自信なげに俯いていたサクラは僅かに頬を赤くすると、さっきの表情からは一転、自信満々な顔つきになった。

「もちろん、とっくに気付いてるわよ。だってここは、二階じゃない」

 ここは二階。
 そう意識した途端に、ぐわんと世界が歪んだ。プレートが301から201に変わり、おおっと感嘆のどよめきがあがった。

「っ、なかなかやるな! っくそ、離せ!」
「紅丸!」

 だだだっと素早く階段を駆け上っていきつつ紅丸に声をかけるのは言わずもがな九班である。にこにこ笑顔の彼等は相変らずのマイペースで、紅丸は少年の手を離すなり、とんとんとんと下忍達の頭を飛び移って階段へと走っていった。

「……見破っただけじゃあ足りねえんだよ!!」

 さっきまで紅丸に噛まれていた少年が、腹いせのようにサスケに向かって蹴りを飛ばした。

Re: NARUTО 木の葉の里の大食い少女 ( No.31 )
日時: 2012/07/14 11:43
名前: わたあめ (ID: RMd4mwvD)

「ポテチの匂いがするぞおおおお!」

 志願書をぽーんと放り出して301に突入したマナが一直線に向かった先にいたのはチョウジだ。むしゃむしゃとポテチを頬張るチョウジのポテチをずばばばばと一気に口の中に押し込み、一応最後の一枚だけはフリスビーのように投擲してチョウジにパスした。

「うん、チョウジこれマジ美味しいよ」
「わん」

 という紅丸も、マナの頭の上でかりかりとポテチを食べていた。マナの髪が食い滓だらけになるぞ、つーかお前食べていいのかと思わんでもなかったが、ユヅルはあえて突っ込まないことにした。

「……マナ、これはさすがに酷いよ……」

 最後の一枚以外を全部一口で呑み込んだことに対して、ふるふると震えながらチョウジが言う。その傍で、あんたも相変らずよねえ、といのが肩を竦めた。

「んだよめんどくせーな、お前たちも参加すんのかよ」
「そうだな、中忍になったら任務料弾むし、食費も増えるし。そう考えりゃ悪くねーだろ、へへん」

 相変らず脳内は食べ物一色のマナだった。

「……あんた本当に相変らずよねえ。あ、はじめ。この間はじめの妹って子にあったんだけど、それにしても凄くよく似てるわねー」
「…………!」

 はじめの頬が引き攣った。何かにぐさっと刺されたような顔つきだ。それも仕方ない、いのの会ったはじめの妹、というのが化粧を落とし忘れたはじめ本人なのだ。マナが咄嗟にはじめの妹だと詐称したのだが、その後いのに絡まれ大変だったらしい。とりあえず喉仏を見られそうになってひやひやしていたところだったという。
 一緒にいたシカマルかチョウジあたりは、案外もう気付いているのかもしれないが。

「サスケくぅん、おっそーい!」

 ドアから入ってきたサスケに目をきらきらさせながらいのが飛び掛った。ぎゅーっとサスケに思い切り抱きつき、サクラに離れろと怒鳴られている。そんなサクラにいのはあっかんベーの一撃で、サクラの顔が更に引き攣った。
 めんどくせえなあと呟きながら、シカマルと新しいポテチを開封したチョウジは七班の方へと歩いて行き、九班もそれに続いた。

「なんだよ……マナ達だけじゃなくナルトもかよ……」
「……男子と女子、双方のドベ兼ウスラトンカチが揃ったな」

 やあれやれ、と溜息をつくシカマルに、いのに抱きつかれつつジト目のサスケがぼそっと呟いた。

「おいこらサスケェ!! どういう意味だァ!」

 声を荒げてサスケに迫るナルトに、そういう意味だろ、とサスケが溜息をつく。そんなナルトを押しのけて、「聞き捨てならねーぞサスケ!」とマナが怒鳴りつつサスケに迫ってきた。

「アタシはウスラトンカチじゃなくってウシニクトンカツだ!! その方が美味しそうだろ!?」

 空気がフリーズした。

「……あーもー俺この女の子知らないー」
「うしにく? ぎゅうにくの間違いではないか?」
「……勝手にしろ」

 ユヅルがくらっとはじめに寄りかかり、はじめは真剣な顔つきで首を傾げ、ジト目のサスケはあきれ返った表情で真顔のマナを見ている。ウシニク豚カツってどんな豚カツだってばよ、とナルトですら呆れ顔だ。ほんっと、めんどくせえなあ、とシカマルが溜息をついた。

「わん!」

 近づいてきた犬は赤丸だ。紅丸がマナの頭の上から飛び降りて、赤丸とじゃれつき始める。

「やっほー皆さんお揃いで!」

 そしてその後ろから人垣を掻き分けてやってきたのはキバで、その背後にシノとヒナタがいた。よっ、とキバに向かっててを振ると、にやっとしながら彼も振りかえした。シノに笑顔を向けるとシノは途端に顔を青くしてキバの背後に隠れようとする。ヒナタの視線は既にナルトにロックオン、他の奴等なんてアウトオブ眼中といった風情だ。

「わーキバも出るんか」
「おうよ! 紅丸にだけにはぜってー負けねえ、そうだよな、赤丸!?」
「んだと、紅丸、赤丸の目にもの見してやれ!」

 忍犬を持つ者同士、早くも「紅丸が勝つ!」「赤丸が勝つ!」等と賭け始め、サクラといのはサスケを間に挟んで睨みあい、ナルトはケラケラ笑いつつシカマルやユヅルと話しており、そんなナルトを穴が開くほどに見つめているのはヒナタだ。シノとチョウジは両者の足元を通った虫を見つめつつ沈黙に浸り、はじめはぽつーんと突っ立ち、何もすることがないのでどこからか取り出したオレンジの花を毟っていた。

「勝つのは赤丸だ!!」
「紅丸だっつってんだろ!!」
「どきなさいよイノブタ!」
「デコりんちゃんは大人しく引き下がってなさい!」
「……いい加減にしてくれ……」
「シカマルはてっきりめんどくせーって試験パスすると思ってたってばよ」
「うん、シカマルが来てるのは意外だ」
「めんどくせーけど、お袋が行けって言ったんだよ……」
「ナルト君……」
「ねえ、この虫って食べられるの?」
「…………」
「私は女装させられる、させられない、させられる、させられない……」 

 ギャーギャー騒ぎ出したルーキーどもにキレた奴がいたらしい。

「——キミたち、いい加減にしてくれると嬉しいんですけど……ねッ」

 がっと飛び出た顔を包帯で覆った少年が、右腕を大きく振りかぶってルーキー達に殴りかかろうとする。その標的はその中でももっとも大声で騒ぎあっていたキバとマナだ。ルーキー達に苛々していた者は少なくないのだろう、多くの者がその音忍の少年——ドス・キヌタに「いいぞいいぞ! やっちまえ!」などと声援を送っている。

「——っぐ!」

 キバとマナの両者が同時に地面に転がったのは、そのドスの攻撃を受けたからではなかった。隣同士に倒れたキバとマナを庇うようにして立っているのは、白い髪を一本結いにして、眼鏡をかけた若者だった。

「キミ達は本当に騒ぎすぎたと思うよ。これは遠足じゃない。彼等は試験前でピリピリしているんだ、うっかりすると今のように襲い掛かられることがあるんだ……わかったかい?」
「は、はい……」

 倒れたキバとマナや、その他騒いでいたルーキー達が罰の悪そうな顔になる。そんな若者の登場に、ルーキー達が叩きのめされるのを心待ちにしていたギャラリーからはぶーぶー声があがった。

「邪魔しないで欲しいですねえ……」

 ドスが呟くと同時に、その腕を大きく振った。若者がその腕をかわして余裕の笑みを浮かべる。誰もが若者は攻撃を見切ったものと思いこんでいたが、

「っ、ぐ、ぐぇええ……」

 突然顔が血の気を失ったかと思うと、未消化の朝ご飯か昼ごはんだったであろうものを吐き出して、床にぶちまけた。嘔吐物から漂う異臭に紅丸と赤丸は退散し、鼻のよいキバは一瞬顔を顰めるも、驚きの方が大きかったらしい。マナも唖然としてそのような光景を見つめていた。
 彼は確かにドスの一撃を見切ったはずだ。なのになんで吐いたんだろう。鼻元を衣服の袖で押さえつつも、キバがその背を摩ったり、叩いたりした。けほけほと軽く咳きこみながら口内に残っていたものを吐き出し、冷や汗と脂汗を滲ませた顔で僅かに微笑しながら彼は言った。

「ほら、僕の言った通りだろ? ……こうなるんだよ」

 どこか冷たい微笑に、キバとマナの背筋が凍った。


※これで一応にじファンに載せていたものはお引越し完了です。これからはゆっくり亀更新になるかと。

Re: NARUTО 木の葉の里の大食い少女 ( No.32 )
日時: 2012/07/14 22:36
名前: わたあめ (ID: TV0MM72m)

「ちょっと、眼鏡の兄ちゃん! 大丈夫かってばよ!?」

 駆け寄ってきたのはナルトだ。先ほどの冷たい微笑はどこへ行ったのか、弱弱しく微笑みながら彼は言う。

「眼鏡の兄ちゃん、じゃなくて、薬師カブトだ。……大丈夫、ちょっと気持ち悪いけど、胃の中のものは全部吐いてしまったからね、これ以上吐くことはないさ……そう、血を吐くのじゃない限り」
 
 キバとマナを庇ってくれたその青年——カブトを襲った音忍に対して、ナルト達ルーキーは、どうもコイツのことだけは好きになれない、とでもいいそうな顔をした。
 ナルトはキバとマナを庇ってくれたカブトの血の気を失った顔に唇を食いしばり、暫くふるふると震えていた。それを怯えととったのだろうか、サクラがナルトを励まそうとするも——

「——おれの名はっ、うずまきナルトだぁ!! てめーらには負けねえぞ、わかったか!?」

 ばーん! と言わんばかりの大宣言に一瞬試験場が静まり、そしてその試験場はルーキー達に向けられる殺気と共にざわめきを取り戻した。

「……俺もうこの男の子知らないーもうこんなのわけがわからないよ」
「……めんどくせぇ」

 ユヅルがガン、と頭をシカマルの肩にぶつけ、脱力したように声を発した。はあ、とシカマルは溜息をついて口癖を呟く。サクラとサスケがナルトをみてぽっかーんという顔をしている。一瞬で周囲の人間すべてを敵に回すとはさすがだ。

「おいマイナー音忍! 喧嘩なら買ってやるぞ、何の勝負だ!? 早食い? 大食い? それとも——っ?」
「うっさいんだよ女ァ!」
「おいなんだやる気かやってやらァ!」
「わん!」

 ドスの名目上のチームメイト、キン・ツチが踝に届くくらいの長い黒髪をさっと翻してこちらに突進してくる。その手の中で、千本に結わえ付けられた鈴がしゃりんと鳴き声をあげる。更にユヅルが撃沈した。

「静まれどぐされヤローどもが!」

 ばーんっ、と試験官らしき男性が登場したのは、キンとマナプラス紅丸が取っ組み合いを始めたその直後だった。青い顔のカブトと嘔吐物と、取っ組み合う女子二人を数秒間眺めていた彼はどうやら事情を悟ったらしい。呆れた顔でジロリと彼等を睨みつける。

「お、おっさん! 聞いてくれよこの女の子とあっちのミイラ男がヒステリックにアタシと先輩を襲撃したんだってばよ!」
「いや、俺の口癖真似すんじゃねえよきつねものい!」

 試験官を平然とおっさん呼ばわりする彼女の勇気にその他下忍勢の顔が引き攣り、またネジもその顔を引き攣らせた。一方テンテンは頭を抱え、リーはぽかんという顔つきで取っ組み合う少女二人プラス犬一匹を眺めている。

「ああ!? ナルト、てめーの口癖には著作権でもあんのかぁ!?」
「あるってばよ! それは俺のアイデンティティだ——!」
「黙れナルトお前のアイデンティティはラーメンと金髪と猫髭模様とドベとウスラトンカチだろ!!」
「そんなこと言ったらお前のアイデンティティだって大食いとチビスケとドベとギューニクトンカツじゃねえか!!」
「うっせえアタシはウシニクトンカツだ!」

「「……両方ともうっさいんだよ!!」」

 取っ組み合いしつつも騒ぐマナとナルトに、キンが切れて凄まじいビンタをマナの頬に食らわせた。そしてほぼ同時にキレた試験官の拳も、見事にマナの顔に命中した。

「グフッ」

 咄嗟にしゃがんだ下忍勢の上をフライングしていたマナは、仰け反るような姿勢でなんとか着地し、そしてそのまま頭部をゴン! と黒板に勢いよくぶつけるなりばったんと前向きに崩れ落ちた。試験官は気にした風もなく音忍達に警告をし、そしてマナを踏み台に教壇の上に上がった。

「俺の名は森乃イビキ。第一試験の、試験官だ」
「……えッちょッアタシスルー!?」

 ガバっと床から体を起こしたマナには埃ほどの感心も払わずに、イビキは早くも第一試験の試験内容を説明し始めていた。

「一回カンニングにつき二点減点とし……」
「い、いい加減にしてくださいよ!! いくらなんでもひでえっス!」
「何か言ったか? 受験生」

 首根っこを監視員の一人——はがねコテツにつかまれて、マナは黙りこんだ。

「これ以上騒ぐと追い出すぞ」

 そう言ってからコテツは教室内を見回し、空いている席を見つけてマナを放り投げた——つもりだった。しかしそれは幸か不幸か、シノの左隣だったのである。

「ひっふぁああ!?」
「——!!」

 シノの奇壊蟲たちが一斉に警報を上げ始め、思わず右へと後退したシノだが、そこにははじめがいた。だらだらとシノの顔を冷や汗が伝う。

「……!」
「よ、はじめにシノ。二人の近くとかアタシ運がいいなぁ! おっ、苺大福!」

 走ってきた紅丸を受け止めてやると、ぺろっと舐められた。その間にもイビキの説明は進んでいる。

「……ち、チームの合計点……だと……?」

 ろくに説明を聞いていなかったマナの耳に、はじめの呟きが耳に入り込んだ。そちらへ視線を向けると、顔を青くした彼が目を見開いてこちらを見つめている。更に一つの視線を感じて振り返れば、やはり顔を真っ青にしたユヅルが視線をこっちに向けていた。

「……え? どゆこと?」
「……第一試験の合否は、チームの合計点で判定するそうだ」

 更に言えばこの筆記試験は減点式であり、受験生には最初から十点ずつ持ち点が与えられている。筆記試験は全部で十問、各一点ずつという十点満点で、一問間違える事に一点減点される、ということだ。その上チームの合計点で判定とか、男女のドベを持つ七班と九班には正に精神的拷問である。
 それからずらーっと並んだ監視員達は、受験生のカンニングを見張るということで、カンニングやそれに準ずる行為を行った場合は一回につき二点減点となるという。

「じゃー五回も出来んじゃん」
「……む、そう言えばそうだな」
「……」

 左右で納得している同期二人に、シノは黙って配られたテスト用紙を翻す。ペンを持ち上げて端整な文字で「油女シノ」と書き、そして試験官を見上げた。

「では——始めっ!」

 しかしそうなると、シノの右隣に座っている誰かさんの名前を呼ぶことにもなってしまうわけで。

「——はいっ!」

 反射的に答えてからはじめは何故呼ばれたのかに疑問を持ったらしく、数秒間の間じっとイビキを見つめた。因みに他生徒は既に執筆を開始しており、はじめのことなぞただの頭悪い馬鹿男くらいにしか思っていなかったらしい。

「……お前を呼んだ覚えはないが……」

 その一言で教室内の者達ははじめが自分の名前を呼ばれたのだと勘違いしたのだ、ということを知り、一部で笑い声が起こる。自分の失態に気付いたはじめは顔を赤くして、失礼しました、と呟いた。

Re: NARUTО 木の葉の里の大食い少女 ( No.33 )
日時: 2012/07/15 14:25
名前: わたあめ (ID: 9qYqZOsB)


「これは絶望的なルールだ」

 イビキの言葉に、生徒達は固唾をのんだ。
 そして彼が提示した道は二つ。

 一つは、受けない、という道。
「“受けない”を選べば、その時点で持ち点は零となる、つまり失格だ。そして他の二人も道連れ不合格」
 もう一つは、受ける、という道。
「但し、“受ける”を選んで正解しなかった場合、今後の中忍試験の受験資格を永久に剥奪する」

「ンな馬鹿な!」
「ここには何回もここを受験している人だっているはずです!」

 キバが机を叩き、ユヅルが眉根に皺を寄せて叫んだ。彼等に同調した受験生達が野次を飛ばし、しかしイビキは気にした風もなく、クククと不気味な笑い声を零す。

「運が悪いんだよ、お前等は。今年はこの俺がルールだ! その代わり引き返す道も与えているじゃねえか? 自信のない奴は大人しく“受けない”を選んで来年でも再来年でも受験したらいい」
「大丈夫だ、はじめ。第十問だってきっとシノくんが手伝ってくれる」

 低い声で言い渡すイビキに些か動揺したらしいはじめに、ぐっと拳を握り締めてマナが目をきらきら輝かせる。シノは頭を打ち付けたくなってきた。

「受けない奴は手をあげろ」

 そんなイビキの声が静かに教室内に轟く。そして暫くは沈黙の支配していた教室だが、しかし数分後、誰か一人が手をあげた。搾り出されるようなその声に伴って、その少年と仲間二人が連れ出されていく。それを皮切りに、次々と手が上がった。
 受験生が次々と去っていく中、ルーキー達は一向に手を上げる気配を見せない。とりあえず某男子ドベと、自力で問題を解いてしまうサクラやシカマルを除けば全員がカンニングをしており、勘のいい者は既にこの教室内に中忍がもぐりこんでいることに気付いている。そのことに気付かない者も、例えばいのはサクラに心転身し、シカマルは影真似でチョウジを操ったり、マナとはじめは各々のテスト用紙をシノに押し付けたりと、カンニングの方法は見つけている。
 だから十問目もカンニングをすれば正解すると思っているのもあるし、更に言えばそれはこの年特有の危なっかしさであり自信だった。これくらいの年の子供には、何でも出来てしまいそうなそんな自信を持っているのだ。それに根拠なんてものはないけれど、それが彼等の爆発力ではあった。
 不意に、ナルトが手を上げる。ルーキー達が目を瞠った。
 しかしその口から出てきたのは弱気な言葉ではない。その目に宿っていたのは暗く沈んだ色ではない、寧ろ。——寧ろ力強く燃え盛る光だった。

「っなめんじゃ、ねえ——ッ!」

 ばん、と振り上げた手をそのまま机に叩き落す。教室内に響き渡る大音量。入ってきたばかりの時は全てを敵に回した声が、逆に全てを鼓舞する声へと変わる。

「俺は逃げねえぞ、受けてやる! もし一生下忍でも、意地でも火影になってやるってばよ!」

 青い瞳は空よりも青く海よりも明るく煌き、そしてその自信に満ちた光はゆっくりと、今にも手を上げようとしていた受験生達へと伝播していく。皆我知らず唇が緩むのを感じた。
 その指先が、イビキを指差す。

「っ怖くなんか、ねぇぞ!」

 そして受験生達の心は定まった。逃げはしない。十問目を受けてたとう、例え中忍になれずとも、何もそれが終わりを意味するわけではない。イビキがもう一度問いを投げかける。しかしその問いに挙げられる腕はない、かわりにあるのは——

「真っ直ぐ自分の言葉は曲げねえ、それが俺の忍道だ!」

 金髪の少年の、問いに答える明るい声のみだ。その問いがもう意味をなさないと察したイビキは口元に笑みを漂わせる。

「ではここに残った全員に……第一の試験——合格を申し渡す!」

 そしてイビキはこの試験の趣旨を話し、戦場に於いて情報が如何に大切であるかを語った。そして彼が被っていたニット帽を脱ぎ捨てると、火傷や銃創など、痛々しい傷痕の残った頭が目に入る。CかDランクしかやったことのない下忍達はその拷問の痕を見て唾を呑み込んだ。これから自分たちが中忍となって赴くかもしれない戦場で待ち受けている危険を、イビキの言葉よりも何よりもその傷痕が雄弁に語っていた。
 はじめもまたその傷痕に息を呑む。彼も実の姉に傷をつけられてはいるし、それは精神的にも肉体的にもかなりの拷問だが、少なくとも姉は自分を殺す気はないし敵意も抱いてはいない。彼女が抱くのは愛情にしてはあまりに歪んだものだが、少なくとも彼女は殺す気ではないし、一定の時間が経てば解放してもらえる。
 けれどイビキは違う。彼は敵に捕まえられて拷問されたのだろう。一時の休みも許されず、水も食べ物も与えられずに。そして彼はいつ殺されてもおかしくない状況下、情報を吐き出さないように必死で。その恐怖ははじめの想像の及ぶものではない。

「……?」

 イビキの視線がマナに向く。そして彼は微笑を浮かべた。
 生暖かいその微笑に、マナは首を傾げた。

Re: NARUTО 木の葉の里の大食い少女 ( No.34 )
日時: 2012/07/15 23:15
名前: わたあめ (ID: jBG6ii5p)

 森乃イビキは、覚えている。
 狐者異一族のたった一人の生き残りだ。燃え上がる家の中でしきりに泣き声がしていた。当時十六歳だった任務帰りのイビキは、正義感にも似た何かに導かれるままにその屋敷の中へと飛び込んで、そして火が燃え移りはじめた揺り籠の中のその娘を見つけた。その子はイビキを見るなり微笑してみせた。ぱちぱちと爆ぜる火の粉の中、イビキはまるで竹取翁が切り取った竹の中から女童を見つけたのと同じような驚きで彼女を連れて屋敷を飛び出した。走ってそこを離れる途中、家の崩れる音がした。
 ——回想から現実に帰る。先ほど第二試験試験官・みたらしアンコが突入に使った窓は砕け、窓ガラスが地面に散っている。それをせっせと監視員達が片付けていた。イビキはテスト用紙を回収しつつ、既に傾きかけた空を眺める。
 きっと彼等は既に同意書にその名を記して、死の森の中に入ったことだろう。

 イビキって奴が変な奴なら、アンコって女とベロベロ女は変態だ。
 ユヅルは手にした地の巻き物を半ば叩きつけるようにしてホルスターの中に潜り込ませた。今ではユヅルが九班公認の副リーダーとなっている。
 とりあえず現在一番にやるべきことは作戦の組み立てだ。ユヅルは口を開いた。

「先ず——正直いってこの第二試験は俺らにとってもっとも不利な試験だ」

 先ずは第三班。体術に優れ、尚且つあのガイに毎日付き合っている彼らはスタミナの点でもかなりの優勢がある。ネジの白眼で誰がどんな巻き物を持っているのか判別することが出来るし、テンテンの暗器の狙いは正確で、リーのスピードについていける下忍はそうそう少ないだろう。いってみれば今一番遭いたくない班だ。

 次に第七班。アカデミー首席のサスケの天才肌は周知の事実、この年で既に火遁を使いこなしている。ナルトもあんな野郎だが、スタミナだけはよかったのを覚えている。体術が全くだめだめなサクラも頭はいいし、次席とドベと、その構成は極端ではあるもののある意味バランスが取れている。

 更に第八班。こちらは感知タイプで固めてある。キバの嗅覚、シノの蟲にヒナタの白眼と、このような巻き物争奪戦においてはあまり出会いたくないような相手だ。赤丸は臭いで敵の強さを判断したり、キバとのコンビネーションもいい。シノは頭脳戦も得意な上に様々な蟲を操り、ヒナタはネジに同じく、巻き物の判別が可能である。

 そして第十班は情報戦を得意とするものだ。チョウジを除き個々の戦闘力は高くはないが、そのチームワークはルーキー達の中でも群を抜いているし、白眼などがなくても彼等は情報戦で相手の巻き物が何かを探りあてることが出来る。チョウジの肉弾戦車、シカマルの影真似、いのの心転身——いずれも食らうのはご遠慮したい技である。

 で、第九班といえば。
 サバイバル生活には一番適していないブラックホール胃の持ち主、女子ドベ狐者異マナ、アカデミー次席でありながら色々抜けているはじめ、それに犬神暴走の可能性と傀儡すらないのにチャクラ糸しかないユヅル、そして赤丸のように自分の言葉を解してくれる人のいない紅丸だ。ブラックホール胃の持ち主がいる以上、ここは出来るだけ迅速に巻き物を奪って塔にたどり着いたほうがいいだろう。
 そこまで考えた時、何かが傍を過ぎった。クズリだ。マナがそちらへ視線を向け、はじめが口を開いた。

「塔付近で巻き物を持ってきた奴等を襲うというのもアリだが、私的には余りそれを薦めないな。——初日で既に塔にたどり着けるような奴はかなり実力があるやつか、出なければ手口の巧妙な奴かのそのどちらかだ。手口の巧妙な奴らは、つまり実力と頭を使っているわけだから、そのマンセル内に頭脳派がいるだろう。頭のいい奴なら塔の付近での待ち伏せなど考慮済みだろうし、巻き物は考えているだけで手に入るものじゃない。素晴らしい作戦を考え付いたとて実行出来るだけの実力がなければいけない、違うか?」
「なるほどね。そして実力のある奴については論外だな——初日で突破できる実力派に俺達が太刀打ちできるとは思えないね。基本的に俺達の中で一番攻撃力があるのははじめだけど、リーさんほどじゃないし、それ以外は大して攻撃力がないでしょう? それに俺達って元々こんなサバイバル演習や長期戦には向いてないんだよね。ほらマナ、五日間も食べ物を得るのが難しいなんて状態、我慢できる?」

 交互に説明するはじめとユヅルの話を黙って聞いていたマナの顔が、ユヅルの最後の一言を聞くなり真面目な顔から絶望的な顔になる。

「無理。ぜってぇ無理。……まあミント野郎からして長期戦には向かないタイプだろうな。スピード重視の奴だし。……まあ、となるとアタシに作戦があるんだけど、聞く気ねえか?」

 マナの作戦? と二人が驚いたように顔を見合わせる。紅丸が不安そうな顔をした。

「ああ。心して聞けよ」


 大樹によって日光の遮られた森の中を、下忍達が歩いていた。

「ったく、地の巻き物持ってる奴、みつかんねぇなあ……。ウツツ、地の巻き物の臭いとか嗅げねえのかよ?」
「お前、ウツツもそういうのは嗅げないってさっきも言ってたろ? ま、ウツツに任せとけって。ウツツの感知能力は同期でも一番だしな!」
「褒めすぎよ。あたくしは本当に、地の巻き物の臭いなんてわからないんだもの」

 ウツツ、と呼ばれた少女は長い髪を翻して言った。どうやらウツツがリーダー格のようである。彼女たちが天の巻き物を持っているということは、偵察に出向かせていた紅丸が持ち帰った情報だ。といってもマナは紅丸の言葉を解することは出来ないので、「天の巻き物かYESorNO」と質問していたのだが。

「感知能力は同期でも一番っつーか、同期に感知タイプがいなかっただけだろ」

 ぼそっとマナは呟く。会話から察するに、ウツツは嗅覚型の感知タイプだ。嗅覚型の欠点は臭いを撹乱されたり水の中に入られたり、風下にいるとその臭いを嗅げないということで、マナたちは風下に潜んでいた。
 食遁の印を結ぶ。唾を口内にため、チャクラを練りこみ口内を唾で満たしていく。蛙のように膨らんだマナの顔は正直ギャグでしかない。紅丸に合図を出すと、マナに変化した紅丸はこくんと頷いた。
 唾液弾が放たれ、ウツツの傍で歩いていた少年の——ウツツを賞賛した少年のホルスターに直撃した。その一撃でホルスターは中身もろともどろどろに溶解する。

「っう、うわああああ!」
「っな、なんだ!? ホルスターが、溶けた……!?」
「あたくしにもわからなかった存在——つまり風下。そして、撃ちだされた方向は——っ」

 ウツツがこちらに視線を向ける。そしてすかさずマナに変化した紅丸が飛び出した。
 その強烈な臭いに、ウツツは一瞬顔を顰める。その臭いを嗅いだのはウツツだけではない、仲間の二人もだ。

「クズリの、糞……ッ」

 鼻を洗濯バサミで挟んだ紅丸がその身に擦り付けていたのは、クズリの糞だった。クズリの糞はかなり強烈な臭いを発する。一般人にとっても辛い臭いなのだから、嗅覚型のウツツには更に耐え難いはずだ。そして風上に移動した紅丸の体についたクズリの糞の臭いに気をとられたウツツは、三人が風下から飛び出てもそれに気付くことはない。
 ユヅルのチャクラ糸が三人を縛り付ける。はじめがウツツに駆け寄って、そのホルスターの中身から天の巻き物を取り出した。が、その瞬間。

「くそぉ……ってんめえ……!」

 声をあげたのは先ほどウツツに地の巻き物の臭いを嗅げないかどうか問うた少年だ。

「まずい、はじめ!」

 ウツツともう一人の少年と共に縛り付けられているのは一本の丸太。つまり変わり身の術というわけだ。はじめの水車輪を回避し、槍を口寄せしてはじめに襲い掛かる。

「唾液弾——!」

 しかしマナの唾液弾がべしゃりとその槍に命中し、少年は溶解しはじめた槍を遠くに投げる。そして幻術の印を組んだ。はじめの顔がハッとしたかと思いきや、はじめは苦しそうに顔を歪めて、見えない誰かに許しを乞う。その相手が彼の姉だと想像するのは容易い。

「はじめっ!」

 ユヅルはウツツたちを縛るチャクラ糸を右手だけで操り、左手のチャクラ糸をはじめとその手が握る天の巻き物に繋ぐ。少年が天の巻き物に近づけないよう、マナが唾液弾を放った。
 チャクラ糸を通じてチャクラを流し込むと、現実のチャクラの感覚に幻術から放たれたはじめが、ユヅルのチャクラ糸の力に沿って後ろへと跳ねる。

「三十六計逃げるに如かず——!!」
「っ、ヤバス!」

 マナの叫び声にはじめが起爆札を発動させる掛け声(と本人はマナの誤植によりそう思っている)をあげ、それに呼応するようにして起爆札が爆発した。
 それと同時に、ユヅルの爆笑も響いた。


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