二次創作小説(紙ほか)

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【DQ短編集】世界から勇者が消えた日
日時: 2017/05/20 23:49
名前: 夏目 織 ◆wXeoWvpbbM (ID: tOQn8xnp)
プロフ: http://uranai.nosv.org/u.php/novel/NatumeOri1/

 ーー勇 者 が あ な た で 良 か っ た 。


          * *

 初めましての方は初めまして、夏目と申します。
 Twitterの方でもらったネタやお題をちょっとだけアレンジしたりしなかったり、お題サイトで見つけたお題を元に書いたりしてます。このCPでこんなの書いてほしい!こんな設定の読みたい!等あればお気軽に!というかください!
 1~9の短編がごちゃ混ぜです。主人公クラスタなので主人公同士の話も勿論あります。
 主人公の名前は公式名です(女9主は例外)。その他偽造設定などあります。何でも許せる方のみどうぞ。

 URLは占いツクールにて執筆しているDQ主人公ズ闇堕ち小説です。そちらも是非!

 最低限、カキコのマナーは守ってください。

 * T w i t t e r ・ ・ @DQOri0323

 * C o n t e n t s ・ ・ >>002

 * G u e s t ・ ・ ベル 様

 * S p e c i a l t h a n k s ・ ・ 上瀬冬菜 様 三森電池 様 Garnet 様 Twitterのフォロワー 様




Re: 【DQ短編集】世界から勇者が消えた日 ( No.14 )
日時: 2017/04/26 21:31
名前: 夏目 織 ◆wXeoWvpbbM (ID: ejGyAO8t)

DQ7
【救われなかった勇者のセカイ】


 ーーサヨナラ世界、愛していたよ。

          *

 僕はこの世界が大好きだった。
 ーーこの世界のことをもっと知りたくて、冒険に出た筈なのに。どうして世界は僕を嫌い、そして見捨てるのだろうか。

 世界に選ばれ旅に出て、魔王を倒し世界を救った。それは他の勇者たちとも変わらないのではないだろうか? どうして僕だけが、最初から自分の意思で旅に出た僕だけが、世界に見捨てられなきゃいけないのだろう。

 見上げる空は闇に染まっている。僕は剣をいっそう強く握り締めた。魔王を倒した、その剣を。

 ーー昔は引っ込み思案だった僕だけど、世界を旅するうちに少しずつ成長することができた気がした。これも全て冒険に誘ってくれた幼馴染みのおかげだけどーー彼は一人で自分の道に進んだ。僕もいつか、そうなれる日が来るのだろうか。

「……キーファ」

 僕はそんな彼の名前を呟いた。意味なんてない。
 こんなとき、君ならどうする? すぐ君に頼ってしまう僕を許してくれ。それでも今の僕には君が必要なんだ。また一緒に冒険して、僕の世界を変えてくれ。光輝く世界に戻してくれ。
 キーファは昔から好奇心旺盛で。そのせいで人に迷惑をかけることもあったけれど、今の僕にはその心が必要なのかもしれない。何事にも恐れず挑戦する力が。何事も信じ抜く力が。
 ーーそんなことを言ったってもう遅い。時は戻せないのだ。そんなの分かっているけれど、この世界にいるだけなんて僕は何の役にも立たない。

 魔王を倒して世界を救ったのに。世界は僕を見捨てたから。


 僕は強くなりたかった。そう願っていた。


 それなのに、それなのにーー。


 もうこんな世界、滅んでしまえ。もうどうなろうが僕には関係ない。
 愛していたのに。守りたかったのに。世界が僕を裏切るから。


 ーー僕はこの世界でひとりぼっちだ。救われなかった、勇者の世界で。


Re: 【DQ短編集】世界から勇者が消えた日 ( No.15 )
日時: 2017/04/26 23:17
名前: 夏目 織 ◆wXeoWvpbbM (ID: ejGyAO8t)

DQ9
【君が教えてくれた世界の変え方】


 君の世界と僕の世界、同じ世界の筈なのに。どうしてこんなにも違うのだろうか。

 僕の世界はいつも闇に染まっている。絶望と憎悪にまみれて、救いようのない世界だ。
 彼女の世界は光輝いている。きっと、彼女自身が希望に満ちているからだろう。

「ナイン」

 ふと声がして、振り返った。
 ーーそこに立っていたのは、かつて一緒に世界を守っていたリンだった。背中には白く美しい翼があり、頭の上の輪も光輝いている。身体こそ透けているが、僕には彼女がリンであることが分かった。

「無理しすぎは良くないよ」

 僕が最近魔王を倒すためにたくさん戦闘をしていることを、天使界から見ていたのだろうか。それとも、僕の心を見透かしたのか。
 どちらにせよ、リンの言うことは最もだ。最近僕は疲れているのかもしれない。だから世界が醜く見えるのか。

「世界を変えることはできるんだから」

 彼女は天使界があるであろう空を見つめながら口を開いた。桃色の髪が風に揺れて、その度に光輝く星屑が宙を舞う。
 綺麗だな、と僕は思う。昔の自分もこんな姿があったのだろうか。ーーいや、あったとしても綺麗な星屑は僕には似合わない。

「変えるって……僕にはそんな力何てないよ」

 そう言いながら、リンと同じように空を見つめた。綺麗な青色だ。再びこの上に戻ることはできるのだろうか。

「何言ってるの。ナインならできる。だって、世界を救おうと頑張ってるじゃない」

 そうでしょ?とリンは小さく首を傾げた。
 ーーそんなこと言ったって、僕は救いたくてこの世界を救おうとしてるんじゃない。僕は只の守護天使だったのに。どうして人間になってまでこの世界を救わなきゃいけないんだ。こんな醜い世界に、何の価値もない。



 ーー世界世界って煩いなぁ。そんなに世界が大事か?



 ……突然、脳内が、誰かの声で埋め尽くされる。……違う。これは僕の声だ。僕自身の声だ。
 この世界が大事か何て。そんなの僕が一番分かってるじゃないか。大事じゃないに決まってる。一時は守ろうと気持ちもあったけれどそんな気持ちはもうない。
 世界が勝手に壊れたんだ。そして僕を見棄てたんだ。

「私はね、いつもこの世界がこんな風になったら良いなって考えてるの」

 望んだってなにも変わりやしないのに。

 ーーあぁ、まただ。リンは僕の事を心配してくれてるのに。僕の世界を変えようとしてくれているのに。どうして僕はこんな考えしか出来ないのだろうか。人間になってしまったから?

 否、それは違う。
 僕は天使だった頃もこんな感じだったんだ。守護天使でも、人間でも、これは変わらないことなんだ。

「そしたら、素敵な世界になるように自分も頑張れるでしょ?」

 少し間をおいて、リンが口を開いた。
 ……確かにそうかもしれない。望んでも叶わないなら、自分から行動に移せば良い。少しでも、ほんの少しでも変わるかもしれないんだ。少し変わったところで僕には何の変化もないかもしれないけど、リンのようになればなにか変わるのではないだろうか。

「……そうだね。僕も頑張ってみるよ」

 ーーこの世界を変えられるように。君が教えてくれたように。


 気づいたら隣にリンはいなくて、地面には色とりどりの星屑が散りばめられていた。



その後の話【天使と呼ばれて】>>012

Re: 【DQ短編集】世界から勇者が消えた日 ( No.16 )
日時: 2017/05/08 00:00
名前: 夏目 織 ◆wXeoWvpbbM (ID: MBdLXTlT)


DQ1.3

【 ハッピーエンドで終わらない 】
       

「よく来たアレフよ。わしはそなたのような若者が現れるのを待っておった」

 竜王の不気味な声が、城内に響き渡った。
 ——かつて聞いた話では、竜王のその爪は鉄を引き裂き、吐き出す炎は岩をも溶かす、不可能なことを可能にするほどの強さを持っていると言う。いくつもの街を滅ぼし、しまいにはラダトーム城の美しき姫君をも拐ってしまった。

 そんな彼を倒すために俺は旅をして来た“はず”だった。
 光の玉を取り戻し、姫を救い、そうして世界の平和を取り戻すため。ようやくここまで来たのに。——自分はこれで良いのだろうか。思いもしなかった不安が、脳内を埋め尽くす。

「もしわしの味方になれば世界の半分をアレフにやろう。どうじゃ? わしの味方になるか?」

 ——普通の勇者、いや、“今まで”の俺だったならこんな話、聞く耳も持たなかっただろう。それなのに、どうして……この話に乗りたいと思うのだろうか。
 竜王の味方になる、それはすなわち世界を裏切ることになる。姫を救うどころか世界も救えない。そんな俺を世界はどんな目で見るだろうか?
 しかし、半分もらってしまえばそれで終わりなのかもしれない。アレフガルドを恐怖のどん底に陥れたまま、俺は竜王の味方になれば良い。

「……それは本当か?」
「勿論だ。……そうか、わしの仲間になるか」

 持っていたロトの剣が軽快な音を立てて床に落ちる。だけどもうこの剣は必要ない。かつて世界を救った伝説の勇者ロトが装備していたと言われているこの剣は、もう輝きを失ってしまった。

「——まさか誘いに乗るとはな。勇者といえ所詮は人間、欲望には勝てぬものか……」

 ククク、と竜王の笑い声が再び城内に響き渡った。
 その不気味さに、思わず背筋が冷たくなり、冷や汗が垂れ身震いをする。——でももう遅い。俺は世界を見捨て、竜王の味方になったのだ。


          **

 あれから数日。俺は時々城を出て、向かいの大陸にあるラダトームの城を見ている。勇者も姫君も未だに帰ってこない、そして更に闇に染まった世界を人々はどう感じているのだろうか。
 まさか勇者が竜王の味方になるとは思いもしないだろう。だが実際そうなのだ。勇者も姫君も帰ってこない。世界の光は取り戻されない。

「やぁ勇者」
「…………ご先祖」

 俺のことを呼ぶ声が聞こえ、思わず振り返る。そこには肖像画や本で見た“勇者ロト”と同じ格好の青年が立っていた。俺の先祖で間違いないだろう。
 しかし、どうしてここに、という疑問の前に俺は不安を抱いた。この勇者は、俺が世界を見棄てたことに文句を言うのだろうか。歴史と同じくアレフガルドを救えと言うのだろうか。

「こんなところで何してるんだよ、アレフ。世界を救うんじゃなかったのか?」

 ——思っていた通りだ。案の定、彼は世界のことについて口を開く。

「……この世界の半分はもう俺の物だ」
「それは、竜王が勝手に決めたことだろ。お前は世界を救うためにここまで来たんじゃないか」

 俺のことを何も知らないくせに。勝手なことを言うな。
 世界を救うためにここまで来た、その言葉に苛立ち、俺は思わず勇者を睨み付ける。勇者の瞳は清んだ青色で、希望に満ち溢れていた。

「おいおい、そんな顔するなって。どうしたんだよ、悩みがあるなら相談に乗るぞ?」

 先祖とはいえ、もちろん時代が違うので初対面だ。しかしそんなことも気にせず勇者は俺の隣で腰を下ろした。正義の色をした真っ赤なマントが風に揺れる。戦いの末、ボロボロになったであろうそのマントも今や輝きを取り戻していた。

「ほら、これ」

 手のひらの中に、急に何かを入れられた。冷たい感触のそれはどうやら赤い宝石——あのロトの剣についていた物だ。俺が棄てたあの剣に。

「お前の意見は否定しない。けど、頼むからもう一度考え直してくれよ」

 勇者さんよ、それじゃあな。
 彼はそう言ってすぐにこの場を後にした。自分の意見だけを言って帰られて、俺も何かを言うべきだったのだろうか。それでも、世界のことについて考え直すことはないが。世界の半分は既に我が手に。俺は竜王の味方になったのだ。

 拐われた姫君も、彼女を救いにいった勇者も、もう二度とあの場所へは帰らないだろう。今ごろ人々は嘆き悲しんでいるのだろうか。それともまだ世界の平和を願っているのだろうか。
 どっちにしろ、もう俺には関係ない。何処かの勇者のように、最後までやり遂げる気持ちはない。そして何処かの伝説のように、世界中が幸せになれる最後では終わらない。
 残念だったなご先祖様。俺は世界を救わない。真っ赤な宝石を海へ投げ棄てると、竜王の城に再び足を踏み入れた。

 

Re: 【DQ短編集】世界から勇者が消えた日 ( No.17 )
日時: 2017/05/10 18:20
名前: 夏目 織 ◆wXeoWvpbbM (ID: mazIWFF0)


DQ8 * 主姫


【 夢見の花畑 】


「エイト」

 色とりどりの花に囲まれた姫様が僕の名を呼ぶ。
 頬を少し赤らめて、僕に手を差し出した。それはまるで、幼い頃お城で遊んだときのようだ。10年前の光景と重ねられて、思わず僕の頬も緩む。

 ——世界の果ての、花畑。 色とりどりの花が咲き、青く清んだ空によく映える。青いマントをなびかせながら立つ姫様はまるで花の女神のようで。風が吹くと花弁が舞い、昔お城に飾られてた綺麗な絵画のようだった。綺麗だね、と姫様と二人だ見たそれは今でもよく覚えている。

「あなたのおかげで、ミーティアは今も幸せです」

 花畑の真ん中で姫様は口を開いた。それは、呪いで姿を変えられてしまった今も、か。
 今僕の目の前にいる姫様はもちろん人間だ。不思議な泉を飲んだ、少しの間だけだけど。

 ——あぁそうだ不思議な泉。泉の水の効果はどれくらい持つのだろうか。普段、旅の途中に寄るときは姫様が話すだけで終わってしまうのだけど今日は妙に長い。だから姫様が来たいと言っていた此処に来たのだけど。もうこの姿に戻れないのではないだろうか、と思いもしなかった不安を感じる。

「こうして二人きりでお話しできるのも……本当に久しぶり。小さい頃お城のお庭で遊んだのを覚えてる? まるであのときに戻ったみたいだわ」

 本当に、昔に戻ったみたいだ。久しぶりに見る姫様の笑顔は愛らしく、足下に咲いている花で花冠を作り頭に被せたらまた昔に戻れるのではないだろうかと思えるほど。昔は二人でたくさん遊んだっけ。小さかった僕たちにはお城の庭はとても広く感じて、まるで世界に二人だけになったみたいだった。

「この世界で二人きりになれたら良いのにね」

 姫様は空を見上げながらポツリと呟く。
 幼い頃のように、周りには僕たち以外何もない。この広い世界で二人きり。見渡す限りの世界がある。いつか誰かがそんなことを言っていた。確かにそうなのかもしれない。見渡す限り、僕らの世界は広がっている。たった二人きりだとしても。

「……エイトは、ミーティアと二人きりじゃ嫌?」
「そ、そんなこと! 僕は姫様と二人きりでも良いですよ」

 そんなことを望んでいる自分がいる。呪いがかけられたって、解けなくたって、この気持ちは変わらない。

「あなたは本当に優しいのね。……ねぇ、ひとつお話をしてくれる?」

 花畑に二人で寝転がると、姫様がそう口を開いた。
 この光景も見覚えがある。二人で、伝説の勇者の物語を読んだことは絶対に忘れない。

「昔々、アリアハンと言う国に偉大なる勇者オルテガと言う男がいました——」

 昔の記憶を頼りに僕は伝説の勇者の話を始める。
 ——勇者オルテガは戦いの末火山の火口に落ちて命を落としてしまいました。しばらく月日が流れ、オルテガの息子が誕生日を基に旅立ちます——。

 
 オルテガの息子——後にロトの勇者と呼ばれるようになる青年のような勇気が僕にはあったのだろうか。お城で近衛兵として働き、呪いをかけられ、世界を旅した。それでも未だ姫様の呪いは解けない。今は人間として僕の目の前にいるけど、泉の水の効果が切れてしまったらきっと再び姿を変えられてしまう。

「……僕にもそんな勇気があったらな」

 思わずポツリと呟いた。世界を救う勇気があったら、僕はすぐにでも呪いを解けるのに。

「……エイトはいつだって私の勇者様よ。小さい頃からいつも守られてばっかり。ミーティアはそんなエイトが近衛兵で幸せですよ?」

 ——僕はいつだって勇者、か。
 勇気ある者に送られるその称号は、僕に似合うのだろうか。勇者と名乗っても良いのだろうか。こんな肩書き、僕には勿体ない。
 ……それでも姫様が言うなら。僕が勇者で、近衛兵で幸せなら。もうしばらくこのままでいよう。

「あ、そうだ姫様——」

 泉の水のことを聞くために口を開き姫様の方を向こうとした瞬間——僕の目の前に姫様の姿はなかった。
 くるりと周りを見渡すが、花が咲き誇っているだけで姫様の姿は見当たらない。隠れるような場所はもちろん無いのに、いったいどこへいってしまったのだろう。

「ひめさ——っ!!」

 もう一度呼ぼうとしたとき、突然激しい頭痛に襲われた。思わず顔を歪めてしまう。
 それでも彼女を探さなければ。僕は近衛兵だから。——幼い頃、姫様とかくれんぼをして遊んだのを思い出す。すぐに見つかっちゃった。さすが未来の勇者様!姫様はそう言って愛らしい笑顔を見せてくれて。何処かの絵本で勇者はかくれんぼが苦手だと聞いた気がする。——それでもお姫様はかくれるのが上手なんだって。あぁ、本当にどこへいってしまったのだろう。

 ——もう一度立ち上がろうとしたとき、再び激しい痛みに襲われて僕は花畑の上に倒れこんだ。


          *  *

「——ト! エイト!」

 気づくとそこは花畑の上ではなかった。ふかふかしてる、ベッドの上。目を開けると仲間達が心配そうな顔で僕の名前を呼んでいた。

「目が覚めて良かった。朝になっても起きないからビックリしたのよ」

 ゼシカの言葉に、僕は違和感を覚えた。朝になっても起きないなんて、そんなはずはない。第一僕は姫様と花畑にいたのに。

「姫様もトロデ王もずいぶん心配してたわよ」
「……そうだ、姫様は!?」

 ゼシカが運んできた紅茶を受け取って、僕は口を開いた。姫様は? トロデ王は? きっと呪いが解けて人間の姿に戻れてるはずだ。

「……? いつも通り、街の外にいるわよ?」

 不思議そうな顔をしてゼシカが答えた。
 ——いつも通り、か。じゃああれは僕の見たただの夢で二人の呪いは解けていなかったのか。

 昔の光景と重なったのは、ただの夢だから。泉の水の効果があるときしか話せなかったら、僕は最近の姫様をよく知らない。


 ——見渡す限りの世界を旅して、勇気と言う名の剣を振り、呪いを解いてまた逢いに行こう。
 今度は夢じゃなくて現実で。この世界で二人きりになれるまでずっと。

 

Re: 【DQ短編集】世界から勇者が消えた日 ( No.18 )
日時: 2017/05/14 16:56
名前: 夏目 織 ◆wXeoWvpbbM (ID: iLRtPlK2)


DQ2【 決して枯らすまいと 2 】

「か、体が動かない……どうやらハーゴンが僕に呪いをかけてるらしい……」

 やっとのことで王女が仲間になり、ベラヌールの街に着いた矢先のことだった。宿屋に止まると翌日カインが呪いか何かで動けなくなってしまったらしい。

「呪いって……この時期にか……?」

 俺は呆れたようにため息をついた。もちろん心配する気がない訳じゃない。だが、やっと船が手に入り安定してきたところなのに……いつ呪いが解けるか分からないこいつを此処に置き去りにして、マリアと二人で旅をするのは危険すぎる。

「……確か、ここから東で世界樹の葉が採取できると聞いたことがあるわ」
「……世界樹の葉……?」

 ——世界樹の葉。名前は聞いたことがある。死人をも蘇らせる不思議な力を持つこの葉は世界中を探してもごくわずかしかないらしい。
 ハーゴンの呪いなら、この葉を使えば解けるのではないだろうか。俺はそう思うとマリアが持っている地図を確認した。

「結構遠いけど……二人だけで大丈夫かしら」

 マリアが心配するのも無理はない。思ったより此処ベラヌールから世界樹の葉が採取できると言う東の小島までは、船で行くにもかなりの距離がある。海は特に魔物の群れがたくさん襲いかかってくるので俺と二人だけでは少し危険だろう。

「……行ってすぐに帰ってこよう。カインを長い間放っておくのも危険だからな」

 ハーゴンのことだ、仲間がいないのを良いことに呪いを悪化させたりするのではないだろうか?そうなると二人だけの旅よりもっと大変なことになる。それだけは避けたかった。

「そうね。じゃあカイン、すぐに戻ってくるわ」
「……ううっ……多分僕はもうだめだ……僕に構わず行ってくれ!」

 やられたのが自分一人で良かった、なんて。抜けてるところもあるあいつにもこんな一面があるのか。
 幸い、カインが寝込んでる間の宿代は免除してくれるらしいので俺たちはさっそく街から出て船を出し、東の小島へと急いだ。



「……ここか」

 長い間船に揺られ、魔物と戦闘をして来たのでもう心身共にボロボロだ。小島なのであまり魔物は出ないらしい。空がだんだんと暗くなるのを感じ、今夜はここで寝泊まりすることにした。

「……ごめんな、寒くないか?」

 旅をしているとはいえマリアは年頃の女の子。こんな夜遅くまであまり休憩も出来なかったのだから、こんな地面で寝るよりは街の宿屋で寝たいに決まっている。
 だけど彼女はそんなことを言うはずもなく、木の根元に寄り掛かった。

「大丈夫よ。それよりアレンは? 私の代わりに攻撃したりしてくれて……足手まといでごめんね」
「俺は全然大丈夫だ。……そんなこと言うなよ。俺はマリアがいてくれて良かったと思ってるよ」

 もしカインと二人だけの旅だったら。途中で一人になってしまい、遠くの小島まで行くのは無理だったかもしれない。呪文を使うことができない俺一人で魔物の群れに立ち向かう勇気はない。

「ありがとう。ふふっ、二人で寝るのって何だか不思議な気持ちね」

 マリアが急にくるん、と体を俺の方に向けたので、思わず目が合ってしまった。恥ずかしさで少し微笑みながら、俺は視線を夜空へ向ける。夜とはいえ月のお陰で少しは明るい。

「アレンと旅ができて良かった。貴方がいなかったら私はずっと犬のままだったかもしれないもの」
「ずっとって……カインが助けてくれるかもしれないぞ」

 ——だってカイン、アレンほどしっかりしてないんだもの。
 ふふ、と微笑みながらマリアは口を開いた。確かに——あいつのことだ、ラーの鏡を手に入れてもムーンペタで犬状態のマリアを見つけても、そのままじゃれて遊んでしまうに違いない。……もしくは、犬状態のまま二人きりで旅をするか。カインのことだから充分有り得る。

「そうだな。……じゃあ今夜はもう寝るか」
「そうね、明日も早いし。おやすみなさい」





「アレン、これが世界樹の葉よ!」

 翌日、目を覚ますと直ぐに俺たちは世界樹の葉を採取した。
 マリアが手に持つそれは、思ったよりも大きくて、葉っぱといえども艶があり輝いていた。これなら死人を甦らせたり、呪いを解いたりできるのも納得できる。

「思ったより大きいんだな。——それじゃあ行くか」

 マリアが葉をポシェットの中に入れるのを確認すると、船の帆をあげて、西にあるベラヌールの街を目指し始めた。




「カイン!」

 ベラヌールの町に到着すると、俺とマリアは直ぐに宿屋で寝込むカインの元へ駆け寄った。

「アレン……マリア……」

 苦しそうに名前を呼ぶカイン。どうやら間に合ったようだ。すぐ近くによると、マリアは直ぐに世界樹の葉を取り出す。
 ——世界樹の葉を持ってこれたのは良いが、どうやって口に含むのだろうか。もしかしてそのまま食べるのか?

「カイン、口を開けて」

 ——マリアはスプーンに緑の物体……恐らく世界樹の葉を乗せてカインの口に含ませた。いつの間にすりつぶしていたのだろうか、何て思っているとカインはそれを飲み込んだようだ。マリアの嬉しそうな弾んだ声と、カインの笑い声が聞こえてきた。

「カイン、無事でよかった…!!」
「良かったな。俺達が世界樹の葉を持ってきたお陰だな」
「ありがとう。心配をかけて悪かったな」

 久しぶりに見るカインの笑顔に、思わず俺の頬も緩んだ。カインはあくびをしながらベッドから身を起こし、立ち上がる。ボサボサの頭を手で少し整えると、直ぐに宿屋ので入り口に向かった。

「二人とも、さあ行こう!」

 ——また直ぐ仕切る。俺とマリアは呆れながら微笑むと、カインの後を追った。今度は三人で船に乗り、北にあるというテパの村を目指した。





 テパの村に着き早速情報収集を始めた。村の入り口にいる兵士によるとこの村には羽衣作りの名人——ドン・モハメがいるらしい。気難しい性格らしいが、マリアが気になるというので後日会いに行くことにした。
 マリアによるとドン・モハメが作る水の羽衣は聖なる織機と雨つゆの糸で出来ているらしい。守備力も高く、呪文や炎のダメージも軽減されるという素晴らしい羽衣だ。

「なーアレンー。今日はもう遅いし、早く宿屋に行こうよ」

 いつもは遅いくらいなのに、元気なときはこんなことを言うのはもう慣れてしまった。少し外が暗くなってきたのもあり、仕方なく俺たちは宿屋で休むことにした。




「カインおはよ——ってどうした!?」

 翌日目を覚ましてまだ寝ているカインを起こそうとしたところ、思わず驚き朝から大きな声を出してしまった。別にそんな大したことではないのだが——カインのやつ、風邪を引いている。顔を真っ赤にさせながら咳をしていた。
 俺はすぐにマリアを呼び、今後のことについて話し合う。 

「せっかく呪いが解けたのに……」

 マリアの言うことはもっともだ。せっかく二人で世界樹の葉を採取しに行ったのに、次の場所で風邪を引いてしまうなんて。

「全く……じゃあしばらく此処にいるか」

 カインの風邪がうつるのは避けたいので宿屋の主人に部屋をもうひとつとれるか聞いてみたのだが、生憎とれないらしくて俺とマリアが同室になってしまったのだが仕方がない。 

「うぅ……すまない……ゴホッ……」

 どうして再び寝込む破目になってしまったのだろうか。だが愚痴を仕方がないので、俺とマリアも今日は宿屋で休むことにした。


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