二次創作小説(紙ほか)
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- 鳴砂の楼閣 〜Ringing Sandtower
- 日時: 2017/01/20 21:42
- 名前: プチシュークリーム ◆IVDmJcZSj6 (ID: IGUMQS4O)
- プロフ: http://www.pixiv.net/member_illust.php
【鳴砂の楼閣 〜Ringing Sandtower / めいさのしろ 】
それは、人間と妖怪の新しい関係だった—————————
【注意】
・この小説は東方project及び秘封倶楽部の二次小説です。一切オリキャラは登場しませんが、ご留意ください。
・一部不適切な表現がございますが、現代の人々の倫理観とは異なる観点に基付く為、リアリティを追求する為用いているものです。
・秘封倶楽部ストーリーを準えた内容となります。卯酉東海道以降もございますが、こちらは有料となっております。お手数お掛けしますが、例大祭等の東方オンリーイベントでお買い求めください(500円)
・半分キャラ崩壊しています。申し訳ございません。
【舞台背景】
この物語は、とことん未来の地球が舞台。
1900年代半ばから続く環境破壊と紛争は、地球の温暖化現象を加速させ、温暖化からくる水位の上昇は、大陸の沿岸にある多くの国を侵食していた。
世界規模の海岸線の変更は新たな領土問題を孕み、各国間の戦争が勃発するのに、そう時間は掛からなかった。
幾多の大地が人工の神の齎した審判の炎に晒されても、人々を護ってきた大いなる膜壁が切り裂かれようとも、尚、人々を包んでいた憎しみは途絶える事なく、数百年、数千年の間、闘いを繰り返した。
————ある時、誰かが気付いた。取り返しの付かない事をしていたのだと。我々は手を取り合って生きていくべきだと。
気付けば人類は、その手で地球に本来生息していた植物のほとんどを絶滅させていたのだ。
荒涼とした大地にて、過酷な環境に順応し、進化を続けた植物があった。サボテンだ。
このままでは人類は滅んでしまう…。生き残りをかけ、カクタスカンパニーはサボテンから何としてでも有益な情報を取り出す研究を進めていった。
長い実験の果てに生まれた不安定な力、サボテンエネルギー。原子力さえもはるかに凌駕し、怖ろしき力を唯一制御する事に成功したカンパニーは全世界から恐れられ、権力の殆どを掌中に納めるほどの大企業にのし上がった…。
サボテンに未来を夢見てか、カンパニーへの心酔か。エネルギーが生まれて直ぐに、人類は再び平和と繁栄を取り戻し、技術革新を繰り返していった。
しかしその平和も束の間、サボテンエネルギーは各地のプラントで暴走を繰り返し、環境は更に激変した。度重なる地殻変動、大気の汚染、土壌の汚染、pH度数2の酸性雨。 最早地球は人の住める場所ではなくなっていた・・・
その結果、多くの都市の空調、温度、湿度、天候を自由自在シェルターで覆わねばならぬくらい深刻な被害を与えた。
それから数十年、酉京精神科学大学に通う、宇佐見蓮子は、誰も訪れる事の無い廃棄された旧校舎の隅に或る倉庫で、実験に没頭していた。
彼女の正体は歴史の闇で暗躍してきた秘密結社『秘封倶楽部』の後継者で、宇佐見の名を冠する最後の1人だ。
誰も見向きもしない旧校舎に、少女の幻影に誘われて駆け込む異国の少女、マエリベリー・ハーン。
彼女は遥か西方の、変化の少ないアルティハイトの港町から、刺激的な生活を求めて密航してきたアテラン(士官育成学校)の卒業生である。
この邂逅は、偶然か、将又必然か。
奇妙なふたりが織り成す物語が、ここに始まる。
———————————————
>>40-53 鳴砂の記憶
>>54-65 「あなた」との出会いは偶然とは思えなくて
>>66-82 蓮台野夜行 〜 Ghostly Field Club
>>83-89 鳥船遺跡 〜 Trojan Green Asteroid その1
>>90-92 深く、そして重い水の奥底で
>>93-109 鳥船遺跡 〜 Trojan Green Asteroid その2
>>110-127 伊弉諾物質 〜 Neo-traditionalism of Japan.
>>143-194 卯酉東海道 〜 Retrospective 53 minutes
- Re: 鳴砂の楼閣 〜Ringing Sandtower ( No.116 )
- 日時: 2016/12/08 19:03
- 名前: ぷちしゅ ◆SQ2Wyjdi7M (ID: .uCwXdh9)
それ故、私たち、子信州に生きる者達も、亀甲シェルターのお膝元を離れる事は、滅多に無い。シェルターに外部からの侵入者がある事もあり、もし侵入者がミュータントだとしたら、全力で排除に掛かるだろう。そんな死活問題に関わる事とも知らず、命令に動かされるのが、殆どの国民だ。
外国との接点は、専ら窓の無い小型船舶に限られる。そうでもしないと、大型のミュータントの強襲でも受けた時、甚大な対応に迫られる事だろうし。政府もこれを吉としないようで、空路はシェルター内の移動、及び宇宙開発以外はほぼ衰退したとも言って良い。
更に、国外の情勢は殆ど知らされていない。国外ではメリーの国のように、日本を誇大している姿勢を構えている国のようだけど、とっくの昔に、隣国の中国って大国は分裂して、滅亡に至ったとも聞く。
そんな事も関係ないように、世界中から何も知らない観光客が仲見世通りの旧時代的な街並みをごった返している。
この街並みには目新しさは無い。清潔感も伴って皆無に等しい。整備されていない、まさに旧時代的な風景だ。お土産屋は、無駄な伝統に縛られたまま、千年以上は時が止まっているように感じた。
繁華街の先に、巨大な寺院がある。善光寺だ。今は別に、宗教的な意味を持っている訳でもない。英吉利王国で言うところの、バッキンガムの宮殿だ。だがしかし、この寺を支配しているのは、王では無い。権力者だ。モンクでも、シャーマンでもなく、世界を統べているのは、結局国の代表であることを、この寺院は、身を以て証明してくれている。旧時代にとって、この寺がどうであれ、今はそうである。
仲見世通りは、善光寺を囲う、一つの城下町のような佇まいで、何千年も、只其処に在り続けている。文明が崩壊しても、時代が推移しても、不変で在り続けた、とも言ってやろうか。
寺院としての価値を失った、観光スポットと化した只の木造建築物を歩き回る二人。ふと、妙な柱に目を落とした。 「ほら、柱が、土台から随分とずれているでしょ?こんな回り方をするだなんて、どこまでも面白い限りだってね。」 土台の上で、柱が少しだけ回したような、変な置かれ方をしている。
「これが地震柱ってやつかしら?」メリーは、受付で貰ったパンフレットを眺めつつ、何か恐ろしい風景を目の当たりにしているかのように、震えている。
「まぁ、これが善光寺地震の爪痕と言う事になっているわ。何百年も前に、善光寺地震が発生したらしいけど、それ以前、もっと昔からこの柱はあったそうよ。」
——善光寺地震。弘化四年、信州北部を襲った地震である。何かと日本は地震大国として名を馳せているが、この名は子信州に生きている人々にとっては、馴染み深いものだ。
善光寺は、七年に一度だけ秘仏を公開する事で有名で、その時は全国から人が集まり、一か所に密集する。善光寺地震は、その御開帳の真っ最中に起きたため、死者数千人とも言われる甚大な被害をもたらした。
善光寺の御開帳に合わせて大きな騒動があったのは、これに限った話ではない。
千年だか百年だか、それくらい前、旧時代の出来事だが、一人の男子児童が、この寺院の御開帳の儀式を、小型偵察機を飛ばして、意図的に妨害したという。
その後のお咎めに関しては特に語られていないが、歴史的事実として、このニュースは善光寺を語る際に、よく引き合いに出される。
- Re: 鳴砂の楼閣 〜Ringing Sandtower ( No.117 )
- 日時: 2016/12/08 19:04
- 名前: ぷちしゅ ◆IVDmJcZSj6 (ID: .uCwXdh9)
**
「ま、まぁ。愚かな子供の事は、ともかく。地震で柱だけがずれたって言うの? そんな事あるのかしら?」 地震柱の前で、数分の雑談を楽しんでいたのだが、客人の目に留まって注目の的となっているのに気付いた私は、蓮子を連れて、そそくさと退散した。
「ふ、ふう。熱くなっちゃったわ。本当はね、こいつはね、柱が、時間の経過によって乾燥して、
捻れた物だって判ったの。でも、それより、地震柱と呼んだ方が地震の恐怖を後生に伝えられる、いい教訓だと思って、正式名称になったのよ」
性懲りもなく、熱く語る蓮子を気にも留めず、遠くの柱を眺めた。私には見えていたんだ。柱が歪むような、恐ろしい地震の光景が。
「どうしたの? 何か見た感じ顔色が良くないみたいだけど…まだ病み上がりで調子が悪いの?それとも、さっき注目を浴びちゃったことで…?」 蓮子が心配そうに、私をしきりに心配するので、もう私もどういう調子で返答してやればいいか悩みこんじゃうし、少しばかり微妙な気持ちになるわ。
「あ、ああ、そんな事ないわよ。むしろ、むしろ絶好調みたいで……最高よ!うふふ」
妙なテンションに蓮子も呆れ果てている様子だったけど、こんな所で私の楽しい観光ライフを中断する訳にはいかないわ。だってこんな古い建築物、私の町でもそう沢山ある訳じゃない。それに、この柱…ちょっとそんな創作的って言うか、教訓にしてみては、少しばかり訳がありそうだしね」
**
メリーは最近、結界の切れ目だけで無く、異世界の情景を、何かを介して頻繁に眺めている。
さらに夢の中だけで無く、冥界に飛び込んだ時のように、実際に移動したり出来てしまうので、何かと期待を寄せる蓮子だ。
異世界の情景との接点が、こんなにも腐りきったパンプキンパイのような世界の上に、縦横無尽に敷き詰められていて、それらをバールでこじ開けるように、蹂躙することができるというのだから。
蓮子にとって彼女の存在は、妄想の世界を構築する材料と言うよりかは、工具になりつつある。と、同時に、自分を認めてくれる彼女を、欲求を満たす為の工具として見てしまったことに対して、心の中で静かに叱責した。
「私は、メリーが不思議な力を持っているのは身を以て判ったけども、その力って、いつも神社仏閣やら神聖な領域が関係しているのよね。貴方の出が基督圏なのもあるけど、そんなに聖域って暴きやすいものだったかしら?」
聖域とは、清いものである。それと同時に、人の手の加わっていない、本来の姿であるべきだと蓮子は思っている。聖なる領域に、穢れた人間の築いた何かを置いたならば、それは形だけの神聖さに落ちぶれてしまうのではないか、といった疑念が蓮子の胸の内に潜んでいたからである。
蓮子や宇佐見一家にとって、珍しいアイテムやロケーションとは、畏怖する対象にあらず、暴く対象でしかないのだ。だからといって、低俗なトレジャーハンターのように、破壊工作に出たり、暴動に至る衝動に翻弄されている訳でもないのが、なんとも彼女の性分と嗜好のシンクロとも形容し得るのだ。
メリーは米神を抑えて、何か聞き取れないことを物々と挟みつつも、蓮子の発言に返答した。
「そうだったかしら?あはは、確かに神聖な場所を媒介にどこかにダイヴしているわね」
伊弉諾がなんだとか、古の時代がどうだとか。聖域を暴くことは、日本の創生に関わってくるだとか、蓮子の探求心を掻き乱す言葉が散見されるのだが、蓮子は彼女の、ここに来てからのなんとも混濁したような意識から放たれる、一点に焦点が定まらない発言や、ふら付く足取りにどうしても気が揺られた。
「ええ、偶然貴方を連れてきたいと思った地点がこんな巨大な仏閣だったから、きっと喜ぶんじゃないかなぁと思っていたんだけど、まだ体調が優れないのかしら?」
メリーは街路樹に凭れ掛かりながら、それでも無理に目を見開いている。
流石に隔離生活や、蓮子なしの生活に堪えたのだろうか。それとも、この地は何か良からぬ物を抱えていて、メリーにとって強いストレスになっているのだろうか。 「だから、平気だって。ただ、私、少し調子が良すぎてねぇ、なんだか、余計な気分の悪くなるような物まで見えて。だからここで一度休みましょう?」
蓮子はメリーを支えてやると、境内の隅にあるベンチに、彼女の肢体を横たわらせた。
吹き出す汗が、頭を、首を伝わって、シャツ全体を湿らせた。蓮子の両手は異常なまでに放たれたメリーの汗で濡れて、蓮子も事の重大さに気付きはじめている様子だ。
まるで、サウナの中に数十分間閉じ込めたかのように、少女の全身は赤く色を変えている。
「余計な物って…まさかとは思うけども…」 蓮子は、メリーの容体を懸念しつつも、彼女の見た世界を体験したい、そんな好奇心に駆られた。
「地獄とかね」
- Re: 鳴砂の楼閣 〜Ringing Sandtower ( No.118 )
- 日時: 2016/12/08 19:05
- 名前: ぷちしゅ ◆IVDmJcZSj6 (ID: .uCwXdh9)
例え、自分の身が砕け散ったとしても、地獄とはいえ、その地に秘められた深秘を暴くのが私の務めだ。
鳥船遺跡で私達を強襲したキマイラを撃退できなかったとはいえ、メリーを守るのは私だけであるべきだもの。だって同じサークルの部員だものね。命の保証は私がしなければならないのだから。
**
二人は休息を終え、善光寺の閻魔像の前にいた。メリーの体調も良好なようだ。私は安堵したわ。一時は死んでしまうかと思ったもの。
でも、何事もなかったかのように、熱が引いて行って、なんだか訳が分からなくなっちゃうわ。私は人の体調や健康には余り強くない、堅い人間だから、その手の事には詳しくないんだけどもね。
その、閻魔像は顔を真っ赤にして怒りを表している様だが、ただの酔っ払いのオヤジにしか見えないわ。怒りを表現するのに、顔を赤くするって手法があるけど、私は怒るとき、決して表情を曲げないようにするわ。
物体ってのは常に変化し続けるものだもの。不動の表情ほど、恐ろしいものはないじゃない?この平和だって、いつ崩れ去るかわからないんだもの。
「ねえ、メリー。さっきの話だけど、地獄って本当にあるの?地獄で釜茹でにされるくらいなら、その窯に玉葱と人参とジャガイモでも入れて、カレーでも作ってやりたいところね。インド人も吐き出すような、激辛のグリーンカレーでいいんじゃないかしら」
痛恨のミスをした。グリーンカレーはタイのカレーだ。
せめてそこはキーマカレーだ、って突っ込みを入れてほしかったが、メリーは訳が分からなかったらしく、私の面白くもない、ギャグをスルーした。
「地獄はね、地下4万由旬に存在すると言われているの。地獄とはまた違うけど、カトリックの経典に於いて、煉獄とは地獄にも天国にも行けなかった人達が、清めを受けるトンネルみたいなものだそうね。
地獄か天界か、三途の川の先にある冥界の考えと、どこか似通っているわね。でも、異世界のゲートが川の中に佇んでいるだなんて。地続きのように見えて、実は別の世界にいつの間にか移動しているだなんて、面白いわね」
「そうね、付喪神の考えや、物の象徴の神が存在する考えも、どこか北欧神話を髣髴とさせて面白いわね。ところで、地獄への距離が4万だか、5万由旬って言ったでしょう?
ところで、その由旬ってのは、長さの単位なのかしら?」
メリーは自分の所属している宗教では無いにも関わらず、いつにも増して達弁になっている。彼女が祖国で通っていた士官学校では、宗教に関する教育も執り行っていたのかしら?
「そうね、サンスクリット語を語源にしているわ。サンスクリットって言うのは、ご存じの通り、古代アーリアの単語よ。
アーリアって言うのは、超古代、印度にあった都のことね。日本では梵語として知られているわね。
- Re: 鳴砂の楼閣 〜Ringing Sandtower ( No.119 )
- 日時: 2016/12/08 19:06
- 名前: ぷちしゅ ◆IVDmJcZSj6 (ID: .uCwXdh9)
ほら、般若心経なんかはサンスクリット語の経を日本語で訳したものとされているわ。おっと。話が逸れたわね…
由旬って言うのは、そのアーリアの言葉で、長さの単位を表すものなの。帝の進軍するペースの事を指しているとも聞くわ。1由旬はおよそ7キロ。7キロなんて、数時間も掛けずに、十分進める距離だと思わない?大層インドの王族も牛歩だったのね。」
「ふぅーん、つまり、4万由旬はおよそ28万キロくらいね。地球の直径は大体、1万2千キロとちょっとくらいだったし、地球を通り過ぎちゃうわ。イベント設置の座標ミスで箱庭状態にでもあるのかしら?」
私はよく分からない口ぶりで、メリーの言葉を受け流した。どこまでも私を乗り気にさせる雑談だが、孤島に地獄は存在するのかしら?と、素朴な疑問が立ち込めた。
「28万キロって言ったら、地球を通り越して、月の方が近いくらいね。存在しないかと言われたら、まぁ、そうとも言えないんだけどもね。月までの距離は因みに38万キロ程あるとも言われているわ。私が物差し使って計測した訳じゃないんだけどね」
地下4万由旬に存在するのは地獄の底だ。実際には、地獄はそこから3万9千由旬ほど高いところにある。
つまり地獄の天井は、ずっと地表に近く、地上からそこまでの距離を測っても1千由旬しかない。キロに換算すると地下7000キロ。
これは地球の中心近くに地獄がある事を意味している。地球を突き抜けて、宇宙空間へと地獄が展開されている事を考えると、底無し沼的な発想ができてしまうのだが…。
メリーには地球内部の事まではよく判らない。アガルタがあって、もう一つの空があって、太陽が浮かんでいるのかもしれないし、そこにはカンブリア紀の海が広がっていて、三葉虫が我が物顔で泳ぎ回っているかもしれない、
なんて空想科学に支配されてしまう始末である。
なんとも腐ったリンゴのパラダイスだ。こんな場所に来てまで、そんなメルヒェンな事を考える暇があるのなら、さっきのヴィジョンの正体を明らかにしてやりたいところだと、葛藤しているのだ。
それに、もし地獄が存在すると信ずるならら、必ず流される事になるのでは無いか、そんな不安が頭をよぎった。
彼女は今、そう感じさせる物を持っているのだ。不安を誤魔化すべく、くだらない話を続ける。
鉤の石は、掌に深く食い込み、死後の世界で経験するであろう阿鼻叫喚の夢をまじまじと、見せつけ、彼女の胸の中に広がっている夢と(プル)希望の(ダ)楽園を、あっという間に食らい尽くしてくれた。
「それでも地獄は極楽のある座標なんかよりかは、ずっとずっと近いのよ?」
メリーは鉤の石をポケットに投げ込むと、再び弁を走らせた。 「え? 極楽は雲の上にあるんじゃないのかしら?」 蓮子は不思議そうに、地獄と極楽の位置関係に関しての疑問を投げかけてきたのだ。
「あのねぇ…極楽にすむ阿弥陀如来の身長は、6×10125由旬もあるのよ?雲の上は疎か、コンピューターの24ビットカラーの表示可能色数よりも、漢字文化圏最大の数字である無量大数よりも上の数よ。
阿弥陀如来の身長だけでビッグバン宇宙より遥かに大きいわ。
もうすぐグーゴルフレックスに到達してしまうくらいの身長でね、もう笑うしかないわよね。」
そんな阿呆らしい喩えは、逆に蓮子の失笑を勝ってしまった。「何そのインフレーション…、僕の作った最強最大のキャラクターって奴かしら?
地獄に比べて、極楽はどこまでも巨大で遠いっていうのね。私の功徳もそこまで届くかは不詳ってもんよ」
蓮子は落胆した様子にあるようだけど、こういう状態にあるレディを元気付ける事くらい、私には出来るんじゃないかしら。
「まぁ、そう諦めることはないでしょう。この世だって十分に地獄なんだもの。寧ろここよりかは楽かもしれないわ。同時に、地獄は極楽に比べるともの凄く身近で、現実的という事なのよ」
遥か昔から、人間がいる限り、地上にも地獄と呼ばれるようなエリアは存在した。大涌谷だとか、地獄谷温泉なんかがその、地獄である。
海外にも絶え間なく溶岩が口を開ける、地獄の入り口って呼ばれる場所があると聞いた。その地獄のコピーを劣化コピーと見て、遥かに大きい極楽を想像して、恐怖を緩和していたのかもね。
- Re: 鳴砂の楼閣 〜Ringing Sandtower ( No.120 )
- 日時: 2016/12/08 19:07
- 名前: ぷちしゅ ◆IVDmJcZSj6 (ID: .uCwXdh9)
でも、地底にある本物の地獄は、未だに沈黙を続けているんだものね。恐怖を伝える蜂の羽音はいまだ止まりはしない、どころか、寧ろ羽音のペースも、前より増して、音量も、徐々に巨大化していっているとでも言った方がいいのかもしれないわ。
世の中の歪みはここ千年、数百年で急速に広まっている。それも、厭世観に包まれて、希望を持とうと懸命に人々が努力していた頃よりも、ずっと、ずっと。
私たちに、何ができる?この鉤石は、何かを私に伝えてくれているのかもしれない。これが…未来?
蓮子には黙っていたが、メリーはサナトリウムで療養中に、地底奥深くに封じられた不思議な世界のヴィジョンに囲まれていた。
恐ろしい死の匂いが充満した洞窟の入り口。岩盤から露出した濃淡様々な色彩の宝石が、不気味に光り輝き、亡者達が生の臭いを求めて、壁の中から体の一部を突き出している。
溶岩が絶え間なく噴出し、見たこともない植物が高温の大気、荒々しい表土を物ともせず自生している。無いにも等しい光を蓄えて、空間に光を与え続けている、蜘蛛のような昆虫もいる。
その風景は、何処だか古事記に出てくる黄泉比良坂を髣髴とさせる。異形すぎるんだもの。
彼女はそこで手に入れた不思議な鉤爪状の石片を現在も持っている。何故かこの石片を持っていると、いくつかの風景が頭に浮かんでは、水泡のように消えていくのだ。悪い映像も、良い映像も脳内に展開されては消える。
メリーは予感した。地底の世界にはまだ誰も知らない秘密がある。それも、この国の創世に関わる、とてつもない秘密だ。
「メリー、どうしたの?また何か考え込んじゃって。顔から伝わってくるってもんよ。相棒にもっと話しなさいっての」
相棒面してくる蓮子。頼もしいと言うよりかはまだ未熟で、かつ幼い、冒険心に支配された少女というイメージのあっただけに、少しだけ私の考えに影響したかもしれないわ。
「ねえ蓮子。私がサナトリウムに隔離されてたとき、何か妙な事が起きてなかった?例えば大勢が釘付けになるイベントとかさ」
蓮子は悩ましげに頭を捻った。私が居ないだけで、人生がつまらないと言うのなら、それはそれで私の存在や人格を認めてくれてるみたいで、すごく晴れがましいわね。
「え? 何か、と言われてもねぇ。何もない、退屈な数か月だったってものよ」
まぁ、予想通りの返答だったけど。私の存在ってそんなに誰かを揺り動かせるのね。
特に、地底に関わる事に関する情報を、とにかく知りたかった。地底の世界を隠蔽しているのか、何かこの鉤が記憶を思い起こさせる紺珠だとするのなら、私の生まれに、何か秘密があるのかもしれないわ。
「うーん。サナトリウムの中には、外部の情報が届かないのは知っているわ。完全に情報は遮断されてるって、なんか不便ね。OK、OK、一ヶ月間くらいのニュースなら、大抵脳に焼き付けて明瞭に覚えているわ。地底に関わる……と言ったら、眉唾極理の胡散臭いニュースで良ければでいいわ」
胡散臭かろうが、眉唾だろうが、真偽が問えなかろうが、火中の栗はどうせ皮を剥かれることもなく、水を掛けられ処分されてしまう。
食べ物は、新鮮で焼け焦げないうちが一番美味しい。次は、腐りかけの状態がいいわね。
まあいいや、情報の全てを意中のままにして、ありったけの幻想を手に入れてくれるわ。
「日本海…あるわね?穢れ切って動物はもう住めないって言ってたじゃない。メタンハイドレートの採掘場だか何かの跡地の発掘現場から、何やら不可思議な成分の鉱物が出たって……。」
それも、2500万年前に完全に消えた、イザナギプレートの名残で、地質学のアトランティスと言っても同然だ!って、一時世間を揺り動かす大騒ぎになったんだけど、どうもどうも、その情報が眉唾物でね。
「メタンハイドレートや石油石炭かぁ。残っていたらサボテンエネルギーに頼り切らなくてもよかったかもしれないのにね」
「そのさ。見つかった石片が、だれがどう見ても人の手が加わった人工の形を成していたのよ。それでさ、大勢の期待していた学者も、ギャラリーもみんな冷めちゃってさぁ」
イザナギプレートとは、太平洋側に存在して、ユーラシアプレートにぶつかった事で日本列島を生みだしたと言う、太古のプレートだ。2500万年前に、ユーラシア大陸の下に潜り込んで、完全に消滅したという。その名前は、日本神話において、日本列島を生んだ二柱の神のうちの、伊弉諾尊に因んで名付けられたものである。
「なんだって?遥か地底から人工物?それって本当?なんだか怪しい話もあるもんねぇ…」
腐敗した海の底、ヘドロと残骸の埋まる層からオーパーツが出土したなんて、
情報に疎い一般人が見たら、訳の分からないグレイ型のエイリアンの宇宙船の破片だとか、フェイクだとかって語りだすだろうね。
或いは、この不気味な形状の石を、自然が作り出した奇跡と形容するだろう。まぁ、何かの破片っぽいし、この不気味な形状の石でも、何個か並べれば、家紋にでも出来るかもしれないわ…。
縄文時代か何かの産物ならまだしも、2500万年前となると、まだまだ人間なんか出てきていないし、これが本物の神器である確証でもない限り、こいつの正体は掴めないんだけどね。
「いやー、なんだかねぇ。これは70万年前の石器だ、って捏造して顰蹙を買った学者もいたみたいだけど、2500万年以前、となったら、最早嘘と分かりきってるわね」
「嘘を捏ね合わせて、事実が生まれるのよ。逆説的に、捏造では無いともいえるわ」
突発的に、私の心の中に溜めていた記憶と確信が、蓮子目掛けて弾け飛んだ。
「本当に良いニュースだわ。その人工物は、本物だってのよ!私が保証する?嘘だと軽蔑していた学者連中もこれで地獄の針山に投げ付けてやれるわ!万物を貫く針山に飲み込まれながらも、肩の凝りとお堅い頭を解せるといいわね」
「へ?今日のメリー、何か変よ? 急に不安がったり、体調崩したり、急に意気揚々になったりさ」
蓮子は私の方を変な目でマジマジと見つめている。
一転に集中しない、どこか落ち着きのない視線は、どこぞのリメイクされた空想上の狸型ロボットが見せる、熱くも冷たくもない瞳のようだ。ああ、なんて滑稽な表情だろう。
こんなに単純だけども形容しがたい表情を見せるなんて、貴方はまるでメイドロイドみたい
「実はね、私、その貴方が言っていたイザナギプレートの名残だっていう石を持ち合わせているの。この勾玉みたいな鍵爪みたいな石がその一つよ。周期的に私に奇妙な夢を見せるこの石なら、日本創世の瞬間を眺められる気がしてならないのよ」
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