二次創作小説(紙ほか)
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- ダメ同士、愛してやまない
- 日時: 2018/09/24 05:50
- 名前: だー (ID: RO./bkAh)
可愛い可愛い切原赤也くんがいつの間にかただのヤンキーと化した!
- Re: ダメ同士、愛してやまない ( No.1 )
- 日時: 2018/09/24 22:22
- 名前: だー (ID: RO./bkAh)
大阪に転校しできたのが中2の1月で、一向に他人と関わる気がなかった。
「切原、眼つけてんなよ」
「だりぃ」
クラスメイトに絡まれて殴られても割と余裕で交わせたし、自分から攻撃するのも面倒になり、ただ避けるだけを繰り返すのみ。かっこ悪いけど殴り始めると止まんないし、相手の鼻くらいなら蹴っとけば折れちゃうから。話からわかる通り入った高校は関西で1位2位を争う底辺男子校。名前さえ書けば入れる学校で有名な公立高校。
中2の10月。長年不仲だった両親の離婚がようやく成立した年だった。しかし、姉の大学受験と俺のテニスの試合やら遠征やらが重なり家庭内は最悪の雰囲気。いや、誰が悪いとか悪くないとかいう話じゃない。失った明るさと、もう一家ではどこへも旅行や遊びに行かないだろうという感じ。いつだろ、夜食を4人で食べたのは。別に苦しいことじゃなかった。誰も話さない、笑わない、動かない。いつもうるさいと感じていた母親がめっきり無表情になって、父親はあんなに俺と姉ちゃんにダル絡みしてきたのに、姉ちゃんはそうそう家を出てしまった。
「父さん、母さん。俺、高校でもテニスしたい」
多分、俺の試合を見に来ることが2人には一緒にいる時間だったのかもしれない。心のどこかで思っていた。また俺が優勝してみんな笑ってくれたらいいなとか、お祝いでご飯食べに行けるんじゃないかとか。でも父親も母親も顔色一つ変えなかった。
「あんた、勉強は?」
「え?」
「ダメよ。これ以上頭悪くなったら…あんたの父親みたいになる」
母親が買い物袋を台所に置きながら言い放つと、リビングにいた父親は飲み干したビールの缶を床に投げ捨てた。
「お前だって大それた女じゃないさ」
「こうやって、話が分からない大人になるわよ」
「なんだと…」
父親がソファーから立って母親を睨みつけながら、距離を詰めて行った。母親はビビる様子もなかったが、父親が手を上げると母親は激しい音と共に床に倒れ込んだ。
「父さん、やめてよ!」
「お前がどれだけ稼いだ金を水に流したと思ってんだ!もううんざりだ!出てけ!」
俺には十分に父親を止めることが出来る力があった。
「なんなの!あんたなんか家に帰ってこないし、」
やめてくれ。もう、俺が全部悪いから。
「やめろよ!…俺が勉強すればいいんだろ。テニス、や、やめれば…」
体力と体格だけはよかった中学時代。「テニスやめる」と言いながら涙が出てきたこと、退部届けを出しに行って部長の前で大泣きしたこと。人生で泣いたのは多分コレが最後になる。
- Re: ダメ同士、愛してやまない ( No.2 )
- 日時: 2018/09/25 23:05
- 名前: だー (ID: RO./bkAh)
「切原って何年の?」
「1年」
「俺らと同学年な」
へー。興味無いけど。財前光はまたイヤホンを左右につけてゲームを始めた。こうしてヤンキーが集まるような場所にただゲームをして、ボサっとする人間も珍しい。見かけは。
「久しぶりに光も喧嘩しよるん?」
「見たいわ!」
光の周りに座っている男子は笑いながら、雑誌を呼んだりスマホを見たりしている。柄が悪いとは傍から見たらこんな感じなんだろう。今どきのただのDQNである。
「なぁ光、切原見に行こうや」
「だるいわぁ」
隣のクラスを覗きに行くと、椅子に座り机に突っ伏している男子がいた。
「寝とるやん」
至って普通の男子学生である。服装が奇抜じゃないのが逆に目立つくらいで。どこかで見たことがある、光は不意に思った。あのクルクルした黒髪といい、ちょっと童顔で…同い年。わからん、思い出せん。
「なんや、つまらんの」
一同は教室に戻ることなく、屋上へ上がって行った。
- Re: ダメ同士、愛してやまない ( No.3 )
- 日時: 2018/09/27 01:35
- 名前: だー (ID: RO./bkAh)
「祐花は?」
「え?私?」
授業を半ばサボっている状態。むしろ、話を聞いているクラスメイトの方が珍しい。つか、この学校で授業聞いたり、真面目なの陰キャぐらいじゃん。高木祐花は4人組の女子のグループの中では、かなり華がありちょっと化粧っ気があるが可愛い。生物の時間は恋バナ、と決まっている。
「祐花ならさぁ、多分誰でもいけるやろ」
「例えば?」
ぶっちゃけ自分のことは可愛いと思う。あざとく生きるより、自覚してハキハキしてる方がまし。だから、ちょっと大きな声で好きな人の名前とか言ってみる。
「うーん、切原くんとか?かっこえー」
「5組やろ、わかんで」
あの死んだ感じの気だるい目なのに、童顔でちっちゃい顔がいいの。まさにイケメン。体格もいいし、クールそうなのも。やばい、ばりタイプ。
「LINE持っとん?」
「あ、なんかな誰も知らんて」
クラスのグループにもいないらしい。これは、私だけが喋るチャンス。チャイムが鳴るのを待って4人は廊下に出た。赤也はトイレに行こうと、教室を出るとケバい女子4人とすれ違った。
「切原くんやろ?」
中でも一際目力のあるロングヘアの女子がパタパタと寄ってきた。
「いきなりごめんね」
「…」
赤也は表情を変えずに、ただ祐花を見下ろすのみ。祐花は一瞬俯いたかと思えば、赤也と視線を合わせて柔らかく微笑んでみせた。世にいう上目遣いだが、赤也はまだ真顔である。
「なんの用?」
「私、3組の高木祐花って言うんやけど、実は…ずっと切原くんと話したくて…」
「…」
赤也は話の途中でトイレに行こうと、去ろうとした。
「ねぇ、私とLINEせーへん?」
「…めんどくさい」
トイレに行ってしまった。人生で初めてなんやけど、男子がまともに話聞いてくれんの。何があかんかったの。
「祐花のこと、めんどうやって…」
「どんだけハードル高いん…」
残りの3人はすぐさま祐花に近寄り、呆然と赤也の背中に目をやる祐花を一気に慰め始めている。なんや…。赤也くん、ひどいわ。
- Re: ダメ同士、愛してやまない ( No.4 )
- 日時: 2018/09/29 20:30
- 名前: だー (ID: RO./bkAh)
今は父方の曽祖父の家で暮らしている。半ば引き取ってもらった。父親は仕事のため神奈川に残り、母親はよく分からないが父親と早々に別居して神奈川県内で暮らしているらしい。赤也は駅から曽祖父の家まで歩いて帰った。当然、人と関わる用事もないので真っ直ぐ家に帰って部屋にこもるか、マンガや服を買うために寄り道をするくらいである。
「…ただいま」
引き戸を開けて、スニーカーを脱ぐ。知らない靴がある。薄いピンクのVANSのスニーカー、薄汚れていてサイズもそこまで大きくない。赤也は不意に気になって、リビングのドアを開いた。
「おかえり」
もう90近い曽祖父はリビングでテレビを見ていた。離婚後、両親共に祖父母と関わりたくなかった赤也は曽祖父に引き取られる形になった。「もうすぐ死ぬ」と自負する曽祖父は、大手企業の創設者であり役員であったため、定年退職後も75歳まではフリーの企業アドバイザーとして働いていた。年金が貰えなくなるほど稼いでいたらしい。その遺産は誰にやるかと言うと
「お前らには絶対にやらん」
自分の息子と孫、即ち赤也から見て祖父と父親にはお金が降りてこない。つまり赤也が多額の遺産を受け取ると言うわけだ。実際、赤也の口座には500万ほど振り込まれているし、幼少期から名門の私立に通っていた赤也の姉の学費も8割曽祖父が出している。だけど今は自らこじんまりとした家で暮らし、曾祖母に先立たれてしまった。貯金は果たして如何程。
「あ、あのな、ヘルパーさんが来とるから挨拶しときや」
台所からは何か匂いがする。台所へ向かうとポニーテールの若い女性の後ろ姿があった。
「どうも」
「あら、おかえりなさい」
大学生だろうか、自分より年上なのはわかった。
「おじい様のヘルパーの、市山さやかです」
ニッコリと微笑まれて、赤也は素直に恥ずかしくなった。今はハンバーグか何か作っているのだろうか、デミグラスソースの匂いがする。笑うと意外とあどけない。化粧っ気はあんまりなくて、うっすら茶髪。可愛いといいより綺麗。
「風呂場の掃除も頼んだ」
「はい」
重い腰を上げて台所へやってきた曽祖父はそれだけ言い残して、畳の部屋に入っていった。
「赤也さんもお部屋でゆっくりなさってください。支度が出来たらお呼びしますね」
「…ありがとうございます」
赤也は部屋に入った。なんだか、妙にそわそわする。ただ可愛いと思うだけだ。誰かを好きとか、嫌いとかそもそも赤也は他人に興味を示さなくなった。それが自分でもわかっているし、裏切られたらそれまでの自分の時間を無駄にする。どうせ…