複雑・ファジー小説
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- 式姫—シキヒメ—【コメントに飢えています、誰かプリーズ】
- 日時: 2012/04/09 00:36
- 名前: アールエックス (ID: 1866/WgC)
1 プロローグ
五年前、第三次世界大戦末期 ポイントG—13エリア戦区
照りつけるような太陽が浮かぶ砂漠に、キャタピラの金属音や野太い男の怒号が響き渡る。
黄色の砂で満たされた大地の上にはところどころテントが張られ、その間を銃を持った兵士達が忙しなく駆け回っていた。そのほかにも戦車やヘリコプター、軍用車両などが数百メートルにわたって並んでおり、それらは彼らが軍隊以外の何者でもない事を意味している。
かなりの規模の部隊の中でただ一人、壮年の将校が陣営の中を歩きながら指示を出していた。
「第三機甲小隊は左翼に展開してそのまま待機! 第四歩兵分隊の配置も急がせろ!」
「イエス、サー!」
兵士たちの威勢のいい返事に、彼は一度頷いてから再び別の部隊へ歩いて行く。そしてまた次の場所でも各々へ命令を出す。
それを何度か繰り返して彼は陣の端にある小高い砂丘の上に登って行った。
砂丘の上には数名の白衣を着た男達が簡易的なテントの下でコンピューターを操作していた。
砂塵防止かガスマスクを着ける彼らは将校が来た事に気付くと、作業を止めて立ち上がる。
「……これはルチエン中尉。今回はこちらの実験にご協力いただき、感謝いたします」
うやうやしく頭を下げる彼らに、ルチエン中尉と呼ばれた将校は言った。
「構わない、余計な前置きは無しにしよう。今回の実験は新兵器の稼働試験とあるが、我々の任務はその間の護衛及び敵対勢力の排除となっている。だが、私の部隊は旧型兵器の混成部隊でしかない。敵に式神が配備されていた場合、戦力としての期待はしないでもらいたい」
式神とは、第三次世界大戦の中期に開発された装着型兵器の名称である。
人間の生命力を解析しエネルギーとして利用する兵器で、絶大な火力を誇る代わりに人間の生命力を大量に消費するという諸刃の剣だが、結局は戦車や戦闘機などの旧型兵器では相手にならないのは明白な事であった。
それを考慮しての将校の言葉に、男はおどけた風に肩をすくめて言った。
「問題ありませんよ。今回実験に使う新兵器は式神を元にして制作したものですから」
「迎撃は可能、ということか。ならば我々は作戦開始時間まで待機を……」
将校が無線を手に踵を返そうとしたその時、突如どこからか爆音が響き、陣地の一部が派手な土煙と共に跡形もなく吹き飛んだ。
突然の攻撃にも部下の手前大きくはうろたえず、将校は手に持った無線機に声を張り上げた。
「砲撃か。どこからだ!?」
『ぶ、分析中です! ……出ました。八時の方向、所属不明の旧式式神を確認、兵種は…砲撃型式神一機と強襲型式神二機の三機編成です』
対応した兵士の声が後半震えていたのは将校の聞き間違いではないだろう。それだけ式神というのは畏怖の対象なのだ。
すでに目視できる距離まで接近していた式神への攻撃を開始させながら将校は男に尋ねる。
「くっ、式神三機とはまた御大層な編成で来たものだ。我々は急ぎ迎撃準備を進めるが、実験はどうする? 中止するのか」
「いえ、稼働ついでに戦闘能力も測っておこうかと思います。ですので、こちらの準備完了までの時間稼ぎをお願いしますよ中尉」
男はそう言って他の研究員たちと共に必要最低限の機材だけをまとめて移動し始めた。
(時間稼ぎとは、難しい注文をしてくれる……む)
と、不意に後ろへ気配を感じた将校は背中越しに振り返った次の瞬間横っ跳びに転がった。
一瞬前まで将校のいた位置を巨大な砲弾が音速以上の速さで通過していく。
見れば、数百メートル先の上空に巨大なカノン砲を備えた式神が浮遊していた。一発ごとに手動で再装填する必要があるらしく、生身では持つことすら困難な大きさのボルトを搭乗者の兵士が後ろにスライドさせているところだった。
しかし、式神がその砲口を再び将校に向けようとした時、その装甲に無数の砲弾が降り注ぎ式神に乗る兵士は空中で態勢を大きく崩した。
それでも将校の表情は晴れない。
(これでは足りん、式神にただの砲弾では大してダメージを与えることはできない……!)
今も陣地の上空に浮かぶ三機の式神には大量の砲弾やミサイルが殺到しているが、それだけである。味方の与える攻撃はどれもが式神にとって致命打足りうるものではないのだ。
式神は絶え間なく襲いかかる攻撃など物ともせず、眼下の敵兵器群に一撃必殺の攻撃を見舞う。
たった一発の砲弾で数十人規模の兵士が吹き飛び、一発の銃弾で戦車がただの鉄くずに成り下がる。これが式神と旧型兵器の圧倒的戦力差だった。
(式神相手に旧型兵器で挑んだ以上戦死する覚悟はできているが……これでは犬死にだ)
「…………」
研究者の男には悪いが将校が頃合いを見て部隊への撤退命令を送ろうとしたその時、戦場に光が迸った。
「な、なんだ!?」
将校は驚きの声を上げるが、驚いたのは将校だけではない。
太陽すら超えるのではないだろうかと疑うほどの光量が将校の視界を覆い尽くし、膨大な量の光の束が空中に滞空する三機の式神を包み込んだ。
———ゴオオオオオオオオオオオオッ!
爆音と閃光が世界を支配する、全てを掻き消すかのような純粋な破壊。
やがてそれらが収まった後には三機の式神がいた跡などどこにも存在しなかった。装甲の欠片一つ残さぬ圧倒的な火力に将校は戦慄しながらその破壊をもたらした者を見る。
そこには機体の一部以外何の変哲もない、たった一機の式神が浮遊していた。
むき出しのコックピットを囲むいぶし銀の装甲。背面の小型バーニア。両腕に装着された多層シールド。複雑な構造のハイヒールのような脚部。
そして、機体の比率的にアンバランス過ぎるほど巨大な右肩の巨砲。
他のパーツはある程度洗練されたデザインであるのに対し、その部分だけはゴテゴテとした動力ケーブルや内部構造がむき出しのままだった。
まるで、まだ開発途中だったのを急遽戦地に輸送したかのようにも感じられるその式神は、未だ蒸気を上げ続ける砲身を下に向けてゆっくりと降下を始める。
同時に将校の持っていた無線からどこか久しく感じる研究者の声が響いた。
『ご無事ですか中尉! それより見ましたか、今の砲撃』
「ああ……。凄まじい威力だな」
『そうでしょう!? いかに旧式とはいえ式神三機を一撃ですよ!』
「…………」
嬉しそうにまくし立てる男に将校は浮かない顔で尋ねる。
「それはいいのだが……あれだけの大出力砲撃をしてしまっては、パイロットの方はもう……」
式神は命を糧に戦闘を行う兵器。その戦闘能力は消費する生命力に比例するため先程のように莫大なエネルギー量の砲撃を行った場合、搭乗者の命はそれだけで吹き飛んでしまってもおかしくないのだ。
しかし、男はケロリとした様子で返す。
『え? いえいえ、パイロットの心配はしなくても大丈夫ですよ。我々がこれを作ったのはまさにその生命力枯渇によるパイロットの死亡率をゼロにするためなんですから』
「なに……?」
『我々の作りだしたこの兵器は式神と人体を完全に融合させ、擬似的な永久機関を搭載させることによって式神による人体への様々なデメリットを削除した兵器の試作一号機なんです。だから、生命力を使い果たす事はまず無いし、肉体と式神をリンクさせることによって更に兵器としての強さを確立する事が出来ましたよ』
荒唐無稽ともとれる男の言葉に将校は聞き返していた。
「人体と式神を融合だと……、人権に反しているんじゃないのか? それは」
『問題ありませんよ。彼女はすでに戸籍も人権も失った戦災孤児ですからね。このご時世、いくらでも材料はいるんですから』
「…………」
残酷に言い放つ男の言葉に将校は黙りこくるが、彼に研究者の男を責める権利は無かった。
あの式神に乗っている彼女なる人物は、もしかしたら将校のせいであの場所にいるかもしれないからだ。
戦争の裏には必ず力無い者が虐げられている。戦争が行われる以上世界のどこかで誰かが悲しみに暮れているのだ。将校は少しでもそういう者を減らそうと努力し、部隊の人間にも不必要な破壊や略奪は厳しく取り締まってきた。
だが、それでも少なからず不幸な運命に叩き落とされる者はいる。それが世界中で戦争が起きているならなおさらだ。
そして今、新たな兵器の素体となった少女を見て、将校は何も言えずに軍帽を目深にかぶった。
それを遠くから見つけたらしい男が無線から何かを言おうとする。
『どうしました、中尉。彼女に同情でもしてるんですか? 必要ありませんよ、彼女にはそんなものを感じる感情など……ッ!?』
「? どうした、一体何が…」
無線の向こうで男が息をのむ気配を感じた将校は聞き返す。だが、返答は無い。
代わりに、複数の人間が口々に騒ぐ音と、キーボードを叩く音だけが返ってきた。
何やら不穏な気配を察した将校は数百メートル先に鎮座する式神から目を離さずに、危機を脱したことで気が緩みかけている部下達に簡単に警戒を促しておいた。
「…………」
相変わらず無線からは騒がしい音声だけが響いているが、それらはさらに将校の嫌な予感を加速させていく。
そして、それは起こった。
- 式神図鑑No.1 ( No.6 )
- 日時: 2012/03/14 16:46
- 名前: アールエックス ◆Ue1gYEb5SI (ID: 1866/WgC)
メタル・スレイヤー
搭乗者 登録抹消
機体全高2・7m
機体重量2t
武装
試作型肩部大出力ビームキャノン
世界で初めて式姫に搭載された式神。絶大な火力と当時の標準以上の機動力を誇り、鋼鉄の(メタル)殲滅者(スレイヤー)の名の通り暴走時には旧式兵器で構成されてはいたがかなりの大部隊であったルチエン大隊を30分経たぬうちに撃破してみせた。
暴走後に回収され、その後の消息は不明。
フリーデン・エンデⅡ(ツヴァイ)その1
搭乗者 日月琴華
機体全高2.5m
機体重量1.3t
武装
多機能レーザーライフル「ズィーゲルシュテルン」
特殊兵装「フェアバンド」
機動力の高い狙撃型の式神。装甲と機動力のバランスがとれているものの、武装面での多様さは皆無。主武器であるレーザーライフルは集束率や電磁波の操作で貫通力重視のものから破壊力を高めたもの、接近された時の撹乱や牽制などに用いる拡散するタイプなど用途によって変更できる。
特殊兵装であるフェアバンドは人型の下僕を作れるほか、自身を粒子状に分解することで疑似的なテレポートも可能。
その名称や機体番号、性能には未だ多くの謎が残る……
- Re: 式姫—シキヒメ— ( No.7 )
- 日時: 2012/03/24 20:57
- 名前: アールエックス ◆Ue1gYEb5SI (ID: 1866/WgC)
3 入れ換わる日常
翌日の朝、佐久間佑人は笠間高校一年六組教室の窓際にある自分の席に座っていた。
教室には彼以外生徒の姿はまったく無い。
普段なら暇で仕方がなくなるような状況だが、考え事に没頭する今の佑人には好都合だった。
「…式姫、か……」
昨日の路地で鈴という少女に告げられたこの世界の裏に今も存在する戦闘兵器、式神。
そして、それを運用するのに最適化した肉体を持つ人間、式姫。
式神という兵器は大戦後に世界各国で交わされた条約でその存在は許可されていないが、あくまで禁止されたのは『式神』であり鈴の言葉が本当ならばそれを肉体に宿す『式姫』は禁止されていないのだ。
ゆえに式姫は極秘裏にながらも日常の裏側で暗躍する事が出来る。
(はぐれ式姫だの正式な式姫だの言ってたが…要するにあの琴華とか言うのが犯罪者みたいなもので、鈴って子はそれを捕まえる警察みたいな役割ってことか)
思考すべきものはそれだけではない。
琴華が狙っていたらしい佑人の力とは一体何なのか。
佑人自身はただの生まれつきだと思っていたが、彼女や鈴の口ぶりではこの卓越した身体能力はそんなものではないらしい。
目撃者の記憶は消さなければならないほどの機密性を持つ式姫の存在を知った佑人を、鈴は記憶を消すどころかあまつさえ式姫の情報まで教えて放っておいている。
それほど重要な力を何故自分が持っているのだろう。
(一体この町に何が起きてんだ? 訳分かんねー)
「……はあ〜、くそ。答えの見えねえ考え事なんかして何の意味があるんだよ」
若干頭痛のようなもの感じ始めた佑人はそう呟き、誰もいない教室から廊下へ出る。
「ん?」
水道の冷たい水で顔でも洗って気分を変えようとした佑人は廊下の先に一人の見知った顔が歩いて来る事に気付いた。
「……!」
同様にあちらも佑人の存在に気付いたのか、その視線が佑人を捉えると同時に少し驚いたような顔を作る。
とりあえず佑人は冷水で顔を洗ってから親しげにその人物の名前を呼んだ。
「よっ、櫛名」
「…やけに早いわねあんた。……何を企んでいる?」
「ちょっと待て」
佑人の友好的な呼び掛けに対して櫛名と呼ばれた少女はいぶかしげな声色で返事をした。
勝気な瞳、上下に揺れる長いポニーテール、整った目鼻立ちはいかにも強気そうな美少女だが小さい頃から幼馴染の佑人は知っている。
瀬戸櫛名(せとくしな)。
この少女の性格は強気どころではない事を。
「なによ図星なの? そんなんじゃ、あんたの企みも大した事ないわね」
「来るのが早いってだけでどうして俺が何か企んでなきゃいけないんだよ、ちょっと凹むぞ」
「あんたが凹もうが潰れようが車に轢かれようが私が知った事じゃないわよ」
「…………なんで俺こんな罵倒されてるんだろう」
初めは傷ついたような口調を装って佑人は抗議したが、櫛名に手ひどく罵られた彼は本当に傷ついていた。
「はぁ、もういいよ。何も企んじゃいねえから安心してくれ」
「ならいいけどね」
そう言って櫛名はズタズタの精神状態の佑人を置いて教室へ入って行く。
(昔から知ってたがこいつはやっぱり可愛くねえ……)
性格的な可愛さの欠片も無い櫛名に佑人は、昔はこんなんじゃなかったのになぁ、と苦い顔をしてその後を追った。
教室に入り、佑人の隣の席に座った櫛名はその後を追って席に着いた佑人に尋ねる。
「そう言えばあんた、こんな朝っぱらから顔なんて洗って何があったの?」
「ああ、ちょっと考えご……」
「ま、どうせあんたの事だから朝練してる女子部員達でも見て鼻血でも出したんでしょうけど」
「人の話は最後まで聞けよ! てかお前の中の俺ってそんなキャラだったのか!」
「……なに? もっと酷いけど、聞く?」
「いやだよもう! なんか泣けてきた!」
いい加減佑人が自分の立ち位置に疑問を持ち始めた頃、教室の後ろにある扉が開いて男子生徒が一名入室してきた。
「ありゃ? 何やら痴話げんかが聞こえると思ったら瀬戸と佐久間のご両名じゃないか。朝から夫婦そろってなかよしこよしだげふぁっ!?」
「誰が夫婦よあんた! 殴り殺すわよ!」
「もう殴ってるのぜ……て言うか瀬戸が殴り殺すとか言うとマジで洒落にならないのぜ」
入室早々とんでもない事を言った直後、瞬間移動のような動きで接近した櫛名によって殴り飛ばされた男の名は川上知也。お茶らけた口調と語尾の「〜のぜ」が特徴的な男子だが、特に不良というわけでもないのに逆立った髪を茶色に染めておりちょくちょく教師に注意されている。
しかし本人はどこ吹く風というように聞き流しており、この学校自体特に校則にうるさくないせいもあってか入学してからずっと茶髪の頭を保持していた。
「いやー眠気覚ましには丁度いいパンチだったのぜ瀬戸。二度と喰らいたくはねえが」
呻き声をあげながら川上が床からむくりと起き上がる。
櫛名の瞬間移動ばりの機動力もそうだが、それに殴り飛ばされてもてへらへらしている川上の耐久力も化け物じみていると思う佑人だった。
川上は櫛名の斜め後ろの席、要するに佑人の後ろの席に着席する。
「にしてもいきなり殴る事は無いんじゃねえの。二人共ひとつ屋根の下で暮らしてるわけだし夫婦で間違いないのぜ」
「語弊のある言い方すんじゃないわよ川上。佑人もあたしも寮生だから同じ建物にいるのは仕方ないでしょうが」
川上の軽口に櫛名はいつも通りむっとした態度で応じる。
櫛名の言った通りこの学校には寮制度があり、全校生徒の三分の一近くが敷地外の学生寮で生活をしておりその中には佑人と櫛名も含まれる。
自宅通学者と学生寮通学者。この二つの制度をどちらも採用しているのにはある理由がある。
五年前に終結した第三次世界大戦による戦災孤児の増加。日本は比較的戦争による被害が少なかったとはいえ、肉親と住む場所を奪われた子供達の数は数万人に及ぶとされていた。
その対応として全国に設立された国立学園群の一つが佑人達の通う国立笠間特殊学園である。
戦争によって両親を失い、焼け野原と化した街をあてどなく歩いていた佑人と櫛名は救助隊に拾われた後、国の方針で戦争の被害のないこの水無月市に建設された笠間学園に編入され、どこかの企業の援助も受けながらそれ以来五年間をこの場所で過ごしてきたのだ。
初めは馴染めなかった寮生活や学校生活も、五年もたてば愛着がわいてくるもんだな、と佑人がしみじみ思うほど今ではすでに日常となっていた。
ちなみに言っておくと、いくら男子寮と女子寮が同じ建物だといってもそれは道路を挟んで建っているその間に二本の連絡用通路が架かっているだけであり、普段はそれの出入り口もシャッターで閉ざされている。まあ、当然と言えば当然だが。
「瀬戸も佐久間も名前で呼び合うほど仲がいいんだし、少なくとも友達以上恋人未満なのは確定なのぜ!」
「馬鹿言ってんじゃないわよ。こんなのがあたしの友達なわけないでしょ!」
「なんと! では友達ではなく恋人だと言う事なのぜ!?」
「ああっ!? はっ、嵌められた!?」
櫛名と川上がそんな口論を繰り広げているうちに時間が経ち、教室の中は次々と登校してくる生徒達でごった返していた。
その時、唐突に佑人の脳裏にはるか以前の情景が浮かび上がってきた。
空襲の後の焼け野原。傷だらけで瀕死の少女。それを介抱している自分。
これは、佑人が焼け野原を歩いていた時に重傷を負った少女に出会った時のものだ。どれも断片的なものばかりだが、自分がその少女を救助キャンプにおぶって行った事は覚えていた。
(あの時は櫛名とはぐれてたからすぐに探しに戻ったんだよな……それにしても、あの時の子は今どうしてんのかな……)
- Re: 式姫—シキヒメ— ( No.8 )
- 日時: 2012/03/16 20:23
- 名前: アールエックス ◆Ue1gYEb5SI (ID: 1866/WgC)
と、そこで口論していたはずの川上が佑人の肩を叩いてくる。
「なあ、佐久間もそう思うだろ!」
「うわっ、話題の振りがいきなりすぎるぞ!?」
唐突に川上に話しかけられて佑人は飛び上がった。
「まったく脅かしやがって、一体何の話だ?」
「カレーは何と言ってもポークカレーに限るよなって話」
「一体何の話だ!」
あまりの話題の飛びように佑人は思わず叫んでしまう。あんな阿呆な口論からなんで一般家庭の晩御飯に出てくる定番メニューの話題が出てきたのだろう。謎である。
佑人が人生史上最大級の疑問に取り組んでいる間も櫛名と川上は口論をヒートアップさせていく。
「カレーと言ったらチキンに決まってるわよね! そうでしょ佑人」
「いーや、鶏肉なんて邪道なのぜ。豚肉は脂肪と肉のバランスがなんとも言えんのぜ!」
「チキンよ!」
「ポークなのぜ!」
「そんなのどっちだって……」
「俺はシーフードだ!」
「「「!?」」」
突然教室に響き渡った良く分からない宣言に、櫛名と川上だけでなくクラス全員がぎょっとしてその方向を振り返る。
「カレーに魚介類のエキスを織り交ぜたシーフードカレー……それこそが、頂点のカレーに相応しい! そうは思わないか佐久間」
「知るか」
朝の教室でいきなり謎の叫び声を響かせたのは眼鏡を掛けた長身の若い白衣の男。このクラスの担任と常勤保険医を兼任する本村拓未である。
普段の精悍な顔つきも同意を求めた佑人に拒絶されて今は若干影が差している。
「そうか、残念だ…」
「本当に残念そうな顔をされても……なんでそんなシーフードカレーにこだわるんだ」
「だってほら、ポークとかは単一的な感じだがシーフードは海の生き物で複数な感じだろ? なんていうか……輪○?」
「ピーがつく程の放送禁止用語使いやがった! 全国のカレーマニアに謝れ!」
ついでに付け加えておくと彼のあだ名は全校共通で『変態』である。
「この場合女性というのはカレーを指していてだな……」
「分かりきった事いちいち解説すんじゃねえよ!」
「まあそんな事はさて置き」
「さて置くの!?」
「うるさいぞ佐久間、黙って席に着け」
「そうそう、ちょっと落ちつくのぜ佐久間」
「佑人、少しは口を閉じなさいよ」
「あれおかしくねこの空気!? お前らさっきまでポークだのチキンだの言ってたじゃねえか!」
何とも釈然としない気持ちだが、クラスもみんなそういう雰囲気で頷いているので佑人は仕方なく席に着く。
「とにかく、佐久間が騒いでいるがそんなのは空気だと思ってだ」
「今お前教員として言っちゃいけねえセリフをぬかしやがったな」
「……無視して今日はみんなにビッグニュースだ!」
強引に話を進める本村。
「なんと本日このクラスに転校生が入ることになったのだ! しかも超美少女!」
「そうかいそりゃ良かったな」
イライラしていて適当に答える佑人に続くようにぱちぱちーと教室の各所からまばらな拍手が上がる。
補足だがクラスの誰もが本村の方を向いてなかった。基本的に信用されていないのである。
それを見た本村は涙目で絶叫する。
「お前ら! 俺の言う事信じてないな!」
「見て分かるだろ」
「人がせっかく転入生の行くはずだったクラスの書類を偽造してまでこのクラスに入れたというのに!」
「マジで!?」
「だからホントに転入生が来てるんだよ! 分かってんのかゴルァ!」
ついには生徒にキレ始める白衣の二三歳、本村拓未。
「うるせえ落ちつけ。転入生が来たのは分かったから、早く入れてやれよ」
「はっ! 忘れてた!」
(忘れんな!)
佑人の言葉で教室の外で待っているらしい転入生の事を思い出した本村は、やっと開けっぱなしの扉の外へ声を掛けた。
「ごめんごめん。もう入っていいよー高野さん」
(……ん? 高野?)
本村の口から発せられた聞き覚えのある名前に佑人が首をかしげた時、教室の入り口から長い髪をなびかせた小柄な少女が歩いてきた。
「……高野鈴です。鈴と呼んでください。皆さん、よろしくお願いします」
「………な」
礼儀正しくお辞儀をする無表情な少女は、昨日佑人から琴華を引きはがした政府直属の式姫、紛れもない高野鈴だった。
そんなこんなで放課後である。
「………」
佑人は学校付近の住宅街で夏の日差しに熱されて高温になっている電柱の陰に隠れていた。
その十メートルほど先には突然の転入生、高野鈴が歩いている。
この日の授業が終わってすぐに帰宅してしまった鈴を、彼女から式姫の事などを教えてもらおうとしていた佑人は慌てて追いかけたのだ。
丁度転校生を質問攻めにしようとしていたクラスメイト達のおかげで誰にも見とがめられずに佑人は教室を脱出することに成功した。
電柱にしがみついている佑人の姿はストーカーそのままだったが、本人はそのことに気付かずに物陰から物陰へと移動して鈴との距離を一定に保つように尾行していた。
(…鈴が何を考えているのかは俺に分かった事じゃないが、とりあえず後を追ってみれば昨日の出来事も式姫の事も分かるかもしれねえ。なら尾行してみるだけの価値はある)
時刻は昼過ぎだが、時間的にまだ中途半端なため住宅街の中は人の気配が全くしない。
なぜ鈴は佑人の通う高校に転入してきたのかは疑問だが、思えば昨日鈴が着ていた制服は笠間学園の女子用制服であったことを今更ながらに佑人は気付いた。
「!」
その時、人気のないアスファルト舗装の道を歩いていた鈴が突然塀の間の小道へと角を曲がってしまい、佑人は慌ててそれを追いかけた———のだが、いくら小道を進んで行っても一本道の先には人影一つ無い。どうやら尾行を感づかれたらしい。
「くそっ、気付かれちまったか」
悪態をついて佑人はしばらく追いかけたが、百メートルほど進んだところで立ち止まった。
これ以上の追跡は無駄と判断したからだ。
相手は式神を内蔵した少女である。素人である佑人の尾行に気付かない訳は無いはずなのだが、こうもあっさり振り切られるとは思ってもみなかった佑人は少しばかり肩を落としながら来た道を戻ろうとした次の瞬間。
「———んがっ!?」
後頭部に突然衝撃を受けた佑人は一瞬にして意識を失い、湿った路地裏の地面に倒れこむ。
「…………」
その背後では右手に鋼拳を装着した鈴が普段の無表情のまま、音もなく佑人を見下ろしていた。
- Re: 式姫—シキヒメ— ( No.9 )
- 日時: 2012/03/16 21:23
- 名前: アールエックス ◆Ue1gYEb5SI (ID: 1866/WgC)
「う…………」
次に目覚めた佑人が見たのは、自分の寮の部屋とも違う真っ白な天井だった。
吹き抜けのように高い天井から下に視線を移して行けば、埃一つかぶっていない現代風な調度品があり、段々と覚醒し始めた頭で現状を理解した佑人は慌てて飛び起きる。
「ここは一体……」
佑人が寝ていたのは清潔感のある部屋の端にある白いソファで、前にあるテーブルを挟んだ向こう側には同じソファが置いてあった。
遅まきながら佑人は後頭部に痛みを感じて右手を当てる。
幸い、腫れてはいないようだが、少しだけ鈍い痛みが残る頭を押さえながら佑人はどうしても思い出せない痛みの原因と自分が今しがた眠っていたこの部屋について首をひねる。
「ん?」
「あ……」
不意にガチャリ、という音がして後ろを振り返ると、半開きの扉の向こうで鈴が立ち止まっているのを佑人は見つけた。
「…………」
「…………」
しばしの間無言で見つめ合う二人だったが、鈴が何かを言おうと口を開きかけた次の瞬間にその静寂はすぐに破られた。
「あの、佑人さ……」
「おーう、どうした鈴。そろそろ少年が起きたか?」
そんな声と共に部屋の中に飛び込んできたのはくたびれた白衣に少し長めの髪を後ろで縛り無精ひげを生やした男。なんというか怪しさ満点である。
そして佑人にはその男の顔に見覚えがあった。
「あ、あんたはあの時のオッサン! なんでこんな所に……」
「また会ったな少年。このあいだは助かったぜ」
片手をあげてそう言ったこの男は先日チンピラに絡まれていたところを佑人に助けられた中年男性だった。
あの時のオッサンがなぜ鈴と一緒に、と佑人は身構えるが、佑人の中で渦巻く疑問はその次の鈴の言葉で解けることとなった。
「佑人さん。聞きたいことは山ほどあるかと存じますが、今は現状の説明をさせていただきます」
鈴は相も変わらぬ仏頂面で佑人を真っ直ぐに見据えて続ける。
「ここは私の自宅で、普通の家のように見えますが最新式の設備を搭載した式姫運用基地施設、兵器犯罪監視局水無月支部の一般居住ブロックです。ここは大規模レーダー施設や地下実験場、そして都市部の半数近くまで広がる建造途中の地下避難施設に直結しており、式姫研究の最先端技術がある研究所でもあります。
そしてこの白衣を着た男性は私の父親で水無月支部長の高野耕少尉。式姫研究の第一人者で、はぐれ式姫の捕獲作戦なども指揮をしたりしていますね」
「ご紹介の通り俺が兵器犯罪監視局水無月支部長の高野耕(こう)だ。よろしくな、少年」
そう言って高野は佑人の傍まで歩を進めた。
(さすがにタメ口はまずいか……)
「ど、どうも。よろしくお願いします」
「ぶはっ!」
佑人がやや緊張気味に敬語で言うと、高野は突然噴き出して笑い始めた。
いきなり高野に笑いだされて何かおかしなことでもしただろうかと佑人は困惑する。
しばらくして、やっと笑いの収まった高野が困惑している佑人を見とめて言った。
「いやぁ、笑った笑った……っておっとすまん。いきなり笑いだして悪かったな、俺に敬語はいらねえよ少年。背中がむず痒くて仕方がねえ」
「は、はあ……」
「お父様、佑人さんが困っています。年上の人間に敬称抜きで話すというのは難しいかと」
鈴が窘めても、高野は一向に気にした様子もなく笑って見せる。
「いいんだよ気にしなけりゃ。な、少年も好きに呼んでくれて構わねえから」
「じゃあオッサンで」
「……なかなかいい度胸をしているな少年」
それなら遠慮なく、と第一印象で考えた名称を佑人が言うと、高野は苦い顔でそう呟いてから息をひとつ吐き出した。
「ま、自分で言った事だしな。引き続きその調子でいてくれて構わねえぜ」
高野はそう言っているが、やはりオッサンは馴れ馴れしすぎたかと佑人が思っていると、そこで鈴が無表情のまま高野に首をかしげて衝撃的な事を尋ねた。
「ところでお父様、私に佑人さんを殴って連れてこさせたのは何か理由があったのですか?」
「え!? 俺殴られたの!?」
「はい。こう、ガツンと」
道理で後頭部が痛い訳だ、と佑人は頭をさすりながら鈴に殴られる心当たりを探すが、まったく身に覚えがない。
仕方なく佑人は鈴に尋ねた。
「……俺、鈴に恨まれるようなことしたっけ?」
「申し訳ありません、お父様が殴って連れて来いと」
「そういや言ったなぁ、そんなこと」
「やっぱりあんたはオッサンで十分だ!」
少しばかり反省している様子の鈴とは裏腹にまったく悪びれた様子もない高野に佑人は眉間にしわを寄せる。
その時、唐突に高野の後ろのドアが開き、二人の見なれぬ少女が部屋に入ってきた。
- Re: 式姫—シキヒメ— ( No.10 )
- 日時: 2012/03/18 02:51
- 名前: アールエックス ◆Ue1gYEb5SI (ID: 1866/WgC)
「ただいま〜……ってあら? 父さんったらとうとう一般人の改造手術まで始めたのね〜。流石は狂気のマッドサイエンティスト、墜ちるとこまで墜ちたものだわ〜」
「ふむ、だがあの少年はどうやら男性のようだぞ。式姫にするなら普通は女性体でなければ式神が適合しまい」
「……お前らぁぁぁぁ! 帰宅早々人聞きの悪いこと言ってんじゃねえぞコラァ!」
耐えかねたように高野が吠えた二人の少女はどちらも対象的な印象の美少女だった。
一人は初めに部屋に入ってきたおっとりした口調の少女。
少女というよりは女性と表現した方がいいような長身と、Yシャツの布地を張り詰めさせてその存在を一際強調している胸部が特徴的な彼女は、セミロングの髪といつも微笑んでいるような糸目が落ち着いた雰囲気を醸し出している。
もう一人は最初の少女に続いて部屋に入ってきた男喋りの少女で、身長は平均をやや上回るぐらいながらその喋り方や切り揃えられた黒髪、独特なオーラを感じさせる鋭利な刃物のような瞳は見る者を引きつける魅力を持っていた。
どちらも周囲から一線を画した雰囲気を持つが不思議と近寄りがたい印象は感じない。鈴と同じ笠間学園高等部の制服を着用しているが、リボンの色は二人とも緑のため佑人の一つ上の2年生だと思われる。
高野の叫びに黒髪の少女はうるさげに手を片耳に当ててそれを遮断する。
「やれやれ騒ぐな高野。鈴、その少年は誰だい?」
「こちらは笠間学園高等部一年六組で本日私のクラスメイトになった佐久間佑人さんです。諸々の理由により、今日はここに来ていただきました」
それを聞いた黒髪の少女は形の良い顎に手を添え、それから佑人の方へと向き直った。
「ふむ、そう言えば鈴は今日からうちの学校に転入だったか。佐久間君……と言ったな。私にも長い肩書はあるがそれは省こう。私は高野汐音、この家の長女をやっている。よろしくな」
(高野汐音……? そう言えばどっかで聞いたような名前だな……まあいいか)
若干何かが引っ掛かるような感覚を覚えたが、それを頭の隅に追いやりながら佑人は汐音に会釈を返す。
「よろしくお願いします。あ、長女って事はもしかして汐音さんも……」
「ああ、私もこの水無月支部所属の式姫だ。私と鈴と、後は歌蓮が……あれ? 歌蓮?」
歌蓮とは、恐らく初めに部屋に入ってきた長身の少女だろう。だが彼女の姿は佑人と汐音が話している間にどこかへと消えてしまっていたのだ。
汐音がその名を呼ぶと、どこからかぱたぱたという足音と共に五つの湯のみが乗ったトレイを持つ少女が小走りでキッチンに続いているらしい暖簾をくぐってきた。
「ごめんなさい。でも、お客様にお茶をお出ししない訳にもいかないでしょ〜」
「おお、確かにそうだ。私も失念していたよ。佐久間君、こいつが高野家次女の歌蓮だ。私や鈴と同じく正規の式姫でもある」
歌蓮は湯呑みをテーブルの上に置きながら糸目をさらに細めて佑人に微笑む。
「高野歌蓮よ。よろしくね、えーと……何君だったかしら?」
「佐久間佑人です。汐音さんも歌蓮さんも、俺の事は呼び捨てでいいですよ」
「え〜そういう訳にはいかないわよ〜。ねえ、姉さん?」
「そうだな、呼び捨てというのはどうにも偉そうでいかん」
「それじゃあ改めて。よろしくね〜、佐久間君」
「うむ、やはり佐久間君の方がしっくりくるな。佐久間君もそう思うだろう?」
「え? いや、その……」
美女二人に詰め寄られて口ごもる佑人を見た高野はため息をひとつ吐くと、
「……ほら汐音、歌蓮。少年と俺は大事な話があるからどっか行ってろ」
「え〜、私達と話してた方がずっと面白いわよう」
「い・い・か・ら・どっ・か・行・け」
駄々をこねる歌蓮に歯をむいて追い払おうとしていると、思案顔で汐音が尋ねた。
「高野、大事な話とはやはり彼はコア保持者なのか? そのような反応は感じ取れんが……」
(コア……? コアって一体何の事だ?)
汐音の口にした耳慣れぬ単語に佑人は怪訝な顔をするが、それには気付かず高野は首を縦に振る。
「ああそうだ。とびきり強力な代物らしいが、まだ完全な覚醒には至っていないっぽいな」
「なるほど、道理で……」
高野と汐音は理解した上で話しているが、佑人にとっては全く意味が分からない会話が頭越しに飛び交っているのである。
いい加減考えるのにも飽きた佑人は正直に高野に尋ねる。
「オッサン。さっきから汐音さんと話してるコアってのは、一体何の事なんだ?」
「ん? ああ、それはな……」
そう高野が答えようとした時、二つの忍び笑いが聞こえてその口はピタリと止まった。
笑い声がする方向を見れば歌蓮が不自然に後ろを向いて肩を震わせており、汐音も明後日の方向へ目が泳いでいてまるで笑うのを堪えているかのように頬が引きつっていた。
「ふっ、ふふっ……。オッサン……オッサンですって。まだ二五なのに……ぷぷっ」
「わ、私は笑ってなどいないぞ、うん。くくっ……ゲフンゲフン!」
「お前らとっととどっかに消えろ」
凄まじく不機嫌な声と顔で高野が威嚇すると、残念そうな顔をしながらも今度こそ汐音と歌蓮は部屋から出て行った。
それを確認した高野はやっとひとごこちついたかのようにソファーに倒れこむ。
「やれやれ、やっとうるさいのが居なくなった」
「お父様、あまりお姉さま達を邪険にしてはいけません」
「いいんだよこんくらいで……さて、と。ついてこい少年、邪魔のないところで話そう」
そう言って高野は席を立ち、居間の扉を開ける。
「邪魔のないところって……どこに?」
「安心しろ。手間は取らせねえさ」
高野は廊下の奥にある地下への階段を下りて行き、他の壁とは違う機械的な扉の前で立ち止まった。
「こっから先は他言無用で頼むぜ、少年。なにせ式姫は国の最上級機密の一つだからな」
扉の横にあるパネルを操作し、エレベーターらしき扉の中に入った高野の後を追って佑人と鈴も鉄製の箱の中へと入り、同じようなパネルを今度は鈴が操作すると、扉は閉まりエレベーターはゆっくり降下していった。