二次創作小説(紙ほか)

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狐のお嫁は笑うのか?【妖怪松】
日時: 2017/07/22 23:19
名前: 真珠を売る星 ◆xlDLNzYf9o (ID: 9E/MipmP)

 はじめまして、真珠を売る星と申します。
 
 小説初挑戦となります、よろしくお願いします!
 

注意!


・おそ松さん落ち夢小説です。
・人間の六つ子は出てきません(妖怪松が出てきます)。
・主人公があの末っ子よりドライです。
・舞台が名も無き東北のど田舎です。
・ほとんどオリキャラです。
・最終的に恋愛小説ではなくなってしまう恐れがあります(作者の好みの問題)。
・キャラ崩壊の可能性大いにあり!「いや、こいつはこんなんじゃねえよ!」と思った方はご指摘していただけると作者が泣いて喜びながら修正します。
・長男、四男多めです。
・後半に行くにつれ、主人公が変態と化していく恐れがあります。
・作者がものすごくメンタルが弱いため、途中で止めてしまうかもしれません。

 古いパソコンを使っているため、唐突に消えたり、いきなり話が飛んだりするかもしれませんが、そんなときは生温かく見守っていてください。
 
 コメントを頂けるととても嬉しいです。

 亀更新になってしまうと思いますが、よろしくお願いします。

ご ( No.18 )
日時: 2017/01/06 13:05
名前: 真珠を売る星 ◆xlDLNzYf9o (ID: 9E/MipmP)

「君は覚えてないと思うんだけど……

「ああ別に無理に思い出せってんじゃないから、まだ気にしなくていいよ。そのうち思い出すだろうし

「というか、この話聞いたら思い出すだろうし

「そうだな、さかのぼること——10年前、くらい?

「葛葉と俺はここで出会ったんだ
「この地の、すぐそこの畑で

「葛葉は風邪で、家族はお祭りに行っててお前のおばあちゃんと二人だけ、家で退屈していたらしい
「そん時俺、たまたまここから降りて村の畑でも荒らして食い物たべようと探していたんだ

「お稲荷様が何で畑荒らしてるのかって?いいじゃん別に。腹減ってたんだし

「で、そん時にこっそり家から抜け出したお前と会ってさ、それでいきなりお前が俺に話しかけて来たんだよね

「『どこか楽しい所に連れて行ってくれ』って
「狐に話しかけるなんて、結構変わって……何でもないです

「それで、断ろうにも逃げられないくらいに抱き着かれちゃってさあ。仕方なく人に化けて自分の神社に招いてみたってわけ

「でも何の交換条件もなくいろいろしてはあげられないから、持ちかけたんだよお前に

「『その代りお兄さんにも君の大事なものを一つちょうだい』って、そう持ちかけた

「そしたら、驚くことに『じゃあ私をあげる』って言いだして
「びっくりだろ?
「『花嫁さんに行けるくらいお姉ちゃんになったらお兄さんと暮らす』ってね

「何で代償が無くちゃいけないかっていうのは……えっとつまり
「神様っていうのはさあ、時として人より規則に縛られてるモノなんだけど
「その中の規則の一つで“等価交換”っていうのがあって……

「——ああいや別にどこぞの錬金術師の兄弟の話とかの話じゃないからね?

「そんでこうなっちゃったってワケ

「何かご質問は?」

 質問しかない場合はどうすればいいですか?

ろく ( No.19 )
日時: 2017/01/06 13:07
名前: 真珠を売る星 ◆xlDLNzYf9o (ID: 9E/MipmP)

10年前……私の記憶が途切れた——10年前。
 そうだ、確かに10年前、私はここに居た。
 ——さらわれた。
 この人に。このお狐様に。
 いや、正確には連れて行ってもらったのか。楽しい所に……ここに。

「でも——私に当時の記憶はありませんよ」
「わかってる」
「それで、これから私をどうするんですか?このまま私を誘拐でもするんですか?」
「まあ、それもいいかなーって思ってる」

 いい加減過ぎるだろ。自分でさらっておいて何言ってんだ、こいつ。

「それに、今年15だろ?もう結婚できるし」
「15で結婚できるっていつの話ですか、今は花の平成ですよ」
「え、14くらいで結婚じゃねえの!?」
「できませんね、私が授業で習った限りでは。つーかいつの話ですかそれ。女性が結婚していいのは日本国憲法によると今のところ16歳からです。最低でもあと1,2年待ってください」
「でも十分大人じゃん」
「私まだ子供ですよ」
「どこが!?いきなり自分をさらった相手に散々たかってくるうえ、下駄をメリケンサック代わりに殴ってくる女のどこが子供!?」
「それにまだ義務教育も終えてませんし」
「ナウ●カの漫画を読んだことあるのが大人じゃねえの!?てか義務教育って何!?」
「どこのツンデレ旧・文房具女子高生ですか、しかもさっきと話変わってるじゃないですか。それは精神の話であって法律とは無関係です。ていうかそのボケ、一体何人に理解してもらえると思ってるんですか。そしてなんであなた最初は自称大学生だったのに義務教育を知らないんですか」
「そんな!!斉藤千和さんが嘘をついたというのか!?」
「どんだけ本気にしてたんですか。そしてそれを考え付いたのは某物語シリーズの原作者です。……義務教育のことはもういいんですね」

 ……かなり話が脱線してしまった気がする。一部の人にしかわからないようなボケまではさんでしまったうえ、結構時間が経ってしまった。ここいらでそろそろ本題に戻ろう。

「できれば帰してもらいたいんですけど。りょうしんがいなくなって、私までいなくなったとなったらばあちゃん……とじいちゃんにどんな思いをかけてしまうか……」
「良心が無くなった?」
「確かに血も涙もないとか容赦のよの字も無いとか心臓に毛が生えてるとかよく言われますけど良心が無くなった訳では有りません。両親がいなくなったんです。父と母、合わせて両親です。」
「ウソだろ、聞いてないんだけど!!」
「そりゃあ、言ってませんからね」

なな ( No.20 )
日時: 2017/07/22 23:25
名前: 真珠を売る星 ◆xlDLNzYf9o (ID: 9E/MipmP)

 別に、私の両親は、死んだというわけではない。行方不明になっただけだ。原因不明、現在地不明、ついでに私の今後も不明。そんなわけで、今私は初めてここに一人で来たのだが、記述をすっかり忘れていた。
 私の両親について詳しくは今はめんどうくさいので語らないでおく。
 
その後、私の提案と奮闘によって何とかおばあちゃんちに一時帰宅——一時休戦、となった。

 借りている部屋に一人分の布団を敷くと、私は外着のまま恋しい恋しい布団に倒れこんだ。
 とにかくもう、今日は疲れた。彼が一体何を私に望んでいるのかはなんとなくは判ったものの、これから私はどうなるんだろうか。
 どう——されるんだろうか。
 彼に……あの、おちゃらけた赤い狐に。
 ……ひょっとして、緑の色をした狸もセットでいたりするのだろうか。京都辺りとか。
 ごちゃごちゃいろいろ考えていると、まぶたが重くなってきた。

「もう……お風呂入ろう」

 気怠い体を引きずって、私はお気に入りだった赤い縞模様のリュックを開け、着替えと洗面道具を取り出した。


 翌朝。
 おじいちゃんの軽トラのエンジン音で目が覚めた。……暴走族のバイクのエンジンのような爆音を響かせている。そろそろ整備したらどうかとも思うのだが、あの軽トラがなくてはおじいちゃんの仕事場までは行けないので、きっとこうなってしまったんだろう。
 可哀想なおばあちゃんとご近所の方々。と、おじいちゃんの軽トラ。
 毎朝こんなんなんだろうな、きっと。
 ちなみにおじいちゃんは耳が遠いため、爆音だろうが気にならない。なんという理不尽。

 ふと、ここで。私の右側、すぐそばに人がいることに気が付いた。
 そういや、お父さんのいびきが聞こえない。もう、叔母さんの犬の散歩に行ったのかなあ。叔母さんは朝が弱いし、旦那さんは一緒には来ないから。
 そしたら、私の隣で寝ているとしたらお母さんなんだが、お母さんならもうこの時間、下で朝ごはんの準備をおばあちゃんとしているはずではなかったか。
 それとも珍しく寝坊だろうか。

「おっはーーー!!!」
「……」

 私のお母さんは朝からこんなハイテンションな人ではない。
 思い頭を右に傾けると——枕元に赤い不審者がいた。……にっこにこで。
 あれ……えっと。誰だっけ、こいつ。
 
「あっれ〜、もしかして寝起き悪い感じ?いやー悪いね。俺もこんな朝早くから起きることなんてそうそう無いんだけどさ、……おーい?もしもし?起きてる?おーーいっ!」

 お答えしよう、私の寝起きは結構悪い。
 幼い頃、私のことを起こそうと枕元で大声を出してきた母を無意識で蹴とばしたくらいには。母はその後鼻血が出たそうだ。
 懐かしい。

「おーい、葛葉?葛葉ちゃん?起きてるよな、おおい」
「……あ゛?」
「えっ」
「私は眠いんだよ。折角の夏休みくらい休み満喫させろオッサン」
「オ、オッサ……」

 自然と私の眉間に皺が寄る。

「つーか大体何で女子の寝所に勝手に出入りしてんだテメエ。削り取られてえのか?」
「削りとっ!?どっ、どの部位をですか!?」
「いいから、とっとと出てけ!!」
「ひいっ!?」

 私は枕元(幸いにして戸の側)に腰が抜けて座り込むその人を——
ぐーで殴った。

「ぐぼおぉっ!?
えええええっ!?」

 ごりゅ、と肉と骨の擦れるような気味の悪い音がその人の右頬から鳴った。
 これは正真正銘、人を拳でぶん殴った時の音だ。
 そして右の拳が痛い。
 これもまた正真正銘、人をぶん殴った時の感覚だ。

「せ、せめてパーじゃない!?グーは無くない!?」
「出ていかない方が悪い」

 涙目になって腰を抜かす彼を無視して私は再び恋しい布団の海に潜っていった——。



「おはようございます、松野さん。……何でここに居るんですか」
「あ、おはよう……ございます、葛葉ちゃん」
「……?」

 何故かおばあちゃんちのリビングのソファーで寛ぐおそ松さんが何故か左の頬まで赤く腫らした彼は私を恐る恐る見上げた。

「どうしたんです、その顔。凄く目立ちますけど」
「これは……いや、何でもねえよ。気にすんな」

 おそ松さんはなぜか左側だけ赤い顔を青くしてぶんぶんと左右に振った。
 私が寝ている間に何があったんだろう。
 ……ああ、そういえば。

「そういえば、昨日変な夢見たんですよ」
「ふうん……」
「私の寝室に勝手に入ったおそ松さんをぶん殴って撃退する夢」
「…………」
「しかも面白いことに私が殴ったら松野さん、びびちゃって腰抜かしてるんです、変ですよねえ。たかが中学生の私が松野さんみたいな大人の男性に勝てる訳無いのに」

 おそ松さんの顔がさらに青ざめた。なんかもう赤と青が混ざって気持ちの悪い紫だ。左右で色が違うから、余計に気持ち悪い。
 そして当のおそ松さんは、私と目を合わせないためか、必死にあさっての方向を見つめて冷や汗を滝のように垂れ流している。

「……松野さん?……おーい、松野さーん。おーーい」

 がくがく肩を揺すっても何も反応が無い。
 ……。

「松野さん、ひょっとしてあれですか。私が寝ぼけて松野さんのことぶん殴っちゃったんですか。その顔が腫れてるのは私が犯人ですか」
「……………………」

 返事がない。ただの屍のようだ。

「もしそうだとしたらお得ですよねえ。……なんてったって暴力でコントロールできちゃうんですから」
「ひいっ!!」
「……正直に答えてください、松野さん。その傷は私が付けたものですか」
「はい……」
「ざまあみろ」
「えっ、えええ!?ふつー謝るでしょ!こんなイケメンぶん殴っといて何で傷に塩を塗りたくるようなこと言うの!?信じらんない!え、どういう神経!?」
「私、昨日から気に食わなかったんですよね〜。祭りに行こうとしたら拉致されるし、祭りは”大事な話”のせいで最後までいられなかったし、待ってる間に会った黒猫に鮭おにぎり半分食われるし、財布の残高少ないし、おじいちゃんの耳は遠いし、パソコンの調子悪いし、曇ってるから頭痛いし、そもそも10年も前のことなんて正確に覚えてるわけないし、何より松野さんのその人を馬鹿にしたような笑い方が気に食わない」
「待て待て待て!!!確かに俺のせいなところもちょいちょいあるけど、財布のこととかお前のじいちゃんのこととか頭痛のこととか俺にぜんっぜんかんけーねえよな!!」

 おそ松さんが涙目で訴えてくるが、無視。
 ひどいって?残念だったな、私は良心なんてものは持ち合わせてないんだよ。
 重ねて残念だったな、私にはイケメンという謎ステータスが通じるような普通の目は持ち合わせていない。っていうかそもそもその中の中ぐらいのルックス(つまり普通)でイケメンを名乗るとは何事だ。イケメンを自称するくらいならF6となって来い。櫻井さんごと受け止めてやる(作者が)。

「いいんですよ、八つ当たりですから」
「八つ当たりなの!?八つ当たりで俺、かんけーねえ事で怒られたの!?めっちゃ理不尽!」
「黙ってください。ついでにさっきあなたが関係ないとか言ったものの中に黒猫のこととパソコンのことと10年前の私の記憶について触れなかったのは何でですか?」
「い、いや、ただ単に言い忘れただけだって。……おいおい、そんな人殺しみたいな顔すんなって……」

 おそ松さんが急にきょろきょろと辺りを見回し始める。不審だ、不審すぎる。
私はおそ松さんの頭を押さえつけ、目線を無理やり合わせた。

「うわぁ!?」
「単に言い忘れただけにしたら、やけに挙動不審ですけど?ねえ、松野さん。何隠してるんですか?ねえ、さっさと吐いて楽になりましょうよ。かつ丼でも出しますか?」
「どこのベテラン刑事!?」
「いやだな、話をそらさないで下さいよ。何でさっきから目を合わせてくれないんですか?何か後ろめたいことでもあるんですか?ほら、言って楽になりましょうよ」
「くっ」

「葛葉、起きたんか」
「あ、おばあちゃん」

 突然声を掛けられ、驚きで方がはねる。
 音もなく現れたおばあちゃんは、道の駅に商品を出してきた帰りなのか、かっぽう着を着て、頭には白い手ぬぐいを巻いている。
 そういえば、まだ朝食を摂っていなかった。しかも私はパジャマのままだった。

「朝飯食うか?」
「あ、うん。食べる……」

 ふと後ろを向くと、そこにはもう誰もいなかった。
 まるで、最初から誰もいなかったかのようだ。もはや、私が一人ひたすら幻覚に向かって話しかけていたみたいに思えてくる。

 ちくしょう狐め、後で絶対問い詰めてやる。

はち ( No.21 )
日時: 2017/01/08 12:27
名前: 真珠を売る星 (ID: 9E/MipmP)

「こんにちは」
「げっ」

私が再び彼と会ったのは、正午を少し過ぎてからだった。帽子でも被らなければあまりの熱量にミイラにされてしまいそうな日差しの中、私は再びあの神社に来ていた。
 朝とは逆に、私の方から彼のもとへおもむいてみた。

「げってなんですか。まるで私が怖いかのような反応ですね」
「い、いやあ、別にそんなわけないじゃん……」
「せっかく許嫁が自ら来てくれたんですから、少しくらい嬉しそうにしたっていいですよ?」
「おまっ……、あれの後からどう喜べと!?」
「あれってなんですか。ちゃんと“私が松野さんを寝ぼけてぶん殴ったうえ、八つ当たりをし、そのうえ脅迫までしたこと”って言ってくださいよ。
馬鹿なんですか?」
「自覚ばりばりあるじゃねえか!!そして何で馬鹿にされなきゃいけないんだよ!」
「え?だって脅迫しただけですよ?それにまた会いに来たのはせっかく良い所まで問い詰めたのにまんまと逃げやがったあなたをまた問い詰めるためですよ、
馬鹿なんですか?」
「え?俺また問い詰められんの?」
「当たり前じゃないですか。何で繰り返すんですか。
馬鹿なんですか?」
「あれ以上に一体何をどうする気だよ!?」
「まず前提として何もどうもしていませんよ。
馬鹿なんですか?」
「その“馬鹿なんですか”って固定の語尾なの?地味に刺さってくるんですけど」
「別に、事実確認をしていただけですよ。それしきのことも解らないなんて、
馬鹿なんですね」
「疑問形じゃなくなった……」

 ただ事実確認が終わっただけだ。ここで安心されては困る。なんたって、まだ本題に入っていないのだから。

「んで?結局のところどうなんですか、ロリ松さん」
「確かに昨日はその名前に素直に従ってしまったが、俺の名前はおそ松だ!」
「失礼噛みました」
「違う、わざとだ!」
「噛んだことなど記憶にございません」
「辞職を迫られる直前の議員の言い逃れみたいな言い訳をするな!」
「そんなことはどうでもいいんです。本題に入りましょう。猫とPCと私の記憶について」
「それまだ引っ張るの!?」

 やっと茶番が終わったというのに、俺もうヤダ、帰る!と、いうことを聞かないおそ松さんから今度こそ無理やりにでも聞き出すため、私はおそ松さんの着物の襟を掴——


「……逃げやがった……」

 いや、正確には最初から逃げる準備をしていたのか。
 瞬きをした瞬間、目の前には墓が並んでいた。足元は不安定な砂利道の急斜面になっていて、ちょっと気を抜くと転んでしまいそうだ。お盆だからか、ところどころから煙が見える。
私は、この急な斜面に無理やり作られた四角い石の群れには見覚えがあった。どうやら、ここは私の先祖の眠っている墓地らしい。
 そういや、去年もここ来たな。

 ……化かされた。

 っち、と軽く舌打ちをする。人を化かすのは狐の本分だ。あんなにちゃらくても狐は狐か。
 幸いながら、昼間の墓地にはまだ誰もおらず、一人で「馬鹿」「馬鹿」連発していたところを視られていたという心配はなさそうだ。さすがド田舎。人と呼べそうなものは地中に埋まった死人位しかない。

「……帰るか」

 方向音痴でもある私だが、さすがに実家のすぐ近くのお墓から家へ帰れないなんてことは無いはずだ。……無いはずだ。
 さすがにたった数百メートルの道のりを間違えることは無かろう。


 その後私は、十数分で着くであろう道のりを1時間たっぷりと時間をかけておばあちゃんの家まで何とか帰還した。
 決して道に迷っていたわけではない。
 帰り道の途中にあるコンビニエンスストアとスーパーマーケットの中間のような謎のお店で近所のデブ猫にあげるためのマタタビやにぼしやら新聞をまとめるためのロープやらなぜか壊れてしまったスリッパの替えやら……いろいろ買っていたら時間が経っていただけだ。
 だから、墓地から出ようとしたら見知らぬ山に入ってしまってしばらく遭難しかけたとか、そんなことは決してない。無いから。無いんです。

「あんれ、けえってきた」
「ただいまー。……何食ってんの?」
「トウモロコシ」

 おばあちゃんがでかいボウル山盛りに積まれた湯気を上げる艶の良いトウモロコシと格闘していた。別のボウルにはトウモロコシの白い軸のみがかなりの数積まれている。おばあちゃんの口の周りには幼い子供のように、黄色いかすが大量についていた。ベトベトだ。
昼ご飯を食べ終えてまだ2時間しか経っていないというのに、どんな丈夫な胃袋を持っているんだろうか、このおばあちゃんは。70歳は過ぎていたよな……。
 それはそうとして。本来ならここに居なければいけないもう一人の家族がいない。

「おじいちゃん、昼ご飯食べたっけ?」
「いんや、くってねぇよ」

 早朝に畑に行ってから、半日は経過している。畑仕事って大変なんだろうな、と思う反面朝飯どころか昼飯にも帰ってこないっておかしくないか、と思ってしまう。

「そろそろけえってくるってらよ」

 けえたいに電話かかってきたんだ、とにこにこしている。
 私ですらケータイ持ってないのにおばあちゃんたちは持っているんだ、と少しさびしくなる。まあきっと、お年寄り用の携帯電話なのだろうけど。
 そしてその「そろそろ」っていつなんだろう。私の知っている限り、おじいちゃんの体感時間の「そろそろ」は本来の時間にして1時間ぐらいだったはず。

「2時間くれえ前」

 つけたされた。なんか心中を読まれたような感じで気持ち悪い。いやそれより、おばあちゃん2時間も待ってるの!?諦めたら!?
 ダイニングを覗くと、お盆に乗った一人分の朝食があった。おじいちゃん用の茶碗に入ったお昼ご飯の白米はすでに粒の表面が半透明になり、渇きかけている。せめてラップくらいかけろよと思わないでもないが、2時間も待たせるような人に出すのなら、ちょうどいいのか。
 味噌汁にもなぜかラップはかかっておらず、具のわかめがカピカピだ。しかもわずかに埃が入っている。……でもきっと気づかず飲むんだろうなあ、メガネをかけても新聞の文字見えないって言ってたし。
 ダイニングから出て、おばあちゃんと一緒にトウモロコシをほうばろうとしたその時。
 一人暴走族……ではなく、おじいちゃんの軽トラのエンジン音が近づいてきた。

「ちっ」
「あんれま、ばっどたいみんぐだなあ!はっはっはっはっは!」

 本当に、なんて嫌なタイミングだ。計っていたんじゃないか疑わしくなるくらいに。恨むぞ。
 しばらく待っていると、玄関が勢いよく——ドアが壊れるんじゃないかと思うくらい勢いよく——、開いた。

「あっはっはっはっはあ!けえったぞお!」
「おー」
「…………おかえりなさーい」

 なぜ笑っているんだ。そしてなぜそんなに大声なんだ。
 ……やはり、このおじいちゃんだけは苦手だ。何を考えているか理解できないし、滑舌が酷くて何を言っているのかが解らない。そしてこっちが何を言ってもほとんど通じない。

「おお!葛葉も来とったのか!よし、山行くべ!」
「なして山さ連れてく。葛葉にゃあ宿題が出とんのだ。おめも飯けぇ、飯」
「べごっこに久しぶりに餌やるべ!猫も来てら!」

 おばあちゃんは無視ですか。

「いや、別にいいって……宿題もあるし、トウモロコシも食べたいし。それに、おじいちゃんもお昼ご飯食べなきゃいけないんじゃ」
「トウモロコシなんぞ畑にあっけ、しんぺえすんな!ほれ、こ!」
「いや、だからお昼ご飯は……」
「いつまでそこに立ってんだぁ!行くべ!ほれ!!」

 怒られた。私はいいから昼飯食べろっての。しかもあの言いかただと、「トウモロコシ」以外の言葉は耳に入らなかったようだ。前言撤回、都合のいいことしか聞こえないらしい。本当に、迷惑な。
 しかしまあ、これ以上機嫌を悪くされても面倒だし、仕方ない。

「ごめん、おばあちゃん。いってきます」
「おお、仕方ねえんだ。行ってこ、行ってこ、気いつけろよぉ」

 思っていたことは同じだった。ちょっと悲しそうに笑うおばあちゃんに手を振り、トウモロコシとた食べ終えたトウモロコシの軸を入れるためのビニール袋を持つと、おじいちゃんと畑に向かうため、家を出た。

Re: 狐のお嫁は笑うのか?【妖怪松】 ( No.22 )
日時: 2017/01/09 12:02
名前: 真珠を売る星 ◆xlDLNzYf9o (ID: 9E/MipmP)

ちょっとご報告を…

唐突に申し訳ありません。
今朝起動しましたら、次のお話が全て消えておりました。

戻す当てもありませんので、次に更新できるのは早くても1か月後かと…
ご迷惑おかけします。

もし復旧しましたら、その際はご報告させていただきます。

 今後とも、何卒よろしくお願いします。


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