二次創作小説(紙ほか)
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- わたし×殿(わたしくろすとの)
- 日時: 2017/09/24 17:46
- 名前: 代打の代打 (ID: d/GWKRkW)
本小説は、ボーカロイドキャラクターをモデルにした小説です。この小説のアイディアは、物書きの端くれの自分が、学生時代に作ったプロットが元になっています
別サイト様に投稿させて頂いている小説と同様のものです
がくぽ、リンのカップリングがダメという方は、読まれないほうが良いと思います
登場人物
鏡音リン『かがみねりん』(14) 本編主役。天災で家族を亡くした少女
神威楽保『かむいがくぽ』(33) 大江戸の偉大な統治者。絶対の信頼を得ている
神威恵保『かむいめぐぽ』(16) 神威の妹にして、世話係。リンをかわいがる
神威凛々『かむいりり』(18) 神威の妹で、侍大将。神威と実力を二分する
神威刈『かむいかる』 (15) 神威の妹。民と共に、農作物を育てる
神威粒兎『かむいりゅうと』(5) 神威の弟。兄から民のための心を学ぶ
錬『れん』 (14) 刀鍛冶見習い。リンの亡くなった弟にそっくりな少年
命子『めいこ』 (23) 岡っ引きの頭(かしら)頼れる姉御。神威の飲み友
海渡『かいと』 (22) 城に使える専属調理師、兼、漁師。神威の親友
美宮『みく』(16) 宮大工の娘。美しい彫り物が得意なチャキチャキ娘
琉華『るか』(21) 美しい、芸妓の太夫(たゆう)人気の歌い手
清輝『きよてる』 (28) 寺子屋の先生。リンに、この時代の知識を教える
勇馬『ゆうま』 (18) 神威の身辺警護をする。岡っ引き見習いの少年
衣愛『いあ』 (18) 服屋の腕利き娘。お城専属の仕立屋
彩華『いろは』 (11) 琉華の妹分。三味線の腕は秀逸
秘呼『ぴこ』 (15) 占い師。豊作か否か等を占う。驚くほど当たる
照都『てと』 (31) 電力を復活させた科学者。風力発電の管理人
ゆかり(18) 神威や命子がひいきにする、飯屋の娘
ずんこ(17) 街一番の菓子屋の看板娘
美器『みき』 (17) 陶器職人の少女。美しい器を作り出す
湯気『ゆき』 (6) 風呂屋の娘。清輝の生徒
アル (25) 米国より来た、陽気な外交大使
- Re: わたし×殿(わたしくろすとの) ( No.16 )
- 日時: 2017/09/26 09:49
- 名前: 代打の代打 (ID: d/GWKRkW)
わたしはその右横。左隣に恵姉。テーブルの大きさに、改めて驚く。真ん中まで、とても手が届かない
「しかし、琉華君まで参上するとはね。本当に運が良い」
「琉華おねえちゃんのお舞、久しぶりに見られるね。わ〜楽しみ〜」
「ふふ、皆様に楽しんでいただけるよう、気を張って舞いますわ」
照都さんの声。昨日より高く弾んでいる。秘呼さんの見た目、仕草は完全に女の子。あった気がする。わたしの時代『男の娘』という言葉が。まさにそのまま当てはまる。二人が話題に上げる、琉華さんの膝の上。錬君が抱かれている。これ以上無いくらいに、照れているのが伝わってくる
「デハ、ヒツマブシ(ひまつぶし)ニMeのメリケン土産Give you」
とても楽しそうに、アルさん。包みや、風呂敷を解く。いたな、わたしの時代にも。人が良くて、陽気な大使さん。国は違って、南の方だったけれど
「オトノサマニSuit(スーツ)メリケンノ、正装デス」
見るからに上等な、ダークグレーのスーツ。ネクタイ、シャツ、革靴まで一式が揃っている。洋服を見るの、なんだか久しぶりな気がする。たった2日前まで、当たり前に見ていたのに
「これはアル。大層なものを済まぬのぅ」
「No problem 着方のメモモ〜ツイテマス。ホカミンナサンニ、モロモロ〜。コレred wine、white wine and champagne(赤ワイン、白ワイン、シャンパン)ブドウノお酒デ〜ス。コノギヤマンGlassモツケマスネ。天歌屋サンでツコテクダサイ」
「わ、キレ〜な入れ物。ダンナ、ありがと〜」
多分ワインと、グラス。風呂敷から取り出すアルさん。破顔するゆかりさん
「ドウイタシィマして。コレ、Chocolate、Cheese cake and brownie(チョコレート、チーズケーキ、ブラウニー)メリケンSweetsデス。Ship(ふね)ノシェフニ作らせマシテ〜」
取り出されるお土産。わたしも、初めて見る、本場米国のお土産。みんな興味津々
「へぇ、葡萄で酒なんて造れるんだな」
「Yes オカシラサン。コチラ、ツマミノBeef jerky(ビーフジャーキー)モ。トテモ美味いデスヨ〜」
興味深げに酒瓶を見る命子さん。あれだけ嬉しそうってことは、お酒好きなんだろうな
「コレ、タユウサンニ、Platinum tiara〜(プラチナティアラ)似合うンデナイカト」
白銀に、色とりどりの宝石が散りばめられた。とても綺麗なティアラ。きっと琉華さんによく似合う。受け取って、最大限のお礼を言う琉華さん。と、ものすごい音と共に、階段を駆け上がって来る音がする
「ゆかりごはんっ、神様に呼ばれて来たぜっ。うまいもん用意してんだろうなって、神様、うわ皆様。そそそ、そうか。神様が居るってこたぁ、皆様も」
部屋の中に、ほぼ転がり込んできた美宮さん。今日もねじり鉢巻きは相変わらず。半被(はっぴ)は、綺麗な薄水色。慌てふためいている。神威の一家総出だとは、予想していなかったようだ
「はっはっは。美宮よ、本日も大層元気良しじゃの」
「すこしゃ〜落ちつかねぇか、美宮〜」
殿も命子さんも愉快そうに笑う。素早く立ち上がる恵姉、美宮さんのもとに、寄って
「大工様っ、楽しみましょ〜。ほら、こっちこっち」
「めめめ、恵、っちゃん」
恵姉、遠慮無く腕をとって、自分の隣に座らせる。美宮さんは遠慮しがち。でも、二人とも、すごく楽しそう。こうして、改めて並ぶとわかる。二人が同い年だということ。恵『ちゃん』は、きっと恵姉が呼んでほしいと言ったんだろう。そのうちに、食器や杯などが運ばれてくる。カクカクシカジカ、セットしてくれる。どれも美しい。見慣れない物もある。1メートル近い箸やヒシャク。長くて、大きめのシャモジなんかがそうだ。部屋の隅に、何か重そうな黒い器具も置かれる
「殿さ〜ん、皆たま〜。こ〜んにちわ〜」
衣愛さんが華やかに参上する。琉華さん、恵姉に次ぐ華やかさ
「衣愛殿、待っておったぞ。公務着も世話になったな」
立ち上がって迎える凛々姉
「どういたまして〜凛々たま〜。わ、琉華たまに、大使たままで。み〜んな大集合だね」
「Yes シタテヤサン。チョイ久々デ〜ス。前回、お土産ニモロタ着物、MeのFamily、メッチャ喜んでマシタヨ。Me コンカイノ大和訪問、Berry good timingデシタ〜ネ」
「まぁ、しばらくぶりですわ、衣愛様。相変わらず可愛らしくあらせられますわね。お着物の事、いつもおせわ様です。もぅ、衣愛様も、妹に欲しいほどですわぁ」
集まる殿ファミリー。そこでお寺の鐘が、一つ鳴る。多分、回数で時間を知らせてるんだろうと思ってた。今気付く、一つは何だろう。さっき、11回鳴ったから、1時じゃないよね
「殿、今の、一つの鐘はなに〜」
「ああ、半時(はんとき)たったと言う事じゃ。今は十一と半じゃの」
「そうなんだ」
つまり、11時30分ということ。そこで、もう一つ疑問
「殿、なんで時間がわかるの〜」
「かの寺院には、過去の技術、時計というものが残っておっての。それにて、刻限を知らせてくれるのじゃ。僅かに残った、有用な文明は活用せんとのぅ」
納得である。時計が残ってるのか。と、聞こえてくる、大勢で階段をあがる足音
「お〜揃ってんなっ。大将と縒り(より)ぃかけてきたぜ〜」
「え、わぁ〜すごい、なにあれ〜」
「そうか、リンは初見じゃのう」
たくさんの料理人さんが、海渡さんと共に運んできた物。大きな大きな一枚皿。巨大な蠅帳(はいちょう)の向こうに盛られた、様々な料理。良くは見えないけど、すごい。丸テーブルに置かれる
「おわ〜。美味そう(うんまそう)なニオイが。っか〜たまんね〜。早く始めようぜ」
「おっしゃぁ。カンペイ(乾杯)して、始めようじゃねえか」
勇馬さんが手をもみ、美宮さんがケシカケル
「これこれ、まだ、輝と湯気が来ておらんぞ。しばし待とうのぅ」
「待つぅ、おりゃあ、気がみじけ〜んだ神様。んなごちそう目の前にして待つなんざ—」
「美宮。貴様、独りよがりは程々にせよ」
いなす殿に、噛みつく美宮さん。それをさらに諫める凛々姉が凄む
「ぅぅ。で、でもよぅ、侍あねぇ」
納得いかない表情の美宮さん。頬を膨らます。その時、階段を駆け上がる音が聞こえて来て
「お、来たんじゃあねえか」
海渡さんが振り向く。現われたのは二人
「お、おまったせしました、みなっさん」
「おそくなってごめんなさい。せんせい、ありがとう」
湯気ちゃんをおんぶした、清輝先生。息を弾ませて入ってきた。学校から、湯気ちゃんを背負って走ってきたんだろう。湯気ちゃんを降ろしてあげる。先生も湯気ちゃんも。格好はまるで、大正時代の書生さん。先生は黒の上着に、灰色の袴。白のシャツ。湯気ちゃんは、薄黄色の上着に、白の袴。白のシャツ。先生が、生徒の湯気ちゃんをおんぶして走る姿。想像をすると微笑ましい
「おい、輝先、おせえよ。もたもたしやがっ—」
「まごつくなよ、清輝のダンナ。メシがっ—」
勇馬さん、美宮さん。ステレオで文句を言い始めた二人。さすがに、命子さんがドツク。目がつり上がる
「手前ぇ等、食い気に押されて、先生さんの役目忘れてんじゃねえ。意地きたねえぞ。さっきから聞いてりゃあ、手前のことばかりを—」
「命子、その辺に、の。祝いの席じゃ、大目に見よう、の」
事を、丸く収めにかかる殿が苦笑い。この和やかなみんなの一員にさせてもらえる。そう思うと、気持ちが上を向く
「すっすみません。昨日葛桜の包みを開けたところ。中に御殿様からのお言伝を見つけまして。なっなんとか午前で講義を終えることが出来ました」
「それは大役でしたな先生。よくぞ参った、湯気。粒の隣が空いておるぞ」
先生の元に寄って行く凛々姉。湯気ちゃんの頭を撫でてから、粒兎君の横に座ることを促す
「ありがとうございます、りりねね。りゅうちゃん、おまたせ〜」
「ゆきちゃん、ほんじつは、けっせきしてすみません」
湯気ちゃんが、粒兎君の席に駆け寄る。腰掛け椅子を引いて、座らせてあげる粒兎君。とっても可愛い二人、仲良しだと分かる。と、凛々姉が素早く先生と腕を取る
「先生、お待ち申していた。さあこちらへ」
堅く腕を組んで、半ば強引に。先生を自分の席の隣に連れてくる
「あ、凛々さん、待ってください。私などがこのような上座に、相応しくないですよ」
眼鏡がズレる先生。慌てている
「何を言われるか。いま、大江戸の少年少女、道を説くは先生が一番ではないか。剣術の談義も深めようぞ」
「凛々の言うとおりじゃ輝よ。本来、上も下もないからの。これで全員揃ったの、海渡も席に、の。すまぬが、皆は一度下がって貰えるかのぅ」
料理人さん達に告げる殿。いかにも申し訳なさそうだ。とんでもない、お声がけをまた。言い残し、下がっていく皆さん。凛々姉が立ち上がり、障子戸を閉める。告げられるんだ、わたしのことが
「さて、宴を始める前、皆に告げておくことがある」
「なんでぇ、まだお預けか神様、おりゃあもう—」
立ち上がる殿に、また噛みつこうとする美宮さん。わたし、やっぱり緊張する
「おい」
「—っ」
凛々姉に思い切り睨まれ、押し黙る。静かになる部屋
- Re: わたし×殿(わたしくろすとの) ( No.17 )
- 日時: 2017/09/26 09:50
- 名前: 代打の代打 (ID: d/GWKRkW)
やっぱり不安が込み上げる。わたしはどうなるんだろうか、等と
「すまんの、だが聞いてほしい、の。今ここに居る、ワシが腹心の友と思うておる皆に知っておいてほしいのじゃ。リンの事を、の」
「越後様の末娘とお伺いいたしましたわ、御館様」
「琉華、すまんの。それは方便なのじゃ」
どよめくみなさん
「どおいうことでぇ、殿様。越後大将が娘。凛々姫の妹じゃないのかよ。いや、そうだ。確か俺っちには、初め客人って〜言ってたよな『訳あり』だとも」
「うむ。リンはのぅ、過去の世界より参った。二日前の、就寝中のワシの上に降ってまいった」
目を丸くして立ち上がる海渡さんに、殿が告げる。同じように、身を乗り出す錬君。抱いている琉華さん、扇で口元を隠す
「っす、殿さん、じゃあ、あの日聞いたすげぇ音って」
「うむ、リンが降って参った音じゃの、勇馬。過去より来た事は、輝と、照都もお墨付きじゃ。秘呼の水晶もそう導きだしたようじゃの」
「うん。他に説明のしようがないのさ。リン君が所持していた物も、この世界には『ありえない物』だった、ね」
腰掛けたまま、右手のひらを上げ、天井を仰ぐ照都さん。左手を背もたれに回す。清輝先生が眼鏡をつまみ、立ち上がる
「私が、御殿様の相談を受けたときにも、確認いたしました。過去の世界で、リンさんは家へ帰ったそうです。しかし、自室に入ったとたん、落下。次の瞬間、御殿様の面前にいらしたそうです」
秘呼さんが、両手を交わらせる。その手には水晶玉。黒と碧
「おば〜の形見の水晶玉。碧水晶と茶水晶。ぼくに教えてくれたんだ。おリンちゃんは『生きるため』にここに来た。昔々、の時代から。大陥没がおきる前、おリンちゃんは大変だった。時を超え、幸せを感じるためここに来た。ぼくたちと一緒に、生きるため」
信じられないモノを見るかのようなみんな。事態が飲み込めていない様子も
「信じられんのも無理はないの。ワシとて、なぜそのような事が起きたのかは理解できぬ。がのぅ。事実、いまリンは此処におる。不可思議な出来事というのは、まま起こるものじゃ。ワシらの考えなど及ぶべくもなく、の」
目を細め、天井を仰ぐ殿。低くうなる声、見やるとアルさん。初めて見る真顔
「コノ世界ニハ、Mystery タクサンデス。アル日トツゼン、姿がVanish(きえる)ソナコトモアリマス。居なくなった者が、カエテクルコトモ」
「おりゃあさっぱりだぜ神様。つまり、リン姫はぁ何もねえとこから降ってきたんか。過去ってのは昔ってことか〜」
美宮さんの目が回っている
「ことの次第は、話したとおりじゃ。リンは、時を超えてきた。このワシの前へ、の。それを皆に知っておいてほしくての。しかしの。ワシは、リンを家族として迎えたい。ワシの元に、時を駆けやってきた。それには必ず理由がある。ワシは感じておる」
静まりかえるみんな。受け入れて貰えるか、不安になる。すると、凛々姉が立ち上がりわたしの後ろへ。肩に手がかかる
「皆よ、リンは拙者の妹だ。兄様が申したよう、時まで越えて。兄様の元にきたのだ。何ぞお導きがなければ、こんなことはないであろう。誰がなんと言おうと、拙者の妹だ。リンに初見した時に、拙者は思うた。我が妹と」
「凛々姉様だけのじゃないよ〜。わたし達の妹だよ〜」
凛々姉が、恵姉が。味方になってくれる。なんだか凄く安心する
「まぁよう、難しいことは分からねえや。俺っちのお粗末な頭じゃ〜よ。でも、別にいいじゃねえか。嬢ちゃんが、どこから来たって。俺っち達ゃ今、同じ大江戸で生きてんだ。何も問題ね〜だろ」
「あっしも、海渡に賛成さね。どこで生まれて、どう生きてきたか。声を聴けば、解るってもんだぁ。リンのお嬢は悪党の類いじゃねぇ。あっしは今日、お嬢の言葉聞いて思ったぜぇ」
うでぐみの海渡サン、その肩に手を乗せながら命子さん
「そっか。リンたんそんなことがあったんだ〜。リンたん、安心して。ゎたし、もう、リンたんのお友達だよ。ゎたしだって、神威の殿さんに連れてきて貰って生きてるよ。今があるよ」
「衣愛も苦労したこと、皆も知っておろうの」
「すまんね。皆の身の上は、自分の方から、リン君に伝えさせてもらったよ」
照都さん、片手を振る
「リンもの、つらい身の上だったのじゃ。リン、話しても良いかのぅ、それとも、自らはなすかの」
「殿、わたし、話す」
立ち上がり、わたしは話した。大好きな家族を、天災で失ったこと。引き取られた先で、邪魔者扱いだったこと。大江戸に来て、生きようと思ったこと。楽しいと思えたこと。途中からは泣きながら。話している最中、ずっと殿は、わたしの肩に手を置いてくれた。すべてを話し終えたとき、しばらくの静寂が訪れる
「そっか、姉ちゃん大昔から来たんだ。オレと同じ名前の弟いたんだ。それでかな。初めて会った時『姉ちゃん』って思ったの。オレ『姉ちゃん』って言葉、大っ嫌いだったのにさっ。姉ちゃんに使うと、暖かい気持ちになるんだ。オレが一人になったの、姉ちゃんが一人になったのと同じ年。神威の殿様に、家族にして貰って大江戸に来た。師匠の弟子にしてもらった日、言われたな『お前は生まれ変わったのだ』って」
その静けさを払ったのは錬君の声。自分の身の上を話す、声が震え始める。琉華さんが背中をさする
「オレ昔、本当に姉ちゃんの弟だったのかな。あの日、ホントに生まれ変わったのかな。姉ちゃんの弟になるために。姉ちゃん、オレ、姉ちゃんの弟だから。オ、オレ—」
声が詰まる。泣き出す錬君。琉華さんが、もらい泣きで抱きしめる
「Me ハ国に還れば、アタタカク迎えてくれるFamily (ファミリー)オトノサマイウ『カゾク』イルヨ。大和クレバ、オトノサマタチガFamilyデス。リンサン、ドコニ〜モ迎えてくれるFamilyイナイ。ソレデハ悲しスギマス」
アルさんが、盛大に泣いている
「おらもぉ、難しいことはわかんねぇ。でんも〜リンちゃぁん。おら達と生きようさぁ〜。おらも〜、お殿様ぁいながったら、今、大江戸で生きてねさぁ。おらのずんだ餅、いつでも食べにきてな〜」
「別に、生まれも何も知ったこっちゃねぇや。おりゃあ、江戸城の門前にホッツケ投げられていた(放り投げられていた)身だぜ。リン姫、気にすることねえ」
「わっちも同じさね、リン様。口減らしで、帰る家も、迎てくれる家族もありんせん。この大江戸がわっちの故郷。琉華姉様が姉さま。芸妓の、大江戸の皆様が家族。楽様がその家元様でありんす」
ずん子さんは微笑みながら。美宮さんはまくし立てながら。彩華ちゃんは泣き笑い。それぞれ返してくれる
「あっありがとう、ございます。みんな、ホントに、ありがとうっ」
安堵感。受け入れてくれる安心感。いよいよ、涙腺が崩壊する
「皆、ありがとうの。では、改めて聞かせての。リンを迎えること、ワシの、いや、神威の妹として。表向きは『越後の龍が末娘』としての。皆の、ワシらの家族として。友として。迎え入れる事に異論はないかの」
「ったりめ〜だぜ、殿様」
「上様のお考え、異論はないさね」
海渡さん、握り拳で。命子さんは片目をつぶる
「っす、殿さんに反対なんてしないす。俺も今は、番所のオヤジが、アニキが、あねさんが。マジの家族っす。その総頭(そうがしら)が殿さんっす。殿さん、俺感謝してっす。あ、あざあっす」
「私も、今は身寄りがありません。御殿様を筆頭に、皆さんを家族と慕っています。リンさん。分からないことがありましたら、いつでもご相談下さい。力になれる範囲で、お支え致します」
勇馬さんまでが泣きはじめ、清輝先生も鼻声だ
「リンちゃん、ずん子ちゃんのお餅だけじゃなくてさ。うちの店のご飯、いつでも上様と食べにおいで〜」
「りんねね、ゆきのおふろやさんにもきてね」
ほっとして、心の底から。泣き崩れる。その背中を、泣き止むまで。殿が、姉が、さすり続けてくれたありがたさ。みんなに受け入れてもらえるありがたさ。2日前まで、感じることができなかった幸福感。みんなの優しさに包まれて、わたしは大江戸で生きていく—
- Re: わたし×殿(わたしくろすとの) ( No.18 )
- 日時: 2017/09/30 12:38
- 名前: 代打の代打 (ID: d/GWKRkW)
泣いて泣いて、泣き止んで。精一杯笑顔を見せるつもりで。まずは殿に向き直り、立ち上がる
「殿、これからよろしくね。わたし、殿の妹だからね」
「ほほ、リン。よろしくお願いの。リンは、ワシの妹じゃ」
差し出される殿の手。わたしは両手で握り返す。嬉しくて、飛び跳ねてしまう
「おうっ嬢ちゃん、そんなに元気良しだったんだな。初めて会った時たぁ、別人じゃねえか」
「仕方ないさ海渡。いきなり、何時何処だかも分からねぇ世界に来ちまったんだ。不安にもならぁね」
「それだけではありませんわ、海斗様、命子様。先程の身の上を拝聴すれば、思いあまりますわ」
「うん。オレもつらかったけどさ。でも、姉ちゃんが亡くしたの、大好きな家族だったんだろ。元気になんてなれないよ」
顎に指を当てた海渡さんの、今度は背中を二度たたく命子さん。錬君の背をさする琉華さんと、気落ちする錬君。錬君、琉華さん。二人の境遇など、わたしより、よっぽど辛かったろうに。みんな、それぞれ辛かっただろうに。わたしのせいで、暗くしちゃいけない
「わたし、今すっごく嬉しい。だってみんな、わたしを受け入れてくれた。迎えてくれた。仲間に、友達に、なってくれた。ありがとう、ありがとうみんな。これからど〜ぞよろしくね」
みんなの方を向き、思いっきりあたまをさげる。みんなの暖かく華やかな声が帰ってくる
「うえるかむ、と〜、りんちゃんだよ〜。さあ、歓迎の宴会、はじめよ〜」
「Yes シンキ〜クサイノNoデス。ケイキ良くEnjoyマショウ」
「おっしゃあ、上様、鏡開きといきやしょう。海渡、料理だ」
「応、命子。お〜いみんなぁ、メシ持ってきてくれ〜」
刈姉、アルさんがはしゃぎだし、命子さん、海渡さんはそれぞれ準備に取りかかる
「っす、蠅帳取るす。ゆか、ずん手ぇ貸せ」
「命令すんな勇馬このやろ〜」
「あいなぁ〜勇馬のおにぃ」
「じゃあ、ぼくは飲み物容器を配っちゃおう」
瞬く間に華やかになる。秘呼さんが、グラスやジョッキのような陶器を配ってくれる。勇馬さん、ゆかりさん、ずん子さん。三人がかりで蠅帳を取る。出てきたのは大きなお皿。テーブルと同じくらいある。とてもキレイな絵大皿
「この大皿もの、美器が焼き上げたものなのじゃ」
「えええ、こんな大皿作れるのっ。どうやったの〜美器さん」
「ふふふ。一つ一つ、反応が嬉しいな、娘。だが、製法は秘伝だ。お師匠からの言いつけだ。破ったら、化けて枕元に立たれてしまうだろうからな」
その大皿の上、様々な料理。わたしと同じくらいの大きさの魚。クリスマスのチキンのような鳥料理。野菜も盛りだくさん
「ゎ〜、大盤振る舞いだね〜、海渡たま〜」
「ごあ〜、大ご馳走(ごっつお)だ」
料理が見えて、目が輝く衣愛さん。美宮さんは、お皿に食らいつく勢い
「刺し盛りとにぎり寿司は今持ってくるはずだぁ。生野菜の盛り合わせは、胡瓜、大葉、萵苣(レタス)赤茄子だ。魚はアラの丸焼き。鰻の串焼き、キモの串焼き、さざえの壺焼きもあるぜ。伊達巻き、昆布巻き、白身魚の鳴門巻き。煮染めは、宇治京の生麩入りだ。生湯葉、薬味は好みでな」
海渡さんが、料理の献立を解説してくれる。見た感じ、サラダ、赤茄子って、トマトのことだ。質問するのはアルさん、天歌屋さんの味に惚れ込んでる人
「カイトサ〜ン、Tempuraノネタハ、ナンデ〜スカ〜」
「おう米国っち、天麩羅は、穴子、蓮根、南瓜に茄子。サツマイモとエビもな。天歌屋のオヤジが揚げた絶品だぜ。おひたしは茄子、ほうれん草、小松菜は、油揚げと和えた。精進寿司は盛ってある。嬢ちゃん、腹一杯食ってくれよっ」
胸の奥が暖かくなる。これだけの料理を、みんなのためとは言え、わたしなんかの歓迎会のために用意してくれたんだ。カイトさんも、天歌屋さんも
「ありがとう〜海渡さ〜ん」
握り拳を掲げ、再び料理の献立へ
「奮発して、今朝シメタ、鶏の照り焼きが三羽。煮卵もな。焼いたトウキビも、今持ってくるはずだ。いも煮とラーメンもな。お重のずんだ餅は、菓子屋の娘特製の品だぜ」
「本当に、おいしそうですわね錬さん」
「オレお腹すいちゃったよ、琉華さん」
顔をほころばせる、琉華さんと錬君。結構お似合いだよね、なんて思う。大皿に、直接置かれた料理。汁気の多い料理はまた別の器に入れられ、お皿の上。でも、真ん中辺りの料理、どうやって取るんだろう。素直に聞いてみる
「殿、との〜。料理、どうやって取るの。真ん中、箸がとどかないよ」
「ああ、この、の。長箸や大柄杓、長挟みを用いるのじゃ」
「あ〜、そのためなんだ。でもでも、こんなに長かったら、自分のお皿に置けないよ」
「リンちゃん、あのね。他の方に頼んで、自分のお皿に取って貰うんだよ」
そうか。そして、自分のお皿に置いて貰うのか。殿と恵姉に教わる
「縁固め、縁分け。大和の風習だ。遠慮無く申すが良い、リン。手前の料理はこうして」
テーブルの台を回す凛々姉。そうか、昔一度だけ食べた、中華屋さんのテーブルも回った
「これも、食べたいご飯があったら、頼んで回して貰えばいいよ〜りんちゃん。いつでも、かるに言ってね〜」
「とりばしは、みんなのせきについている、くろのおはしです」
「他の者を思えばこそ、の方法じゃ。己のことだけを考えているといかん、という戒めもこめられておる、の」
そうか。自分の事だけ考えたら食べられない。他の人に『とってあげる』『とってもらう』心配り。殿の言う感謝の心があらわれるイタダキ方。わたし、自分の事ばっか。反省ハンセイ、恥ずかしい。店員さん、料理人さんによって。運ばれてくる、お寿司と刺し盛り。桶いっぱい、ザルいっぱい。刺し盛りの、ザルの下には砕いた氷。鮮度を保つため。飲みものが入っている、わたしの時代で言えばピッチャー。白い陶器が氷で満たされた大桶のなかに入れられる。部屋のはじ、鉄の容器に入れられるのは、真っ赤に焼けた石。運ばれてくる鍋が置かれる。なるほど、冷まさない工夫
「さぁさ。整いました、上様、リンのお嬢。ご一家様で鏡開き。宴の幕を上げようじゃ〜ありゃ〜せんか」
樽酒の前、命子さんに呼ばれる。神威のみんなとわたし。樽酒の前に勢揃い
「ではリン、共に持とうかの」
「は〜い殿〜」
殿わたし。恵姉凛々姉。刈姉粒兎君。それぞれ、紅白の紐が結ばれた木槌を手持って
「では、僭越ながら発声の音頭を」
命子さんが、歌舞伎役者のようなポーズで
「神威が皆様の発展と輝かしい未来を。リンお嬢の素晴らしい前途、また大江戸への歓迎を祝して。大江戸の平穏を祈って。一本締めでいきやしょう。ぃよ〜おっ」
手拍子。同時に振り下ろす木槌。酒樽の蓋が割れる。起こる歓声と拍手。殿と見つめあい、微笑みあう
「さあ〜乾杯といこうじゃね〜か。殿様、嬢ちゃん」
「うおおお、おりゃあ待ちくたびれたぜ」
樽のお酒を入れ物に注ぐ、殿と命子さん。さりげなく、手伝うわたし。お酒は濁り酒。少し、とろりとしている。漂ってくるいい香り。お酒が飲めない、わたしでも、良いお酒だと分かる。容器を入れて冷やすため、氷で満たされた桶を持つ、ゆかりさん
「しかし、美しい銚釐(ちろり)じゃのう」
まぶしい物を見るかのように、チロリを掲げる殿。うす銀色、鳳凰の柄が施された、白地のチロリ
「でしょ〜神威の上様。美器ちゃんがね、今日の宴に、って持ってきてくれたんだよ、リンちゃん」
「すご〜い。美器さんが作る器って、どれも本当に綺麗〜。チロリっていうんだ、それも初めて知った。一つお利口さんになった〜」
満たされたちチロリを一つ、受け取りながらゆかりさん。桶ごと、別の店員さんに手渡す
「機をみて、城に献上しようと思ってたんだが。娘を迎えるめでたい席でな、お披露目しようと図々しく、ね。本来は、酒を温めるための器だが、使い方にとらわれてはいけないね。冷やすのにだってもってこいだ」
「これはまた、嬉しい不意打ちじゃ。ありがとうの、美器」
「ありがとうございます、美器さん」
わたしも一つ、チロリを受け取り、ゆかりさんに手渡す
「じゃがの、城にはまだ、美器や先代が作り上げてくれた美しい器が幾つもある。そこでの、この銚釐は、ここ、天歌屋で使うて貰うのはどうかのぅ」
会話を聞いていたゆかりさん、満遍の笑顔
「いいのぉっ、上様〜ぁ」
「もちろんじゃ。美器が構わなければ、じゃがの」
クールだと、わたしが勝手に思っていた美器さん。興奮した様子で
「断る理由が見当たらないよ、総大将。ぜひ使ってくれ、飯屋様。娘の反応も本当に嬉しい。こんなに褒めて貰えるのは、久方ぶりだよ」
年相応、美宮さんや恵姉と同じように笑う。とっても可愛い笑顔だと思った
「やったあ。後で『神威御用達一品』の一筆お願いね〜」
ものすごく嬉しそうなゆかりさんは、小躍りする。大人組の席にチロリがゆきわたった頃
「童衆(わらし)と、飲めない連中、美味い飲み物作ったぜ〜。桃の果汁を、牛の乳で割ったんだ。米国っちに教わった飲み物だ、甘くてうめぇぞ」
海渡さん、ビールジョッキのような、白い陶器に飲みものを注いであげる。喜ぶ湯気ちゃん、粒兎君。衣愛さんはゆかりさんと注ぎ(つぎ)あって喜ぶ
「さ、リンお嬢は固めの杯(さかずき)といきやしょう」
差し出される、朱塗り、美しい絵模様が施される大きな杯。30センチくらいありそうだ。無意識に両手で受け取って、思う
「あ、で、でも、わたし、お酒飲めないよ命子さん」
「ふふ、リンよ、案ずるな。甘州屋の甘酒じゃ。美味じゃぞ」
「リンお嬢、あっしは岡っ引き。取り締まる側ですぜぇ」
にやり顔の命子さん、扇で口元を隠し、微笑む殿
「そっか、そうなんだ〜。わっ、それなら楽しみ」
「口に合うといいんだけんどなぁ、リンちゃ〜ん」
ケロリと態度を変え、図々しく杯を差し出す。甘酒を注いでくれる命子さん。ずんこさんが、心配そう。殿には、恵姉がお酒を注いでいる
「It’s a show time」
アルさんがシャンパンの蓋を勢いよく飛ばす。溢れる中身
「おお、これは良い香りだな。アル君、自分はそれをいただけるか」
「Yesカガクシャサン、今日ハDrink heavy(痛飲)シマショウ」
「あっしは、この赤い葡萄の酒をいただくか」
「俺っちは白い方にしてみるかな」
全員に飲み物が行き渡り、店員さん達が、再び一回に下がる頃
「リンちゃん、神威の上様。皆も、前掛けだよ〜」
ゆかりさん、エプロンを配ってくれる。よく見ると、そこかしこにうっすらと染み
「一張羅、汚したら嫌だもんね〜」
こういう気遣い。天歌屋さんが、みんなに愛される由縁だろうと感じた。殿が一番の上座なんだろうな、時計回り、殿→わたし→刈姉→粒兎君→湯気ちゃん→錬君を乗せた琉華さん→彩華ちゃん→海渡さんのすぐ隣に命子さん→秘呼さん→勇馬さん→アルさん→照都さんは殿の正面→衣愛さん→ゆかりさん→ずん子さん→美器さん→清輝先生→凛々姉→美宮さん→恵姉で、殿に戻る。中華屋さんみたいな○テーブルだから、みんなの顔が見えて、嬉しい。だけど改めて大きなテーブル。わたしが縦に、二人くらい寝そべっても余りそう
「ありがとうのゆかり。では、皆よ杯を」
エプロンを着けた殿の発声、みんなが杯を掲げ、立ち上がる
「リンを、ワシらのもとへ迎え入れようぞ。末永く、共に生きようの。ワシらと、皆と、大江戸と。リンの行く末に幸多きことを祈ろうの。では、杯を献じようか。リン、献杯の発声をの」
「うん。殿『ケンパイ』って言えばいいの」
「左様じゃ。尊崇の念を込めてのぅ。お互いを敬うと言うわけじゃの。お互いの様で今、生きておる事を感謝するのじゃ」
さっきから、わたしを気に掛けてくれる殿。その眼差しが優しいのが、何よりも嬉しい。益々機嫌よく、わたしは
「わかった〜。え〜っと、みなさん。これからよろしくお願いします。わたし、大江戸に来ることができて良かった。これから、みんなの役に立てるようにもがんばります。それじゃあ、せ〜の」
「「「「「「「「「「けんぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい」」」」」」」」」」
掲げた杯。顔の前に降ろして、口を付ける。おいしい。とてもおいしい。甘さがすっきりとしていて、心地良い。特有のとろみが口の中をくすぐる。冷えているのも相まって、一気に飲んでしまう
「っぷあ〜おいし〜い」
「は〜はぁっは。これはリン、見事な飲みっぷりじゃのうっ」
「よかっただぁ〜。リンちゃぁん、口にあったみたいでぇ」
「良いぞリン。それでこそ、拙者の妹、神威の一族だ」
お酒を飲み干した殿が豪快に笑う。桃牛乳を飲みながら、ずん子さんが喜んでくれ、凛々姉が破顔し、甘酒を飲む
「ぐぅあ〜。コイツはうめえっ。良いモン教えてくれたな、他所の(ヨソの)」
「Delicious(デリ〜シャス)デショウ。ダイクサン」
一気飲みの美宮さん。口の周りに、白ひげができている。ふいに、殿が立ち上がって、みんなにお酌を始める。お殿様が、立ってお酌をする。殿だから不自然に見えないけれど。もし、時代劇の殿様が、同じ事をしたら。もう、コント以外の何でも無い。これが、みんなに愛されて止まない、殿の姿。謙虚で偉ぶらない、どこまでもみんなを思いやる。やさしい優しいお殿様。最後、わたしの席に来てくれて
「リン、楽しもうの。これからも、末永くよろしくの」
甘酒を注いでくれる。殿の優しい目が心地良い。一番初めに、わたしを受け入れてくれた、優しい人
「ありがとう、殿。わたし、殿の上に降って良かった。ありがと。ほんとありがとう」
「うむうむ。泣かずとも良い。さあ、楽しくいこうぞ」
わたし又、泣いていたらしい。涙を拭ってくれる殿。あれぇ、こんなに泣き虫だったかなぁ
「リンちゃん、本当に安心してくれたんだね。きっと今までず〜っと我慢していたんだよ、おにいさま」
「かもしれんのう。リン、大江戸では、そなたのままで良いからの」
昨日から、胸の奥が暖かくなりっぱなし。めぐ姉が、本当のおねえちゃん。わたしの心は、いつの間にか染まっている
「ありがとおっ、恵姉、殿」
「ほっほ、リン、良い顔をするの」
殿の声で、殿を見る。暖かく微笑んで、杯を手にしている
「うん、今すっごく嬉しいっ。あ、嬉しいってちょっと違うな」
「うむ、嬉しげとは違うやもしれん。今のリンを観ておると、の」
言って、一息に杯の中身を飲み干す殿。うん、すごく似合う仕草
「今のリンは『満たされておる』という顔をしておる」
満たされる。うん、そうかも。あ、そっか、昔、家族(みんな)といた時、わたし『幸せ』だったんだ。照都さん言ってた『幸せは、些細なことを幸せだと感じられるかどうか』って
「殿ぉ、わたし今幸せ。初めて思った、幸せって。そっか、幸せって感じることなんだ。照都さん、わたし、ちょっとだけわかりました」
アルさんと談笑し、お酒のグラスを傾けていた照都さん。突然振っちゃったから、一瞬キョトン
「幸せを感じるって言う、照都さんの言葉。昔、家族がいたときだって、幸せだったんだ、わたし。お父さん、お仕事でわたし達支えてくれて。お母さんのご飯食べて、レンと遊んで、ケンカして。全部全部、幸せだった」
納得とばかりに頷いてくれて、お酒を一口
「気付かなかったな、そんなフツ〜のコト、幸せだったんだ。なのにわたし、今まで気付かなかったなんて。そっか、でも、もう—」
みんなイナクなっちゃった。思ったら、ん、視界ぼやけて
- Re: わたし×殿(わたしくろすとの) ( No.19 )
- 日時: 2017/09/30 12:40
- 名前: 代打の代打 (ID: d/GWKRkW)
あ、恵姉が隣に来て、いいこイイコしてくれる。あっれ、又泣いてる。イケナイいけない、涙を拭う
「わかるス、お嬢。オレもばっちゃん、オヤジ、オフクロ。全部野獣に持ってかれた。あたりまえが無くなっちまったす。盗賊なんかやんね〜と食って生けなくなっちまった。ああ、こんな悪党の真似事してって、昔は良かったって思ってたス。今楽しいのは、殿さんのおかげっすよ」
みなしごだった勇馬さんの昔話。勇馬さんの心の内。いつもと違う、憂いを含む、その表情
「でも、今はちがうよね、勇馬君。み〜んな家族だよ」
「っす、めめ、恵さんとも家族す」
「っはは〜ぁ、勇馬っちのが弟みてえだけどな」
笑い合う、海渡さんと命子さん。わたしの頭に、恵姉の顎が乗る。包んでくれる恵姉
「幸せって感じられたら、嬉しいよね、リンちゃん。大丈夫大丈夫〜、これからはみんな一緒っ。お兄様と、わたし達皆で生きていこうね。家族だよ、この大江戸、み〜んな大家族」
ああ、暖かいな〜こころの中
「ありがとう、おねえちゃん」
「ふふふっ、嬉しいな、リ〜ンちゃん」
撫で撫ですっごく気持ちいい
「幸せは感じる事か、イイ事言うぜ、さすが照都学者だぁ。ま、たしかにそうだなぁ。あったり前に酒飲めるってな、幸せなことだぁね。幸せってぇ感じなけりゃ、バチがあたるってもんだな」
「そ〜ですよぅ、命子さん。朝、ご飯が食べられるのだって幸せです〜ぅ。ぼく、一日三食白いごはんってすっごく幸せ〜。おば〜に教えてもらった占いで、みんなの『役に立てる』のも幸せ」
そっか、秘呼さんは食料危機の処から来たもんね。きっと3食きちんと、食べられない時もあったんだろうな。ちょっとだけ、気持ちが分かる。ふと
「おば〜の形見。この、碧水晶、茶水晶で、みんなの『役に立てる』幸せ感ん〜」
「あ、黒水晶じゃないんだね、秘呼さん」
黒水晶だと思っていた
「うん、見て観て〜、黒よりも色が薄くて、もっと透き通ってるでしょぉ」
飲み物を置いて、水晶を手に見せに来てくれる。ほんとだ、黒って言うより、茶色。恵姉も興味深げ
「この水晶がね『教えて』くれるの、色んなことっ。方法はひ・み・つ。教えてくれたおば〜は、もう居ないけど、ぼくの中で生きてるの。ぼくね、いつもおば〜と二人で占いしてるって感じるの。ぼくが又、お弟子さんか、ぼくの子供に伝えたら、おば〜もぼくも、またその人の中で生きていける。ぼくが『いなく』なっても」
とても愛おしそうに水晶を手にする秘呼さん。殿の方に向き直って
「殿にいちゃんのおかげだよ、今ぼくが生きてるのっ。ありがとう、殿にいちゃん、生け贄のぼくを見つけてくれて。たった三年だったけど、おば〜と楽しく過ごせたのも、にいちゃんが連れてきてくれたからだもん。みんなに『占って』なんて言ってもらえるのも幸せ〜」
「ひっでえ話しだぜ、ったく、人間捧げて、オテントウサマが喜ぶもんかい。海神様(うみがみさま)なら、ぜってえ(絶対)喜ばねえぜ」
微笑む顔が、乙女の秘呼さん。こんなに綺麗な人を捧げたのか、イケニエに。海渡さんがテーブルを叩いて憤慨の声
「オイオイ海渡、殿下と湯気が驚いてるじゃね〜か」
「あ、すまねぇ、風呂屋の娘、粒兎殿下」
言い終わった後で、命子さんに『こん馬鹿』とハタかれる。あ、水晶の話題、マズかったかな。でも、粒兎君の方に、身を寄せる湯気ちゃん。抱える粒兎君。か〜わいい
「ううん、びっくりしただけ。いけにえってなあに、かいとさん」
「ぴこさんは、なににささげられたのですか」
元に戻って、訊く湯気ちゃん。答えに困る、海渡さん夫婦
「なに、大江戸にはない風習さ、気にすることはない。目出度くない、馬鹿げた行いさね、湯気君」
「いずれ授業で教える事もありますよ、粒兎さん。照都大先生のお言葉通りです」
イケニエ話しを煙に巻く、大先生コンビ。照都さん、お酒を一口
「照都が言おう、物事に『必然』しかないのなら、の。わしが秘呼を見留めたのも『必然』じゃの。秘呼が幸せを感じておるのなら、わしも喜ばしいの。この瓜の漬け物とて、秘呼や刈、民の皆様からの賜物じゃ。米がなければ、酒も造ることができないからの」
「美味い飯ぁ、刈の野良さ、占いの、がいなきゃ〜食えねえってはんし(話し)だっ。いてくれんきゃ、困っちまあぁ」
漬け物をつまむ殿、杯のお酒を一息に飲み干す。美宮さん、海渡さんに、様々取ってもらいながらまくし立てる
「占い大老殿を、龍宮より大江戸に迎えたのが八年前か。あれ以来、大江戸で不作はない。占い術のおかげ様もあっての。今はその秘技を受け継いだ、秘呼のおかげでじゃ。気候を伺って、作物の植え付けも判別できる。大江戸に飢えがないのは、そなたのおかげでもあるのう」
「占いさ〜ん、いっつもアリガトね〜。かる、大感謝だよ〜。占いさんいなかったら、かる困る〜」
懐に両手を入れ、微笑む殿。刈姉は元気いっぱい、手を振る。色違い、綺麗な瞳がうるうる、秘呼さん
「そなたの感じる幸せが、民の幸せも育んでおるの。出会った時『ぼくは捨てられた子なの、もう必要ない子なの』と自暴自棄になっておったの、秘呼よ」
秘呼さんの方を見やる殿
「そんなことはないの。胸を張って生きるとよい。大江戸に、民に、ワシらにはそなたが『必要』じゃ、の」
「秘呼さん『捨てる神あれば、拾う神あり』です。秘呼さんはその『神』の一字を冠とする『神威』のお殿様に、救けて(たすけて)いただいたのです。私達に、皆々様に、なくてはならない方なのですから。これからも大江戸の支えを、お願いいたします」
破顔の殿。清輝先生、慈愛の微笑み。秘呼さんの涙腺崩壊
「ふっふっふ、思ってやりまえ、秘呼君。飢えに取り乱して、生け贄に捧げた人間が、豊作の担い手になっている『どんなもんだ』と『ざまぁみろ』とな。少々毒づいたって構いやしないさ」
「秘呼ちゃ〜ん、天歌屋(うちの店)だって、お米、お野菜、無かったら営業出来ないんだから〜。感謝感激、アメアラレだよお〜」
「おいしいごはんがたべられるのは、ぴこさんのおかげさまです」
照都さんのしたり顔。立って、料理を両手で示すゆかりさん。お辞儀の粒兎君。大泣き笑いする秘呼さん。わたしも思っていた『わたしは要らない子』だと、たった2日前まで。その気持ち解るっ、う、こ、込み上げる
「お〜い、秘呼少年、ぴ〜ぴ〜泣くな。泣き止んだお嬢が、もらい泣きしちまったっス」
言って手ぬぐいを出してあげた勇馬さんに、しがみついて泣く秘呼さん。秘呼さんが『美少女(男の娘)』なだけに、照れて慌てる勇馬さん
「しばらく泣かせておいてやれや勇馬。悲しい涙じゃねぇ『うれし泣き』だぁ。宴の席の華みてぇなもんだ」
「嬉しぃ時も〜涙がでるってわがる(解る)んだぁ〜、綺麗な兄(に)様〜」
涙を拭うわたし。ずん子さん、目の端に涙の珠。あ、もしかしてわたし、変な話の流れ、作っちゃったかも。勝手に始めた『幸せ』発言
「おらぁ、へがし(東)におったとき〜、大揺れがあってさぁ〜」
ずん子さんも、身の上話をはじめる。あ〜やっちゃったかもしれない。しれないけど。でも、みんな
「家もつんぶれで(潰れて)おっかあなんか、半分埋まっちまってぇさ。救け出されたけんど、水も食べるもんも足りなくなって。でもそんな時来てくれただぁ〜。大江戸から、早馬がぁ〜」
涙ぽろぽろ。美器さんが差し出す手ぬぐい
「生きてるもんは、中(なか)大江戸に来いっで。あん時、炊き出しの握り飯食べながら、大泣きしただぁ〜。大江戸で、まっさか御殿様ぁ〜、おっとうのお菓子食べてくださるなんて。一家で飛び上がっちまったぁ〜。ありがてぇよ〜、御殿様ぁ〜」
手を合わせて、殿を拝むずん子さん。そう、殿に助けられている。でも殿は
「そんな大層なことでない、の、ずん子。支え合わずして、何が『人』かの。字の如しじゃ。菓子が美味しいのは、親父殿の腕の賜物じゃ。真摯にお菓子と向き合ってきたのじゃろう。ワシの力添えなどではない。甘州屋は大和一の菓子屋じゃのぅ」
「お菓子屋さま、わたし、お菓子屋さまのお豆大福、大好物なんです。食べ過ぎて肥ってしまわないか、心配なくらい、ですよ」
あたりまえのように言う殿。大好物を告げる恵姉の言葉。ずん子さん、ますます『ありがたゃあ〜』と拝み、涙する
「ふふふ、宴の席だと言うのに不幸自慢かね。これでは景気づけにならないではないか」
「いや、この際だ、洗いざらい話した方が良いだろう。華やかな宴はその後の気晴らしにするがいいさね」
そう、わたしが作ってしまった『不幸自慢大会』の流れ。美器さん、茶化すような口ぶりだが、決して砕けた口調じゃない。照都さん、大風車で話したときの、真面目顔で。胸の内を告げた方がいいと
「なら、某(それがし)も自慢させて頂きますかな、学者様、皆様」
小さく咳払いをする美器さん。鼻をかむ音はアルさん
「某は家族の顔を、良くは知らん。ヤ、覚えていないと言うべきだな。三つの時、大江戸から来た僧侶、じじ様に引き取られたからな。母の病死がきっかけでな、育てられなくなったらしい。某、子沢山家族の年が離れた末っ子だったそうだ」
首を横に振る。やれやれ、という顔つき
「普段から行脚修行の時、教えを受けていたじじ様に相談したそうだ。それならばと、じじ様は某を、大江戸の孤児院に連れてきてくださった。じじ様『おっさん(和尚の意味)は美器の元服まで生きておらんだろ』って。その時『師』として教えていた、総大将を引受人にしてくれたそうだ。総大将は、じじ様の『弟子』でもあるそうだからね。後で聞いた話だよ」
言葉を切って、天井を見上げ、目を閉じる美器さん。涙を堪えているように見えて。う、涙が込み上げる、で、でも泣くんじゃない。聴くの、みんなの昔話。それを超えて、友達に、家族になれる気がするから
「言葉の通りになっちゃった。アタシがね、十四歳、三年前か、じじ様もお師匠も『旅立っちゃった』あっちへ。じじ様が逝くのは、おじょうど、とか言ってたな。一週間、待ってて欲しかったよ、おじょうど逝くの。もう一週間で、アタシ元服できたのに」
人差し指で上を指す、気丈に笑う美器さん。目の端に水の珠。旅に出たんだ、二人とも、お空の上に。美器さんの言葉使い、きっとこれが『素』の美器さん
「お師匠は、ばっか偏屈者だった。何枚、焼いたお皿、造った漆器、たたき割られたか。でも、ぶっ壊す前、絶対褒めてくれてっ『不細工だが、この世に二つと無い、味、は有るな』とか言ってさ。でも、物作り以外は優しかった。てんごくにいる、アタシの『お父さん』はとっっても優しい人だった」
言い終わって、おしぼりを目に当て、上を向く。小さく『ぴ〜』と声が聞こえる。泣いている。声を押し殺して
「美器を工芸才殿に預けたのは、間違いではなかったようじゃの」
殿が微笑む。おしぼりを当てたまま、首を縦に二度振る美器さん
「ふふ、積み木で遊ぶ美器君がな、何度崩されても、繰り返し繰り返し造るのを見たという、殿君が、な。さすがお節介男だな、殿君。その厄介焼きの洞察力も褒めてやろう」
あえて皮肉っぽく褒める照都さん
「それでおおえどにきたんだぁ。ゆきとおんなじ、こじいんにいたんだよね、みきねね。ゆきもね、つれられてきたみたいなの。にしおおえどから。つれてきたおじじさまはかえっちゃったけど。なんでかな。まえは『みようじ』もついてたみたい」
連れてこられた、連れてきた人は帰った。なんだか不穏。みようじとは名字のこと、勝手に判断。名字が『今』は無い
「湯気」
立ち上がる凛々姉。粒兎君の耳を塞いでいる刈姉
「忘れるのだ、その事は。そちは湯気だ、それで何の問題も無い。奉公しながら寺子屋へ通う、利口な娘、風呂屋の湯気だ」
抱きしめる凛々姉。切ない顔、やっぱり『何か』あるんだ、事情が。悪いと想いながら、小声で
「殿、名字無いの、湯気ちゃん。一体何があったの」
訊いてみる
「ああ、湯気に限らずの。基本的には、名字はないの。動乱の中で、名のみで呼び合うようになったようじゃ。が、一部の指導的導き手には、尊崇の念で、名字を付けて呼んでおったそうじゃ。神威の初代、もその一人だったのぅ。名字については、いずれ輝に教わるとよい」
「それじゃ、湯気ちゃん、名字あったんだよね。無くなったって」
殿の目が、悲しい色になる
「いずれ詳しくの。良家の奥方と小間使いの間に生まれた、望まれぬ子だったそうじゃ。今はこれで、の」
それだけで十分に非道い話し、聞いちゃった。自分勝手な話し。子供は何一つ悪くないのに
「兄様は、救け船を出す才のある方だ。故に、救けを求める人々が集まって来るのだろう」
湯気ちゃんの頭を、撫でて言う凛々姉。刈姉、目を瞑って、粒兎君の耳から手を放す。ふと、恵姉が離れる。ちょっと残念。あ、そっか、殿にお酒を注いであげている。殿のお世話、恵姉のお役目。両者微笑み合って、殿が恵姉撫で撫で。あ、なんだか良い光景。悲しいお話しの間、ちょっと一息な感
「んふ〜ん、ん〜めぇ〜」
マイペース、お寿司を頬張っている美宮さん。他は、やっぱりトーンダウン、飲み物を、少し含む程度。殿、おひたしを飲み込み、お酒を一口。ため息をついた後
「衣愛よ、思い出させて申し訳ない。がの、話しの流れじゃ、許して欲しい、の。どうじゃ、もう傷が痛むようなことはないかの」
傷、衣愛さんの傷『げんこつ』が恐くて逃げたと言ってた
「ん、だいじょぅぶ〜ぅ。蒸し暑かったり、寒いとき、ちょっと痛む事あるけど〜。良くなったよ〜、神威の殿さ〜ん」
「だが骨折は十分な『大怪我』だ。大事にしたまえよ、衣愛君。君が城で生活していたのは、治療が目的でもあったわけだからな。忌々しい夢は、見なくなったかね」
『げんこつ』で『骨折』それをやったのが、役に立たない、ク○オヤジ。なにそれ、超非道いって言葉しかでてこないっ
「う〜ん、照都たま〜。ほとんど無くなったよ〜。大江戸来た時は何度も見ちゃったけど。ごめん〜殿さ〜ん、何度もぉ部屋、逃げ込んで〜ぇ」
無邪気に着物の袖を振る、衣愛さん。身体の傷が治っても、心の傷はまだ深い。悪い夢ってきっとその『傷』のせい。TVでやってた『シンテキガイショウ』
「嫌な夢は忘れれば良い、の、衣愛。忌まわしい夢は、せめて楽しい日々で、塗り替えればよい」
「ゆ・る・せ・な・い〜っ。こんなに可愛い衣愛ちゃん殴りつけるなんてさっ。そりゃうちだって、たまにオゲンコもらうけどっ」
言って、衣愛さんの所に行くゆかりさん
「『酒持って来い』とか、お馬鹿な理由で殴るなんて、サッイテ〜(最低)」
「あ〜ゆうの困るよね、衣愛さん、理不尽暴力。おれも姉ちゃんにシバカレた、鞭で、さ」
勢いよく、がばっと抱きしめるゆかりん。あ、なんだそのあだ名、ゆかりさん。ゎ〜と小声、衣愛さん、ちょっと照れ照れ。錬君、腕に鞭打ちの傷跡、何本も。あの様子じゃあ、きっと身体も傷があるんだろう。どっちも非道い。琉華さん、錬君を抱きしめ、こっちも照れっ照れ
「俺っちも海の上じゃ〜親爺(おやじ)にぶん殴られて、漁教わったけどよ。ありゃ、全部俺っちのためだぜ『馬鹿野郎クタバリてぇのか』って『海を舐めるんじゃねぇ』ってよ。拳骨の意味合いが違うって話しだぜ」
海渡さんは、どこか誇らしげ、鼻のしたを掻く
「へへ、殴りつけられた日は、必ず菓子屋に寄ってくれてよ。買ってくれたな、俺っちの好きな菓子。漁師は引退しちまったけどよ、何時までも『天下一』漁師は親爺だぜ、俺っちにゃ」
「大総長とぁ、今でも、たま〜に酒交わすやなァ、海渡」
海渡さん、命子さん。この夫婦は幸せの王道を行っちゃって〜、とか、なんでか想う。切ない身の上が多いから
「み〜んな苦労してんのね〜。うちなんか、のんべんだらりと、大江戸で生きてさ〜。ちょっち恥ずかし〜い」
と、ゆかりさんの言葉に、殿、意外そうな顔
「何を言っておる、ゆかり、そなた聞いておらんのかのぅ。ゆかりはの、三つの時までは身体が弱くての。丈夫にしてやろうと、ご両親は苦心されておった。二つの時が、特に大事だったのぅ。一度あの世とこの世を彷徨ったことがあるの」
「えええ〜」
ゆかりさんビックリ
- Re: わたし×殿(わたしくろすとの) ( No.20 )
- 日時: 2017/09/30 12:41
- 名前: 代打の代打 (ID: d/GWKRkW)
どうやら知らなかったようだ
「こじらせた風邪が、肺炎を引き起こしての。懸命な治癒で、一命を取り留めての。故に、じゃ。店主殿、女将殿、ゆかりを想っておるはずじゃ。目の中に入れても痛くない、とのぅ」
「ゆかたま、可愛がられてる〜ぅ。ちょ〜っと、ぅ〜らや〜まし〜ぃ」
身寄りの無い衣愛さんの言葉、ちょっとだけ切ない。顔にも声にも、おくびにも出してないけど
「〜。ぅふふ、そっか。オヤジ、オフクロ、うふふふ。いつも言ってくれたな、イイコでいろよって。うち、イイコかな、上様。イイコに育ったかなぁ」
衣愛さんの頭に、顎を乗せ、ゆかりさん。勇馬さんが、何か茶化そうと口を開けた瞬間、何かが勇馬さんを直撃。命子さんが、神速で何かをぶん投げた。勇馬さん、撃沈。わたしのおじいちゃん、時代劇の再放送好きだったな。いた、あの中で、銭投げる岡っ引きさん
「お利口さんじゃの、ゆかり。良い子に育ったの、そのままのゆかりでおって欲しいの。ご両親は、物事の善し悪しや礼節作法など、厳しかったじゃろ。それはの、ゆかりに、良く育って欲しいという願いじゃ」
大きく頷きながら、殿も嬉しそう
「ありがとう、上様」
「その言葉と想いは、ご両親にの。恩賞は、ゆかりがこのまま、良い子で、良い行いで、返そうの。衣愛よ、寂しくなったら何時でも城に来ると良い。そなたの『実家』でもあるの、大江戸城(わしの家)は。錬も同様じゃ。頼りないかもしれんがの、兄でも父役でも良い。頼って欲しいの、わしを」
衣愛さん、ここでアウト、泣き笑い
「ありがとう、神威の殿様。殿様は、おれ、自慢のにいちゃんだよ。すっげぇよ、殿様がにいちゃんなんて」
「殿さん〜ぅ〜。ゎたしも自慢だよ〜」
錬君、琉華さんのひざ上で胸を張る。微笑むゆかりさん、泣き笑いの衣愛さんを包み込んだままで
「衣愛ちゃん、さびしくなったら、何時でもご飯食べにおいで。うちとお話ししよ。うっち、衣愛ちゃんのお友達なんだから」
「ふふふ、偏屈者とは話したくないやもしれんが、某も、だ。友人として、身寄りのないもの同士として、な。茶でも飲もうじゃないか」
頬をくっつけ、抱きしめてあげる。美器さん、衣愛さんのお友達を宣言。みんなみんな、切ない思いを超えてきた。当たり前がどれだけ幸せか思い知っちゃう。当たり前にご飯。当たり前にお風呂。当たり前にオヤツ、友達としゃべる、1日生きる。当たり前に眠って、当たり前に『目が覚める』当たり前って、すごい。当たり前って、幸せなんだ
「ゆかりじゃねえが、あっしこそ平々凡々で生きてる気がすらぁね」
「ははは、命子、海渡も同様じゃがの。苦労したじゃろう『その道』の術を学ぶのはの。それに、そなた達が婚姻の義を交わすにも、一悶着あったから、のぅ」
「下手をうてば、結滞(けったい)な時事(じじ)になっただろうさね。どこかのお節介殿様が一手打って良かったというものさ。良い結果に物事が向かったなら、それは『必然』だ。悪い方向へ向くことは巡り合わせ、何故そうなるかは知らんね。神のみぞ知る、だ。自分はたかだか人間だ。知らんものは知らん」
苦笑いで手を振った命子さん、殿、今度は少し愉快気。照都さん、皮肉っぽい物言いは殿にだけ。カミノミソシル、あ、いや、神のみぞ知る、か
「大江戸一の船団漁師、大江戸筆頭の岡っ引き。二つの家がケンカ別れなどしたら、大江戸そのものがギクシャクする。上手く物事が回らんさ。命子くん、海渡くんが成婚出来て良かったと言うものさ。団長とお頭の和解がなければ実現しなかったことさね」
お酒を飲む照都さん。童顔って失礼かな、なのに、仕草がとてもよく似合う
「ありがとうよ、殿様。俺っちが城の料理長なんざ、夢の又夢みて〜な話しだぜ」
立ち上がり、お酒を注ぎに来る海渡さん。受けた杯、自分も杯を持ってきて、殿と乾杯。二人でのみ干して、豪快に微笑む二人。男同士、友情いいなあ
「うふふふ、では、僭越ながら、わたくしも自慢させていただきますわ」
海渡さんが席に戻ったタイミングで、琉華さんが話し出す
「わたくしは、負債の形代として、人買い、人売りの組織に身売りされましたの。嬉しくありません、鼻に掛ける気も、ございませんわ。でも『上玉』と呼ばれ、高い値で買い取られましたの、わたくし。感謝申し上げますわ、御館様。もしもあの時、救けて頂かなければ—」
身震いし、錬君を強く抱きしめる琉華さん
「よう、堪え忍んだの、琉華。がの、錬も琉華も、衣愛、皆も同様じゃ。わしとて、の。堪え忍び、生きようと必死になった、その結果じゃろう。光り溢れる世界へ抜け出すことができたのは。希望を手放さなかった、そのおかげ様じゃ」
「琉華さん、琉華さん、ちょっと良い、放して」
錬君、抱き枕状態解放をお願い。でも、しばらくぎゅうぎゅうに抱きしめる。その間に、みんな僅かな食事を含む。ようやく解放される錬君。琉華さんの膝から降りて
「ご、ごめんね、嫌だったら」
琉華さんを抱きしめる、錬君。横手から、少しだけ背伸びして。意外な行為に、肩が跳ね上がる琉華さん
「おれ、こ、今度は護る。おれ、自分の国も護れなかった、逃げてきた卑怯者だけどさ」
顔真っ赤、勇気を振り絞っている感じだ
「でも、今度は護る。琉華さんを護れるような男になるから。た、タダの刀鍛冶、見習いだけどさ。オレは、もう逃げない。琉華さんを護るっ。野犬に囲まれてたあの時思ったのっ、おっおれ、この人のこと護るんだってっ」
「あっぱれだっ錬っ。その心意気、武士(もののふ)の鏡だなっ。鍛冶屋だろうが、鍋屋だろうが、厭うこと無い。武人(ぶじん)と言うは、その『心意気』を持つものぞっ。錬の心意気、間違いなく武士(もののふ)だっ」
凛々姉、錬君の背を叩く。驚く錬君、琉華さん解放。解き放たれ、速攻で立ち上がって、逆に錬君を胸に抱く琉華さん。慌てふためき、暴れる錬君。笑いが熾って場の雰囲気が和やかに
「錬さんは、本当によいお心をお持ちです。私の剣術教室へ通って来られるようになったのは、こんなにも素晴らしい理由があったのですね」
キヨテル先生、さっきからの慈愛スマイル。やだ先生、可愛い
「レンサァ〜ン、ニゲタ、ヒキョウ、Unlikeデス。マモルモノ〜、マモッテハイカンモノ、アリマス。レンサンミツケタ、マモルモノ、マモルヒト、ダ〜イセ〜イカ〜イ(大正解)デ〜ス。レンサン、タユウサンノKnightデ〜ス。キシ(騎士)レンサンニCheers(乾杯)」
「アルが、良きことを言っておるのは解るが、刈、どう言うことかの」
破顔しグラスを掲げるアルさん。錬君、琉華さんに抱き回される。腕組みし、微笑みながら、刈姉に尋ねる殿
「あんらいく(Unlike)は違う、ないと(Knight)は騎士、大和だと侍さんのことかな〜。錬ちゃんはヒキョ〜じゃない。たゆさま専用の侍さんになった、錬ちゃんにちぇぁ〜す(Cheers)かんぱ〜いってこと、兄様」
握った手を、口の前にあてながら、満遍笑顔、刈姉。すごいな、わたしより、きっと『ベイコクコトバ』わかってる
「うむ、錬、あの国は、あの体制は、滅ぶべくして滅んだ。そう考えておこうの。姉君の事は不幸じゃが、の。よくよく、お弔いするほか、今はない」
「どんな人間でも、命はおしいさね、錬君。恥じることなど一つも無い。毒を吐いてやろう。反乱などと、そんな『状況』を作り出した『当人』が悪い、とな。だが、琉華君の騎士となったなら、琉華姫だけは、命がけで護らないとな」
殿が祈りを捧げ、照都さん『逃げ恥』でないところは真顔。琉華さんを『護る』台詞は、多少のからかい含み。琉華さん、再び錬君を膝に乗せ、座る。そのオデコに琉華さんの口紅。勇馬さんが冷やかし、場の雰囲気が、一気に華やぐ
「ははははは、では丁度良く、の、宴の空気となって来たようじゃの〜お。よいよい、悲しい話しは、ここでよそうかの。話し足りない者はおるかの」
殿が、立ち上がって杯をかかげる
「陰気くし〜話しはもう沢山だぜっ。景気良いのが大江戸の華じゃねかっ」
美宮さん、テーブルを叩き勢いよく、立ち上がる
「また追々、話すこともあるでしょう。本日のご不幸談義は、お開きで良いと感じます」
「さぁて、酒盛りといきやしょうっ。各々方、杯(さかづき)を満たせっ」
海渡さんの杯に、並々そそぐ命子さん。清輝先生、不幸自慢大会、解散宣言
「では、祝宴の開幕じゃの。錬が、琉華の侍となった事も祝そうの。皆よ、杯を」
恵姉、殿の杯を満たしてあげる。返杯してあげる殿。みんなそれに習いシカジカ(然々)の器に、カクカク(斯く斯く)互いに注ぎ合う
「のぅ、リン、皆々と生きようの、明るく、仲良く、楽しく、の」
そう言いながら、わたしの杯に、甘酒を満たしてくれるやさしい殿。嬉しくて
「うんありがとうっ、おっとのさま〜(おとのさま)」
小躍りしたい気持ちを抑え、精一杯笑ってみせる
「うむ、良いのう、その笑みが一番じゃ。リンが見せる顔の中で、の。では、各々方の、大江戸と、皆の良き未来を願っての。本日の主役、リンの良き行く手を祈念して、杯を。リン、今度は乾杯の発声じゃ」
殿と一緒、みんなの方に向き直る
「ん、わかった〜。みなさん、切ないお話し、させちゃってごめんなさい。でも、みんなの事、知って良かった。わたし、今幸せです。わたしを迎えてくれてありがとう」
「リンちゃん、一人じゃないからね。みんなみ〜んな一緒だよ」
「オレに家族が出来たのと同じっす。殿さん達が、お嬢の家族。俺達が、ダチっすね」
恵姉の微笑みが優し〜い。勇馬さんの言葉がうれし〜い。みんなが笑顔、優しい笑顔。海渡さんの肩に手を置く命子さん。ゆかりさん、衣愛さん、ずん子さんは身を寄せ合って、笑い合う。琉華さんは錬君と腕組み。湯気ちゃん、粒兎くんは、刈姉の指摘で椅子の上に立つ
「これから少しずつ、縁(えにし)を深めていこうじゃないか、リン君。大江戸のことも、ゆるりと学べばいいさね」
「照都さん、よろしくです。みんなど〜ぞよろしくねっ。それじゃあ、いっせ〜の〜で」
「「「「「「「「「「かんぱ〜いっ」」」」」」」」」」
みんな立ったまま、一息に飲み物を飲む。一番先に、殿が拍手。わき起こる、拍手喝采
「これから楽しくいこうのう。リンどうかよろしくの」
「ありがとう、殿。ありがとう、ありがとう〜。ホントにホントにありがとう〜」
差し出される、殿の右手。わたしは両手、握手しながら、さっきのように飛び跳ねる
「さぁさぁさぁ〜、お祝いの宴会はっじまっる(始まる)よ〜。天歌屋自慢のお料理沢山食べてね〜」
「リンちゃ〜ん、元気なのが一番だよっ。刈のお米、お野菜食べて元気付けなきゃ〜」
「俺っちも力(りき)入れて作ったぜっ、魚も自信アリってやつだ。じゃんじゃん食ってくれよっ」
ゆかりさんのお店、料理士さん、海渡さんが、刈姉達の作物を使って。海渡さん自身が釣ってくれた魚で。作ってくれたお料理。美器さんの作った大皿に並ぶご馳走。どれか一つ抜けても、このテーブルの上の光景は成しえない。支え合って生きているみんな。わたしはここ、大江戸で生きる。温かなみんなと、支え合って—