複雑・ファジー小説

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駆け抜けろ、地獄と天国と幽閉された死神〜黒影寮☆劇場版〜
日時: 2012/03/24 21:51
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode=view&no=6161

ここに書くのは『2の2くえすと』以来ですが……覚えていますでしょうか。

こんばんわ。こんにちは。おはようございます。山下愁です。
上記のスレッドは企画で参加してもらった人がいます。現在でも企画は進行していますが、参加はご遠慮ください。

さぁ、この小説には私の小説『黒影寮は今日もお祭り騒ぎです』を読んでくれている人が参加しています!
えーとですね、私の技量が半端なく悪いので、そこら辺はあしらず。
申し訳ないです馬鹿作者のダメ作者で。

と言う訳で。
黒影寮は今日もお祭り騒ぎです! の劇場版パート2です。
タイトルスレッドがおかしいですが、まぁ興味のある方はどうぞ見てください。


それではここでの注意ですね。

1 キャラがわからないから見れない? 大丈夫です、優しく解説しましょう。
2 駄作が嫌? それならUターンしてください。神作に期待しないでください。
3 山下愁誰? 私ですダメ作者です。
4 誹謗中傷しに来た? 帰ってくださいお願いします。
5 荒らしに来た? もちろんお帰りをお願いします。

まぁいつも通り。


それではお楽しみいただければ幸いです。
目次? そんなんねぇよ。

Re: 駆け抜けろ、地獄と天国と幽閉された死神〜黒影寮☆劇場版〜 ( No.13 )
日時: 2012/03/27 19:09
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode

劇場版 第7章


 メディを釈放した一行は、まずシェン様と言う奴が住まう天使城を目指した。
 当然そこまで馬車である。
 馬車の中で、アオイが、

「まずは皆さんにこの白いローブを羽織ってもらいます」

 白いローブを黒影寮に手渡した。
 何でも、これを着ていれば天使と勘違いされるのだとか。蓮はペガサスのままいれば大丈夫。

「これで本当に入れるんか?」

 睦月は半信半疑で白いローブを羽織る。

「天使の輪なんて今時の天使はつけませんから。白いローブを着ると天使に見えるのですよ」

 アオイは笑顔で言う。
 その言葉を信じ、黒影寮は天使城のゲートを通った。

「む、アオイ。お前は空の庭の任だったのでは?」

「そうですが、シェン様にご用事で」

「シェン様? あぁ、お前は変わる前に空の庭に行ったっけ。今は『ルシア・ルテ・アラスベルク』様だぞ?」

 ん? と黒影寮は首を傾げる。
 何か、名前が違くない?

「サキエル様はいらっしゃいます?」

「サキエル様は今、天界を駆け回っているところだぞ。それより、ルシア様に用があるならさっさとゲートを通れ」

 全員で首を傾げながらゲートを通る。
 銀はアオイに問いただした。

「すみません、前任だったのですか?」

「知りませんでした。今はルシア様なのですね」

 そして大きな門の前にたどりつき、全員は馬車を降りる。
 TDLに来たみたいだ。

「行きますよ! ちゃんとしなくては!」

 そう言った瞬間、扉が突如開き白い羽根が全員に襲いかかった。

「危ない!」

 空華が銀を突き飛ばす。銀は白い床をゴロゴロと転がった。
 銀が起き上がった時には、もうすでに全員は羽根に捕まっていた。

「皆さん!」

「空華、お前さんが行けや!」

「え、どうしてさ!」

 そう言われるが早か、睦月が空華を瞬間移動させ銀の隣に出現させる。

「昴、お前さんも——!」

「俺はいい。空華、銀ちゃんを守れ!」

 全員は白い羽根にとらわれ、城の中に吸い込まれて行った。扉が勢いよく閉まる。
 唖然と立ち尽くす2人。
 どうしよう。全員が連れさらわれてしまった!

「どうしましょう、処刑されるのですか?!」

「その前に助け出さなきゃまずいな……。銀ちゃん、立てる? 行ける?」

 空華は銀に手を差しだした。
 銀は空華の補助で立ち上がり、城の扉へ近づく。人が何人いても開けられないぐらいに大きい扉だった。

「ど、どうしましょう……」

「鈴は呼べる?」

「ハイ。ですが、鬼とかしか呼べませんよ?」

「それでいいよ。大丈夫」

 銀は鏡に話しかけ、鈴へと交替する。
 鈴は自分を呼び出した空華に、

「で、誰を呼び出せばいいの?」

 と、訊いた。

***** ***** *****

 床に叩きつけられた昴達は、自分を縛った相手を睨みつける。
 自分の反閇技で仕留めようかと思ったが、足が羽根で縛られていて身動きができない。全員、何か能力を持つところを塞がれている。
 相手は、青い髪を持った白いローブを着た女性だった。

「あら、あららら? おかしいわね、天使のつもりが人間も混ざってるわ。あらら、死神も」

 青い髪の女性はくすくすと笑みを漏らす。
 蒼空は噛みつくように怒鳴った。

「おいお前! 俺らを縛ってどうするつもりだ!」

「東翔の仲間だというから少し期待していたのに……人間が仲間なんてね?」

 女性は座っていた玉座から立ち上がると、昴の髪を引っ張った。そして自分の顔まで近づけさせる。
 昴はそれでも、負けじと女性を睨みつけていた。

「あら。この子、なかなか威勢がいいじゃない。でも睨んでいるだけじゃダメ。もっと、反抗してくれなきゃ」

「あなたがルシア・ルテ・アラスベルクなのですか?」

 アオイが女性へ問いかける。
 青髪をなびかせ、女性は胸を張った。

「いかにも! 私がルシア・ルテ・アラスベルクよ。よろしく」

「翔ちゃんの処刑を今すぐ取り消せ!」

 今まで黙っていた昴が、ルシアへ抗議した。
 ルシアはその言葉を聞いて、眉を寄せた。

「あら、ダメよ。あの子は絶対に……殺さなきゃ気が済まない」

 ルシアは形のよい唇に指を当てて、

「だってあの子——私の恋敵なんだもん♪」

Re: 駆け抜けろ、地獄と天国と幽閉された死神〜黒影寮☆劇場版〜 ( No.14 )
日時: 2012/03/27 21:57
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode

劇場版 第8章


 一方その頃、銀と空華はこの状態を遠くのところから見ていた。
 より正確に言うなら、ライアの能力を使いこの状況を見ていたという訳である。

「あの人がルシア・ルテ・アラスベルクさんなんですね……」

「本名は違うらしいですよ」

 ライアは横から声を上げる。
 どういう事かと銀が尋ねると、ライアはためらいもなく答えてくれた。

「あの人の名前、本当はルシア・リペ・ルマっていう名前なんです。私、知ってますよ。全てを知る悪魔ですから☆」

 ルテ・アラスベルクとは全然違うじゃないか。何でそんな名前を名乗っているのだ。
 銀がそう心の中で思うと、今度は日暮が口をはさむ。彼女は元天使なのだ。

「ルテ・アラスベルクっていう名前はねー、天界でも地獄でも共通の意味を持つのー」

「どんな意味ですか?」

「王族なのー、言葉の意味は分からないけど、ルテ・アラスベルクって名乗るだけで王族になれるのー」

 そんなすごい名前なのか、と改めて納得した2人だった。
 ライアをいったん鏡の中に戻し、銀と空華と鈴は作戦会議をする。

「神様がいないのは痛手だよな。おい、鈴。怖い話の時に話していたルアは呼びだせないのか?」

「無理」

 ルアについては、本編の第9章を参照してください(作者より)
 邪神・ルアがいればいくらかましになるのだろうが、成仏させてしまったので呼びだせない。なんてこった。
 鈴は顔をしかめると、

「ディレッサとかヴァルティアとか天音とか……出しておくべきじゃなかったな」

「今から鏡の中に呼び戻すのは無理なんですか?」

 銀が提案すると、鈴は首を横に振る。

「ダメ。リンクが切れて命令が聞こえない。あの空間がいけないんだと思う……っと、もう1人いたか! 呼び出せる天使」

 鈴はそう言うと、部屋の中を見回した。
 天使と言えばクロエルや紫月、キャスとかだと思うが……。キャスはともかく、戦える天使なんて……?

「ソード・ブレイジング! あと、ラフ! お前らちょっと行って来い!」

「ソードさんもいたんですか?」

「いたよ。酷いな」

 いなかった扱い? とソードは鏡から姿を出して苦笑いを浮かべる。
 ラフ(本名・ラフレー・ジア・アーノルディ)は首を傾げて、

「何をすればいいですか?」

 鈴はこの2人の能力を説明する。
 ソードは自分より弱い存在を子分にできる能力を持つ。
 ラフは動物に変身できる能力を持つ。

「……いいじゃん。行けるよ!」

「な、何がですか?」

「ルシアはソードよりも強い? 弱い?」

「強い、かな。俺は弱い存在しか子分にできねぇよ?」

 どうするの、とソードが空華に問いかけると、空華は不敵にほほ笑み。

「なぁに、そこら辺の天使をひっ捕まえて子分にして特攻させる。それでも神様の座を陣取るぐらいだから結構な力があるだろうよ。
 ラフはネズミなり何なりに変身してホールの中を観察してきて。術がかかるか、かからないかだけでいいからね」

「分かりました!」

 けど、一体どうしてですか? とラフは首を傾げた。
 空華はニッコリと笑って銀の方へ向く。

「銀ちゃんは少し重要な役割。いい? 演技って、できる?」

「え、演技ですか?」

 銀はキョトンとした様子で訊き返した。

***** ***** *****

 ホール。
 ルシアはくすくすと笑いながら玉座に座り直す。

「あの死神、私の好きな人を取ったのよ? むかつくわ、殺してやりたいぐらいに。でもあの子よりも弱い存在の私は、殺せるなんて無理な話な訳。だからこのチャンスを使ってやる事にしたの」

 ルシアは、全員を捕まえている羽根の力を入れる。
 ギリギリという嫌な音が腕や足から聞こえてきた。全員は顔をしかめる。白亜は悲鳴を上げた。

「取り消せ? 嫌よ、あの子の血が流れるまで私は止めないつもり——」

 ん? とルシアの眉がひそめられる。
 ホールの端。何だか小さなネズミがこっちを向いている。灰色ならいいのだが、色が金色だった。模様としてハートが描かれている。

「……何? ネズミ?」

「ネズミじゃないです、ラフレーです!」

 突如としてラフは天使の姿になる。
 ルシアは驚いたような表情を浮かべた。

「あなた、銀の鈴について行った落ちこぼれ……」

「落ちこぼれじゃないです〜!! ルシア・リペ・ルマさん、何がルテ・アラスベルクですか! 王族の名前を名乗ってただじゃ済みませんよ! この人から直々にお仕置きを受けるといいです!」

 ラフが言うと、バンと扉が開いた。
 中からルシアの部下である天使が、ソードに続いて現れる。その天使に守られているのは、漆黒のコートを身にまとった青年だった。
 女の子のような顔つき。ニット帽をかぶり、黒い髪は左下で結ばれている。
 まぎれもなく、あの、死神の姿——。

「あ、東翔!! あなた、脱獄して?!」

Re: 駆け抜けろ、地獄と天国と幽閉された死神〜黒影寮☆劇場版〜 ( No.15 )
日時: 2012/03/27 22:19
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode

劇場版 第9章


 現れたのは、まさかの地獄に幽閉されて処刑されると騒がれているあの死神、東翔だった。
 ルシアの顔色が蒼白へと変わる。
 このままでは、このままでは殺される!!

「ひ、ヒィィ! 何をしているの、早く奴を捕えなさい!」

 ルシアはソードが従えている天使に命令するが、彼らは聞かない。
 ソードが逆に命令した。

「あの女の周りを囲め!」

 天使はルシアの周りを囲み、槍を構える。
 ルシアは唇を噛み、翔を睨みつけた。

「どうして、脱獄できたのです? あなたは幽閉されているつもりじゃ——」

「俺を、幽閉できたつもりか?」

 翔は1歩、足を踏み出してルシアに近づく。
 ルシアは小さく悲鳴を上げた。

「幽閉したつもりか? あれで? 幽閉したつもりなのか?」

「な、何を……北塔から抜け出すのは困難なはず……! 空間移動術すら使えないのに!!」

 ルシアは金切り声で叫ぶ。
 だがしかし、翔は歩みを止めない。黒影寮の横を通り過ぎ、天使の間を掻きわけて、ルシアの前に立った。細い腕が、ルシアの胸倉を掴み持ち上げる。

「こんな弱い馬鹿な奴が天界の神だと? 笑わせるな。それに黒影寮、こんな奴の術に見事にはまるなんて、テメェら弱くなったのか?」

 翔はルシアを玉座から投げ出し、代わりに自分が座る。
 床に叩きつけられたルシアは、思いきり叩きつけた顔面をさすりながら涙目で翔を見上げる。

「こ、この……! あなたのせいで、私の人生はめちゃくちゃになったのに……!」

「たかが恋敵ぐらいで何を言う。腐れ天使」

 翔は呆れたようにため息をついた。

「たかが?! ふざけないで、私はあなたがいたから……大地さんに振られたのに!!」

 全員の目線が大地へと集中する。
 大地は「へ?」と声を上げた。

「私は大地さんが好きだった……。なのに告白したら『ごめん、弟以外の天使や悪魔や死神には興味ない』とか言われて振られたの!! もう嫌だわ、死にたいわ!!」

 ルシアは泣きだした。ワンワン声を上げて泣きだした。
 そんなくだらない理由で今まさに翔は殺されようとしているのか?

「くっだらねぇ」

 翔は舌打ちをして玉座から立ち上がった。

「おい、ルシア・リペ・ルマ。そんな事で俺を幽閉するなよ、今すぐ取り止めるように地獄に伝えろ。それか今すぐ死ね」

「……殺すのはあなたじゃないの? あなたは地獄業火の炎を使える死神よ。私ぐらい簡単に焼けるでしょう?」

 ルシアはぽろぽろと落ちる涙をレースのハンカチでぬぐいつつ、翔に問いかけた。
 翔は頭を軽く掻くと、

「馬鹿なテメェに1つ質問してやる。よく考えて答えろよ」

「……何?」

 翔は笑うと、ルシアにこう問いかけた。


「ここにいる俺は——本物の東翔か、それ以外の人間か?」


 何を言っているのか全然分からなかった。
 何故なら、ここにいるのは本物の東翔だからであって、他の人物ではないからだ。
 もちろん黒影寮の全員も、純達も混乱している。だからこそ、気づかなかった。
 術をかけてその姿になり、演技の上手い奴がやったら本物に近い人間になる事を。

「な、あ!」

 ルシアの足元には、幾何学模様が広がっていた。彼女はそれに見覚えがあった。
 全てのものの記憶を司る術——『記憶の仕事人』の魔法陣だ。

「ご苦労さん」

 部屋の隅から声が聞こえた。
 天使に守られていたもう1人の人物が立ち上がる。空華だった。

「いやぁ、少し時間稼ぎしてもらったよ。天使の記憶を消すのにはストックは1個消費するだけだけど、術を練らないといけないからさ」

 空華の声を聞いて、翔は指を弾いた。
 徐々に本当の姿を現す。黒い髪は光り輝く銀色の髪へ、茶色い瞳は漆黒の目へ、黒いコートは白いワンピースへと変わる。
 間違いなくそいつは、黒影寮の管理人・神威銀の姿。

「正解は、神威銀でした。残念だったな、腐れ天使」

 銀は翔の口調で笑う。
 瞬間、電流が走りルシアは気絶した。

***** ***** *****

「銀ちゃん、翔の演技上手いじゃん! おかげで気づかれずに術を練る事に成功したよ!」

 空華は銀と一緒になってハイタッチをする。あのあと、全員に今の仕組みを説明した2人だった。
 天界は後から来る予定の琳達に任せるとして、問題は本物の翔である。

「大変な事になったよ」

 ソードは今しがた天使から聞いた情報を口にする。

「処刑の時間が決まった。天界と地獄の時間は共通だからこっちの時間で言うな」

 ソードは深刻そうな顔で言う。


「時間は24時……。人間界で夕方の5時だ」


 バッとリトラスとアオイとラピスルと純とメディとアサギは時間を確認する。アカツキはしようともしなかった。
 針は20時を示している。
 つまり、タイムリミットは4時間後——。

「明日の」

「テメェおいこら!!」

「ちょ、何で銀ちゃんが鈴になって殴ってくるの?! 嘘でしょねぇ嘘でしょ?!」

Re: 駆け抜けろ、地獄と天国と幽閉された死神〜黒影寮☆劇場版〜 ( No.16 )
日時: 2012/03/28 21:55
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode

劇場版 第10章


 地獄。
 城には4つの塔がある。それら1つ1つは他の死神が管理し、自分の部屋でもある塔。
 東は水の死神。
 西は雷の死神。
 南は風の死神。
 北は炎の死神。
 他にもあと3つ——上と下と中央がある。上は風の死神。下は月の死神。中央は——実態を持たない死神。
 その中の北塔。炎の死神である翔は、窓辺に座ってのんきに洋書を読んでいた。
 死神の使いを無理やり脅して、黒影寮から持って来させたのだ。
 空間移動術——空間を裂いてこの塔から逃げられる事は不可能。ここは自分が暴走した時の為に術を張られているのだ。

「……しょんぼりしてんなぁ」

 静かな空間を裂くように、ふわふわとした声が聞こえた。
 翔はページに目線を落としたまま、その声に言う。

「しゃべるな。炎神」

「酷ぇな。今まで寄り添ってきた仲だろ? それにここでなら、俺はお前と話ができる」

 壁に立てかけられた柄の赤い大鎌。それが陽炎のように揺らいだかと思うと、人の形をなす。
 翔に似ていた。
 ただし、髪と瞳が赤く、コートも真っ赤。肌は病気なまで白い。

「お前には感謝してるんだぜ。長年封印された俺を掘り起こしてくれて」

「うるせーな。昔話なんかしたくねぇんだよ。いつの話だ、それ。1400年前ぐらいだろ」

 翔は洋書を閉じると、赤い自分の方へ向いた。

「確かに。でも、捨てずによく1400年も使ってくれたよ。おかげでお前は齢3歳にして最強の炎——地獄業火使いの死神になったんだからな」

「……まぁな。炎神」

「つれないな」

 炎神と呼ばれた赤い翔は、ムゥと頬を膨らませる。
 翔は面倒くさそうに頭を掻き、ガラスに寄りかかった。

「もう少しで俺は処刑されるんだぞ。テメェは他の野郎のところに行くなりなんなり好きにすればいいだろ。持ち主が殺されちまえば、元も子もない」

「違いねぇ。だけど、俺の持ち主はお前だ。お前以外に認めたくはない。たとえそれが、お前の1つ下のランクにいるあの女の死神であっても」

「アカツキの事か」

 翔はあの赤い死神の事を頭に思い浮かべる。
 思えば彼女は、いつも自分に付きまとっていたような感じがする。紫月の姉だと言っていた。だから、一応自分とも血縁関係に値する。

「アカツキは優秀だぞ。同族の事も、浄化したりしていたしな」

「かもしれねぇが、俺はお前が好きなんだよ。なんつーか、こう、ものとして扱わないから? だからこうして、俺は本来の姿でお前の前に現れられる」

 翔はフンと鼻を鳴らし、その台詞を聞き流した。
 死神の鎌は魂を狩る為の道具である。が、この炎神だけは違った。
 翔が3歳の時、たまたま北の森へ遊びに行ったら声が聞こえた。声が聞こえる方を掘り返してみると、何と赤い鎌が出てきたのだ。
 地獄も天国も神も仏も天使も悪魔も何もかもを焼き尽くし、灰塵へと帰す炎——地獄業火を司る鎌。炎神。
 何か知らないけど、炎神は意思を持つらしい。人前にべらべらしゃべったりするから、最初は気持ち悪がったが、結構いい奴なのだ。
 まぁ昴には劣るが。

「昴には劣るがな」

「あの男と比べられたら負けるねぇ。あいつも死神にさせちまえばいいんじゃないの? 月の死神辺りならなれそうな感じがするけどな」

 炎神がのんきな事を言うと、翔は洋書を彼に向かって投げつけた。

「うぉ?! 何するんだよ、こっちが本性だぜ俺は! お前らと同じでちゃんと痛覚もあるっての!」

「昴を簡単に死神にするとか言うな。……俺は、あいつを死神になんかならせたくない」

 翔は至極真面目な顔で言う。
 彼にとって、死神とは負の存在である。人を殺し、魂を狩り、判別し、地獄に行く者には罰を与える。彼のような明るい人間がやってはいけない存在だ。
 昴は思った事を表に出す人間だ。仕事は常に無表情でいる翔とはえらい違いである。

「どっちかと言うと、空華の方があっているような感じがするけどな」

「あっはっはっは! あの眼帯忍び君か? まぁ確かにな、あっているかもな」

 炎神はふわふわとその場を浮かび上がる。
 翔は窓辺から立ち上がると、床に落ちた洋書を拾い上げた。

「そう言えば、テメェって触れたものを燃やすっけ?」

「そりゃもう。灰も残らない」

「本を投げつけて悪かった」

 翔は素直に謝った。
 炎神は一瞬だけキョトンとしたような表情を浮かべたが、にへらと笑みを見せた。

***** ***** *****

 天界では神様悪魔天使鬼をフル発動させ、翔を救う為の作戦会議をしていた。

「で、これからどうするかっていう話だけど……。アカツキ、まずは北塔の話をしてくれないか」

 鈴がアカツキに命令する。
 アカツキはしぶしぶと言った感じで話しだした。

「北塔は炎の死神を封印する為だけに作られた城の北に位置する塔。炎の死神は、他の死神と違って強い力を持つから強力な術式が組み込まれている。あの中で逃げ出そうとする事なんて不可能」

「能力ブロッカーと同じような感じか……」

 零があごに手を当てて考える。
 未来の世界でも体験したが、能力ブロッカーとはすさまじいものである。死神すらも能力が使えなくなってしまうのだ。

「白刃。どうにかできないか?」

「心理を読む俺にどうしろと? 少なくとも俺が分かるのは、相手の心の中と相手が次に何を考えて打ってくるかぐらいだよ?」

 白刃は零の言葉を一蹴する。

「いっそもう、羅さんの力で地獄の城を分解したらどうスかね」

 案外怖い提案をしたのは、白亜だった。
 だが、この考えに首を振ったのはラピスルである。

「地獄の城は周りに結界が張ってあるよ? 多分能力を防ぐものだと思うけど……城の関係者じゃないと術は使えないと思うよ?」

「じゃーどうすればいいんスか!」

 地団太を踏む白亜。羅もチッと舌打ちをする。すきあらば翔を分解するつもりだったらしい。
 そこで天音が提案をする。

「そう言えば、死神操術を使える人がここにいませんでしたか〜? その人は城内では力は使えないのですか〜?」

「えー。そんな難しい技、誰が使えるって言うのよ。大体、それは死神を調教する為の技でしょ? 使えたら苦労してないわー」

「人間でいますよ〜?」

 天音はキョトンと首を傾げて言う。
 ん? と純達は眉をひそめた。

「人間が使えるって? 無理じゃない? 術に侵されて死ぬわよ、それ」

 アサギがハンと鼻で笑った。

「本当ですけど〜。天音・パル・オールウェイの名に懸けて〜」

「あんたも名前があるんだ」

 純が天音の方を見やる。

「神様にも本当の名前ぐらいありますよ〜? 全て鈴様を信用してお渡ししていますが〜」

「みんなそうなのですか?」

 銀が天音に訊いた。
 もちろん、と天音は頷く。

「ディレッサさんもありますよね〜?」

「えー、あるっちゃあるけど……同じような感じだよ? ディレッサ・パル・スピリッドっての。ヴァルティアは?」

「ヴァルティア・パル・ガーディアン」

 何だか皆さんすごい名前だ。

「じゃあ、翔さんもあるんでしょうか?」

「翔君ももちろんあるよ。だけど……聞いた事ないかな。翔君、簡単に名前を教えてくれなかったから。今までで誰にも教えた事ないんじゃないのかな?」

 アカツキが首を傾げた。

「とにかく、第1に城へ乗り込む作戦でいいな! それで行こう!」

 鏡の中から雑談しかけた全員をまとめるように、鈴が声を上げた。

Re: 駆け抜けろ、地獄と天国と幽閉された死神〜黒影寮☆劇場版〜 ( No.17 )
日時: 2012/03/28 22:27
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode

劇場版 第11章


 ギィと扉が開いた。
 翔は顔をしかめる。死神が自分を迎えに来たのだ。

「東翔、来い」

「嫌だと言ったら」

 翔は洋書を机の上に置き、炎神に手をかざす。
 炎神は「お」と言って目を輝かせ、鎌に戻った。翔は鎌を握る。

「テメェぐらい、ここで燃やせるぞ」

「術がかけられているのにもかかわらず、抵抗するか。炎の死神。往生際が悪い」

 執行人の死神にそう言われ、翔は舌打ちをする。そして鎌を消し、両手を死神の前に差し出した。
 ガチャと重い手錠がかけられる。
 カツカツと石造りの塔の中に自分の足音が響き渡って行く。もうすぐ、刑が執行されるのだ。

「執行人。もう処刑の時間か?」

「いいや。これから閻魔様と会食だ。——まったく、あの方は何を考えておられるのだ」

 珍しい答えが返って来て、翔は内心驚いた。
 すると、自分の中で声が響き渡る。

(会食だって。俺も食べれる?)

(黙れ。一緒に逝くんだろ?)

(ま、そうだけどさぁ。閻魔様と会食なんて久々じゃん?)

 炎神がうるさい。翔は心の中で舌打ちをした。
 刑が早く執行されるよりかはましか。
 脳裏によぎったのは、あのニコニコ笑う自分が愛した少女の姿。仲間の姿。
 そして、約束したあの言葉。約束をする為に、自分の名前を差しだした少年の姿。

(……もう、呼んではくれねぇのか)

(何が?)

(テメェに言ってない)

 心の中で思うんじゃなった。翔は今更後悔した。

***** ***** *****

 連れて来られた場所は、かなり広いホールだった。長いテーブルがあり、前には食事が並べられている。
 翔の手首から手錠が外れた。そして無言で席に着かされる。
 自分と相対するのは、赤い髪の少年だった。自分よりも若干年はあるだろう。20代前半だろうか。

「テメェが閻魔か?」

「威勢がいいな、炎の死神」

 肉の塊を口に運ぶ少年は、笑みを浮かべた。
 翔は出されたワインを口に含んだ。毒とかは入っていない。というか毒を入れられても翔は死なない。

「俺はこれから処刑されるのに、何でテメェとの雑談に付き合わなくちゃならない?」

「いいじゃないか。君とお話がしたいんだ」

 チッと舌打ちをしてワインを飲み干す翔。そしてウエイターにワインのお代りを頼んだ。

「君、名前は?」

「東翔」

「本当の名前だよ」

 お代りのワインを注がれ、翔はグラスに口をつける。茶色い瞳で閻魔である少年を睨みつけた。

「死神が容易に自分の名前を教えると思うか? この名前は誇りだ。テメェなんかに教えるほど安くはない」

「貴様、閻魔の前で何を言う!」

 従者らしい死神が、翔ののど元に鎌を突き立てた。
 翔は鎌を押しのけて再びワインをあおる。そして立ち上がると、従者の死神を思い切り蹴飛ばした。

「口が悪いな、この従者は。しつけがなっていない。俺を誰だと思う? 処刑される前にひと暴れさせてもらえる事もできるんだぞ」

 虚空から鎌を呼び出した翔は、逆に従者へ白刃を突き立てた。
 閻魔の少年はそこでストップをかける。

「さぁ君の料理が出てきたよ? 食べなくてもいいのかい? お腹いっぱいで死んだ方が君にとってもいいだろう?」

「……」

 翔は舌打ちをすると、荒々しく席に座り何かの肉のステーキを口の中に放り込む。
 何だか人間界の御飯の方がおいしいような感じがするのは気のせいか。

「で、テメェの方が名前は何だ」

「レティノア・ルテ・アラスベルク」

 翔は料理を食べる手を止める。閻魔——レティノアと名乗った少年を睨みつけて問うた。

「テメェ……どうして、その名前を」

「王族の名前かい? フフ、君には関係ないだろう? 僕は僕なりに頑張って王族入りを果たしたのさ」

 ナプキンで口元をぬぐうレティノア。
 翔は食べ終わった皿を押しのけ、席を立ち上がった。そしてつかつかとレティノアに近づくと、鎌の刃を首筋に当てる。
 悲鳴が起きた。同時に怒号も。

「頑張って? 王族に入り、閻魔になれるのにそんなに頑張ったというのなら、教えてほしいな。何を頑張った?」

「色々だよ」

「同族の洗脳か? だとしたら以前のシェン反対派を掲げていたメディ・ゴーゴストと同じような類か?」

「僕をあんな異端者と一緒にしないでくれ」

 席を立ち上がり、レティノアは翔の刃を押しのける。
 翔が驚いた表情を見せた時、従者の死神に取り押さえられる。

「東翔。君を処刑できて本当に嬉しいよ。これで唯一の地獄業火使いはいなくなるね。別れる前に、炎神を渡してもらおうか?」

「奪えるものなら奪ってみろ」

 ほら、と翔が鎌を放す。
 レティノアは炎神へ手を伸ばしたが、炎神が発火しレティノアを拒否した。

「……なるほど。持ち主と共に死にたいと言うのか」

 レティノアは少し火傷を負った手を引っ込め、従者に翔を処刑場へ連れて行くように命令した。
 その前に翔は「炎神をしまわせろ」と従者に頼み、炎神を虚空へとしまう。そして大人しく両手を差しだした。

「死ぬのに抵抗はないかい?」

 手錠をかけられた翔は、レティノアの方へ振り向く。

「今更抵抗して何になる? 俺に未練なんてものはない」

 いつもの調子で答えた翔は、従者に連れられて処刑場へと向かった。
 いつものように、その姿は凛としていた。

***** ***** *****

 一行は地獄の城へとたどり着いた。
 門番にケルベロスと死神が2人いる。が、そんなのに構っている暇はなかった。

「今すぐ開けろここを今すぐ!」

 アカツキとリトラスが2人の死神に脅しをかける。ケルベロスは黒影寮全員でブッつぶさせてもらった。
 門番を通り抜け、処刑場へと急ぐ一行。

「くそ、ここはどこ! てか広い!」

 零は頭を抱えた。
 すると、遠くの方へ声が聞こえる。サッカー観戦のような声だ。

「……こっちだ!」

 耳のいい昴が察知し、そっちの方へ駆ける全員。
 トンネルを通り過ぎると、そこは何かのスタジアムのようになっていた。階段を上り、スタジアムを見下ろす。
 英学園と同じように広い敷地。その中央には高い台が取り付けられており、その上には1人の人物が立っていた。
 東翔。
 黒影寮の元寮長だ。

「翔さん!」

 銀はありったけの声で、彼の名前を呼んだ。
 喧騒の中でもその声に気づいたのか、翔は彼女達の方へ振り返る。そして目を見開いた。

「銀……?」


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