複雑・ファジー小説

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式姫—シキヒメ—【コメントに飢えています、誰かプリーズ】
日時: 2012/04/09 00:36
名前: アールエックス (ID: 1866/WgC)

 1 プロローグ

 五年前、第三次世界大戦末期 ポイントG—13エリア戦区

 照りつけるような太陽が浮かぶ砂漠に、キャタピラの金属音や野太い男の怒号が響き渡る。
 黄色の砂で満たされた大地の上にはところどころテントが張られ、その間を銃を持った兵士達が忙しなく駆け回っていた。そのほかにも戦車やヘリコプター、軍用車両などが数百メートルにわたって並んでおり、それらは彼らが軍隊以外の何者でもない事を意味している。
 かなりの規模の部隊の中でただ一人、壮年の将校が陣営の中を歩きながら指示を出していた。
「第三機甲小隊は左翼に展開してそのまま待機! 第四歩兵分隊の配置も急がせろ!」
「イエス、サー!」
 兵士たちの威勢のいい返事に、彼は一度頷いてから再び別の部隊へ歩いて行く。そしてまた次の場所でも各々へ命令を出す。
 それを何度か繰り返して彼は陣の端にある小高い砂丘の上に登って行った。
 砂丘の上には数名の白衣を着た男達が簡易的なテントの下でコンピューターを操作していた。
 砂塵防止かガスマスクを着ける彼らは将校が来た事に気付くと、作業を止めて立ち上がる。
「……これはルチエン中尉。今回はこちらの実験にご協力いただき、感謝いたします」
 うやうやしく頭を下げる彼らに、ルチエン中尉と呼ばれた将校は言った。
「構わない、余計な前置きは無しにしよう。今回の実験は新兵器の稼働試験とあるが、我々の任務はその間の護衛及び敵対勢力の排除となっている。だが、私の部隊は旧型兵器の混成部隊でしかない。敵に式神が配備されていた場合、戦力としての期待はしないでもらいたい」
 式神とは、第三次世界大戦の中期に開発された装着型兵器の名称である。
 人間の生命力を解析しエネルギーとして利用する兵器で、絶大な火力を誇る代わりに人間の生命力を大量に消費するという諸刃の剣だが、結局は戦車や戦闘機などの旧型兵器では相手にならないのは明白な事であった。
 それを考慮しての将校の言葉に、男はおどけた風に肩をすくめて言った。
「問題ありませんよ。今回実験に使う新兵器は式神を元にして制作したものですから」
「迎撃は可能、ということか。ならば我々は作戦開始時間まで待機を……」
 将校が無線を手に踵を返そうとしたその時、突如どこからか爆音が響き、陣地の一部が派手な土煙と共に跡形もなく吹き飛んだ。
 突然の攻撃にも部下の手前大きくはうろたえず、将校は手に持った無線機に声を張り上げた。
「砲撃か。どこからだ!?」
『ぶ、分析中です! ……出ました。八時の方向、所属不明の旧式式神を確認、兵種は…砲撃型式神一機と強襲型式神二機の三機編成です』
 対応した兵士の声が後半震えていたのは将校の聞き間違いではないだろう。それだけ式神というのは畏怖の対象なのだ。
 すでに目視できる距離まで接近していた式神への攻撃を開始させながら将校は男に尋ねる。
「くっ、式神三機とはまた御大層な編成で来たものだ。我々は急ぎ迎撃準備を進めるが、実験はどうする? 中止するのか」
「いえ、稼働ついでに戦闘能力も測っておこうかと思います。ですので、こちらの準備完了までの時間稼ぎをお願いしますよ中尉」
 男はそう言って他の研究員たちと共に必要最低限の機材だけをまとめて移動し始めた。
(時間稼ぎとは、難しい注文をしてくれる……む)
 と、不意に後ろへ気配を感じた将校は背中越しに振り返った次の瞬間横っ跳びに転がった。
 一瞬前まで将校のいた位置を巨大な砲弾が音速以上の速さで通過していく。
 見れば、数百メートル先の上空に巨大なカノン砲を備えた式神が浮遊していた。一発ごとに手動で再装填する必要があるらしく、生身では持つことすら困難な大きさのボルトを搭乗者の兵士が後ろにスライドさせているところだった。
 しかし、式神がその砲口を再び将校に向けようとした時、その装甲に無数の砲弾が降り注ぎ式神に乗る兵士は空中で態勢を大きく崩した。
 それでも将校の表情は晴れない。
(これでは足りん、式神にただの砲弾では大してダメージを与えることはできない……!)
 今も陣地の上空に浮かぶ三機の式神には大量の砲弾やミサイルが殺到しているが、それだけである。味方の与える攻撃はどれもが式神にとって致命打足りうるものではないのだ。
 式神は絶え間なく襲いかかる攻撃など物ともせず、眼下の敵兵器群に一撃必殺の攻撃を見舞う。
 たった一発の砲弾で数十人規模の兵士が吹き飛び、一発の銃弾で戦車がただの鉄くずに成り下がる。これが式神と旧型兵器の圧倒的戦力差だった。
(式神相手に旧型兵器で挑んだ以上戦死する覚悟はできているが……これでは犬死にだ)
「…………」
 研究者の男には悪いが将校が頃合いを見て部隊への撤退命令を送ろうとしたその時、戦場に光が迸った。
「な、なんだ!?」
 将校は驚きの声を上げるが、驚いたのは将校だけではない。
 太陽すら超えるのではないだろうかと疑うほどの光量が将校の視界を覆い尽くし、膨大な量の光の束が空中に滞空する三機の式神を包み込んだ。
 ———ゴオオオオオオオオオオオオッ!
 爆音と閃光が世界を支配する、全てを掻き消すかのような純粋な破壊。
やがてそれらが収まった後には三機の式神がいた跡などどこにも存在しなかった。装甲の欠片一つ残さぬ圧倒的な火力に将校は戦慄しながらその破壊をもたらした者を見る。
 そこには機体の一部以外何の変哲もない、たった一機の式神が浮遊していた。
 むき出しのコックピットを囲むいぶし銀の装甲。背面の小型バーニア。両腕に装着された多層シールド。複雑な構造のハイヒールのような脚部。
 そして、機体の比率的にアンバランス過ぎるほど巨大な右肩の巨砲。
 他のパーツはある程度洗練されたデザインであるのに対し、その部分だけはゴテゴテとした動力ケーブルや内部構造がむき出しのままだった。
 まるで、まだ開発途中だったのを急遽戦地に輸送したかのようにも感じられるその式神は、未だ蒸気を上げ続ける砲身を下に向けてゆっくりと降下を始める。
 同時に将校の持っていた無線からどこか久しく感じる研究者の声が響いた。
『ご無事ですか中尉! それより見ましたか、今の砲撃』
「ああ……。凄まじい威力だな」
『そうでしょう!? いかに旧式とはいえ式神三機を一撃ですよ!』
「…………」
 嬉しそうにまくし立てる男に将校は浮かない顔で尋ねる。
「それはいいのだが……あれだけの大出力砲撃をしてしまっては、パイロットの方はもう……」
 式神は命を糧に戦闘を行う兵器。その戦闘能力は消費する生命力に比例するため先程のように莫大なエネルギー量の砲撃を行った場合、搭乗者の命はそれだけで吹き飛んでしまってもおかしくないのだ。
 しかし、男はケロリとした様子で返す。
『え? いえいえ、パイロットの心配はしなくても大丈夫ですよ。我々がこれを作ったのはまさにその生命力枯渇によるパイロットの死亡率をゼロにするためなんですから』
「なに……?」
『我々の作りだしたこの兵器は式神と人体を完全に融合させ、擬似的な永久機関を搭載させることによって式神による人体への様々なデメリットを削除した兵器の試作一号機なんです。だから、生命力を使い果たす事はまず無いし、肉体と式神をリンクさせることによって更に兵器としての強さを確立する事が出来ましたよ』
 荒唐無稽ともとれる男の言葉に将校は聞き返していた。
「人体と式神を融合だと……、人権に反しているんじゃないのか? それは」
『問題ありませんよ。彼女はすでに戸籍も人権も失った戦災孤児ですからね。このご時世、いくらでも材料はいるんですから』
「…………」
 残酷に言い放つ男の言葉に将校は黙りこくるが、彼に研究者の男を責める権利は無かった。
 あの式神に乗っている彼女なる人物は、もしかしたら将校のせいであの場所にいるかもしれないからだ。
 戦争の裏には必ず力無い者が虐げられている。戦争が行われる以上世界のどこかで誰かが悲しみに暮れているのだ。将校は少しでもそういう者を減らそうと努力し、部隊の人間にも不必要な破壊や略奪は厳しく取り締まってきた。
 だが、それでも少なからず不幸な運命に叩き落とされる者はいる。それが世界中で戦争が起きているならなおさらだ。
 そして今、新たな兵器の素体となった少女を見て、将校は何も言えずに軍帽を目深にかぶった。
 それを遠くから見つけたらしい男が無線から何かを言おうとする。
『どうしました、中尉。彼女に同情でもしてるんですか? 必要ありませんよ、彼女にはそんなものを感じる感情など……ッ!?』
「? どうした、一体何が…」
 無線の向こうで男が息をのむ気配を感じた将校は聞き返す。だが、返答は無い。
 代わりに、複数の人間が口々に騒ぐ音と、キーボードを叩く音だけが返ってきた。
 何やら不穏な気配を察した将校は数百メートル先に鎮座する式神から目を離さずに、危機を脱したことで気が緩みかけている部下達に簡単に警戒を促しておいた。
「…………」
 相変わらず無線からは騒がしい音声だけが響いているが、それらはさらに将校の嫌な予感を加速させていく。
 そして、それは起こった。


 
 

Re: 式姫—シキヒメ— ( No.16 )
日時: 2012/03/20 19:10
名前: アールエックス ◆Ue1gYEb5SI (ID: 1866/WgC)

「——っ! ……あなたはさっきの……何故、ここが分かった?」
 最初は身を強張らせたものの、すぐに自然な様子で首をかしげて尋ねる式姫に、鈴という名の式姫は無機質な返答を返す。
「こんばんは。自己紹介がまだでしたね。私は政府直轄断罪部署、兵器犯罪監視局水無月支部所属の式姫。あなたの『秘匿空間』(エリアステルス)は強力ですが、こうも不自然に生体反応に穴があれば簡単に気付けます。はぐれ式姫さん」
 そう言って鈴は周囲の人ごみを指さし、目の前のはぐれ式姫に目を向ける。
「数時間ぶりですね。お食事中すいませんが、あなたを拘束させていただきます」
「…………」
 挑発するように言った鈴に、はぐれ式姫は一瞬驚いたように顔を向けると、首と腕からだらんと力を抜いて動きを停止した。
「?」
「………お」
 数秒の沈黙の後、ゆっくりと顔を上げたはぐれ式姫は両手を天にかざして吠えた。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「……!」
 豹変したようなはぐれ式姫は夜空に向けてひとしきり吠えた後、血走った眼で鈴を睨み、狂気の叫びをあげて突進した。
「私の邪魔をするな!」
 その言葉に反応して背後の蜘蛛に似た八本のギミックが放射状に広がって、あたかも鈴の逃げ場をふさぐように展開する。
「はあああああっ!」
 はぐれ式姫の広げたギミックと両手に稲妻が走り、青白い光を伴った攻撃が無防備な鈴の体に直撃する———だが、
「……遅いですね。式神顕現」
 コマンドによって鈴の右手に装着された巨大鋼拳は流れる高圧電流などものともせず、はぐれ式姫の左半身に痛烈な右フックを直撃させた。
「ぐふあっ」
 軽めのその一撃にすら、はぐれ式姫は身体をくの字に曲げながら悲鳴を上げて壁に激突する。
「さて、今のうちに……」
 その間に鈴は左手にも出現させた鋼拳で倒れていた女性を安全かつ目立たないところに寝かせておいた。
「ぐっ、がああああ!」
叫びを聞いて鈴が振り向けば、半分ほど壁にのめりこんだ身体をはぐれ式姫が無理やりに引き抜いているところだった。
 八本あった背中のギミックは半分ほどが折れ曲がり、無残にも左腕は骨折したのか力なくぶら下がっている。
「はぁ……はぁ……」
 ひびだらけで軋みを上げる式神を揺らしながらはぐれ式姫は鈴と対峙する。
 対する鈴は相手の出方を待つ気なのか涼しい顔で両手の鋼拳を地面に突き立てたまま微動だにしない。
「くっ……『再雷』!」
 少しの沈黙の後、はぐれ式姫が先に動いた。状況を不利と見たのか、全身を青白い雷光が包んだと思うと、まるで稲妻を巻き戻して見たように猛スピードで上空へと飛翔したのだ。
「逃走ですか………聞こえますか、お姉さま」
 相手の目的が分かった鈴は、電光の軌跡を引いて空へ飛翔していくはぐれ式姫を逃がすまいと上空で待機していた二人の式姫に通信を送る。
《聞こえているよ》
《問題無いわよ〜》
 即座に返ってきた二つの返信に、鈴は手短に用件を話す。
「申し訳ありません、対象に逃げられてしまいました。どうにも相手は軽量高機動力型のようですので、お姉さまに迎撃をお願いしたく」
《分かった、いいだろう。この雷もどきを撃ち落とせばいいんだな》
《私達に任せれば万事解決よ》
「はい、お願いしま……あれ、切れてます」
 鈴の返事も待たず向こうが切ってしまったようだが、いつものことなので鈴はあまり気に留めない。
「では私も……式神顕現」
 自身も相手を追おうと鈴は全身に重厚な装甲の式神を展開させ、重機のような機体を呼び出した。
三メートル級の巨躯を持つ式神を装着した鈴は背部の大型スラスターを起動する。大出力のスラスタ—が火を噴き、巨大な鉛色の式神を空へと加速させた。
「………!」
 直後、かなりの高度まで上っていた稲妻が突然中空で弾き落とされるのをビル壁すれすれを上昇していた鈴は見た。
「始まりましたか……」
 ビルの屋上を越え、ようやくはぐれ式姫が撃ち落とされた地点にたどり着いた鈴は、そこで繰り広げられる激戦の様子を見てそう呟いた。
 夜空を縦横無尽に奔る雷撃の嵐と、夜陰に紛れる無数の漆黒の刃、そして大量の光線がぶつかり合って花火のごとく火花を散らす。
「『サンダースピア』!」
 はぐれ式神が壊れかけた八本のギミックと右手から放つ雷の槍を、無数の黒刃を操る黒き式姫がまるで踊るようにかわし、撃ち落としてゆく。もし対応が遅れても、後方からの光線の支援がそれらの進行を許さない。
「甘い…その程度で私は倒せんぞ!」
 鋭利な刃で構成された舞踏服のような式神を纏い、黒髪の式姫は夜空を舞うように戦いを続けていた。
「はははははは! もっと私を楽しませてみろ! 囲め『ドレインケージ』!」
「! ぐっ……」
 その時、言葉と共にはぐれ式姫の周囲に出現した膨大な量の黒刃が瞬時にその身体を掠めるように絡め取った。
機体を走り回る電撃もその黒い刃に吸収され、跡形もなく消えていく。
 本体を傷つけぬように装甲のギリギリの所を黒刃が貫き、はぐれ式姫は空中で身動きが取れなくなっていた。
「はっ、離せぇっ……!」
「そうか? なら離してやろう」
「っ!?」
 しかし身体をよじってその戒めから逃れようとするはぐれ式姫に、黒髪の式姫はあっさりとそれを解いてしまう。
「お、おおっ!?」
 唐突に拘束を解かれたはぐれ式姫は磁力で浮遊能力を得ていたのか黒刃が消えた途端にそのまま空中から落下していく。
 それを、黒髪の式姫は静かに上から見つめて指示を出す。
「さて、カミナリ女は叩き落としたぞ。鈴、回収しろ」
 彼女は下で待機していた鈴に悠々とした口調で言う。
「………」
鈴はそれに無言で頷き、上手く電撃を出せずに落下するはぐれ式姫を後ろから巨大な両手でキャッチする。
 軽量型とはいえかなりの衝撃があったはずだが、それは鈴の生身の腕に届く前に鋼の装甲が吸収する。
「回収完了」
「なっ、くそっ……!」
 巨大な鋼拳が後ろから自分の体を鷲掴みにするのを見て、はぐれ式姫は慌ててその戒めを振りほどこうとする。
だが、鈴が両手の握る力を少し強めて式神ごとその体に圧力を掛けると、耐久値以上のダメージを負った胴体装甲が砕け散り、その衝撃で本体である少女もぐったりして気を失った。
機体の半分以上が損傷し、主も意識を失った事ではぐれ式姫の体を包んでいた式神は跡形もなく消失する。
「どうやら生命力が極限まで枯渇していたようですね……」
 両手の中の気絶した少女を見て鈴はそう呟く。
 そこへ、上空から黒髪の式姫がゆっくりと下降してきた。
「汐音お姉さま……」
 黒き式神を操る彼女の名は高野汐音。鈴の姉であり同じ兵器犯罪監視局に所属する式姫である。
「どうした、鈴。女の体に釘付けか?」
 冗談めかして言った汐音に鈴は冷静に返す。
「何を言ってるんですかお姉さま、私はノーマルです」
「ふむ、それは悪かった。で、何かその少女を見て思うところでもあったか」
 相変わらず鋭い姉だ、と鈴は汐音の事を内心で評価する。
「…少し考え事が。私たちは彼女達を捕縛し精神を矯正させるのが任務ですが、最近のはぐれ式姫は何か一つのまとまった目的があるように感じるのです。何か、大きな事象を起こすかのような……」
 鈴の考えを聞いて、汐音は首をかしげる。
「大きな事象? 何だそれは、考えすぎではないのか?」
「…かも、しれません。ただ、どうにも違和感が拭えないというか……」
 それ以降押し黙った鈴を見て、汐音は下を指さしながら言った。
「ま、そんなことより今はそれを局に連れて帰るほうが先だ。撤収するぞ」
「はい……」
「二人とも〜、待って〜」
 と、その時。長大なビームキャノンを肩に二門装備し、オレンジ色の装甲色の式神がスラスタ—を噴かせながらビルの上を飛んできた。その式神に乗っているのは言わずと知れた高野歌蓮である。
「遅いぞ歌蓮、もう少し早く来い」
「これがこの子の限界なのよう」
「やれやれ」
 自分の式神を擁護している歌蓮に呆れたようにため息をつくと、汐音は捕えたはぐれ式姫を肩に担ぎあげて、隣のビルへと大きく跳躍し、鈴と歌蓮もそれを追って空へと浮かび上がっていった。

Re: 式姫—シキヒメ— ( No.17 )
日時: 2012/03/23 20:42
名前: アールエックス ◆Ue1gYEb5SI (ID: 1866/WgC)

 4 平和の日々

 佑人は朝の教室で鈴、櫛名、川上の三人を呼び出して互いに紹介させることにしていた。
 というより、朝来たらこの三人だけが教室にいたから丁度いいと思っただけだが。
 佑人は廊下側の列の一番前の席に座っている鈴(昨日本村が朝来た時に真っ先に目に入るのが美少女の顔でありたいとか言う理由で決定した。いいのかその判断基準)を手招きで呼び寄せ、櫛名と川上に向き合わせた。
 川上が信じられない物でも見たかのような目で何かをわめいている。
「お、おい佐久間。お前、いつの間に高野さんとそんなに仲良くなったのぜ……?」
「……その事だが…櫛名、川上。お前らに紹介したい人間がいる。鈴にもこいつらを紹介したいしな」
「すでに名前を呼び捨てだとぉぉぉうっ!?」
「うるさいっての! 高野さんがびっくりしてるでしょ」
「い、いえ……大丈夫です」
 早くもごちゃごちゃし始めた面子に佑人は頭を抱えた。
「すでに波乱の予感が……」
 若干のひと悶着はあったが、とにかく騒ぐ川上を実力行使で黙らせて佑人は改めて三人を向き直させる。
「二人とも。もう知ってると思うが、こいつの名前は高野鈴だ。んで鈴、この二人は瀬戸櫛名と川上知也と言って俺とは長い付き合いの友達。どっちも悪い奴じゃないから仲良くしてやってくれよ」
 佑人が紹介を終えると、櫛名は鈴に対して右手を差し出しながらにっこり笑う。
「よろしく高野さん、あたしは瀬戸櫛名。これから仲良くしましょ」
「……は、はい…よろしくお願いします……」
 そう言って差し出された手に、鈴は少し戸惑いながらも小さな声で返して恐る恐るその手を握った。いつもの仏頂面で分かりづらいが、珍しく緊張しているらしく声が少し震えていて表情も心なしか硬い。
 よく見てみれば頬も少し赤くなっているかもしれなかった。
(珍しいもんが見れたな……つーか櫛名、お前そんな言葉づかいできたのな)
 そして櫛名と鈴の握手が済んだら、次は復活した川上の番だった。
「よっ、よろしくお願いしますなのぜ高野さん! どどどどどどうぞ今後ともごひいきに!」
「落ちつけ川上。訳が分かんねえよ、いつもの事だが」
 噛みまくった川上がテンパって何が何だか分からない挨拶をしていた。この男はあいさつ程度で何をこんなに緊張しているのだろうか。
 ともかくそれにも少しは慣れたらしい鈴が丁寧にお辞儀を返すと、川上は「イイヤッホォォォォウ!」などと奇声を上げて喜んでいた。
「ごめんねー、こいつはあたしの方でやっとくからさ。それはそうと、高野さんの家の人って何してるの?」
「えっと……ただの公務員です、はい」
 早速櫛名は鈴との雑談を開始してしまったが、その前に死にかけている川上の首を離してやった方がいいと佑人は思う。
「……ふう…」
 なにはともあれ、こうして無事に互いの紹介が終わって佑人が一仕事終えた顔でくつろいでいると、解放された川上が佑人に耳打ちしてきた。
「おい、佐久間。一体全体何がどうなってお前は高野さんと仲良くなったんだ?」
「まあ、昨日はいろいろあったからな……」
「いろいろ!? いろいろって何だ!? あとその遠い目をやめるのぜ」
「はあ。昨日は疲れたなー」
「何が疲れたというのぜ!? お前は一体高野さんに何をしやがったのぜぇぇぇぇっ!」
「どわっ、テメェ川上! 何しやがるコラアア!」
 ドカバキドスガスガガガガガガガガガ!
 教室の後ろで佑人と川上の容赦なしデットファイトが始まったのを見て、鈴が首をかしげる。
「あの、櫛名さん……あの二人はお友達ではなかったのですか? なんだか、私が原因で争っているような……」
 尋ねられた櫛名は肩越しに後ろをちらりと見て答える。
「高野さんは気にしなくていいのよ。あたしたちにとってはじゃれてる様なものだから」
「はあ……」
鈴と櫛名がそんな会話をしていても終わらない二人の殴り合いは、しばらくして教室に入った途端「朝来て真っ先に目に入ったのが男同士の殴り合いとはどういうことだーっ!」という意味不明な叫び声と共に繰り出された本村のドロップキックによってふっ飛ばされるまで続いた。



「いててて。本村のヤロー、本気で蹴りやがったな」
 数分後、佑人は保健室で櫛名に手当てを受けていた。
 椅子に座って佑人に向き合う櫛名の手には消毒液のしみ込んだガーゼと絆創膏が持たれていて、佑人の血が滲んでいる額にそれらをぺたぺたとくっつけている。
川上との殴り合いの途中で本村のドロップキックを受けた佑人は額を思い切り壁にぶつけたため、急いで保健室に連れて行かれ保健委員である櫛名の手当てを受けているのだった。
佑人の隣のベットでは櫛名に包帯だらけにされた川上が唸っている。まるで古代エジプトのファラオだ。
「しょうがないわよ。本村センセは衝動で動く人だから」
「衝動で生徒を蹴り飛ばす教員ってのもどうかと思うけどな」
 その本村先生は現在、生徒指導主任の大橋茂樹(超熱い筋肉巨漢。元軍人43歳)と教頭の石垣大建(教員歴30年の叩き上げ教師)に生徒指導室でたっぷりと絞られているはずだ。
(先生なのにな……ん?)
 と、そこでカラカラと音を立てて保健室のドアがスライドした。鈴である。
 鈴は表情は仏頂面のままだが、佑人の顔を見ると不安そうに尋ねた。
「佑人さん……大丈夫ですか?」
 鈴の声色に不安げなものが混じっているのは恐らく自分が佑人と仲良くなったから怪我をしたと思っているのか、もしくは先ほどの友達ということにまだ戸惑っているのかもしれない。
 そう思った佑人は鈴を安心させるように答えた。
「あ、ああ、大丈夫だ。安心しろよ。それより鈴、そろそろ授業が始まるけど戻らなくていいのか」
 その佑人の言葉を、櫛名が大きめの絆創膏をテープで補強しながら肯定する。
「そうね。いい加減あたしたちも戻らないといけないし、こいつらはとりあえずここに置いていきましょ。佑人は次の時間には戻れると思うし……ほいっ、これで完了っ!」
「いてっ。もっと丁寧にやれよまったく……」
 ぱしん! と絆創膏の張られた額を叩く櫛名に佑人は悪態をつく。
 が、すぐに表情を戻して佑人は隣の川上をちらりと見て言った。
「…まあいいや、さっさとお前らも戻れ。俺と川上は問題ねえから」
「むがーっ! もがーっ!」
「この通り川上も頷いている」
 そう言って佑人は、なおも教室に戻るのを渋る鈴を櫛名にまかせて保健室の扉を閉める。
 その頭の中ではあるひとつの事だけを考え続けていた。
(これからどうやって鈴と仲良くやっていけばいいもんかね……)

Re: 式姫—シキヒメ—【参照100超え感謝!!!】 ( No.18 )
日時: 2012/03/25 21:06
名前: アールエックス ◆Ue1gYEb5SI (ID: 1866/WgC)

そんな佑人の考えは数時間後の放課後には綺麗に吹き飛んでいた。
 目の前では櫛名と鈴がレーシングゲームで白熱したバトルを繰り広げている。
 四人がいるのは市街地の方にある通りに面した大きなゲームセンターだ。
放課後、早速四人でどこかへ遊びに行こうと提案したところ驚くべき事に鈴がゲームセンターを希望したのだ。学校に入るまではよくここで暇を潰していたらしい。
二人のやっているゲームは高速走行の爽快感を売りにしたゲームらしく、画面には夜の高速道路を百キロオーバーで走行する車が映し出されていた。
「行くわよ鈴さん! あなたの速度を重視したマシンでこの急カーブを曲がりきれるかしら!」
「く……迂闊でした、このあいだ新装したばかりのこのステージにまさかこんなカーブが設定されていたとは……。しかし、私は敢えてここでアクセルを踏みます!」
「うわっ!? 何そのドリフト、旋回性能の悪さを逆に利用したハンドル操作なんて予想外すぎる!」
「ふふ、これでかなり距離を縮められました。まだまだ挽回のチャンスはあります」
「リ、リードは断然あたしの方があるんだから! 余裕よ余裕!」
「…………まさか、ここまで鈴がゲーム好きだったとはなぁ」
 ラストスパートに突入した画面を見ながら佑人は呆然と呟く。
 しかももう櫛名は鈴の事を名前で呼んでいるし、と佑人は自分の考えていた事が杞憂に終わった安心とゲーム一つで自分の考えが簡単に意味を無くしたがっかり感が入り混じったため息を吐いた。
 その隣では、同じように呆然としている川上が二人のプレイを見てぽつりと一言。
「……あそこでアクセルとは、高野さん……侮れないのぜ」
「そこか! お前の驚きポイントはそこなのか!」
「よし佐久間、今こそ俺達も熱いバトルを繰り広げようぜ! あのゲームでな!」
 言うが早いか川上は佑人を手近なゲーム台の前に座らせ自分もその対面の台に座ってコインを投入した。仕方なく佑人もコインを投入したそのゲームとは……。
「よりにもよって格ゲーかよ……」
 しかもかなり古いタイプのゲームだった。タイトルの後にも「Ⅱ」とか「+」とかもない無印である。
「はっはっは! オールドなゲームはシンプルさが売りなのぜ」
 笑いながら川上が選んだキャラクターはいかにも攻撃的なごつい大男だった。
 佑人はバランスがよさそうな主人公格のキャラクターを選び対戦開始のボタンを押す。
「……先手必勝! とうっ!」
 火文字のカウントダウンが終わると同時に川上のキャラクターがジャンピングボディプレスを仕掛けてきて、佑人はそれをバックステップで回避させる。
「ちいっ、避けられたのぜ!」
 川上は攻撃を避けられ、舌打ちをしながら起き上り行動を起こす。
 しかし、行動の速さでは佑人のキャラクターの方が勝っていた。
「そう簡単にやらせるか!」
「うおお! さすがに速え!」
 下段への蹴りを連続ヒットさせ、止めの踵落としを直撃させると川上の体力は四分の一ほどが減少していた。
 だが、川上もそのままやられっぱなしではない。追撃を加えようと接近していた佑人に起き上りざまの蹴りを見舞い、仰け反り状態のキャラクターを掴むと高速でコマンドを入力する。
「喰らえ! トリプルローリングスロウ!」
 川上が技名を叫ぶと同時に大男のキャラクターが三回転しながら佑人のキャラクターを地面に叩きつけ、フィニッシュとして大空高く放り投げた。
 しかもそれだけでは終わらない。
川上はそれを起点とした連続コンボ———落下してくる佑人のキャラクターに正拳突き、地面に倒れたところを踏みつけ、締めには初手で失敗したジャンピングボディプレスを容赦なく炸裂させる。
「どうだ! これが俺のデスコンボなのぜ!」
「ちょっと待てなんだこのバカげた威力は!?」
 佑人が叫ぶのも無理はない。なぜなら一連のコンボを受けただけで佑人のキャラクターの体力は半分まで激減していたからだ。
 うろたえる佑人を見て川上はほくそ笑む。
「ふははははは! このゲームは型が古いせいでコンボ補正や寝そべり状態の敵へのダメージ減少が存在しない! 佐久間は適当に主人公キャラを選んだようだが、コンボを組みにくいこのゲームでは一撃一撃のダメージが高いキャラの方が少ないコンボで大ダメージを見込めるのぜ!」
「要するにお前のキャラクターはこのゲームの中で最強キャラといってもいい訳かよ!」
「その通り! お前は戦う前から負けていたのさ!」
 川上の言葉に佑人は歯ぎしりするが、いまさら悔しがったところで戦況は変わらない。今はこの状況をどうやって覆すかが重要だ。
(遠距離攻撃でチクチク減らすか……? いや、この狭いステージじゃ遠距離攻撃は意味をなさないしあのでかい腕にガードされるのがおちだ。くそっ、何か方法は無いのか? 何か方法は……)
 佑人が画面から注意をそらさずにちらちらとその下のコマンド表を見ていると、ひとつだけこの状況を覆せるような物を見つけた。
(これだ……!)
 技名は『痛み分けパンチ』。技ゲージ全てと体力ゲージを九九%消費して繰り出す最終奥義らしいが、そのひどすぎるネーミングの割に特殊効果があり相手のガードを貫通してヒットし体力ゲージを残り一にするという強制的に一騎打ちを強要する恐ろしいものである。
 しかし、注意書きにはこうも書いてあった。
『残り体力ゲージを九九%消費し終わるまで技は発生しない』
 佑人の今の体力ゲージはガード越しの川上の攻撃のせいでさらに減少したおよそ三分の一程だが、まだ今のままでは技発生には多少のタイムラグが発生してしまうだろう。
(……まだ使えねえ。もう少し体力を減らさないと…)
と、その時丁度いいタイミングで川上が再び正拳突きを見舞ってきた。
「……今だ!」
 佑人は直前でガードを解き、自分のキャラクターに敢えてその攻撃を受けさせる。
 筐体の向こうで川上が首をかしげる気配が伝わったが、佑人はそれを気にも留めなかった。
 先程コンボの途中に受けた正拳突きのダメージを佑人は記憶しており、このゲームにはコンボによるダメージの補正が存在しない。
 それならばコンボの最中の正拳突きも一撃だけの正拳突きも、どちらのダメージも変わらないということである。
 そして佑人の予想は当たり、キャラクターの残り体力ゲージは僅か数ドット。
 だが、これですべてのの準備が整った。
 佑人は全ての指を総動員して複雑なコマンドを一気に入力し、川上が拳を引き戻しているすきを突いて最終奥義『痛み分けパンチ』を繰り出した。
———ズガァっ!
「な、なにぃっ!?」
 筐体越しに川上の驚きの声が上がった。
無理もないだろう。瀕死だと思っていた相手からいきなりのしっぺ返しをもらい、その上あっという間に自分の体力が残り一になってしまったのだから。
 佑人は今度こそ笑みを浮かべて川上に宣言する。
「どうする川上、お前の攻撃速度で俺にとどめを刺せるか?」
「ちぃっ、小賢しい真似を……。だが、チャンスが無い訳ではないのぜ!」
 二人は、ほぼ同時に行動を起こした。
 己の勝利を手にするためにボタンとレバーを直感だけで動かし、相手へ攻撃を繰り出す。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「だらあああああああああああああああああっ!」

Re: 式姫—シキヒメ—【参照100超え感謝!!!】 ( No.19 )
日時: 2012/03/28 13:35
名前: アールエックス ◆Ue1gYEb5SI (ID: 1866/WgC)

 対戦の結果は佑人の奇襲勝ちだった。
 川上が自キャラの攻撃速度の遅さをカバーするために比較的出の早いスライディングを仕掛けてきたのだが、それが裏目に出た。
 なぜなら佑人はダメージは低いが突っ込んできた相手を怯ませる効果を持つ迎撃用の技を発動していたのだ。
 結局、川上は自分から佑人の攻撃の中に突っ込んだ事になり、体力ゲージを振り切って敗北したのだ。
「くそう。もう一戦! もう一戦やるのぜ!」
「うるせえ、敗者が俺の前に出るんじゃねえよ」
「だーっ。めちゃくちゃ屈辱的なのぜーっ」
 なおも食い下がる川上の手を佑人は振り払うと、あちらも一戦を終えたのか櫛名と鈴が連れ立って歩いてきた。
「櫛名、そっちはどうだった?」
「…………」
 佑人が尋ねると、櫛名は無言で唇を尖らせる。
(負けたんだな……)
 その表情からすべてを察した佑人はこれ以上無駄な事は言うまいと胸に誓った。
 が、ここには空気を読まない人間が一人いる。
 他称KY代表川上が自分の負けも棚に上げて櫛名をからかい出したのだ。
「はっはー。瀬戸お前あんだけ自分に有利なステージ選んで置いて負けたのぜ?」
「…………」
「カーブの多いステージでハンドリング性能を高くしたマシンを使って負けるなんて、マジあり得ないのぜ〜」
「…………」
「し・か・も。高野さんは操縦性を捨ててスピード重視で走っていたというのにそれに負けるなんて弱過ぎるのぜ」
「…………」
「ほれ瀬戸、何か言ってみればいいのっ……が、は…」
「…………あんまし調子に乗るなよ川上?」
「……はい、すんません」
(こいつの土下座大安売りだな……)
 調子に乗って櫛名をからかい過ぎた川上は、堪忍袋の緒が切れた櫛名の拳を腹に受けて悶絶しながら頭を地面に擦りつけていた。というか櫛名がキレながら浮かべている笑みがすごく怖い。
 そんな時、どこからか聞きなれた声が聞こえた気がして佑人は周りを見回す。
「……むー、ちょっと反応が悪いかな?」
(あれ……この声どこかで…)
 声を頼りにゲーム機だらけの店内に目をやると、案の定例のおさげ頭がガンシューティングゲームの前で揺れているのが確認できた。少しばかり警戒はするが、こんな所で式神を出したりなどの目立つ行動はしないだろう。
「…………」
 鈴もそれに気がついたようで、無言のまま険しい顔で琴華を見つめていた。
 佑人はまだこちらの様子に気付いていない川上と櫛名を視界の端に捉えながら鈴に目配せをする。
(なあ、この機会に琴華と接触しておくのも悪くないんじゃないか?)
(……相手は理性があるとはいえはぐれ式姫です。昨夜の事と言い、一昨日襲われたのを忘れたのですか)
(ここじゃあいつも目立つ動きは出来ないだろ。それに上手く言えないけど、あいつも根は悪くないと思うんだ)
(ですが……)
「そんなところで何してるの? 佑人」
「どわっ!」
 突然目の前に現れた琴華に、佑人は驚きのあまり飛び上がりかけた。
 一方の鈴はさっきとほぼ変わらぬ姿勢のままながら、いつでも琴華を迎え撃てるように油断なく身構えている。
「何をしているのか。とは、こちらの方こそ尋ねたいことなのですが」
「あれ? 君もいたんだ、存在感が薄すぎて気付かなかったよ」
 敵意たっぷりの鈴の言葉にも琴華は飄々と言い返してのける。が、
「…………」
 鈴が無言で靴の裏を確かめる動作した途端、それまでの飄々さは一瞬にして崩れ去った。ジェスチャーで遠回しに背が小さい事を指摘された琴華は顔を真っ赤にして憤慨する。
「ぼ、僕は君に踏まれるほど小さくないよ! 君だって僕とほとんど変わらないくせに!」
「私の身長はあなたより2・4センチメートル上にあります。私の方が高いですね」
「むきーっ! 馬鹿にして!」
「……お前ら、実は仲良いんじゃないのか?」
 佑人の呆れ声に、はっと我に返った鈴は慌てて咳払いでごまかした。
 改めて佑人は琴華に声を掛ける。
「よう琴華。一昨日はどうもと言いたいところだが、あの事はとりあえずは忘れといてやる」
 佑人がそう言うと、琴華はしゅんとして頭を下げた。
「う……ごめんね佑人、一昨日はやりすぎた。ごめんなさい」
 その反応にやや意表を突かれながらも、佑人は琴華の頭に手を乗せる。
「いや、特に気にしてねえよ。こんな所で何してんだ?」
「新作ガンシューティングゲーム! 僕はここの常連さんなのです」
 それに対し琴華は誇るべきものなのか分からない事を胸を張って答えた。
「ゲームねえ。琴華らしいっちゃ琴華らしいが、金はどこから出してんだ?」
「ん? お金なんか使わないよ? メインコンピューターにハッキングしちゃえばいいんだよ」
「それふつーに違法な」
(まったく、どうしてこう俺の周りには社会不適合な人間が集まるかね)
 嘆息する佑人に今度は琴華が首をかしげて尋ねた。
「ねーねー、佑人こそどうしてこんな所にいるの? はっ!? もしかしてそこの式姫とデート!? 琴華ちゃんは浮気は許さないよ!」
「馬鹿か! 今日は学校の友達と遊びに来ただけだ」
「へえ……それはそうと。なんか、ものすごい殺気を感じるよ? 佑人の後ろから」
「え?」
 琴華の言葉に佑人が後ろを振り向くと、そこには一人の修羅が立っていた。櫛名である。
「あたし達をほっといた上、鈴さんと二人きりでなぁにしてんのかなぁ、佑人ぉ……」
「や、やあ櫛名さん。俺はやましい事なんてこれっぽっちもやってナイヨ?」
「……語尾が怪しい」
「はっ、しまった! そんなつもりはないのに!」
 佑人の必死の弁解も空しく櫛名は背後に漆黒の揺らめくオーラを纏わせて近づいて来る。川上は苦笑いで暗に自分には止められませんと主張しているし、鈴はいつもの仏頂面のまま佇むだけで何の助けにもなりそうにない。
 ゆらり、ゆらりと近づいて来る櫛名に佑人は説得を諦め、正直に事の真相を話した。

式神図鑑No.2 ( No.20 )
日時: 2012/03/28 14:42
名前: アールエックス ◆Ue1gYEb5SI (ID: 1866/WgC)

ストレングス・フィスト
搭乗者 高野鈴
二つ名『剛拳』
機体全高3.2m
機体重量2.6t

武装
大型マニピュレーター
腕部内蔵エネルギー供給路

巨大なマニピュレーターと重厚な装甲を備えた重式神。見た目から鈍重な印象を受けるが、全身の大出力スラスターにより直線的移動能力と突進力には優れる。通常はマニピュレータによる白兵戦しかできないが、本来は汎用性の向上のために素手を用いており式神用の手持ち武器なら大抵のものは扱える。



ダスク・レイブン
搭乗者 高野汐音
二つ名『黒羽の舞踏姫』
機体全高 搭乗者に依存
機体重量 500kg(非携行武装の重量を除く)

武装
バレットエッジ
スラッシュネイル
ブレードレッグ

全身を装甲の代わりに漆黒の刃で覆った超軽量級式神。装甲と呼べるものは急所などの必要最低限の場所にしか装備されていない上、それすらも防御能力は高くない。反面攻撃能力に関しては極めて高い水準であり遠近中全ての距離に対応できる無線誘導式実体刀「バレットエッジ」。近距離の敵機と格闘戦を行うためのクロー型マニピュレーター「スラッシュネイル」と脚部に装備された可変式実体剣「ブレードレッグ」の三種類による攻撃は敵陣を瞬時に瓦解させることも可能とされる。装甲などのパーツがかなり細かく分解できるため、搭乗者の体格などに合わせて機体の形状が変化する。高野汐音の場合は漆黒の刃で構成された舞踏服(ドレス)



ライトライナー・トライアル
搭乗者 高野歌蓮
二つ名『爆炎銀行(フレイムバンク)』
機体全高2.8m
機体重量2t(武器を除く)

武装
80mm実弾砲
8連装ミサイルランチャー
ロングレンジビームキャノン
大型ビームカノン
榴弾砲
ビームガトリングガン
AI稼働インターセプトレーザー
光屈折率変更装置
増設スラスター
白兵戦用打突鋼爪

多彩な武装と重装甲を誇る遠距離砲撃用式神。武装の換装によって遠距離から格闘戦までをこなせるが、本来の運用目的は遠距離からの砲撃支援でありそれを高野耕が独自に改造したものが本機体である。機動力向上のために増設スラスターを装備できるが、その際の機動力もあまり高いものではない。


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