二次創作小説(紙ほか)
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- ダメ同士、愛してやまない
- 日時: 2018/09/24 05:50
- 名前: だー (ID: RO./bkAh)
可愛い可愛い切原赤也くんがいつの間にかただのヤンキーと化した!
- Re: ダメ同士、愛してやまない ( No.5 )
- 日時: 2018/09/30 10:46
- 名前: だー (ID: RO./bkAh)
光たちと祐花を含めた女子たちは毎日のように放課後遊び呆けていた。普通の高校生から見たら羨ましいくらいである。
「なぁ、切原どうやった」
「まぁまぁやね」
切原くんが彼氏やったら、色んな人にばり自慢できるやろ。それでインスタとかTwitterなんかに載せたら「お似合い」とか「美男美女」とか絶対有名になる。祐花たちはワイワイ広がって、街中を歩いていた。
「あれ?祐花じゃん!」
誰かとすれ違って、後ろから声をかけられた。永谷実里だ。彼女は祐花と中学の同級生だったが、祐花とは仲が良かった訳では無いむしろ、
「久しぶりやね!」
実里は相変わらずメガネで黒髪だが、どこか垢抜けてすっかり女子高生になっている。進学校で有名な聖リハーナ女子学院のセーラー服を来て、友人らしき女子たちと参考書を片手に歩いていた。
「う、うん」
実里、自分が何やられたか覚えてないわけ?
「なんで『こんな時間にほっつき歩いてる』のかってな、私たち模試終わりやねん。あれ?祐花たちは?」
「え?…」
実里は顔色ひとつ変えないまま笑顔でいる。実里と一緒に歩いていた女の子たちは、祐花やほかの女子、光や男子を明らかに軽蔑したような目で見ている。祐花にはそれがわかった。今度は私が「バカにされて」「見下されている」。
「よかった!相変わらずやね。じゃあね!あ、高校では人いじめたらアカンで」
「ちょっと、あんたらウチらバカにしとるやろ」
「せやでー。頭いいからって調子乗んなやブス」
祐花の後ろからすかさず女子がフォローに入った。祐花は固まったままだ。
「全部、お前にやられたこと。ばらまいたるからな」
実里は最後だけ、勢いよく祐花を睨みつけて友人たちのところに戻った。男女共に怯んだように、誰も言い返せなかった。私、実里にそんなひどいことした?だって、実里笑ってたやん。あいつら(学校の先生)には怒られたかなんか言われたけど、そんなん実里やないからわからん。
「ねぇ、あの女の子?実里のこといじめてた人」
「そうよ。中学のときばり奥手で全然人と話せなくて。面白がって…」
「何されたん?」
「ホースの水浴びせられてびしょ濡れになったり、制汗スプレー目に浴びせられたり、あとは体育着勝手に取られて授業に出れなくなったり…」
多分話してる分には伝わらないだろう。私はあんな奴らと同じ土俵には、レベルには立ちたくないと思って必死に勉強して今がある。感謝しなくちゃいけないけど、それはただ皮肉と憎しみを込めないと私の気は済まない。
「サイテーやん!ひどいわ」
「ううん。民度が低かっただけやで」
「確かに、あの人たち清潔感ないってか汚そうやもん」
まさに立場逆転。所詮、学歴ね。高校に入って初めてわかった。こんなに穏やかで綺麗な世界があることを。
「なんやあいつら、写真撮って拡散しとこ」
男子が携帯を構える。
「やめや」
祐花はすかさず止めに入った。私は今、楽しいけど人としての底辺かもしれん。学力も常識も、内面も、あるのはただ嫌に歪んだ顔だけ。
- Re: ダメ同士、愛してやまない ( No.6 )
- 日時: 2018/10/01 07:41
- 名前: だー (ID: RO./bkAh)
「切原さん、5時なので。帰りますね」
また来週来ますよとデイサービスから来た市山さやかは曽祖父に声をかけた。
「今日もありがとうな。あ、赤也」
コンビニに買い物へ行こうとして、玄関に出た赤也を曽祖父は呼び止めた。
「さやかちゃんを送っていきなさい。もう暗いんだから…」
「まだ夕方なんだけど」
ボケているのを知ってか知らずか冷静に諭した赤也はため息をついた。さやかはすかさず
「大丈夫です。私、電車あるんで」
「こんな夜中に危ないで、危ない」
曽祖父はひたすら首を振るので、さやかは困った。
「あの…」
さやかは赤也に耳打ちをした。
「送っていただくふりでいいので、玄関から一緒に出ていただけますか?」
赤也は軽く頷き、靴を履いて曽祖父の方に顔を上げた。
「…送ってくるわ」
「ほな、またな」
「ありがとうございました、三日後に来ますね」
赤也とさやかは一旦外へ出た。赤也はコンビニに行くつもりだったので外出のついでだ。
「あの、赤也さんって関西の方じゃないですよね?」
「そーすけど」
「私もです。なんか関西弁って生で聴くと、最初は慣れないけどテレビ出みるほどキツくないし自然ですよね」
「俺も思いました」
なんて当たり障りのない会話。しかも無理矢理さやかが会話をひねり出したようだ。赤也は気にかけないというか、普通に1人で歩いているかのようだ。
「あ、あの。赤也さんって高校生なんですか?」
「はい」
「そうなんだ。顔立ちは可愛らしいなって思ったんです。でも体格が良くてすごい落ちついてるから、高校生かなって」
「…いくつなんですか?」
喋ったかと思えば年上の人に躊躇なく疑問を投げかけるあたり、赤也の破天荒さは残っていた。さやかはちょっと困ったような顔をした。
「おばさんですよ」
「ほんとスか?」
「はい。21才です」
おばさんじゃねーじゃん。大学生ぐらいの年齢だった。だとしたら、俺に敬語を使ってくるのは気持ち悪いだろう。向こうは。
「タメでいいっすよ」
「え?」
「いや、だってあんた年上じゃん」
「…赤也くん。私、年上だよ?」
急に名前を呼ばれたのが、男心に一瞬靡いた気がした。が、しかしこれは姉が彼氏を略奪された時に、よく口にしていた「あざとかった」というやつで、赤也はぼんやりそれを思い出した。赤也だって、なんとなくは色んなことを考える。
「…ごめん」
「なんで赤也くんまでタメなの。ま、可愛いから許すけど」
ちょうど、コンビニと駅への分かれ道にきた。
「じゃあね。赤也くん」
「さよならっス」
赤也は軽く礼をして、コンビニに向かった。「可愛い」だってさ。
- Re: ダメ同士、愛してやまない ( No.7 )
- 日時: 2018/10/01 07:59
- 名前: だー (ID: RO./bkAh)
コンビニでスナックと炭酸とチャンピオンを買って帰った。コンビニから出ると同時に携帯が鳴った。丸井ブン太先輩からの着信である。
「はい」
「あー、赤也?あのさ、今俺ら大阪いるんだけど」
「…はい」
「なんだよぉ。俺らに会いたくねーみてーじゃん」
ジャッカル先輩と仁王先輩が丸井先輩の横で喋ってるのが聞こえる。高3の秋って…まさか国体?
「どこにいるんすか」
「えっとね、どこ?」
わからんな。Google先生に聞けよ!相変わらずうるさい人たち。
「最寄り駅指定されたら行ってもいいっすよ」
「俺ら新大阪で降りた」
地味に遠い。とりあえず赤也は曽祖父に外出するとだけ伝え、そのまま駅に向かった。改札を抜けてホームに行くと、市山さやかの姿があった。
「早く来いってー」
「30分かかるんで。切っていいすか」
赤也は電話を切って、電車に乗り込んだ。
- Re: ダメ同士、愛してやまない ( No.8 )
- 日時: 2018/10/01 23:47
- 名前: だー (ID: RO./bkAh)
「先輩、久しぶりっすね」
30分電車に揺られたあと、新大阪駅から歩いて15分だった。45分間、俺は3年ぶりに会う先輩たちを思い浮かべていた。
「赤也」
「なに、パパ」
「立海受験してみないか」
中学受験ってそれほど難しいものじゃなかった気がする。あとから聞いた話だけど、立海大附属中学校はお受験に落ちた人たちが入る保険みたいなものらしい。それで、道場破りしようかと思って打たせてもらってたらフルボッコにされた。うん。
「お前、青南シーズ?」
「は、はい!」
初めに声を掛けてきたのは丸井先輩だった。俺を知ってたらしい。
「赤也、テストを見せろ」
「い、いやですよ〜。あ、違う。返ってきてないです」
柳先輩がいつも赤点スレスレ(もしくは赤点)のテストを見せるよう要求してきた。文武両道が大切らしい。
「返ってきてないって何で始めに言わんのじゃ」
「俺、嘘つけないんです」
「コラ仁王くん。赤也に変なこと吹き込まない」
あの仁王先輩と柳生先輩はすごい不思議な距離感だった。付かず離れず、互いに干渉するわけじゃないけど、互いの状況把握が上手く行き過ぎてた。つくづく同学年にもペアが欲しいと思っていたあの頃。
「まぁ、お前くらい強かったらすぐレギュラーになれるさ」
「ホントっすか?!」
「赤也!!浮かれるなよ!ジャッカル、お前も余計なことを言うな」
真田先輩はお説教以外、口数が少なかった。でも1番尊敬してたからストーカーみたいな感じで、ラリーやノックは先輩のばっかり手伝ってて多分ウザイって思われてた。
「あぁ見えてな、赤也のこと心配してんだぞ」
ジャッカル先輩は俺がふざけたり、試合でグズったりしても唯一からかわないで優しくしてくれた。
「部長、俺にも押させてくださいよ」
そう言って幸村部長の車椅子を押して病院を出たとき、入口に先輩たちが立ってたんだ。
「赤也。ありがとう」
幸村部長は俺が何を言いたいのかわかった。
「あ、あの…俺、ずっと、ずっと、言わなきゃって…」
病院の入口で先輩たちが、初めて見るような優しそうな、俺を待ってくれているような顔で俺を見ている。
「ぶ、部活…やめ、ま、す…」
「そっか」
「ほ、んっ、とは、俺、やめ、たくない…」
嗚咽と涙が混じって前が見えないし、鼻水は垂れるし…そんなことをボヤきたいわけじゃない。俺はあの時、1番大切だったものを、自分から手放したんだ。
「おれっ、て、てにす、したい…」
「赤也ぁ!!」
真田先輩が涙を呑んで俺を目いっぱい抱きしめてきた。いまでも変わらない人たち。赤也ははっとして前を向くと、目の前にはレギュラーの皆が立っている。
「おー!赤也だ!」
「変わんねーな」
「先輩たちも、全然変わらない」
変わった、体格も声も。でも会ってすぐ取っ組み合いを始めるところとか、それを冷めた目で見るやつがいるとか、全然変わらない。
「国体終わりじゃき、飯連れてけ」
「そうだな。ここは地元民がいいだろう」
「いいっすよ」
この近くに焼肉屋がある。
- Re: ダメ同士、愛してやまない ( No.9 )
- 日時: 2018/10/03 23:58
- 名前: だー (ID: RO./bkAh)
「家の方は大丈夫なのか?」
「はい、姉と父親とはたまに連絡を取ります」
「そうか…」
真田副部長は一言だけ頷いた。食事の席で湿っぽい話はやめましょうよ、と赤也が流すとまた騒がしい店内の空気に溶け込むように、一段と盛り上がった。
「幸村部長は?」
「幸村くんはインターハイのあとに、また倒れたんだ」
「今は安静にして入院してますよ」
「はぁ…」
「今は、って」不意に赤也が発した言葉も、運ばれてきた肉に皆目がくらだようで赤也の言葉は遮られた。赤也もそのあとは気にすることなく、先輩たちに肉を焼き始めている。
「赤也は相変わらず危なっかしいな」
「柳サンは慎重すぎるんすよ」
あ、久しぶりに喋ったこの感じ。他人とまともに会話を交わしたのは、かなり前だろうか。中学のときから同じように、いつも通りに話しているこの7人がまた集まっていで、あたかもたまたま集まったような。
「真田は大学どこ?」
「舘谷大だな」
「仁王は?」
「ピヨっ」
柳、丸井、柳生、ジャッカルは指定校推薦が決まっており、真田、仁王はセンターらしい。進路の話から赤也の生活など、時には下らない話もしながら夜9時が過ぎた。
「うげっ。監督から電話かよ」
「ジャッカルー、無視っちゃえ」
ホテルに帰るよう電話越しに怒られた。赤也はそれを見て、なんだかまたあの時の気持ちが蘇ってきた。俺があん時、このまま先輩たちといたら四六時中一緒で、会う時の高揚感がない分別れる時も寂しくないなって。今だからわかる。7人はお店を出た。真田のおごり。
「卒業旅行、お前も来るよな」
「俺?、そのとき俺まだ3年…」
「大阪来るからさ」
わざわざ遊びに来るとか会いに来るとか言わないあたり、ホントにこの人たちが大好きだ。赤也は先輩たちに「ごちそうさました」と軽く礼をして、店の前で別れた。
「赤也なんか変わったのぉ」
「元気が無いわけではないようだが」
「ホントそれ。大丈夫かなぁ」
久々の保護者会。ある秋の日。