二次創作小説(紙ほか)
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- 東方夜廻抄 [夜廻・深夜廻]
- 日時: 2023/05/27 09:44
- 名前: 博士 (ID: 7ZyC4zhZ)
※注意
この物語は夜廻・深夜廻のネタバレを含みます。
・オリキャラは出ません。
・独自解釈あり
・微グロ描写
・東方キャラの死ネタ
それでも読みますか?
うん やだ
-プロローグ-
ある夜、二人の少女は離れ離れとなった。二人の少女は大切な物を失った。
山に住み着いていた-縁結びの神-に自殺に追い込まれた少女・ユイは、縁結びの神がいなくなっても尚、ハルと花火を見たこの山に幽霊として存在し続けていた。
しかし、何年か前に春雪異変で結界が緩んだ幻想郷にユイはいつの間にか迷い込んでしまう。
しかも、縁結びの神は生きていた。ユイの体に憑依していた縁結びの神は、ユイから抜け出して、冥界を超えて、幻想郷に逃げ込んだ。縁結びの神は妖怪の山に隠れ、密かに完全復活を遂げようとしていた。
- Re: 東方夜廻抄 5話 よまわりさん ( No.5 )
- 日時: 2023/05/22 08:55
- 名前: 博士 (ID: 7ZyC4zhZ)
-博麗神社-
霊夢「困ったわね...」
霊夢は腕を組んで、考えていた。原因は目の前にいる赤いリボンをつけた幼い少女だった。昨夜、今まで見たことも無い-何か-に突然渡されたこの少女をどうするべきか考えていた。
ユイ「あの〜...」
霊夢「あ、ごめんね。ちょっと考え事してて...」
ユイ「...えっと」
霊夢「名前を言ってなかったわね。私は博麗霊夢。この神社で巫女をやっているわ。」
ユイ「私の名前はユイです。その...霊夢さんは誰が私を預けたんですか?」
霊夢「それが、私も分からなくてね。白いお面を被って、真っ黒なミミズみたいな奴なんだけど...」
ユイ「...よまわりさんが!?」
霊夢「知ってるの?」
ユイ「うん。私の学校で、夜に彷徨ってる子供を攫うっていう噂を聞いたことがあるの。」
ユイが悪霊と化して、夜を彷徨っていたときに、一回だけ会った事があるらしい。
霊夢「良くわからないわね...」
霊夢がまた何かを考えようとしている時、ユイはハッと気がついた様に霊夢に尋ねる。
ユイ「私...友達を探しているんです!」
霊夢「友達?」
ユイは二年前の夏の夜。自分の親友-ハル-と別れ離れになってしまった事、自分がつい最近まで悪霊として、山に住み着いていた事を明かした。
霊夢「それは大変だったわね...」
ユイ「生き返った今なら...もう一度ハルに会えるかもしれないんです!」
ユイは涙目で霊夢を見る。反則だ。こんな顔を見せられて、帰りたければお金を払えなんて言えない。
霊夢「...しょうがないわね。いいわ...外の世界に返してあげる。」
ユイ「本当!?」
霊夢「本当よ。ハルちゃんと会えるチャンスなんでしょう?」
お祓い棒を肩に乗せ、ウインクをして見せる。
霊夢とユイは神社の外に出て、外の世界に帰るための手順を始めた。
霊夢「まずは結界をこじ開けて...」
霊夢は何も無い空...-空間-を歪ませて開け始めた。
ユイ「まさか...結界を壊してるの!?」
霊夢「そういえば、小町に聞いたらしいわね。-幻想郷-の話は...」
ユイ「結界が壊れたら危ないんじゃないの?」
霊夢「大丈夫よ。あいつが来るから。」
ユイ「あいつ...?」
その時だった。霊夢の後ろに、-スキマ-が現れた。中から出てきたのは、女性の手だった。
霊夢「痛っ!」
スキマから女性の半身が出てくる。-八雲紫-は霊夢の頭を軽く叩いて、叱った。
紫「こらっ、霊夢!結界をいじっちゃ駄目って言ったでしょう?」
ユイ「え...妖怪!?」
紫「あら、この子は?」
霊夢「ユイちゃんよ。外の世界から迷い込んできたみたい。」
紫「そうだったの...って、だから私を呼ぶために結界を!?」
霊夢「だってこうすれば絶対現れるじゃない。」
紫「しょうがないわね...さて、ユイちゃんだっけ...このスキマに入れば、外の世界に戻れるわ。」
紫はもう一つのスキマを開いた。スキマの奥の景色は、悪霊となったユイが住み着いていた山だった。
ユイ「ありがとうございます!」
待っててね...ハル!
そのスキマに入ろうとして...
よまわりさん「グオオオオオオオオオ!!」
横からいきなり、豹変したよまわりさんがスキマを通せんぼした。
ユイ「まだ昼間なのに!?」
普通、お化け達が現れるのは夜だ。しかし、妖怪達がたくさん住む幻想郷では、幽霊やお化けもある程度の力を持って、昼間も人間に見つかる事は良くあった。
ユイ「なんで...邪魔するの?」
少しでも早くハルに会いたいのに...
霊夢「退治するしか無いわね...」
霊夢は御札を取り出し始めた。
紫「待って霊夢。あれはお化けとか妖怪じゃないわ。」
霊夢「え...?確かに気配が全然違うわね。」
紫「ユイちゃん...あれはもしかしたら神なのかもしれないわ。」
ユイ「神様!?」
ユイがよまわりさんの方を見る。普段と違う赤黒い体に大きな口。とても神様には見えないが、コトワリ様のような、怖い見た目の神様は何体か知っていた。
ユイ「よまわりさんは、夜に子供が彷徨っていると、どこかに攫っちゃうっていわれてたんだ...」
紫「きっと道祖神かもしれないわね。」
今一度、ユイはよまわりさんをじっと見た。見た目こそお化けだが、こちらを襲う気配は無い。むしろ、この先に行くなと警告しているようだった。
ユイ「もしかして...」
よまわりさんも神様?ならば...助けてくれるの?
昨日、妖怪に襲われた自分を助け、この場所に送り、今はスキマを通せんぼして、幻想郷から逃げられない様にしている。
ユイ「もしかして...!」
ユイはスキマから後退りして、呟いた。
ユイ「ハルは幻想郷にいるの?」
続く...
- Re: 東方夜廻抄 6話 切れた縁と絆を結び直す ( No.6 )
- 日時: 2023/05/22 20:36
- 名前: 博士 (ID: 7ZyC4zhZ)
-守矢神社-
ハルが神社に泊まって次の日。外の世界に帰るため、ハルは博麗神社に行く事になった。
ハル「昨日はありがとうございました!」
本殿の前に立つ早苗に向かってお辞儀する。
早苗「別に良いですよ...今は神事が忙しくて、ハルちゃんには一人で行ってもらわなければならなくなってごめんね。...でも、霊夢さんなら外の世界に帰す事が出来ますよ!」
ハル「霊夢さん?」
早苗「東の端の方に位置する博麗神社。そこの巫女をやってる人なんですよ!私と違って、紅い巫女服を着ていて...」
ハル「赤い巫女服!?」
夢の中で見た女性と似た特徴だったため、咄嗟に叫んでしまった。
早苗「どうしたの?」
ハル「本当にありがとうございます!!」
ハルはそう叫んで、物凄い勢いで博麗神社の方へ走っていった。
-人間の里-
ハル「はぁ...はぁ...流石にもう走れない...」
運動があまり得意では無いハルは、息切れして、里で少し休んでいた。正午を過ぎた辺りで守矢神社を出たので、もう夕方だった。久々に夜遅くに起きていて、寝坊してしまったのだ。さらに妖怪対策のための準備も長引いてしまったのが原因だった。幻想郷は妖怪の存続のため、里の人間を殺したりする事は出来ないが、外から来た人間は殺しても構わないとされている。ましてや、ハルは十歳程度の幼女。ルーミアに襲われた時よりも簡単に殺されてしまうだろう。
それでも、ハルは一人で神社を目指した。
最近見る夢にはユイと赤い巫女服を着た女性がいつも出て来ていた。もしかすると、ユイは博麗神社にいるかもしれないと、急いで向かっていたのだ。
しかし、ユイは既に死んでいる。今更会っても何が出来る?
そんな邪念を捨てて、休憩を終えたハルは神社に走り出した。
-魔法の森-
道に迷ったハルは、博麗神社では無く、その近くに存在する森に迷い込んでいた。日は暮れて、もう夜だった。
ハル「誰もいないのかな?...それにしても、さっきから気分があまり良くない...」
魔法の森は人間にとって最悪の環境である。化け物茸の胞子が宙を舞い、普通の人間は息するだけで気分や体調に害を及ぼす。妖怪達も森にはあまり近寄らない。幸い、森の中でお化けに遭遇する事は無かった。
しばらく歩いて、一つの家を見つける。
ハル「誰かいるかな...?」
窓からは温かい光が漏れていた。ハルは家の扉に近づいて、ノックする。
ハル「すみません!誰かいませんか?」
ハルが呼び変えるその時、扉が開いた。中にいたのは、ウェーブのかかった短い金髪の女性だった。
アリス・マーガトロイド「道に迷ったのね...って、子供!?」
こんな夜に少女が来た事に戸惑う。
ハル「す...すみません。博麗神社に行こうとして、迷っちゃって...」
アリス「そうだったの...名前は?」
ハル「名前はハルです...」
アリス「こんばんはハルちゃん。私はこの森に住む魔法使い、アリスよ。さぁ、上がって」
アリスはハルを家に入らせて、話をする。
アリス「ハルちゃんはどうしてこんな夜中に歩いていたの?」
ハル「私...外の世界から迷いこんで、早苗さんの神社に泊まってたんです。」
アリス「守矢神社に?」
ハル「うん...もしかしたら、博麗神社に友達がいるかもしれないって思って...ここまで来たんです。」
アリス「そうなのね...でも、今日は暗いし取り敢えず」
ハル「今すぐにでも会いたいんです!」
ハルはアリスの腕を掴んで必死に訴えた。
アリス「...分かった。私もついていって上げるわ。ちょっと待っててね。」
ハル「ありがとうございます!」
アリスは人形を準備し始めた。ハルはリュックから紅い鋏を取り出して見つめていた。
二年前の夏のあの日、ユイと切ってしまった絆と縁。一度切れたとしても、また結び直せるはずだ。
アリス「準備は出来たわ。行きましょ!」
ハル「うん!」
こうして、アリスとハルの短い-夜廻-が始まった。
- Re: 東方夜廻抄 7話 悪縁を断ち、絆を結ぶ ( No.7 )
- 日時: 2023/05/22 21:22
- 名前: 博士 (ID: 7ZyC4zhZ)
-博麗神社-
霊夢「...ユイちゃん。そろそろ中に」
ユイ「.........」
霊夢「もう夜だし、外にいたら寒いでしょ?」
ユイは何も言わず、じっと神社の鳥居の前で立ち止まっていた。よまわりさんの行動でユイは、ハルが幻想郷のどこかにいるかもしれないと悟った。霊夢の説得で、夜廻はしなかったが、ハルが自分を探しに来てくれるだろうと信じて、神社でひたすら待っていた。
ユイの行動に拍車をかけたのは、少し前の出来事だった。
-------------
よまわりさんの妨害でスキマを塞がれたので、やむなく紫は諦めて姿を消した。
よまわりさんも、ユイがスキマに入ろうとするのをやめた事でどこかに行ってしまった。その時、一人の天狗が霊夢と話していた。
射命丸文「では、霊夢さん。また今度!」
霊夢「じゃあね...文!」
新聞記者の文は、すぐに遠くへ飛んでいってしまった。
ユイ「どうしたの?」
霊夢「ちょっと話してただけよ。でも、何か変な事言ってたわね...」
ユイ「変な事?」
霊夢「さっきのは天狗の新聞記者だけど、人間の里で外来人を見つけたんだって。」
ユイ「外来人?」
霊夢「ユイちゃんみたいに外から来た人の事よ。青いリボンをつけて、左腕が無い子が里で座ってたって」
ユイ「ハルだ!!」
青いリボンに左腕を失った人など、ハルしかいない。ユイはハルが幻想郷にいる事に喜んだ。
ユイ「...ハルと会える!」
-------------
二年程、切れていた縁は再び、結ばれようとしていた。
-博麗神社前-
ハルとアリスの前には、長い階段があった。一番上には、鳥居が見える。
アリス「後少しよ...がんばりましょ、ハルちゃん!」
ハル「...うん!」
道中、お化けや妖怪に襲われたがアリスが撃退してくれた。
ハル「この階段を登れば...」
その瞬間、ハルの後方から何かが突進してきた。
コトワリさま「グワァァァァァァァァァ!」
アリス「ハルちゃん!危ない!」
アリスはハルの後ろに立って、コトワリさまに立ちはだかった。ハルが咄嗟に後ろを見る。
ハル「コトワリさま!?」
アリス「知っているの?」
ハル「うん...縁切りの神様なの。」
コトワリさま---縁切りを司る神であり、悪縁を断ち切る神様だ。心の底から願い、「もういやだ」と発言すると現れる。しかし、今回はハルの目の前にいきなり出て来た。
ハル「なんで...コトワリさまが?」
そう呟いたものの、大体の予想は出来ていた。コトワリさまが出てきた事で、この先に必ずユイがいる事を断言できる。
コトワリさまは、ハルとユイの縁を切ろうとしているのだ。
二年前、切った筈の縁が結ばれそうになったから、コトワリさまが現れて、完全に縁を切ろうとしていたのだ。
ハル「ごめんなさい...コトワリさま。」
ハルはコトワリさまを-見て-喋った。
ハル「私とユイはあの夜、あの怪物(縁結びの神)に悪縁を結ばれちゃったんでしょ?だから、結ばれそうな悪縁をもう一回切ろうとしてるんでしょ?」
コトワリさまは何も言わず、ただじっとしていた。
ハル「でも、もう大丈夫...私とユイが今から結ぶのは...悪縁なんかじゃない!」
コトワリさまからもらった紅い鋏を胸に当て、叫んだ。
ハル「本当の良縁を結ぶの!」
その言葉と同時に、コトワリさまは静かに消えていった。
辺りを静寂が包む。それを打ち破ったのは、一つの声だった。
ユイ「......ハル?」
ハルは声のする方向に顔を向けた。
階段の上からアリスとハルを見つめていたのは、ユイだった。
- Re: 東方夜廻抄 8話 新たな始まり ( No.8 )
- 日時: 2023/05/23 20:56
- 名前: 博士 (ID: 7ZyC4zhZ)
二年前の夏の夜に別れたはずの親友が立っている。これも夢なんじゃないかと疑ってしまう。しかし、階段の上にいたのは間違いなくユイだった。黒い洋服に赤いリボン...あの夜から全く姿が変わってないみたいだ。
ハル「...っ!!」
息をするのも忘れて階段を一気に駆け上がる。あの夜からもう一度会いたいと願っていた親友が目の前にいる...落ち着ける訳が無かった。階段を登り切って鳥居をくぐる。ユイとハルが見つめ合う。
ハル「ユ...イ...?」
ユイ「ハル...だよね?」
ハル「ユイなの?」
ユイ「そうだってば...ハ」
ハル「ユイ!
名前を叫んで抱きしめた。感極まって、そのまま泣き崩れる。ユイも抱き返して、一緒に泣いた。
ユイ「...寂しかったんだよハル?...二年も経っちゃったし...」
ハル「ごめんね...ごめんね...ユイぃっ...!」
泣き崩れて抱き合う二人に霊夢とアリスは困惑するしかなかった。
涙を拭って、しばらく黙り込む。静寂を破ったのは、ハルだった。
ハル「...そういえば、ユイってもう幽霊だったのに...暖かく感じるね...」
ユイ「うん、生き返ったよ。」
ハル「...え?」
思いがけない返答に驚いてしまう。
ユイ「コトワリさまに助けて貰ったんだ!」
ハル「なんで知ってるの?」
ユイ「実は、ハルがいなくなった後、幽霊のまま夜を彷徨ってたんだ...」
自分がいなくなった後、成仏もせずに町に残っていたらしい。二年間も一人ぼっちだったユイを想像してまた泣きそうになった。
ユイ「...それでね、コトワリさまの神社を見つけたの。」
コトワリさまはその前にも会った事があるらしい。
ハル「でも...良かった...」
ユイ「また一緒に花火見れるね!」
ハル「......うん!」
二人はお互いの手を握る。二人の絆がこれから切れる事は無いだろう。
ずりっずりっ...
その時だった。二人の横にいつの間にか、よまわりさんがいた。
ハル「...よまわりさん!?」
よまわりさんは、じっと二人の事を見つめると、ハルを袋に入れてしまった。
ユイ「ハルっ!」
会ったばかりで離れ離れになるのは嫌だった。ユイはよまわりさんに近づき、ハルの入った袋を引っ張った。
よまわりさん「グボァァァァァァァァッ!!」
豹変したよまわりさんは、ユイに脅しつけるように雄叫びを上げた。
アリス「ハルちゃん!」
階段を上がり、よまわりさんに人形を数体放った。しかし、よまわりさんはハルを返さまいと暴れる。
ユイ「やめて...やめてよ!また離れ離れにしないで!」
よまわりさんに涙ながらに訴える。
ユイ「離れ離れは...」
よまわりさんは何かに気がついたようにユイに突進する。
ユイ「もういやだ!」
コトワリさま「グワァァァァァァァ!」
ジョキン!
ユイの言葉によって現れたコトワリさまは、ハルの入った袋をアリスの放った人形と同時に切った。袋の中からは、気を失ったハルが出てきた。
ユイ「ハル!」
倒れているハルを肩に寄りかけ、神社の本殿に逃げる。
よまわりさん「グガァァァァァァ!」
二人に突進を仕掛けるが、霊夢とコトワリさまが立ちはだかって防いだ。
霊夢「あの子達には近づかせないわ!」
コトワリさま「グワァァァァ!」
すると、よまわりさんは黒い姿に戻る。
霊夢「...諦めてくれたのね。」
しかし、よまわりさんは諦めていなかった。霊夢が油断した隙に物凄い速さで二人の間をすり抜けて、ハルを連れ去ってしまう。
ユイ「ハルっ...そんな!」
よまわりさんは木々の中に突っ込んで姿を消してしまった。
-----------
ハル「...ここは?」
ハルはいつの間にか、よまわりさんに攫われた場所に倒れていた。
チャコ「クゥーン...」
そばにはチャコしかいない。
ハル「ユイっ!...ユイはどこに!?」
そこで、ハルは記憶を思い出した。幻想郷でユイと再会し、よまわりさんに連れ戻された事を。
ハル「また離れちゃった...っ!」
そばにはよまわりさんがいた。
チャコ「ワンッワンッ!」
チャコはよまわりさんに激しく吠えたが、意にも介さずハルに近寄った。
よまわりさん「...いえにかえれ。」
ハル「え!?」
ハルは困惑した。まさかよまわりさんが話せるなんて思っていなかったからだ。
ハル「ど...どうして私をここに戻したの?」
恐る恐る、よまわりさんに聞いた。
よまわりさん「あの子の家族はもういない。母親は死んだ。」
ハル「ユイのお母さんが...?」
よまわりさんによると、ユイが縁結びの神に殺され、ハルが引っ越した後、自宅で自殺していたらしい。子供と夫を無くしたショックで気が狂ってしまったのだ。
よまわりさん「あの子の帰る場所はもう無い。でも、君には帰るべき家がある。あの子はあそこに住んでもらう。」
ハル「じゃぁ...もうユイと...」
絶望した表情でハルは膝を崩す。
よまわりさん「いいや、また会える。」
そう言って、よまわりさんは消えてしまった。
-----------
-博麗神社-
ユイ「あああああっ!ハルが...ハルがまたっ!」
ユイは泣き崩れてしまった。
ユイ「あんまりだよぉっ...!なんで!」
霊夢「ユイちゃん...っ!」
その時だった。よまわりさんが戻ってきた。ユイはそれに気づくと、よまわりさんを睨みつけた。
ユイ「どうしてユイをっ!」
よまわりさん「それは今から話す。」
ユイ「え...!?」
よまわりさん「あの子には帰る場所がある。だから、ここに残っちゃいけない。」
ユイ「...帰る場所...」
ユイが幽霊として彷徨っていた時、母親が自殺してしまった事は知っていた。自分が今生き返ったとしても、外の世界に帰った所で行く宛は無いのだ。
よまわりさん「また明日、会わせてあげる。」
そう言って、よまわりさんはどこかに消えてしまった。
-次の日-
二人が再会した後、霊夢や紫は二人の過去を詳しく聞いた。何せ、ハルとユイは幻想郷に元々いた縁結びの神を追放した事によって、二年前の夜の事件が起こった。紫もその事を痛ましく思って、ユイを幻想郷に正式に迎える事にした。ハルは「友達の家に行く」という理由で休日だけ、幻想郷に行ってユイと会えるようになった。昼間はよまわりさんが出ないため、紫がスキマを繋げてくれる事になった。
-博麗神社-
霊夢「はい!これで大丈夫よ。」
ユイ「わぁっ綺麗!」
ユイは博麗神社の巫女として生活する事になった。
霊夢「異変解決は私がやるし、ユイちゃんには家事とかを任せるわ。」
ユイ「はい!」
二人が外に出た時、目の前に出現したスキマからハルが出てきた。
ハル「ユイ!来たよ...って、その服は!?」
ユイ「これ?可愛いでしょ!」
ユイは赤白の巫女服を羽織っていた。
ハル「うん!」
ハルは満面の笑顔で答えた。それから、ハルとユイは霊夢と一緒に神社の縁側に座って喋った。
ハル「そろそろ夏休みになるし、たくさん会えるようになるよ!」
ユイ「そういえば、そろそろ夏だったね。」
霊夢「...そうだ!」
その時、霊夢が何か思いついたように呟いた。
霊夢「今年は、人間の里で夏祭りがあるみたいなのよ。」
文々。新聞を開いて二人に見せた。今年の夏、里で祭りを開き、花火を打ち上げるとの事だった。
霊夢「あなた達も行ってみたら?」
ユイ「やったぁ!ありがとう!」
ハル「また一緒に花火見ようね!」
あの夜から三年ぶりに二人で迎えられる花火をユイとハルは楽しみに待っていた。
-妖怪の山-
犬走椛「...文か。」
文「久しぶりですね!」
椛と文は、山の奥で待ち合わせをしていた。
椛「それで、やっぱり減ってるんだよな...-白狼天狗-が。」
文はポケットから写真を取り出して見せた。
文「最近、山の警備につく天狗達が行方不明になってます。聞こえたんでしょうね...-声-が。」
椛「...文も聞こえるか。あの声には従わない方が身のためだ。」
二人は空虚な空を見上げ、何かを睨むようにしかめた。
オイデ...オイデ...イッショニオイデ...オイデ...オイデ...ミンナデオイデ...
続く...
- Re: 東方夜廻抄 9話 神は二度、蘇る ( No.9 )
- 日時: 2023/05/24 21:06
- 名前: 博士 (ID: 7ZyC4zhZ)
ユイが幻想郷で暮らし始めて一週間。幸せな日々を送っていた。霊夢に連れられ、幻想郷のいろんな所を見て回った。吸血鬼の住む館、一面向日葵の花畑、妖怪の山の神社、人間の里。度々訪れるハルと一緒にいろんな所を回った。自分が幽霊だった時の退屈感は吹き飛んでいった。
ユイにはさらに嬉しい事が起きた。明日から学校が夏休みなので、ハルが幻想郷に来れる時間が増えたのだ。二週間後のお祭りを二人は楽しみに待っていた。
-二週間後-
ユイ「ハル!はやく行こ!」
ハル「待ってよユイ!待ってってば!」
待ちに待った里のお祭りが始まった。夕日が沈みかけている。
はじめに、二人は手を繋いで霊夢と一緒にいろんな屋台を回る。しばらくして、霊夢の近くに一人の人間が近づいてきた。
霧雨魔理沙「お〜い霊夢っ!」
霊夢「魔理沙じゃん!最近見かけなかったけど、どうしたの?」
魔理沙「魔法の研究で家に引きこもっててさ...祭りの日ぐらい外でようって思ってな!」
霊夢と話す魔理沙の視線は、霊夢の近くにいる二人の少女に向けられた。
魔理沙「あれ?この子達は?」
霊夢「外の世界から来た子供よ。」
魔理沙「へぇ〜、二人ともリボンがよく似合ってるな!名前は?」
ユイ「ユイです!隣にいるのは私の親友のハルだよ!」
ハル「こ...こんばんは」
魔理沙「こんばんは!さてと、霊夢!一緒に酒飲もうぜ!」
霊夢「バカ言わないで、子供連れてんだから!」
魔理沙「悪い悪い...」
帽子を撫でて、軽く謝る。
魔理沙「そうだ!四人で山の方に行かないか?」
霊夢「どうしてよ?」
魔理沙「そろそろ花火が始まるだろ?あの山で花火が見やすい場所あるから教えてやるよ!」
魔理沙は強引にハルを箒に乗せて、山に向かって飛んでいった。
ハル「わぁ〜落ちる!!」
霊夢「全くもう...」
霊夢はユイを手に繋ぎ、魔理沙を追って飛んだ。
-妖怪の山-
魔理沙「よし、着いた!」
遅れて霊夢とユイが魔理沙の場所に来る。
ハル「しぬかと思ったぁ...」
ユイ「大丈夫?」
霊夢「操縦が荒いんだから...」
霊夢は溜息をつきながら魔理沙を睨んだ。視線に気がついたのか、魔理沙はバツが悪そうに俯いた。
魔理沙「ごめんなさい...」
霊夢「分かればよろしい。」
四人は木々が生えてなく、開いた場所に座った。
魔理沙「始まったぞ!」
里の方で花火が打ち上げられた。一つ二つと、いつの間にか真っ暗になっていた夜空を色とりどりの花火が埋め尽くした。
ハル「...綺麗だね。」
ユイ「うん...」
二人は手を繋いでただ静かに、打ち上がる花火を見ていた。二年前の夜、二人であの山の上で見たように。その手はもう離されない。
しばらくして花火は終わり、魔理沙は帰る準備をしていた。
魔理沙「さて、また研究とするか!」
霊夢「あら、祭りは行かないの?」
魔理沙「今の花火で技をひらめいたんだ。じゃあな!」
そう言い残して、魔理沙はすぐに飛んでいってしまった。
霊夢「相変わらず自分勝手ね...二人共、そろそろ山を降りましょ。」
ユイ「霊夢さん飛べるんじゃないの?」
霊夢「流石に二人は危ないからね...」
ハル「私も危ないと思うよ。ユイ!」
ユイ「楽しかったのにな〜」
名残惜しそうに呟いて三人は下山する。
しかし、もう目の前が山の出口という所でハルが立ち止まった。
ユイ「...どうしたの?」
ハル「まただ...いやだいやだ!」
ユイ「ハル!?」
ハルは頭を抑えてうずくまってしまった。
霊夢「ハルちゃん!大丈夫?」
ハル「...霊夢さん...聞こえるんです」
霊夢「え...?」
ハル「-あの声-がまた聞こえるんです!」
ハルが下山し始めた頃、二年前に倒したはずの-縁結びの神-の声が聞こえ始めたという。霊夢は急いで博麗神社へと戻り、紫を呼んだ。
紫「あの神がまだいるですって...?」
霊夢「これが証拠。」
霊夢の手には、御札を貼られて動かなくなっている蜘蛛の形をした両手の異形があった。
霊夢「ハルちゃんがうずくまってる時に後ろにいたのよ。」
紫「間違いないわ。これはあの神の配下よ。」
霊夢「この神社ではハルちゃんに声が聞こえないらしいわ。念の為に結界も貼ってあるし。」
紫「それなら良いけど...困ったわね。」
昔追放した神が復活して幻想郷に戻ってきたとなれば、人間の犠牲が少なくとも出てくるだろう。妖怪達にとって、人間が減るのは死活問題だった。
紫「最近、妖怪や妖精が急に減ったと思ったら...そいつに間違いないわね。」
今回の縁結びの神は少し違った。それは、人間では無く妖怪や妖精達をも狙っている事だった。
オイデ...オイデ...イッショニオイデ...
祭りの次の日、数人の人妖が行方不明になった。
続く...

