二次創作小説(紙ほか)
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- 【DQ短編集】世界から勇者が消えた日
- 日時: 2017/05/20 23:49
- 名前: 夏目 織 ◆wXeoWvpbbM (ID: tOQn8xnp)
- プロフ: http://uranai.nosv.org/u.php/novel/NatumeOri1/
ーー勇 者 が あ な た で 良 か っ た 。
* *
初めましての方は初めまして、夏目と申します。
Twitterの方でもらったネタやお題をちょっとだけアレンジしたりしなかったり、お題サイトで見つけたお題を元に書いたりしてます。このCPでこんなの書いてほしい!こんな設定の読みたい!等あればお気軽に!というかください!
1~9の短編がごちゃ混ぜです。主人公クラスタなので主人公同士の話も勿論あります。
主人公の名前は公式名です(女9主は例外)。その他偽造設定などあります。何でも許せる方のみどうぞ。
URLは占いツクールにて執筆しているDQ主人公ズ闇堕ち小説です。そちらも是非!
最低限、カキコのマナーは守ってください。
* T w i t t e r ・ ・ @DQOri0323
* C o n t e n t s ・ ・ >>002
* G u e s t ・ ・ ベル 様
* S p e c i a l t h a n k s ・ ・ 上瀬冬菜 様 三森電池 様 Garnet 様 Twitterのフォロワー 様
- Re: 【DQ短編集】世界から勇者が消えた日 ( No.19 )
- 日時: 2017/05/26 19:32
- 名前: 夏目 織 ◆wXeoWvpbbM (ID: ejIoRkVP)
DQ3.8
【 彼の"伝説"の第零章 】
——かつて、大国アリアハンに、ひとりの英雄がいた。 偉大なる勇者、オルテガである
彼はとても勇敢で、世界の平和を取り戻すためたった一人で魔王に立ち向かいましたが、その戦いの末火山の火口に落ち命を落としてしまいました。
そして月日が流れ、嘆き悲しむ人々を救おうとオルテガの息子が16歳の誕生日を基にアリアハンを旅立ちます。
——仲間と共に冒険に出た青年でしたが、やがて彼もまた父親のオルテガと同じくアリアハンに戻ることはありませんでした。
彼は大魔王を倒し世界の平和を取り戻しました。しかし、世界は彼を元の世界には返してくれませんでした。
そんな彼は後にロトの勇者と呼ばれ、彼らの冒険は伝説へと変わっていきます。
——平和な世界アレフガルドが再び闇に包まれたとき、ロトの子孫は立ち上がるのです。
精霊ルビスの加護を受け、再び光を取り戻すため。
そんな彼らを人々はこう呼びました。勇気あるもの——勇者と。
* * *
「面白かったわ。ねぇエイト、この続きはないの?」
すっかり春の花が咲き誇ったトロデーン城の裏庭で、今僕らが読んでいたのは、遥か昔の勇者の話。分厚く金色の装飾が施されたその本は、昔からお城にあり幼い頃もたくさん読んだ記憶がある。僕もこんな人になりたい、何て思っていたっけ。
「続き——確か、竜の王に立ち向かう話があったはず。探してみましょうか」
この話の続きは、確か平和になったアレフガルドが再び闇に包まれてロトの子孫が一人で竜の王に立ち向かい拐われた姫を救いだす話、だった気がする。
幼い頃ここで姫様と過ごした日々を思い出しながら、僕は膝に置かれた本を閉じた。裏表紙には何かの紋章が描かれている。
「そうね。——あっ、でもごめんなさい。今日は少し用事があって……また誘ってくれる?」
「もちろんです。では、またの機会に」
せっかくの機会だったのだが、姫様の用事あるのなら仕方がない。裏庭から城内へ戻り、姫様は王室へ、僕は本を返すため書物庫へと足を向けた。
「あ、あった」
古ぼけた本が並ぶ書物庫で、一人呟きながらロト伝説について記された本を探す。諸説はたくさんあり、どれが本当なのかは勇者ロトにでも会わない限り分からない。僕はその中でも銀色の装飾が施された、今さっき読んでいた本と似た感じがする物を手に取った。その本はあまり開かれていないのかページの端が黄ばみ、ところどころ茶色い汚れもついていた。先程の本も読まれていなかった筈なのに、この本だけ他の本よりも酷く汚れているように感じた。
書く時期が違ったのかな——何て思いながら本棚から離れ、机の上でその本を開く。乾いた音がして表紙をめくると、そこには一列、文字が書いてあった。読めないけれどきっと、昔習ったルーン文字というやつだろう。最後にローマ数字でⅠと書かれたそのページをめくり、僕は早速そこに書いてある文字を目で追った。
『 ——古のアレフガルドは閉ざされた闇の地、絶望が支配する国であった。
伝説の勇者ロトが、神より授かりし光の玉をもって闇の魔王を倒し、邪悪な魔物を大地に封印した。
このときより、永き平和がこの地に訪れたという。』
最初のページはこんなことが記されていた。先程読んだ本の続きはまさにこれのことだろう。
持ち帰ろうと本をかかえたとき、ある一冊の本が目に止まった。金と銀の装飾が施された、今持っている本と似た感じのするものが机の端に置いてあったのだ。
姫様は此処には寄らないし、一体僕以外の誰が此処に来てこの本を読んだのだろうか。表紙に記された紋章を見て、思わず持っている本と見比べる。間違いない、これは確かにロトの紋章だ。
ロト伝説について記された別の本だろうか? しかし、他の本に比べて妙に綺麗だ。まるでつい昨日、書かれたかのように。
この伝説は遥か昔のことで、それについて記された本はたくさんあるのだから今更書く必要もない。きれいな表紙をめくるとそこにはまたルーン文字が書いてあり、最後にローマ数字で今度はⅡと書かれていた。
息を呑み、持ってる本を机に置くとページをめくる。そこには同じような書体でこう記されていた。
『 ——古の昔、ロトの伝説あり。
ロトの血を引きし若者、暗闇の支配者・竜王を倒し、 アレフガルドを救う。 その若者、ローラ姫なる女性を連れ、この地に来たる。
この2人こそ、ローレシアをつくりたる者なり——。
——これは、ここローレシアの国に古くから伝わる言い伝えです。
ローラ姫はその後、3人の子供をもうけ、兄王子には、ここローレシアを。 弟王子には、サマルトリアの地を。 妹王女には、ムーンブルクの地を与えました。
——こうして、ロトの血筋に結ばれた、3つの国には、100年の平和が続いたのでした。』
……驚いた。ロト伝説にはまだ続きがあったなんて。
ついでにこの本も持っていくことにしよう。きっと姫様が喜ぶはずだ。そう思い本を二冊抱えて書物庫を出る。
自室について机の上に本を置き、ふと窓の外を眺める。
もうすでに暗くなっていて、まるで闇の世界みたいだな——何て思いながら僕はベッドに移るとそのまま深い眠りについた。
*
翌日、僕は目を覚ましいつも通り身支度を済ませると、昨日書物庫から持ってきておいた本を二冊手に取りいつもの裏庭へ向かった。
風が心地よく、姫様が来るまでの時間僕は銀色の装飾が施された本を手に取る。ロト伝説の二番目の話、ロトの子孫が竜の王に立ち向かう話だ。
「……アレフガルド……?」
昨日の本にも出てきていたこの地名。同じという辺り、どうやら本当に数百年後の話のようだ。
ルーン文字は習っていたけれどもうとうに昔のことだ。復習をしないまま年月が流れてしまったのでもう読むことはできない。だけど、僕でも読める字で書かれたページを見つけてすぐに目で追った。
食い入るように、僕は本の内容に釘付けになった。再び闇に包まれたアレフガルドをロトの子孫が救う、そして囚われた姫をも救うと言う何かの物語のような感じの話に、僕は今にでもこの世界に入り込みそうになっていった。
——勇者ロトはアレルという名前らしい。真っ赤なマントを身にまとい、青い宝石がついた金色のサークレットをつけている。本に描かれている肖像画を見ると、いかにも勇者、と言った感じだった。その子孫——今回の話の主人公は青色の鎧を装備しており、真っ赤なマントがよく似合う。囚われたラダトームの姫君は黄色のドレスでいかにもお姫様、と言った感じだ。
——ガサガサッ
ふと、何か葉の擦れる音がした。姫様が来たのかと思ったけれど彼女はこんな音を出してまで無理矢理入っては来ない。第一、裏庭とは言えきちんと出入り口は用意してある。葉の間から来るなんて、猫か何かの動物だろう。
「……あれ、8番目」
——気を取り直して本に目を向けたその瞬間、後ろから男性の声が聞こえた。驚きながらも振り向くとそこには、先程本で見たばかりのロトの勇者——アレルが立っていた。僕のことを指差す伝説の勇者を呼び捨てにしてもいいのかと思うけど、年齢は僕の方が上だし——何て下らない理由をつけて良しとしよう。
「8番目? その、ロトの勇者がここに何か用が?」
何が8番目なのだろう。そしてなぜ彼がここトロデーン城に、しかも裏庭にいるのだろう。時代だって世界だって違うはずなのに。
「……君はまだ知らないのか」
アレルはそう言い、白い歯を出し笑いながら軽くジャンプし植木を飛び越える。僕は本を閉じて置くと立ち上がり、アレルの方に歩み寄った。金色のサークレットに青い宝石、正義の色をした真っ赤なマント。やっぱり彼こそが伝説の勇者で間違いなかった。
「いつかこの先、君にとって嫌になること、生きたくなくなることが起こるかもしれない。——いや、実際起きるんだけど……」
僕の問いに、アレルはゆっくりとたどたどしい言葉で答える。彼が何を言っているのか、さっぱりわからない。実際起こる、なんて彼は予言者なのだろうか。
未だポカンとしているであろう僕の顔を見つめながら、アレルは再び口を開く。サークレットの宝石が太陽の光に反射し、美しく輝いていた。
「そんなことがあっても挫けないでほしい。決して世界を終わらすな。滅ぼすな。必ず救い出せ」
青が混じった黒色の真っ直ぐな瞳をした勇者は、命令口調でそう僕に言い聞かせた。一体これからこの世界に何が起こるのだろうか。世界を滅ぼす? 必ず救え?
全く理解が出来ないまま立ち尽くさしていると、勢い良く風が吹いた。砂埃が舞い、目を手で被うと——目の前から勇者の姿は消えていた。この風は彼が巻き起こしたものなのか、なんて思いながら足元に置かれた本に視線を移す。いつのまにかページが捲れ、そこには伝説の勇者アレルの肖像画が描かれていた。
僕に不思議な伝言を残した彼は、やっぱり伝説の勇者だった。世界が違えど、勇者には僕に会いに来るのは簡単だったのかもしれない。
——それからしばらくして、アレルの言っていた通り僕に思いがけない出来事が起こる。それでも挫けず戦い続け、いつかこの世界を救おうじゃないか。新たなる伝説を造り出すために。
- Re: 【DQ短編集】世界から勇者が消えた日 ( No.20 )
- 日時: 2017/05/20 23:53
- 名前: 夏目 織 ◆wXeoWvpbbM (ID: tOQn8xnp)
DQ6*主バ
【 ずっと忘れない 】
——あたしはみんなのこと絶対に忘れないよ。
* *
あれから何日経ったのだろうか。大魔王を倒して、世界を救った。それで終わりでいいのに。どうして彼女を失わなければならないのだろうか。
世界を救うのに犠牲を払う必要があるか? ——否、有るわけがない。彼女がいたからここまでこれた。共に冒険して、やっとここまで来たのに——この先共に生きることは許されないのだろうか?
「レック、さっきからボーッとしてるけど大丈夫?」
そんな俺を心配して、仲間のミレーユが声をかけてくれた。彼女の瞳にもまだ悲しみが宿っている。それでも彼女は仲間のために、頑張ろうとしてるのだ。俺は何て情けないのだろう。このパーティのリーダーなのに。本来ならばこんなときこそ仲間を引っ張らなければならないのに。
「……あぁ、ごめん。部屋に戻ることにするよ。おやすみ」
「あまり無理はしないでね。テリーたちも心配してたわよ。おやすみなさい」
俯きながら俺はミレーユの横を通り過ぎ、自分の部屋へと足を向ける。
ミレーユの様に俺も強くならなきゃ——何てことは思うけど、実際そんなに上手くはいかなかった。ミレーユはいつも落ち着いてて、どんなときも冷静で、それでもその判断は正しくていつも結果へ導いてくれる。俺がそんな彼女みたいになれるわけがない。ずっとずっと憧れのままだ。
部屋に戻り電気をつけて、直ぐにベッドに横になった。消えてしまった彼女——バーバラのことを考える。彼女は今何をしているのだろう。
「……っ」
バーバラとの想い出を思い出していると、頬を冷たいなにかが伝った。それが涙だとわかる頃にはもう枕が少し湿っていて、どんどんと溢れ出てきた。
涙を手で拭うけれど、その勢いは止まらない。会いたい。バーバラに会いたい。その一心で俺はベッドから身を起こし外へと駆けた。俺の名前を呼ぶ仲間の声が聞こえるけど、聞く耳持たずにバーバラのことを考える。
——レック、早くおいでよ。
ふと、バーバラの声が聞こえるような感じがした。もちろん辺りを見回したって彼女はいない。それでも、あの明るい声はまだ耳に残っている。
「バーバラ」
暗闇の夜空へ向かって、彼女の名を呼ぶ。空は星が散りばめられていて、昔旅の途中にバーバラと見たな、何て思いながら俺はもう一度呟いた。——戻ってこいよ、と。
思い出の場所に行けば、彼女がいるような気がする。俺の名を呼んでいるような気がする。でもそれは、全部俺の想像に過ぎなかった。彼女はもういない。絶対に忘れないなんて言ってくれたけれど彼女はどこにいるのだろうか。
こんな風になるなら世界なんか救わなきゃよかった。何度そう思ったことか。彼女を失うくらいなら、大魔王なんて倒さなかった。世界なんか見棄ててた。
*
翌日、俺はあまり眠れないままベッドから身を起こし部屋を出た。あれから部屋に戻って寝ようとしたけれど、どうしてもバーバラのことを考えてしまって眠ることは出来なかったのだ。
「……お前、寝てねぇだろ」
部屋から出たとき、向かいの部屋から出てきたテリーとちょうど目が合った。寝てないことを見透かされて、思わず気まずくなる。一回部屋に戻ろうと扉を閉めようとしたが、それはテリーの手によって遮られた。
「いつまでもうだうだしてて、バーバラが喜ぶか? あいつの分まで頑張るって決めたんだろ?」
——あぁそうだ。テリーの言うことはもっともだった。
彼女が消え去ったあの日の夜、俺は彼女の分まで強くなると決めたんだ。そんなことも忘れてしまったのか。
「お前の気持ちは良く分かる。だけど、今するべきことを考えろよ」
今するべきこと——テリーの言葉を考えて、俺は小さく口を開いた。
「……ごめん。バーバラの分まで頑張るよ」
これが質問の答えになっているかはわからない。だけど、今俺がするべきことはこれしかなかった。どこかで見てるかもしれない彼女を安心させるため、俺は強くなり、頑張らなくてはならない。
「姉さんからお前の様子を聞いてさ、俺も考えたんだ。だけどもうあいつは帰ってこない。でもきっとどこかで元気にやってる」
扉から手を離し、テリーは微笑みながら視線を俺へ向けた。切れ長の瞳が優しく感じ、扉が音を立ててゆっくりと閉まっていく。俺は腕をテリーに引っ張られて、気づけば残りのパーティメンバーがいる場所に連れていかれていた。
ミレーユが作ってくれて朝食のパンケーキを食べて、持ち物を確認して俺たちは宿屋を出る。道具屋で薬草を買おうとして、俺は再びバーバラがいないことを実感した。——どうして彼女の分も買ってしまうのだろう。一人分多く買ってしまった薬草は袋の中へ入れて、街を出る。朝日が眩しくてまた長い一日が始まると感じた。
- Re: 【DQ短編集】世界から勇者が消えた日 ( No.21 )
- 日時: 2017/05/29 16:09
- 名前: 夏目 織 ◆wXeoWvpbbM (ID: xElOy2eq)
DQ1~11
【 そして伝説へ 】
——あなたたちの物語が、この先ずっと、語り継がれていきますように。
*
「勇者は君だけじゃない」
いつか彼はそう言った。世界を救いに行くのは自分だけじゃない、仲間がいると。どんなに手強い魔王でも、仲間と共に戦えば必ず世界の平和を取り戻すことが出来ると。
だから僕はどんなときでも仲間を信じて生きてきた。悪魔の子と呼ばれたって、僕には彼らがいたから乗り越えられた。
「11番目。お前は知っているか?」
目の前の彼は真っ赤なマントを風になびかせながらそう口を開いた。確か名前は……アレルだ。伝説の、ロトの勇者。闇に包まれたアレフガルドを救い出した。
彼の問いに、僕は肯定も否定も出来なかった。知っているとは何のことだろう。この世界のこと? それとも自分自身のことか?
どっちにせよ、僕が知っていることは少なすぎる。いつか誰かが言っていた、見渡す限りの世界があると。それだけ世界は広くても、僕が生きてきた世界は狭いのだ。
「勇者ってさ、勇気ある者の事を言うんだよ」
刹那、心臓が波打った気がした。勇者と言う言葉を聞いて思わず冷や汗が垂れる。微笑むアレルに視線を移すが、きっと僕の表情は固いままだろう。
——勇気ある者を人は勇者と呼ぶ。昔どこかで聞いた気がした。それでもその時の僕は、そんなの当然だと思っていたんだ。勇者なら勇気があって当たり前。みんなの期待に応えて当たり前。世界を救って当たり前。でもそれが違うことは、今の僕なら充分わかる。勇者だって時に目的を見失ったり、希望を無くしたり、期待に応えられないときだってある。世界を救うことを諦めたことなんて何度あるか。
それでもやっぱり僕はこの世界が大好きで、挫けても救おうと思った。仲間と共に冒険して、世界の平和を取り戻して家路に就く。それが僕の使命だと思っていたからだ。伝説の勇者の生まれ変わりの、僕がすることだと。
「どんな結果になっても誰もお前を責めたりしない。次は一緒に世界を救わないか?」
勇者アレルのサークレットが光輝いた気がした。戦いの末ボロボロになったであろうその装備たちはどんなときも彼と共にいた。それでも今は輝きを取り戻している。それは、世界が勇者を信じたからか。それとも勇者が世界を信じたからか。
「きっとみんなも待っている」
——みんな。それは誰の事を指すのか分からない。だけど、なぜかその彼らと共に世界を救わなければいけない気がした。仲間ではない、別の誰かと。
勇者アレルの方に一歩踏み出す。こんな僕がまた世界を救えるのだろうか。それでも、救いたい。この世界の平和を取り戻したい。勇者、と呼ばれたい。
「……もちろんだ」
そんな思いを胸に僕は小さく口を開いた。僕も伝説の勇者と共に世界を救えるのか。そう考えるだけで気持ちが高まる。彼が言っていたみんなとは誰のことだろう。早く彼らに会いたい。
「それじゃあ行こうか」
勇者アレルがそう言い手を伸ばす。その手を握り、僕は彼の横隣に立ち歩き始める。待っているであろう彼らの元へ。
世界を救うのだから、きっと彼らも勇者なのだろう。勇気ある者がこの世界にそんなにいたなんて。正直、僕なんかが世界を救っても意味無いんじゃないかと思ってしまう。だけど、きっと僕は世界に選ばれたんだ。勇者として、この世界を救うために。
「ほら、勇者は一人じゃないだろう? 世界はたくさんの勇者を選んだんだ」
勇者アレルはひとつの物語を思い出すかのように口を開いた。彼の目の前には想像通り、勇者たちが立っている。計8人の勇者たちはこの闇の世界を恐れようともしない。その偉大さに、思わず目を見開いた。
「さぁ世界を救いに行こうか」
アレルが、僕を含めた9人にそう問い掛ける。勇者たちはそれに答えるように頷いたり微笑んだり。
——11番目、お前もこっちへ来いよ。
ふと、勇者たち中から声が聞こえた。その声を頼りに僕は彼らの横に立った。きっと何度も世界を救ったであろう彼らの隣に立つ権利は僕にあるのだろうか。そんな不安を抱きながら小さく呼吸を繰り返す。
「俺らが世界を変えるんだ」
——勇者よ、目覚めなさい。
どこかで、いや、遠い昔に聞き覚えがある声が脳内に響く。この声はどこで聞いたものだろう。思い出そうとするが、やっぱり思い出すことはできなかった。
この声の正体は、ここにいる勇者たちなら知っているだろうか。もしかしたら知っているかもしれない。何故なら、この声の主は勇者に関係のある人物だと思うから。
そんな曖昧な感じだけど、僕は声の主の情報を一切知らない。声を聞いたのは実際今は初めてかもしれない。だけど、きっとどこかで聞いたことがあるはずなんだ。
何かの物語でも何でもいい。その物語が今も語り継がれているなら、きっと声の主は分かるから。勇者に関係のある彼女の声が。
——すべては精霊の導きのままに……。
再び声が聞こえた。精霊……あぁそうだ思い出した。彼女の名前はルビスだった。きっとどこか、夢の中かどこかで彼女の情報を聞いたのだろう。大地の精霊ルビス様はたくさんの冒険者の旅の支えになったという。今度は僕の番なのか。
僕の番じゃなくてもいい。きっとルビス様は僕らの事を見守ってくれているから。
だから僕は彼らと一緒に世界を造っていく。新しい伝説の始まりだ。これから始まる冒険が、この先ずっと残りますように。
***
本日5/27でドラゴンクエストは31周年。本当におめでとうございます!
ドラクエがあったから今の私がいる。今小説を書けるのだって、何もかもドラクエのおかげです、ありがとう。
最初に1~11と書いていたのにメインはやっぱり311。ただの私の趣味です、ごめんなさい。でも3主は本当に一番の勇者だと思うの。彼が居なかったらロトの伝説は始まらなかったから。
お祝いだから、ハッピーエンドにしてみました。私が書く主人公ズの小説ってほとんど闇堕ちだから新鮮だったな。いつもは世界を救うとか言って救わなかったからね。でも今回は違う。ルビス様に導かれたんだから救わないといけないよね(※捏造)。
設定からして似ている311、この二人の絡みが本当に大好き。他にも似ているところがあるのかな。わからない部分は捏造しちゃえ。
……話がそれましたが、本当にドラクエ31周年おめでとう。素敵な冒険をありがとう。彼らの物語がこの先もずっと続きますように。これからも大好きです。
- Re: 【DQ短編集】世界から勇者が消えた日 ( No.22 )
- 日時: 2017/05/31 20:58
- 名前: 夏目 織 ◆wXeoWvpbbM (ID: xElOy2eq)
DQ3
【 ひとつの終わりと始まりと 】
——俺は世界で一番、自分を信じてるよ。だって確信できるじゃん。最後は裏切らないって。
*
世界が闇に包まれて、勇者と共に世界を救うと決めた者たちだけがこのアリアハンの酒場に集まっていた。
そのなかには私と、昔からの友人のレイとリリーも含まれている。
「——お前らが一緒に旅してくれるのか?」
背後から声が聞こえ、振り返るとそこには真っ赤なマントを身に纏った一人の青年が立っていた。——見たところ私たちと同い年だろう。きっと勇者であろう彼は、空いている私の隣の席に腰を下ろした。
「あぁ。俺はレイ。こっちはリリーで隣はティナ。よろしくな」
「よろしくね!」
「よろしく……お願いします」
レイとリリーに続いて、私も小さく頭を下げる。現在の職業はレイは盗賊、リリーは商人、私は僧侶なのでこのパーティなら戦闘で困らないかな……。
勇者の青年の名前は、確かアレルって言ったっけ。ルイーダさんに言われた彼の情報を思い出しながら、私は隣に腰かけているその彼に体を向けた。
「私、あんまり戦うの得意じゃないんだけど大丈夫……?」
「全然平気。……えーっと、ティナ? だっけ? その分回復は任せたからな」
不安を声に出すと、彼は白い歯を見せながらニカッと笑うので自然と私の不安も無くなっていくような気がした。世界を救うとなればたくさんの魔物と戦わなければならない。今まで、レイとリリーと少し旅をしてきた分とは比べ物になんかならないと思う。それでも、アレルに言われた通り私にもできることがあるんだ——私は頷き、小さく返事をした。
*
「じゃあまずはレーベの村を目指すか。準備は良いか?」
青空の下真っ赤なマントが風になびく。彼の声に私たちは頷くと早速アリアハンから一歩踏み出した。
北にあるレーベの村を目指して、私たちは歩き続ける。まだ装備も完全ではないから、途中たくさんの魔物に行く手を阻まれたりした。だけど——もっと、強くならなきゃ。魔王を倒して世界を救うため。こんなところで挫けてはいけない。
しばらく歩くと目的のレーベの村が見えてきた。魔物から得たり、リリーが拾ったりしたゴールドで出来る限りの武具や薬草などの道具を買っていく。
——そして、次はアリアハンの西にある岬の洞窟を目指して私たちは再び歩き始めた。
*
——時は流れ、あっという間に最終決戦。あの真っ赤なマントを羽織る勇者は先頭に立ち、いつでも私たちのことを引っ張ってくれた。挫けそうになったって、彼だけは諦めなかった。
「アレルはすごいね。いつでも自分を信じてきて」
静かな城内に私の声が響き渡る。あまり魔物の気配がしない場所でアレルは立ち止まり、ゆっくりと口を開いた。
「そりゃあ、俺だって自分を嫌いになることだってあるよ。でもさ、分かるんだよ。俺は世界を救うって。最後は絶対裏切らないって」
「……どうして自分が救うって分かるの?」
アレルの答えに、私はすぐにもう一つの質問をした。アレルの言うことは十分わかる。だけど、どうして自分が世界を救うって分かるのだろう。どうして裏切らないって分かるのだろう。最後の最後で挫けたりするかもしれないのに。
「……世界が俺を選んだからかな」
青が混じった瞳を輝かせながら、彼は口を開いた。希望に満ち溢れた彼ならば、そんなことは簡単に分かるのかもしれない。自分は世界に選ばれたんだって。
——ついに来たな、とレイの声が聞こえる。視線をその方向へ移すとそこには私たちが倒すべく闇の魔王が待ち構えていた。その威厳さに、思わず足がすくむ。地面に張り付いたように動かない。頭が真っ白になるのを感じて思わずアレルのマントに手をかけた。でもだめだ。心配をかけちゃいけない。すぐそこに敵が待ち構えているのに。
「……ごめん。行こう」
深く息を吸って、吐いて、呼吸を整える。私もしっかりしなくちゃ。自分を信じないといけない。
「世界から光を取り戻してやるよ」
——魔王を目の前にしたって勇者は怯むことなく、剣を構える。やっぱり私はそこまで強くはないけれど、彼に続いて魔王に目を向けた。私たちとは比べ物にならないくらい大きく、そして強いこの魔王を倒すことは出来るのだろうか。それでも世界を救うのは私たちしかいないのだけど。
——アレルの合図で、私たちの挑戦が始まった。自分を信じて、裏切らないで。世界から光を取り戻すため。再びこの世界が平和になりますように。
*
その後の話>>003
- Re: 【DQ短編集】世界から勇者が消えた日 ( No.23 )
- 日時: 2017/06/30 17:59
- 名前: 夏目 織 ◆wXeoWvpbbM (ID: wyieLVt/)
【 大切な人 】
DQ8 ( 主人公 × ゼシカ )
——ずっと、僕の大切な人。
「良いのかエイト? あのままじゃ、誰かに取られちまうぞ」
「うーん……それは嫌だけど……あの人たちの方が、僕よりカッコいいし……」
「……本当は話したいんだろ?」
溜め息混じりにククールはそう言い、僕の胸を指でトン、と押した。
今僕らが来ているのはとある街の一角。だけど隣にいるのはククールだけ。ゲルダたちは宿屋で休んでいるし、ゼシカは一人買い物を楽しんでいた。
「そうだけど……」
僕はそんなゼシカの様子とククールの顔を交互に見ながら、小さく口を開く。ククールの言う通り、僕だってゼシカと話がしたい。だけど、あそこにいるお兄さんのようにかっこ良くもなければククールのように口説き上手——いや、話上手な訳でもない。
こうやってなかなか自分に自信が持てないのも、ゼシカは嫌いかもしれない。不安だけが募り、僕たちはただただゼシカを見ているだけになってしまった。
「だったら行ってこいよ。ちゃんと言わねぇと伝わらないからな」
流石はククール、とでも言うのだろうか。ゼシカは彼のことを『ケーハク男』何て言うときもあるけれど、僕はククールのことを尊敬していた。回復もできるしいつだって自信満々で、自分の考えを貫き通して——それがいつも良い方向にいくとは限らないけど僕にできないことを何でもこなす彼は、いつしか僕の憧れの存在だった。
僕がゼシカへの恋心を抱いて間もない頃、一人悩んでいたのを救ってくれたのもククールだった。好きなのかな——何て言う曖昧な事を言ったって、いつだって真剣に聞いてくれた。もっとも、僕が「好き」という気持ちに気づくのに時間がかかってしまったけれどククールには最初から分かっていたのかもしれない。
もう一度、視線をゼシカへ向ける。お気に入りだと言っているワンピースは胸元が大きく開いていて、大抵の男はそれ目当てでやって来る。だから街中ではなるべく一人にしないようにしていたんだけど、今日だけは「一人で行きたい」と言われたので仕方なく僕は彼女の事を一人にしてあげた。お昼時なので太陽は真上にあり、日射しが照り付けてくる。汗のせいで服がじっとりとし、肌に張り付いているのを感じた。
ゼシカがくるりと振り返りこっちを向く。僕らに気づいた彼女は微笑んで、ヒラヒラと手を振った。思わず手を振り返す。すると彼女は何を思ったのか、ツインテールを揺らしながら僕らに駆け寄ってきた。今そこで買ったらしきネックレスが、太陽の光により一層輝いて見える。
「ねえ、これ似合う?」
「もちろん似合ってるさ。綺麗だ」
「うん。とっても素敵だよ」
隣にいるククールのように甘い言葉は吐けないけれど、僕なりの精一杯の気持ちを彼女に伝えた。ネックレスについたオレンジ色の宝石は丸い形をしていて、彼女が動く度に白い肌の上をコロコロと転がる。
「ありがとう。私、少し外を散歩してくるわね」
「一人で平気?」
「もちろん。二人もゆっくり休んで」
それじゃあね、と言う彼女に手を振って、僕とククールは宿屋へ向かう。ここ最近は野宿ばっかりであまり良く眠れなかったのだ、疲れがたっぷりと溜まっているので僕は直ぐにベッドに行くと深い眠りに落ちてしまった。
*
真夜中、小さな物音で目が覚める。月明かりが部屋に差し込み、暗闇の中を照らしている。誰か暑くて起きたのかな、何て思いながら僕も風に当たりたくて、外に出ることにした。
「……エイト」
外に出るとそこに立っていたのは意外にもゼシカだった。ククールかな、何て思っていたから心の準備が出来ていない。
平常心を保とうと、僕は深呼吸をしてから彼女の隣で立ち止まった。
「ゼシカも、眠れないの?」
「うん、ちょっとね……。涼しい風を浴びたくて」
彼女はそう言い、月へと目を向ける。星が散りばめられた夜空にポツンとあるそれは、とても輝いていて綺麗だった。それを見つめるゼシカの横顔も月明かりに照らされて綺麗だな、と僕は思う。
「……月、綺麗だね」
沈黙を破ろうと、思わず、分かりきっていることを口にしてしまった。ゼシカに顔を向けるとちょうど彼女も僕の方を向いていたので、目が合ってしまう。照れ臭くなり慌てて目を逸らした。
「あっ、これはただ単に綺麗だと思ったから——」
昔ククールが言っていた。「『月が綺麗ですね』とはI love youという意味なんだ」と。それを思い出して僕は慌てて訂正をした。確かにゼシカのことは好きだけど、まだ旅の途中だし告白する気はなかったのだ。
僕のその言葉を聞いて、ゼシカは小さくクスッと笑った。思わず目を向けると、再び目が合ってしまう。
「別に良いのよ、そんなこと。ただ、他の子に言ってたらちょっと傷ついちゃうけどね」
「えっ、それって……」
ゼシカの言葉を聞いて、僕は驚きの声をあげる。他の子に言ってたら傷つくって——僕が、他の子を好きになったら嫌ってことなのかな……。
「ふふ、私ね、エイトのそういうところ好きよ。いつも誠実で、本当に素敵」
——今度は、声を挙げることもできなかった。驚きのあまり口が塞がってしまい声が出ない。嬉しいのか何なのか、複雑な気持ちだった。
「……僕もゼシカのこと好きだよ」
やっと出たその言葉は、彼女のと比べたらとてもシンプルで。でもそれでも伝わったのか、彼女は優しく笑ってくれた。細いしなやかな指がキュッと僕の手を掴む。
「……告白って、こんなに恥ずかしいものなのね」
小さく笑う彼女の表情は、今どんな感じなのだろうか。僕も緊張して恥ずかしくて、彼女に目を向けることは出来なかった。
それでも、大切な、大好きな人が、隣にいてくれるのはとても嬉しい。彼女の手を、小さく握り返した。