複雑・ファジー小説
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- 駆け抜けろ、地獄と天国と幽閉された死神〜黒影寮☆劇場版〜
- 日時: 2012/03/24 21:51
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode=view&no=6161
ここに書くのは『2の2くえすと』以来ですが……覚えていますでしょうか。
こんばんわ。こんにちは。おはようございます。山下愁です。
上記のスレッドは企画で参加してもらった人がいます。現在でも企画は進行していますが、参加はご遠慮ください。
さぁ、この小説には私の小説『黒影寮は今日もお祭り騒ぎです』を読んでくれている人が参加しています!
えーとですね、私の技量が半端なく悪いので、そこら辺はあしらず。
申し訳ないです馬鹿作者のダメ作者で。
と言う訳で。
黒影寮は今日もお祭り騒ぎです! の劇場版パート2です。
タイトルスレッドがおかしいですが、まぁ興味のある方はどうぞ見てください。
それではここでの注意ですね。
1 キャラがわからないから見れない? 大丈夫です、優しく解説しましょう。
2 駄作が嫌? それならUターンしてください。神作に期待しないでください。
3 山下愁誰? 私ですダメ作者です。
4 誹謗中傷しに来た? 帰ってくださいお願いします。
5 荒らしに来た? もちろんお帰りをお願いします。
まぁいつも通り。
それではお楽しみいただければ幸いです。
目次? そんなんねぇよ。
- Re: 駆け抜けろ、地獄と天国と幽閉された死神〜黒影寮☆劇場版〜 ( No.18 )
- 日時: 2012/03/29 16:39
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode
劇場版 第12章
とある少年の記憶の中には、約束の名前が眠っていた。
自分が傷ついて家に帰った時、どうしてそんなに傷ついたのかと問われた。
——だって、お前の事を馬鹿にしていたから。
——だからってお前が傷つく事はないだろう。
——いいんだもん。友達が馬鹿にされていたら、誰だってむかつくんだし!
見栄を張ってそういう理由をつけたら、そいつに殴られた。
何で自分の為に傷つくのかと。
お前は人間で、すぐに死んでしまうのだぞと。
——関係ない。俺が誰を守ろうと関係ないだろ。俺はお前を守るって決めたんだ!
小さな体で守ると宣言する。
そうしたら、そいつは泣きそうな笑顔を浮かべて、こう言った。
だったら俺もお前を守ろう。この命、力を全て賭してお前を守ろう。約束をする。
——えー、約束を破ったらどうするんだよ?
すると、そいつは自分の頭をなでてくれた。
——俺は約束を破らない。この名前をお前にやる。
——名前?
——この名前は俺の誇りだ。その誇りに懸けて、俺はお前を守ると約束をしよう。
——じゃあ、その名前は?
——その名前は。
少し長かった。意味が分からなかったけど、あとでそいつに意味を教えてもらった。
この名前は大切なんだ。だから容易に口にするなと念を押されたから、自分はその名前を知っているだけにしておいた。
……もう、呼ぶ事はなくなってしまうのだろうか?
***** ***** *****
スタジアムの中央には、塔みたいなのが設計されている。その上に執行人と翔の姿があった。
「今すぐこの刑を執行するのを止めなさい!」
純がスタジアム全域に響き渡るような声で言った。
周りの公開処刑を見に来ていた住人はざわつく。
「おや、人間が一体どうして地獄に来たんだい? まさか、この罪人を救いに来たとでも言うのか?」
レティノアはテラスからワインを揺らしながら、ギャーギャーとわめく黒影寮+アルファに訊く。
「うるさい! どうせ、またくだらない理由で処刑しようとしているんだろ! 天界のルシアと同じように!」
アカツキは柵から身を乗り出してレティノアに向かって叫ぶ。
レティノアは「くだらない理由」と言われた事に腹を立てたのか、テラスから思い切り彼らに向かって怒鳴りつけた。
「くだらない理由なものか! こいつは人間達に感情を見せた。ルール違反を犯したのだぞ!」
「だったら死神は全員ルール違反じゃない。バンバン人に感情を見せているでしょう? それは仕事上だけであって、別に人を生き返らせた訳じゃないんだから」
レティノアの意見を、アサギが一蹴する。
「まだ何かおありかしら。意見があるならどうぞ?」
アサギが胸を張ってレティノアに言う。
レティノアが舌打ちしたかと思うと、執行人に命令をした。
「早くその罪人を処罰しろ」
執行人の持っていた鎌がゆらりと持ち上がる。
「テメェ止めろって言ってんだろ!!」
今度は蒼空が叫び声を上げた。
レティノアは憐れんだような声で、
「だったら罪人の意見も聞いてみようじゃないか。諸君よ、その方が盛り上がるだろう? 遺言という奴だよ。東翔、彼らに何か言っておく事があれば言え。3分間だけ時間をやろう」
執行人に鎌を下ろすよう命令をしたレティノアは、愉快そうにその光景を眺めていた。
翔はゆっくりと黒影寮の方へ振り返る。その瞳にいつもの光はなく、ただ冷酷に彼らを見つめていた。
「どうして来た?」
冷たい声音で、翔は問いかける。
みんながその声にすくみ上がっている中で、唯一昴だけが翔に言い返した。
「どうして黒影寮を捨てて、死のうとしてるんだよ?」
「ルール違反を犯した死神が待っているのは死だ。閻魔の命令であれば、俺は死ぬ」
「いつからそんな忠犬キャラになったんだよ。お前ドMなの?」
昴の隣にいた銀が、ビクリと震えあがる。黒影寮の全員も、白刃達も、純達も、全員で昴を見ていた。
「それは、俺らの為に死のうとしてるの? 自分の為に死のうとしてるの?」
いつもの声で、昴は翔に問いかけた。
「自分の為だ」
翔は簡潔に答えを返した。
「俺は死神としての最大であるルールを違反した。人間であるテメェらに心を許し、感情を見せた。これがいけなかった」
「だったら、俺らとつるんでいた時は仕事だとでも言うの?」
「多分な。死神にはそういう傾向がある。仕事じゃないと思っているから人間に感情を見せ、そしてルール違反となり死んだ。そういう同族を、俺は何人も殺した」
地獄業火。死神すらも焼く炎。
翔は昔からこの炎を使い、ルール違反を犯した同族を殺した。
「……そうかよ」
昴は舌打ちをして、柵を飛び越えた。スタッと軽い調子で地面に着地し、塔へと足を進める。
処刑を見ていた死神や町の住人達は悲鳴を上げた。「あいつは何をしているのだ」と怒鳴っている奴もいた。
レティノアの従者が動き、昴を取り押さえる。
「だったら何で、あの時にあんな事を言ったんだよ! 俺を守るって言ったじゃないかよ!!」
暴れながら昴は塔の上にいる翔に向かって叫んだ。
「守るっていうのは、その人のそばでずっといるってのと一緒なんだろ!」
「おい、うるさいぞ。3分間経った、刑を執行しろ」
レティノアは執行人に命令する。
翔は何も言わず、ただゆっくりと目をつむった。
「待てよ、まだ話は終わってねぇ!! この馬鹿閻魔、ワインをくゆらせるのを止めろ!」
昴はレティノアに向かって噛みつくように怒鳴った。
レティノアはワイングラスを落とし、
「ぼ、僕が馬鹿……? 貴様、僕を馬鹿にしたな! 閻魔を馬鹿にしたな! このレティノア・ルテ・アラスベルクを!!」
「ハン。お前みたいなのが閻魔なら、翔ちゃんの方がよっぽどお似合いだよ」
「この木端死神が閻魔にふさわしいだと? 笑わせるな、大体——」
「死神の名前は誇りなんだろ、お前はその誇りにすら値しない!」
もう止まらない。閻魔相手に昴はギャーギャーとわめき続ける。
何だかもうそろそろ止めに入った方がいいのだろうか……?
レティノアは頬の筋肉を引きつらせつつ、昴に問うた。
「だったらそこの木端死神の名前を言ってみせろ。僕がこの名前の誇りにすら値しないと言うのなら、そこの死神が閻魔にふさわしいと言うのなら、言ってみせろ!」
レティノアの声が、スタジアム中に響き渡る。
昴は翔の方を見上げた。翔も昴の方を見下ろした。
沈黙がスタジアム中を駆け回る。
その沈黙を破ったのは、昴の声だった。
「その名前の意味は、『全てを守る』」
翔の目が見開かれる。
昴は意を決して、翔に向かって怒鳴った。
「名前の意味が違うじゃねぇか! だったらそんな名前、捨てちまえ!
翔・ルテ・アラスベルク——————!!」
- Re: 駆け抜けろ、地獄と天国と幽閉された死神〜黒影寮☆劇場版〜 ( No.19 )
- 日時: 2012/03/29 17:07
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode
劇場版 第12章
「ただいまー」
「おかえ、り……?!」
まだ翔が昴の家でお世話になっていたころ、先に帰っていた翔が見たのはボロボロの昴の姿だった。
翔は瞬時にいつもの姿に戻ると、昴に問いかける。
「どうしたんだ、その傷。どうしてそんなにボロボロなんだよ?」
「だって、みんなして翔ちゃんの事を馬鹿にしたから」
昴はむくれながら、翔の治療を受けていた。
温かな炎が昴の傷ついた体を癒して行く。死神のくせに、翔はやけに優しかった。
「テメェは人間なんだぞ? 喧嘩なんかして……死んだらどうするつもりだ」
「そん時は翔ちゃんが何とかしてくれるよ」
馬鹿、と翔は昴の頭をひっぱたく。
昴はにへら、と笑いながら「喧嘩はするもんだぜ」と言った。
「俺は翔ちゃんを守るんだ! だってそれが友達じゃん。友達の姿じゃん!」
昴はガッツポーズでランドセルを部屋の中に放り込んだ。
この小さな体で自分を守る——翔は笑えてきた。
自分は世界を一瞬で焦土と化す力を有する死神だ。人間の、しかも子供に守られるほど弱くはない。
でも、何故だろうか。自分もこいつを守ろうとしようとするのは。
「だったら俺もテメェを守ろう」
昴は首を傾げた。
「約束だ」
「えー、翔ちゃん嘘をつく時あるからな。その約束も信じらんない」
昴は怪しげに翔を見やる。
翔は昴の頭にチョップを入れた。
「痛いーっ!」
「俺は約束を破らない。その為に、テメェに名前をやる」
「何の名前?」
「俺の誇りだ」
この名前は自分の誇りであり、今まで誰にも教えた事はなかった。
でも、昴だけは自分の手で守りたい。だからこその約束だ。
「この名前の意味は、『全てを守る』っていう意味だ。言うぞ、1回しか言わないからな」
そして名乗る。
——翔・ルテ・アラスベルクと。
***** ***** *****
スタジアムがざわつく。まさかの王族が今まさに処刑されようとしているからだ。
「……忘れてるのかと思った」
翔は小さく、誰にも聞こえないぐらいにつぶやいた。
が、耳のいい昴には聞こえていたらしく、
「忘れる訳ないじゃん」
と、いつもの笑顔で答えた。
「……翔ちゃん。どうしたいの? 死にたいの、死にたくないの?」
昴は翔に問いかける。
翔は返答に悩んだ。ここにいるのはルール違反を犯した自分にけじめをつける為。なのに、その決意が揺らいだ。
すると、自分の中に炎神の声が響く。
(いいじゃん。言っちゃいなよ。さっきから葛藤がすごい伝わってくるよ?)
(うるさい黙れ)
(黙れってね……しょうがないじゃん。聞こえるんだもん。どうしたいの? 自分は生きたいのか、ここでけじめをつけたいのか)
飄々とした声で、もっともな事を言う炎神。
翔はふと、視線を上げた。
目線の先には、黒影寮のみんなが泣きそうな顔でこちらを見ている。自分が冷たい声で「どうして来た?」と言ってしまったからだろう。
後悔した。あんな事を言ってしまったから。『戻らない』と言ってしまった事も、後悔した。
今更、今更こんな気持ちになるのだろうか。
「ごめん、テメェら……」
翔は自分の頬が濡れているのに気づいた。
おそらくそれは、自分の瞳から流れる涙のせいだろう。
「……俺、テメェらと生きてぇ……!」
悲痛な声で、自分の思いを吐きだした。
それを嘲笑うレティノアの声。
「はーっはっはっはっは! ルテ・アラスベルクだから少し混乱していたが、今更もう遅い! 執行人、殺せぇぇ!」
「そうはいくか!」
銀は素早く鈴にチェンジし、神様フル召喚する。20体の神悪魔天使鬼が召喚された。
紫月に命令し、レティノアに電撃をお見舞いする。
「珍しいものが見れたもんね。死神の泣き顔なんて貴重貴重♪」
空華は口笛を吹きながら、苦無を構えた。何か術をかけているようだった。
全員戦闘準備は万端らしい。何か、アカツキも鈴の力を受けてなのかすごい炎を噴出している。
それを見た昴は、スタジアム全体に響き渡るような声で、
「翔! 黒影寮の寮長は、やっぱお前しかできねぇみたいだ!」
そして自分に襲いかかってきた死神に、反閇技を叩きこむ。
やられた死神を見てレティノアは顔を引きつらせた。
「どうして……城内では能力は使えないはずじゃ」
「それは君がいけないと思うけど」
レティノアは首を傾げた。
何で自分の後ろから声が聞こえたんだー?
「……どーも。僕の事知ってるよね……? スカイ・ブルーだけど……」
青い髪をした少年、スカイ・ブルーはレティノアに手をかざした。
「とりあえず……君を固めようかな……?」
「だ、誰かこの悪魔を始末しろ!」
レティノアは悲鳴を上げて従者を呼ぶ。
スカイの周りにはいつの間にか従者が集まっていた。
「……あらら」
「ふ、フン! 処刑を中止にできるならやってみろ。炎の死神、貴様は死ぬ定めなのだ!」
レティノアは翔に向かって怒鳴った。
だが、それに答えたのは翔ではなく黒影寮だった。
「「「「「だったらその定めを変えてやる!!」」」」」
- Re: 駆け抜けろ、地獄と天国と幽閉された死神〜黒影寮☆劇場版〜 ( No.20 )
- 日時: 2012/03/29 21:52
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode
劇場版 第13章
「ハッハァ! あの俺様死神さんが涙流して『生きたい』なんて頼むところを見るのは初めてだぜ!」
空華はケタケタ笑いながら、従者の死神を次々にひれ伏しさせて行く。彼の実力ならば、死神に土下座させる事ぐらいどうとも思わないのだろう。
「なぁ、零」
「どうした白刃。今まさにこの乱戦状況を打開する策が浮かんだのか?」
空気の玉で死神を吹っ飛ばしていた零は、突如白刃に呼ばれたのでそちらへ振り向いた。
白刃はスタジアムの中央を示した。
そこに浮いていたのはシャンデリアのような感じの物体。それがおそらく、スタジアムを照らしているのだろう。
「あれ、壊せない?」
「粉々に砕けて、東に降り注ぐが」
そっかー、と白刃は答えを返すと、
「じゃあ、あれが砕ければ?」
「まぁできない事はないが……どうやってするんだ? お前は戦う奴じゃないだろ?」
零が首を傾げていると、白刃は近くで戦っていた怜悟に話しかける。
「怜悟君。あれ、切り刻める? 粉々に」
「できる」
即答した怜悟は、刀を構える。刀身に青い炎がともったのと同時に、彼は地面を蹴った。
シャンデリアへ向かっていく怜悟。
「月読流抜刀術——乱」
軽く一閃。それだけで幾重にも亀裂が走り、シャンデリアは粉々になった。
そのまま怜悟は地面へ着地し、振り返る。
「零!」
「OK!」
零は今まさに翔へ降り注ごうとするシャンデリアのがれきへ手をかざす。
手から生まれた空気の玉ががれきへと当たり、城の方へ吹っ飛ばす。煙が上がった。
「よし!」
「よし、じゃねぇよ! あっちにはスカイがいるんだぞ!」
スッパァァンッ! と鈴は零を殴った。
スカイは一応悪魔なので、勝手に鏡の中に戻っていた。うん。
「……鈴。僕は大丈夫」
「あぁ、スカイ。大丈夫か?」
「……それより、少しやばいね」
何が? と鈴が目線を上げた先には、翔がいる塔があった。執行人である死神が、今まさに鎌を振り下ろそうとしている。
このままでは死んでしまう!!
「翔さん!」
鏡の中から銀が叫んだ。
その時、
「はいはい、そこまでよん」
ギィィンと鋭い音が聞こえた。
塔の上に乗る、第4の人間。遠くから見れば、細い針のような奴だ。そいつの指からは金色の糸のようなものが垂れていて、それが死神の体を貫いていた。
「……『磔』」
執行人の体に糸が絡みついたかと思うと、城の方へ吹っ飛び十字架に張り付けられた。
第4の人間、空華は不様な執行人の光景を見て、くすくすと笑った。
「哀れだなー♪」
「……」
翔はその光景を青ざめた顔で見ていた。
空華は翔の方へ振り返ると、手錠に手をかける。鍵穴に針金を刺し込んで、ガチャガチャやり始めた。
「お、おい……」
翔が何やら心配そうな声を上げるが、空華は無視。
やがて手錠が外れ、ガチャンと音を立てて下に落ちる。
「ん? 俺様が死神を攻撃できたか知りたい?」
「知りたくもない」
「そ。でも、刑は執行するから。俺様が執行人を務めるからね」
「ハァ? 何を言って……」
翔が答える前に、空華が翔へドロップキックをかました。
空中で一瞬だけ固まる翔。
「銀ちゃん泣かせやがった罰だ。本当はお前も磔の刑に処してやろうかと思ったけど、それだとマジで銀ちゃんを悲しませるからな」
塔の上でブラックオーラ全開で翔を見下ろす空華。
「テメェ空華ぁぁぁぁぁあ!!」
「あーあー聞こえないー」
空華は落ちて行く翔を静かに見送った。
叩きつけられるかと思ったが、何者かに受け止められた。翔はゆっくりと瞳を開く。
舞い上がる銀色の髪。見覚えのある真剣な表情。まぎれもなく神威銀だった。
「何を勘違いしてやがる。銀をこんな戦場に出す訳ないだろ、鈴だ鈴」
「何だ鈴の方か……」
「お、何だお前。じゃあ本物の銀を出してやろうか? 持ってあと10分しかいられないぞ俺は」
にやにやと銀の顔で笑う鈴。何だかむかつく。
翔がムッと顔を膨らませると、鈴は翔を落とした。思い切り頭を打ち付ける翔。
「俺はまだ戦わなきゃいけないから。あーもう、ここの従者いくらいるんだよ……気絶させるのだけで結構難しいのに……」
「鈴ー、俺もう腹いっぱい……ゲフ」
「ディレッサ魂食いすぎだろ。死神の魂を食ったのか?!」
「寿司を食っているような気分だった」
「たくさん食べるなよ、夕飯食えなくなっても知らないぞ!!」
鈴は腹をパンパンに膨らませたディレッサと一緒に、戦場へ入って行く。
ボーと座っていた翔に、昴が声をかけた。
「大丈夫?」
心配そうな昴の表情を見て、翔は申し訳なさそうに謝った。
「……ごめん。勝手に、ルール違反したからって言う理由でテメェの前を離れようとした」
「翔ちゃんが戻って来てくれるなら何でもいい」
昴は翔へ抱きついた。
温かな体温が、服の上から感じる。
「結構たまってるよ? 俺」
「あぁ。回復させてもらう」
説明しよう。
死神にも体力と言うものがある。それは大体はご飯を食べれば何とかなるが、もっと手っ取り早い回復のし方があるのだ。
それは、人の心に巣くう悪霊を食べる事。普通は人に近づくだけで食べれたりはするのだが、昴の場合は違った。
昴は闇の踊り子という能力を持っているからなのか、悪霊が近づきやすいうえに悪霊をためるゲージが半端なく大きい。死神が体力を回復するにはうってつけなのだが、近づいても回復はできないのだ。そこで『体に触れる(要は抱きつく)』形で回復するのだ。
こんな事をできるのは死神の中でも翔だけである。
「ん。回復できた」
翔は昴から離れ、鎌を取り出した。
昴はニッコリ笑って立ち上がると、ふととある人物が目に入った。
赤い髪。レティノアである。
「翔ちゃん、あれやろうよ。あれ」
「あれか? 別にいいが……テメェは大丈夫なのか?」
「おーるおっけーのーぷろぶれむって奴さ!」
サムズアップで答える昴。翔は苦笑いを浮かべると、鎌を構える。
レティノアがこっちに気づいた。
「お、お前がいけないんだ! お前のせいで美羽さんにふられたんだぞ!!」
「「くだらない理由かよッッ!!」」
2人同時に突っ込むと、炎があふれだす。それはいつも翔が操る紅蓮の炎ではなく、黒い炎だった。
昴の力を使って黒く変色した炎は、レティノアを包み込んだ。
「「地獄業火、黒獄炎乱舞!!」」
レティノアは悲鳴を上げてその場に膝を折って倒れた。
- Re: 駆け抜けろ、地獄と天国と幽閉された死神〜黒影寮☆劇場版〜 ( No.21 )
- 日時: 2012/03/29 22:24
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode
劇場版 終章
レティノアをブッつぶし、翔が処刑される事はなくなった。
純は疲れたようにため息をつく。
「まさか、東翔が王族の子だったとはね……嘘なんてついてないでしょうね」
「何で名前如きで嘘をつく必要がある。本当だぞ」
じゃあ、俺様になのは王子だからか……? と全員は思うが口に出さなかった。
昴はニコニコの笑顔で、
「翔ちゃんが戻って来てくれるから何でもいいー」
などと言って、腕に抱きついていたりした。正直、昴もさみしかったのだろう。
アカツキは「もう疲れた。翔君と会うのはまたあとで!」とか言って、鏡の中に戻って行った。神様も。
鈴からチェンジした銀は、ぽろぽろと涙を流す。
「ちょ、おい?! どうして泣く?!」
翔は焦った様子で銀の涙をぬぐう。
銀はぐすぐすと鼻を鳴らしながら、
「だって、だってぇ……翔さんが無事でよかった、よかったです〜」
ペタンと座りだして泣きだす。あー、収拾がつかない。
白刃は冷たい目で翔を睨みつけた。
「妹を泣かすとは一体どういう事ですかね?」
「知らない俺は一切知らない」
ブンブンと翔は首を横に振って否定する。
だが白刃はそれでも冷たい目線を翔へ送っていた。
「まぁ、これで一件落着だからあたしは天界へ帰るよ?」
「……私も」
アサギとメディは天界へと足を向けた。そんな2人の襟首を、ガッと掴むアオイ。
「せめて翔さんにお別れ言ってから帰ったらどうですか?」
「えー、あたしら何もしてないよー。メディちゃんは少しだけ洗脳したかもしれないけど」
「……戦った」
メディはフフンと誇らしげな顔をした。
「いいじゃん……戦ったんだし」
リトラスも何だか疲れたような表情を浮かべる。
黒影寮のみんなも「疲れた」だの「眠い」だの何だの口々に言う。銀はまだ泣いていた。そんなに安心したのか?
翔はそんなみんなの背中に向かって、小さく、
『……ありがとう』
とつぶやいた。
みんなは首を傾げた。なんて言ったか分からないからだ。
「え、翔ちゃん。なんて言ったの?」
昴は翔に問いかける。
翔は顔を真っ赤にして「何でもねぇ」と怒鳴った。が、空華はにやにやとした笑みを浮かべ、
「見ちゃったー♪ 全開の笑顔で東翔さんが『ありがとう』なんてお礼を言うところー♪」
「な//空華何で分かるんだよ!!」
翔は空華の胸倉を掴み、顔を真っ赤にして叫んだ。
空華はさも当然と言ったように、
「何をお言いになる。死神操術を使えるものはね、死神が使う言語を理解しないとできない技なの。お前が何を言っているのかなんて聞こえるんだからね?」
「な//」
「ま、それに『全員に頼るのも何か悪くないかー』とか思ってるしね」
鏡を片手に白刃も笑う。
翔はゆでダコみたいに顔を真っ赤にして、鎌を出現させた。何だか嫌な予感。
「今すぐその記憶を消さないと焼き尽くすッッッッ!!」
「ヤベェ翔がキレた! 逃げろ!!」
「ドゥルルン!」
炎があふれだす鎌を振り回しながら、翔は逃げ回る黒影寮と+アルファを追いかけた。
***** ***** *****
「なぁ、翔ちゃん。お前ってどこの高校受けるの?」
昔の記憶だ。昴は進路希望を眺めながら、翔に問いかけた。
実際、頭のいい翔だ。どこにでも行けるのだが、
「英学園と言うところに決めた」
「英って……あのおぼっちゃま学校?」
昴はキョトンとした様子で問いかける。
翔は首肯して答えた。
「あそこは能力を育成するクラスもあるらしいからな。俺はあそこに行って、能力をコントロールする事を覚える」
「……ふーん」
昴は進路希望へ目線を落とした。
「あ、べ、別に離れ離れになる訳じゃねぇぞ。会いたい時は携帯で連絡とってくれれば……」
「何を言ってるの、翔ちゃん。言ったでしょ、俺は翔ちゃんを守るんだって。守るってのはそばを離れるとできなくなるんだよ?」
昴は翔へ笑顔を向けた。そして進路希望を翔の前に突き出す。
第1希望の欄には、汚い字でこう書かれていた。
英学園と。
「テメェ……」
「翔ちゃんも俺を守ってくれるんでしょー?」
昴はニッコリとした笑みで言った。
「それとも、翔ちゃんは誇りを俺に懸けてくれたのに、それを捨てるのかな?」
「馬鹿。捨てねぇよ。——まぁ、テメェがついてきてくれるのなら万々歳か」
翔は鞄の中から自分の進路希望を取り出した。
英学園。ここで、どんな学校生活が待っているのだろうか。
「昴。その為にはテメェ、勉強しろよ?」
「するけど……頼っちゃダメですか?」
「別にいいが……頑張れ。偏差値は高めだぞ」
「嘘でしょマジで?!」
けらけらと楽しそうに笑う翔とは反対に、昴は顔を青ざめていた。
そして彼らが新たな仲間と出会い、恋敵になり、楽しい学園生活を送っているのは。
どうか本編でお確かめください。
END
- Re: 駆け抜けろ、地獄と天国と幽閉された死神〜黒影寮☆劇場版〜 ( No.22 )
- 日時: 2012/03/29 22:30
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode
あとがき。
作者の山下愁です。
今回書かせてもらったのは、私がコメディライトで連載しているあの逆ハーレムじゃない逆ハーレム、黒影寮は今日もお祭り騒ぎですの番外編です。
番外編と言うより劇場版ですね。
さて。
この劇場版は『翔君がメインの少しダークなお話』になる予定でしたのに。どうしてだろう、何でダークのかけらすらも見当たらないのだろうな?
きっと、このメンツでやると大変な事になるんだろうね。そうなんだろうね!!
それでは。
ここでスペシャルサンクスです。
・マリ様
・夕遊様
・北大路様
・梨花様
・翠蓮草様
・茜崎あんず様
・メデューサ様
以上の皆さま、本当にありがとうございました。
特に茜崎あんず様、北大路様。あなた方は本編でも活躍する可能性が大なので!
ではここで筆をおかせてもらうとしましょう。
本編でこの劇場版のNG集を予定していますので、覗いてみてください。
それではまた機会があればお会いしましょう!