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- 不器用なボクら 【創作BL】
- 日時: 2022/05/30 00:50
- 名前: みっつまめ (ID: 8pAHbekK)
全寮制の学園ものBL小説です。
浄化の力を持つ先輩×幽霊がみえ祓えるイケメン後輩
の物語です。
―――――――――
・誤字脱字お許しください
・更新頻度はまちまちです
・荒らしはやめてください
・苦手な人はバックお願いします
―――――――――
~~登場人物と関係性~~
・清水 聡志 高3 305号室 上の階
特徴…橙色の髪、琥珀色の目、長さが均一で無いツンツンさらさらヘアー。ある程度筋肉のある標準体型。基本ポーカーフェイス。関西出身ということもあり独特な訛りがある。身長は178センチ。
性格…面倒くさがりなだけで素っ気なく対応してしまうことがあるが根は優しい。上手に嘘をつく。
幽霊…みえないし感じない、生まれつき近くの幽霊を浄化してしまう体質。体調不良になれば浄化の力が緩む。
・相馬 慧斗 高2 205号室 上の階
特徴…藍色の髪に暗めの青目。爽やかで整った顔立ち。シュッとした体型で太りにくい。身長は173センチ。
性格…争いごとが嫌いで人の良い笑みを浮かべている。臆病で甘えん坊で消極的。
幽霊…みえるし祓える。小学校上級生頃に祓えるようになり、現在は式神も使える。
・菊池 俊介 高2 205号室 下の階
特徴…白に近い金髪頭、前髪をあげて赤のカチューシャで止めてる。茶色い目は猫目。身長は175センチ。
性格…バカで直球。でもちゃんと考えてる。
幽霊…みえないし感じないけど信じてる。ホラーやミステリーが苦手。
・木崎 蓮 高3 305号室 下の階
特徴…短髪の黒髪黒目。筋トレが趣味な為、肉体美。身長は183センチ。
性格…ノリが良く、気前も良い。ほとんど自室に居ることが無く筋肉バカ、後輩を可愛がりからかうことが多い。
幽霊…みえないし感じない。幽霊は信じないが宇宙人は信じるしオカルトは結構好き。
・来間 昭彦 高3 201号室 一人部屋
特徴…襟足が首筋まである茶髪に黒目。左の前髪をピンでとめてる。細身体型だが足の速さは校内でも有名。身長は177センチ。
性格…イベント大好き女子大好きなチャラ男。面倒見は良い方。頭はそんなによくない方。
幽霊…みえないが引き寄せ体質な為、よく怪奇現象にあう。幽霊は信じていてビビりだが自分の近くには居ないと思っている。
・高橋 葵 高1 203号室 下の階
特徴…外ハネの赤髪に黒目、着痩せするタイプのムキムキボディ。身長は低そうにみえて175センチ。成長期中。
性格…いつも元気ハツラツ。怖い物知らずで喧嘩も強い。グロイ映画やゲームをするのが好き。
幽霊…モヤ程度にみえる。祓えないためみえないフリをしていたが今は相馬が居るため厄介な幽霊は祓ってもらっている。
ーーーー物語ーーーー
★再会または出会い?
【相馬慧斗 視点】
・これから始まる寮生活 …>>1
・ルームメイト …>>2
【清水聡志 視点】
・変わり者の転入生 …>>3,>>4
★関係性
【菊池俊介 視点】
・気になる関係 …>>7
【相馬慧斗 視点】
・ドライヤー …>>10,>>11
・相違点 …>>12,>>13
★約束
【相馬慧斗 視点】
・俊介に憑いてる霊 …>>14
【菊池俊介 視点】
・え、マジでデート? …>>15
★日曜日
【菊池俊介 視点】
・デートなんだから …>>16,>>17
・ファミレスにて …>>18,>>19
【相馬慧斗 視点】
・過去の話とサトシ兄ちゃんについて …>>20,>>21,>>22
【清水聡志 視点】
・過去の秘密 …>>23,>>24,>>25
- Re: 不器用なボクら 【創作BL】 ( No.11 )
- 日時: 2022/01/27 20:22
- 名前: みっつまめ (ID: Slxlk2Pz)
階段を上ってきた俺に気づいた清水先輩は自分のベッドに腰掛け無表情のまま俺を見つめて問う。
「自分で乾かすんちゃうん?」
「乾かしますよ 先輩の髪、乾かしたあとに」
「は? 俺が自分の髪も乾かせん歳に見えるんか?」
「バカにしてるわけじゃないですよ、俺が先輩の髪を乾かしたいなぁーってだけです」
「お断りや」
「即答!? いいじゃないですかぁ~」
清水先輩の背後を陣取ろうと会話をしながらベッドに乗り上げれば「ひとんベッドに許可なくあがんなや、降りんかい」と腕を引かれベッドから降ろされそうになり慌ててベッドシーツを掴み、足をばたつかせ駄々をこねるように「いやいや」と言えば、引かれていた腕を掴む力が緩まりバタつかせていた足に「埃がたつからやめろ」と言及される。大人しく足を沈め、数秒お互いが沈黙する。
先輩のベッドにうつ伏せで倒れベッドシーツを掴みながら小さい声で交渉をする。
「先輩の髪 ドライヤーかけさせてくれるなら、退いてもいいですよ」
俺の言葉は小さくても届いたのか「はぁー」と深いため息が聞こえる。先輩の背中を見上げれば首の後ろに手をあてていた。
清水先輩は自分の領域に他者が介入することも干渉してくることも良く思わない。だから先輩の所有するベッドに俺があがることも良く思わないはずだ。交渉が成立することは必然である。
先輩に嫌われるのは嫌だし、さっきのため息だって俺のこと面倒くさいと思ったかもしれない。でも先輩と居られる時間があるなら時間は有意に使いたい。
入寮初日、先輩は俺のこと知らないみたいで“人違いじゃないか”って聞いてきた。俺は人違いじゃないって今でも思ってる。けど一概に否定は出来ないし理由を言っても信じてもらえないことは分かってる、だから俺も知らないフリを演じた。
人違いって言うなら教えてよ、
アナタのオーラが昔見た少年と同じ理由を…
人違いって断言できるなら証明して見せてよ、
アナタの過去に俺が介入していないことを…
アナタの髪の色は地毛じゃないし瞳の色はカラコンだってことを…
アナタの口調が定着してる地域では、困ったときや考え事してるときに首の後ろに手をおく癖は皆がしてるんだってことを…
先輩が過去を忘れててもいい
俺が憶えてるから
でも――無かったことにされたくもない
俺が物思いにふけっていると先輩は口を開いた。
「おまえ、なに企んでるんや」
それは口調こそ疑問形だけど交渉成立の台詞だった。
こちらを見ている先輩は若干冷や汗をかいているような焦りを隠しているようなそんな表情が窺える。そんな先輩に優しく微笑む。
先輩が悪いんですよ、ハッキリ俺を突き放さないから
俺なんかに優しくするから
俺なんかを甘やかすから
俺なんかを傍に置いて、一緒にいてくれるから
どうしても“サトシ兄ちゃん”と比べてしまうし、
このひとが“サトシ兄ちゃん”なんじゃないかって期待して、そうであってほしいと望んでしまう…俺の目に視えるものが“人違い”じゃないって言ってるから―――いつまでも俺はアナタから離れられないでいる…
言えない想いを笑顔に隠して、今日も嘘と本音を半分ずつ混ぜて応える。
「何も企んでなんかないですよ、先輩の髪を乾かしてみたい ただそれだけの話です」
- Re: 不器用なボクら 【創作BL】 ( No.12 )
- 日時: 2022/01/29 22:13
- 名前: みっつまめ (ID: 4V2YWQBF)
交渉を成立させた俺は清水先輩の髪を乾かす権利を得た。
どうしてもベッドに乗ってほしくないみたいで目の前に座布団を敷かれ、「ん」と顎で座れと指示されたため俺がドライヤー片手に座布団に座れば先輩は俺に背を向けた。
先輩を後ろから見るなんて珍し事でもないけど改めてみると、なだらかな猫背だなと思う。
「はよせえ」
「はーい」
先輩に声をかけられてハッとし、頭を覆うタオルを外して、しなだれて元気のなくなった先輩の髪にドライヤーから風を送り始めた。
ある程度、先輩の髪が乾いてくると重力に逆らいフワフワ元気な綿毛のように揺れて、ドライヤーの風が当たると橙色の髪が風を嫌がるような動きに見えて面白い。わしゃわしゃと左手で髪をかき分けてドライヤーの風をあててを続けていると、なんだか犬のシャンプー後にドライヤーをあててる気分になってくる。
「っふふ」
「おい、お前いま失礼なこと考えたやろ?」
「え、聞こえてるんですか?」
気づいたら笑っていたみたいで、先輩から問いかけられる。ドライヤーの風によってかき消されていてもおかしくない声量だというのに距離的に聞こえたのか先輩の地獄耳が聞き取ったのか。きっと今 渋い顔してるんだろうなと思うと、先輩の心を揺らしているみたいで嬉しくなる。
「先輩の頭 “わさお”みたいだな~って」
「だれがブサカワ犬や、しばくぞ」
「え、先輩“わさお”知ってるんですか?」
「秋田犬の長毛種って一時期有名になったなぁ」
「…チャウチャウの方がよかったですか?」
「なんでやねん、俺の頭はライオンみたいなんか? いや犬でもあかんけどな」
「っふ、ふふ」
「なに笑うてんねん」
「いやいや、先輩詳しいなぁーって」
「誰でも知っとるやろ、こんくらい」
先輩は頭の回転が速いし頭も良い、おまけに面白い。幽霊を寄せ付けない浄化のオーラは今でも眩しくて暖かい。
ちょっとなら、話してもいいかな…?
ドライヤーの風を弱めて、なるべく平然を装って「俺ね」と先輩に向かって話す。
「俺ね、この間 俊介と“ほん怖”観てたんですよ」(※ほん怖=「ほんとうにあった怖い話」の略)
「おん」
「俊介、けっこう怖いの苦手だったみたいで」
「お前は平気なん?」
「まあ、俺は平気ですけど」
「ふーん、ほんで?」
「ヒイヒイ言いながら“何で憑いて来んだよ”とか“この主人公は長く生きられねぇ、迎えがもう来ちゃってる”とか騒いでたんです」
先輩の髪を乾かし終えて、自分の頭にドライヤーをあてるも、自然乾燥で頭皮までほどんど乾いていたみたいでドライヤーのスイッチを切ってコンセントから抜く。
「おれ正直、幽霊だったら気になる人の近くに居たいし、出来ることなら自分のとこに来てほしいとか思うけどなぁ~って思って」
「なん? 気になる人でもおるんか?」
「いや、そういうことじゃなくて…なんというか、幽霊って皆が皆 悪いことしてるワケじゃないし、死へ導く行為に悪意がないこともあるんじゃないかなって」
「随分そっち側の意見言うんやな、なに 視えとんの?」
「なんとなくですよ。 先輩は?」
「なんや」
「先輩は、幽霊とか信じます? 居ると思います?」
それとなく先輩からの質問を躱して問いかける。
振り返った先輩の気だるげに下がった瞼から小さな琥珀色の瞳が光り俺を捕らえる。記憶の中で似たような質問をしたときの“サトシ兄ちゃん”と重なった。
~~回想~~
トンネルに入る直前、薄暗い闇の中にひっそり佇む人が居たりトンネルの道の真ん中で円になって座った人たちが笑い合ってる。他にも動物の声や世間話をするようなヒソヒソ声に恐怖で立ち止まる。トンネルの中は夥しい数の気配に前を歩くサトシ兄ちゃんの服の裾を引っ掴んで留める。
「…そこにいる」
振り返った兄ちゃんは不思議そうに首を傾げる。
『お? 前から思っててんけど、なんか見えるん?』
「うん…やっぱりサトシ兄ちゃんにも見えてない?」
『う~ん、オレにはなんも見えんけど…怪獣とか化けもん、妖怪的な、そんなんか?』
そういうのはまだ判断つかなくて「わかんない」と答えると兄ちゃんは無表情で俺を見つめた。サトシ兄ちゃんにも信じてもらえないことが怖くて、その琥珀色の瞳が俺の恐怖を見透かすようで声が出せないでいると兄ちゃんが先に問う。
『怖いん?』
「…うん…でも、兄ちゃんが近くに居たら寄ってこないし消えちゃうのもいるから」
『ほんなら、オレと一緒に居ればええんちゃう?』
サトシ兄ちゃんは服の裾を掴んでいた俺の手を服から離して握りしめる。平然として言う兄ちゃんに、もしものことがあると思うとそれも怖くて首を横に振る。
「っでも、兄ちゃんには見えてないんでしょ? 何かあったら怖いよ」
『何かありそうになったら声かけてくれたらええやん お前も居るし、大丈夫やろ』
どこからくる自信かは分からなかったけど、それよりも“俺が見えること”を否定しないサトシ兄ちゃんに恐る恐る聞いてみる。
「俺がみえてること、ウソだと思わないの?」
『ウソなん?』
「いや、ホントだけど…」
『ほな、なんも問題あらへんやん、行こか』
俺の手を引いてゆっくり半歩前を歩く兄ちゃんにまだ信じられなくて繋いだ手をギュッと握れば、振り向いた兄ちゃんがボソッと言う。
『オレは何も見えんけど、鶴が居るて言うなら居るんやろ』
「えっ…?」
『鶴が言うてることなら信じる言うとんねん! 黙って隣歩かんかい』
と言って握った手を引かれて隣を歩けば、そっぽを向いた兄ちゃんは唇を尖らせていて薄暗いトンネルの中なのに兄ちゃんのオーラのせいか、兄ちゃんの頬や耳は赤くなっているように見えた。
~~~~~~
当時は“みえること”を信じてもらえた嬉しさが勝って他に何も考えていなかったが、そういえば「ツル」と呼ばれていたんだったと思い出す。
慧斗って名前は毛糸にも勘違いされそうだからって毛糸から連想される「鶴の恩返し」から取って「鶴」と呼ばれることに決まり、そう呼ばれていた。
今思えば、イントネーションで「毛糸」って思う人は少ないだろうとか、なぜ「毛糸」から連想されるのが「鶴の恩返し」なのか「鶴の恩返し」は「毛糸」ではなく「糸」で織物をしていたはずだとか、そもそもなぜ違う呼び方で呼ぼうとしていたのかなど疑問はたくさんあるけれど、当時は年齢が近く親しい友達関係を築けるだけで嬉しかったから呼び方などこだわってはいなかった。
サトシ兄ちゃんは“自分は視えないけど、視えると言う人がいるなら、存在するのだろう”と“居ることを信じる”と言った。
先輩はどうなんだろう…見るからに非現実的なものや科学で証明されていないことを認めない現実主義者みたいだから「おるわけないやろ、んなもん」とか言われるだろうな…それならそれで“サトシ兄ちゃんとは違う点”として挙げられるから嬉しいんだけど
そんなことを考えながら、負けじと先輩と見つめ合って数秒。シャワールームから木崎さんが出てくる音がする。先に視線を逸らした先輩は興味なさげに答えた。
「居るって言う人が視えんねやったら居るんちゃうか、俺は見えんから信じてへんけどな」
「は…?」
なんでそういう思わせぶりな返答をするのか…
- Re: 不器用なボクら 【創作BL】 ( No.13 )
- 日時: 2022/01/31 17:12
- 名前: みっつまめ (ID: kI5ixjYR)
「は?ってなんやねん 答えてくれた優しい先輩に失礼やろ」
無表情のままの先輩に頭を軽く叩かれる。全然痛くないけど、頭を叩く必要のなさについて聞けるほど今の俺は余裕を持ち合わせていない。
「いやいやいや、はい? 結局先輩は見えないから信じないってことですか?」
「そーや、幽霊は居らんやろうけど居るって言う人間は見えてるから信じるっちゅーことやな」
それは“幽霊が居るってことを信じる”って意味じゃないの?
「…っもぉ~ワケわかんないんですけど」
先輩の回答に困惑して頭を抱えると先輩は立てた片膝に肘を置いて頬杖しながら「要約すると」と続けた。
「俺は自分の目で見えてるもんしか信じんちゅーことや」
顔を上げれば、愉快そうに俺を見下ろしている先輩と視線がかち合う。俺をからかって楽しんでるように見えるその表情にムッとする。それ以上言葉を発さない先輩の様子から「お前はどうなんや」と問われているみたいで、俺も仕返しに笑顔で返してやる。
「へぇ~奇遇ですね、俺もそうなんですよー」
「なんや、意味深やなぁ」
「先輩と同じこと言ってるだけじゃないですかぁ」
ニコニコ笑顔で返せば、先輩はまた無機質な無表情へ戻り俺をジーッと見てくる。その逸らされないジト目が、ついてもいないのに俺に嘘をつくなとチクチク刺さってくる。そのうえ沈黙されると変な冷や汗が出てきて、今度は俺が視線を逸らす番だった。
「…あの、あんまり真正面から見つめられると恥ずかしいんですけど」
顔を逸らして焦りを隠すために笑いに変わりそうな台詞を言えば、先輩の腕が伸びてきて俺の頭に触れる。突拍子もない行動に柄にもなくドキッと心臓が跳ねる。驚きで言葉が発せないでいると先輩の手は俺の髪をかき分けながら頭を撫でつける。
「イケメンのくせ、見られただけで恥ずかしなってどないすんねん 髪ボサボサやで」
「…先輩よりボサボサじゃないんで」
「お、喧嘩うっとんのか?」
いつもより少しだけ落ち着いた口調で話す先輩が俺の頭を優しく撫でている事実に頭が真っ白になる。先輩の頭をいじればいつも通りの口調と言葉が返ってくるのに、すぐ傍に先輩がいると思うと俯いた顔が上げられない。
だからといって「近い」なんて言えば、先輩を変に意識してるって思われるのも嫌だし、先輩から“からかうと楽しいオモチャ”扱いされたら何を言ってしまうか分からない。
行き詰まった俺に一筋の光が差し込む。
「おっ、なんだ、慧斗まだ居るじゃねーか」
下の階から聞こえた木崎さんの陽気な声にハッと我に返り、目の前の清水先輩を突き飛ばして立ち上がる。口早に「もう帰ります」と言えば、ベッドに手をついている先輩から「声でか」と聞こえてくる。そのまま下の階へ階段を足早に降りていると、慌てていたからか階段を踏み外した。
「うわっ!」
しまったと思ったときには遅く、体勢が崩れて顔面から床に強打することに備え、目をギュッと瞑った。
しばらくしても顔を床にぶつけた痛みが襲ってくることはなく、床の冷たさもない、にも関わらず顔には何か暖かいものがあたっている。
「あっぶなかったな~、大丈夫か? 慧斗」
「…木崎さん」
なんとたまたま階段下に居た木崎さんが俺を抱き留めてくれたらしく、俺の顔面は木崎さんの胸板にぶつかったらしかった。危機一髪、安堵のため息を零せば俺を離した木崎さんから「怪我はないか?」と問われ足首を捻って確認する。痛む箇所もなく木崎さんにお礼を言う。
「平気です、木崎さんのおかげで痛むところもありません。 ありがとうございま」
「鈍くさいやっちゃなぁ」
俺の言葉に被るように上の階から先輩の呆れた声が聞こえ、またカチンとくる。遠回しにでも先輩をディスってやろうと清水先輩に聞こえる少し大きめの声で木崎さんを褒める。
「ほんと、木崎さんがムキムキに鍛えてくれてたおかげで俺が助かりました~、きっと細くて筋肉足らなかったら結構身長もある俺を抱き留めるなんて無理ですもん 共倒れしてますから~」
「え、そ、そうか?」
「そもそも慌てて駆け下りんかったらそんな事態にはならんやろ、なにがあってん」
褒め言葉を素直に受け取る木崎さんに、俺の攻撃なんて微塵もあたってない様子の先輩からは慌ててたことも気づかれてて、その原因はなにかと聞かれる始末。ぐうの音も出ないこの状況から一刻も早く逃げ出したい。
「そういえば明日提出の課題、まだ終わってなかったの思い出したんで、失礼します」
「おう、それなら早めにやらねぇとな!」
「…分からんとこあったら手伝おか?」
「頑張れ」と応援してくれる木崎さんと違って、小馬鹿にしてくる清水先輩に「分からないとことかないんで!おやすみなさい!」と叫ぶように大声で言って先輩たちの部屋の扉をバンッと閉める。
静かな廊下に出ると、落ち着くことができて先程までの自分の言動に後悔する。はぁ~と深いため息をついて先輩たちの部屋の扉を背にその場に蹲る。
サトシ兄ちゃんと清水先輩の違いは1つあった
清水先輩は、すごく意地悪だ、口も悪いし、俺にアホアホ言う
あんなに似てるのに、やっぱり…違うのかな?
先輩の前では冷静で居られない自分が嫌だ。あの琥珀色の瞳でジッと見られると緊張するし、俺から寄るのはいいけど寄ってこられると息が詰まる。感情的になって先輩の台詞1つにイライラしちゃうし行動1つにショックも受ける
感情的になって声を張り上げたのなんていつぶりだろうかと考えていると冷静を取り戻せて、立ち上がっては自室の扉を開いて帰った。
- Re: 不器用なボクら 【創作BL】 ( No.14 )
- 日時: 2022/02/06 20:25
- 名前: みっつまめ (ID: BEaTCLec)
部屋に帰ると俊介の周りをウロウロしている少女が机に座っていて、楽しそうに足を揺らしている。俊介のベッドを見れば、俊介は顔の横にスマホを置いて口を開けて寝ていた。大方、スマホを見ながら寝落ちでもしたのだろう。
上の階へ続く階段を上がっていると少女に声をかけられた。
“ねぇねぇ、お兄ちゃんはアタシのこと、みえてるよね?”
さっき目が合ったから少女は当然のことのように聞いてくる。チラリと俊介を見て、起きる気配がないことを確認すると小さめの声で会話する。
「そうだね」
“会話もできるんだ! 嬉しい! みんなアタシを無視するし、アタシのこと、みえる人がいても…みんな走って逃げちゃうの…”
自分のベッドに腰掛けると隣に座る少女。
確かに、幽霊はみえる人の方が数少ないし、悪戯好きの霊が居たり恨みや妬みでこの世に留まっている霊も多いから、それの被害に遭った人は幽霊を“怖い”と思ってしまうのも無理はない。実際は、何か思い残すことがあって留まっている霊も居れば、帰る場所も分からず彷徨い続けている霊だって居るから上へ導く手伝いをたまにしている。
「キミ、なんて名前なの?」
“…わからない、なんて呼ばれていたのか、思い出せないの”
「そっか、お父さんとお母さんは?」
少女は首を横に振る。明るい花柄のワンピースを着た少女の腕は肩から肘にかけて少しだけ黒い。腐敗しているというよりは汚れに近い。
「ここ、少し黒いね、なんの汚れ?」
“えっ?…あ、ほんとだ、なんだろ”
黒い汚れについて聞いても、初めて気づいた反応で少女は不思議そうにしている。最近、この学校周辺で起きた事故は聞かないし、俺がここに来る前に亡くなった霊だと思われる。大きい損傷が見当たらないから虐待や火災による死は可能性が薄い。服も濡れてないし肌も普通、川で溺れたとも考えにくい。恐らくは事故死、であるし、腕の汚れはきっとタイヤ痕だろう。小学校低学年ぐらいの歳に見える少女の記憶がほとんどないことからも車に轢かれ頭が潰れたとも考えられる。でも、そんな少女がなぜ俊介に懐いているのか。
「ねぇ、どうしていつもあのお兄ちゃんの近くに居るの?」
下の階でグーグーいびきをかいて寝ている俊介を指さして問えば、一度俊介の方を見た少女はこちらを向いて嬉しそうに話す。
“あのね! アタシ、家の場所が分からなくて、信号がね、青になってもそこから動けなかったの…そのときね、あのお兄ちゃんがアタシの居るところに、お花を置いてくれたの! そしたら動けるようになって”
「お花かぁ…」
“うん! お兄ちゃん、あのボール蹴りながら離れていくからアタシお花のお礼がしたくて、ついてきたの”
少女の指さした先には階段下のサッカーボール。
少女の話を要約すると、少女は亡くなった場所、横断歩道信号近くから動けないでいたところ、サッカーボールで恐らくリフティングをしていたであろう俊介がたまたま通りかかり、何かしらの理由で少女のいるところに花を添えたと思われる。少女は自分の存在に気づいてくれたと嬉しくなったのか、花のお礼がしたいと俊介についてきたと言う。
「お礼って、どんなこと?」
“守るの! お兄ちゃんに何も悪いことが起こらないように、アタシがお兄ちゃんを守るの!”
「うーん、でも、それじゃあキミはずっとひとりだし…寂しくない?」
“…ひとりじゃないよ! だってお兄ちゃんはアタシがみえるし…”
「うーん、でも僕が視えること、あんまり知られなくないんだ」
“どうして?…アタシがみえるのも、嫌?”
「好き嫌いって言うより、みえるってだけで悪者みたいに思われることもあるからだよ」
基本的には視えない人からすれば、視える人の発言は嘘でしかないし、自分を脅かす存在は自分を傷つけるために存在する物と同等で、視えるってだけで敵意を向けられることだってある。反対に視えるってだけで利用しようとする人だっているんだけど、少女にわかりやすく伝えるためにはこう言うしかなかった。
黙ってしまった少女の本来の目的は、俊介にお礼がしたいということだ。守ることが出来ない代わりにお礼が出来る手段があるのなら少女も成仏できるはずだ。きっと親御さんも少女の若くして亡くした命に悲しんでいるはずだ。
「ねぇ、感謝を伝えたいなら他の方法を試してみるのはどう?」
“ほかの方法?”
「うん、たとえば物をあげるとか」
“でもお兄ちゃん、アタシのことみえないし…”
俯く少女に提案する。
「僕が代わりに渡してあげる、キミからの感謝の気持ちってことで」
“ホントに!?”
「うん、だから今度あのお兄ちゃんと初めて会った場所に案内してくれる?」
“うん! あの道ならね、覚えてるの!”
喜びを体で表現するように一階と二階の階段や床を飛び回る少女に微笑む。嬉しそうにしているが、まだ小さい子どもだ。親が居ないことを寂しく思うことだってあるはずで、家が分からず帰れないだけで本当は親に会いたいし、帰りたいはずだ。少女と会った場所を俊介が覚えているかは分からないが、少女からの贈り物を俊介に渡す日に一緒に行くのがいいだろう。贈り物をどうするかも少女と相談する必要がある。だが少女は贈り物を渡すまで俊介の傍から離れない感じがする。俊介も連れて歩くしかなさそうだ。そうと決まれば…
「今度の日曜に感謝の品買いに行こうか」
“うん! お兄ちゃんと三人で買い物! 楽しみ!”
「さあ、そろそろ僕も寝ようと思うよ」
“おやすみなさい!”
「うん…おやすみ」
一階に降りていく少女を見送り布団を被って目を閉じる。
- Re: 不器用なボクら 【創作BL】 ( No.15 )
- 日時: 2022/02/15 00:38
- 名前: みっつまめ (ID: kgjUD18D)
菊池俊介side
ハッとして目を覚ますと太陽の日差しが部屋に差し込んでいた。慌てて時計を見れば登校時間にギリギリ間に合いそうな時間だった。
「慧斗! 慧斗! やべーぞ、遅刻す…あれ?」
飛び起きて、上の階に居るであろう慧斗を呼びながら階段を駆け上がると、慧斗のベッドには本人は既に不在で一瞬気が抜ける。すぐに立ち止まってる暇なんてないと、服を脱ぎ、制服に着替えて、寝癖やら型のついた髪を手櫛で解いて机に置いたカチューシャを頭につけて鞄を手に学校へ全力疾走した。
日々サッカー部で鍛えた足のおかげか、鐘が鳴り止むまでに教室になだれ込むことに成功した。呆れた顔の教師に怒られ、クラスメイトからは笑いが溢れていた。ゼーハーする息を整えながら自分の席にドスッと座る。隣の席の慧斗は両手を顔の前で合わせ苦笑いしながら「ごめん」と小さく謝ってきた。同じ部屋なんだから起こしてくれてもいいじゃないか、いつも俺が起こしてやってるのに。膨れたイライラの気持ちは午前中だけでなんとか耐えられた。
昼休憩に席を立ってどこかへ行こうとする慧斗の腕を掴んで自席に無理矢理座らせ、尋問することに成功した。
「で? なんで朝、置いてったの?」
「いやぁ~、ちょっと用事で。 俊介いつも朝早いし間に合うだろうなって思って」
「用事って何だよ、アラームもかけてなかったからギリギリだったっつうの」
「でも、間に合ってるし、髪型もいつも通りじゃん」
髪型の話題に触れられると、そういや昨日ドライヤーしてないということを思いだし、眉尻の下がった困り眉でヘラヘラ笑う慧斗の頬を指で摘まんで軽く引っ張る。
「昨日自然乾燥でパリパリだっての! 誰のせいだ、誰の」
「あらぁ~おれの? 痛い痛い、引っ張らないで~」
「柔らかっ」
「あぁ、もう、謝ったじゃん」
慧斗が眉間にしわを寄せ目を瞑って痛いと大袈裟に言う。俺は摘まんだ慧斗の頬がフニフニ?プニプニ?あまりにも柔らかくて驚き怒りを忘れ、優しく揉んでいると慧斗の手に払いのけられた。
「そんな痛くないだろ?」
「痛いって~」
また摘まもうと慧斗の頬に手を伸ばせば触れる前に払いのけられる。
冷静になった頭は昨晩のことを思い出す。結局俺は風呂上がりに寝てしまって、慧斗がドライヤーを持って帰ってきたのを見ていない、それに今朝も慧斗が部屋に居たとこすら見ていない。
ってことは、もしかして、慧斗は向かい側の部屋でお泊まりした可能性も…?
「え…もしかして、お、お泊まり?」
「ん?なんの話?」
「昨日だよ! ちゃんと帰ってきたのか?」
慧斗の両肩を掴んで揺さぶれば、不快そうに寄せられた眉に窄んだ唇。どの表情をしてても至近距離で見てもイケメンはカッコイイし可愛いなと知る。
「ちゃんと部屋で寝たって、なんの心配してるの?」
「はぁ、ならいいけど」
ヘラヘラ笑っている慧斗に安堵する。
自分が何に焦っているのか分からず、ただ心臓がザワザワしているのを落ち着けることしかできないでいると、慧斗から話しかけられる。
「ねえ俊介、日曜って時間ある?」
「日曜? …特に予定は無ぇけど?」
慧斗が俺に予定を聞いてくるなんて珍しいな、日曜は元々テスト前になるから部活も休みだし、サッカー部の同学年の奴らと勉強会の話があがってたけど、なんとなく嘘をつく
慧斗から何かの誘いがあるのかと期待して、その青い瞳を見つめる。
「時間あるなら、買い物に付き合ってほしいんだけど…」
「…え、マジ?」
慧斗からの誘いだなんて、想像以上の台詞に自分の耳は幻聴を伝えているのかと疑ってしまう。驚いて開いた口が塞がらず、目の前の慧斗は困ったように眉を八の字にして「変な顔~」と笑っている。
「できれば一緒に行ってほしいなってだけ、俊介に聞きたいこともあるし」
え、聞きたい事ってなに? 今ココで聞けない事ってなに?
「な、なに、聞きたいことって…他の人にも聞いてること?」
「いや、俊介にしか分からないことー…でもないけど…他の人に聞いても意味ないし…え、嫌?」
慧斗の誘いに返事をすること無く、誘ってくる理由を追及してばかりの俺に「自分と買い物するのは嫌か」と不安げに聞かれて、慌てて否定する。
「嫌じゃない、嫌じゃない! むしろ一緒に行きたい! えっ? これってもうデートなんじゃない?」
ははっ、と慌てすぎて自分でも何を言ってるのか分からない言葉を連ねると、斜め下を向いた慧斗が少しだけ柔らかく微笑んで、呟く。
「…まぁ、デートかもなぁ…」
えっ…?
小さく呟かれたその言葉を昼のうるさい教室で拾ったのは恐らく俺だけで、机に頬杖をつきながら斜め下を向いている慧斗の口元はまだ少しだけ口角が上がっていて、なんだか嬉しそうに微笑んでいるように見える。
また何を言えばいいか頭の中が真っ白になった俺は、朝の遅刻の件で先生に呼ばれていると、クラスメイトから肩を叩かれるまで動けないでいた。
肩を叩かれてハッとしたときには、慧斗は既に目の前からいなくなっていた。